説明

ソマトスタチン類似体製剤

本発明は、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物である前製剤に関する。前記前製剤は、水性流体との接触により、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、あるいは形成することができる。前記製剤は、オクトレオチド等のソマトスタチン類似体の制御放出を目的とするデポー組成物を生成する上で有用である。そのような製剤を投与することを含む治療方法も提供され、また前記製剤を含む薬剤充填済みデバイスおよびキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソマトスタチン類似体を制御放出するためのin situ生成組成物のための製剤前駆体(前製剤(pre-formulation))に関するものである。特に、本発明は、両親媒性成分と少なくとも1種のソマトスタチン類似体とを含む、非経口的に適用される前製剤であって、体液等の水性流体に曝露されると相転移を起こし、これにより制御放出マトリクスを形成する前製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調剤、栄養素、ビタミン等を含む多くの生理活性物質が、「機能発現枠(functional window)」を有している。すなわち、これらの作用物質が何らかの生物学的効果をもたらすことが確認できる濃度範囲が存在する。適切な身体部分における濃度(例えば、局所的な濃度、または血清濃度として表される濃度)がある一定のレベルを下回ると、その作用物質はいかなる有益な効果も発揮しなくなる。同様に、上限濃度レベルが通常存在し、そのレベルよりも濃度を高くしたとしてもさらなるメリットは得られない。場合によっては、特定レベルを超えて濃度を高めると、望ましくない影響や、あるいは危険な影響すら及ぼすことがある。
【0003】
生理活性物質のいくつかは、生物学的半減期が長く、かつ/または機能発現枠が広いため、時として、機能的な生物学的濃度をかなりの期間(例えば、6時間から数日間)にわたって維持するように投与し得る。また、別の場合においては、クリアランス速度が速く、かつ/または機能発現枠が狭いため、生物学的濃度をこの枠の範囲内に維持するためには、少量ずつの定期的(また、さらには継続的)な投与が要求される。これは、非経口経路での投与(例えば、腸管外投与)が望ましい場合には、特に困難となり得る。なぜなら、自己投与が困難で、これにより、不都合および/または不十分な服薬遵守が生じる場合があるためである。このような場合には、活性が必要とされる全期間にわたって治療レベルとなるように活性物質を提供しなければならない単回投与が有利である。
【0004】
ソマトスタチンは、Ala−Gly−Cys−Lys−Asn−Phe−Phe−Trp−Lys−Thr−Phe−Thr−Ser−Cysという配列を有する14残基環状ペプチドホルモンであるが、2つのシスチン残基はジスルフィド架橋によって連結され、主要な結合配列であるPhe−Trp−Lys−ThrにII型βターンが生じている。ソマトスタチンは、成長ホルモン放出抑制因子としても知られる天然ペプチドホルモンであり、ソマトトロピン(ヒト成長ホルモン)の放出において、インスリン、グルカゴン(glucogen)、およびその他の特定のホルモンのアンタゴニストとしての役割を担っている。天然ソマトスタチンの生物学的半減期は極めて短く(1〜3分間)、よって、それ自体は有用な治療薬とはならないが、より高い活性および/またはより長いクリアランス時間をインビボで有し、利用可能となっているソマトスタチン類似体の数が増加している。
【0005】
オクトレオチド、ランレオチド、バプレオチド、および関連ペプチド等のソマトスタチン類似体が、様々な疾患の治療に使用、または必要とされるが、このような治療においては、通常、これらソマトスタチン類似体は長期間にわたって投与される。
【0006】
オクトレオチドとは、例えば、D−Phe−Cys−Phe−D−Trp−Lys−Thr−Cys−Thr−ol(2〜7ジスルフィド架橋)配列を有する合成オクタペプチドであり、酢酸塩の形態で投与されるのが一般的である。また、いくつかの臨床研究は、パモ酸オクトレオチド(octreotide pamoate)に着目している。この誘導体は、主要なPhe−(D)Trp−Lys−Thrβターンを保持してはいるが、天然のホルモンとは対照的に、その終末半減期は1.7時間前後である。オクトレオチドは、カルチノイド腫瘍および末端肥大症を含む疾患の治療に使用され、初回の投与後、通常、数週間、またはより一般的には何ヶ月間もしくは何年間にもわたって持続的に与えられる。さらに、様々な腫瘍でソマトスタチン受容体が発現することがわかっているため、ソマトスタチン類似体は、多くの癌治療で必要とされる。特に関心があるのは、「sst(2)」および/または「sst(5)」受容体を発現する腫瘍である。
【0007】
最も一般的なオクトレオチドの「シンプルな」製剤は、ノバルティス(Novartis)社の「サンドスタンチン(Sandostatin)」(登録商標)である。これは、皮下(s.c)注射用の液剤で、100μg投与すれば、注射後0.4時間で5.2ng/mlのピーク濃度に達する。作用持続時間は最長12時間であり得るが、皮下投薬は、8時間おきに行われるのが一般的である。1日3回の皮下注射を数ヶ月間または数年間にわたって行うことが、理想的な投与方式でないことは明らかである。
【0008】
1日数回にわたってオクトレオチドを注射する必要性を回避するため、さらに別の製剤が利用可能である。これは、同じくノバルティス社製の「サンドスタンチン LAR」(登録商標)である。これは、オクトレオチドを乳酸グリコール酸共重合体ミクロスフェア中に含む製剤であり、再懸濁後、筋肉内(i.m.)注射によって投与することができる。
【0009】
カルチノイド腫瘍は、パラクリン機能を有する特異性細胞(APUD細胞)から生じる腸内の腫瘍である。原発性腫瘍は、通常、虫垂内に生じるが、虫垂内では前記腫瘍は臨床的に良性である。続発性の転移性腸内カルチノイド腫瘍は、セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、およびポリペプチドホルモンを含む血管作動性物質を過剰量分泌する。臨床結果は、カルチノイド症候群(心臓弁膜症患者、ならびにそれほど多くはないが喘息および関節症の患者における突発性皮膚紅潮、チアノーゼ、腹部痙攣、および下痢からなる症候群)である。これらの腫瘍は、消化管(および、肺)のどこにでも成長し得るが、およそ90%が虫垂で成長する。残りは、回腸、胃、結腸、または直腸で起こる。現在、カルチノイド症候群の治療は、まず静脈内ボーラス投与から始まり、次いで、静脈内注入が行われる。症状に対して十分な効果が確立されると、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ミクロスフェア中にオクトレオチドが調合されたデポー製剤による治療が開始される。しかしながら、前記デポーの注射後、最初の2週間またはそれ以上に渡って、前記PLGAスフェアからの徐放を補うため、オクトレオチドの皮下注射を毎日行うことが勧められる。
【0010】
末端肥大症は、脳下垂体が過剰量の成長ホルモン(GH)を産生した場合に起こる、稀有な慢性および潜行性のホルモン障害である。この疾患は中年成人に最も起こりやすく、早世を招き得る。真性糖尿病、高血圧、および循環器系疾患のリスクの増加は、末端肥大症が健康状態にもたらす最も深刻な影響である。さらに、末端肥大症の患者は、癌性となる可能性のある結腸ポリープを発症するリスクが高い。末端肥大症の有病率は、人口百万人当たりおよそ60人であり、その発生率は、年間百万人当たり3.3人の新患者が発生するというものである。末端肥大症(acromegaly)という言葉は、ギリシャ語の「末端」(acro)および「巨大な」(megaly)に由来しているが、これは、この疾患の最も一般的な症状の一つが手足の異常成長であることによる。
【0011】
末端肥大症は、長期にわたる成長ホルモン(GH)の過剰産生、ならびにインスリン様成長因子−I(IGF−I)の過度な産生によって引き起こされる。98%の患者において、GHの過剰産生は、下垂体腺腫に起因している。GH産生の速度および前記腫瘍の攻撃性は、患者ごとに異なる。一般に、より若年の患者において、より攻撃性の強い腫瘍が見られる。
【0012】
末端肥大症は、しばしば診断が遅れる深刻な疾患である。また、特に、この疾患に伴う心血管、脳血管、呼吸器系の障害、および悪性腫瘍のため、罹患率および死亡率が高い。
【0013】
末端肥大症の治療は、1日3回(最適な1日量=オクトレオチド300μg)の皮下注射を行う期間から開始される。最後の皮下投与後、適切な効果が得られていることが観察されてから、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ミクロスフェア中にオクトレオチドが調合されたデポー製剤を用いた治療が開始される。バイオマーカー(HGおよびIGF−1)の測定後、一般的には3ヶ月前後が経過した後、用量の調整が行われる。
【0014】
既存のオクトレオチド徐放製剤は、十分に定着している分解ポリマー型デポー製剤に依拠している。このような製剤は、通常は、ポリ乳酸(PLA)および/または乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)等の生分解性ポリマーをベースとし、有機溶媒中の液剤、開始剤と混合されたプレポリマー、カプセル封入されたポリマー粒子、または(オクトレオチドの場合と同様)ポリマーミクロスフェアの形態であってもよい。
【0015】
ポリマーまたはポリマー粒子は、活性物質を封入しており、緩慢な拡散により、および/またはマトリクスが吸収されるにしたがって、前記作用物質を放出し徐々に分解される。このような系の例としては、米国特許第4,938,763号明細書(特許文献1)、米国特許第5,480,656号明細書(特許文献2)、および米国特許第6,113,943号明細書(特許文献3)に記載のものが挙げられ、数ヶ月に及ぶ期間にわたり活性物質を送達することができる。しかしながら、これらの系には、製造の複雑さおよび滅菌の困難さ(特に、前記ミクロスフェアの場合)を含む多くの制約がある。注射部位で放出される乳酸および/またはグリコール酸に起因する局所的な過敏反応もまた、注目すべき欠点である。さらに、多くの場合、粉末状の前駆体から注射用量を準備するというかなり複雑な手順を踏むことになる。
【0016】
公知のPLGAオクトレオチドデポー系の極めて顕著な欠点の一つは、投与者が複雑な調製を行わなければならないという点である。前記デポーは、前記オクトレオチド含有ミクロスフェアからなる粉末状の前駆体に加え、当該前駆体を均一に懸濁しなければならない希釈液として提供される。前記デポー系を投与用にうまく調製するためには、多段階の工程を含む方法が必要であり、この方法は、前記粉末状前駆体を注射前に確実に完全に飽和させ、均一な懸濁液とするために正確に実施しなければならない。そして、前記デポー系を、臀部深部への筋肉内注射を実施する時点まで均一な分散を維持するための継続的な注射器の振盪を伴う方法によって、即座に投与しなければならない。
【0017】
既存のPLGAオクトレオチドデポー系のさらなる制約は、特定の患者に適合するように投薬を容易に個別調整できないということである。血漿中濃度は対象の体重によって著しい変動を示すことから、ソマトスタチン類似体の投薬は、対象の体重に対し相対的に行うべきであることが近年提案されている。しかしながら、注射剤の賦形剤(vehicle)に不安定に懸濁させた、予め計量した乾燥粉末を含むデポー系では、かなり広範囲にわたる事前測定用量が提供されない限り、このような制御は不可能である。前記懸濁液は、粒子が均一に懸濁していないため、部分的に投与することはできない。よって、対象に固有の基準で決定した用量を投与時に投与できる均一なデポー前駆体があれば、極めて有利である。
