説明

ソフト水熱プロセスによる廃きのこ培地再生処理方法と新しいバイオマス活用方法

【課題】廃きのこ培地から有害物質の分解、抽出除去、滅菌、きのこ生育阻害物質の不活化、及び、適宜乾燥させ、廃きのこ培地を新たな菌床として再生する方法を提供すること。
【解決手段】
廃きのこ培地の流通式再生処理方法であって、廃きのこ培地に飽和水蒸気を連続的に供給し、該飽和水蒸気が廃きのこ培地と接触することにより凝縮して得られる液相において、廃きのこ培地中に含まれるきのこ生育阻害物質を加水分解し、更に、外部から加熱により供給された飽和水蒸気の温度を上昇させることによって蒸気飽和度が100%以下に低下した乾燥水蒸気を得、該乾燥水蒸気により廃きのこ培地中の有害物質及び/又はきのこ生育阻害物質を抽出除去し、更に、廃きのこ培地を乾燥させることを特徴とする、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフト水熱プロセスを利用する廃きのこ培地再生処理方法と新しいバイオマス活用方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材腐朽性食用きのこの人工栽培は、きのこの種類・生産量ともに年々増加の傾向にある。そこで、きのこを収穫後の培地(廃菌床)は、堆肥にする等の再利用方法が広く知られているが、その方法は、事業者が異なる場合や、必要とする時期の違いがあるなどの問題があり再利用が進んでいないのが実態である。また、きのこの生産量拡大により現状の再利用だけでは飽和状態となってきており、燃料化等の取り組みも進められている。
【0003】
一方、きのこ経営においては、販売価格の低迷、燃料、資材の高騰により、厳しさが増している。そのため、培地資材コスト低減と、使用済み培地の有効利用を目的に、このような膨大な量の排出される廃きのこ培地の有効利用は、これまでに、燃料化、家畜の敷き料、家畜の飼料、培地としての再利用、およびコンポスト化等種々の実験及び実用化が試みられてきた(特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、その物質的特性(物理的、化学的、生物学的)とその量の多さ故にコンポスト化以外は困難だと考えられてきた。また、コンポスト化による廃きのこ培地由来の堆肥の消費量も廃きのこ培地の廃棄量を到底上回るものではなく、ほとんどが廃棄処理されている。一番望ましい培地としての再利用については、いろいろの試みが行われてきたが、廃きのこ培地に含まれているきのこ子実体阻害酵素(あるいは阻害物質)により収穫量が新規培地より著しく低下し、実用化することはなかった。
【0005】
一方、本発明者らによる、実験動物の床敷をモデル物質とした200℃以下の非常にマイルドな水熱プロセス(以下、「ソフト水熱プロセス」と記す。)の研究では、含水値が高く、腐敗性化合物を多量に含んだ木質性バイオマスを有効に乾燥させ、腐敗性化合物を分解、抽出除去し、再生利用することが可能であることを実証し、そのメカニズムを明らかにした(特許文献4及び5)。また、耐熱性タンパク質であるRNaseを温度、圧力、および蒸気飽和度を変化させることにより多彩な反応系を制御できる水熱プロセスで、130℃以下のソフト水熱プロセスにより、RNaseの不活化ができる可能性を示唆し、そのメカニズムを解明した(非特許文献1)。
蒸気飽和度: Steam saturation ratio (%)は次式による。
Steam saturation ratio (%) = {Steam density (kg/m3) / Saturated steam density (kg/m3)} × 100
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3107253号明細書
【特許文献2】特開2008−54510号公報
【特許文献3】特開平9−51939号公報
【特許文献4】特許第4272022号明細書
