説明

ソフトコンタクトレンズ包装製品及びソフトコンタクトレンズの包装方法

【課題】含水性ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者に対して有利に提供され得るSCL包装製品及びそのようなSCL包装製品の形態において出荷されるSCLの出荷方法や包装方法を提供すること。また、含水性SCLに対して所定の有効成分の効果が長期に亘って持続的に発揮され得る特性を付与したSCLが有利に得られ得るSCLのパッケージング溶液や処理方法及びそのような優れた特性を備えた徐放性SCLを提供すること。
【解決手段】密封可能な容器4内に、含水性SCL10と共に、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種及び1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種を含有せしめた液状媒体12を収容し、かかる液状媒体12中に含水性SCL10を浸漬させて、容器4を密封し、且つ容器4内を滅菌状態として、SCL包装製品2を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトコンタクトレンズ包装製品及びソフトコンタクトレンズの包装方法に係り、特に、含水性のソフトコンタクトレンズの出荷に適したソフトコンタクトレンズ包装製品と、そのようなソフトコンタクトレンズの包装方法、更には含水性ソフトコンタクトレンズの有用なパッケージング溶液、また含水性ソフトコンタクトレンズの有効な処理方法や優れた特性を備えた徐放性ソフトコンタクトレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、含水性のソフトコンタクトレンズ(SCL)は、その消費者(ユーザ)である装用者への提供のために、生理食塩水等の液状媒体と共に、所定の密封容器内に収容されて、かかる液状媒体中に浸漬せしめられた状態で、ソフトコンタクトレンズ包装製品(SCL包装製品)として、メーカより出荷されている(特表2004−523777号公報(特許文献1)、特開2007−44536号公報(特許文献2)等参照)。
【0003】
また、SCLの保管又は運搬に供される溶液において、かかるSCLが浸漬せしめられる液状媒体として、例えば、特開平10−130448号公報(特許文献3)には、従来の単なる生理食塩水に代えて、平均重合度1000未満及びけん化度85〜95モル%のポリビニルアルコールを、0.1〜3.0g/100ミリリットルの濃度で含有する水溶液を用いることが、明らかにされている。そして、そのようなポリビニルアルコールを含有する水溶液を用いることにより、SCLの水濡れ性が向上し、装用感が改善されるとされている。
【0004】
しかしながら、かかるポリビニルアルコールのような高分子化合物を含有する水溶液に浸漬せしめられたSCLにあっては、そのような高分子化合物のSCLへの付着は、一般に、高分子化合物の疎水性の部分が、SCL表面の疎水性の部分に対して、極弱いファンデルワールス力により吸着せしめられることにより、実現されることとなる。このため、そのようなSCLが眼に装用された際には、SCLに付着せしめられている高分子化合物は、涙液によって容易に流去されてしまうようになるのであり、それ故に、かかる高分子化合物からなる有効成分による装用感の改善等の効果が持続的に得られない、という問題を内在している。
【0005】
しかも、上述したようなポリビニルアルコール等の高分子化合物は、その分子が巨大であるために、そのままでは、SCLのマトリックス(組織)内には殆ど侵入することが出来ず、その表面においてのみ吸着されているものであるところから、その吸着が、量的にも充分でないという問題も内在しているのである。なお、そのような問題に対しては、SCLを、高濃度の(高粘度の)ポリビニルアルコール等の高分子化合物を含有する水溶液中に浸漬せしめて、SCL表面に多量の高分子化合物を付着せしめるようにすることが考えられるが、そのような多量の高分子化合物が付着されたSCLを眼に装用した場合には、レンズ表面に形成される高分子化合物の層の存在によって視界がぼやけ、良好な視認性が確保され得ないこととなるため、望ましくないものであった。
【0006】
一方、SCLの装用感の改善を目的としたコンタクトレンズ用溶液として、特開平8−157886号公報(特許文献4)には、アミノエチルスルホン酸、L−アスパラギン酸K、L−アスパラギン酸Mgよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物を配合してなるコンタクトレンズ用溶液が明らかにされており、また特開2000−155295号公報(特許文献5)には、トリメチルグリシンを含有してなるコンタクトレンズ用ケア用剤が、明らかにされている。
【0007】
そして、それらアミノエチルスルホン酸やトリメチルグリシンのような低分子化合物からなるものを、SCLの装用感を改善せしめるための成分として用いた場合にあっては、それら低分子化合物からなる有効成分が、SCLの表面のみならず、SCLのマトリックス内にまで、より多くの割合において侵入せしめられ得るものと考えられる。
【0008】
しかしながら、そのようなアミノエチルスルホン酸等の化合物は、低分子量であるが故に、ファンデルワールス力による吸着力が充分に発揮され得ず、水溶液中においては、単に、SCLの周囲やそのマトリックス内に分散している状態にあるものと考えられ、そしてそのため、かかる低分子化合物を含有する水溶液中に浸漬せしめられたSCLにあっても、それを眼に装用した際には、そのようなSCLに付着せしめられた低分子化合物は、涙液によって短期間において容易に流去されてしまい、従って、かかる低分子化合物からなる有効成分の効果が、持続的に得られないという問題を内在するものであった。
【0009】
このように、従来からよく用いられているポリビニルアルコールのような高分子化合物からなる有効成分や、アミノエチルスルホン酸等の低分子化合物からなる有効成分にあっては、何れも、それら有効成分が、装用時に、涙液により容易に流去されてしまい、そのような有効成分による所望の効果が、持続的に得られないという問題を内在するものであったのである。また、このような問題は、上で例示したSCLの装用感を向上せしめるための成分のみならず、炎症を緩和するための消炎成分や、その他の種々の成分にあっても同様であって、それら有効成分のSCL上での保持(滞留)時間が短く、効果の持続性が充分でないという問題を内在しているのである。
【0010】
【特許文献1】特表2004−523777号公報
【特許文献2】特開2007−44536号公報
【特許文献3】特開平10−130448号公報
【特許文献4】特開平8−157886号公報
