説明

ソレノイド型アクチュエータおよびそれを用いた能動型防振装置

【課題】 コイルへの通電によって加振力を発生するソレノイド型アクチュエータにおいて、可動子の偏磨耗を軽減することによって、目的とする作動特性が長期に亘って安定して発揮され得る、改良された構造のソレノイド型アクチュエータを提供すること。
【解決手段】 可動子142を軸方向に案内する案内筒部を、該可動子142の軸方向における一方の端部に外挿されて該一方の端部を案内する第一案内筒部128と、該第一案内筒部128から独立形成されて該可動子142の他方の端部に外挿されて該他方の端部を案内する第二案内筒部132によって構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用で可動子を駆動せしめるソレノイド型アクチュエータと、それを用いた能動型防振装置に係り、特に自動車のエンジンマウントやボデーマウント,制振器などの防振装置において好適に採用されるソレノイド型アクチュエータおよびそれを用いた能動型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振支持体や防振連結体、或いは防振すべき振動部材に対して装着される制振装置などの防振装置の一種として、防振対象部材や防振装置に加振力を及ぼすことにより、防振すべき振動を積極的乃至は相殺的に低減せしめるようにした能動型防振装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものが、それである。
【0003】
このような能動型防振装置では、加振力を発生するアクチュエータが必要であり、かかるアクチュエータにおいては、発生加振力に関して周波数や位相の高度の制御性が要求される。
【0004】
そこで、能動型防振装置に採用される防振用アクチュエータとしては、上述の特許文献1や、特許文献2にも記載されているように、一般に、コイルの周囲にヨーク部材を組み付けた固定子によって磁路を形成する一方、コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用で駆動力が及ぼされる可動子を設けることによって、コイルへの通電によって可動子を軸方向に駆動するソレノイドを用いた電磁式のソレノイド型アクチュエータが、好適に採用される。このようなソレノイド型アクチュエータは、コイルへの通電を制御することによって、発生加振力を高度に制御することが可能となる。
【0005】
ところで、このようなソレノイド型アクチュエータは、例えば防振用アクチュエータとして防振装置に適用される際には、可動子を1mm以下の振幅をもって数十Hz以上の高周波数域において加振駆動せしめるという、高精度な加振駆動が要求される。このような高精度な加振駆動を安定して実現するために、ガイド内面を有する案内筒部に可動子を挿入配置して、かかるガイド内面によって可動子を駆動方向に案内するガイド機構が、好適に採用される。
【0006】
ところが、製造上の理由やレイアウト上の制約から、可動子の駆動範囲全体を覆う程に十分な長さを有する案内筒部を形成することは困難であるという問題があった。
【0007】
すなわち、可動子を軸方向に案内するために、案内筒部は一定の内径寸法を保って直線状に延びる円筒形状として形成される必要がある。しかし、そのような形状を有する部材を高精度且つ長尺に形成することは、軸の歪みや偏肉等の問題が生じ易く困難なものであり、製造コストの増加を招くこととなる。
【0008】
また、例えば特許文献2に示されているようなソレノイドを用いたソレノイド型アクチュエータにおいては、固定子における可動子の軸方向中間部分にあたる部位に磁極が形成されることから、案内筒部を磁極形成部位以上に延び出させることが出来ないというレイアウト上の問題もあった。
【0009】
このような問題から、可動子の駆動範囲全体を案内する長さを有する案内筒部を設けることは困難であって、案内筒部は可動子の一部を案内することしか出来なかった。しかし、可動子と案内筒部との空隙は非常に小さいことから、部品公差や組み付け誤差等に起因する可動子の僅かな傾きによって、組み付け時において案内筒部に対する片あたり状態が生じるおそれがあり、可動子の一部を案内するのみでは、かかる片あたり状態を有効に解消することが出来ず、可動子が案内筒部に対してこじりながら摺動するおそれがあった。
【0010】
このような片あたり状態での摺動は、可動子の案内筒部に対する接触部位の接触面圧を高くしてしまい、接触部位の磨耗を早めることとなる。一般的に、可動子の表面にはフッ素樹脂等を用いた摺動用コーティングや、メッキ処理等による防錆用コーティング等各種のコーティングが施されており、このような局所的な偏磨耗が生じると、かかる接触部位におけるコーティング剤が剥がされてしまい、これらのコーティング処理による摺動特性や防錆特性を長期に亘って維持することが出来なくなる。また、偏磨耗によって可動子の重量バランスを損なうこととなって、ソレノイドの作動安定性を阻害するおそれがあった。
【0011】
【特許文献1】特開平9−49541号公報
【特許文献2】特開2004−153063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、コイルへの通電によって加振力を発生するソレノイド型アクチュエータにおいて、可動子の偏磨耗を軽減することによって、目的とする作動特性が長期に亘って安定して発揮され得る、改良された構造のソレノイド型アクチュエータを提供することにある。
【0013】
また、本発明は、そのようなソレノイド型アクチュエータを用いて構成された、改良された構造を有する防振用アクチュエータ、能動型防振装置、および能動型防振用制振器を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面の記載、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0015】
(ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様1)
すなわち、ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の第一の態様は、コイルの周囲にヨーク部材を組み付けて固定側磁路を備えた固定子を構成すると共に、該コイルの中心孔に差し入れられるようにして可動子を配設し、該コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用で該可動子を駆動せしめるようにする一方、該可動子の外周面を該コイルの軸方向に案内する筒状のガイド内面を有する案内筒部を、該コイルの中心孔に差し入れて該ヨーク部材で支持せしめて配設したソレノイド型アクチュエータにおいて、前記案内筒部を、前記可動子の軸方向における一方の端部に外挿されて該一方の端部を案内する第一案内筒部と、該第一案内筒部から独立形成されて該可動子の他方の端部に外挿されて該他方の端部を案内する第二案内筒部によって構成したことを、特徴とする。