【特許文献5】特開2004−298110号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】宮本徹 他、「ソフト水熱プロセスによるRNaseの不活化と新しい滅菌法の開発に関する研究」、医療機器学 第78巻、第4号、第299頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、きのこを収穫後の培地、即ち、「廃きのこ培地」から有害物質の分解、抽出除去、滅菌、きのこ生育阻害物質の不活化、及び、適宜乾燥させ、廃きのこ培地を新たな菌床として再生する「廃棄物ゼロの循環型きのこ栽培システム」の構築等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明らは、ソフト水熱プロセスにおいて、温度、圧力、及び、蒸気飽和度を変化させることにより、水の化学反応を制御することによって、上記の課題を解決し、廃きのこ培地を菌床として再生することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の主な各態様は以下の通りである。
1.廃きのこ培地の流通式再生処理方法であって、廃きのこ培地に飽和水蒸気を連続的に供給し、該飽和水蒸気が廃きのこ培地と接触することにより凝縮して得られる液相において、廃きのこ培地中に含まれる物質を加水分解し、更に、外部から加熱により供給された飽和水蒸気の温度を上昇させることによって蒸気飽和度が100%以下に低下した乾燥水蒸気を得、該乾燥水蒸気により廃きのこ培地に含まれる物質を抽出除去し、更に、廃きのこ培地を乾燥させることを特徴とする、前記方法。
2.加水分解される物質が廃きのこ培地中に含まれるきのこ生育阻害物質であり、及び/又は、抽出除去される物質が廃きのこ培地中に含まれるきのこ生育阻害物質及び/又は有害物質である、請求項1記載の方法。
3.加水分解されるきのこ生育阻害物質がタンパク質である、抽出除去されるきのこ生育阻害物質がテルペン類及びフェノール類である、態様2記載の方法。
4.有害物質が有機化合物である、態様2または3記載の方法。
5.乾燥水蒸気により廃きのこ培地に含まれていた水分及び飽和水蒸気が凝縮して得られた水分が除去されることによって廃きのこ培地が乾燥する、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
6.イオン積・誘電率が低下したことによって有機物との親和性が高くなった乾燥水蒸気によって廃きのこ培地中の化合物が抽出除去される、態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
7.飽和水蒸気の温度が100〜200℃である、態様1〜6のいずれか一項に記載の方法。
8.外部からの加熱を100〜200℃で行なう、態様1〜7のいずれか一項に記載の方法。
9.処理時間が10〜120分間である、態様1〜9のいずれか一項に記載の方法
10.態様1〜9のいずれか一項に記載の方法で得られる再生廃きのこ培地を含むきのこ培地。
11.態様10記載のきのこ培地を使用することを特徴とする、きのこ栽培方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によって、廃きのこ培地から、従来のオートクレーブによる滅菌条件(121℃、0.2 MPa、20分)では処理できなかった、きのこ生育阻害物質及び有害物質の分解、抽出除去、滅菌、きのこ生育阻害物質の不活化等が可能となった。更に、こうして再生処理して改質された廃きのこ培地を乾燥させることによって、新たな菌床として使用することが出来る再生廃きのこ培地を提供することが出来た。
【0012】
きのこ培地の要求品質には、下記の4点がある。
1.阻害物質を含まないこと。
2.通気性に優れること。
3.充分な栄養を保有すること。
4.保水性に富むこと。
【0013】
従って、本発明方法によって得られる再生廃きのこ培地は、通常の栄養添加物(米糠、フスマ大豆粕等)と水を添加することにより、新規な培地と同様にきのこの栽培に再利用することができる。その結果、「廃棄物ゼロの循環型きのこ栽培システム」を構築することが可能となる。実際に、こうして得られた再生廃きのこ培地きのこを使用してキノコきのこを栽培した結果、通常の新規な培地を使用した場合と比較して同等又はそれ以上の収量を上げることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の再生処理方法を実施することが出来る装置の全体構成図である。
【図2】本発明の再生処理方法で得られた再生廃きのこ培地を用いたきのこの栽培実験による収量(バイー)及び収率(折れ線)を示す。
