説明

ソレノイド、シャッタ機構並びにそれを用いた圧電素子の周波数調整方法及びその装置

【課題】小型でかつ真空槽内部でも使用可能なソレノイドと、シャッタ枚数が増加しても他のシャッタ板の動作環境に影響を及ぼさない構造を備えた、独立して駆動する複数枚のシャッタを有する生産性の高い圧電素子の周波数調整装置を提供する。
【解決手段】ベース板の窓より露出する素子と同数枚のシャッタ板を各素子に対応して配列し、各々独立に駆動させる。起動時と保持時の電圧を可変とする手段と、自身の冷却手段とを備えたソレノイドを対向して配置し、内部に一対の可動鉄芯を挿入し、一対の可動鉄芯のフランジ部に1枚のシャッタ板を挟持して連結し、シャッタ板のシャッタ開閉動作の支点となる開口部に、円盤状のワッシャーと、シャッタ板の板厚より若干厚めのカラーを勘合して、各ソレノイドに連結された複数枚のシャッタ板を積層し、ソレノイドを駆動することにより1つの支点で複数枚のシャッタ板を個別に駆動させ、シャッタの開閉を行う構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の周波数調整装置、及び周波数調整方法に関するものであり、特に複数個の圧電素子の周波数調整を同時に行う装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[図12]に、イオンガンを用いた従来の周波数調整装置の概略構成図を示す。真空槽50内部は主に、表面に電極を形成した圧電素子52と、前記圧電素子へのイオンビーム照射を行うイオンガン51と、素子52を露出させる窓を有する遮蔽板53と、前記窓の遮蔽及び開放を行うシャッタ54により構成される。シャッタ54は駆動源55に接続される。同図中のBはイオンビームを表す。
【0003】
[図13]に駆動源55であるソレノイドを示す。ソレノイドは真空槽外部に設置され、中空洞を有するボビン60と、ボビンに巻かれた巻き線61と、巻き線の両端を連結する形で覆うヨーク62と、ボビンの中空洞内を移動可能な可動鉄芯63と、可動鉄芯に設けられたフランジ部65とガイド64の間に配置されるスプリング66により構成される。
【0004】
電磁巻線61に通電を行うことで、可動鉄芯63が吸引され、吸引によりフランジ部65がスプリング66を押し縮める。通電を停止するとスプリング66の反発力で可動鉄芯63のフランジ部65を押し上げ可動鉄芯63が押し戻される。可動鉄芯63はシャッタ54に接続され、ソレノイドを駆動させることによりシャッタ54の開閉を行っていた。
【0005】
同図に示す周波数調整装置は、特開2000-323442号公報並びに特開2001-257549号公報に開示される様に圧電素子の電極をイオンビームエッチングする方法を用い、周波数計測を行いながら周波数調整を行い、所望の周波数となる時点でシャッタを閉じ調整を終了させていた。
【0006】
上述の従来例では、周波数計測を行いながら素子の周波数調整を1個づつ行うため、高精度の周波数調整が可能なものの、周波数調整時間が長くなりその生産性と言う面で課題があった。生産性を向上させるためには、複数の素子を同時に調整可能な大型のイオンガンが必要であるが、実用に耐える電流密度等を備えたイオンビームを得ようとすると、プラズマから入射する荷電粒子、及び熱陰極からの輻射熱等により遮蔽電極及び加速電極に歪みを生じる等の問題があった。
【0007】
そこで、本願出願人は、電流密度10mA/cm2以上の高密度、イオンビームの均一性±3%以内、イオンビーム電流密度の再現性±1%以内という高精度の要求を満たしながら、複数素子を同時にエッチングして周波数調整を行うことが可能な大口径のイオンガンを提案し、圧電素子の生産性を大きく向上させた。かかる発明は、特開2002-75232号公報に開示されている。
【0008】
上記の様なイオンガンを用いて複数の圧電素子を同時に周波数調整する方法は、特開2001-36370号公報に開示されている。同公報に開示される周波数調整装置は、遮蔽板の窓から露出する複数の素子に対応する開口の組み合わせを全て備えたパターン板を含むことを特徴とする。[図14]及び[図15]を参照に、円板型のパターン板72を備えた従来の周波数調整装置を説明する。[図14]は装置の概略構成図であり、[図15]は6素子に対応するパターン板72の斜視図である。圧電基板上に形成された複数の圧電素子70は搬送キャリア71上に並べられ、キャリア71ごと搬送される。パターン板72は、搬送キャリア71上の素子列に対してその半径方向を平行に配置される。パターン板72を2セット対向して配置する事より、同図に示すパターン板72では1つのイオンガン73で同時に12個の素子の周波数調整が行われる(1セットのパターン板で6個の素子を同時に調整)。
