説明

ソリフェナシン又はその塩の製造法

【課題】医薬、殊に頻尿、尿失禁等の泌尿器疾患等の治療剤及び/又は予防剤として有用なソリフェナシン又はその塩の新規製造法を提供する。
【解決手段】具体的には、(1)2-(イミダゾリルカルボニル)-1-フェニルテトラヒドロイソキノリンを製造原料とするソリフェナシンの製造法;(2)(1RS)-フェニルテトラヒドロイソキノリンカルボン酸 キヌクリジニルエステルを製造原料とするコハク酸ソリフェナシンの製造法;(3)炭酸低級アルキル キヌクリジニルエステルを製造原料とするソリフェナシンの製造法;(4)フェニルテトラヒドロイソキノリンカルボン酸 2級低級アルキル若しくは3級低級アルキルエステルを製造原料とし、アルカリ金属低級アルコキシドを作用させるソリフェナシンの製造法;を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、殊にムスカリンM3受容体アンタゴニスト、より具体的には例えば、過活動膀胱に伴う頻尿、尿失禁等の泌尿器系疾患治療剤等の治療剤及び/又は予防剤として有用なソリフェナシン又はその塩の新規製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソリフェナシンの化学名は、(1S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルであり、以下の化学構造を有する。
【化1】

【0003】
ソリフェナシン又はその塩は、ムスカリンM3受容体アンタゴニストとして知られる化合物であり(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)、過活動膀胱に伴う頻尿及び尿失禁の治療剤として販売されている。また、間質性膀胱炎(特許文献2)、毛様体筋の緊張緩和(特許文献3)、過敏性腸症候群(非特許文献4)等への有効性も報告されている。
【0004】
ソリフェナシン又はその塩については、以下の製造法X及び製造法Yが具体的に知られている(特許文献1)。
(a)製造法X
【化2】

(b)製造法Y
【化3】

【0005】
また、構造の類似する化合物の製造法として、以下の製造法Zが知られているが、この製造法をソリフェナシンの製造に適用した例はない(特許文献4)。
(c)製造法Z
【化4】

[式中、Alkはメチル若しくはエチルを示す。]
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO 96/20194号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO 2003/6019号パンフレット
【特許文献3】日本特許出願公開特開2002-104968号公開公報
【特許文献4】日本特許出願公開特開2003-267977号公開公報
【非特許文献1】カレント・オピニオン・イン・セントラル・アンド・ペリフェラル・ナーバス・システム・インベスティゲーショナル・ドラッグズ(Current Opinion in Central & Peripheral Nervous System Investigational Drugs)、2000年、第2巻、第3号、p.321-325
【非特許文献2】ドラッグズ・オブ・ザ・フューチャー(Drugs of the Future)、1999年、第24巻、第8号、p.871-874
【非特許文献3】ノーニン・シュミーデベルグズ・アーカイブズ・オブ・ファーマコロジー(Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology)、2002年、第366巻、第2号、p.97-103
【非特許文献4】ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Japanese Journal of Pharmacology)、2001年、第86巻、第3号、p.281-288
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、後述するように、ソリフェナシン又はその塩の製造法X及び製造法Yには様々な問題点があったため、工業的生産上、より効率的なソリフェナシン又はその塩の製造法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ソリフェナシン又はその塩の別途製造法について鋭意検討した結果、以下に示す製造法により、ソリフェナシン又はその塩を効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明によれば、以下に示すソリフェナシン又はその塩の新規製造法が提供される。
【0009】
1.式(I)
【化5】

[式中、Lvは1H-イミダゾール-1-イル、2,5-ジオキソピロリジン-1-イルオキシ、3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム-1-イル若しくはクロロを示す。]
で示される化合物と、(R)-キヌクリジン-3-オールとを縮合させることを特徴とする、ソリフェナシン又はその塩の製造法。
Lvとしては、1H-イミダゾール-1-イルが好ましい。
【0010】
2.式(II)
【化6】

[式中、フェニルが置換したテトラヒドロイソキノリンの1位の立体化学は(R)-体及び(S)-体の混合物であることを示す。]
で示される化合物にコハク酸を作用させることを特徴とする、コハク酸ソリフェナシンの製造法。
【0011】
3.式(III)
【化7】

[式中、R1は置換されていてもよい低級アルキルを示す。]
で示される化合物と、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン又はその塩とを縮合させることを特徴とする、ソリフェナシン又はその塩の製造法。
R1としては、エチルが好ましい。
【0012】
4.式(IV)
【化8】

[式中、R2はそれぞれ置換されていてもよい2級低級アルキル若しくは3級低級アルキルを示す。]
で示される化合物と、(R)-キヌクリジン-3-オールとを、アルカリ金属低級アルコキシド存在下に反応させることを含む、ソリフェナシン又はその塩の製造法。
R2としては、イソプロピル、若しくはtert-ブチルが好ましい。
また、アルカリ金属低級アルコキシドの低級アルコキシドとしては、2級低級アルコキシド若しくは3級低級アルコキシドが好ましく、R2に対応する2級低級アルコキシド若しくは3級低級アルコキシドが特に好ましい。
【発明の効果】
【0013】
(1)製造法1
【化9】