【図3】因みに、従来のオートクレーブ処理した培地を用いたきのこの栽培実験(比較実施例)に依る収量及び収率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、廃きのこ培地の流通式再生処理方法であって、廃きのこ培地に飽和水蒸気を連続的に供給し、該飽和水蒸気が廃きのこ培地と接触することにより凝縮して得られる液相において、廃きのこ培地中に含まれる物質を加水分解し、更に、外部から加熱により供給された飽和水蒸気の温度を上昇させることによって蒸気飽和度が100%以下に低下した乾燥水蒸気を得、該乾燥水蒸気により廃きのこ培地中に含まれる物質を抽出除去し、更に、廃きのこ培地を乾燥させることを特徴とする、前記方法に係るものである。尚、本発明において、きのこの種類に特に制限はない。好ましくは、加水分解される物質が廃きのこ培地中に含まれるきのこ生育阻害物質であり、及び/又は、抽出除去される物質が廃きのこ培地中に含まれるきのこ生育阻害物質及び/又は有害物質である。
【0016】
本明細書において、「きのこ生育阻害物質」とは、きのこ栽培に際して、その生育に対して何らかの阻害作用を有する物質全般を意味し、例えば、きのこ栽培の結果、培地中に蓄積されたRNase及びアミン分解酵素等の酵素、チアミン分解性耐熱因子を含むタンパク質、その他の各種の生体由来の高分子類、及び、テルペン類、フェノール類等の植物由来成分などを代表例として挙げることができる。例えば、加水分解されるきのこ生育阻害物質がタンパク質であり、及び/又は、抽出除去されるきのこ生育阻害物質がテルペン類及びフェノール類である。因みに、本発明方法において、加水分解及び/又は抽出除去されるきのこ生育阻害物質の種類及び量等は、本発明方法の加水分解及び/又は抽出除去時の各処理条件等に応じて変化する。因みに、廃きのこ培地に含まれる全てのきのこ生育阻害物質が加水分解される必要はない。
【0017】
本明細書において、「有害物質」とは、きのこ又はきのこ子実体の生育に対して何らかの有害な作用を有する物質全般を意味し、例えば、きのこ培地に含まれる各種の添加物(コヌカ、フスマ、粉ビート、及び、キノコライム等)の変質腐敗成分、並びに、栽培時の腐敗成分等の各種の有機化合物を挙げることができる。
【0018】
尚、上記の「きのこ生育阻害物質」及び「有害物質」は夫々まったく独立した別個の概念ではなく、それらの両方の範疇に属する物質もあり得る。
【0019】
本発明方法で連続的に供給される飽和水蒸気の温度及び圧力、並びに処理時間は、処理対象である廃きのこ培地の性質・種類及び栽培したきのこの種類等によって適宜選択することができる。例えば、使用期間が短かった廃きのこ培地の場合には、含まれるきのこ生育阻害物質及び有害物質の量も比較的少ないと考えられるので、よりマイルドな条件でも再生処理することができる。例えば、飽和水蒸気の温度は100〜200℃、好ましくは、120〜150℃、及び、圧力は0.1MPa〜各温度における飽和水蒸気圧、例えば、0.20〜0.50 MPaと設定することが出来る。又、処理時間は、例えば、10〜120分間、好ましくは、30〜90分間である。
【0020】
更に、外部からの加熱は、再生処理方法を実施する圧力容器(再生処理器)の外部に、ヒータ等の当業者に公知の適当な装置によって、適当な加熱温度範囲、例えば、100〜200℃で行なうことが出来る。
【0021】
本発明の特徴は、反応媒体として使用する水の蒸気飽和度を制御することにより、廃きのこ培地に含まれるきのこ生育阻害物質(酵素)の不活化、並びに、各種有害物質の分解、抽出、及び除去等の化学反応、並びに、廃きのこ培地の乾燥を推進できることである。被処理物(廃きのこ培地)の反応は、比較的小さな温度変化でも大幅に蒸気飽和度が変化することを利用して温度と圧力の制御をすることより圧力容器内で水蒸気の蒸気飽和度を変化させて、飽和水蒸気及び乾燥水蒸気の特性を利用することにある。
【0022】
更に、本発明方法は、反応媒体(水蒸気)が連続的に供給される流通式である。その利点は、被処理物の化学反応が非平衡系となり、バッチ式の平衡系と比べ反応速度が速く、処理時間は短縮され、上記の各種の化学反応及び乾燥が一工程で並行して進行することにある。その結果、反応の効率化と装置構造の簡素が可能となる。
【0023】
これに対して、既存のオートクレーブのように密閉式(バッチ式)では被処理物を乾燥することはできない。その結果、既存のオートクレーブでは、真空工程(減圧工程)等を滅菌工程の後に設けて被処理物を乾燥させている。
【0024】