【0018】
薬剤送達の観点から、ポリマーデポー組成物には、一般に、比較的低い薬剤量(drug loads)しか受容せず、かつ「バースト/遅延」放出プロファイルを有するという不利点がある。特に、液剤またはプレポリマーとして適用した場合のポリマーマトリクスの性質により、前記組成物が最初に投与された際、薬物放出の初期バーストが起こる。その後、低放出期間があり、前記マトリクスの分解が始まり、これに引き続いて、最後に放出速度が増加し、所望の持続プロファイルに落ち着く。このバースト/遅延放出プロファイルにより、活性物質のインビボ濃度は、投与直後に機能発現枠を超えて急上昇し、持続機能濃度に到達する前の遅延期間中に、機能発現枠の下限を超えて下落し得る。機能的および毒物学的観点から、このバースト/遅延放出プロファイルが、望ましくなく、且つ、危険であり得ることは明らかである。さらに、「ピーク」点における副作用の危険性により、提供可能な平衡濃度までもが制約される可能性もある。
【0019】
オクトレオチドの場合、機能発現枠は、0.8〜20+ng/ml前後の範囲にある。最近の臨床研究において、中腸カルチノイド腫瘍の患者には、より高い値が効果的であり、進行した進行性中腸カルチノイド腫瘍の患者には、現在の治療手段(therapeutic arsenal)に加え、高用量治療が重要な場合もあることが示されている(ウエリンら(Welin et al.) (European Journal of Endocrinology 151 (2004) 107-112.)、非特許文献1)。そうであったとしても、先に示したように、PLGAミクロスフェアの使用は数週間の遅延を引き起こし、この間に、「補充(top-up)」注射を行わなければならない。より迅速に「プラトー」レベルに達するデポー系を提供すれば有利であることは明らかである。PLGAミクロスフェア製品からのウサギへのオクトレオチド放出に関する研究が、例えば、コメッツら(Comets et al.)(J. Controlled Release 59 (1999) 197-05、非特許文献2)によって行われ、投与後15日目が過ぎた後85%を超える活性物質の「第3段階」の放出が始まることが明らかにされた。
【0020】
微粒子の性質に加え、ポリマーデポー製品が低負荷能(loading capacity)であることから、投与に際しさらなる問題が生じる。特に、微粒子懸濁液を輸送するためには5ml前後と比較的高容量の注射をしなければならず、前記懸濁液によって注射器の針が詰まりやすくなるため(よって、厳密な投与プロトコルの順守が必要であることから)、比較的太い(例えば、19ゲージ)針の使用が必要となる。これらの両要因、ならびに深部筋肉内注射の必要性により、投与中、患者にかなりの不快感を与えることとなる。よりゲージの小さい針で投与可能な低容量の投与ですみ、かつ/または、このような深部注射を必要としないデポー系を提供することができれば極めて有利である。
【0021】
さらに、既存のソマトスタチン類似体デポー系では、PLGAマイクロビーズの製造もまた、相当な困難を伴う。詳細には、前記ビーズは粒状であることから濾過滅菌できず、さらに、PLGA共重合体は40℃前後で溶融するため、これらを熱処理して滅菌することは不可能である。その結果、複雑な製造工程を全て無菌性の高い条件下で行わなければならない。
【特許文献1】米国特許第4,938,763号明細書
【特許文献2】米国特許第5,480,656号明細書
【特許文献3】米国特許第6,113,943号明細書
【非特許文献1】Welin et al., European Journal of Endocrinology 151 (2004) 107-112.
【非特許文献2】Comets et al., J. Controlled Release 59 (1999) 197-05
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明者らは、ある種の両親媒性成分と、少なくとも1種のソマトスタチン類似体と、生物学的に許容可能な溶媒とを、分子性溶液等の低粘度相中に含む前製剤を提供することにより、従来のソマトスタチン類似体デポー製剤の欠点の多くに対応した前製剤を生成し得ることを確立した。特に、前記前製剤は、製造が容易であり、濾過滅菌してもよく、低粘度であり(通常細い針を通して、簡単かつ痛みの少ない投与が可能となる)、高濃度での生理活性物質の含有を可能にし(これにより、使用する組成物の量をより少なくすることが可能となる)、深度のより浅い部位で注射を行えばよく、かつ/または制御可能な「バースト」または「非バースト」放出プロファイルを有する所望の非ラメラデポー組成物をインビボで形成する。前記前製剤は、長時間作用型の製品には不可欠な保存安定性およびインビボ安定性に優れている。また、前記組成物は、非毒性で生物学的に許容可能な生分解性材料から形成される。
【課題を解決するための手段】
【0023】
よって、第1の態様において、本発明は、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む前製剤であって、水性流体との接触により、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、あるいは形成することができる前製剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
一般に、前記水性流体は、体液、特に血管外液、細胞外液/間質液または血漿であり、前記前製剤は、このような流体(例えば、インビボの流体)との接触により液晶相構造を形成する。本発明の前製剤は、通常、投与前に有意量の水分を含んでいない。
【0025】
本発明の第2の態様においては、ヒトまたはヒト以外の動物(好ましくは、哺乳類)の身体にソマトスタチン類似体を送達する方法であって、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む前製剤を腸管外投与(例えば、筋肉内または好ましくは皮下に投与)することを含み、前記前製剤が、投与後にインビボで水性流体との接触により少なくとも1つの液晶相構造を形成する送達方法がさらに提供される。このような方法で投与される前製剤は、本明細書中に記載されているような本発明の前製剤であることが好ましい。
【0026】
本発明の第3の態様においては、ヒトまたはヒト以外の動物(好ましくは、哺乳類)の身体にソマトスタチン類似体を局所送達する方法であって、この方法は、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む前製剤の患部への近位投与(proximal administration)(例えば、全身作用が所望されない糖尿病性網膜症の治療のための硝子体内送達)を含み、前記前製剤が、投与後にインビボで水性流体との接触により少なくとも1つの液晶相構造を形成する送達方法がさらに提供される。このような方法で投与される前製剤は、本明細書中に記載されているような本発明の前製剤であることが好ましい。
【0027】
別の態様において、本発明は、液晶デポー組成物の調製方法であって、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む前製剤をインビボで水性流体に曝露することを含む調製方法をさらに提供する。
【0028】
投与される前製剤は、本明細書中に記載されているような本発明の前製剤であることが好ましい。
【0029】
さらに別の態様において、本発明は、(好ましくは、哺乳類である)対象への生理活性物質の投与に適した前製剤の形成方法であって、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒とからなる低粘度混合物を形成することと、前記低粘度混合物に、あるいは、前記低粘度混合物の形成に先立ち成分a、b、またはcのうちの少なくとも1つに、少なくとも1種のソマトスタチン類似体を溶解または分散することを含む方法を提供する。このように形成された前製剤は、本明細書に記載されているような本発明の製剤であることが好ましい。
【0030】
さらに別の態様において、本発明は、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物の、前記ソマトスタチン類似体の持続性投与に使用される前製剤の製造における使用であって、前記前製剤は、水性流体との接触により少なくとも1つの液晶相構造を形成することができる、低粘度混合物の使用を提供する。
【0031】
さらに別の態様においては、本発明は、治療を要するヒトまたはヒト以外の哺乳類である対象を、ソマトスタチン類似体を用いて治療する方法であって、前記対象に、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む前製剤を投与することを含む方法を提供する。
【0032】
好ましくは、前記治療方法は、末端肥大症、癌(癌腫および黒色腫、少なくとも1種のソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、sst(2)陽性腫瘍、sst(5)陽性腫瘍、前立腺癌、胃腸膵神経内分泌(GEP NE)腫瘍および特にカルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸管ペプチド(VIP)腫瘍およびグルカゴノーマ等)、成長ホルモン(GH)上昇、インスリン様成長因子I(IGF−I)上昇、静脈瘤出血(varicial bleeding)(特に、食道におけるもの)、化学療法によって誘発される胃腸の疾患(下痢等)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、および関連する疾患から選択される少なくとも1つの疾患を治療する方法である。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、末端肥大症、癌(癌腫および黒色腫、少なくとも1つのソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、sst(2)陽性腫瘍、sst(5)陽性腫瘍、前立腺癌、胃腸膵神経内分泌(GEP NE)腫瘍および特にカルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸管ペプチド(VIP)腫瘍およびグルカゴノーマ等)、成長ホルモン(GH)上昇、インスリン様成長因子I(IGF−I)上昇、静脈瘤出血(varicial bleeding)(特に、食道(espohageal)におけるもの)、化学療法によって誘発される胃腸の疾患(下痢等)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、および/または関連する疾患を治療するためのデポーのインビボ形成に用いる低粘度前製剤医薬品の製造における、a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体の使用を提供する。
【0034】
本発明の前製剤は、その最終的な「投与準備完了」形態において、長期保存に対し安定しているという点で極めて有利である。その結果、これらの前製剤は、医療従事者か、あるいは十分に訓練された医療従事者である必要はなく、また複雑な調合物を調製するだけの経験またはスキルを有していなくてもよい患者またはその介護人のいずれかによる投与用に容易に供給され得る。
【0035】
さらに別の態様において、本発明は、測定用量の本発明の前製剤を予め装填した使い捨て投与デバイス(デバイス部品も含む)を提供する。このようなデバイスは、通常、投与のための準備が完了している1回分の用量を含有し、一般的に、前記組成物が投与時までデバイス内に保存されるように無菌包装されている。好適なデバイスとしては、カートリッジ、アンプル、および、特に、一体型の針または好適な使い捨て針を収容するように適合させた標準的な(例えば、ルアー)取り付け具のいずれかを備えた注射器および注射筒が挙げられる。
