説明

ソレノイド型アクチュエータおよびそれを用いた能動型防振装置

【課題】 コイルへの通電によって加振力を発生するソレノイド型アクチュエータにおいて、可動子の偏磨耗を軽減することによって、目的とする作動特性が長期に亘って安定して発揮され得る、改良された構造のソレノイド型アクチュエータを提供すること。
【解決手段】 ロッド基端側連結手段146,156によって連結ロッド90の軸方向一端部を可動子138に対して軸直角方向の相対変位を許容しつつ連結して、該連結ロッド90に外挿されて該連結ロッド90を軸方向に案内する案内面172を有する補助案内部材170を固定子104、110によって支持せしめた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用で可動子を駆動せしめるソレノイド型アクチュエータと、それを用いた能動型防振装置に係り、特に自動車のエンジンマウントやボデーマウント,制振器などの防振装置において好適に採用されるソレノイド型アクチュエータおよびそれを用いた能動型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振支持体や防振連結体、或いは防振すべき振動部材に対して装着される制振装置などの防振装置の一種として、防振対象部材や防振装置に加振力を及ぼすことにより、防振すべき振動を積極的乃至は相殺的に低減せしめるようにした能動型防振装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものが、それである。
【0003】
このような能動型防振装置では、加振力を発生するアクチュエータが必要であり、かかるアクチュエータにおいては、発生加振力に関して周波数や位相の高度の制御性が要求される。
【0004】
そこで、能動型防振装置に採用される防振用アクチュエータとしては、上述の特許文献1や、特許文献2にも記載されているように、一般に、コイルの周囲にヨーク部材を組み付けた固定子によって磁路を形成する一方、コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用で駆動力が及ぼされる可動子を設けることによって、コイルへの通電によって可動子を軸方向に駆動するソレノイドを用いた電磁式のソレノイド型アクチュエータが、好適に採用される。
【0005】
そして、このようなソレノイド型アクチュエータは、軸方向に変位可能に配設された出力部材と可動子が連結ロッドで連結されることによって、出力部材を加振駆動せしめるようにされており、コイルへの通電を制御することによって、発生加振力を高度に制御することが可能とされている。
【0006】
ところで、このようなソレノイド型アクチュエータは、例えば防振用アクチュエータとして防振装置に適用される際には、可動子を1mm以下の振幅をもって数十Hz以上の高周波数域において加振駆動せしめるという、高精度な加振駆動が要求される。このような高精度な加振駆動を安定して実現するために、ガイド内面を有する案内筒部材に可動子を挿入配置して、かかるガイド内面によって可動子を駆動方向に案内するガイド機構が、好適に採用される。
【0007】
かかるガイド機構によって、可動子の安定駆動が図られているのであるが、部品公差や組み付け誤差、或いは加振駆動時における一時的な傾き等に起因する出力部材の傾きが、連結ロッドを介して可動子に及ぼされて、可動子を傾けるおそれがあった。可動子と案内筒部材との空隙は非常に小さいことから、かかる可動子の僅かな傾きによって、案内筒部材に対する可動子の片あたり状態が生じて、可動子が案内筒部材に対してこじりながら摺動するおそれがあった。
【0008】
このような片あたり状態での摺動は、可動子の案内筒部材に対する接触部位の接触面圧を高くしてしまい、接触部位の磨耗を早めることとなる。可動子の表面には、フッ素樹脂等を用いた摺動用コーティングや、メッキ処理等による防錆用コーティング等各種のコーティングを施すことで可動子の摩擦抵抗を抑えることが検討されているが、このような局所的な偏磨耗が生じると、かかる接触部位におけるコーティング層が剥がれ易く、これらのコーティング処理による摺動特性や防錆特性を長期に亘って維持することが出来なくなる。また、偏磨耗によって可動子の重量バランスを損なうこととなって、ソレノイドの作動安定性を阻害するおそれがあった。
【0009】
【特許文献1】特開平9−49541号公報
【特許文献2】特開2004−153063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、コイルへの通電によって加振力を発生するソレノイド型アクチュエータにおいて、可動子の偏磨耗を軽減することによって、目的とする作動特性が長期に亘って安定して発揮され得る、改良された構造のソレノイド型アクチュエータを提供することにある。
【0011】