【0016】
本態様に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、可動子が傾く際の回転中心軸から最も離れた部位である軸方向端部を、第一案内筒部及び第二案内筒部によって軸方向に案内することによって、可動子の軸方向中間部分で案内する場合に比して、より効果的に可動子の傾きを抑えることが出来る。これにより、可動子のガイド内面に対する片あたり状態を有効に抑えて、偏磨耗を軽減して可動子に施されたコーティング層を長期に亘って維持することによって、目的とする作動特性を長期に亘って安定して得ることが可能となる。
【0017】
さらに、案内筒部を第一案内筒部と第二案内筒部に分割してそれぞれ独立形成したことによって、各案内筒部単体の軸寸法を短くすることが出来る。これにより、高い寸法精度をもって形成されることが必要であるが故に一般的に長尺に形成することが困難である案内筒部を、その軸寸法を短くすることによって容易に形成することが出来る。
【0018】
加えて、案内筒部の軸寸法が短くされて、部材寸法が小さくされていることからレイアウト上の制約も軽減されて、設計自由度も向上せしめられる。また、第一案内筒部及び第二案内筒部は可動子の両端部に対してそれぞれ外挿配置されていれば良いことから、案内筒部を可動子の軸寸法に対応して形成する必要も無くなり、長尺の可動子や短尺の可動子など各種の可動子に柔軟に対応することも可能となる。このことは可動子の軸寸法の設計自由度を向上せしめるのみならず、例えば同じ径寸法をもって軸寸法のみが異ならされた可動子を備えた異なるシリーズのソレノイド型アクチュエータの間において、同一の第一案内筒部及び第二案内筒部を用いることが出来て、部品の共通化を図ることが出来る。
【0019】
更にまた、案内筒部の軸寸法が小さくされることから、可動子とガイド内面との間に形成される微小隙間の軸寸法も小さくすることが出来て、粉塵などの噛み込みも軽減することが出来る。
【0020】
また、コイルの中央孔内は、コイルへの通電によって生ずるジュール熱(銅損)や、可動子中の渦電流損やヒステリシス損(鉄損)等の内部損失による発熱の影響によって高温状態となる。特に中心孔の中間部分は熱がこもり易く、そのような高温状態は、案内筒部に歪を生ぜしめることとなる。一般的に、可動子とガイド内面との隙間寸法はミクロン単位の非常に狭いものであり、案内筒部の僅かな歪によって可動子の摺動による悪影響がより一層大きくなるおそれがある。しかし本態様によれば、可動子の軸方向端部にのみ案内筒部を配設すれば良いことから、熱がこもり易いコイル中央孔の中間部分に案内筒部を設けることを避けることが出来て、案内筒部の歪による悪影響を回避乃至は軽減することが出来る。また、第一乃至第二案内筒部は可動子の軸方向端部に配設されることによって外気に晒される部位を有していることに加えて、可動子の変位によって生ずる空気の出入による冷却効果も期待出来て、ソレノイド型アクチュエータの発熱による影響を軽減することが出来る。
【0021】
なお、第一乃至第二案内筒部の具体的な形状は可動子やヨーク部材等の形状に応じて各種の形状を採用することが可能であって、第一案内筒部と第二案内筒部の軸寸法や径寸法が互いに異ならされていても良い。例えば、軸方向両端部における径寸法が異ならされた可動子に対して、径寸法の異なる第一案内筒部と第二案内筒部を設けることも可能である。
【0022】
(ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様2)
ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の第二の態様は、前記態様1に係るソレノイド型アクチュエータにおいて、前記可動子における軸方向の端部が、前記固定子において磁極を生ぜしめる磁極形成部位よりも軸方向に突出せしめられている一方、前記第一案内筒部と前記第二案内筒部が軸方向において該磁極形成部位を挟んで配設されていることによって、該可動子における該軸方向の端部に該第一案内筒部又は該第二案内筒部が外挿されていることを、特徴とする。
【0023】
本態様に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、磁極形成部位の軸方向内方に加えて、軸方向外方にも案内筒部を設けることが出来る。これにより、可動子の端部が磁極形成部位よりも軸方向外方に突出せしめられるような場合でも、かかる可動子の突出端部を案内筒部によって軸方向に案内することが出来て、可動子の傾きを抑えることが出来る。
【0024】
また、本態様においては、磁極形成部位のみを避けるようにして、第一及び第二の案内筒部を可及的に長い軸寸法をもって形成することも可能である。これにより、可動子の駆動範囲の略全体をガイドすることが可能となる。
【0025】
(ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様3)
ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の第三の態様は、前記態様1又は2に係るソレノイド型アクチュエータにおいて、前記第一案内筒部及び/又は前記第二案内筒部の前記ガイド内面における軸方向端縁部の少なくとも一方において、軸方向外方に向かって拡径する面取りが施されていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、可動子と案内筒部の内周側端縁部との擦れを軽減して、偏磨耗をより軽減することが出来ると共に、擦れによる異音や振動の発生なども軽減することが出来る。
【0026】
(防振用アクチュエータに関する本発明)
防振用アクチュエータに関する本発明は、軸方向に往復変位可能に離隔配置された出力部材を、防振すべき振動に対応して加振駆動せしめる防振用アクチュエータであって、前記態様1乃至3の何れかの態様に係るソレノイド型アクチュエータを用い、該ソレノイド型アクチュエータの前記可動子に対して前記出力部材を連結すると共に、前記コイルに対して目的とする振動に対応した周波数成分を有する駆動電圧を印加して該可動子を軸方向に加振駆動せしめることによって、該出力部材を加振駆動するようにしたことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた防振用アクチュエータにおいては、ソレノイド型アクチュエータが発揮する前述の如き効果に基づいて、可動子の偏磨耗を軽減して、安定した作動特性を長期に亘って得ることが出来る。このような防振用アクチュエータは、例えば自動車用のエンジンマウントやボデーマウント、能動型防振用制振器など、各種の防振装置に適用することが可能である。なお、周波数成分を有する駆動電圧としては、交流のみならず脈流等でも良いし、アナログ的なもののみならずデジタル的に制御されたものでも良い。