[式中、Lvは1H-イミダゾール-1-イル、2,5-ジオキソピロリジン-1-イルオキシ、3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム-1-イル若しくはクロロを示す。]
本製造法は、前記製造法Yで製造原料として用いた(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸エチルエステルに代えて、(S)-2-(1H-イミダゾール-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、1-({[(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イル]カルボニル}オキシ)ピロリジン-2,5-ジオン、(S)-2-(3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、若しくは(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イルカルボニルクロリドを用いるソリフェナシンの製造法である。
【0014】
製造法Yにおいては、製造原料としてエチルカルボキシラートを用いるため、エタノール(EtOH)が副生し、副生したEtOHは、塩基存在下で目的物であるソリフェナシンに対して求核攻撃する。そのため、例えばトルエンとの共沸等により、反応系中からEtOHを除去しながら反応を行う必要があるため、その反応の制御、特にその溶媒の蒸留による留去量の制御が不可欠であり、その制御は非常に困難であった。しかし、本製造法によればイミダゾール、1-ヒドロキシピロリジン-2,5-ジオン、3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム、若しくは塩酸が副生するが、副生するこれらの化合物は塩基存在下で目的物であるソリフェナシンに対して求核攻撃せず、それらの反応の制御の必要がない。
また、ある同程度の規模で製造法Yと(S)-2-(1H-イミダゾール-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンを用いる製造法とを比較すると、製造法Yでは8時間程度の反応時間を要し、その上、製造原料である(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸エチルエステルが5-15%程度残留してしまうのに比べ、本製造法では反応時間が3時間程度に短縮でき、その上、製造原料である(S)-2-(1H-イミダゾール-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンは0.3%程度しか残留しないことを見出した。さらに、ソリフェナシンは2つの不斉中心を有するため、4種類の光学異性体が存在するが、製造法Yでは望まない光学異性体の生成量が7%程度であったのに比べ、本製造法では望まない光学異性体の生成量は1%以下であった。
【0015】
従って、本製造法は、(i)反応副生物を反応系中から除去する必要がないため反応制御が容易である点、(ii)反応時間が大幅に短縮できる点、(iii)反応終結における製造原料の残留が大幅に低減できる点、(iv)副反応による望まない光学異性体の生成を大幅に低減できる点で、製造法Yと比較して優れた製造法である。
【0016】
(2)製造法2
【化10】

本製造法は、ジアステレオ混合物である(1RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルを原料として、コハク酸による造塩に伴って光学分割を行い、光学活性なコハク酸ソリフェナシンを製造する方法である。
【0017】
従来、ソリフェナシン又はその塩の製造に当たっては、光学活性な1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンユニットと、光学活性なキヌクリジン-3-オールユニットを結合させソリフェナシンを製造し、必要に応じてその光学活性なソリフェナシンに造塩反応を行い、光学活性なソリフェナシン又はその塩を製造していた。
しかし、製造原料として用いる光学活性な1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンユニットを製造するためには、例えば酒石酸を用いた光学分割や、不斉触媒を用いた反応、キラルカラムによる分割等の操作が必須であった。また、これら光学活性体として製造する際に必要となる操作は、工業的生産過程において工程数を増加させるばかりか、操作を煩雑化させる一因となりうる。
一方、本製造法によれば、造塩反応を行う前の1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 キヌクリジン-3-イルエステルとして、テトラヒドロイソキノリン1位のジアステレオ混合物を用いることができるため、光学活性な1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンユニットを製造する際に必要な不斉中心を有する酸を用いた造塩、光学分割、及びそれに続く脱塩;高価な不斉触媒を用いる不斉合成;並びに/又はキラルカラムによる分離;等の工程を省略できる。即ち、本製造法によれば、工業的生産過程において工程数を短縮でき、より効率的にコハク酸ソリフェナシンを製造できる。
また、ジアステレオ混合物を、コハク酸のごとき不斉中心を有さない酸若しくは塩基で造塩する操作のみで、所望の一方の光学異性体のみが分離できることは極めて意外である。
【0018】
従って、本製造法は、(i)ソリフェナシンの製造原料となる1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンユニットを光学活性体として製造する必要がないため、光学活性体として製造する際に必要となる操作が不要となる点で、効率的かつ優れた製造法であり、(ii)ジアステレオ混合物である(1RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルを、不斉中心を有さないコハク酸により造塩することにより、所望の一方の光学異性体であるコハク酸ソリフェナシンを分離できる点で、極めて意外な製造法である。
【0019】
(3)製造法3
【化11】

[式中、R1は置換されていてもよい低級アルキルを示す。]
本製造法は、前記製造法Xで製造原料として用いた(R)-キヌクリジン-3-イル クロロホルマートに代えて、(R)-炭酸低級アルキル キヌクリジン-3-イルエステルを用いるソリフェナシンの製造法である。
【0020】
製造法Xにおいては、製造原料としてクロロホルマートを用いており、このクロロホルマートは(R)-キヌクリジン-3-オールとホスゲン若しくはホスゲン誘導体とから製造される。ホスゲン誘導体としては、ジホスゲン、トリホスゲンを挙げることができる。しかし、ホスゲンは吸入した場合、呼吸器障害を起こすことが知られており、工業的生産で使用することは難しい。例えジホスゲンやトリホスゲンのようなホスゲン誘導体を使用した場合でも、分解すると容易にホスゲンを生成することから、工業的生産に向いているとはいえない。さらに、この種の反応はアルゴンや窒素等の不活性なガス雰囲気下、非水条件で反応を制御する必要があるため操作が煩雑となる。また、キヌクリジニル クロロホルマートは分解しやすいことから、用時調製が必要となる。
一方、本製造法によれば、活性種として炭酸低級アルキル キヌクリジンエステルを用いており、これはキヌクリジノールと低級アルキルクロロカルボナートから工業生産上、安全に、また容易にかつ高収率で製造することができ、炭酸低級アルキル キヌクリジンエステルは低温乃至常温で安定であるため、用時調製の必要がない。
【0021】
従って、本製造法は、(i)極めて毒性の高いホスゲン若しくはホスゲン誘導体を使用しないため、工業生産上、安全性において優れている点、(ii)活性種である炭酸低級アルキル キヌクリジンエステルの製造において、不活性ガス雰囲気及び非水条件を必要とせず、製造工程が煩雑とならない点、(iii)活性種である炭酸低級アルキル キヌクリジンエステルが低温乃至常温で安定であるため、保管が可能であり、用時調製の必要がない点で、製造法Xと比較して優れた製造法である。
【0022】
(4)製造法4
【化12】