【特許文献5】特開2000−155295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、含水性ソフトコンタクトレンズ装用者(ユーザ)に対して有利に提供することの出来るソフトコンタクトレンズ包装製品を提供することにあり、また、他の解決課題とするところは、そのようなソフトコンタクトレンズ包装製品の形態において出荷されるソフトコンタクトレンズの出荷方法や、かかるソフトコンタクトレンズ包装製品を有利に得ることが出来るソフトコンタクトレンズの包装方法を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明は、含水性ソフトコンタクトレンズに対して所定の有効成分の効果が長期に亘って持続的に発揮され得る特性を付与したソフトコンタクトレンズを得るために有利に用いられるソフトコンタクトレンズのパッケージング溶液、及びそのようなソフトコンタクトレンズを有利に得ることが出来るソフトコンタクトレンズの処理方法、更にはそのような優れた特性を備えた徐放性ソフトコンタクトレンズを提供することをも、その解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明にあっては、上記した課題又は明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、有利に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいても採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0014】
(1) 密封可能な所定の容器内に、少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズと共に、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種及び1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種を含有せしめた液状媒体を収容し、該液状媒体中に該少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズを浸漬させて、該容器を密封することにより構成され、且つ該容器内が滅菌状態とされていることを特徴とするソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0015】
(2) 前記アニオン性化合物が、前記アニオン性官能基として、カルボキシル基、スルホ基及びリン酸基のうちの少なくとも1つを有していることを特徴とする上記態様(1)に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0016】
(3) 前記アニオン性化合物が、アニオン性多糖類、グリチルリチン酸及びその塩、プリン塩基系ヌクレオチド、並びにペプチドからなる群より選択されることを特徴とする上記態様(1)又は(2)に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0017】
(4) 前記アニオン性多糖類が、コンドロイチン硫酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、並びにアルギン酸及びその塩からなる群より選択されることを特徴とする上記態様(3)に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0018】
(5) 前記カチオン性化合物が、前記カチオン性官能基として、アミノ基、アンモニウム基及びビグアニド基のうちの少なくとも1つを有していることを特徴とする上記態様(1)乃至(4)の何れか一つに記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0019】
(6) 前記カチオン性化合物が、ビタミン類、プリン塩基及びそれから誘導されるヌクレオシド、クロルフェニラミン及びその塩、並びにアラントインからなる群より選択されることを特徴とする上記態様(1)乃至(5)の何れか一つに記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0020】
(7) 前記ビタミン類が、ビタミンB1 、及びビタミンB12からなる群より選択されることを特徴とする上記態様(6)に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0021】
(8) 前記プリン塩基及びそれから誘導されるヌクレオシドが、アデニン、グアニン、アデノシン、グアノシンのうちの一つであることを特徴とする上記態様(6)又は(7)に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【0022】
(9) 上記態様(1)乃至(8)の何れか一つに記載のソフトコンタクトレンズ包装製品の形態において、前記少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズが出荷され、かかる含水性ソフトコンタクトレンズの装用者に提供されることを特徴とするソフトコンタクトレンズの出荷方法。
【0023】
(10) (a)少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズを収容し得る大きさの密封可能な容器を準備する工程と、(b)該容器内に収容せしめられる、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種及び1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種を含有せしめた液状媒体を準備する工程と、(c)前記容器内に、前記少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズと共に、前記液状媒体を収容して、該液状媒体中に該少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズを浸漬した状態において、該容器を密封する工程とを、含むことを特徴とするソフトコンタクトレンズの包装方法。
【0024】
(11) 前記密封された容器を加熱処理する工程を、更に有していることを特徴とする上記態様(10)に記載のソフトコンタクトレンズの包装方法。
【0025】
(12) 1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種と1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種とを含有せしめた液状媒体からなることを特徴とする含水性ソフトコンタクトレンズのパッケージング溶液。
【0026】
(13) 含水性ソフトコンタクトレンズを、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種と1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種とを含有せしめた液状媒体中に浸漬せしめて、該含水性ソフトコンタクトレンズのマトリックス内に該少なくとも1種のアニオン性化合物と該少なくとも1種のカチオン性化合物を入り込ませ、該マトリックス内においてそれら化合物をイオン結合させて、擬似的な巨大分子が構成されるようにしたことを特徴とするソフトコンタクトレンズの処理方法。
【0027】