【0027】
(能動型防振装置に関する本発明の態様1)
能動型防振装置に関する本発明の第一の態様は、相互に連結されることにより振動伝達系を構成する一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結する一方、該本体ゴム弾性体によって壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室を形成すると共に、該受圧室の壁部の別の一部を加振部材で構成し、該加振部材に加振力を及ぼすアクチュエータを設けて、該アクチュエータで該加振部材を加振駆動することにより該受圧室の圧力を能動的に制御するようにした能動型防振装置において、前記アクチュエータとして前記防振用アクチュエータを用い、前記固定子を略収容状態で固定的に支持せしめるハウジングを前記第二の取付部材に固定する一方、前記加振部材を該防振用アクチュエータにおける前記出力部材として前記可動子と連結することによって、該防振用アクチュエータで該加振部材を加振駆動するようにしたことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた能動型防振装置においては、防振用アクチュエータが発揮する前述の如き効果に基づいて、可動子の偏磨耗を軽減して、安定した作動特性を長期に亘って得ることが出来る。
【0028】
(能動型防振装置に関する本発明の態様2)
能動型防振装置に関する本発明の第二の態様は、前記態様1に係る能動型防振装置において、前記可動子に軸方向に貫通する貫通孔を設けて、前記加振部材から突設したインナロッドを該貫通孔に挿通せしめると共に、該可動子に設けた連結部と該インナロッドを軸直方向の相対変位を可能に連結する相対変位許容連結手段を設けたことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた能動型防振装置においては、可動子が軸直方向に変位せしめられた場合でも、相対変位許容連結手段によって可動子とインナロッドとの軸直角方向(変位方向に直交する方向)での相対的な位置ずれが許容されていることから、可動子の軸直方向変位の影響がインナロッド、延いては加振部材に及ぼされることが回避されて、より安定した作動を実現することが出来る。
【0029】
(能動型防振用制振器に関する本発明)
能動型防振用制振器に関する本発明は、防振対象部材に装着されることにより、該防振対象部材に加振力を及ぼして能動的な制振作用を発揮する能動型防振用制振器であって、前記防振用アクチュエータを用い、該防振用アクチュエータにおける前記固定子と前記可動子の一方において前記防振対象部材に固定するための取付部を設けると共に、それら固定子と可動子の他方にマス部を設けたことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた能動型防振用制振器においては、防振用アクチュエータが発揮する前述の如き効果に基づいて、可動子の偏磨耗を軽減して、安定した作動特性を長期に亘って得ることが出来る。
【発明の効果】
【0030】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、案内筒部を分割して、可動子の軸方向両端部をそれぞれ案内することによって、可動子を軸方向に安定して駆動せしめることが出来る。更に、可動子を軸方向に安定して駆動せしめることによって偏磨耗を軽減して、目的とする作動特性を長期に亘って安定して得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0032】
先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての能動型防振装置としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が、互いに離隔して対向配置されていると共に、それらの間に介装された本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されたマウント本体18が、ストッパ金具20に嵌め込まれて構成されている。そして、エンジンマウント10は、第一の取付金具12が図示しないパワーユニットに取り付けられる一方、第二の取付金具14が図示しない自動車ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。また、そのような装着状態下、かかるエンジンマウント10には、図1中の上下方向となるマウント中心軸方向で第一の取付金具12と第二の取付金具14の間にパワーユニットの分担荷重が及ぼされることにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が相互に接近する方向に本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられるようになっている。更に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、両取付金具12,14が相互に接近/離隔する方向に、防振すべき主たる振動が入力されるようになっている。なお、以下の説明中、上下方向とは、原則として図1中の上下方向を言うものとする。
【0033】
より詳細には、第一の取付金具12は、逆向きの円錐台形状を有している。また、第一の取付金具12の大径側端部には、外周面上に突出する円環板状のストッパ部22が一体形成されている。更に、大径側端部から軸方向上方に向かって固定軸24が一体的に突設されており、この固定軸24には、上端面に開口する固定用ねじ穴26が形成されている。そして、この固定用ねじ穴26に螺着される図示しない固定ボルトによって、第一の取付金具12が、図示しない自動車のパワーユニットに取り付けられるようになっている。
【0034】
また一方、第二の取付金具14は、大径の略円筒形状を有している。また、第二の取付金具14の軸方向中間部分には、段部28が形成されており、この段部28を挟んで軸方向上側が大径部30とされている一方、軸方向下側が小径部32とされている。なお、大径部30の内周面には、薄肉のシールゴム層34が被着形成されている。更に、小径部32の下側開口端部付近には、可撓性膜としての薄肉のゴム膜からなるダイヤフラム36が配設されており、かかるダイヤフラム36の外周縁部が第二の取付金具14の小径部32の内周面に加硫接着されることで、第二の取付金具14の軸方向下側開口部が流体密に覆蓋されている。また、ダイヤフラム36の中央部分には、連結金具38が加硫接着されている。
【0035】