[式中、R2はそれぞれ置換されていてもよい2級(secondary)低級アルキル若しくは3級(tertiary)低級アルキルを示す。]
本製造法は、前記製造法Yで塩基として用いた水素化ナトリウムに代えて、アルカリ金属低級アルコキシドを用い、かつ、前記製造法Yで製造原料として用いた(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸エチルエステルに代えて、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸のそれぞれ置換されていてもよい2級(secondary)低級アルキル若しくは3級(tertiary)低級アルキルエステルを用いるソリフェナシンの製造法である。
【0023】
製造法Yにおいては、発火の危険性があり、含有されるミネラルオイルの混入等の問題を有する水素化ナトリウムを用いている。しかし、本製造法では、それらの問題のないアルカリ金属低級アルコキシドを用いることを特徴としている。
また、下記参考例2、参考例3及び参考例4に示すように、製造原料として(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸のエチルエステル、メチルエステル又はベンジルエステルのごとき置換されていてもよい1級低級アルキルのエステルを用いてソリフェナシンを製造した場合、ソリフェナシン2'位、即ちキヌクリジン2位に置換されていてもよい1級低級アルキルが付加した化合物が不純物として副生することが確認された。一方、本製造法では、製造原料として(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸のそれぞれ置換されていてもよい2級低級アルキル若しくは3級低級アルキル、即ちR2のエステルを用いることにより、参考例2、参考例3及び参考例4で見られたような、ソリフェナシン2'位、即ちキヌクリジン2位に低級アルキルが付加した化合物の副生は見られなかった。特に、アルカリ金属低級アルコキシドの低級アルコキシドとして、2級低級アルコキシド若しくは3級低級アルコキシド、さらには、R2に対応する低級アルコキシドを用いた場合に、上記キヌクリジン2位に低級アルキルが付加した化合物の副生は見られなかった。
【0024】
従って、本製造法は、(i)工業的生産における危険性の低減したアルカリ金属低級アルコキシドを用いることができる点で製造法Yと比較して優れた方法であり、(ii)製造原料として(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸のエチルエステル、メチルエステル又はベンジルエステルのごとき置換されていてもよい1級低級アルキルのエステルを用いる製造法と比較して、製造原料として(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸のそれぞれ置換されていてもよい2級低級アルキル若しくは3級低級アルキルのエステルを用いた本製造法により製造されるソリフェナシン含有組成物にキヌクリジン2位に低級アルキルが付加した化合物が副生しない点で、極めて意外な製造法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明をさらに説明すると以下の通りである。
本明細書中、「低級アルキル」とは、C1-6の鎖状若しくは分枝状のアルキルを意味し、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソプロピル、tert-ブチル等を挙げることができる。
従って、「1級低級アルキル」とは、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、2-メチルプロパン-1-イル等を挙げることができ、「2級低級アルキル若しくは3級低級アルキル」とは、具体的には、イソプロピル、ブタン-2-イル、ペンタン-3-イル、tert-ブチル、2-メチルブタン-2-イル、3-メチルペンタン-3-イル等を挙げることができる。
また、「低級アルコキシド」とは、上記低級アルキルに対応する-O-低級アルキルである。従って、「1級低級アルコキシド」とは、具体的には、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、n-ブトキシ、2-メチルプロパン-1-イルオキシ等を挙げることができ、「2級低級アルコキシド若しくは3級低級アルコキシド」とは、具体的には、2-プロポキシ、ブタン-2-イルオキシ、ペンタン-3-イルオキシ、tert-ブトキシ、2-メチルブタン-2-イルオキシ、3-メチルペンタン-3-イルオキシ等を挙げることができる。
R1及びR2において許容される置換基としては、通常低級アルキルに置換が許容されるものであればいずれの基でもよいが、具体的には、フェニル等を挙げることができる。なお、「1級低級アルキル」においては、その結合手を有する炭素原子に、水素原子が少なくとも2つ置換しているものとする。
【0026】
「アルカリ金属低級アルコキシド」とは、上記低級アルキルに対応するアルコールとアルカリ金属との塩を示し、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等を挙げることができ、好ましくはナトリウム若しくはカリウムである。「アルカリ金属低級アルコキシド」としては、具体的には、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、ナトリウムベンジルオキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等を挙げることができる。なお、製造に用いるアルカリ金属低級アルコキシドは、その製造原料の分子中に存在する-O-低級アルキル基に対応したアルカリ金属低級アルコキシドを用いることが好ましい。
「塩基」とは、キヌクリジノールの水酸基若しくはテトラヒドロイソキノリンのアミノ基が、求核攻撃を行うに足る塩基であればいずれでもよく、具体的には例えば、アルカリ金属低級アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のヒドロキシド;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウム等のヒドリド;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の3級アミン;リチウムジイソプロピルアミド、カリウムヘキサメチルジシラジド、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、ブチルリチウム等のアルカリ金属試薬;等を挙げることができ、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン等の触媒を添加して製造することもできる。
「ソリフェナシン又はその塩」における「その塩」とは、ソリフェナシンと製薬学的に許容される酸との塩であればいずれでもよく、具体的には、ソリフェナシンと、塩酸、硫酸等の無機酸;コハク酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸等の有機酸;との酸付加塩を挙げることができる。「ソリフェナシン又はその塩」として好ましくは、ソリフェナシン、又はコハク酸ソリフェナシンである。
また、本明細書において示される含有率は、いずれもソリフェナシン又はその塩を100%とした場合の、HPLC分析によるその面積の割合を示しており、HPLC分析の条件は後述の実施例に示す条件、若しくはそれに準じた条件で測定された含有率である。なお、それぞれの物質は付加塩が除去された塩基性物質として検出される。
また、本発明は、ソリフェナシン、その製造原料、及び/又は上記(I)で示されるソリフェナシン誘導体を構成する原子の一部又は全部を放射性同位元素で置き換えた化合物、いわゆるラベル体を用いた製造法、組成物をも包含する。
【0027】
製造法1は、(S)-2-(1H-イミダゾール-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、1-({[(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イル]カルボニル}オキシ)ピロリジン-2,5-ジオン、(S)-2-(3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、若しくは(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イルカルボニルクロリドと(R)-キヌクリジン-3-オールとを、塩基存在下に反応させるソリフェナシンの製造法である。
反応は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;等の反応に不活性な溶媒中又はそれらの混合物中、当該製造原料を等モル乃至一方を過剰量用い、冷却下乃至室温下、室温下乃至加熱下、若しくは加熱下乃至還流下に行うことができ、加熱下乃至還流下に行うことが好ましい。塩基は等量乃至過剰量用いることができ、ヒドリド、好ましくは水素化ナトリウムを用いて反応を行うことが好ましい。
なお、上記式中、1H-イミダゾール-1-イル、2,5-ジオキソピロリジン-1-イルオキシ、3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム-1-イル、若しくはクロロを示すLvとして、好ましくは1H-イミダゾール-1-イル、2,5-ジオキソピロリジン-1-イルオキシ、若しくは3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム-1-イルであり、1H-イミダゾール-1-イルがもっとも好ましい。
【0028】
また、(S)-2-(1H-イミダゾール-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、1-({[(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イル]カルボニル}オキシ)ピロリジン-2,5-ジオン、(S)-2-(3-メチル-1H-イミダゾール-3-イウム-1-イルカルボニル)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イルカルボニルクロリドは、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンと、それぞれ1,1'-カルボニルジイミダゾール、N,N'-ジスクシニミジル カルボナート、ホスゲン若しくはホスゲン誘導体及び1-メチルイミダゾール、ホスゲン若しくはホスゲン誘導体とを常法に従って縮合させて製造することができる。
【0029】
製造法2は、(1RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルに対して、コハク酸を作用させるコハク酸ソリフェナシンの製造法である。
反応に使用される溶媒は、ソリフェナシンのごとき塩基性物質を、その酸付加塩へ導く反応において常用される溶媒であればいずれでもよく、有機溶媒、水、若しくはこれらの混合物を挙げることができる。より具体的には、メタノール、EtOH、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル(EtOAc)、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;エーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;非プロトン性極性溶媒;アセトニトリル;ハロゲン化炭化水素類;芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素類;水等、又はこれらから選択される任意の種類の溶媒の混合溶媒を挙げることができる。好ましくは、アルコール類及びエステル類の混合溶媒であり、その中でも、EtOHとEtOAcの混合溶媒が特に好ましい。
コハク酸は等量乃至過剰量用いることができる。また、コハク酸を添加し、溶解させる際には、過熱して溶解させることもできる。得られた溶液を冷却し、析出物を常法により濾取し、適切な溶媒を用いて洗浄後、乾燥することにより、望む一方の立体異性体である、コハク酸ソリフェナシンが得られる。この際、その工程の規模にもよるが、冷却速度は急激でない方が望ましい。
また、洗浄に用いる溶媒は、コハク酸ソリフェナシンに対する溶解度が大きくない溶媒であればいずれも使用できるが、好ましくはエーテル類、エステル類、アルコール類、又はこれらの溶媒からなる群より選択される2つ以上の溶媒の混合溶媒が好ましい。乾燥は、加熱下、減圧下、若しくは加熱減圧下に行うこともできる。
【0030】
また、(1RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルは、例えば特許文献1記載の方法を援用することにより製造することができるが、具体的には以下のような製造法を挙げることができる。
【化13】