(14) 前記含水性ソフトコンタクトレンズの浸漬された液状媒体が、加熱されることからなる上記態様(13)に記載のソフトコンタクトレンズの処理方法。
【0028】
(15) 含水性ソフトコンタクトレンズのマトリックス内に、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種と1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種とを入り込ませて、該マトリックス内においてそれら化合物をイオン結合させ、擬似的な巨大分子を構成せしめて、装用時において該巨大分子から前記化合物が涙液中に漸次放出されるようにしたことを特徴とする徐放性ソフトコンタクトレンズ。
【発明の効果】
【0029】
このように、本発明に従うソフトコンタクトレンズ包装製品にあっては、少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズ(SCL)が、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種及び1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種をそれぞれ含有させた液状媒体中に浸漬せしめられて、所定の容器内に封入されてなる形態において、市場に提供され、流通させられるものであるところから、その長時間に亘る流通の過程において、かかる容器内に封入されたアニオン性化合物とカチオン性化合物が、SCLの表面においてイオン結合することは勿論のこと、SCLのマトリックス内に侵入して、その内部において、イオン結合することによって、SCLのマトリックス組織内外において、それを構成する含水ポリマーとは独立して、擬似的な巨大分子が、イオン相互作用にて構築されることとなるのである。また、本発明にあっては、そのような擬似的な巨大分子により、液状媒体の粘性が効果的に増加せしめられ得るのであり、これによりSCLの装用感も、有利に向上せしめられるようになるのである。
【0030】
特に、そこにおいて、かかる擬似的な巨大分子は、アニオン性化合物とカチオン性化合物とがイオン的相互作用に基づく比較的結合力の強いイオン結合にて結合することによって形成されるものであって、しかも、そのような巨大分子が、SCL内においては、SCLを構成するマトリックス組織にて自由な移動を拘束されつつ形成されるものであるところから、かかる巨大分子が形成されたSCLを眼に装用した際に、そのような巨大分子が、涙液により速やかに流去されてしまうようなことが、有利に防止され、以て、そのような擬似的な巨大分子による装用感の向上効果が、長期に亘って持続的に維持され得ることとなるのである。
【0031】
また、本発明に従うSCL包装製品から取り出されたSCLが眼に装用されると、巨大分子中のアニオン性化合物とカチオン性化合物が、イオン的な解離によって、涙液中に漸次放出されるようになるのであるが、本発明にあっては、かかるアニオン性化合物及びカチオン性化合物として、装用感を向上せしめるための成分や炎症緩和のための消炎成分等の種々の有効成分が、適宜に採用され得るところから、そのような有効成分が、装用時に眼球上で漸次放出せしめられることにより、かかる有効成分の効果が、長期に亘って持続的に発揮されることとなる。
【0032】
さらに、本発明に従うSCL包装製品にあっては、それが製造された後、出荷されて、消費者(ユーザ)の元で開封されるに至るまでの長時間において、SCLが、所定の液状媒体に浸漬されるようになるところから、かかる液状媒体に含有されているアニオン性化合物及びカチオン性化合物が、SCLのマトリックス内に充分に侵入して、イオン結合することにより、SCLのマトリックス組織に効果的に絡まりつつ、巨大分子を形成することとなるのであり、以て、上記せる如き本発明の効果が、より一層有利に発揮され得るのである。
【0033】
加えて、本発明に従うSCLのパッケージング溶液や徐放性SCLにあっても、それを用いたSCLを眼に装用した場合には、上述したような装用感の向上効果及び有効成分による所望の効果が、長期に亘って持続的に得られるという特徴が、同様に発揮せしめられ得ることとなるのであり、更に、本発明に従うSCLの出荷方法、包装方法及び処理方法によれば、上記せる如き優れた効果が、有利に得られることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の構成を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な一実施形態を示す図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0035】
先ず、図1には、本発明に従うSCL包装製品の一例が、縦断面形態において、概略的に示されている。この図1からも明らかなように、SCL包装製品2は、ここでは、容器本体4と蓋シート6とからなる密封可能な包装容器8と、そのような包装容器8内に収容せしめられた1枚のSCL10と、このSCL10と共に包装容器8内に収容せしめられて、SCL10が浸漬される液状媒体12とから、構成されている。
【0036】
そこにおいて、容器本体4は、図1に示されるように、上方に向かって開口する収容凹所4aを有していると共に、かかる収容凹所4aの開口周縁部が、外側に向かって広がるフランジ部4bとされている。なお、容器本体4の形成材料は、特に限定されるものではなく、一般に、後述する液状媒体12に対して化学的に安定で、耐溶出性を有する、ポリプロピレン等のプラスチック材料にて形成されている。
【0037】
一方、蓋シート6は、基材シート6aと、その上面側と下面側に、それぞれ公知の接着剤にて接着された樹脂フィルム層6b、6cとからなる積層構造とされている。そこにおいて、基材シート6aの形成材料としては、特に限定されるものではないが、一般に、金属箔やプラスチックフィルム、合成紙等が有利に用いられ、中でも、アルミニウム箔が、特に好ましく用いられる。また、樹脂フィルム層6b、6cの形成材料としても、特に限定されるものではないが、一般に、密閉性を有し、容器内の無菌状態が有利に維持され得ることとなるところから、ポリプロピレンやポリエチレン等の合成樹脂が、好ましく採用される。そして、そのような蓋シート6が、上述した容器本体4に形成された収容凹所4aの開口部を流体密に覆うように、容器本体4のフランジ部4bの上面に重ね合わされて、加熱シールにより、或いは公知の接着剤等を用いて貼着されることにより、包装容器8が密封されるようになっている。
【0038】
ところで、かかる包装容器8内に収容せしめられるSCL10としては、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、HEMA(ヒドロキシルエチルメタクリレート)系やN−VP(N−ビニル−2−ピロリドン)系、MAA(メタクリル酸)系、PMMA(ジメチルアクリルアミド)系等の公知の各種の含水性ソフトコンタクトレンズや、近年普及が進んでいるシリコーンハイドロジェル系のソフトコンタクトレンズ等が、何れも、その対象とされ得る。
【0039】
