説明

ソフトコンタクトレンズの製造方法

【課題】
親水性成分が単量体であり、疎水性成分が共重合体の重合原液の、重合時の重合収縮によって発生するレンズの凹みによる不良の発生を防ぐことが求められていた。そこで本発明において、重合収縮を抑制し、凹みの発生を防ぎ、製品の歩留まりを向上させる。
【解決手段】
(メタ)アクリル酸エステルを単量体として含む重合体並びに重合性基を有する親水性単量体を含む原液を加熱重合するソフトコンタクトレンズの製造方法であって、加熱開始後4時間までの加熱温度の総和が130℃・h以上150℃・h以下であり、かつ重合後の重合収縮がなく外観欠点のないことを特徴とするソフトコンタクトレンズの製造方法。
【効果】
本発明により、レンズの凹みによる不良の発生率が0%となり、製品の歩留まりを向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的ならびに力学的性質に優れたソフトコンタクトレンズを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズの連続使用を可能ならしめるためには、角膜に十分な量の酸素が常に供給されるようレンズ設計がなされていることが不可欠の要件である。そのためには、当然のことながら、酸素透過性の高い素材を用いることが有効であるが、高含水率のレンズとすることによっても角膜への酸素の供給を円滑に行なわせることができる。
そこで、以下に述べるような原液(原料成分)を用いて溶液重合法を採ることにより、前記の問題点を解決し、生体適合性などのすぐれた特性を持つソフトコンタクトレンズが得られることが見出されている(例えば特許文献1)。すなわち、親水性成分と、疎水性成分の少なくとも一方に後重合または後架橋し得る官能基を導入することにより、両成分が有機的に一体化したブロックコポリマーを製造し、さらに溶媒を用いた重合により寸法変化の少ないソフトコンタクトレンズを製造する方法である。これは、特に親水性成分、疎水性成分がともにポリマーの場合はレンズ成型時の重合収縮がなく、重合収縮による不良品の発生を抑制することが可能なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−24001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら親水性成分、疎水性成分がともにポリマーの場合、ゲル構造を形成することが困難であるため、製品にした場合、経時的にソフトコンタクトレンズとしての品質が劣化する可能性があった。一方で親水性成分が単量体の場合、重合に伴って疎水性重合体とのからみあいや、疎水性重合体中の官能基との架橋によるゲル構造が形成され、経時的な劣化が生じにくいという長所を有していた。したがってソフトコンタクトレンズとしての品質という面では、親水性成分を単量体とすることが好ましいが、重合時の重合収縮が大きく、かかる収縮によってレンズ表面が凹んだまま成型される不良が発生し、生産量および歩留まりを低下させる問題があった。
【0005】
本発明は、前記課題を解決するため、親水性成分が単量体であり、疎水性成分が共重合体の重合原液の、重合中の重合収縮を抑制することによって、レンズの凹みによる不良の発生を防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.(メタ)アクリル酸エステルを単量体として有する重合体および重合性基を有する親水性単量体を含む原液を加熱重合して得られるソフトコンタクトレンズの製造方法であって、加熱開始後4時間までの加熱温度の総和が130℃・h以上150℃・h以下であることを特徴とするソフトコンタクトレンズの製造方法。
2.前記加熱重合時に、2,2´−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)のいずれかを重合開始剤として用いることを特徴とする前記1記載のソフトコンタクトレンズの製造方法。
3.前記重合開始剤添加量が前記原液に対して1.20μmol/g以下であることを特徴とする前記2記載のソフトコンタクトレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、親水性成分が単量体であり、疎水性成分が共重合体の場合であっても、レンズ表面の凹みによる不良の発生を防止でき、製品の生産量および歩留まりを改善可能なソフトコンタクトレンズの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例、比較例において実施した重合プログラムによる昇温曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ソフトコンタクトレンズの原料となる重合前の原液は通常、親水性単量体のA成分、疎水性重合体のB成分、架橋剤であるC成分、溶媒であるD成分からなる。
【0010】
なお、ここで疎水性重合体とは、疎水性重合体の相互間に架橋結合を形成せしめる後架橋に十分な官能基を有し、かつ水に膨潤または溶解しない架橋性の重合体をいう。かかる架橋性の疎水性重合体としては、官能基を導入するための官能基導入用単量体を共重合したものを例示することができる。
【0011】
A成分としては、重合性基を有することが本発明に必須である。好ましい化合物はN−ビニルピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルラクタム、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセリン−モノ(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種であり、これらの中ではN−ビニルピロリドン、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、N−ビニルピロリドンが最も好ましい。
【0012】