ひとつには、工程1による製造法を挙げることができる。Aで示されるラセミ体のテトラヒドロイソキノリン若しくはその塩に対し、市販の(R)-キヌクリジン-3-オールから1段階で誘導される、Cで示される(R)-キヌクリジン-3-イル クロロホルマート若しくはその塩を、塩基存在下若しくは塩基性溶媒中反応させることによりラセミ化合物(I)を製造することができる。詳細には、例えば、上述の特許文献1実施例7記載の方法を援用することができる。
別の態様としては、工程2−1乃至2−2による製造法を挙げることができる。Aで示されるラセミ体のテトラヒドロイソキノリン若しくはその塩に対し、Dで示されるクロロギ酸エチルを、塩基存在下若しくは塩基性溶媒中反応させることにより得られる、Bで示されるカーバマートに対し、市販の(R)-キヌクリジン-3-オールを塩基存在下若しくは塩基性溶媒中反応させることによりラセミ化合物(I)を製造することができる。詳細には、例えば、上述の特許文献1参考例1又は実施例8の方法を援用することができる。
また、本発明のソリフェナシンの製造法1、製造法3、若しくは製造法4を援用して、(1RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルを製造することもできる。
【0031】
製造法3は、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンと(R)-炭酸低級アルキル キヌクリジン-3-イルエステルとを、塩基存在下に反応させるソリフェナシンの製造法である。
反応は、芳香族炭化水素類;エーテル類;ハロゲン化炭化水素類;非プロトン性極性溶媒;等の反応に不活性な溶媒中又はそれらの混合物中、当該製造原料を等モル乃至一方を過剰量、好ましくは等モル用いて行うことができる。また、反応温度は、冷却下乃至室温下、室温下乃至加熱下、若しくは加熱下乃至還流下に行うことができ、還流下、溶媒を留去しながら行うことが好ましい。塩基は触媒量乃至過剰量用いることができ、好ましくは0.1-2.0等量、より好ましくは0.1-1.0等量、さらに好ましくは0.2-0.6等量である。アルカリ金属低級アルコキシド、好ましくはR1に対応するアルカリ金属低級アルコキシドを用いて反応を行うことが好ましい。
【0032】
製造法4は、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 2級低級アルキル若しくは3級低級アルキルエステルと(R)-キヌクリジン-3-オールとを、アルカリ金属低級アルコキシド存在下に反応させるソリフェナシンの製造法である。
反応は、芳香族炭化水素類;エーテル類;ハロゲン化炭化水素類;非プロトン性極性溶媒等の反応に不活性な溶媒中又はそれらの混合物中、当該製造原料を等モル乃至一方を過剰量用い、冷却下乃至室温下、室温下乃至加熱下、若しくは加熱下乃至還流下に行うことができ、還流下、溶媒を留去しながら行うことが好ましい。アルカリ金属低級アルコキシドは触媒量乃至過剰量用いることができ、好ましくは0.1-1.2等量、より好ましくは0.15-0.4等量のアルカリ金属低級アルコキシドを用いることが望ましく、R2に対応するアルカリ金属低級アルコキシドを用いて反応を行うことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】参考例1で得られたソリフェナシンの化合物A、化合物B及び化合物Cに係る組成をHPLCにて測定したチャートである。保持時間約33.3分のピークがソリフェナシンを、保持時間約15.6分、約19.8分、約16.9分のピークが、それぞれ化合物A、化合物B、化合物Cを示す。
【図2】参考例2で得られたソリフェナシン含有EtOAc溶液の化合物A、化合物B及び化合物Cに係る組成をHPLCにて測定したチャートである。保持時間約32.5分のピークがソリフェナシンを、保持時間約17.9分、約21.5分、約19.1分のピークが、それぞれ化合物A、化合物B、化合物Cを示す。
【図3】実施例1Aで得られたコハク酸による造塩前のソリフェナシンの化合物A、化合物B及び化合物Cに係る組成をHPLCにて測定したチャートである。保持時間約32.4分のピークがソリフェナシンを、保持時間約17.4分、約21.0分のピークが、それぞれ化合物A、化合物Bを示す。
【図4】実施例2で得られたコハク酸ソリフェナシンの化合物A及び化合物Bに係る組成をHPLCにて測定したチャートである。保持時間約32.0分のピークがソリフェナシンを、保持時間約17.5分、約21.1分のピークが、それぞれ化合物A、化合物Bを示す。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0035】
参考例1
(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン4.00 kg及びトルエン40 Lの混合物に、水8 L及び炭酸カリウム3.17 kgの混合物を加え、クロロギ酸エチル2.49 kgを滴下して加え、2時間攪拌した。この反応溶液に水20 Lを加え、水層を分離し、有機層を水20 Lで洗浄した。溶媒を減圧下留去後、さらにトルエン43.7 L、DMF 4.9 Lを加え、(R)-キヌクリジン-3-オール2.64 kg及び水素化ナトリウム0.188 kgを室温にて加え、溶媒を留去しながら8時間加熱した。この反応溶液にトルエン49 L、水25 Lを加え、室温に冷却後、水層を分離し、有機層を水25 Lで洗浄した。さらにこの有機層を、4% 塩酸49 Lで抽出し、得られた水層に炭酸カリウム5.8 kgを加え、EtOAc 49 Lで抽出し、有機層を減圧濃縮し、(1S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステル(以下、「ソリフェナシン」という。)5.32 kgを得た。
【0036】
参考例1で得られたソリフェナシンの光学異性体含有量を、ソリフェナシンを100%とした場合の含有率として表1に示す。また、参考例1で得られたソリフェナシンの光学異性体である化合物A、化合物B及び化合物Cに係る組成の定量の測定データを図1に示す。
なお、化合物A、化合物B及び化合物Cは以下の構造を有する。
【化14】