【0009】
素子の同時処理数が6素子の場合26=64通りのパターン列を用意する事になるが、図に示すパターン板72は、パターン列を削減する為に円板を2枚に重ね、3素子と3素子に分割し、それぞれの円板に23=8通りのパターン列を用意している。それぞれの円板にはダミー開口75を設け、一方の板72aの開口パターンと他方の板72bのダミー開口75が重なり合うように配置する。2軸の回転駆動系によって円板72a、72bを個別に回転させることにより、6素子全ての開閉の組み合わせを実現できるようにしている。回転駆動系にはサーボモーター74が使用されている。
【0010】
従来装置の動作について[図22]にフロー図を示す。まず同時に周波数調整を行う1列(A列)に並べられた複数の素子を所定位置にセットする(S30)。各素子は予め周波数測定を行っておき、各々必要なビーム照射時間が算出されている。次に調整の必要な素子のみ窓に露出するような開口パターンを選択し(S31)、イオンビーム照射を行う(S32)。露出した素子の中で最も調整時間の短い素子の調整が終了する時点で照射を中断させる(S33)。その時点で更に調整の必要な素子のみ露出する開口パターンを選択し(S31)、イオンビームを照射し(S32)、再び露出した素子の中で最も調整時間の短い素子の調整が終了する時点で照射を中断させる(S33)。この手順を繰り返し、1列の素子の調整が全て終了した時点で、搬送キャリア71を次列に移動し同様の作業を繰り返す。
【0011】
上記した従来のパターン板に用意されるパターンの数は2(n=素子の数)となり、同時処理数を増やす場合は列のピッチ間を狭密に配置するか円板径を大きくし対応せざるを得ない。[図15]に示すパターン板のように、円板を重ね合わせることによりパターン列を削減することも可能であるが、円板の積層枚数が増加すると回転駆動系の機構が複雑になるという問題や、回転駆動系の所有面積によりかえって装置が大型化するという問題が生じる。回転駆動系を考慮すると、円板の積層は2枚までが現実的である。例えば、2倍の12個の素子を同時処理する場合、円板を2枚積層してもそれぞれの円板には64列の開口パターンを用意する事となる。これを実現するには円板径を著しく大きく変更する必要があり現実的ではない。又、回転駆動系にはサーボモーターを使用している為、サーボモーターのレスポンスがそのまま円板型パターン板の動作時間に加算される。パターン板の回転動作と信号待ち時間等を合わせると約100ms程度の時間を必要とする。動作時間においても次の開口まで円板が移動する迄の時間が待ち時間となり生産性低下の要因となっていた。更に、調整時間の長い素子は、調整時間の短い素子の調整が終わる度に照射を中断される為、断続的な照射となり、同時間を連続で照射する場合に比べ調整精度が劣化するという問題もあった。
【0012】
上記の様な課題を解決する為には、各素子に対応した個別のシャッタが必要であるが、その為にはシャッタ数同様に駆動源を増やす必要が生じる。シャッタの駆動源であるソレノイドは、[図13]に示した様に一般的に大型でありかつ真空槽外部に設けられている為、シャッタ数を増やすことは装置を大型化し、かつ複雑化してしまうという問題があった。
【0013】
【特許文献1】特開2000-323442号公報
【特許文献2】特開2001-257549号公報
【特許文献3】特開2002-75232号公報
【特許文献4】特開2001-36370号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、力量を保ちながらも小型でかつ真空槽内部でも使用可能なソレノイドと、シャッタ枚数が増加しても他のシャッタ板の動作環境に影響を及ぼさない構造を備えた複数枚のシャッタ板を積層する事により、独立して駆動する複数枚のシャッタを備えた生産性の高い周波数調整装置を提供することを目的とする。すなわち本発明は、ベース板の窓より露出する素子と同数枚のシャッタ板を各素子に対応して配列し、各々独立に駆動させるものである。より具体的には、起動時と保持時の電圧を可変とする手段と、自身の冷却手段とを備えたソレノイドを対向して配置し、内部に一対の可動鉄芯を挿入し、前記一対の可動鉄芯のフランジ部に1枚のシャッタ板を挟持して連結し、シャッタ板のシャッタ開閉動作の支点となる開口部に、円盤状のワッシャーと、該シャッタ板の板厚より若干厚めのカラーを勘合して、各々個別のソレノイドに連結された複数枚のシャッタ板を積層し、ソレノイドを駆動することにより1つの支点で複数枚のシャッタ板を各々個別に駆動させ、シャッタの開閉を行わせようとするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施例の構成の説明