B成分としては、(メタ)アクリル酸エステルを単量体として含む重合体がよい。好ましくは、かかる疎水性単量体と、他に官能基導入可能な単量体とを含む疎水性重合体がよく、かかる疎水性単量体としては(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。官能基導入可能な単量体としては、ブトキシアクリルアミド、グリシジルメタフレレート、ビニレンカーボネート、ビニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましく、(メタ)アクリル酸ビニルが最も好ましい。
単量体と官能基導入用単量体との共重合組成比は一般に1000:1〜10:1程度とするのが好ましい。
【0013】
C成分は、架橋剤である。A成分またはB成分として重合体が使用される場合には、重合体中の官能基と反応して重合体分子間に架橋結合を形成するような後架橋剤が必要に応じて用いられる。後架橋剤としては、重合体の性質を本質的に変えるようなものでない限り、いかなるものも使用可能である。水酸基を官能基として含むような重合体に対しては、多価イソシアネート、多価アルデヒド、多価カルボン酸エステルなどが後架橋剤として用いられる。
【0014】
架橋剤は同一分子中に少なくとも2個の重合性不飽和結合を有する化合物から選ばれる。架橋剤の好ましい例としては、ジアリルサクシネート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルフォスフェート、トリアリルトリメリテートのようなジ−またはトリーアリル化合物、ジビニルベンゼン、N、N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサメチレンビスマレイミド、ジビニル尿素、ビスフェノールAビスメタクリレート、ジビニルアジペート、グリセリントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリビニルトリメリテート、1,5−ペンタジェンのようなジ−またはトリービニル化合物、アリルアクリレート、アリルメタクリレートのようなアリルビニル化合物、ビニル(メタ)アクリレートをあげることができる。架橋剤の添加量はA成分およびB成分の重合性単量体の総量に対して約0.005〜20モル%の範囲が好ましい。
【0015】
D成分は、全量に対して30〜90重量%の溶媒であり、エタノール、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましく、DMSOが最も好ましい。溶媒量がこれよりも多くなると、原液を重合および/または架橋させて得られる含溶媒ゲルの引張強度が低くなるため、含溶媒レンズの取扱が少し困難となる。ちなみに、含溶媒ゲルの引張強度が0.1kgf/cm以上となるよう原液を調整することが好ましく、そのためには溶媒量を前記の範囲とするのみならず、溶媒の種類も慎重に選定する必要がある。溶媒量が前記の範囲より少なくなると、含水レンズが膨潤したときに硬かったり、レンズの含水率が低くなったりするため好ましくない。
【0016】
D成分の溶媒は、重合反応や後架橋反応を阻害しないものであることが必須の要件であり、透明原液を与えるような溶媒が好ましい。不透明な原液が与える溶媒を用いると、多くの場合光学的性質のみならず力学的性質においても不満足なレンズしか得られない結果となる。
【0017】
A成分とB成分との混合比率は、重量比率で85:15〜55:45の範囲とするとよい。A成分がこの範囲を超えて多くなると高強度のレンズが得られなくなり、またこの範囲未満となると高含水率のレンズが得られなくなる。
【0018】
重合は必要により重合開始剤の存在下に熱、光、電子線等の手段によって行なわれる。重合開始剤の好ましい例としては、ジ−ターシャリブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ターシャリブチルハイドロパーオキサイド、過酸、アンモニウムバーサルフェートのような有機過酸化物、2,2´−アゾビス(イソブチロニトリル)(以下AIBN)、2,2´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)(以下ACHCN)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下ADVN)のようなアゾ化合物、およびレドックス触媒などをあげることができる。特にADVN、AIBN、ACHCNが好ましい。
【0019】
ADVN、AIBN、ACHCNの添加量は重合原液に対して1.20μmol/g以下がよい。さらに1.00μmol/g以下が好ましく、0.92μmol/g以下がより好ましい。一方で下限値としては0.04μmol/g以上であることが好ましい。
【0020】
上述の組成を有するソフトコンタクトレンズ製造用原液は、好ましくは凹凸2個のレンズ鋳型内に注入され(静置注型重合ともいう。)、熱、光、電子線などの作用により、重合および/または架橋反応が進められる。熱による場合には通常室温から120℃の範囲で行なわれる。
【0021】
鋳型内に生成した含溶媒ゲルは、好ましくは液中に浸漬することによって容易に鋳型から剥離することができ、ゲル中の溶媒は液と置換される。
【0022】
次に原液から得られた含溶媒ゲルを含水ゲルとなし、ソフトコンタクトレンズを得ることができる。このようにして得られたコンタクトレンズは、検査工程にて外観検査を行い、外観欠点のないレンズが製品として出荷される。
【0023】
上記した如く、この外観検査の際に、レンズの中心または全体にできる線上の凹みが、外観不良として発生し、製品の歩留まりに影響することがある。
【0024】
本発明者らは、各重合時間における重合率を調べた結果、製造ロットにより重合開始4時間までの重合率が大きく異なっている点に着目し、さらに詳細に調べたところ、この間の重合率が高いロットほど、レンズの凹みによる不良の発生率が高くなる傾向にあることを見出した。これは、重合初期の急激な重合によって重合収縮が生じ、最終的に局所的な凹みによる不良が発生するためと考察される。
【0025】
したがって、重合初期の急激な重合を防止することが重要である。加熱重合においては、通常プログラムにより重合時間によって逐次重合温度が変化するように設定しているため、重合初期の重合温度の総和を、以下の式で定義される重合熱履歴(℃・h)で評価した。
【0026】
【数1】