【0037】
なお、化合物A、化合物B及び化合物Cの定量は、以下の方法で行った。
得られた組成物0.25 gを、ヘキサン/2-プロパノールの混液(1:1)に溶解させ、全量を100 mLとして試料溶液とした。この試料溶液1 mLに、さらにヘキサン/2-プロパノールの混液(1:1)を加え、全量を100 mLとして標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10 μLを、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、それぞれの溶液の各々のピーク面積を自動積分法により測定し、次の式により不純物量を算出した。
各々の不純物の含有率(%) = ATi / AS
[式中、ATiは試料溶液の各々の不純物のピーク面積、ASは標準溶液のソリフェナシンのピーク面積を示す。]
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220 nm)
カラム:CHIRALPAK AD-H(250 mm × 4.6 mm ID, Daicel Chemical社製)
カラム温度:20 ℃
移動相:ヘキサン/2-プロパノール/ジエチルアミン混液(800:200:1)
流量:ソリフェナシンの保持時間が約35分になるように調整(約1 mL/分)
【0038】
参考例2
(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン120 kg及びトルエン600 Lの混合物に、水360 L及び炭酸カリウム83.2 kgの混合物を加え、10 ℃に冷却後、クロロギ酸エチル65.3 kgを滴下して加え、25 ℃で2時間攪拌した。水層を分離し、有機層を水360 Lで洗浄した。溶媒を減圧下290 L留去後、さらにトルエン1320 L、DMF 81 Lを加え、(R)-キヌクリジン-3-オール87.5 kg及びナトリウムエトキシド7.8 kgを室温にて加え、溶媒を留去しながら8時間加熱した。この反応溶液にトルエン480 L、水400 Lを加え、室温に冷却後、水層を分離し、有機層を水400 Lで洗浄した。さらにこの有機層を、濃塩酸77.4 kg、水440 Lで抽出し、得られた水層に、炭酸カリウム126.8 kg及び水320 Lの混合物を加え、EtOAc 810 Lで抽出した。この有機層を水160 Lで洗浄後、EtOH 160 L、EtOAc 240 Lを加えた。この溶液の溶媒を、常圧蒸留により820 L留去し、ソリフェナシンを含有するEtOAc溶液527.8 kgを得た。
【0039】
参考例2で得られたソリフェナシン含有EtOAc溶液の、ソリフェナシンの光学異性体含有量を、ソリフェナシンを100%とした場合の含有率として表1に示す。また、参考例2で得られたソリフェナシン含有EtOAc溶液の、ソリフェナシンの光学異性体である化合物A、化合物B及び化合物Cに係る組成の定量の測定データを図2に示す。
【0040】
参考例2で得られたソリフェナシンの化合物Dの含有量を、ソリフェナシンを100%とした場合の含有率として表2に示す。
なお、化合物Dは以下の構造を有する。
【化15】