そして、そのようなSCL10と共に、包装容器8内に収容されて、SCL10が浸漬せしめられる液状媒体として、本発明にあっては、従来から、単にレンズの乾燥を防ぐために用いられて来ている生理食塩水のような液状媒体に代えて、水性媒体中に1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種及び1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種がそれぞれ含有せしめられてなる液状媒体12が、用いられることとなるのである。
【0040】
ここで、本発明に従って、液状媒体12に含有せしめられ得るアニオン性化合物としては、眼科的に許容され得る公知のアニオン性化合物のうち、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するものであれば、特に限定されるものではなく、公知の化合物が、何れも、目的に応じて適宜に採用され得るところであるが、特に本発明にあっては、そのようなアニオン性官能基として、カルボキシル基、スルホ基(スルホン酸基)及びリン酸基のうちの少なくとも1つを有しているアニオン性化合物が、有利に採用され、そして、具体的には、アニオン性多糖類、グリチルリチン酸及びその塩、プリンヌクレオチド、並びに複数の酸性アミノ酸から構成されるペプチド等のアニオン性化合物が、有利に用いられることとなる。
【0041】
そこにおいて、前記アニオン性多糖類としては、コンドロイチン硫酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、並びにアルギン酸及びその塩からなる群より選択されるものが有利に用いられ、具体的には、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等を挙げることが出来る。
【0042】
また、前記グリチルリチン酸及びその塩としては、具体的には、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等が、有利に用いられる。
【0043】
さらに、前記プリン塩基系ヌクレオチドとしては、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン三リン酸等のアデノシンのリン酸エステルや、グアノシン一リン酸、グアノシン二リン酸、グアノシン三リン酸等のグアノシンのリン酸エステル等が、好ましく採用される。
【0044】
加えて、前記複数の酸性アミノ酸から構成されるペプチドとしては、具体的には、ポリグルタミン酸等が、好ましく採用される。
【0045】
一方、前記液状媒体12に含有せしめられているカチオン性化合物としては、眼科的に許容され得る公知のカチオン性化合物であって、1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するものであれば、特に限定されるものではなく、公知の化合物が、何れも、目的に応じて適宜に採用され得るところであるが、本発明にあっては、特に、カチオン性官能基として、アミノ基、アンモニウム基及びビグアニド基のうちの少なくとも1つを有しているものが、好ましく採用される。
【0046】
また、そのようなカチオン性化合物として、具体的には、ビタミン類並びにプリン塩基及びそれから誘導されるヌクレオシドからなる群より選択されるものが、有利に例示され、より具体的には、ビタミン類として、ビタミンB1 、ビタミンB12等が例示され、またプリン塩基としては、アデニン、グアニン等が例示され、更にプリン塩基から誘導されるヌクレオシドとして、アデノシン、グアノシン等が、例示される。
【0047】
なお、本発明において用いられ得るアニオン性化合物及びカチオン性化合物は、上例のものに何等限定されるものではなく、上記せる化合物以外にも、例えば、アニオン性化合物としては、デキストラン硫酸又はその塩等が、またカチオン性化合物としては、クロルフェニラミン又はその塩やアラントイン等が、使用可能である。また、本発明にあっては、そのようなアニオン性化合物及びカチオン性化合物は、何れも、それぞれ単独で用いられても、或いは二種以上が組み合わされて用いられてもよく、また、アニオン性化合物とカチオン性化合物の組合せも、何等限定されるものではなく、目的に応じて適宜に選定されることとなる。
【0048】
このように、本発明に従うソフトコンタクトレンズ包装製品2にあっては、SCL10が浸漬せしめられる液状媒体として、従来の生理食塩水の如き液状媒体に代えて、水性媒体中に、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種と、1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種とが含有せしめられた液状媒体12が用いられているところから、かかる液状媒体12に浸漬せしめられたSCL10のマトリックス(組織)内に、アニオン性化合物とカチオン性化合物が入り込み、SCL10を構成する含水ポリマー(ハイドロゲル)とは独立して、それらが互いにイオン的な相互作用にて結合することにより、SCL10のマトリックス内において、擬似的な巨大分子が形成されるようになるのである。
【0049】
そして、そのような擬似的な巨大分子がレンズ組織内に形成されたSCL10にあっては、かかる擬似的な巨大分子がレンズ表面にも存在し、また露呈していることにより、レンズ表面の液状媒体12の粘性が増加せしめられ、それにより、SCL10の装用時において、SCL10と角膜との間の摩擦が低減され、以て、SCL10の眼への装用感が向上せしめられることとなるのであるが、本発明にあっては、かかる増粘効果を有する擬似的な巨大分子が、イオン的相互作用による結合によって形成され、また、そのような巨大分子が、SCL10を構成するマトリックス組織に絡まりつつ形成されることとなるところから、SCL10の装用時において、前記巨大分子が、涙液によって速やかに流去されてしまうようなことが、効果的に防止され得、以て、かかる巨大分子による装用感の向上効果が、極めて有利に長期に亘って享受され得ることとなる。
【0050】
具体的には、例えば、図2に示されるように、アニオン性化合物として、グリチルリチン酸二カリウム(GK2)を用い、カチオン性化合物として、ビタミンB1 (VB1)が用いられた場合には、グリチルリチン酸二カリウムが、水性媒体中においてミセルを形成し、かかるグリチルリチン酸二カリウムのミセル(GK2 micell)とビタミンB1(VB1)とが、ソフトコンタクトレンズのマトリックス内やその表面において、SCLを構成するポリマー分子鎖に絡まりながら、互いにイオン結合を形成し、それにより、SCL10のマトリックス組織に拘束されるようにして、擬似的な巨大分子が構成されるのである。
【0051】
ところで、本発明に従うSCL包装製品2にあっては、SCL10の装用時に、前記巨大分子から、イオン的解離により、それを構成するアニオン性化合物とカチオン性化合物とが、涙液中に漸次放出されるようになるのであるが、本発明にあっては、それらアニオン性化合物やカチオン性化合物として、所望の効果を奏する有効成分が、目的に応じて適宜に採用され得るのである。そして、そのような成分を採用した場合には、SCL10の装用時に、かかる有効成分が漸次放出されることによって、かかる成分の奏する効果が、長期に亘って持続的に享受され得ることとなるのである。