また、本発明は、そのようなソレノイド型アクチュエータを用いて構成された、改良された構造を有する防振用アクチュエータ、能動型防振装置、および能動型防振用制振器を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面の記載、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0013】
(ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様1)
すなわち、ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様1は、コイルの周囲にヨーク部材を組み付けて固定側磁路を備えた固定子を構成すると共に、筒状のガイド内面を有する案内部材を該コイルの中心孔内に設けて該ヨーク部材で支持せしめ、該コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用によって駆動力が及ぼされる可動子を該案内部材に挿入配置して、該コイルへの通電によって該可動子に及ぼされる駆動力を外部の出力対象部材に作用せしめるようにしたソレノイド型アクチュエータにおいて、
前記可動子から軸方向外方に向かって延び出す連結ロッドを設け、該連結ロッドを該可動子に対して軸直角方向の相対変位を許容しつつ軸方向で位置決めするロッド基端側連結手段によって該連結ロッドの軸方向一端部を該可動子に連結して、該連結ロッドを介して該可動子から該出力対象部材に駆動力が伝達されるようにする一方、該連結ロッドに外挿されて該連結ロッドを軸方向に案内する案内面を有する補助案内部材を設けて、該補助案内部材を該固定子によって支持させたことを、特徴とする。
【0014】
本態様に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、可動子と出力対象部材を連結する連結ロッドの傾きを補助案内部材によって抑えることによって、連結ロッドを軸方向に安定して案内することが出来る。そして、連結ロッドの傾きを抑えることによって、連結ロッドに連結された可動子の傾きを抑えて、可動子の案内部材に対する片あたり状態から生ずる偏磨耗を軽減することが出来る。これにより、例えば、可動子に施された各種コーティング剤による特性を長期に亘って維持して、目的とする防振特性を長期に亘って得ることも可能となる。
【0015】
また、本態様においては、ロッド基端側連結手段によって可動子と連結ロッドとの軸直角方向の相対変位が許容されていることから、部品公差や組み付け誤差等によって案内部材と補助案内部材との間に多少の位置ズレが生じていても、かかる位置ズレをロッド基端側連結手段によって有効に吸収することが可能とされており、可動子と連結ロッドを軸方向に安定して案内することが可能とされているのである。
【0016】
そして、本態様に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、出力対象部材に生じたこじりや連結ロッドに生じている傾きを、ロッド基端側連結手段と補助案内部材で協働して軽減乃至は解消することが可能となる。それ故、可動子を、駆動方向に対する傾きが軽減乃至は解消された状態で配設することが可能になると共に、連結ロッドもまた、駆動方向に対する傾きが軽減乃至は解消された状態で配設することが可能となる。
【0017】
また、ソレノイド型アクチュエータの駆動の際には、連結ロッドを軸方向に安定して案内することによって、可動子を軸方向に安定駆動せしめるのみならず、連結ロッドを介して駆動力が及ぼされる出力対象部材も軸方向により安定して駆動せしめることが出来る。これにより、目的とする防振特性をより安定して得ることが可能となる。
【0018】
なお、補助案内部材の具体的な形状等については必ずしも円筒形状の部材である必要はないのであって、連結ロッドの外周面に対応した内周面形状を有していれば良く、補助案内部材が案内する連結ロッドの形状や補助案内部材の配設部位等に応じて各種の形状が採用可能である。また、補助案内部材の案内面と連結ロッドとの間は滑らかに摺動せしめられることが好ましいことから、補助案内部材を低摩擦性樹脂材料で形成したり、案内面にポリテトラフルオロエチレン等の低摩擦性繊維を被着コートしたり、或いは案内面にレーザ加工等で低摩擦処理を施したりすること等が好ましい。更に、連結ロッドの傾きを有効に抑えるために、補助案内部材は連結ロッドの軸方向中間部分から可動子側を案内することが好ましい。
【0019】