尚、本発明方法の機構は凡そ以下のようなものであると考えられるが、本発明の技術的範囲はこれに一切拘束されるものではない。
【0025】
即ち、まず、含水率の高い被処理物(廃きのこ培地)に飽和水蒸気が接触したと同時に飽和水蒸気は凝縮し液相となる。その際に凝縮熱により被処理物の温度は流通式で次々と送られてくる飽和水蒸気の温度まで上昇し、こうして得られるイオン積・誘電率が低い高温高圧水から成る液相において、加水分解反応が進行し、きのこ生育阻害物質が不活化される。また、同時に外部から与えられる熱によって供給された飽和水蒸気の温度が上昇し、蒸気飽和度は100%以下に低下して乾燥水蒸気が得られる。この乾燥水蒸気は2つの作用を有する。第一の作用としては、イオン積・誘電率が減少したことによって有機物と親和性となった乾燥水蒸気により、廃きのこ培地中の腐敗成分等の有害物質が抽出除去されます。第二の作用としては、乾燥水蒸気による乾燥作用で、凝縮水および被処理物含水が乾燥される。これらの作用は、非平衡の流通系でより効果的に作用する。
【0026】
本発明方法は、当業者に公知の適当な処理システム・処理装置を用いて実施することが出来る。例えば、特許文献4〜6に記載された各種の処理装置を利用することが可能である。
【0027】
具体的には、少なくとも以下の1)〜3)の部位を備えてなる、処理装置が挙げられる。図1はこの処理装置の配管系を示す全体構成図である。
1)被処理物(廃きのこ培地)の処理部。
2)前記処理部に供給する水蒸気を発生するスチーム発生部。
3)前記処理部の内部温度を制御して、所定の水蒸気条件を制御しうるヒータ制御部。
【0028】
上記1)において、「被処理物の処理部」とは、被処理物が設置される部位をいう。具体的には、例えば図1の2「処理装置」に該当する。
【0029】
上記2)において、スチーム発生部は、本発明の飽和水蒸気状態を発生させる部位であり、例えば図1の5「スチーム発生装置」に該当する。
上記3)において、ヒータ制御部は、上記説明の如く被処理物の処理部の内部温度を制御して、所定の水蒸気条件を制御して乾燥水蒸気を発生させる部位であり、例えば図1の26「ヒータ」および27「温度調節器」に該当する。
【0030】
上記の装置は、さらに以下のA)およびB)の部位を備えることが好適である。
A)前記処理部の内部圧力を制御して、所定の飽和水蒸気条件を制御しうるコントロール弁;
B)飽和水蒸気を導く過程および/または発生した凝縮水を排除するためのスチームトラップ部。
【0031】
以上を図1を参照して説明すると、処理システム1は処理装置2とスチーム発生装置5を有しており、これらの間には水蒸気供給管7および窒素ガス供給管8が配置されている。処理装置2は、装置架台21の上に横置き状態で設置された圧力容器からなる再生処理器(蒸煮器)22を有し、この再生処理器22の一端に水蒸気供給管7および窒素ガス供給管8が連通している。
【0032】
再生処理器22の他端にはクラッチ式の開閉蓋22aが取り付けられており、再生処理器22の内部22bは開閉蓋22aを閉じると気密状態に保持される。再生処理器22の内部22bには円筒状の被処理物設置部23が同軸状態に配置されており、被処理物設置部23に実験器具等の被処理物を搭載可能である。
開閉蓋22aを開けると、被処理物設置部23をスライドレール24に沿って再生処理器22から引き出すことが可能となっている。また、再生処理器22の内部22bにはその中心を軸線方向にスチーム吹き出し管25が延びており、このスチーム吹き出し管25の端が水蒸気供給管7に接続されている。
【0033】
再生処理器22の圧力容器における円筒状胴部の外周を取り巻く状態にヒータ26が取り付けられており、ヒータ26の駆動は温度調節器27によって制御される。温度調節器27は被処理物設置部23に搭載された被処理物の温度を検出するための温度センサ28による検出結果に基づき、ヒータ26を駆動して、再生処理器22の内部温度を所定の値に保持する。
【0034】
また、再生処理器22には、その内部22bから排出ガスを外部に放出するための排気管29が接続されており、この排気管29には再生処理器22の側から、フィルタ30、圧力計31、コントール弁32、気液分離装置33および脱臭装置34が接続され、これらを経由して再生処理器22の内部22bを大気開放可能である。再生処理器22の内部22bの圧力は圧力計35に表示されると共に、圧力調節器36によって検出される。圧力調節器36は検出された圧力に基づき、コントロール弁32を開閉して再生処理器22からのガス排出量を調節することにより、処理室22の内部圧力を所定の値となるように調節する。また、再生処理器22の内部22bは安全弁37を介して大気開放可能となっており、当該安全弁37によって内部圧力の異常上昇が回避される。