【0052】
すなわち、前記アニオン性化合物として、上記せる如きグリチルリチン酸やその塩が用いられる場合には、SCL10の装用時において、かかる成分が、擬似的な巨大分子から漸次放出されることにより、眼の炎症を緩和せしめる消炎効果が発揮せしめられることとなるのであり、また、前記アニオン性化合物として、上記せる如きコンドロイチン硫酸等のアニオン性多糖類が用いられる場合には、かかる成分の徐放により、SCL10の保湿性や湿潤性が高められて、SCL10に対して、より一層優れた装用感が付与されることとなる。更に、前記デキストラン硫酸やその塩が用いられた場合には、かかる成分の徐放により、SCL10の保湿性や湿潤性が、有利に高められ得るのである。
【0053】
一方、前記カチオン性化合物として、上記したビタミン類が用いられた場合には、例えば、ビタミンB1 にあっては、かかる成分の徐放により、眼精疲労改善効果が得られるのであり、またビタミンB12が用いられた場合には、毛様体筋のピント調節機能の改善効果が得られることとなる。更に、前記カチオン性化合物として、前記クロルフェニラミン又はその塩が用いられた場合には、かかる成分が徐放されることにより、消炎効果や抗ヒスタミン効果が得られ、また前記アラントインが用いられた場合には、消炎効果が長期に亘って持続的に得られることとなるのである。
【0054】
なお、本発明にあっては、かくの如きアニオン性化合物及びカチオン性化合物の液状媒体12中における配合割合は、何れも、特に限定されるものではなく、用いられるコンタクトレンズやアニオン性化合物及びカチオン性化合物の種類等に応じて、適宜に設定されるところであるが、一般には、それぞれ、0.005〜0.5w/w%程度、好ましくは0.01〜0.2w/w%程度の配合割合が有利に採用される。具体的には、アニオン性化合物として、グリチルリチン酸二カリウムが用いられる場合には、かかる化合物の濃度は、好ましくは0.01〜0.25w/w%、より好ましくは0.04〜0.125w/w%程度の濃度が採用され、また、カチオン性化合物として、ビタミンB1 やアデニンが用いられる場合には、かかる化合物の濃度は、好ましくは0.005〜0.5w/w%、より好ましくは0.01〜0.2w/w%程度の濃度が採用されることとなる。
【0055】
このアニオン性化合物やカチオン性化合物の配合割合が少な過ぎる場合には、SCL10のマトリックス内やその表面において、擬似的な巨大分子が充分に形成され得ない恐れがあり、このため、上述した本発明の効果が充分に発揮され難くなる恐れがあり、一方、それらアニオン性化合物やカチオン性化合物の配合割合が多過ぎる場合には、粘度が上がり過ぎて、取扱い性の低下や装用感の悪化、更には視界が不良となる等の問題が惹起せしめられる恐れがあり、望ましくない。
【0056】
また、本発明にあっては、アニオン性化合物或いはカチオン性化合物の一方の電荷が過剰である場合には、その余剰の化合物が、イオン結合によって擬似的な巨大分子に取り込まれず、単独に存在することとなるため、SCL10の装用時において、眼球上で速やかに流去されてしまい、上述した本発明の効果が充分に発揮され難くなる恐れがあるため、それらアニオン性化合物及びカチオン性化合物の配合割合は、電気的に等量の割合となるようにすることが、望ましい。
【0057】
さらに、本発明に従うSCL包装製品2に用いられる液状媒体12には、従来のSCL包装製品用の液状媒体と同様な添加剤、例えば、キレート化剤、張度調整剤、非イオン性界面活性剤、多糖類化合物等の種々の添加剤が、従来と同様な配合割合において、適宜に配合されることとなる。
【0058】
ここで、上記のキレート化剤は、SCL10に対して、液状媒体12中の水性媒体中等に含まれるカルシウム等の沈着乃至は吸着を防止するために配合されるものであって、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やエチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム(EDTA・2Na)、エチレンジアミン四酢酸・3ナトリウム(EDTA・3Na)等が、一般に、0.01〜0.5w/w%程度の濃度において、有利に用いられることとなる。
【0059】
また、前記張度調整剤は、液状媒体12の浸透圧が涙液の浸透圧に近いものとなるように調整して、装用時の眼に対する刺激を緩和するために配合されるものであって、一般に、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩や、糖類、糖アルコール、グリセリンやプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール及びそのエーテル並びにそのエステル等の非イオン性張度調整剤が、適宜の濃度、例えば、無機塩にあっては、0〜1.2w/w%、好ましくは0〜0.9w/w%程度の濃度において、また非イオン性張度調整剤にあっては、0〜1w/w%程度の濃度において、用いられることとなる。なお、本発明にあっては、液状媒体12の浸透圧は、生理食塩水に対する浸透圧比にて(生理食塩水の浸透圧を1として)、0.75〜1.6程度の範囲、好ましくは、0.8〜1.5程度の範囲に調整されていることが望ましい。
【0060】
さらに、前記非イオン性界面活性剤は、SCL10にタンパク質や脂質等の汚れが付着することを防止するために配合されるものであって、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びその誘導体や、チロキサポールの如きポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物等のポリエチレングリコール誘導体、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(ポリソルベート80)等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、セスキオレイン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸及びその塩等が、例えば、0.001〜5w/w%程度、好ましくは0.005〜2w/w%程度の濃度において、有利に用いられることとなる。
【0061】
加えて、前記多糖類化合物は、液体媒体12の粘度を調整するために配合されるものであって、例えば、セルロース、デンプン、デキストリン、デキストラン、プルラン又はそれらの誘導体等が、一般に、0.002〜3.0w/w%程度の濃度において、有利に用いられる。
【0062】
そして、目的とする液状媒体12を得るべく、上記せる如きアニオン性化合物及びカチオン性化合物や、必要な、キレート化剤、張度調整剤、非イオン性界面活性剤、多糖類化合物等が含有せしめられる水性媒体としては、水道水や精製水、蒸留水等の水そのものの他にも、水を主体とする溶液であれば、生体への安全性が高く、尚且つ眼科的に充分に許容され得るものである限りにおいて、何れも、利用することが可能である。
【0063】