そして、第二の取付金具14の軸方向上方に離隔して、第一の取付金具12が位置せしめられており、これら第一の取付金具12と第二の取付金具14が、本体ゴム弾性体16で弾性的に連結されている。
【0036】
本体ゴム弾性体16は、全体として略円錐台形状を有しており、大径側端面にはすり鉢状の凹状面40が形成されている。また、本体ゴム弾性体16の小径側端面には、第一の取付金具12が、軸方向に差し入れられた状態で加硫接着されている。なお、第一の取付金具12のストッパ部22は、本体ゴム弾性体16の小径側端面に重ね合わされて、本体ゴム弾性体16に覆われるようにして加硫接着されていると共に、ストッパ部22から上方に突出する当接ゴム42が、本体ゴム弾性体16と一体的に形成されており、当接ゴム42の内方には凹溝44が形成されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側外周面には、連結スリーブ46が加硫接着されている。
【0037】
かかる本体ゴム弾性体16の大径側外周面に加硫接着された連結スリーブ46が、第二の取付金具14の大径部30に嵌め込まれて、大径部30が縮径加工されることにより、本体ゴム弾性体16が第二の取付金具14に対して流体密に嵌着固定される。これにより、第二の取付金具14の軸方向上側開口部が、本体ゴム弾性体16によって流体密に覆蓋されることとなり、以て、第二の取付金具14の内部には、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム36との対向面間において、外部空間から流体密に遮断された封入領域としての液室48が形成されて、その液室48に非圧縮性流体が封入されている。
【0038】
なお、封入される非圧縮性流体としては、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等が何れも採用可能であり、特に、流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るために、粘度が0.1Pa.s以下の低粘性流体が好適に採用される。
【0039】
さらに、第二の取付金具14には、仕切部材50とオリフィス部材52が組み込まれており、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム36との対向面間に配設されている。
【0040】
仕切部材50は、所定厚さをもって広がる支持ゴム弾性体54を有しており、この支持ゴム弾性体54の中央部分に加振部材としての加振板56が加硫接着されている。加振板56は、浅底の略逆カップ形状を有しており、その外周縁部が、支持ゴム弾性体54の内周縁部に加硫接着されている。なお、加振板56の上部には、支持ゴム弾性体54が回り込んで肉厚とされた緩衝部58が形成されている。
【0041】
また、支持ゴム弾性体54の外周縁部には、円環形状の外周金具60が加硫接着されており、かかる外周金具60には、周方向に所定長さで延びる周溝62が形成されている。そして、この外周金具60の軸方向上側開口部が、径方向外方に広がるフランジ状部64とされて、フランジ状部64が第二の取付金具14の段部28に重ね合わされて、段部28と連結スリーブ46の間で挟圧固定されている。これにより、仕切部材50は、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム36の対向面間の中間部分で軸直角方向に広がって配設されており、第二の取付金具14の内部を軸方向両側に二分せしめている。以て、仕切部材50を挟んで、上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づく圧力変動が生ぜしめられる振動作用室としての作用流体室66が形成されている。一方、仕切部材50の下側には、壁部の一部がダイヤフラム36で構成されて容積変化が容易に許容される平衡室68が形成されている。
【0042】
また、オリフィス部材52は、上下の薄肉プレート53a,53bが互いに重ね合わされることによって構成されており、その外周縁部が、外周金具60のフランジ状部64に重ね合わされて、フランジ状部64と本体ゴム弾性体16の大径側端部内周縁部との間で挟持されることにより、外周金具60を介して第二の取付金具14によって固定的に支持されている。これにより、オリフィス部材52は、本体ゴム弾性体16と仕切部材50との対向面間の中間部分で軸直角方向に広がって配設されており、作用流体室66を軸方向両側に二分せしめている。以て、オリフィス部材52を挟んで、上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室70が形成されている。一方、オリフィス部材52の下側には、壁部の一部が加振板56で構成された加振室72が形成されている。
【0043】
また、オリフィス部材52の外周縁部には、上下の薄肉プレート53a,53bの重ね合わせ面間を周方向に連続して延びる周方向通路74が形成されている。この周方向通路74の一方の端部が受圧室70に接続されていると共に、他方の端部が加振室72に接続されている。これにより、受圧室70と加振室72を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路76が形成されている。なお、第一のオリフィス通路76は、例えば、30〜40Hz程度のアイドリング振動等の中周波数域にチューニングされる。
【0044】
更にまた、オリフィス部材52の外周縁部は、仕切部材50の外周縁部に重ね合わせられており、外周金具60の外周縁部に形成された周溝62が覆蓋されることによって第二のオリフィス通路78が形成されている。この第二のオリフィス通路78は、一方の端部が加振室72と第一のオリフィス通路76を通じて受圧室70に接続されていると共に、他方の端部が平衡室68に接続されている。これにより、受圧室70と平衡室68を相互に連通せしめる第二のオリフィス通路78が形成されている。なお、第二のオリフィス通路78は、例えば10Hz前後のエンジンシェイク等の低周波数域にチューニングされる。
【0045】
なお、オリフィス通路の具体的形態やチューニングは何等限定されるものでなく、上述のような態様の他、例えば、オリフィス部材52の中央部分を貫通して受圧室70と加振室72を直接に連通せしめる透孔形態の第一のオリフィス通路を形成して、該第一のオリフィス通路を50〜150Hz程度のこもり音等の高周波数域にチューニングする一方、オリフィス部材52の周方向通路74と外周金具60の周溝62を直接に直列的に接続することによって第二のオリフィス通路を形成するようにしても良い。
【0046】
さらに、上述の如き構造とされたマウント本体18は、第二の取付金具14がストッパ金具20に嵌め込まれており、このストッパ金具20を介して、図示しない自動車のボデーに取り付けられるようになっている。