【0036】
本発明の薬剤充填済みデバイスは、投与キットに適切に組み込まれていてもよく、このキットもまた、本発明の別の態様をなす。よって、さらに別の態様において、本発明は、少なくとも1種のソマトスタチン類似体を投与するためのキットであって、測定用量の本発明の製剤を含み、さらに投与デバイスまたはその部品を任意に含むキットを提供する。前記用量は、筋肉内投与または好ましくは皮下投与に適したデバイスまたは部品内に保持されていることが好ましい。前記キットは、針、スワブ等のような投与用部品をさらに備えていてもよく、投与に関する説明書を任意に備えていることが好ましい。このような説明書は、通常、本明細書に記載の経路での、および/または本明細書中において先に挙げた疾患の治療目的での投与に関するものである。
【0037】
本発明の製剤は、投与後に非ラメラ液晶相を生成する。生理活性物質の送達における非ラメラ相構造(液晶相等)の使用は、現在では、比較的よく確立されている。このような構造は、両親媒性化合物が溶媒に曝露された際に形成される。なぜなら、両親媒性物質は、極性基および非極性基の両方を有し、これらは一団となって極性領域および非極性領域を形成するからである。これらの領域は、極性および非極性化合物の両方を効果的に可溶化できる。さらに、両親媒性物質によって極性および/または非極性溶媒中に形成される構造の多くは、他の両親媒性化合物を吸着および安定化することができる非常に大きな面積の極性/非極性境界を有する。また、両親媒性物質は、酵素を含む侵食性の生物学的環境から少なくともある程度は活性物質を保護するように調合することができ、これにより、活性物質の安定性と放出を有利に制御することができる。
【0038】
両親媒性物質/水、両親媒性物質/油、および両親媒性物質/油/水の相図における非ラメラ領域の形成は、周知の現象である。このような相には、キュービックP相、キュービックD相、キュービックG相、およびヘキサゴナル相等、分子レベルでは流体であるが、著しい長距離秩序を示す液晶相と、非ラメラであるが液晶相の長距離秩序を欠く二分子層シートの多重相互結合両連続ネットワークを含むL3相とが含まれる。前記両親媒性物質シートの曲率に応じて、これらの相は、正(平均曲率が非極性領域を指向する)または逆(平均曲率が極性領域を指向する)と表現され得る。
【0039】
前記非ラメラ液晶相およびL3相は、熱力学的に安定な系である。すなわち、これらは単に、層やラメラ相等に分離および/または再構成される準安定な状態にあるのではなく、熱力学的に安定な脂質/溶媒混合物の形態である。
【0040】
バルク液晶相は一般に高粘性であるため、本発明の前製剤は、投与前に液晶でないことが重要である。よって、前記前製剤は、投与されると相変化を起こして液晶塊(liquid crystalline mass)を形成する低粘度非液晶製剤である。低粘度混合物の特に好ましい例は、分子性溶液および/または、L2相および/またはL3相等の等方相である。先に述べたように、L3は、何らかの相構造を有してはいるものの、液晶相の長距離秩序を欠く相互結合シートの非ラメラ相である。一般に高粘性である液晶相とは異なり、L3相は、より低い粘度を有している。L3相、分子性溶液、および/または1以上の成分からなるバルク分子性溶液に懸濁したL3相の粒子からなる混合物もまた好適であることは明らかである。L2相は、いわゆる「逆ミセル」相またはマイクロエマルジョンである。最も好ましい低粘度混合物は、分子性溶液、L3相、およびその混合物である。L2相は、以下に述べるような膨潤L2相の場合を除き、好適性が劣る。
【0041】
本明細書中で使用される「低粘度混合物」という用語は、対象に容易に投与し得る混合物、特に、標準的な注射器および針からなる装置によって容易に投与される混合物を表すものとして使用されている。これは、例えば、1mlの使い捨て注射器からゲージの小さい針を通して供給される能力で表してもよい。低粘度混合物は、19awgの針、好ましくは19ゲージよりも細い針、より好ましくは23awg(あるいは、最も好ましくは27ゲージ)の針を通して、指圧によって供給可能であることが好ましい。特に好ましい実施形態においては、低粘度混合物は、0.22μmのシリンジフィルター等の標準的な滅菌濾過膜を通過できる混合物とすべきである。好適な粘度の典型的な範囲は、例えば、20℃で0.1〜5000mPas、好ましくは1〜1000mPasである。
【0042】
本明細書中に示すような低粘度の溶媒を少量添加することにより、極めて顕著な粘度の変化をもたらすことができることが確認されている。図1に示すように、例えば、わずか5%の溶媒を脂質混合物に添加するだけで、粘度を100分の1にまで低下させることができ、10%の溶媒を添加すれば、粘度を10,000分の1にまで低下させられる場合もある。この非線形の相乗効果を達成するために、粘度を低下させるにあたり、適度に低粘度で、かつ好適な極性を有する溶媒を採用することが重要である。このような溶媒には、本明細書中において以下に挙げるものが含まれる。
【0043】
本発明は、本明細書中に記載の成分a、b、c、および少なくとも1種のソマトスタチン類似体を含む前製剤を提供する。これらの成分の量は、典型的には、a)を40〜70%、b)を30〜60%、およびc)を0.1〜10%の範囲とし、ソマトスタチン類似体を0.1%〜10%の割合で存在させる。本明細書中に記載の%は、特に指定のない限り、いずれも重量%である。前記製剤は、実質的にこれらの成分のみで構成されていてもよく、一態様においては、完全にこのような成分のみで構成されている。成分a)の好ましい範囲は43〜60%、特に45〜55%であり、成分b)の好ましい範囲は35〜55%、特に40〜50%である。
【0044】
a:bの比率は、典型的には40:60〜70:30、好ましくは45:55〜60:40、より好ましくは48:52〜55:45である。50:50程度の比率が極めて効果的である。
【0045】
前製剤における溶媒成分c)の量は、いくつかの特徴に多大な影響を与える。特に、粘度および放出の速度(および持続時間)は、溶媒濃度の変化に伴い著しく変化する。よって、溶媒の量は、少なくとも低粘度混合物を供給するのに十分な量とするが、これに加えて、所望の放出速度が得られるように決定される。これは、以下に挙げる実施例に鑑みた日常的に使用される方法で決定してもよい。典型的には、溶媒の濃度を0.1〜10%とすれば、好適な放出および粘度特性が得られる。この濃度は好ましくは2〜8%であり、5%前後の量が極めて効果的である。
【0046】
本発明者らによる目覚しい発見は、放出の最初の数日間における活性物質の放出プロファイルを「調整」する上で、前記製剤中の溶媒の割合を使用できるということである。より詳細には、本発明の製剤は全て驚くほど低い「バースト/遅延」効果を有し(実際、遅延期間が全くないこともある)、注射から数日以内(例えば、5日以内、好ましくは3日以内、より好ましくは1日以内)にプラトー放出レベルに達するが、最初の1〜2日間に活性物質の制御「バースト」/初期放出が必要とされる場合には、これは、先に挙げた範囲の上部にまで溶媒の割合を高めることによって達成することができる。これに対し、上述の範囲の中間から下部では、実質的にバーストがなく、迅速にプラトー放出レベルにまで低下するデポーを生成する製剤が提供される。
【0047】
よって、一実施形態において、本発明は、成分c)を0.1〜6重量%前後含有し、投与後初期の活性化合物の放出が少ない(「非バーストプロファイル」)製剤およびデポーを提供する。別の実施形態において、本発明は、成分c)を6.5〜10重量%前後含有し、投与後初期の活性化合物の初期放出が多い(「バーストプロファイル」)製剤およびデポーを提供する。
【0048】
活性物質の初期放出が少ない(「非バーストプロファイル」)とは、最初の24時間における血漿中濃度−時間曲線下面積が、曲線全体における曲線下面積(時間0から時間無限大または時間0から最終のサンプリング時点までを測定または推定)の15%未満、より好ましくは10%未満、最も好ましくは7%未満であることと定義される。さらに、48時間以内、より好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内にプラトーに達するように、初期ピーク後のプラトー血漿中濃度レベルまでの低下は迅速に起こるべきである。逆に、初期放出が多い(「バーストプロファイル」)とは、15%を超える活性物質が24時間以内に放出されること、より好ましくは20%を超える活性物質が最初の24時間で放出されることである。プラトーへの低下は、36時間後まで、より好ましくは48時間後まで、最も好ましくは72時間後まで起こらない。これらのプロファイルのそれぞれが、活性物質の血漿中濃度の「プラトー」レベルへの迅速な安定を伴っていることが好ましい。例えば、10日後の血漿中濃度は、5日目〜20日目の平均濃度より50%を超えて上回るかまたは下回るべきではない。これは、30%以下、より好ましくは20%以下であることが好ましい。
【0049】
先に示したように、本発明の前製剤における成分cの量は、少なくとも、成分a、b、およびcから成る低粘度混合物(例えば、分子性溶液、上記参照)を提供する上で十分な量とされ、いかなる特定の成分の組み合わせに関しても、標準的な方法で容易に決定される。偏光顕微鏡法、核磁気共鳴、および低温透過型電子顕微鏡法(cryo−TEM)と組み合わせた目視観察で溶液、L2相もしくはL3相、または液晶相を観察する等の技術により、相挙動そのものを分析してもよい。標準的な手段により、粘度を直接測定してもよい。先に述べたように、実用上適切な粘度は、効果的に注射可能な、特に濾過滅菌可能な粘度である。これは、本明細書中に記載のように容易に判断できる。
【0050】
本明細書中に記載の成分「a」は、少なくとも1種のジアシルグリセロール(DAG)であり、よって、2つの非極性「尾部」基を有する。前記2つの非極性基は、同一または異なる数の炭素原子を有していてもよく、それぞれ独立して飽和または不飽和であってもよい。非極性基の例としては、C6〜C32アルキルおよびアルケニル基が挙げられるが、これらは通常、長鎖カルボン酸のエステルとして存在する。これらはしばしば、炭素鎖における炭素原子数および不飽和数に言及して説明される。したがって、CX:Zは、炭素原子数がXであり不飽和数がZである炭化水素鎖を示す。例としては、特に、カプロイル(C6:0)基、カプリロイル(C8:0)基、カプリル(C10:0)基、ラウロイル(C12:0)基、ミリストイル(C14:0)基、パルミトイル(C16:0)基、フィタノイル(C16:0)基、パルミトレオイル(C16:1)基、ステアロイル(C18:0)基、オレオイル(C18:1)基、エライドイル(C18:1)基、リノレオイル(C18:2)基、リノレノイル(C18:3)基、アラキドノイル(C20:4)基、ベヘノイル(C22:0)基、およびリグノセロイル(C24:9)基が挙げられる。よって、典型的な非極性鎖は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、フィタン酸、パルミトール酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、もしくはリグノセリン酸、またはこれらに対応するアルコールを含む、天然エステル脂質の脂肪酸をベースとするものである。好ましい非極性鎖は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸であり、特にオレイン酸である。
【0051】
任意の数のジアシル脂質の混合物を、成分aとして使用してもよい。この成分が、グリセロールジオレアート(GDO)の少なくとも一部を含むことが好ましい。極めて好ましい例は、GDOを少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、さらには実質的に100%含むDAGである。