本発明においては、上記せる如き液状媒体12とSCL10とが、前記包装容器8内に収容され、包装容器8が密封されることによって、目的とするSCL包装製品2が構成されるのであるが、その際、かかる包装容器8内は、必要に応じて熱滅菌処理等の処理を施すことによって、滅菌状態とされることとなる。そのような滅菌状態は、SCL10を無菌状態においてSCL装用者に提供する上において、重要である。
【0064】
このように、本発明に従うSCL包装製品2にあっては、包装容器8が密封されると共に、かかる包装容器8内が滅菌状態とされているところから、SCL包装製品2の製造の後、それが開封される前に、包装容器8内において、細菌やカビ等の微生物が繁殖するようなことが、効果的に防止され得、以て、包装容器8内に収容されているSCL10の衛生化が、有利に図られ得るのである。
【0065】
ところで、上述したような本発明に従うSCL包装製品2は、望ましくは、SCL10を以下のようにして包装することによって、有利に得られることとなる。
【0066】
すなわち、先ず、前述せる如き構成の包装容器8を与える容器本体4や蓋シート6が、それぞれ、従来から公知のSCL用包装容器の製造方法と同様にして、よく知られている樹脂成形操作やシート積層操作に従って製造されて、準備される。
【0067】
一方、精製水等の所定の水性媒体に対して、上述せる如きアニオン性化合物やカチオン性化合物が、ヒドロキシル基を有するノニオン性化合物や他の各種の添加剤と共に、所定の割合において、添加されて、含有せしめられることによって、液状媒体12が、準備されることとなる。
【0068】
そして、先に準備された容器本体4の収容凹所4a内に、1枚のSCL10と共に、上記で準備された液状媒体12が収容されて、かかる液状媒体12にSCL10が浸漬せしめられた状態において、容器本体4のフランジ部4bと蓋シート6とが、接着剤による接着等によって、包装容器8が密封され、以て、目的とするSCL包装製品2が、製造されるのである。
【0069】
なお、本発明にあっては、かかる密封された包装容器8に対して、更に、オートクレーブ等を用いた加熱処理が施されることが望ましい。このオートクレーブ等による加熱処理には、包装容器8内に収容されているSCL10に悪影響をもたらさないような条件が適宜に設定されるものであるが、一般に、120〜125℃、10〜30分程度の条件が採用されることとなる。
【0070】
そして、このような加熱処理により、包装容器8内の滅菌状態がより確実なものとされると共に、準備された液状媒体12中において、アニオン性化合物とカチオン性化合物との間に既に形成されていたイオン結合が一端切断され、それにより、アニオン性化合物及びカチオン性化合物が、より一層充分にSCL10のマトリックス内に侵入することとなるのである。また、そのようにしてSCL10のマトリックス内に充分に侵入せしめられたアニオン性化合物及びカチオン性化合物が、液状媒体12が徐冷されるに伴ない、SCL10を構成するポリマー分子鎖に絡まりながら、再びイオン結合を形成することにより、SCL10のマトリックスと一体化された擬似的な巨大分子が、有利に得られることとなるのであり、以て、前述した本発明の効果が、より一層効果的に発揮せしめられ得るのである。
【0071】
以上のようにして、本発明に従うSCL包装製品2が得られるのであるが、そのようにして得られたSCL包装製品2は、一般のSCL包装製品と同様に、その製造の後、出荷され、流通過程を経て、SCL装用者の元に届けられることとなる。
【0072】
そして、そのようにして出荷された本発明に従うSCL包装製品2にあっては、SCL包装製品2が製造された後、それが出荷されて、ユーザであるSCL装用者の元で開封されるに至るまでの長期間の間に、SCL10のマトリックス内に、アニオン性化合物及びカチオン性化合物が、充分に入り込むようになるところから、前記巨大分子が、SCL10のマトリックスに対してより一層有利に一体的に形成せしめられ、以て、上述した本発明の効果が、極めて有利に享受され得るのである。
【0073】
また、本発明は、上述せる如き液状媒体12からなるSCLのパッケージング溶液や、SCL10を液状媒体12中に浸漬せしめて、SCL10のマトリックス内において、アニオン性化合物とカチオン性化合物をイオン結合させて、擬似的な巨大分子が構成されるようにしたSCLの処理方法、更には、装用時において、SCL10のマトリックス内に形成された巨大分子から、アニオン性化合物及びカチオン性化合物が涙液中に漸次放出されるようにした徐放性SCLをも、その対象とするものであって、それらパッケージング溶液やSCLの処理方法、徐放性SCLにあっても、上述した本発明の効果が、有利に得られることとなるのである。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0075】
例えば、上記実施形態においては、包装容器8内に収容せしめられるSCL10は、1枚のみであったが、本発明にあっては、少なくとも一つのSCL10が収容せしめられておればよく、そのようなSCL10の収容枚数は、特に限定されるものではない。
【0076】
また、包装容器8としても、図1に例示の構造のものに何等限定されるものではなく、従来から公知の各種のコンタクトレンズ包装容器が、何れも、目的に応じて適宜に採用可能であり、例えば、国際公開第2006/061886号パンフレットや国際公開第2004/019114号パンフレット等に開示の如きコンタクトレンズ包装容器を適宜に採用することが可能である。
【0077】
さらに、上記実施形態においては、密封された包装容器8に対して加熱処理が施されることによって、その熱滅菌処理が同時に行なわれ、それにより、包装容器8内が滅菌状態となるようにされているが、そのような加熱処理が行なわれない場合には、別途、紫外線による滅菌処理や殺菌剤による滅菌処理等の公知のその他の滅菌処理によって、包装容器8内が、適宜に滅菌状態とされることとなる。また、上記実施形態においては、包装容器8を密封した後、滅菌処理が施されて、包装容器8内が滅菌状態とされているが、包装容器8の密封工程までの間に無菌状態が保持されるのであれば、オートクレーブによる加熱処理(熱滅菌処理)や紫外線照射による滅菌処理を、包装容器8が密封せしめられる前に、実施するようにすることも可能である。
【0078】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0080】
−供試液1−
1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物として、グリチルリチン酸二カリウム(丸善製薬株式会社製)を準備する一方、1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物として、ビタミンB1 (チアミン塩酸塩、BASFジャパン株式会社製)を準備した。また、キレート化剤としてエチレンジアミン四酢酸を、更に張度調整剤として塩化ナトリウムを準備した。そして、それらを、それぞれ下記表1に示される配合割合にて、精製水に添加、混合することにより、供試液1を調製した。また、かかる供試液1の20℃における粘度(cP)を、小型振動式粘度計CJV5000(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて測定した。その結果を、下記表1に併せて示す。