【0047】
ストッパ金具20は大径の段付円筒形状とされて、その下側の方が上側よりも大径とされており、マウント本体18が下側開口部から挿し入れられて、係止段差部80で係止されて圧入固定されている。一方、上側開口部には内方に延び出す当接部82が形成されており、かかる当接部82に第一の取付金具12のストッパ部22が当接ゴム42を介して当接することで、リバウンド方向のストッパ機能が発揮される。なお、当接部82には挿通孔84が貫設されて、第一の取付金具12の固定軸24との間に適当な間隙が保たれており、第一の取付金具12の軸直角方向の相対変位が許容されている。また、第一の取付金具12の固定軸24には、ストッパ金具20の挿通孔84を覆うように広がる傘上の庇部材86が装着せしめられている。
【0048】
そして、ストッパ金具20に嵌め込まれた第二の取付金具14は、ストッパ金具20の係止段差部80で係止されて圧入固定されることで、抜け出し不能に固定されている。また、ストッパ金具20には、外周面上に突出して下方に延び出す複数の脚部88が固着されており、これら脚部88が図示しない自動車のボデーに載置され、固定ボルトで固定されることによってエンジンマウント10が自動車のボデーに装着される。
【0049】
また、マウント本体18においては、仕切部材50に設けられた加振板56がダイヤフラム36に設けられた連結金具38に対して密着状態で重ね合わされて固定されている。そして、これら加振板56と連結金具38に対してインナロッドとしての駆動ロッド90が固着されて、かかる駆動ロッド90が加振板56および連結金具38から軸方向下方に突出せしめられている。
【0050】
なお、連結金具38には、ダイヤフラム36と一体形成された挟圧ゴム層92が、略全周に亘って被着せしめられており、これによって、加振板56との重ね合わせ面間が流体密にシールされている。また、加振板56と連結金具38は、それぞれ中央の各上底部において重ね合わせられており、それら中央部分において、駆動ロッド90の上端部に一体形成されたかしめ部94が挿通されている。かかるかしめ部94によって、加振板56と連結金具38は密着状態でかしめ固定されており、駆動ロッド90が、加振板56から連結金具38を貫通して外方に向かって軸方向下方に突出せしめられていると共に、加振板56と連結金具38が一体とされて、後述するアーマチャ142に向かって開口する凹所96が形成されている。また、凹所96の周壁部98付近には、周壁部98を覆う形で緩衝ゴム部100がダイヤフラム36と一体形成されている。
【0051】
さらに、駆動ロッド90が突出せしめられた第二の取付金具14の軸方向下方、即ち、加振板56と連結金具38を挟んで作用流体室66と反対側には、防振用アクチュエータとしての電磁加振器102が配設されており、第二の取付金具14に支持せしめられている。
【0052】
電磁加振器102は、コイル104と、コイル104の周りを取り囲むようにしてコイル104に固定的に組み付けられたハウジング106から構成されている。ハウジング106は、その軸方向上側中央部分に上透孔108が貫設される一方、軸方向下側中央部分に上透孔108と略等しい径寸法を有する下透孔109が貫設されていると共に、コイル104の外周面と上下両端面を囲むようにしてコ字状断面で略全周に亘って延びる強磁性材からなるヨーク部材110が形成されている。そして、コイル104とヨーク部材110によって、コイル通電時に固定側磁路が形成される固定子が構成されており、かかる固定子と後述する可動子としてのアーマチャ142によってソレノイド型アクチュエータが構成されている。なお、特に本実施形態においては、ハウジング106として別個に独立した部材を設けること無しに、固定子の一部を構成するヨーク部材110の一部がハウジング106とされている。
【0053】
より詳細には、コイル104は、非磁性材料からなるボビン112に巻回されたコイル104に対して、非磁性材料からなるカバー部材114がコイル104の外周を覆うようにして設けられている。かかるカバー部材114は例えば、ボビン112にコイル104を巻回した後に、樹脂成形される。また、カバー部材114にはハウジング106に貫設された開口部から外部に突出する給電口116が一体形成されており、かかる給電口116の内部に設けられた端子を通じてコイル104に対して電源が供給されるようになっている。
【0054】
一方、ヨーク部材110は、コイル104の上部を覆うように配設された上ヨーク118と、コイル104の外周面と下端面を囲むようにして略全周に亘ってL字状断面で延びる下ヨーク120から構成されている。そして、上ヨーク118の外周側端部と下ヨーク120の上端部が接触した状態でコイル104を覆うように配設されており、これら上ヨーク118と下ヨーク120によってコイル104への通電によって生じる磁束が流れる固定側磁路が構成されており、上透孔108及び下透孔109の内周側端縁部がそれぞれ、コイル120への通電時に磁極が形成される磁極形成部位としての上側磁極122及び下側磁極124とされている。
【0055】
また、図2に示すように、上ヨーク118において上透孔108が形成される中央部分には、軸方向上方に立ち上がる中央壁部126が形成されており、かかる中央壁部126の内周面における上側磁極122の上方には、第一案内筒部材としての上側スリーブ128が組み付けられている。上側スリーブ128は、上透孔108の磁極内面より僅かに突出する内径寸法の滑らかなガイド内面としての上側筒状案内面130を有する円筒形状とされている。また、上側筒状案内面130の軸方向両端部は全周に亘って面取り処理が施されており、僅かに拡径されている。
【0056】
一方、コイル104の中心孔内には、上ヨーク118及び下ヨーク120によって形成される上下の内周端縁部の開口を覆蓋するようにして、第二案内筒部材としての下側スリーブ132が組み付けられている。下側スリーブ132は、下透孔109の磁極内面より僅かに突出して、前記上側筒状案内面130と略等しい内径寸法の滑らかなガイド内面としての下側筒状案内面134を有する円筒形状とされている。また、下側スリーブ132においても、下側筒状案内面134の軸方向両端部に全周に亘る面取り処理が施されて僅かに拡径されており、特に本実施形態においては、下側筒状案内面134の上側部位においては、上端縁部からやや内方の部位に拡径処理が施されている。
【0057】
そして、これら上側スリーブ128と下側スリーブ132が、コイル104の中心孔内に差し入れられるようにして互いに同軸上に配設されることによって、後述するアーマチャ142を軸方向に案内する案内筒部が構成されている。
【0058】