【0052】
GDOおよびその他のジアシルグリセロールは自然源由来の生成物であるため、その他の鎖長等を有する「混入物質」としての脂質がいくらかの割合で通常存在する。よって、一態様において、本明細書中で使用されるGDOは、付随する不純物を含む商業用等級のGDO(すなわち、商業純度のGDO)を示すのに使用されている。これらの不純物を精製により分離除去してもよいが、前記等級に該当すれば、このような処理はほとんど必要ない。しかしながら、必要であれば、「GDO」は、少なくとも80%が純粋なGDO、好ましくは少なくとも85%が純粋なGDO、より好ましくは少なくとも90%が純粋なGDO等、実質的に化学的に純粋なGDOであってもよい。
【0053】
本発明における成分「b」は、少なくとも1種のホスファチジルコリン(PC)である。成分aと同様に、この成分は、極性の頭部基と、少なくとも1つの非極性の尾部基を備えている。成分aと成分bとの違いは、主に極性基にある。よって、成分aに関して先に考察した脂肪酸または対応するアルコールから、前記非極性部を適切に生じさせてもよい。成分a)と同様に、前記PCは2つの非極性基を含む。
【0054】
ホスファチジルコリン部は、いかなるジアシルグリセロール部よりも好適に、自然源から派生し得る。好適なリン脂質源としては、卵、心臓(例えば、ウシの心臓)、脳、肝臓(例えば、ウシの肝臓)、および大豆を含む植物源が挙げられる。このような材料源は、成分bの構成成分を1以上提供し得るが、前記構成成分は、リン脂質のいかなる混合物を含んでいてもよい。これらまたはその他の材料源から生じた単一のPCまたは複数のPCの混合物を使用してもよいが、大豆PCまたは卵PCを含む混合物が極めて適している。大豆PCおよび卵PCを同一の割合で含む混合物も極めて効果的であるが、少なくとも50%の大豆PC、より好ましくは少なくとも75%の大豆PCを含むPC、最も好ましくは本質的に純粋な大豆PCが好ましい。
【0055】
本発明の前製剤は、ソマトスタチン類似体活性物質の制御放出を目的として対象に投与されるため、前記成分が生体適合性であることが重要である。この点において、本発明の前製剤は、PCおよびDAGのいずれもが良好に許容され、インビボにて哺乳類の身体に元来存在する成分へと分解されるため、極めて有利である。
【0056】
成分aおよびbの特に好ましい組み合わせは、GDOとPC、特にGDOと大豆PCおよび/または卵PCの組み合わせである。
【0057】
本発明の前製剤の成分「c」は、酸素を含有する有機溶媒である。前記前製剤は、投与(例えば、インビボでの投与)後、水性流体との接触によりデポー組成物を生成するものであるため、この溶媒は、対象にとって許容可能なものであり、前記水性流体と混合可能であり、かつ/または前記前製剤から前記水性流体中に拡散もしくは溶解可能であることが望ましい。よって、少なくとも中程度の水溶性を有する溶媒が好ましい。
【0058】
好適なバージョンでは、前記溶媒は、aおよびbを含む前記組成物に比較的少量、すなわち、好ましくは10%未満を添加した場合に、一桁以上の大幅な粘度低下をもたらす。本明細書中に記載のように、10%の溶媒の添加により、溶媒を含まない組成物に対し、その組成物が溶媒を含まない溶液またはL2相、または水等の不適切な溶媒、またはグリセロールであったとしても、2桁、3桁、または4桁も粘度を低下させることができる。
【0059】
成分cとしての使用に適した代表的な溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類(ラクトン類を含む)、エーテル類、アミド類、およびスルホキシド類から選択される少なくとも1種の溶媒が挙げられる。アルコール類が特に好適であり、好適な溶媒群を形成する。好適なアルコール類の例としては、エタノール、イソプロパノール、およびグリセロールホルマールが挙げられる。エタノールが最も好ましい。ジオールおよびポリオールよりも、モノオールのほうが好ましい。ジオールまたはポリオールを使用する場合、少なくとも等量のモノオールまたはその他の好ましい溶媒と併用することが好ましい。ケトン類の例としては、アセトン、n−メチルピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、およびプロピレンカーボネートが挙げられる。好適なエーテル類としては、ジエチルエーテル、グリコフロール(glycofurol)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソバーバイド(dimethylisobarbide)、およびポリエチレングリコールが挙げられる。好適なエステル類としては、酢酸エチルおよび酢酸イソプロピルが挙げられ、ジメチルスルフィドは、好適な硫化物溶媒である。好適なアミド類およびスルホキシド類としては、ジメチルアセトアミド(DMA)およびジメチルスルホキシド(DMSO)がそれぞれ挙げられる。
【0060】
極めて好ましい組み合わせは、大豆PCと、GDOと、エタノールの組み合わせである。
【0061】
ほとんどまたは全ての成分cが、ハロゲン置換された炭化水素を含有しないことが好ましい。なぜなら、このような成分cは、生体適合性が低くなる傾向があるからである。ジクロロメタンまたはクロロホルム等のハロゲン化溶媒が一部必要である場合、この割合は、通常、最小限とされる。
【0062】
本明細書中で使用される成分cは、単一の溶媒であってもよいし、あるいは複数の好適な溶媒の混合物であってもよいが、通常、低粘度とされる。本発明の主たる態様の一つは低粘度の前製剤を提供することであり、好適な溶媒の主な役割はこの粘度を低下させることであるため、このことは重要である。この低下は、溶媒のより低い粘度による効果と、溶媒と脂質組成物間の分子間相互作用による効果の組み合わせの結果である。本発明者らの所見の一つは、本明細書に記載される低粘度の酸素含有溶媒は、組成物の脂質部分との間に極めて有利かつ予期しなかった分子間相互作用を引き起こし、これにより、少容量の溶媒の添加によって非線形の粘度低下をもたらすというものである。
【0063】
「低粘度」溶媒成分c(単一の溶媒または混合物)の粘度は、通常、20℃で18mPas以下とすべきである。この粘度は、好ましくは20℃で15mPas以下であり、より好ましくは10mPas以下、最も好ましくは7mPas以下である。
【0064】
本発明の前製剤のさらに別の利点は、生理活性物質をより高濃度で系に含有させられるということである。特に、成分a〜c(特に、c)を適切に選択することにより、高濃度の活性物質を前製剤に溶解または懸濁し得る。これにより、投与容量を低減し、対象の不快感を緩和することができる。
【0065】
本発明の前製剤は、通常、有意量の水分を含有してはいない。脂質組成物から微量の水分を全て除去することは実質的に不可能であるため、これは、容易に除去できない最低限の微量の水分のみが存在することを示唆するものと解釈されたい。このような量は、一般に、前製剤の1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満である。好ましい一態様において、本発明の前製剤は、グリセロール、エチレングリコール、またはプロピレングリコールを含有せず、直前に述べたように、ほんの微量の水分のみを含有する。
【0066】
本発明の前製剤は、1種以上のソマトスタチン類似体(本明細書中では、あらゆる「活性物質」という記載がこれを指すものである)を含有する。ソマトスタチンはペプチドホルモンであるため、典型的なソマトスタチン類似体は、特に14個以下のアミノ酸で構成されるペプチドである。このようなペプチドは、環状であること、および/または少なくとも1つの分子内架橋を有すること等により、構造的に拘束されていることが好ましい。アミド、エステル、または特にジスルフィド架橋が極めて好適である。好ましい拘束性ペプチドは、II型βターンを示す。このようなターンは、ソマトスタチンの主要領域に存在する。ペプチドは、遺伝コードに示された20個のα−アミノ酸から選択されるアミノ酸のみを含有してもよいし、あるいは、より好ましくは、これらのアミノ酸の異性体およびその他の天然および非天然アミノ酸(一般的には、α、β、またはγ−アミノ酸)、ならびにその類似体および誘導体を含有してもよい。
【0067】
本明細書中で言及されている「ソマトスタチン類似体」、「オクトレオチド」、「ランレオチド」という用語、およびその他の活性物質が、薬学的に許容可能な塩およびその誘導体を含むことは明らかである。例えば、本明細書中で言及されている「オクトレオチド」は、典型的には、最も一般的な塩であるオクトレオチドアセテートであるが、遊離分子、または塩酸塩、パモ酸塩、クエン酸塩等のようなその他の生物学的に許容可能な塩もまた、文脈により禁じられていない限り、当該用語に包含される。
【0068】
アミノ酸誘導体は、ペプチドの末端に特に有用であるが、ペプチドの末端において、末端のアミノ基またはカルボキシレート基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、エステル基、アミド基、チオ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジまたはトリアルキルアミノ基、アルキル基(本明細書全体を通し、C1〜C12アルキル基、好ましくはC1〜C6アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソ−、sec−、またはt−ブチル基等を意味する)、アリール基(例えば、フェニル基、ベンジル基、ナフチル(napthyl)基等)、またはヘテロ原子を少なくとも1つ有していることが好ましく、かつ原子の合計が10以下、より好ましくは6以下であることが好ましいこれら以外の官能基のような、その他の官能基によって、またはその他の官能基で置換されていてもよい。
【0069】
特に好ましいソマトスタチン類似体は、6〜10個のα−アミノ酸からなる拘束性ペプチドであり、その特定の例としては、オクトレオチド、ランレオチド(NH2−(D)Naph−Cys−Tyr−(D)Trp−Lys−Val−Cys−Thr−CONH2の配列を有するもの、NH2−(D)Naph−Cys−Tyr−(D)Phe−Lys−Val−Cys−Thr−CONH2の配列で表されるその環状誘導体であって、いずれもCys−Cys分子内ジスルフィド架橋を有する)およびバプレオチドが挙げられる。最も好ましいのは、オクトレオチドである。
【0070】
ソマトスタチン類似体は、一般的に、製剤全体の0.1〜10重量%となるように調合される。典型的な値は、1〜8%、好ましくは2〜6%、より好ましくは2.5〜5%である。3%前後のソマトスタチン類似体含有量が最も好ましい。
【0071】
製剤に含有させるのに適したソマトスタチン類似体の用量、よって、使用される製剤の容量は、所望の治療レベル、活性、および選択された特定の活性物質のクリアランス速度にはもちろん、放出速度(例えば、溶媒の種類および使用量によって制御される放出速度)および放出持続期間にも左右される。通常、1用量当たり1〜1000mg(例えば、1〜500mg)の量が、7日間〜180日間(例えば、7日間〜90日間)治療レベルを提供するのに適している。この量は、5〜300mgであることが好ましい。オクトレオチドに関しては、このレベルは、通常10〜180mg前後(例えば、持続期間30日〜90日)である。オクトレオチドの量は、注射と注射の間の期間において、1日当たり0.2〜3mg前後であることが好ましい。よって、30日ごとに投与されるデポーは、オクトレオチドを6〜90mg含有し、90日ごとに投与されるデポーは、オクトレオチドを18〜270mg含有する。いくつかの状況下、特に、進行した腫瘍が存在する場合には、一週間の持続期間につき40〜160mg前後のオクトレオチドに相当する高用量(例えば、4週間用のデポーでは160〜640mg)が好適である。このようなデポーは、通常、2〜8週間に1回、好ましくは4〜6週間に1回、投与用に調合される。