【0081】
−供試液2−
1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物として、上記のビタミンB1 に代えてアデニン(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、供試液1と同様にして、供試液2を調製した。また、かかる供試液2の粘度を、供試液1と同様にして測定し、その結果を、下記表1に併せて示した。
【0082】
−比較液1−
1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物を用いないこととした以外は、供試液1と同様にして、比較液1を調製した。また、かかる比較液1の粘度を、供試液1と同様にして測定し、その結果を、下記表1に併せて示した。
【0083】
−比較液2−
1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物を用いないこととした以外は、供試液1と同様にして、比較液2を調製した。また、かかる比較液2の粘度を、供試液1と同様にして測定し、その結果を、下記表1に併せて示した。
【0084】
−比較液3−
1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物を用いないこととした以外は、供試液2と同様にして、比較液3を調製した。また、かかる比較液3の粘度を、供試液1と同様にして測定し、その結果を、下記表1に併せて示した。
【0085】
【表1】

【0086】
かかる表1の結果から明らかなように、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物と共に、1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物を含有する供試液1及び供試液2にあっては、そのようなアニオン性化合物又はカチオン性化合物のどちらか一方のみを含有する比較液1〜3に比して、液剤の粘度(粘性)が高いことが認められるのである。
【0087】
−供試液3−
1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物として、グリチルリチン酸二カリウム(GK2、丸善製薬株式会社製)を準備する一方、1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物として、ビタミンB1 (チアミン塩酸塩、BASFジャパン株式会社製)を準備した。そして、それらを、それぞれ下記表2に示される配合割合にて、pH5のクエン酸バッファーに添加、混合することにより、供試液3を調製した。
【0088】
さらに、ソフトコンタクトレンズaとして、メニコン2WEEKプレミオ(株式会社メニコン製)、ソフトコンタクトレンズbとして、メニコンマンスウェア(株式会社メニコン製)、ソフトコンタクトレンズcとして、メニコンソフトMA(株式会社メニコン製)を準備し、かかる準備されたソフトコンタクトレンズを、それぞれ、供試液3の2mL中に浸漬せしめて、121℃で20分間、オートクレーブ処理した。
【0089】
その後、ソフトコンタクトレンズをそれぞれ供試液3から取り出し、pH5のクエン酸バッファーで軽く濯いだ後、2mLのpH5のクエン酸バッファー中に浸漬せしめ、浸漬から0分、30分、1時間、2時間、4時間経過後に、ソフトコンタクトレンズの浸漬せしめられたクエン酸バッファーの一部を取り出し、取り出された溶液を蒸留水で適宜希釈することにより、測定用溶液を準備した。かかる測定用溶液の1mLに対して、濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の150μLを加え、次いで、濃度1w/v%のヘキサシアノ鉄(III) カリウム水溶液の150μLを加えて、70℃で30分間保温し、その溶液について、励起波長:360nm、発光波長:450nmの条件で、蛍光測定を行なうことにより、ビタミンB1 の放出量を算出した。得られた結果を、表2及び図3に併せて示す。
【0090】
−比較液4−
グリチルリチン酸二カリウムを用いないようにしたこと以外は、上記供試液3と同様にして、比較液4を調製した。そして、上記と同様にして、かかる比較液4中に、3種類のソフトコンタクトレンズをそれぞれ浸漬せしめた後、クエン酸バッファーに浸漬せしめ、かかるクエン酸バッファー中に放出されたビタミンB1 の量を、蛍光測定を行なうことにより、算出した。得られた結果を、表2及び図3に併せて示す。
【0091】
−供試液4−
クエン酸バッファーをpH7としたこと以外は、上記供試液3と同様にして、供試液4を調製した。そして、上記と同様にして、かかる供試液4中に、3種類のソフトコンタクトレンズをそれぞれ浸漬せしめた後、クエン酸バッファーに浸漬せしめ、かかるクエン酸バッファー中に放出されたビタミンB1 の量を、蛍光測定を行なうことにより、算出した。得られた結果を、表2及び図4に併せて示す。
【0092】
−比較液5−
グリチルリチン酸二カリウムを用いないようにしたこと以外は、上記供試液4と同様にして、比較液5を調製した。そして、上記と同様にして、かかる比較液5中に、3種類のソフトコンタクトレンズをそれぞれ浸漬せしめた後、クエン酸バッファーに浸漬せしめ、かかるクエン酸バッファー中に放出されたビタミンB1 の量を、蛍光測定を行なうことにより、算出した。得られた結果を、表2及び図4に併せて示す。
【0093】
【表2】

【0094】
かかる表2及び図3、図4の結果から明らかなように、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物と、1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物とを含有する供試液3及び供試液4にあっては、カチオン性化合物のみを含有する比較液4及び5に比して、カチオン性化合物が、長時間に亘って徐々に放出せしめられることが認められた。一方、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物のみを含有し、1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物を含有しない比較駅4及び比較液5にあっては、カチオン性化合物が、バッファーに浸漬後、最初の30分の間に大量に放出されてしまい、その後、殆ど放出されなくなることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に従うCL包装製品2の一実施形態を示す縦断面説明図である。
【図2】含水性ソフトコンタクトレンズに、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物と1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物を含有せしめたときのコンタクトレンズ及びそれらの化合物の状態を示すイメージ図である。