以下に、本発明の実施例を説明する。従来例と同様の部分には同符号を付与するものとする。[図1]は本発明装置の概略図である。本発明装置は主に、グリット5を介してイオンビームを照射するイオンガン73、周波数調整を行う複数の圧電素子70、同時処理を行う複数素子のみを露出する貫通穴を設けたベース板4、同時処理を行う複数素子と同数のシャッタ1、シャッタ間の隙間から洩れるアルゴンイオンを遮断する遮蔽板3、シャッタの駆動源となるソレノイド2により構成される。そして、これらの構成部品は全て真空槽内部に設置される。
【0016】
[図2]はシャッタ1と圧電素子70の平面図である。イオンビームは、紙面に垂直に、紙面表面から裏面に向かって照射される。圧電基板上に形成された複数の圧電素子70を備えた搬送キャリア71は、複数枚のキャリアを搭載可能な図示しないマガジンにセットされる。搬送キャリア71は図の矢印方向に搬送され、キャリア上に充填された素子の周波数調整は列単位行われる。搬送キャリア71の先端にはイオンコレクター6が取り付けられる。イオンコレクター6は、複数個の貫通穴をキャリア内素子と同間隔に設けている。これにより同時処理を行う複数素子の各位置に対応したイオンビーム電流密度測定を行う。
【0017】
各素子に対応したシャッタ1及びソレノイド2は1つのユニットとされる。このシャッタユニットを複数組配置することで同時処理を行う素子の数を調節する。図では6枚のシャッタ板を積層したシャッタユニットを4組配置することで、搬送キャリア71上に配列された素子2列、合計24個の圧電素子の同時周波数調整を1つのイオンガンで行う。
【0018】
上記シャッタユニットは、1枚のベース板4に取り付けられる。[図3]を参照してベース板4について説明する。ベース板4はその貫通穴7により同時処理を行う複数素子のみを露出し、それ以外の素子へのビーム照射を遮蔽する。ビームのアルゴンイオンに晒される面にはエッチングから守る為の保護板8を装着する。保護板8には、スパッタ率の低い材質が求められる為、例えばカーボン板等を使用する。ベース板4にはシャッタ1と、シャッタ1の駆動源であるソレノイド2を複数個配列したソレノイド基板25が固定され、更にシャッタの先端部微調整機構として楕円型のストッパー11が用意される。シャッタ上面には遮蔽板3が配置され、特殊ねじ9により固定される。遮蔽板3は、各素子に対応した位置にのみビームを透過する為の貫通穴を設け、シャッタ1を掻い潜って漏洩するイオンビームを遮蔽する為の機能を併せ持つ。従って遮蔽板3には、スパッタ率の低い材質、例えばカーボン材等を使用する。
【0019】
[図4]はシャッタ1の構成図である。シャッタ板は、1枚の薄板を折り曲げ加工することにより作成され、イオンビームを遮断するシャッタ先端部13と、動作の支点となる軸部12と、2枚の爪より構成される連結部14を備えている。折り曲げ加工は積層を考慮し、その形状は何層目に配置されるシャッタ板であるかにより異なる。具体的には、先端部13が全て同一平面内に配置され、連結部14が全て軸部12から同距離となるように、積層の位置に応じて折り曲げ距離を調整する。
【0020】
シャッタ1は、限られたスペース内に複数枚積層される為、その板厚は極力薄く強度のある材質が求められる。又、シャッタ1の先端は10mA/cm2程度のイオンビームに晒される事により400℃程度まで温度が上昇することが考えられる為、熱歪みが少なく、又外的要因による変形に耐えうる、且つ導電性の材質が求められる。この2つの条件を満たす為に、本実施例では板厚0.4tのSUS631析出硬化材を採用した。又、積層による摺動抵抗の軽減並びに表面の削れ防止の為に表面にDLC膜等を塗布する。
【0021】