また、本態様におけるロッド基端側連結手段としては、可動子から連結ロッドへ伝達される軸方向駆動力の作用下において、それら可動子と連結ロッドを軸方向で実質的に位置固定に連結し得る一方、軸直角方向では、それら可動子と連結ロッドの相対変位を出来るだけ容易に許容せしめ得るものが好適に採用される。具体的には、例えば、可動子から連結ロッドへ伝達される軸方向駆動力よりも大きな付勢力で軸方向に付勢する付勢手段を利用して、可動子と連結ロッドを軸方向両側で相互に弾性的に当接させて位置決め連結することにより、軸直角方向では、かかる付勢手段によって作用せしめられる軸力と摩擦係数に基づく摩擦力より大きな外力の作用に際して、それら可動子と連結ロッドの相対変位が許容されるようにした構成が、好適に採用される。
【0020】
なお、可動子の軸方向駆動力を、連結ロッドを介して、駆動対象である所定の出力部材に伝達するために、連結ロッドの軸方向他端部である突出先端部分は、かかる出力部材に連結等される。例えば、連結ロッドの突出先端部分は、所定の出力対象部材に対して、溶着や接着、嵌着、ボルト固定やリベット締め,かしめ固定等の適当な連結手段で固定されたり、或いは、連結ロッドの突出先端部分において出力対象部材が一体的に形成されることとなる。
【0021】
(ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様2)
ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様2は、前記態様1に係るソレノイド型アクチュエータであって、前記補助案内部材の前記案内面における少なくとも一方の軸方向端縁部において、軸方向外方に向かって拡径する面取りが施されていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、連結ロッドを補助案内部材に対して挿通する作業が容易となる。
【0022】
(ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様3)
ソレノイド型アクチュエータに関する本発明の態様3は、前記態様1又は2に係るソレノイド型アクチュエータにおいて、前記連結ロッドの外径寸法が軸方向の中間部分で変化せしめられて、前記可動子から軸方向外方に突出せしめられた部分において、該可動子に連結される該連結ロッドの軸方向一端側よりも外径寸法の大きい大径部が形成されており、該大径部において前記補助案内部材の前記案内面で案内されるようになっていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、補助案内部材によって案内される部位が大径とされていることによって、より安定して案内することが可能とされる一方で、その他の部位を小径として重量を抑えることによって、優れた作動応答性、制御性を得ると共に、消費エネルギを軽減することも出来る。
【0023】
(防振用アクチュエータに関する本発明)
防振用アクチュエータに関する本発明は、軸方向に往復変位可能に離隔配置された出力部材を、防振すべき振動に対応して加振駆動せしめる防振用アクチュエータであって、前記態様1乃至3の何れかの態様に係るソレノイド型アクチュエータを用い、前記出力部材を前記ソレノイド型アクチュエータにおける前記出力対象部材として前記可動子と連結すると共に、前記コイルに対して目的とする振動に対応した周波数成分を有する駆動電圧を印加して該可動子を軸方向に加振駆動せしめることによって、該出力部材を加振駆動するようにしたことを、特徴とする。
【0024】
本態様に従う構造とされた防振用アクチュエータにおいては、ソレノイド型アクチュエータが発揮する前述の如き効果に基づいて、可動子の偏磨耗を軽減して、安定した作動特性を長期に亘って得ることが出来ると共に、連結ロッドを軸方向に安定駆動せしめることによって、出力部材を軸方向に安定して加振駆動せしめることが出来る。このような防振用アクチュエータは、例えば自動車用のエンジンマウントやボデーマウント、能動型防振用制振器など、各種の防振装置に適用することが可能である。なお、周波数成分を有する駆動電圧としては、交流のみならず脈流等でも良いし、アナログ的なもののみならずデジタル的に制御されたものでも良い。
【0025】
(能動型防振装置に関する本発明)
能動型防振装置に関する本発明は、相互に連結されることにより振動伝達系を構成する一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結する一方、該本体ゴム弾性体によって壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室を形成すると共に、該受圧室の壁部の別の一部を加振部材で構成し、該加振部材に加振力を及ぼすアクチュエータを設けて、該アクチュエータで該加振部材を加振駆動することにより該受圧室の圧力を能動的に制御するようにした能動型防振装置において、前記アクチュエータとして前記防振用アクチュエータを用い、前記固定子を略収容状態で固定的に支持せしめるハウジングを前記第二の取付部材に固定する一方、前記加振部材を該防振用アクチュエータにおける前記出力部材として前記可動子と連結することによって、該防振用アクチュエータで該加振部材を加振駆動するようにしたことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた能動型防振装置においては、防振用アクチュエータが発揮する前述の如き効果に基づいて、可動子の偏磨耗を軽減して、安定した作動特性を長期に亘って得ることが出来ると共に、連結ロッドを軸方向に安定駆動せしめることによって、加振部材を軸方向に安定して加振駆動せしめることが出来る。