【0035】
本例の再生処理器22にはドレイン管38も接続されている。ドレイン管38にはフィルタ39が挿入されており、フィルタ39の下流側の部分で二又に分岐し、一方の側がストップ弁40およびスチームトラップ41を介して大気開放され、他方の側がストップ弁42を介して大気開放されている。
【0036】
次に、スチーム発生装置5は、純水あるいはイオン交換水を貯留した水タンク51と水ポンプ52とスチーム発生器53とオーバーフロー式の冷却器54と保圧弁55を備えており、これらが装置架台56に搭載されている。水タンク51内の水はフィルタ58が挿入された循環パイプ57aを介して水ポンプ52に供給され、水ポンプ52から吐出された水は循環パイプ57bを介してスチーム発生器53に供給される。スチーム発生器53は、循環パイプ57bに連通しているコイル状の通路57cを備え、この通路57cを外側から電気炉53aによって加熱することにより、当該通路57cを通過する間に水が水蒸気に変わる。電気炉53aは温度調節器53bによって制御される。発生した水蒸気は循環パイプ57dを通って冷却器54および保圧弁55が挿入されている循環パイプ57eを介して水タンク51に戻る。ここで、循環パイプ57dにはストップ弁59を介して水蒸気供給管7が連通している。ストップ弁59を開くと、スチーム発生器53で発生した飽和水蒸気が水蒸気供給管7を経由して再生処理器22に供給され、余剰の水蒸気のみが循環パイプ57d、57eを介して還流することになる。処理装置2の側に供給される飽和水蒸気の圧力は保圧弁55によって調節される。また、循環パイプ57dには圧力計60および安全弁61が接続されている。
【0037】
さらに、スチーム発生装置5には窒素ガス供給管62が取り付けられており、この窒素ガス供給管62はマスフローメータ63、ストップ弁64および逆止弁65を介して、処理装置2の側に接続された窒素ガス供給管8に接続されている。窒素ガス供給管62の上流端62aは、減圧弁66が挿入されている上流側配管67を介して窒素ガスタンク68に連通している。さらに、窒素ガス供給管62の上流端62aは、減圧弁69が挿入された排出側配管70を介して、処理装置22の側に搭載されているコントロール弁32の上流側に連通している。
【0038】
ここで、上記構成の処理装置2およびスチーム発生装置5の間に架け渡されている水蒸気供給管7および窒素ガス供給管8は、それぞれ、ラインヒータ9、10によって覆われており、これらを介して処理装置2の側に供給される水蒸気および窒素ガスを加熱できるようになっている。また、水蒸気供給管7には安全弁としてのストップ弁11が接続されている。さらに、窒素ガス供給管8は、その下流側の端部が第1ストップ弁12を介して再生処理器22に接続されていると共に、当該第1ストップ弁12よりも上流側の部位が第2ストップ弁13を介して水蒸気供給管7の下流側の部位に連通している。
【0039】
上記構成の処理システム1による被処理物の処理動作を説明する。基本的な処理動作は次の通りである。まず、再生処理器22に、廃きのこ培地である被処理物を投入し、再生処理器22に飽和水蒸気を連続的に供給する。凝縮熱、およびヒータ26によって再生処理器22の内部温度が所定の温度に到達した後は、コントロール弁32を調節して、再生処理器22の内部22bを飽和水蒸気の雰囲気に所定時間保持する。この際に、含水率の高い被処理物(廃きのこ培地)に飽和水蒸気が接触したと同時に飽和水蒸気は凝縮し液相が形成される。同時に、ヒータ26により再生処理器22に内部を加熱し、飽和水蒸気の温度を上昇させることによって蒸気飽和度が100%以下に低下した乾燥水蒸気を発生させる。
【0040】
処理終了後に、スチーム発生装置5からの飽和水蒸気の供給を止めた後、窒素を再生処理器22に供給してその内部の処理済被処理物を冷却しながら、再生処理器22の内部圧力を大気圧にする。内部圧力が大気圧になったことが確認された後は、安全のためにストップ弁42(ドレインバルブ)を開き、しかる後に再生処理器22を開けて、処理済みの被処理物を取り出す。但し、本処理に用いる窒素は、空気と置き換えてもよく、被処理物の特性により不活性ガスとして窒素を用いる。また、不活性ガス(窒素)は、被処理物の特性を考慮して、再生処理の水蒸気密度の調整、制御にも利用する。