【0072】
本発明の前製剤は、腸管外投与用に調合される。この投与は、一般的には、血管内へ投与する方法ではなく、皮下、眼内(例えば、硝子体内もしくは結膜下)、または筋肉内投与であることが好ましい。前記投与は通常注射によって行われるが、注射という用語は、本明細書中では、針、カテーテル、または無針注射器等、前記製剤が皮膚を通過するようにするあらゆる方法を示すのに使用されている。
【0073】
好ましい腸管外投与は、筋肉内注射または皮下注射によって行われ、深部皮下注射によって行われることが最も好ましい。これは、既存のオクトレオチドデポーで用いられる(深部)筋肉内注射と比べると深度が浅く、かつ対象が感じる痛みが少ないという利点を有し、また、注射の容易さと皮膚への副作用のリスクの低さを兼ね備えていることから、本件に関しては技術的に最適である。
【0074】
本発明の前製剤は、特にインビボで水性流体に曝露されると、非ラメラ液晶デポー組成物を提供する。本明細書中で使用される「非ラメラ」という用語は、正もしくは逆の液晶相(キュービック相もしくはヘキサゴナル相等)またはL3相、あるいはこれらの任意の組み合わせを示すのに使用されている。液晶という用語は、あらゆるヘキサゴナル液晶相、あらゆるキュービック液晶相、および/またはこれらのあらゆる混合物を示す。本明細書中で使用されるヘキサゴナルは、「正」または「逆」のヘキサゴナル(好まくは逆)を示し、「キュービック」は、特に指定のない限り、任意のキュービック液晶相を示す。
【0075】
多くの脂質の組み合わせに関しては、ある特定の非ラメラ相のみが存在するか、あるいは安定した状態で存在する。本明細書中に記載の組成物が、その他の成分の組み合わせの多くにおいては存在しない非ラメラ相を高い頻度で示すということは、本発明の驚くべき特徴である。したがって、特に有利な一実施形態では、本発明は、水性溶媒で希釈された場合にI2相および/またはL2相領域を存在させる成分の組み合わせを備えた組成物に関する。このような領域の有無は、いかなる組み合わせに関しても、組成物を単純に水性溶媒で希釈し、この結果生じた相構造を本明細書に記載の方法で観察することにより、簡単にテストできる。
【0076】
極めて有利な実施形態において、本発明の組成物は、水分との接触によりI2相、またはI2相を含む混合相を形成してもよい。I2相は、不連続な水性領域を有する逆キュービック液晶相である。この相は、活性物質の制御放出に特に有利であり、特に水溶性活性物質等の極性活性物質と組み合わせた場合に特に有利である。これは、不連続な極性ドメインが、前記活性物質の迅速な拡散を防止するからである。L2のデポー前駆体は、I2相デポー構成物との併用が極めて効果的である。これは、L2相が、分離した極性コアを取り囲む連続的な疎水性領域を有するいわゆる「逆ミセル」相であるからである。よって、L2は、親水性の活性物質と同様の利点を有する。
【0077】
体液との接触後の過渡段階において、組成物は複数の相を含み得るが、これは、特にかなりの大きさの内部デポーを投与した場合、初期表面相の形成により、デポーのコアへの溶媒の透過が遅延されるからである。理論にとらわれることなく、この表面相、特に液晶表面相の過渡形成は、組成物とその周囲との間の交換速度を即座に制限することにより、本発明の組成物の「バースト/遅延」プロファイルを劇的に低減するように働くものと考えられる。遷移相は、(通常、外側からデポーの中心に向かって順に)HIIまたはLα、I2、L2、および液体(溶液)を含んでいてもよい。本発明の組成物は、生理的温度の水分との接触後に、これらの相を少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、過渡段階で同時に形成可能であることが極めて好ましい。特に、少なくとも過渡的に形成される前記相の1つがI2相であることが極めて好ましい。
【0078】
本発明の前製剤が低粘度であることを理解することは重要である。その結果、これらの前製剤は、バルク液晶相であってはならない。なぜなら、液晶相は全て、注射器またはスプレーディスペンサーで投与可能な粘度よりもはるかに高い粘度を有するからである。よって、本発明の前製剤は、溶液、L2相、またはL3相のいずれか、特に、溶液またはL2のいずれかのような、非液晶状態にある。本明細書全体を通して使用されるL2相は、10重量%を超える粘度低下効果を有する溶媒(成分c)を含有する「膨潤」L2相であることが好ましい。これは、溶媒を含有しないか、より少量の溶媒を含有するか、あるいは本明細書中に明記する酸素含有低粘度溶媒に付随する粘度低下効果をもたらさない溶媒(または混合物)を含有する、「濃縮」または「非膨潤」L2相とは対照的である。
【0079】
本発明の前製剤は、投与されると、低粘度混合物から高粘度(通常、組織付着性)デポー組成物へと相構造転移する。通常、これは、分子混合物、膨潤L2および/またはL3相から、正もしくは逆ヘキサゴナルもしくはキュービック液晶相またはこれらの混合物等の1以上の(高粘度)液晶相への転移である。先に示したように、投与後に、さらなる相転移が起こってもよい。本発明が機能する上で、完全な相転移を必要としないことは明らかであるが、投与された混合物の少なくとも表面層が液晶構造を形成する。この転移は一般に、投与された製剤の少なくとも表面領域(空気、体表面、および/または体液と直接接触している部分)に関しては迅速である。これは、数秒または数分(例えば、最高30分、好ましくは最高10分、より好ましくは5分以下)で生じることが最も好ましい。前記組成物の残部は、拡散によって、および/または表面領域が分散するにつれて、よりゆっくりと液晶相に相変化してもよい。
【0080】
よって、好ましい一実施形態において、本発明は、水性流体との接触により、少なくともその一部がヘキサゴナル液晶相を形成する、本明細書中に記載されているような前製剤を提供する。このように形成されたヘキサゴナル相は、徐々に分散および/または分解して活性物質を放出してもよいし、あるいは引き続きキュービック液晶相へと変化し、次いでこのキュービック液晶相が徐々に分散してもよい。ヘキサゴナル相は、キュービック相構造、特にI2相およびL2相と比べ、活性物質、特に親水性活性物質をより迅速に放出すると考えられる。したがって、キュービック相の形成前にヘキサゴナル相が形成された場合、これは活性物質の初期放出を招き、濃度を効果的なレベルにまで急速に高め、その後、前記キュービック相が分解するにつれて、漸進的な「維持量(maintenance dose)」の放出が起こる。このようにして、放出プロファイルを制御してもよい。
【0081】
また、理論にとらわれることなく、本発明の前製剤は、(例えば、体液への)曝露により、含有する有機溶媒の一部または全部を(例えば、拡散によって)喪失すると共に、身体的環境(例えば、インビボ環境)から水性流体を取り込み、これにより、前記製剤の少なくとも一部分が非ラメラ、特に液晶相構造を生成すると考えられる。ほとんどの場合、これらの非ラメラ構造は高粘性であり、インビボ環境に容易に溶解または分散されない。この結果、限られた領域のみが体液に曝露され、モノリシック「デポー」がインビボで生成される。さらに、非ラメラ構造は大きな極性、非極性、および境界領域を有しているため、ペプチド等の活性物質を可溶化および安定化し、これらを劣化メカニズムから保護する上で極めて効果的である。前製剤から形成されたデポー組成物が数日間、数週間、または数ヶ月間にわたって徐々に分解されるにしたがい、前記組成物から活性物質が徐々に放出および/または拡散される。デポー組成物内の環境は比較的保護されているため、本発明の前製剤は、比較的短い生物学的半減期を有する活性物質(上記参照)に極めて適している。
【0082】
本発明の製剤により形成されるデポー系は、活性物質を分解から保護する上で極めて効果的であり、よって放出期間の延長を可能にする。公知のPLGA徐放製品と、GDO、大豆PC、エタノール、およびオクトレオチドを含有する本発明の製剤との間で、比較試験を行った。これらの試験により、本発明の製剤は、シミュレートされたインビボ条件下で、オクトレオチドとPLGAミクロスフェアからなる公知の組成物に比べ、分解の程度が低いことがわかった。よって、本発明の製剤は、20日〜90日に1回、好ましくは30日〜60日に1回、より好ましくは35日〜48日に1回だけ投与すればよいソマトスタチン類似体のインビボデポーを提供し得る。より長く安定な放出期間が、医療従事者が要する時間を短縮するのみならず、患者の快適さおよび服薬遵守の上でも望ましいことは明らかである。
【0083】
本発明のデポー前駆体の顕著な利点は、これらが安定で均一な相であるということである。すなわち、これらは、相分離を起こすことなく、かなり長期間(好ましくは、少なくとも6ヶ月間)保存可能である。これにより、有利な保存が可能になるだけでなく、個々の対象の種、年齢、性別、体重、および/または身体状態を考慮したソマトスタチン類似体の用量の選択が、選択した容量を注射することによって可能となる。
【0084】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、総薬物曝露量(AUCまたは平均プラトー血漿中濃度として観察される)は注射容量に比例するにもかかわらず、活性物質の初期放出(Cmaxとして観察される)は、試料として用いた容量の注射では少なくとも10倍の範囲において、投与容量に比例しない(下記実施例および図参照)ことを発見した。それどころか、Cmaxは、注射された投与容量の表面積に相関し得ることがわかった。すなわち、Cmaxは、注射された投与容量の3分の2乗に比例する。投与容量を10倍にしても、Cmaxは10倍にはならず、よって、Cmaxと総薬剤曝露量(AUCまたは平均プラトー血漿中濃度レベル)の関係は、投与容量の増加に伴い減少を示す。このことは極めて有利である。なぜなら、この特性により、総用量を著しく増加させたとしても、潜在的に有毒な血漿薬剤濃度に達するリスクが低減されるからである。さらに、これにより、前記製剤中の活性物質の濃度および注射容量を変化させることで、前記プラトー濃度および前記ピーク濃度をある程度独立制御することが可能となる。しかしながら、重要なことに、投薬が注射容量に直接比例しない状況下においても、デポー前駆体の均一な性質により、事前測定用量の部分的な投与が可能となり、この投与は、対象における関連可変要素のいずれかまたは全てを考慮し得る投薬表、カルテ、ソフトウェアによる計算等を参照して行い得る。
【0085】
よって、本発明は、特に対象の体重または体表面積に基づき、個々人に特異な投薬用量を選択することを含む方法を提供する。この用量選択の手段は、投与容量を選択することである。
【0086】
前記前製剤により、活性物質の放出プロファイルにおいて「バースト」効果がほとんど見られないデポー組成物が得られるということは、本発明者らによって成された予期しなかった発見である。このことが予期されなかったのは、前記前駆組成物の低粘度混合物(特に、これが溶液である場合)は、水分に曝露されると迅速に活性物質を喪失するものと考えられていたからである。実際には、本発明の前製剤は、表面結合活性物質が初期に「洗い流される("wash off")」傾向を示す従来公知のポリマーベースのデポー組成物と比べて、初期「バースト」の程度が著しく低かった。下記実施例および添付図面において、これが示されている。よって、一実施形態において、本発明は、投与後における活性物質の最高血漿中濃度が、投与後24時間から5日の間における平均濃度の10倍以下となる注射可能な前製剤およびこの前製剤から生じるデポー組成物を提供する。この比率は、前記平均濃度の8倍以下であることが好ましく、5倍以下であることが最も好ましい。
【0087】