【0026】
(能動型防振用制振器に関する本発明)
能動型防振用制振器に関する本発明は、防振対象部材に装着されることにより、該防振対象部材に加振力を及ぼして能動的な制振作用を発揮する能動型防振用制振器であって、前記防振用アクチュエータを用い、該防振用アクチュエータにおける前記固定子と前記可動子の一方において前記防振対象部材に固定するための取付部を設けると共に、それら固定子と可動子の他方にマス部を設けたことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた能動型防振用制振器においては、防振用アクチュエータが発揮する前述の如き効果に基づいて、可動子の偏磨耗を軽減して、安定した作動特性を長期に亘って得ることが出来ると共に、連結ロッドを軸方向に安定駆動せしめることによって、防振対象部材に安定して加振力を及ぼしめることが出来る。
【発明の効果】
【0027】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたソレノイド型アクチュエータにおいては、ロッド基端側連結手段によって可動子と連結ロッドを軸直角方向の相対変位が可能な状態で連結すると共に、補助案内部材によって連結ロッドを軸方向に案内することによって、可動子の傾きを抑えることが出来る。これにより、可動子の案内部材に対する片当たりから生ずる偏磨耗を軽減して、目的とする作動特性を長期に亘って安定して得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0029】
先ず、図1には、本発明の一実施形態としての能動型防振装置としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が、互いに離隔して対向配置されていると共に、それらの間に介装された本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されたマウント本体18が、ストッパ金具20に嵌め込まれて構成されている。そして、エンジンマウント10は、第一の取付金具12が図示しないパワーユニットに取り付けられる一方、第二の取付金具14が図示しない自動車ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。また、そのような装着状態下、かかるエンジンマウント10には、図1中の上下方向となるマウント中心軸方向で第一の取付金具12と第二の取付金具14の間にパワーユニットの分担荷重が及ぼされることにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が相互に接近する方向に本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられるようになっている。更に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、両取付金具12,14が相互に接近/離隔する方向に、防振すべき主たる振動が入力されるようになっている。なお、以下の説明中、上下方向とは、原則として図1中の上下方向を言うものとする。
【0030】
より詳細には、第一の取付金具12は、逆向きの円錐台形状を有している。また、第一の取付金具12の大径側端部には、外周面上に突出する円環板状のストッパ部22が一体形成されている。更に、大径側端部から軸方向上方に向かって固定軸24が一体的に突設されており、この固定軸24には、上端面に開口する固定用ねじ穴26が形成されている。そして、この固定用ねじ穴26に螺着される図示しない固定ボルトによって、第一の取付金具12が、図示しない自動車のパワーユニットに取り付けられるようになっている。
【0031】
また一方、第二の取付金具14は、大径の略円筒形状を有している。また、第二の取付金具14の軸方向中間部分には、段部28が形成されており、この段部28を挟んで軸方向上側が大径部30とされている一方、軸方向下側が小径部32とされている。なお、大径部30の内周面には、薄肉のシールゴム層34が被着形成されている。更に、小径部32の下側開口端部付近には、可撓性膜としての薄肉のゴム膜からなるダイヤフラム36が配設されており、かかるダイヤフラム36の外周縁部が第二の取付金具14の小径部32の内周面に加硫接着されることで、第二の取付金具14の軸方向下側開口部が流体密に覆蓋されている。また、ダイヤフラム36の中央部分には、連結金具38が加硫接着されている。