【図3】本発明に従うCL包装製品の徐放試験の結果を示すグラフである。
【図4】本発明に従うCL包装製品の徐放試験の結果を示す別のグラフである。
【符号の説明】
【0096】
2 コンタクトレンズ包装製品 4 容器本体
4a 収容凹所 4b フランジ部
6 蓋シート 6a 基材シート
6b,6c 樹脂フィルム層 8 包装容器
10 コンタクトレンズ 12 液状媒体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封可能な所定の容器内に、少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズと共に、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種及び1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種を含有せしめた液状媒体を収容し、該液状媒体中に該少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズを浸漬させて、該容器を密封することにより構成され、且つ該容器内が滅菌状態とされていることを特徴とするソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項2】
前記アニオン性化合物が、前記アニオン性官能基として、カルボキシル基、スルホ基及びリン酸基のうちの少なくとも1つを有していることを特徴とする請求項1に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項3】
前記アニオン性化合物が、アニオン性多糖類、グリチルリチン酸及びその塩、プリン塩基系ヌクレオチド、並びにペプチドからなる群より選択されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項4】
前記アニオン性多糖類が、コンドロイチン硫酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、並びにアルギン酸及びその塩からなる群より選択されることを特徴とする請求項3に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項5】
前記カチオン性化合物が、前記カチオン性官能基として、アミノ基、アンモニウム基及びビグアニド基のうちの少なくとも1つを有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項6】
前記カチオン性化合物が、ビタミン類、プリン塩基及びそれから誘導されるヌクレオシド、クロルフェニラミン及びその塩、並びにアラントインからなる群より選択されることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項7】
前記ビタミン類が、ビタミンB1 及びビタミンB12からなる群より選択されることを特徴とする請求項6に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項8】
前記プリン塩基及びそれから誘導されるヌクレオシドが、アデニン、グアニン、アデノシン、グアノシンのうちの一つであることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のソフトコンタクトレンズ包装製品。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一つに記載のソフトコンタクトレンズ包装製品の形態において、前記少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズが出荷され、かかる含水性ソフトコンタクトレンズの装用者に提供されることを特徴とするソフトコンタクトレンズの出荷方法。
【請求項10】
少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズを収容し得る大きさの密封可能な容器を準備する工程と、
該容器内に収容せしめられる、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種及び1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種を含有せしめた液状媒体を準備する工程と、
前記容器内に、前記少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズと共に、前記液状媒体を収容して、該液状媒体中に該少なくとも一つの含水性ソフトコンタクトレンズを浸漬した状態において、該容器を密封する工程とを、
含むことを特徴とするソフトコンタクトレンズの包装方法。
【請求項11】
前記密封された容器を加熱処理する工程を、更に有していることを特徴とする請求項10に記載のソフトコンタクトレンズの包装方法。
【請求項12】
1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種と1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種とを含有せしめた液状媒体からなることを特徴とする含水性ソフトコンタクトレンズのパッケージング溶液。
【請求項13】
含水性ソフトコンタクトレンズを、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種と1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種とを含有せしめた液状媒体中に浸漬せしめて、該含水性ソフトコンタクトレンズのマトリックス内に該少なくとも1種のアニオン性化合物と該少なくとも1種のカチオン性化合物を入り込ませ、該マトリックス内においてそれら化合物をイオン結合させて、擬似的な巨大分子が構成されるようにしたことを特徴とするソフトコンタクトレンズの処理方法。
【請求項14】
前記含水性ソフトコンタクトレンズの浸漬された液状媒体が、加熱されることからなる請求項13に記載のソフトコンタクトレンズの処理方法。
【請求項15】
含水性ソフトコンタクトレンズのマトリックス内に、1分子中に2つ以上のアニオン性官能基を有するアニオン性化合物の少なくとも1種と1分子中に2つ以上のカチオン性官能基を有するカチオン性化合物の少なくとも1種とを入り込ませて、該マトリックス内においてそれら化合物をイオン結合させ、擬似的な巨大分子を構成せしめて、装用時において該巨大分子から前記化合物が涙液中に漸次放出されるようにしたことを特徴とする徐放性ソフトコンタクトレンズ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−225921(P2009−225921A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73084(P2008−73084)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】