シャッタ先端部13はアルゴンイオンに晒される事により短時間でエッチングされシャッタの役目を果たさなくなることから、シャッタ板が直接イオンビームに晒されないように保護材18を装着する。該保護材18にはスパッタ率が低く導電性である材質が求められるため、本実施例ではカーボンを使用した。[図5]に保護材18の一例を示す。保護材18には位置決め溝19が設けられ、シャッタ板先端部13に接合された固定爪17に着脱可能に装着される。
【0022】
シャッタ1の軸部12には、カラー15とワッシャー16が挟みこまれる。カラー15、及びワッシャー16には、摺動抵抗を軽減する為にDLC膜等を塗布する。このカラー15とワッシャー16は同内径であり、カラー15の外径は軸部12の内径よりも小さく、ワッシャー16の外径は軸部12の内径よりも大きい。シャッタ軸部12の内径よりも小さな外径のカラー15は、シャッタの板厚よりも高さ方向の厚みがある為、積層された上層のシャッタ板及びカラーの重さは、全てカラー15とワッシャー16が支える構造となる。これにより、シャッタ板には自重以外はかからない為、シャッタ間のクリアランスが確保されると共に、摺動抵抗が軽減される。更に積層による負担がシャッタ板にかからないため、積層枚数を容易に増減することができる。複数枚積層されたシャッタ板は、その軸部12と前記したカラー15とワッシャー16内部を貫通する、ねじ10によりベース板4に固定される。
【0023】
[図6]にシャッタ1の駆動源であるソレノイド2を示す。ソレノイド2は主に、中空洞を有するボビン20と、ボビン20に巻かれた巻き線21と、巻き線21の両端を連結する形で覆うヨーク22と、ボビン20の中空洞内を移動可能な可動鉄芯23により構成される。ボビン材には通常樹脂が用いられるが、真空中では自己発熱による温度上昇から樹脂ボビンが変形する可能性がある為、熱伝導率の大きく加工の容易なクロム銅等の金属を用いる。ボビン20表面には巻き線21とのショートを防ぐ為に絶縁膜を塗布する。巻き線21は温度上昇により被覆樹脂が剥離する事が考えられる為、高温対策としてポリエステル、ポリイミド樹脂等の焼き付け温度の高い樹脂をコートした線材を使用する。ソレノイド2の配線は通常直接樹脂基板に装着されるが、ソレノイドを冷却する為、例えばアルミ板等の熱伝導率の高い冷却板24を介してリード線を配線する基板25に装着する。冷却板24にはリード線を通す為のスルーホール26が設けられる。冷却板24全面及びスルーホール26にはリード線が接触してもショートしない為の対策として絶縁処理を施す。例えば、アルミ板全面にアルマイト処理を施し、スルーホールをシリコンチューブで覆う等の対策を行う。また、断線対策として電源ラインをアースから浮かせる。ソレノイド2を固定した高熱伝導率の冷却板24を冷却することにより冷却板24を介してソレノイド内ボビン20、巻き線21、ヨーク22の冷却を行う事が可能となる。本実施例ではソレノイド基板25、及びシャッタ機構部を固定するベース板4を水冷パイプ32によって冷却することにより間接的にソレノイド2を冷却するが、この冷却機構はどこに設けてもよい。本実施例ではベース板4を冷却する事により、間接的にシャッタ1の冷却も行うことが出来る。これによりベース板4は、シャッタ1及びソレノイド基板25の取り付け板でありながら、シャッタ1及びソレノイド2の冷却板、更にイオンビームの遮蔽板ともなる為、装置の小型化にも大きく貢献している。
【0024】
ソレノイド2は、力量を保ちつつ温度上昇を防ぐ為に起動時と保持時の印加電圧を可変する構成とした。[図19]は、印加電圧を可変とするソレノイドの駆動回路図の一例である。スイッチをONにすることでコイルに瞬間的流れる大きな電圧を起動電圧として可動鉄芯を吸引し、その後低下した電圧を保持電圧として可動鉄芯の保持を行う。
【0025】
[図23]を参照に本発明可動鉄芯23を説明する。通常可動鉄芯23は固定鉄芯34に接触する事により停止し保持される。[図23]上面に通常の可動鉄芯と固定鉄芯の接触を示すが、この場合、常に可動鉄芯23は動作完了時に固定鉄芯34に面及び点接触する為、次第に接触部35において変形が始まる。ボビン20と可動鉄芯23との間には決められたクリアランスが設けられており、可動鉄芯23の変形が始まり一定の径を超えた場合、急激に摩擦抵抗が増大し動作不良を誘発する。本発明では、[図23]下面斜線部に示すよう、可動鉄芯23にボビン20の内径よりも大きい径のガイド33を接合する。ガイド33は可動鉄芯23が固定鉄芯34に接触する直前にヨーク22に接触する位置に設置する。これにより、可動鉄芯23は動作完了時ヨーク22に接触する事で位置決めされ、この時可動鉄芯先端部35は固定鉄芯34に接触しない為先端部35の変形は発生せず長寿命を図る事が出来る。ガイド33は変形を考慮し、ガイド33とヨーク22の接触する面積は固定鉄芯34と可動鉄芯23の接触する面積よりも大きくする。