なお、かかる上下側スリーブ128,132の材料としては、非磁性材であれば何等限定されることはないが、円滑な案内作用を得るために低摩擦性材料が好適に採用される。更に、コイル104の中心孔内はコイル104への通電等による発熱によって高温状態となり易いことから、高温状態に晒されても歪などの変形が生じ難い耐熱性に優れた材料がより好適に用いられる。例えば、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、ニッケル等の非磁性の金属材料や、ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン、ナイロン66やフェノール樹脂等の樹脂材料等が好適に採用され得る。
【0059】
一方、ハウジング106の外周縁部には、係合溝136が刻設されており、係合溝136に対して第二の取付金具14の下端縁部に形成された係止片138が嵌め入れられて係止されることで、電磁加振器102が第二の取付金具14の下端開口部を覆蓋するようにして取り付けられている。このように、本実施形態においては、電磁加振器102は、ブラケットなどの別体を介することなく、第二の取付金具14に直接に固定されていることから、加振板56とコイル104の中心軸との組付け時の位置ずれが軽減されている。なお、電磁加振器102のハウジング106と第二の取付金具14との間には、ダイヤフラム36が下方に延び出して形成された挟圧ゴム140が挟圧されていることで、電磁加振器102のガタツキが防止されている。これにより、コイル104の中心軸が、マウント本体18の中心軸と略一致せしめられて、第二の取付金具14や加振板56の中心軸と位置合わせされる。また、ハウジング106の下方には蓋部材141がボルト固定されており、ハウジング106の下透孔109に粉塵等が侵入するのを防止している。
【0060】
そして、コイル104が組み付けられたハウジング106の上下透孔108,109内には、可動子としてのアーマチャ142が組み付けられている。アーマチャ142は全体として略円形ブロック形状の強磁性体によって形成されており、上下側スリーブ128,132の内径寸法よりも僅かに小さい外径寸法とされて、上下側スリーブ128,132に差し入れられるようにして、コイル104と略同一中心軸上で軸方向に相対変位可能に組み付けられている。
【0061】
より詳細には、アーマチャ142は、上下側磁極122,124に跨る軸方向長さ寸法を有していると共に、その上側磁極122の近くには、外周面上に開口する周溝144が形成されている。そして、周溝144から上端縁部に至る外周面に対して、上側スリーブ128が外挿配置せしめられている一方、周溝144から下端縁部に至る外周面に対して、下側スリーブ132が外挿配置せしめられている。これにより、アーマチャ128の軸方向上下両端部が、上下側スリーブ128,132によってそれぞれ案内されるようになっている。
【0062】
そして、アーマチャ142における軸方向上端部と下端部が磁力作用部位とされており、例えば、図示されている如き、アーマチャ142の周溝144の上側端縁部と上ヨーク118の上側磁極122との間、およびアーマチャ142の軸方向下端縁部と下ヨーク120の下側磁極124との間に、それぞれ有効な磁気吸引力が作用せしめられる磁気ギャップが位置調節されて形成されるようになっている。このことから明らかなように、本実施形態においては、アーマチャ142の上端部は上側磁極122よりも軸方向上方に突出可能とされている。また、アーマチャ142の外周面には、各種公知のコーティング剤による低摩擦処理や防錆処理が施されている。更に、アーマチャ142の軸方向両端部は全周に亘って面取りが施されており、上下側スリーブ128、132に対する擦れによる磨耗や異音の発生等が軽減されている。なお、蓋部材141のアーマチャ142の下端面との対向部位には、緩衝ゴム145が接着されており、アーマチャ142が蓋部材141と緩衝的に当接することで、打ち当たり音が軽減されると共に、耐久性が向上せしめられている。
【0063】
さらに、アーマチャ142には、中心軸上を貫通する貫通孔としての挿通孔146が形成されている。そして、挿通孔146の軸方向中央部分よりやや上方には、内方に突出する連結部としての内方突出部148が形成されており、この内方突出部148を挟んで軸方向上側が小径部150とされると共に、軸方向下側が大径部152とされている。
【0064】
そして、アーマチャ142の挿通孔146には、駆動ロッド90が隙間を持った遊挿状態で挿し入れられており、その下端部がアーマチャ142の内方突出部148よりも下方に突出せしめられている。かかる駆動ロッド90の突出した下端部には、内方突出部148の内径寸法よりやや大きな外径寸法を有する円環状の支持部材154が外挿されており、駆動ロッド90の先端に螺着されたボルト155によって駆動ロッド90から抜け出し不能に支持されている。この支持部材154がアーマチャ142の内方突出部148に対して下面から係止されることによって、アーマチャ142が支持部材154から軸方向下方に抜け出し不能に係止されている。
【0065】
また、駆動ロッド90における内方突出部148を挟んで支持部材154の反対側には、内方突出部148の内径寸法よりも大きな外径寸法を有する円環状の押さえ部材156が外挿されており、押さえ部材156が内方突出部148の上面に重ね合わされている。更に、押さえ部材156は、駆動ロッド90の軸方向中間部分に形成された段差面158と押さえ部材156の上面との間に挟圧状態で駆動ロッド90に外挿されたゴム輪160の弾性によって軸方向下方への付勢力が及ぼされている。このゴム輪160には、ボルト155の締付力が段差面158と押さえ部材156との間で作用せしめられている。それにより、ゴム輪160は、アーマチャ142から駆動ロッド90に対して及ぼされる程度の軸方向の駆動力に対しては殆ど変形しない程度のばね剛性を発揮するようになっている。
【0066】
このように、アーマチャ142の内方突出部148に対して押さえ部材156と支持部材154が上下から重ね合わされて、ゴム輪160の弾性で当接状態に保持されており、アーマチャ142が軸方向で略固定的に位置決めされている。而して、駆動ロッド90とアーマチャ142はゴム輪160の弾性によって軸方向で相対的に位置決めされた状態で連結されており、コイル104への通電によってアーマチャ142に作用せしめられる駆動力が駆動ロッド90に対して軸方向に及ぼされるようになっている。そして、アーマチャ142と加振板56が駆動ロッド90を介して連結されることによって、加振板56が、防振用アクチュエータとしての電磁加振器102の出力部材とされている。
【0067】