【0032】
そして、第二の取付金具14の軸方向上方に離隔して、第一の取付金具12が位置せしめられており、これら第一の取付金具12と第二の取付金具14が、本体ゴム弾性体16で弾性的に連結されている。
【0033】
本体ゴム弾性体16は、全体として略円錐台形状を有しており、大径側端面にはすり鉢状の凹状面40が形成されている。また、本体ゴム弾性体16の小径側端面には、第一の取付金具12が、軸方向に差し入れられた状態で加硫接着されている。なお、第一の取付金具12のストッパ部22は、本体ゴム弾性体16の小径側端面に重ね合わされて、本体ゴム弾性体16に覆われるようにして加硫接着されていると共に、ストッパ部22から上方に突出する当接ゴム42が、本体ゴム弾性体16と一体的に形成されており、当接ゴム42の内方には凹溝44が形成されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側外周面には、連結スリーブ46が加硫接着されている。
【0034】
かかる本体ゴム弾性体16の大径側外周面に加硫接着された連結スリーブ46が、第二の取付金具14の大径部30に嵌め込まれて、大径部30が縮径加工されることにより、本体ゴム弾性体16が第二の取付金具14に対して流体密に嵌着固定される。これにより、第二の取付金具14の軸方向上側開口部が、本体ゴム弾性体16によって流体密に覆蓋されることとなり、以て、第二の取付金具14の内部には、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム36との対向面間において、外部空間から流体密に遮断された封入領域としての液室48が形成されて、その液室48に非圧縮性流体が封入されている。
【0035】
なお、封入される非圧縮性流体としては、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等が何れも採用可能であり、特に、流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るために、粘度が0.1Pa.s以下の低粘性流体が好適に採用される。
【0036】
さらに、第二の取付金具14には、仕切部材50とオリフィス部材52が組み込まれており、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム36との対向面間に配設されている。
【0037】
仕切部材50は、所定厚さをもって広がる支持ゴム弾性体54を有しており、この支持ゴム弾性体54の中央部分に加振部材としての加振板56が加硫接着されている。加振板56は、浅底の略逆カップ形状を有しており、その外周縁部が、支持ゴム弾性体54の内周縁部に加硫接着されている。なお、加振板56の上部には、支持ゴム弾性体54が回り込んで肉厚とされた緩衝部58が形成されている。
【0038】
また、支持ゴム弾性体54の外周縁部には、円環形状の外周金具60が加硫接着されており、かかる外周金具60には、周方向に所定長さで延びる周溝62が形成されている。そして、この外周金具60の軸方向上側開口部が、径方向外方に広がるフランジ状部64とされて、フランジ状部64が第二の取付金具14の段部28に重ね合わされて、段部28と連結スリーブ46の間で挟圧固定されている。これにより、仕切部材50は、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム36の対向面間の中間部分で軸直角方向に広がって配設されており、第二の取付金具14の内部を軸方向両側に二分せしめている。以て、仕切部材50を挟んで、上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づく圧力変動が生ぜしめられる振動作用室としての作用流体室66が形成されている。一方、仕切部材50の下側には、壁部の一部がダイヤフラム36で構成されて容積変化が容易に許容される平衡室68が形成されている。
【0039】
また、オリフィス部材52は、上下の薄肉プレート53a,53bが互いに重ね合わされることによって構成されており、その外周縁部が、外周金具60のフランジ状部64に重ね合わされて、フランジ状部64と本体ゴム弾性体16の大径側端部内周縁部との間で挟持されることにより、外周金具60を介して第二の取付金具14によって固定的に支持されている。これにより、オリフィス部材52は、本体ゴム弾性体16と仕切部材50との対向面間の中間部分で軸直角方向に広がって配設されており、作用流体室66を軸方向両側に二分せしめている。以て、オリフィス部材52を挟んで、上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室70が形成されている。一方、オリフィス部材52の下側には、壁部の一部が加振板56で構成された加振室72が形成されている。