【0041】
なお、化合物Dの定量は、以下の方法で行った。
上記参考例2で得られた組成物0.05 gを、リン酸水素二カリウム8.7 gを水に溶かして1000 mLとした液にリン酸を加えてpHを6.0に調整した液700 mLにアセトニトリル300 mLを加えた液(以下、液Pと言う。)に溶解させ、全量を100 mLとして試料溶液とした。この試料溶液1 mLに、さらに液Pを加え、全量を100 mLとして標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10 μLを、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、それぞれの溶液の各々のピーク面積を自動積分法により測定し、次の式により不純物量を算出した。
各々の不純物の含有率(%) = ADTi / ADS
[式中、ADTiは試料溶液の各々の不純物のピーク面積、ADSは標準溶液のソリフェナシンのピーク面積を示す。]
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210 nm)
カラム:Develosil ODS-UG-5(150 mm × 4.6 mm ID, Nomura Chemical社製)又は同等のもの
カラム温度:40 ℃
移動相:リン酸水素二カリウム8.7 gを水に溶かして1000 mLとした液にリン酸を加えてpHを6.0に調整した液650 mLにアセトニトリル200 mL、2-プロパノール100 mL、メタノール50 mLを加えた液
流量:約1 mL/分
【0042】
参考例3
トルエン90 mL、DMF 4.5 mLの混合物中、ナトリウムメトキシド0.36 g存在下、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 メチルエステル9.00 gと(R)-キヌクリジン-3-オール5.14 gとを、溶媒を留去させながら8時間反応させ、1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 2-メチルキヌクリジン-3-イルエステル(以下、「化合物E」)を含有するソリフェナシン溶液を得た。
【0043】
参考例3で得られたソリフェナシンの化合物Eの含有量を、ソリフェナシンを100%とした場合の含有率として表2に示す。
なお、化合物Eの定量は、以下の方法で行った。
上記参考例3で得られた組成物0.01 gを、液Pに溶解させ、全量を10 mLとして試料溶液とした。この試料溶液10 μLを、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、ピーク面積を自動積分法により測定した。
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210 nm)
カラム:Develosil ODS-UG-5(150 mm × 4.6 mm ID, Nomura Chemical社製)
カラム温度:40 ℃
移動相:液P
流量:約1 mL/分
【0044】
参考例4
トルエン125 mL、炭酸カリウム19.8 g、水75 mLの混合物中、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン25.0 g及びベンジルクロリドカルボナート24.5 gを加え、20 ℃で4時間攪拌し、有機層を水75 mLで洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後、乾燥し、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 ベンジルエステル38.0 gを得た(1H-NMR(DMSO-d6、テトラメチルシラン内部標準):δ2.73-2.83(1H,m),2.84-2.94(1H,m),3.31-3.41(1H,m),3.86-3.96(1H,m),5.12(1H,d,J=12.8Hz),5.18(1H,d,J=12.8Hz),6.28(1H,s)7.10-7.38(14H,m).質量スペクトル:m/z=344[M+H]+(FAB))
ベンジルアルコール0.19 gと金属ナトリウム0.04 gより調整されたナトリウムベンジルアルコキシド、トルエン15 mL、DMF 0.75 mLの混合物中、(R)-キヌクリジン-3-オール1.33 gと(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 ベンジルエステル3.00 gを、溶媒を留去しながら8時間反応させ、1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 2-ベンジルキヌクリジン-3-イルエステル(以下、「化合物F」)を含有するソリフェナシン1.38 gを得た。
【0045】
参考例4で得られたソリフェナシンの化合物Fの含有量を、ソリフェナシンを100%とした場合の含有率として表2に示す。
なお、化合物Fの定量は、以下の方法で行った。
上記参考例4で得られた組成物0.03 gに液Pを加え、全量を10 mLとして試料溶液とした。この試料溶液1 mLに、さらに液Pを加え、全量を200 mLとして標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液20 μLを、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、それぞれの溶液の各々のピーク面積を自動積分法により測定し、次の式により不純物量を算出した。
各々の不純物の含有率(%) = ATi / AS / 2
[式中、ATiは試料溶液の各々の不純物のピーク面積、ASは標準溶液のソリフェナシンのピーク面積を示す。]