【0026】
[図24]に可動鉄芯23の動作回数と可動鉄芯23の先端部35の外径寸法を示す。同図において(f)は、[図23]の上面に示す様に可動鉄芯23と固定鉄芯34を直接接触させ可動鉄芯23を保持する場合の連続動作における先端部35の外径寸法変化を示し、(e)は、本発明ガイド33を用いて、可動鉄芯23と固定鉄芯34を接触させずにガイド33とヨーク22を接触させることにより可動鉄芯23を保持する場合の連続動作における先端部35の外径寸法変化を示す。図より、本発明ガイド33を用いることにより、可動鉄芯先端部35の外径寸法が連続動作によって変形することなく、ボビン20と可動鉄芯23とのクリアランスが保たれる為、ソレノイド2の動作不良を軽減し、ソレノイドの寿命を飛躍的に延ばすことが可能となった事が判る。
【0027】
[図7]にソレノイド2によるシャッタ1の駆動を示す。前記ソレノイド2は2つを向かい合わせ、2つの可動鉄芯23を連結し、可動鉄芯23が1直線上で一体となって動作するように配置する。対向させた一対のソレノイドに1つの可動鉄芯を挿入し、各々のソレノイドを通電させる事により1つの可動鉄芯を動作させてもよいが、一対のソレノイドの位置がずれると可動鉄芯が動作しなくなる為、本実施例では可動鉄芯を2分割する。2つの可動鉄芯23のフランジ部27をシャッタ連結部14の2枚の爪で挟み、一対の可動鉄芯23と一枚のシャッタ板を連結する。
【0028】
通常は1つのソレノイドとスプリングを使用し可動鉄芯を直線往復運動させるのが一般的であるが、本発明の場合、限られたスペースにソレノイドを配置する為、ソレノイドの外形寸法においても出来る限りの小型化が求められる。小型化を行った場合吸引力が低下し、スプリングにより吸引力が減殺され信頼性のある動作が困難となる。これを回避する為に本発明ではスプリングの代わりにソレノイド2を2つ向かい合わせ、可動鉄芯23の直線往復運動を行わせるものとした。
【0029】
2つのソレノイド2に交互に通電を行い、可動鉄芯23を往復運動させることで、可動鉄芯23の往復運動がシャッタ1の回転運動に変換される。シャッタは軸部12に挿入されたカラー15を支点に回転運動を行い、これがシャッタ1の開閉動作となる。一方のソレノイド2aに通電することでシャッタ1は開動作を行い、もう一方のソレノイド2bに通電することでシャッタ1は閉動作を行う。シャッタ先端部開閉動作の微調整は、ベース板4に設けられた楕円型のストッパー11により行われる。
【0030】
この様に本発明では、同時周波数調整する圧電素子の生産量の増減に併せて、シャッタ1とソレノイド2の数量を選択してシャッタユニットを作成する事が可能であると共に、現在の1イオンガン構成を2イオンガン構成にする事で飛躍的に生産効率を上げる事が可能と成る。
【0031】
次に本発明のイオンガングリットについて説明する。[図1]に示すグリット5は、同形状の複数のグリット孔31を有し、イオンビームの引き出しを行う。[図11]はグリット孔31の平面図である。図では圧電素子70の電極にグリットから引き出されたイオンビームの直線成分が照射される面積を黒色で塗りつぶしている。同図ではイオンビームは紙面の裏面から表面に向かって照射される。従って、圧電素子70の電極は紙面の表側に設置されているものとする。多孔式グリットにて圧電素子の電極をエッチングする場合、[図11]の(c)に示すように圧電素子の電極径がグリット孔径より大きければグリットの位置によるビーム電流密度のばらつきは発生しない。しかし、圧電素子の小型化により圧電素子の電極が小さくなり、ここに同時処理数を増やす為に複数の圧電素子を高密度に充填した場合、各素子の電極径がグリット孔径より小さくなり、[図11]の(b)に示すように従来のグリットではグリットから引き出される直線成分を持ったイオンビームが照射される面積が、素子の位置により変わってくる。これが個々の位置におけるビーム電流密度のばらつきとなる。本発明においては、[図11]の(a)に示すようにイオンガングリットの孔31の配列を圧電素子の配列と等しくし、イオンガンから引き出される直線成分を持ったイオンビームはどの素子も同一面積で照射されるようにする。
【0032】