【0040】
また、オリフィス部材52の外周縁部には、上下の薄肉プレート53a,53bの重ね合わせ面間を周方向に連続して延びる周方向通路74が形成されている。この周方向通路74の一方の端部が受圧室70に接続されていると共に、他方の端部が加振室72に接続されている。これにより、受圧室70と加振室72を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路76が形成されている。なお、第一のオリフィス通路76は、例えば、30〜40Hz程度のアイドリング振動等の中周波数域にチューニングされる。
【0041】
更にまた、オリフィス部材52の外周縁部は、仕切部材50の外周縁部に重ね合わせられており、外周金具60の外周縁部に形成された周溝62が覆蓋されることによって第二のオリフィス通路78が形成されている。この第二のオリフィス通路78は、一方の端部が加振室72と第一のオリフィス通路76を通じて受圧室70に接続されていると共に、他方の端部が平衡室68に接続されている。これにより、受圧室70と平衡室68を相互に連通せしめる第二のオリフィス通路78が形成されている。なお、第二のオリフィス通路78は、例えば10Hz前後のエンジンシェイク等の低周波数域にチューニングされる。
【0042】
なお、オリフィス通路の具体的形態やチューニングは何等限定されるものでなく、上述のような態様の他、例えば、オリフィス部材52の中央部分を貫通して受圧室70と加振室72を直接に連通せしめる透孔形態の第一のオリフィス通路を形成して、該第一のオリフィス通路を50〜150Hz程度のこもり音等の高周波数域にチューニングする一方、オリフィス部材52の周方向通路74と外周金具60の周溝62を直接に直列的に接続することによって第二のオリフィス通路を形成するようにしても良い。
【0043】
さらに、上述の如き構造とされたマウント本体18は、第二の取付金具14がストッパ金具20に嵌め込まれており、このストッパ金具20を介して、図示しない自動車のボデーに取り付けられるようになっている。
【0044】
ストッパ金具20は大径の段付円筒形状とされて、その下側の方が上側よりも大径とされており、マウント本体18が下側開口部から挿し入れられて、係止段差部80で係止されて圧入固定されている。一方、上側開口部には内方に延び出す当接部82が形成されており、かかる当接部82に第一の取付金具12のストッパ部22が当接ゴム42を介して当接することで、リバウンド方向のストッパ機能が発揮される。なお、当接部82には挿通孔84が貫設されて、第一の取付金具12の固定軸24との間に適当な間隙が保たれており、第一の取付金具12の軸直角方向の相対変位が許容されている。また、第一の取付金具12の固定軸24には、ストッパ金具20の挿通孔84を覆うように広がる傘上の庇部材86が装着せしめられている。
【0045】
そして、ストッパ金具20に嵌め込まれた第二の取付金具14は、ストッパ金具20の係止段差部80で係止されて圧入固定されることで、抜け出し不能に固定されている。また、ストッパ金具20には、外周面上に突出して下方に延び出す複数の脚部88が固着されており、これら脚部88が図示しない自動車のボデーに載置され、固定ボルトで固定されることによってエンジンマウント10が自動車のボデーに装着される。
【0046】
また、マウント本体18においては、仕切部材50に設けられた加振板56がダイヤフラム36に設けられた連結金具38に対して密着状態で重ね合わされて固定されている。そして、これら加振板56と連結金具38に対して連結ロッドとしての駆動ロッド90が固着されて、かかる駆動ロッド90が加振板56および連結金具38から軸方向下方に突出せしめられている。
【0047】
なお、連結金具38には、ダイヤフラム36と一体形成された挟圧ゴム層92が、略全周に亘って被着せしめられており、これによって、加振板56との重ね合わせ面間が流体密にシールされている。また、加振板56と連結金具38は、それぞれ中央の各上底部において重ね合わせられており、それら中央部分において、駆動ロッド90の上端部に一体形成されたロッド先端側連結手段としてのかしめ部94が挿通されている。かかるかしめ部94によって、加振板56と連結金具38は密着状態でかしめ固定されており、駆動ロッド90が、加振板56から連結金具38を貫通して外方に向かって軸方向下方に突出せしめられていると共に、加振板56と連結金具38が一体とされて、後述するアーマチャ138に向かって開口する凹所96が形成されている。また、凹所96の周壁部98付近には、周壁部98を覆う形で緩衝ゴム部100がダイヤフラム36と一体形成されている。