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210 nm)
カラム:ODS-A, A-302(150 mm × 4.6 mm ID, YMC社製)
カラム温度:40 ℃
移動相:液P
流量:約1 mL/分
【0046】
実施例1A
(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン5.00 g、トルエン25 mLに1,1'-カルボニルジイミダゾール4.26 gを加え、室温で30分攪拌した。水25 mLを加えて水層を分離し、有機層を水25 mLで洗浄、溶媒を減圧下留去した。残渣にトルエン10 mLを加えた。この溶液を、(R)-キヌクリジン-3-オール3.65 g、トルエン25 mL、DMF 5 mLの混合物に水素化ナトリウム1.00 gを室温にて加え、100 ℃に加熱した溶液に滴下し、さらにトルエン5 mLを加えた。110 ℃で3時間加熱し、冷却して水25 mLを加えて水層を分離した。再度水25 mLで洗浄し、有機層を濃塩酸3.25 g及び水18 mLの混合物で抽出した。得られた水層にEtOAc 34 mL、炭酸カリウム5.28 g及び水14 mLの混合物を加え、得られた有機層を水7 mLで洗浄したあと、溶媒を減圧下留去し、ソリフェナシンを得た。
得られたソリフェナシンに、EtOH 12 mL、EtOAc 28 mLを、さらにコハク酸2.74 gを加えて加熱し、30 ℃に冷却後、再度50 ℃まで加熱した。50 ℃で2時間保持したあと、5時間かけて0 ℃に冷却し、析出した結晶を濾取、EtOAc 8 mLで2回洗浄して減圧下乾燥し、コハク酸ソリフェナシン9.013 gを無色結晶として得た。
【0047】
実施例1Aで得られたコハク酸による造塩前のソリフェナシンの光学異性体含有量を、ソリフェナシンを100%とした場合の含有率として表1に示す。また、実施例1Aで得られたコハク酸による造塩前のソリフェナシンの化合物A、化合物B及び化合物Cに係る組成の定量の測定データを図3に示す。
【0048】
実施例1B
(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン2.00 g、トリエチルアミン0.48 gをトルエン20 mLに溶解し、トリホスゲン1.42 gを徐々に加え、室温で2時間攪拌した。この反応溶液に、さらにトリエチルアミン0.60 gを加え、終夜攪拌した。この反応溶液に、メタノール10 mL及び水20 mLを加えて水層を分離した。有機層を水20 mLで洗浄し、得られた有機層を減圧濃縮し、油状物を得た。
(R)-キヌクリジン-3-オール1.46 gをトルエン15 mLに溶解し、還流下、水素化ナトリウム0.46 gを加え、さらに上記で得られた油状物をトルエン10 mLに溶解した溶液を徐々に滴下し、終夜還流することにより、ソリフェナシンが生成することを確認した。
【0049】
実施例2
(RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン5.00 g、トルエン25 mLに炭酸カリウム3.47 g及び水15 mLの混合物を加え15 ℃に冷却し、クロロギ酸エチル2.72 gを滴下し、25 ℃で1時間攪拌した。水層を分離し、有機層を水15 mLで洗浄し、溶媒を減圧下留去した。
得られた残渣にトルエン67 mL、DMF 3 mL、(R)-キヌクリジン-3-オール3.65 g、ナトリウムエトキシド0.33 gを室温にて加え、溶媒を留去しながら8時間加熱した。反応液を冷却し、トルエン20 mL、水17 mLを加えて洗浄し、再度水17 mLで洗浄後、有機層を濃塩酸3.25 g及び水18 mLの混合物で抽出した。得られた水層にEtOAc 34 mL、炭酸カリウム5.28 g及び水14 mLの混合物を加え、得られた有機層を水7 mLで洗浄したあと、溶媒を減圧下留去し、(1RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルを得た。
得られた(1RS)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 (3R)-キヌクリジン-3-イルエステルにEtOH 6 mL、EtOAc 14 mL、コハク酸1.30 gを加えて加熱溶解し、50 ℃まで冷却して、実施例1Aと同様にして製造したコハク酸ソリフェナシンの種晶0.003 gを加えた。この混合物を30 ℃に冷却後、再度50 ℃まで加熱した。50 ℃で2時間保持したあと、5時間かけて0 ℃に冷却し、析出した結晶を濾取、EtOAc 10 mLで洗浄して減圧下乾燥し、コハク酸ソリフェナシン2.855 gを無色結晶として得た。
さらに、析出した結晶を濾取した後の濾液を減圧濃縮し、残渣にトルエン10 mLを加えて、再度減圧濃縮した。この残渣にトルエン20 mLを加え、炭酸カリウム5.00 g及び水10 mLの混合物を加え、得られた有機層を水10 mLで洗浄し、減圧濃縮した。残渣にトルエン30 mL、カリウムtert-ブトキシド1.91 gを加え、100 ℃で5時間攪拌し冷却した後、水15 mLで2回洗浄し、得られた有機層を減圧濃縮した。EtOH 5 mL、EtOAc 11 mL、コハク酸1.11 gを加えて加熱溶解し、40 ℃まで冷却して、実施例1Aと同様にして製造したコハク酸ソリフェナシンの種晶0.002 gを加えた。0 ℃に冷却後、析出した結晶を濾取、EtOAc 10 mLで洗浄して減圧下乾燥し、コハク酸ソリフェナシン1.263 gを無色結晶として得た。
【0050】
実施例2で得られたコハク酸ソリフェナシンの光学異性体含有量を、ソリフェナシンを100%とした場合の含有率として表1に示す。また、実施例2で得られたコハク酸ソリフェナシンの化合物A、化合物B及び化合物Cに係る組成の定量の測定データを図4に示す。
【0051】
【表1】