【0041】
以下に、本発明の再生処理方法について、実施例及び比較例を示して具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。従って、本発明の技術的特徴を備える限り、適当な改変・修飾等がなされた方法も本発明の技術的範囲に属する。
【実施例1】
【0042】
[再生処理実験]
この実験は、廃きのこ培地が、木材チップ床敷き材と同様に水熱処理され、再びきのこ培地として再利用できることを確認する為に、本発明の再生処理方法を以下の手順で行った。尚、再生処理実験は各廃培地につき2回行った。
【0043】
実験方法:
(1)実験装置:100l乾燥水蒸気処理装置 (有効容量50l, 回転機構付:図1に示す装置システムと実質的に同等の装置)東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設地階洗浄室
(2)実験試料:JA中野市農協より提供される廃きのこ培地(SA培地及び三幸培地)及び対照培地(JAコーン)は以下の通りである。
SA培地:有限会社 信州培養センター(独自のえのき茸用培地)
三幸培地:株式会社 三幸商事(独自のえのき茸用培地)
【0044】
1.廃きのこ培地の含水率を事前に測定して、これまでの処理実験データより処理条件を推察する。尚、含水率は135℃、20min乾燥させたビーカーに試料をいれ、110℃、5時間乾燥し前後の重量を測定して求めた。
2.実験機反応器内の6つのカゴに廃培地を詰めて、質量測定後、リアクター内に入れる。
3.下表の運転条件に従い、水熱処理実験を行う。この際、悪臭防止の為、装置から排出される気体は、脱臭装置にて無臭化する。
4.実験の際に分離される抽出液は、実験機貯留槽よりホースで回収用ポリタンク(20 l)に採取し再生きのこ培地に適宜散布する。(分離気体サンプルの採取は省く。)
5.終了後、再びカゴの質量を測定後、きのこ培地を再生廃きのこ培地サンプルとしてすべて回収する。
6.実験前後の質量差より、乾燥率を算出する。
以上の処理条件を表1にまとめた。
【0045】
【表1】

【実施例2】
【0046】
[きのこ栽培実験]
使用済のSA培地及び三幸培地を実施例1で処理して得られた再生廃きのこ培地である「水熱SA」及び「水熱三幸」、並びにコントロールとしてJAコーン(コーンコブ:とうもろこしの芯を乾燥させ粉砕し、一定の粒度以下に ふるい分けしたもの、中野市農協コーンコブ標準培地)を用いてきのこ培地(表2)を調製し、えのき茸の栽培実験を以下の要領(表3)で実施した。尚、各培地には、その他に、適当量のコヌカ、フスマ、粉ビート、キノコライムを加えた。得られた収量の結果を表4に示す。又、使用した培地の一例(水熱三幸100%)の成分組成(JAコーン培地中のコーンコブ5.7 kgの代わりに使用済の三幸培地から得られた再生廃きのこ培地9.5 kgを使用する例)を表5に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
表4に示された結果を図2に示す。これらから、本発明方法で得られた再生廃きのこ培地きのこを使用してキノコきのこを栽培した場合に、コントロールとして用いた通常の新規なJAコーンを使用した場合と比較して、同等又はそれ以上の収量及び収率が得られることが実証された。
【0052】
[比較実施例]
因みに、新鮮なSA培地(新)及び使用済の同培地を従来のオートクレーブ処理した培地(廃)を用いて、実施例2と同様にえのき茸の栽培実験を実施した。その結果、従来のオートクレーブ処理した培地を新鮮なSA培地と混合する(試験区)ことによって、収量及び収率が対照区と比較して有意に低下することが確認された(図3)。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の特徴の一つは、反応媒体として水を使用することであり、環境に付加をもたらす一切の化学物質は使用していない。また、反応領域は約200℃以下の非常にマイルドな水熱反応であり、超臨界、または亜臨界反応装置のような特別な材料の高圧処理装置を必要とせず、汎用の材料を使用できる。更に、本発明の最大の魅力は、複雑な装置を用いないので非常に安価に高含水バイオマスを再生、あるいは有価物化できることである。