【0048】
さらに、駆動ロッド90が突出せしめられた第二の取付金具14の軸方向下方、即ち、加振板56と連結金具38を挟んで作用流体室66と反対側には、防振用アクチュエータとしての電磁加振器102が配設されており、第二の取付金具14に支持せしめられている。
【0049】
電磁加振器102は、コイル104と、コイル104の周りを取り囲むようにしてコイル104に固定的に組み付けられたハウジング106から構成されている。ハウジング106は、その軸方向上側中央部分に上透孔108が貫設される一方、軸方向下側中央部分に上透孔108と略等しい径寸法を有する下透孔109が貫設されていると共に、コイル104の外周面と上下両端面を囲むようにしてコ字状断面で略全周に亘って延びる強磁性材からなるヨーク部材110が形成されている。そして、コイル104とヨーク部材110によって、コイル通電時に固定側磁路が形成される固定子が構成されており、かかる固定子と後述する可動子としてのアーマチャ138によってソレノイド型アクチュエータが構成されている。なお、特に本実施形態においては、ハウジング106として別個に独立した部材を設けること無しに、固定子の一部を構成するヨーク部材110の一部がハウジング106とされている。
【0050】
より詳細には、コイル104は、非磁性材料からなるボビン112に巻回されたコイル104に対して、非磁性材料からなるカバー部材114がコイル104の外周を覆うようにして設けられている。かかるカバー部材114は例えば、ボビン112にコイル104を巻回した後に、樹脂成形される。また、カバー部材114にはハウジング106に貫設された開口部から外部に突出する給電口116が一体形成されており、かかる給電口116の内部に設けられた端子を通じてコイル104に対して電源が供給されるようになっている。
【0051】
一方、ヨーク部材110は、コイル104の上部を覆うように配設された上ヨーク118と、コイル104の外周面と下端面を囲むようにして略全周に亘ってL字状断面で延びる下ヨーク120から構成されている。そして、上ヨーク118の外周側端部と下ヨーク120の上端部が接触した状態でコイル104を覆うように配設されており、これら上ヨーク118と下ヨーク120によってコイル104への通電によって生じる磁束が流れる固定側磁路が構成されており、上透孔108及び下透孔109の内周側端縁部がそれぞれ、コイル120への通電時に磁極が形成される磁極形成部位としての上側磁極122及び下側磁極124とされている。
【0052】
なお、コイル104の中心孔内には、上ヨーク118及び下ヨーク120によって形成される上下の内周端縁部の開口を覆蓋するようにして、案内部材としての案内スリーブ126が組み付けられている。案内スリーブ126は、上ヨーク118及び下ヨーク120の磁極内面より僅かに突出する内径寸法の滑らかなガイド内面としての筒状案内面128を有する円筒形状とされており、例えばポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン等の低摩擦性材料で形成されている。また、後述するアーマチャ138との擦れ等を軽減するために、案内スリーブ126の筒状案内面128の軸方向両端縁部には軸方向外方に向かって拡径する面取り加工が施されており、特に本実施形態における上側端縁部については、やや内方から拡径処理が施されている。
【0053】
一方、ハウジング106の外周縁部には、係合溝130が刻設されており、係合溝130に対して第二の取付金具14の下端縁部に形成された係止片132が嵌め入れられて係止されることで、電磁加振器102が第二の取付金具14の下端開口部を覆蓋するようにして取り付けられている。このように、本実施形態においては、電磁加振器102は、ブラケットなどの別体を介することなく、第二の取付金具14に直接に固定されていることから、加振板56とコイル104の中心軸との組付け時の位置ずれが軽減されている。なお、電磁加振器102のハウジング106と第二の取付金具14との間には、ダイヤフラム36が下方に延び出して形成された挟圧ゴム134が挟圧されていることで、電磁加振器102のガタツキが防止されている。これにより、コイル104の中心軸が、マウント本体18の中心軸と略一致せしめられて、第二の取付金具14や加振板56の中心軸と位置合わせされる。また、ハウジング106の下方には蓋部材136がボルト固定されており、ハウジング106の下透孔109に粉塵等が侵入するのを防止している。
【0054】
そして、コイル104が組み付けられたハウジング106の上下透孔108,109内には、可動子としてのアーマチャ138が組み付けられている。アーマチャ138は全体として略円形ブロック形状の強磁性体によって形成されており、案内スリーブ126の内径寸法よりも僅かに小さい外径寸法とされて、案内スリーブ126に差し入れられて、コイル104と略同一中心軸上で軸方向に相対変位可能に組み付けられている。