なお、表中「ND」とは検出限界以下を意味し、おおよそ0.005%以下であることを示す。
【0052】
実施例3
クロロホルム100 mL中、トリエチルアミン16 g、4-ジメチルアミノピリジン0.1 g存在下、10 ℃で(R)-キヌクリジン-3-オール10.0 gにクロロギ酸エチル12.8 gを加えた。20 ℃に加温し、2時間攪拌後、水50 mLを加え、得られた有機層を水50 mLで洗浄後、有機層を減圧濃縮および真空で乾燥することにより油状物15.49 gを得た。この油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、炭酸エチル (R)-キヌクリジン-3-イルエステル7.24 gを得た(1H-NMR(DMSO-d6、テトラメチルシラン内部標準):δ1.21(3H,t,J=7.2Hz),1.26-1.37(1H,m),1.42-1.53(1H,m),1.55-1.70(2H,m),1.91-1.98(1H,m),2.48-2.76(5H,m),3.06-3.17(1H,m),4.11(2H,q,J=7.2Hz),4.56-4.64(1H,m).質量スペクトル:m/z=200[M+H]+(FAB))。
トルエン10 mL、DMF 0.5 mLの混合物中、ナトリウムエトキシド0.21 g存在下、炭酸エチル (R)-キヌクリジン-3-イルエステル1.00 g、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン1.05 gを、溶媒を留去させながら7時間攪拌し、トルエン20 mL、水20 mLを加え、得られた有機層を水20 mLで洗浄後、1M 塩酸水溶液15 mLを加えた。得られた水層にEtOAc 30 mL、1M水酸化ナトリウム水溶液を加えた。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮、乾燥して得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ソリフェナシン0.22 gを得た。
1H-NMR(DMSO-d6、テトラメチルシラン内部標準、80 ℃):δ1.25-1.38(1H,m),1.41-1.53(1H,m),1.53-1.65(1H,m),1.66-1.77(1H,m),1.87-1.96(1H,m),2.40-2.96(7H,m),3.00-3.15(1H,m),3.33-3.45(1H,m),3.82-3.92(1H,m),4.62-4.69(1H,m),6,26(1H,s),7.12-7.33(9H,m).
質量スペクトル:m/z 363[M+H]+(FAB)
【0053】
実施例4A
トルエン75 mL、炭酸カリウム10.43 g、水45 mLの混合物中、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン15.00 g及びクロロギ酸イソプロピル9.22 gを加え、20 ℃で2時間攪拌し、有機層を水50 mLで洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮後、乾燥し、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 プロパン-2-イルエステル21.71 gを得た(1H-NMR(DMSO-d6、テトラメチルシラン内部標準、80 ℃):δ1.18(3H, d, J=6.4Hz), 1.22(3H, d, J=6.4Hz), 2.73-2.93(2H, m), 3.25-3.34(1H, m), 3.83-3.92(1H, m), 4.80-4.91(1H, m), 6.22(1H, s), 7.06-7.33(9H, m).質量スペクトル:m/z=296[M+H]+ (FAB))
2-プロパノール0.20 gと金属ナトリウム0.08 gより調整されたナトリウムイソプロポキシド、トルエン20 mL、DMF 2.5 mLの混合物中、(R)-キヌクリジン-3-オール2.58 gと(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 プロパン-2-イルエステル5.00 gを、溶媒を留去しながら8時間反応させ、ソリフェナシンを含有する組成物3.97 gを得た。
【0054】
実施例4Aで得られたソリフェナシンを含有する組成物には、参考例2、参考例3及び参考例4でみられたような、イソプロピルのごとき低級アルキルがソリフェナシン中キヌクリジン2位に付加した化合物は含有されていなかった。
なお、本組成物の組成の定量は、以下の方法で行った。
上記実施例4Aで得られたソリフェナシンを含有する組成物0.01 gを、過塩素酸ナトリウム6.1 gを水に溶かして1000 mLとした液に過塩素酸を加えてpHを2.0に調製した液(以下、液Qと言う。)に溶解させ、全量を10 mLとして試料溶液とした。この試料溶液10 μLを、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、ピーク面積を自動分析法により測定した。
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210 nm)
カラム:Develosil ODS-UG-5(150 mm × 4.6 nn ID, Nomura Chemical社製)
カラム温度:40 ℃
移動相:液Q
流量:約1 mL/分
【0055】
実施例4B
トルエン50 mL、炭酸カリウム6.95 g、水30 mLの混合物中、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン10.00 g及びジtert-ブチルジカルボナート10.41 gを加え、20 ℃で終夜攪拌し、有機層を水30 mLで洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮後、乾燥し、(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 2-メチルプロパン-2-イルエステル14.59 gを得た(1H-NMR(DMSO-d6、テトラメチルシラン内部標準、80 ℃):δ1.39(9H, s), 2.72-2.91(2H, m), 3.28-3.32(1H, m), 3.80-3.89(1H, m), 6.18(1H, s), 7.07-7.33(9H, m).質量スペクトル:m/z=310[M+H]+ (FAB))
ナトリウムtert-ブトキシド0.38 g、トルエン60 mL、DMF 3 mLの混合物中、(R)-キヌクリジン-3-オール2.96 gと(S)-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-カルボン酸 2-メチルプロパン-2-イルエステル6.00 gを、溶媒を留去しながら8時間反応させ、ソリフェナシンを含有する組成物0.274 gを得た。
【0056】
実施例4Bで得られたソリフェナシンを含有する組成物には、参考例2、参考例3及び参考例4でみられたような、tert-ブチルのごとき低級アルキルがソリフェナシン中キヌクリジン2位に付加した化合物は含有されていなかった。
なお、本組成物の組成の定量は、上記実施例4Aで得られた組成物の定量法に従って行った。
【0057】
【表2】

なお、表中「ND」とは検出限界以下を意味し、おおよそ0.005%以下であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)
【化16】

[式中、フェニルが置換したテトラヒドロイソキノリン1位の立体化学は(R)-体及び(S)-体の混合物であることを示す。]
で示される化合物にコハク酸を作用させることを特徴とする、コハク酸ソリフェナシンの製造法。
【請求項2】
アルコール類及びエステル類の混合溶媒中で行われることを特徴とする、請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
エタノール及び酢酸エチルの混合溶媒中で行われることを特徴とする、請求項2に記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84579(P2011−84579A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14815(P2011−14815)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【分割の表示】特願2006−512767(P2006−512767)の分割
【原出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】