本発明の組成物は、投与後に「遅延」効果がほとんどないデポー組成物の生成も可能にする。よって、さらに別の実施形態において、本発明は、1回の投与後7日目の活性物質の血漿中濃度が、投与後21日目の活性物質の血漿中濃度以上となる注射可能な前製剤およびこの前製剤から生じるデポー組成物を提供する。同様に、最初の21日間の活性物質の濃度を、投与後30日目以降におけるいずれの時点の濃度よりも常に高くする必要がある。この徐々に低下する放出プロファイルは、ソマトスタチン類似体製剤に関しては、これまでに実証されていなかった。
【0088】
PLGAをベースとするデポーに対し、本発明の前製剤から形成されるデポー組成物が有するさらに別の顕著な利点は、本発明の組成物によれば、注射部位に生じる損傷の程度がより低いということである。PLGAは生分解性ポリマーであり、分解すると乳酸およびグリコール酸を生じ、これらの刺激性副産物を、活性物質の放出持続期間全体にわたって(これより長い可能性もある)放出する。この結果、「莢膜(capsule)」形成が起こり、投与後も長期にわたって残存するおそれがある瘢痕組織が形成される。これとは対照的に、本発明の組成物は、酸性の副産物を生成することがなく、一般に、ごく軽微な可逆性の影響を注射部位に与えるに過ぎない。このことは、検視における動物の目視検査によって、はっきりと確認されている。前記デポーの痕跡のほとんどは、例えば、筋肉内注射または皮下注射後8〜12週間で消失する。さらに、前記製剤の非刺激性により、眼に直接適用することが可能であり、またこれにより過敏反応が起こらないことがウサギモデルにおいて確認されている。
【0089】
以下に、オクトレオチド製剤の特定例を挙げる。本発明の一実施形態では、このような前製剤は、下記表に列挙する前製剤のうちの一つではない。別の実施形態では、これらの前製剤は、本発明の態様の組成物、ならびに本発明の態様における、特に薬剤充填済みの物品、キット、薬物治療の方法、および医薬品の製造に使用される組成物の極めて好ましい例をなすものである。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
本明細書中に示した特徴および好ましい特徴との組み合わせにより、本発明の前製剤は、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または同時に有していてもよい。
【0094】
前記前製剤は、表1または2に示すような製剤ではない。
【0095】
前記前製剤は、表1または2に示すような組成物である。
【0096】
成分a)は、GDOを含むか、実質的にGDOで構成されるか、または好ましくはGDOのみで構成される。
【0097】
成分b)は、大豆PCを含むか、実質的に大豆PCで構成されるか、または好ましくは大豆PCのみで構成される。
【0098】
成分c)は、1、2、3、もしくは4炭素アルコール、好ましくはイソプロパノール、またはより好ましくはエタノールを含むか、実質的にこのような成分で構成されるか、または好ましくはこのような成分のみで構成される。
【0099】
前記前製剤は、本明細書中に挙げたソマトスタチン類似体から選択される少なくとも1種のソマトスタチン類似体、好ましくはオクトレオチド、ランレオチド、またはバプレオチドを含有する。
【0100】
前記前製剤は、本明細書中に記載のような低粘度を有する。
【0101】
前記前製剤は、インビボ投与すると、本明細書中に記載のような液晶相を形成する。
【0102】
前記前製剤は、インビボ投与後にデポーを生成し、このデポーは、少なくとも30日間、好ましくは少なくとも40日間、より好ましくは少なくとも60日間にわたり、少なくとも1種のソマトスタチン類似体を治療レベルで放出する。
【0103】
本明細書中に示した特徴および好ましい特徴との組み合わせにより、本発明の治療方法は、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または同時に有していてもよい。
【0104】
前記方法は、表1または2に示す製剤のうちの少なくとも1種を投与することを含む。
【0105】
前記方法は、先に示した好ましい特徴を1つ以上有する製剤のうちの少なくとも1種を投与することを含む。
【0106】
前記方法は、本明細書中に記載の製剤のうちの少なくとも1種を、筋肉内注射、皮下注射、または好ましくは深部皮下注射によって投与することを含む。
【0107】
前記方法は、本明細書中に記載の薬剤充填済み投与デバイスにより投与することを含む。
【0108】
前記方法は、19ゲージ以下、好ましくは19ゲージ未満、より好ましくは23ゲージの針を通して投与することを含む。
【0109】
前記方法は、20日〜90日ごと、好ましくは30日〜60日ごと、より好ましくは35日〜48日ごとに1回投与することを含む。
【0110】
本明細書中に示した特徴および好ましい特徴との組み合わせにより、本明細書中に示す前製剤の医薬品の製造における使用は、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または同時に有していてもよい。
【0111】
前記使用は、表1または2に示す製剤のうちの少なくとも1種の使用を含む。
【0112】
前記使用は、先に示した好ましい特徴を1つ以上有する製剤のうちの少なくとも1種の使用を含む。
【0113】
前記使用は、本明細書中に記載の製剤のうちの少なくとも1種を、筋肉内注射、皮下注射、または好ましくは深部皮下注射によって投与するための医薬品の製造を含む。
【0114】
前記使用は、本明細書中に記載の薬剤充填済み投与デバイスにより投与するための医薬品の製造を含む。
【0115】
前記使用は、19ゲージ以下、好ましくは19ゲージ未満、より好ましくは23ゲージ以下の針を通して投与するための医薬品の製造を含む。
【0116】
前記使用は、20日〜90日ごと、好ましくは30日〜60日ごと、より好ましくは35日〜48日ごとに1回投与するための医薬品の製造を含む。
【0117】
本明細書中に示した特徴および好ましい特徴との組み合わせにより、本発明の薬剤充填済みデバイスは、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または同時に有していてもよい。
【0118】
前記薬剤充填済みデバイスは、表1または2に示す製剤のうちの少なくとも1種を含む。
【0119】
前記薬剤充填済みデバイスは、本明細書中に記載の好ましい製剤を含有する。
【0120】
前記薬剤充填済みデバイスは、19ゲージ未満、好ましくは23ゲージ以下の針を備える。
【0121】
前記薬剤充填済みデバイスは、1回分の用量である1〜500mg、好ましくは5〜300mgのソマトスタチン類似体を含む。
【0122】
前記薬剤充填済みデバイスは、オクトレオチドを10〜180mg前後含む。
【0123】
前記薬剤充填済みデバイスは、予定された投与の間の期間において、1日当たり0.2〜3mg前後に相当する量のオクトレオチドを含む。
【0124】
前記薬剤充填済みデバイスは、5ml以下、好ましくは3ml以下、より好ましくは2ml以下の総投与容量を含む。
【0125】
本明細書中に示した特徴および好ましい特徴との組み合わせにより、本発明のキットは、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または同時に有していてもよい。
【0126】
前記キットは、表1または2に示す製剤のうちの少なくとも1種を含む。
【0127】
前記キットは、本明細書中に記載の好ましい製剤を含む。
【0128】
前記キットは、本明細書中に記載の薬剤充填済みデバイスを含む。
【0129】
前記キットは、19ゲージ以下、好ましくは23ゲージ以下の針を備える。
【0130】
前記キットは、1回分の用量である1〜500mg、好ましくは5〜300mgのソマトスタチン類似体を含む。
【0131】
前記キットは、オクトレオチドを10〜180mg前後含有している。
【0132】
前記キットは、予定された投与と投与の間の期間の1日当たり0.2〜3mg前後に相当する量のオクトレオチドを含む。
【0133】
前記キットは、総投与容量が5ml以下、好ましくは3ml以下、より好ましくは2ml以下である。
【0134】
前記キットは、本明細書中に記載の経路および/または頻度での投与に関する説明書を含む。
【0135】
前記キットは、本明細書中に記載の治療方法において使用する投与に関する説明書を含む。
【0136】
下記の非限定的な実施例および添付図面を参照しながら、本発明についてさらに説明する。
【0137】
図1は、N−メチルピロリジノン(NMP)およびEtOHの添加による、前製剤の粘度の非線形の低下を示している。
【0138】
図2は、オクトレオチド(OCT)を0.5%の薬剤量に相当する製剤1g中5mgの濃度で含有するPC/GDO/EtOH(36/54/10重量%)を含むデポー製剤を皮下注射した後の28日間における(ラットの)OCTの血漿中濃度を示している。
【0139】
図3は、オクトレオチド(OCT)を3%の薬剤量に相当する製剤1g中30mgの濃度で含有するPC/GDO/EtOH(47.5/47.5/5.0重量%)を含むデポー製剤を皮下注射した後の5日間における(ラットの)OCTの血漿中濃度を示している。
【0140】
図4は、0.5mlのPデポー製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(47.5/47.5/5))に含まれる15mg(約1.7mg/kg)のオクトレオチド(3%の薬剤量)を皮下投薬した後のビーグル犬の血漿中オクトレオチドを経時的に示している。
【0141】
図5は、0.5mlのPデポー製剤前駆体に含まれる15mg(約1.7mg/kg)のオクトレオチド(3%の薬剤量)を皮下投薬した後のビーグル犬の血漿中IGF−1濃度をベースラインに対する%で経時的に示している。
【0142】
図6は、1ml/kgのP、Q、およびSに含まれる30mg/kgのオクトレオチドを皮下投薬した後のラットの血漿中オクトレオチドを経時的に示している。
【0143】
図7は、0.3、1、および3ml/kgのP製剤に含まれる9、30、および90mg/kgのオクトレオチドを皮下投薬した後のラットの血漿中オクトレオチドを経時的に示している。
【0144】
図8は、0.5mgの製剤Pを皮下投薬および筋肉内投薬した後の6日間におけるイヌの血漿中オクトレオチド濃度を示している。
【実施例1】
【0145】
組成物の選択によるデポー中の各種液晶相の利用可能性
ホスファチジルコリン(「PC」−エピクロン(Epikuron)200)とグリセロールジオレアート(GDO)を異なる割合で含有し、さらにEtOHを溶媒として含有する注射製剤を調製し、デポー前駆体製剤を過剰量の水で平衡化した後、各種液晶相が得られることを例証した。
【0146】
適量のPCおよびEtOHをガラスバイアルで計量し、得られた混合物を、PCが完全に溶解し、透明な溶液となるまで振盪器にかけた。次に、GDOを添加し、注射可能な均一溶液を調製した。
【0147】
各製剤をバイアルに注入し、過剰量の水で平衡化した。相挙動を、目視ならびに交差偏光子間(between crossed polarizes)で、25℃で評価した。結果を下記の表に示す。
【0148】
【表4】

【実施例2】
【0149】
溶媒(EtOH、PG、およびNMP)添加によるPC/GDO(6:4)またはPC/GDO(3:7)の粘度
PC/GDO/EtOHの混合物を、実施例1に記載の方法で製造した。回転蒸発器(真空、40℃、1時間)を用いて前記混合物からEtOHを完全またはほぼ完全に除去し、この結果得られた固体混合物をガラスバイアルで計量した後、2、5、10、または20%の溶媒(EtOH、プロピレングリコール(PG)、またはn−メチルピロリドン(NMP))を添加した。これら試料を数日間平衡化させた後、フィジカ(Physica)UDS 200レオメータを用い、0.1s-1の剪断速度で、25℃で粘度を測定した。
【0150】
この実施例は、ある種のデポー前駆体は、注射製剤(図1参照)を得るために溶媒を必要とすることを明確に示している。溶媒を含有しないPC/GDO混合物の粘度は、PCの比率の上昇と共に上昇する。PC/GDO比率の低い(GDOが多い)系は、より低い溶媒濃度で注射可能となる。