また、これら支持部材154、押さえ部材156及び駆動ロッド90は、それらの外周面とアーマチャ142の内周面との軸直方向対向面間に所定の空隙が形成されている。そして、支持部材154と押さえ部材156のゴム輪160の弾性による内方突出部148に対する当接力を調節することによって、これら支持部材154及び押さえ部材156と内方突出部148との間に生ずる静止摩擦力を超える軸直方向の外力がアーマチャ142に及ぼされた場合には、駆動ロッド90に対するアーマチャ142の軸直角方向の相対的な滑り変位が許容されるようになっており、これら内方突出部148、支持部材154、押さえ部材156及びゴム輪160によってアーマチャ142と駆動ロッド90の軸直方向相対変位を可能に連結する相対変位許容連結手段が構成されている。これにより、各部材の製造上の寸法誤差や組み付け時の位置決め誤差等に起因する駆動ロッド90とアーマチャ142との相対的な位置ずれを有利に吸収することが出来て、アーマチャ142をコイル104に対して軸直方向にも安定して位置決めすることが出来ると共に、アクチュエータ作動時における一時的な軸ずれも有利に吸収されることとなって、安定した作動特性を得ることが出来る。
【0068】
なお、駆動ロッド90に対するアーマチャ142の軸直方向の相対変位量は、支持部材154、押さえ部材156乃至は駆動ロッド90の外周端縁部とアーマチャ142の内周面との軸直方向対向面間距離によって規定されるが、許容変位量としては、0.2mm〜3mmの範囲が好適に採用される。また、アーマチャ142の滑り変位をより良好に実現するために、例えばポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン等の低摩擦性材料による摺動部材をこれらの摺動面に組み込んだり、低摩擦処理を施す等しても良い。
【0069】
上述の如き構造とされたエンジンマウント10は、図示はされていないが、コイル104への通電を制御することが可能であり、例えば、パワーユニットのエンジン点火信号を参照信号とすると共に、防振すべき部材の振動検出信号をエラー信号として、適応制御等のフィードバック制御を行なうことによって、或いは予め設定された制御データに基づくマップ制御を利用すること等によって通電制御することが出来る。これにより、アーマチャ142に磁力を作用せしめて軸方向下方に加振駆動せしめると共に、コイル104への通電を停止して支持ゴム弾性体54の復元力を作用せしめることで、加振板56に対して、防振すべき振動に対応した駆動力を作用せしめ、以て作用流体室66の内圧制御による能動的防振効果を得ることが出来るのである。
【0070】
そこにおいて、本実施形態のエンジンマウント10では、アーマチャ142の軸方向上端部と下端部がそれぞれ上側スリーブ128と下側スリーブ132によって軸方向に案内されることから、部品公差や支持ゴム弾性体54の不規則な弾性変形等によって生じるアーマチャ142の傾きを有効に抑えることが出来る。これにより、上下側筒状案内面130,134との擦れによる偏磨耗を軽減して、アーマチャ142に施されたコーティング処理による摺動特性や防錆特性を長期に亘って維持することが出来る。更に、アーマチャ142を軸方向に安定して駆動せしめることによって、安定した防振効果を得ることも出来る。
【0071】
更にまた、案内筒部を上側スリーブ128と下側スリーブ132に分割して構成したことによって、磁極を挟んで案内筒部を設けることも可能とされている。例えば本実施形態においては、上ヨーク118に形成される上側磁極122を挟んで軸方向両側に上側スリーブ128と下側スリーブ132が配設されており、それによって磁極よりも軸方向外方に突出する部位を有する本実施形態の如きアーマチャ142についても、かかる突出部位を軸方向に案内することが可能となるのである。
【0072】
加えて、本実施形態においては、相対変位許容連結手段としての支持部材154及び押さえ部材156によって駆動ロッド90とアーマチャ142との軸直角方向の相対変位が可能とされていることから、アーマチャ142の傾きが矯正されることによってアーマチャ142と駆動ロッド90との間に相対的な位置ズレが生じるような場合にも、相対変位許容連結手段によってかかる位置ズレが吸収されて、駆動ロッド90に影響を及ぼすことが回避乃至は軽減されており、より安定した軸方向加振駆動が可能とされている。
【0073】
そして、可動子を案内する案内筒部を分割して設けたことによって、上述の如き様々な効果を、長尺の案内筒部を製造することなく、優れたコスト効率をもって容易に実現することが可能となるのである。
【0074】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0075】
例えば、第一案内筒部や第二案内筒部の具体的な形状は、可動子やヨーク部材の形状、配設される部位等に応じて各種の形状が採用可能であって、何等限定されるものではない。図3に示すように、前述の実施形態における下側スリーブ132の軸方向寸法を短く形成することも可能である。このような態様によれば、コイルへの通電等によって高温状態となるコイル中央孔の中間部分を避けて案内部材を配設することが出来て、熱による案内部材の変形を軽減乃至は回避することが出来る。更に、アーマチャ142の両端部に外挿されていることによって、外気に晒される部位を有することや、アーマチャ142の作動によって生じる空気の出入りによる冷却効果を利用することも出来ることから、熱による影響をより軽減することが出来る。加えて、アーマチャ142と下側スリーブ132との間に形成される微小隙間の軸方向長さを小さくすることが出来ることから、粉塵の噛み込み等を軽減することも出来る。なお、図3において前述の図1におけるエンジンマウント10と同様な構造とされた部材及び部位については、それぞれ、図中に、図1におけるエンジンマウント10と同一の符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0076】
また、案内部材の分割数は必ずしも二分割に限定されるものではないのであって、可動子の軸方向長さや駆動範囲等によっては、より多数の案内筒部を設けることも可能である。例えば前述の図3における下側スリーブ132と上ヨーク118との間に更に案内筒部を設けてもよい。
【0077】
また、電磁加振器102におけるアーマチャ142や上下ヨーク118,120の具体的形状についても何等限定されるものではなく、例えば、前述の実施形態における下ヨーク120の下端部を更に内方に延び出させることによって、かかる内方延長部に磁極を形成して、アーマチャ142の下端部との間で磁気ギャップを形成する等しても良い。
【0078】