[図11](a)、(b)に示すイオンガングリット孔を用いたイオンビーム電流密度の測定結果を[図25]に示す。同図において(a)は[図11](a)に示す本発明イオンガングリット孔を用いた場合の測定結果を示し、(b)は[図11](b)に示す従来のイオンガングリット孔を用いた場合の測定結果を示している。従来のイオンガングリット孔を用いた場合、イオンガンから引き出された直線成分を持ったイオンビームの照射する面積は各素子において違う為、これがそのままビーム電流密度のばらつきとなっている。本発明イオンガングリット孔を用いた場合、全ての素子がほぼ同等の直線成分を持ったイオンビームに照射される為、各素子におけるビーム電流密度のばらつきは小さくなっている。図より、本発明イオンガングリット孔を用いる事によって、個々の素子において均一性の高いビーム電流密度を得る事が可能となった事が判る。
【0033】
実施例の作用・動作の説明
本発明装置を用いた周波数調整を[図2]、[図10]及び[図16]〜[図19]を参照に説明する。[図10]は装置のシステム構成図であり、[図16]は調整手順の全体を示すゼネラルフロー図である。まず搬送キャリア71に搭載する圧電基板上に複数個充填された各素子の周波数測定を行い(S1)計測結果をPC29に入力する。搬送キャリア71を図示しないマガジンにセットし、真空槽に投入し真空排気する。次に周波数調整を行う搬送キャリア71を搬入し(S2)、その先端に設けたイオンコレクター6をビーム照射位置に配置する。所定の位置に停止した事を確認した後に電流密度測定を行う(S3)。
【0034】
電流密度測定について[図17]にフロー図を示す。ここで、圧電基板上に形成された複数の圧電素子70は搬送キャリア71上に並べられ、周波数調整は列単位で行われる。従来装置では1列のみの同時周波数調整を行っていたが、本発明装置では複数列を同時に調整する事が可能となる為、電流密度測定も複数列行う。周波数調整を同時に行う列をA列及びB列とし、各列にはN個の素子が並べられるものとする。イオンコレクター6も各素子に対応し、1列にN個のビーム透過口を設けている。まずA/B列のシャッタ1を全て閉じた状態(S10)でビーム照射を行う(S11)。この状態で電流密度を測定する(S12)。次に、B列のシャッタを全て閉じた状態(S13)でA列n番目のシャッタのみを開とし(S14)A列n番目の電流密度を測定する(S15)。同様の手順で、A列N個の素子位置それぞれの電流密度を全て測定する。A列全ての測定を終了したら、B列の測定を同様に行う。各素子位置の電流密度測定結果はPC29に入力される。PC29は、入力された周波数及び電流密度の測定結果から各素子に対するイオンビーム照射時間を算出する(S4)。算出した結果はPLC30に転送し、PLC30内で2つのソレノイド2を互いに通電する為の時間を算出する。PLC30の算出結果に基づきソレノイド2をON/OFFする事により個別周波数調整を行う(S5)。
【0035】
個別周波数調整について[図18]にフロー図を示す。まずA/B列全ての素子のシャッタを閉じた状態(S20)でビームをONにする(S21)。次にPC29により算出されたビーム照射時間が0以外の素子に対応するシャッタ1を全て開き(S22)ビーム照射時間タイマーをスタートさせる(S23)。指定照射時間に達した素子に対応するシャッタ1から順に閉じ(S24)、全てのシャッタ1が閉じた時点でビームをOFFにする(S25)。ビーム照射時間タイマーをリセットし(S26)、次列へ移動する(S27)。
【0036】
同様に周波数調整を行い、搬送キャリア71に充填された全ての素子70の調整が終了した時点で、搬送キャリア71を搬出する(S6)。続いて周波数未調整の搬送キャリア71を搬入し(S2)、同様の作業を繰り返し、図示しないマガジンに搭載された全ての搬送キャリアの周波数調整を行う。[図22]に示す従来のフロー図と比較してみると、本発明によりイオンビームを同時照射する列数を増やした事と、イオンビームの照射を中断させることなく周波数調整を行う事が可能となったことが判る。
【0037】
次に本発明ソレノイドの効果について説明する。本発明ソレノイドは、自身の冷却手段を備え、更に起動時と保持時の電圧を可変とすることで、力量を保ちつつ温度上昇を防ぎ、真空槽内部での連続動作を可能としている。
【0038】