【実施例3】
【0151】
ペプチドであるオクトレオチドを含有するデポー組成物の調製
オクトレオチドは、典型的には酢酸塩として提供される合成オクタペプチドであり、ホルモンであるソマトスタチンに類似している。オクトレオチドは、成長ホルモン、インスリン、およびグルカゴン等の物質の産生を減少させる。オクトレオチドは、末端肥大症の治療、ならびに転移性癌性腫瘍によって引き起こされる潮紅および水性下痢(watery diarrhoea)(カルチノイド症候群)または血管作動性腸管ペプチド腫瘍(VIPomas)と呼ばれる腫瘍によって引き起こされるこれらの症状の低減に使用される。
【0152】
24mgまたは60mgのオクトレオチドを、0.1gのEtOH中に溶解した。0.36gのPCおよび0.54gのGDOを、引き続きこの溶液中に溶解し、デポー製剤前駆体を得た。過剰量の水相に前記製剤前駆体を注入(注射器23G;0.6mm×30mm)したところ、モノリシック液晶相(I2構造)が得られた。すなわち、水性の環境に曝露しても、オクトレオチド(2.4%または6.0%)のモノリス形成および相挙動に変化はなかった。
【0153】
この実施例のオクトレオチドデポー前駆体製剤に関し、保存中の結晶化に対する安定性を試験した。各製剤は、4〜8℃で少なくとも2週間安定であった。
【実施例4】
【0154】
皮下投与されたオクトレオチド含有デポー製剤のインビボ放出の観察調査
インビボラットモデルにおいて、オクトレオチドの薬物放出を28日間観察した。前記ラットに対し、頚静脈にシリコンカテーテルを挿入する外科的処置を施した。外科手術後の数日間、注射器(23G、0.6mm×25mm)を使用して、前記製剤を背部領域の肩甲骨よりも若干後方に皮下に投与した。オクトレオチドの用量は、10mg/kg、容量では1ml/kgとしたが、これは、前記デポー製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(36/54/10))においてオクトレオチド1%の薬剤量に相当する。前記カテーテルを通し、28日間血液試料を採取し(図2参照)、EDTAで安定化させた。処理中のオクトレオチドの酵素分解を防止するため、アプロチニン(血液1ml中500KIE)、プロテアーゼ阻害剤を前記試料に添加した。前記ラットの血漿中オクトレオチド濃度を、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いて求めた。
【0155】
図2より、調査対象の製剤は、実質的にバースト効果(10%未満のOCTが、24時間以内に放出される)を伴わない放出プロファイルを示すことがわかる。
【0156】
このように、図2は、1ml/kgの前記デポー製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(36/54/10))に含まれる10mg/kgのオクトレオチド(薬剤量1%)を皮下投薬した後のラット(n=3)の血漿中オクトレオチドを経時的に示している。
【0157】
血漿中オクトレオチド濃度は迅速にその最大値に達し、その後、前記血漿中レベルはゆっくりと低下し、数日以内にプラトーレベルに達した。「バースト」(最初の24時間における初期放出)は10%未満であった。データは、平均値±標準偏差として示したものである。
【実施例5】
【0158】
ラットにおけるデポー製剤の分解
各種容量(1、2、6ml/kg)のデポー前駆体(PC36重量%、GDO54重量%、およびEtOH10重量%)をラットに注射し、得られたデポーの大きさを、2つの直交する方向において、スライド式ノギスを用いて14日間測定した。前記デポーの大きさを、皮膚の厚みに対して補正した大きさとして推計した。ベースラインの大きさは、前記製剤および皮下組織が安定化した注射後3日目に測定した。前記デポーの平均直径が14日間で約20%縮小されたこと、ならびに、この後も相当量の製剤が依然としてラットの皮下に存在したことがわかった。表参照。
【0159】
【表5】

【実施例6】
【0160】
共溶媒添加によるPC/GDO混合物の粘度のさらに別の例
PC/GDOおよび共溶媒の混合物を、以下の表に示す割合で、実施例1および実施例2に記載の方法によって調製した。
【0161】
これら試料を数日間平衡化させた後、フィジカUDS 200レオメータを用いて25℃で粘度測定を行った。
【0162】
【表6】

【0163】
この実施例は、注射製剤を得るためには、粘度低下特性を有する溶媒が必要である事をさらに例証するものである。グリセロールを含有する混合物(試料19)または水を含有する混合物(試料20および21)は、EtOHを含有する試料(試料13、14、および17と比較)と同等の溶媒濃度で注射可能とするには粘度が高過ぎる。
【実施例7】
【0164】
オクトレオチド製剤組成物
ペプチド活性オクトレオチドを、GDO(数種類の純度レベルのうちの一純度レベルを有するもの)またはトコフェロール、PC、エタノール、および任意にジオレオイルPGを以下の割合(重量)で含む混合物と混合することにより、実施例1に記載のように製剤を調製した。
【0165】
【表7】

【0166】
【表8】

【0167】
【表9】

【0168】
【表10】

【0169】
製剤P(組成に関しては上記参照)を、30mg/kgのオクトレオチドに相当する体重1kg当たり製剤1mlの濃度となるように、皮下注射によってラットに投与した。
【0170】
投与後のオクトレオチドの血漿中レベルを5日間モニターし、バーストプロファイルを観察した。最初の5日間において、最高血漿中濃度は、平均血漿中濃度の3倍未満であることが確認された。
【0171】
当該調査の結果を図3に示している。
【実施例8】
【0172】
イヌにおけるオクトレオチドデポーの6週間の調査
この調査の目的は、オクトレオチドに関する基本的な薬物動態学的データを評価することであった。実施例7に記載の前製剤Pを使用した。
【0173】
当該調査を、3匹の雄ビーグル犬と3匹の雌ビーグル犬(生後5ヶ月前後)に対して実施した。前記イヌの首に、オクトレオチド含有製剤(投与容量0.5ml、製剤1ml中オクトレオチド30mg)を皮下投与した。
【0174】
42日間の間に、分析用に両頚静脈幹(bijugular trunk)から血液を採取し(計20個の試料)、EDTAで安定化させた。処理中のオクトレオチドの分解を防止するため、前記試料にアプロチニン(血液1ml中500KIE)を添加した。
【0175】
オクトレオチド(OCT)およびインスリン様成長因子1(IGF−1)の血漿中レベルを、各時点において、酵素結合免疫吸着検定(ELISA)法を用いて測定した。結果を図4および図5に示している。オクトレオチド濃度は、42日目の調査終了時まで1ng/mlを上回る濃度で維持され、6週間の試験期間全体にわたり、潜在的に治療用量を示していることが観察された。IGF−1の血漿中濃度は1日目に著しく低下し、調査期間全体にわたり、低下した状態が維持されていた。
【0176】
このように、図4は、0.5mlの前記Pデポー製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(47.5/47.5/5)に含まれる15mg(約1.7mg/kg)のオクトレオチド(薬剤量3%)を皮下投薬した後のビーグル犬(雄3匹+雌3匹)の血漿中オクトレオチドを経時的に示している。血漿中オクトレオチド濃度は迅速にその最大値に達し、その後、前記血漿中レベルはゆっくりと低下し、数日以内にプラトーレベルに達した。「バースト」(最初の24時間における初期放出)は10%未満であり、24時間以内にプラトーに達した。データは、平均値±標準偏差として示したものである。
【0177】
図5は、0.5mlの前記Pデポー製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(47.5/47.5/5))に含まれる15mg(約1.7mg/kg)のオクトレオチド(薬剤量3%)を皮下投薬した後のビーグル犬(雄3匹+雌3匹)の血漿中IGF−1濃度をベースラインに対する%で経時的に示している。IGF−1は5日以内に最小値に達し、残りの試験期間の間、ベースラインの値を下回った状態で維持され、オクトレオチドがこのホルモンの合成/放出を継続的に抑制したことを示している。データは、平均値±標準偏差として示したものである。
【0178】
PLGA製剤とは異なり、注射と注射の間の期間において、遅延期間は観察されず、オクトレオチドおよびIGF−1レベルに対する効果が観察された。初期放出は10%未満であり、24時間以内にオクトレオチドの血漿中レベルはプラトーに達した。
【実施例9】
【0179】
「バースト」プロファイルのばらつき
実施例7で生成した組成物Q、S、およびPを使用し、他の点では同一の3つのデポー前駆体の初期放出プロファイルを調べた。実施例4に記載のプロトコルにより、前記製剤をそれぞれラットモデルに注射した。当該実験を、28日間に渡って実施した。
【0180】
前記3つの製剤からの放出は、最初の5日間は大きく異なっていた。これを図6に示している。このように、この図は、1ml/kgのP製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(47.5/47.5/5))、Q製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(45/45/10))、およびS製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(46.5/46.5/7))にそれぞれ含まれる30mg/kgのオクトレオチド(薬剤量3%)を皮下投薬した後のラットの血漿中オクトレオチドを経時的に示している。全ての群において、N=6。
【0181】
前記組成、特にEtOH(成分c)を、オクトレオチドの初期放出プロファイルの調整に使用できることがわかった。前記P製剤(EtOH5%)に関しては、初期放出は10%未満であり、12時間以内にプラトーに達した。QおよびSに関しては、初期放出は10%を上回り、48時間後にプラトーに達した。図6におけるデータは、平均値±標準偏差として示したものである。
【0182】
前記3つの組成物は、5日目から調査終了時(28日目)まで実質的に同一の放出プロファイルを示した。
【実施例10】
【0183】
注射容量の変更
用量の血漿中濃度に対する関係を調べるため、実施例7で生成した組成物Pを、3種類の注射容量で投与した。
【0184】
ラットモデルにおける投与プロトコルは、実施例4の通りとした。結果を図7に示している。
【0185】
このように、図7は、0.3、1、および3ml/kgの前記P製剤前駆体(PC/GDO/EtOH(47.5/47.5/5))にそれぞれ含まれる9、30、および90mg/kgのオクトレオチド(薬剤量3%)を皮下投薬した後のラットの血漿中オクトレオチドを経時的に示している。全ての群において、N=8。
【0186】
いずれの用量の場合も、初期放出は10%未満であり、48時間以内にプラトーに達した。投与容量(用量)と血漿中オクトレオチド濃度(および血漿中濃度−時間曲線下面積)との間に、予期しなかった比例関係が観察された。図7におけるデータは、平均値±標準偏差として示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】溶媒添加によるデポー前駆体の粘度の低下。PC/GDO(6/4)は、逆ヘキサゴナルHII相の前駆体であり、PC/GDO(3/7)は逆キュービックI2相の前駆体である。
【図2】1ml/kgの製剤J(OCT1重量%)の皮下投薬後28日間におけるラット(n=3)の血漿中オクトレオチド濃度。データは、標準偏差を考慮した平均値として示したものである。
【図3】1ml/kgの製剤P(OCT3重量%)の皮下投薬後28日間におけるラット(n=6)の血漿中オクトレオチド濃度。