また、アーマチャ142と駆動ロッド90との軸直方向の相対変位を許容する相対変位許容連結手段の具体的態様は、前述の態様に限定されるものではない。例えば、ゴム輪160の代わりにコイルスプリングを用いて、駆動ロッド90の段差面158と押さえ部材156の上端面との間に圧縮状態で配設することによって、アーマチャ142をより積極的に支持部材154側に付勢しても良いし、更に押さえ部材156を用いることなく、駆動ロッド90の段差面158とアーマチャ142の内方突出部148の上端面との間にコイルスプリングを圧縮状態で配設する等しても良い。また、アーマチャ142を駆動ロッド90から軸方向下方に抜け出し不可能に支持する手段としては例えば、駆動ロッド90の先端部分に雄ねじを形成して、支持部材154の代わりに支持部材154の如き外径寸法を有するナット部材を螺着することによって、アーマチャ142を支持すること等も可能である。更にまた、上側スリーブ128、下側スリーブ132の少なくとも一方を、ヨーク部110に対して軸直角方向で微小変位が許容されるように組み付けても良い。このように、上側スリーブ128、下側スリーブ132を軸直角方向で相対変位可能とすることにより、これら両スリーブ128,132をヨーク部110に組み付けるに際して、相対的な中心軸合わせの要求精度を緩和することが出来る。
【0079】
加えて、本発明は、自動車用のボデーマウントやメンバマウント等、或いは自動車以外の各種装置におけるマウントや制振器などの防振装置や、そのような防振装置に用いられる防振用アクチュエータに対して、同様に適用可能である。
【0080】
例えば、本発明を適用した能動型制振器としては、具体的には、前述の実施形態に示された電磁加振器102におけるハウジング106の開口部側に金属板等からなる取付部としての加振板を弾性的に連結すると共に、かかる加振板とアーマチャ142を連結せしめる一方、加振板を取付部として制振すべき振動部材に対して固定的に取り付けて、コイル104を含むハウジング106を、振動部材に対して弾性的に連結支持せしめることにより、コイル104を含むハウジング106を、コイル104への通電によって振動部材に対して能動加振されるマスとして作用せしめることが出来るのである。
【0081】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図である。
【図2】図1に示したエンジンマウントの要部拡大図である。
【図3】本発明における案内筒部の異なる態様を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
【0083】
10 エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
56 加振板
68 平衡室
70 受圧室
72 加振室
90 駆動ロッド
102 電磁加振器
104 コイル
118 上ヨーク
120 下ヨーク
128 上側スリーブ
132 下側スリーブ
142 アーマチャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルの周囲にヨーク部材を組み付けて固定側磁路を備えた固定子を構成すると共に、該コイルの中心孔に差し入れられるようにして可動子を配設し、該コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用で該可動子を駆動せしめるようにする一方、該可動子の外周面を該コイルの軸方向に案内する筒状のガイド内面を有する案内筒部を、該コイルの中心孔に差し入れて該ヨーク部材で支持せしめて配設したソレノイド型アクチュエータにおいて、
前記案内筒部を、前記可動子の軸方向における一方の端部に外挿されて該一方の端部を案内する第一案内筒部と、該第一案内筒部から独立形成されて該可動子の他方の端部に外挿されて該他方の端部を案内する第二案内筒部によって構成したことを特徴とするソレノイド型アクチュエータ。
【請求項2】
前記可動子における軸方向の端部が、前記固定子において磁極を生ぜしめる磁極形成部位よりも軸方向に突出せしめられている一方、前記第一案内筒部と前記第二案内筒部が軸方向において該磁極形成部位を挟んで配設されていることによって、該可動子における該軸方向の端部に該第一案内筒部又は該第二案内筒部が外挿されている請求項1に記載のソレノイド型アクチュエータ。
【請求項3】
前記第一案内筒部及び/又は前記第二案内筒部の前記ガイド内面における軸方向端縁部の少なくとも一方において、軸方向外方に向かって拡径する面取りが施されている請求項1又は2に記載のソレノイド型アクチュエータ。
【請求項4】
軸方向に往復変位可能に離隔配置された出力部材を、防振すべき振動に対応して加振駆動せしめる防振用アクチュエータであって、
請求項1乃至3の何れかに記載のソレノイド型アクチュエータを用い、該ソレノイド型アクチュエータの前記可動子に対して前記出力部材を連結すると共に、前記コイルに対して目的とする振動に対応した周波数成分を有する駆動電圧を印加して該可動子を軸方向に加振駆動せしめることによって、該出力部材を加振駆動するようにしたことを特徴とする防振用アクチュエータ。
【請求項5】
相互に連結されることにより振動伝達系を構成する一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結する一方、該本体ゴム弾性体によって壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室を形成すると共に、該受圧室の壁部の別の一部を加振部材で構成し、該加振部材に加振力を及ぼすアクチュエータを設けて、該アクチュエータで該加振部材を加振駆動することにより該受圧室の圧力を能動的に制御するようにした能動型防振装置において、
前記アクチュエータとして請求項4に記載の防振用アクチュエータを用い、前記固定子を略収容状態で固定的に支持せしめるハウジングを前記第二の取付部材に固定する一方、前記加振部材を該防振用アクチュエータにおける前記出力部材として前記可動子と連結することによって、該防振用アクチュエータで該加振部材を加振駆動するようにしたことを特徴とする能動型防振装置。
【請求項6】
前記可動子に軸方向に貫通する貫通孔を設けて、前記加振部材から突設したインナロッドを該貫通孔に挿通せしめると共に、該可動子に設けた連結部と該インナロッドを軸直方向の相対変位を可能に連結する相対変位許容連結手段を設けた請求項5に記載の能動型防振装置。
【請求項7】
防振対象部材に装着されることにより、該防振対象部材に加振力を及ぼして能動的な制振作用を発揮する能動型防振用制振器であって、
請求項4に記載の防振用アクチュエータを用い、該防振用アクチュエータにおける前記固定子と前記可動子の一方において前記防振対象部材に固定するための取付部を設けると共に、それら固定子と可動子の他方にマス部を設けたことを特徴とする能動型防振用制振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−49349(P2006−49349A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223944(P2004−223944)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】