[図20]は、本発明の冷却及び電圧可変手段を用いずにソレノイドを駆動させ、その表面温度を計測した結果である。計測は、5Vの一定電圧で駆動したソレノイドを、真空中及び大気中で使用した状態で行った。力量を上げる為に駆動電圧は高い方が良いが真空中で動作させた場合、放熱による冷却が期待できない。5V一定電圧による真空動作では通電後数分間で140℃まで昇温する事が判る。実機に搭載する場合はイオンガンによりソレノイドを固定するベース板4が20℃程度上昇する為160℃として考える必用がある。この温度はリード線を被覆する絶縁材の溶射温度とほぼ同等であり、剥離等が考えられる為、真空槽内部に於ける動作はほぼ不可能であった。
【0039】
[図21a]に本発明冷却手段を備えたソレノイドを5Vの一定電圧で駆動させた場合の、ソレノイド表面温度計測結果を示す。測定は本実施例に示す装置を用い、ソレノイドボビン材にクロム銅を、冷却板24にアルミ板を用い、冷却板24に接続されるベース板4を水冷パイプによって冷却することによりソレノイドの冷却を行いながら、イオンガンを稼動させ実負荷をかけた状態で行った。図にはベース板4の温度も示している。図より真空槽内部でイオンガンを稼動させた状態であるにも関わらず、大気中で使用する場合とほぼ同程度の温度上昇に押さえていることが判る。
【0040】
[図21b]に上記測定で使用したソレノイドを更に[図19]に示す回路により駆動させた場合の、ソレノイド表面温度の測定結果を示す。測定は、[図21a]に示す測定と同条件で行い、起動時の電圧12V、保持時の電圧2.5Vを得る為、V1=12V、R=30Ω、C=470μFとした。5Vの一定電圧で駆動を行う場合に比べソレノイドの起動電圧は2.4倍の12Vとなるが、保持電圧を2.5Vにする事により、更に約30℃程度の温度低下を確認する事が出来る。[図20]と[図21b]を比較すると、本発明の冷却及び電圧可変手段を用いることで、駆動時の力量を上昇させながら真空中での使用を可能としたことが判る。
【0041】
最後に本発明装置のメインテナンス性について説明する。シャッタ1およびソレノイド基板25は、1枚のベース板4に取り付ける事により、ユニット化されている。これにより外段取りにて位置調整作業が可能となる為、スペアを用意する事により設備のメインテナンス時間は大幅に短縮される。シャッタ先端部13に装着される保護材18はエッチングされることにより消耗が早いが、着脱可能に保持されることにより、容易に交換可能となり、メインテナンス時の作業性の向上を図ることが出来る。又、保護材18を装着することにより、シャッタ板の寿命を飛躍的に延ばすことが可能となり、コストダウンにも繋がる。遮蔽板3にはビームが透過するための穴を用意しているが、位置ずれがエッチング分布のばらつきをもたらす為、遮蔽板3とイオンコレクター6の位置出しは正確に行う必要がある。そこで本発明では、[図8]に示すピンゲージ28にて位置出し行う。遮蔽板3は[図9]に示す特殊ねじ9によって表裏両面から位置出し固定できるように構成されている。
【0042】
他の実施例の説明、他の用途への転用例の説明
上記実施例ではイオンガンを用いた周波数調整について説明したが、本発明は他のエッチング源或いは蒸着源を用いた周波数調整にも利用可能である。特に、本発明によりイオンビームを照射したままシャッタの開閉を行う事と、更にソレノイドを使用し駆動電圧を制御する事で約10ms程度でのシャッタ開閉動作が可能となった事により、シャッタに対して20ms以下と言う高精度の動作時間が要求される水晶振動子の周波数調整にも転用可能である。
【0043】
本発明で独立に駆動する複数枚のシャッタを各素子に対応して設けることにより、複数素子の周波数調整を短時間に行うことが可能となり、装置の生産性を著しく向上させることが可能となった。同時に、イオンガングリット孔の配列を圧電素子の配列に等しくした事で個々の素子に均一性の高いビームを照射する事が可能となった事、更に素子へのビーム照射を連続的に行う事が可能になった事により周波数調整精度を大きく向上させることが可能となった。又、枚数が増加しても他の板の動作環境に影響を及ぼさない構造を備えた複数枚のシャッタ板を提案する事により、周波数調整の同時処理数を容易に増減する事が可能となった。更に、本発明で力量を保ちながらも小型でかつ真空槽内部でも使用可能な駆動源を提案することにより、装置全体の小型化及び簡略化を図ることが可能となった。加えて、複数枚のシャッタ板及び駆動源を1枚の板に固定する事と、ビームに晒され消耗の早い部位に着脱可能な部品を設けることにより、メインテナンス時の作業向上及びコストダウンも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明周波数調整装置概略図