【図4】0.5mlの製剤P(OCT3重量%)を皮下投薬してから1時間後から42日後までのイヌ(n=6)の血漿中オクトレオチド濃度。
【図5】0.5mlの製剤P(OCT3重量%)を皮下投薬してから1時間後から42日後までのイヌ(n=6)の血漿中IGF−1濃度。
【図6】1ml/kgの製剤P(n=6)、製剤Q(n=6)、および製剤S(n=6)をそれぞれ皮下投薬した後の5日間におけるラットの血漿中オクトレオチド濃度。製剤は全て、OCTを3重量%含有していた。
【図7】0.3、1、および3ml/kgという異なる投与容量の製剤P(OCT3重量%)の皮下投薬後28日間におけるラットの血漿中オクトレオチド濃度。全ての処理においてn=6。
【図8】0.5mgの製剤P(OCT3重量%)の皮下投薬および筋肉内投薬後6日間におけるイヌ(n=6)の血漿中オクトレオチド濃度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、
d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む前製剤であって、
水性流体との接触により、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか、あるいは形成することができる前製剤。
【請求項2】
表1または2に示すような製剤である、請求項1に記載の前製剤。
【請求項3】
成分a)が、GDOを含む、請求項1または請求項2に記載の前製剤。
【請求項4】
成分b)が、
i) 大豆PCおよび/または
ii) 卵PC
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項5】
成分c)が、エタノールを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項6】
前記前製剤が、オクトレオチド、ランレオチド、およびバプレオチドから選択される少なくとも1種のソマトスタチン類似体を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の前製剤。
【請求項7】
治療を要するヒトまたはヒト以外の哺乳類である対象を、ソマトスタチン類似体を用いて治療する方法であって、前記対象に、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、
d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む前製剤を投与することを含む方法。
【請求項8】
前記治療方法は、末端肥大症、癌、癌腫、黒色腫、少なくとも1種のソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、sst(2)陽性腫瘍、sst(5)陽性腫瘍、前立腺癌、胃腸膵神経内分泌(GEP NE)腫瘍、カルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸管ペプチド(VIP)腫瘍およびグルカゴノーマ、成長ホルモン(GH)上昇、インスリン様成長因子I(IGF−I)上昇、静脈瘤出血(varicial bleeding)(特に、食道におけるもの)、化学療法によって誘発される胃腸の疾患(下痢等)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、および関連する疾患から選択される少なくとも1つの疾患を治療する方法である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
表1または2に示す製剤のうちの少なくとも1種を投与することを含む、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製剤のうちの少なくとも1種を投与することを含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
i)筋肉内注射、
ii)皮下注射、
iii)深部皮下注射、
iv)硝子体内
v)結膜下注射、又は
vi)その他非経口的投与経路
により投与することを含む、請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
薬剤充填済み投与デバイスにより投与することを含む、請求項7〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
19ゲージ以下の針を通して投与することを含む、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
20日〜90日ごとに1回投与することを含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
送達する時点で投薬量を選択する、請求項7〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記の選択する量は、前記対象の重量に対して相対的に選ぶ、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
注射容量により前記投薬量を選択する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
末端肥大症、癌、癌腫、黒色腫、少なくとも1種のソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、sst(2)陽性腫瘍、sst(5)陽性腫瘍、前立腺癌、胃腸膵神経内分泌(GEP NE)腫瘍、カルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸管ペプチド(VIP)腫瘍およびグルカゴノーマ、成長ホルモン(GH)上昇、インスリン様成長因子I(IGF−I)上昇、静脈瘤出血(varicial bleeding)(特に、食道におけるもの)、化学療法によって誘発される胃腸の疾患(下痢等)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、および/または関連する疾患を治療するためのデポーのインビボ形成に用いる低粘度前製剤医薬品の製造における、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体の使用。
【請求項19】
表1または2に示す製剤のうちの少なくとも1種の使用を含む、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製剤のうちの少なくとも1種の使用を含む、請求項18または請求項19に記載の使用。
【請求項21】
i)筋肉内注射、
ii)皮下注射、
iii)深部皮下注射、
iv)硝子体内
v)結膜下注射、
vi)又は、その他非経口的投与経路
により投与するための医薬品の製造を含む、請求項18〜20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
薬剤充填済み投与デバイスにより投与するための医薬品の製造を含む、請求項18〜21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
19ゲージ以下の針を通して投与するための医薬品の製造を含む、請求項18〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
20日〜90日ごとに1回投与するための医薬品の製造を含む、請求項18〜23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、
d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む測定用量の前製剤を予め装填した使い捨て投与デバイス。
【請求項26】
注射器と注射筒である、請求項25に記載のデバイス。
【請求項27】
表1または2に示す製剤のうちの最小の1種を含む、請求項25または請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
請求項1〜6に記載の製剤を含む、請求項25〜27のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項29】
19ゲージ以下の針を備えた、請求項25〜28のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項30】
1回分の用量である1〜500mgのソマトスタチン類似体を含む、請求項25〜29のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項31】
オクトレオチドを10〜180mg前後含む、請求項25〜30のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項32】
予定された投与と投与の間の期間の1日当たり0.2〜3mg前後に相当する量のオクトレオチドを含む、請求項25〜31のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項33】
総投与容量が5ml以下である、請求項25〜32のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項34】
少なくとも1種のソマトスタチン類似体を投与するためのキットであって、a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、
d)少なくとも1種のソマトスタチン類似体との低粘度混合物を含む、測定用量の製剤を含むキット。
【請求項35】
投与デバイスを含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
表1または2に示す製剤のうちの最小の1種を含む、請求項34または請求項35に記載のキット。
【請求項37】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製剤を含む、請求項34〜36のいずれか一項に記載のキット。
【請求項38】
請求項25〜33のいずれか一項に記載の薬剤充填済みデバイスを含む、請求項34〜37のいずれか一項に記載のキット。
【請求項39】
19ゲージ以下の針を備えた、請求項34〜38のいずれか一項に記載のキット。
【請求項40】
1回分の用量である1〜500mgのソマトスタチン類似体を含む、請求項34〜39のいずれか一項に記載のキット。
【請求項41】
オクトレオチドを10〜180mg前後含む、請求項34〜40のいずれか一項に記載のキット。
【請求項42】
予定された投与と投与の間の期間の1日当たり0.2〜3mg前後に相当する量のオクトレオチドを含む、請求項34〜41のいずれか一項に記載のキット。
【請求項43】
総投与容量が5ml以下である、請求項34〜42のいずれか一項に記載のキット。
【請求項44】
i)筋肉内注射、
ii)皮下注射、
iii)深部皮下注射、
iv)硝子体内
v)結膜下注射、
vi)又は、その他非経口的投与経路
による投与に関する説明書を含む、請求項34〜43のいずれか一項に記載のキット。
【請求項45】
請求項7〜17のいずれか一項に記載の治療方法において使用する投与に関する説明書を含む、請求項34〜44のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−526933(P2008−526933A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550826(P2007−550826)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004748
【国際公開番号】WO2006/075124
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(505345749)カムルス エービー (17)
【Fターム(参考)】