【0027】
ここで、tは重合時間(h)、Tpは重合温度(℃)を表す。
【0028】
本発明においては、重合初期(重合開始後4時間まで)の重合収縮を防ぐべく、加熱開始後4時間までの重合熱履歴が150℃・h以下であることが重要であることを見出した。この実現には、重合開始剤の添加量の減少、もしくは重合温度の低下が考えられる。好ましくは145℃・h以下であり、より好ましくは141℃・h以下である。一方で重合熱履歴が130℃・hを下回ると、重合速度が低下しすぎることによって、レンズが一部膨らむ不良が生じる。したがって130℃・h以上であることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を記載するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
[実施例1]
(プレポリマーの作製)
以下の組成で重合を行い、B成分:疎水性重合体であるプレポリマーを作製した。
アクリル酸メチル 300g
メタクリル酸メチル 200g
メタクリル酸ビニル 3g
また重合開始剤としてADVN、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタン(以下n−DSH)、溶媒としてDMSOを用いた。
(重合原液の作製)
以下の組成で重合原液を作製した。
A成分:N−ビニルピロリドン 135g
B成分:プレポリマー 58g
C成分:トリアリルイソシアヌレート 1g
D成分:DMSO 688g
(重合開始剤の添加)
上記の重合原液に、ADVNを原液に対して0.92μmol/g添加し、溶解・脱泡を行ったのち、室温でガラス凸凹の型からなるレンズ鋳型内に注入した。また鋳型の他に、ガラス管にも注入を行った。
(重合プログラム)
注入を行った金型を、真空釜内に入れ、アルゴン置換し、図1の1に示す昇温曲線を描くよう、プログラムにより重合を行った。またガラス管内をアルゴン置換しキャップをして、同じく図1の1のプログラムにて重合を行った。
(重合体積変化率の測定)
重合中の重合収縮の度合いを評価するため、重合開始前後のガラス管内の液面の高さをそれぞれ、l0、lとし、重合体積変化率(%)を以下の式から計算した。プラスの値は重合後に膨張したことを表し、マイナスの値は重合後に収縮したことを表す。
【0030】
【数2】

【0031】
結果を表1に示した。
(後処理)
重合後のレンズを90重量%DMSO水溶液に浸漬し、膨潤させ、凸型と凹型を離した後に、レンズを剥離した。剥離後のレンズを水に置換し、煮沸を行った。
(レンズの外観検査)
レンズの外観を、10倍の光学顕微鏡で観察し、不良の有無を判定した。全検査数に対する、レンズの凹みによる不良の発生率を、表1に示した。
[実施例2および比較例1〜3]
ADVN添加量、重合プログラムを表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様にソフトコンタクトレンズを作製した。得られたソフトコンタクトレンズの各物性についても実施例1と同様にして調べた。その結果を同表に示す。
【0032】
【表1】

【符号の説明】
【0033】
1: 実施例1において実施した重合プログラムによる昇温曲線
2: 実施例2において実施した重合プログラムによる昇温曲線
3: 比較例1において実施した重合プログラムによる昇温曲線
4: 比較例2において実施した重合プログラムによる昇温曲線
5: 比較例3において実施した重合プログラムによる昇温曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルを単量体として有する重合体および重合性基を有する親水性単量体を含む原液を加熱重合して得られるソフトコンタクトレンズの製造方法であって、加熱開始後4時間までの加熱温度の総和が130℃・h以上150℃・h以下であることを特徴とするソフトコンタクトレンズの製造方法。
【請求項2】
前記加熱重合時に、2,2´−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)のいずれかを重合開始剤として用いることを特徴とする請求項1記載のソフトコンタクトレンズの製造方法。
【請求項3】
前記重合開始剤添加量が前記原液に対して1.20μmol/g以下であることを特徴とする請求項2記載のソフトコンタクトレンズの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−118198(P2012−118198A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266436(P2010−266436)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】