【0054】
本発明の流通式再生処理方法で得られる再生廃きのこ培地を通常の栄養添加物(米糠、フスマ大豆粕等)及び水等と混合して得られるきのこ培地を用いて、通常の方法によって、新規な培地を用いた場合と同様にきのこの栽培をすることができる。
【符号の説明】
【0055】
以下、図1に示す各符号について、説明する。
1 処理システム
2 処理装置
5 スチーム発生装置
7 水蒸気供給管
8 窒素ガス供給管
9、10 ラインヒータ
12、13 ストップ弁
22 再生処理器
22a 開閉蓋
22b 内部
23 被処理物設置部
25 スチーム吹き出し管
26 ヒータ
27 温度調節器
28 温度センサ
29 排気管
32 コントロール弁
33 気液分離装置
34 脱臭装置
36 圧力調節器
38 ドレインパイプ
40、42ストップ弁
41スチームトラップ部
51 水タンク
52 水ポンプ
53 スチーム発生器
53a 電気炉
53b 温度調節器
54 冷却器
55 保圧弁
57a、57b、57d、57e 循環パイプ
57c コイル状通路
68 窒素ガスタンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃きのこ培地の流通式再生処理方法であって、廃きのこ培地に飽和水蒸気を連続的に供給し、該飽和水蒸気が廃きのこ培地と接触することにより凝縮して得られる液相において、廃きのこ培地中に含まれる物質を加水分解し、更に、外部から加熱により供給された飽和水蒸気の温度を上昇させることによって蒸気飽和度が100%以下に低下した乾燥水蒸気を得、該乾燥水蒸気により廃きのこ培地中に含まれる物質を抽出除去し、更に、廃きのこ培地を乾燥させることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
加水分解される物質が廃きのこ培地中に含まれるきのこ生育阻害物質であり、及び/又は、抽出除去される物質が廃きのこ培地中に含まれるきのこ生育阻害物質及び/又は有害物質である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
加水分解されるきのこ生育阻害物質がタンパク質であり、及び/又は、抽出除去されるきのこ生育阻害物質がテルペン類及びフェノール類である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
有害物質が有機化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
乾燥水蒸気により廃きのこ培地に含まれていた水分及び飽和水蒸気が凝縮して得られた水分が除去されることによって廃きのこ培地が乾燥する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
イオン積・誘電率が低下したことによって有機物との親和性が高くなった乾燥水蒸気によって廃きのこ培地中の化合物が抽出除去される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
飽和水蒸気の温度が100〜200℃である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
外部からの加熱を100〜200℃で行なう、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
処理時間が10〜120分間である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の再生処理方法で得られる再生廃きのこ培地を含むきのこ培地。
【請求項11】
請求項10記載のきのこ培地を使用することを特徴とする、きのこ栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−83206(P2011−83206A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236873(P2009−236873)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000148380)株式会社前田製作所 (14)
【出願人】(500149522)中野市農業協同組合 (13)
【出願人】(392035204)株式会社▲高▼見澤 (2)
【Fターム(参考)】