【図2】本発明シャッタと圧電素子平面図
【図3】本発明ベース板斜視図
【図4】本発明シャッタ斜視図
【図5】本発明保護材斜視図
【図6】本発明ソレノイド斜視図
【図7】本発明ソレノイドとシャッタ説明図
【図8】本発明遮蔽板とイオンコレクターの位置出し説明図
【図9】本発明特殊ねじ斜視図
【図10】本発明装置のシステム構成図
【図11】本発明グリット孔平面図
【図12】従来の1素子対応周波数調整装置概略図
【図13】従来のソレノイド概略図
【図14】従来の複数素子対応周波数調整装置構成図
【図15】従来のパターン板斜視図
【図16】本発明周波数調整ゼネラルフロー図
【図17】本発明電流密度測定フロー図
【図18】本発明個別周波数調整フロー図
【図19】本発明ソレノイド回路図
【図20】冷却手段及び電圧可変手段を用いない場合のソレノイド表面温度計測図
【図21a】本発明冷却手段を用いた場合のソレノイド表面温度計測図
【図21b】本発明冷却手段及び電圧可変手段を用いた場合のソレノイド表面温度計測図
【図22】従来の個別周波数調整フロー図
【図23】本発明ソレノイド内可動鉄芯説明図
【図24】本発明ソレノイドの動作回数と可動鉄芯先端部の外径寸法測定図
【図25】本発明及び従来のグリット孔に於ける電流密度分布図
【符号の説明】
【0045】
1 シャッタ
2 ソレノイド
3 遮蔽板
4 ベース板
5 グリット
6 イオンコレクター
7 貫通穴
8 保護板
9 特殊ねじ
10 ねじ
11 ストッパー
12 軸部
13 先端部
14 連結部
15 カラー
16 ワッシャー
17 爪
18 保護材
19 位置決め溝
20 ボビン
21 巻き線
22 ヨーク
23 可動鉄芯
24 冷却板
25 基板
26 スルーホール
27 フランジ
28 ピンゲージ
29 PC
30 PLC
31 グリット孔
32 水冷パイプ
33 ガイド
34 固定鉄芯
35 先端部
50 真空槽
51 イオンガン
52 圧電素子
53 遮蔽板
54 シャッタ
55 駆動源
60 ボビン
61 巻き線
62 ヨーク
63 可動鉄芯
64 ガイド
65 フランジ部
66 スプリング
70 圧電素子
71 搬送キャリア
72 パターン板
73 イオンガン
74 サーボモーター
75 ダミー開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内において圧電素子を露出及び遮蔽するシャッタ板を駆動するために該真空槽内に搭載されるソレノイドであって、
電圧が印加される巻線が巻かれたボビン、
該ボビンの両端部を挟持するヨーク、及び
該ボビンに一部が挿入された可動鉄芯
からなり、該可動鉄芯において、中心付近に設けられたフランジ部に該シャッタが取り付けられ、該フランジ部よりも先端側に該ボビンの内径よりも大きい径の鍔部(ガイド)が設けられ、該ガイドと該ヨークとの当接により該可動鉄芯の摺動範囲が制限されているソレノイド。
【請求項2】
真空槽内において圧電素子を露出及び遮蔽するシャッタ板を駆動するために該真空槽内に搭載されるソレノイドであって、
電圧が印加される巻線がそれぞれ巻かれた1対のボビン、
該1対のボビンの両端部をそれぞれ挟持するとともに該ボビンが同心軸上に位置するように離隔して配置された1対のヨーク、及び
該1対のボビンに挿入され、中心付近に設けられたフランジ部に該シャッタ板が取り付けられる可動鉄芯
からなるソレノイド。
【請求項3】
請求項2記載のソレノイドにおいて、前記可動鉄芯が前記フランジ部で個別の可動鉄芯に分割されているソレノイド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21a】
image rotate

【図21b】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2008−118156(P2008−118156A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336589(P2007−336589)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【分割の表示】特願2002−210928(P2002−210928)の分割
【原出願日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】