【0055】
より詳細には、アーマチャ138は、上下側磁極122,124に跨る軸方向長さ寸法を有していると共に、その上側磁極122の近くには、外周面上に開口する周溝140が形成されており、周溝140の上方と、アーマチャ138の下端縁部がそれぞれコイル104への通電によって生じる磁力の作用が及ぼしめられる磁力作用部位とされている。例えば、図示されている如き、アーマチャ138の周溝140の上側端縁部と上ヨーク118の上側磁極122との間、およびアーマチャ138の軸方向下端縁部と下ヨーク120の下側磁極124との間に、それぞれ有効な磁気吸引力が作用せしめられる磁気ギャップが位置調節されて形成されるようになっている。
【0056】
また、アーマチャ138の外周面には、各種公知のコーティング剤による低摩擦処理や防錆処理が施されている。更に、アーマチャ138の軸方向両端部は全周に亘って面取りが施されており、案内スリーブ126に対する擦れによる磨耗や異音の発生等が軽減されている。なお、蓋部材136のアーマチャ138の下端面との対向部位には緩衝ゴム142が設けられており、アーマチャ138が蓋部材136と緩衝的に当接することによって打ち当たり音が軽減されると共に、耐久性が向上せしめられている。
【0057】
さらに、アーマチャ138には、中心軸上を貫通する貫通孔としての挿通孔144が形成されている。そして、挿通孔144の軸方向中央部分よりやや上方には、内方に突出する連結部としての係合突部146が形成されており、この係合突部146を挟んで軸方向上側が小径部148とされると共に、軸方向下側が大径部150とされている。
【0058】
そして、アーマチャ138の挿通孔144には、その上方から駆動ロッド90が隙間を持った遊挿状態で挿し入れられており、その下端部がアーマチャ138の係合突部146よりも下方に突出せしめられている。図2に示すように、駆動ロッド90は、軸方向略中央部分に形成された段差面154の上方が大径部164とされる一方、下方が小径部165とされており、小径部165がアーマチャ138の挿通孔144に挿通されて、先端部分が係合突部146よりも下方に突出せしめられている。更に、駆動ロッド90にはコイルスプリング152が外挿されて、駆動ロッド90の段差面154とアーマチャ138の係合突部146の対向面間に跨がって配設されていると共に、駆動ロッド90の係合突部146から突出した先端部分には、係合突部146の内径寸法よりも大きな外径寸法を有するロッド形状の位置決めナット156が螺着されている。そして、位置決めナット156を駆動ロッド90にねじ込み、アーマチャ138の係合突部146を介して、駆動ロッド90の段差面154との間でコイルスプリング152を圧縮せしめることにより、アーマチャ138が位置決めナット156に対して重ね合わされて当接状態で保持されており、軸方向で固定的に位置決めされている。而して、駆動ロッド90とアーマチャ138は、コイルスプリング152の付勢力で軸方向において実質的に固着状態で連結されて、コイル104への通電によってアーマチャ138に作用せしめられる駆動力が駆動ロッド90に及ぼされるようになっている。そして、アーマチャ138と加振板56が駆動ロッド90を介して連結されることによって、加振板56が、防振用アクチュエータとしての電磁加振器102の出力対象部材とされている。
【0059】
なお、位置決めナット156の上端面には、径方向に延びて外周縁部に開口する凹溝157が形成されている。これにより、アーマチャ138の上下空間が連通せしめられており、アーマチャ138の上下空間が空気バネとしてアーマチャ138の駆動に影響を及ぼすことが回避されている。
【0060】
また、本実施形態におけるコイルスプリング152の両端にはカラー部材158が冠着されており、コイルスプリング152と他部材との擦れによる磨耗を軽減している。更に、コイルスプリング152は、その軸方向両端部に冠着せしめられたカラー部材158との擦れによる粉塵の発生を軽減するように処理されたものが望ましく、それ故、オープンエンドよりもクローズドエンドの端部構造が望ましく、また無研削よりも研削やテーパの端部処理が施されたものが好適に採用される。
【0061】
一方、コイルスプリング152に冠着されて係合突部146に当接せしめられているカラー部材158、位置決めナット156及び駆動ロッド90の外周端縁部とアーマチャ138の内周面との軸直方向対向面間には僅かな間隙が形成されている。そして、コイルスプリング152によるアーマチャ138の位置決めナット156への締め付け力を調節することによって、位置決めナット156及びカラー部材158と係合突部146との間に生ずる静止摩擦力を超える軸直方向の外力がアーマチャ138に及ぼされた場合には、アーマチャ138の駆動ロッド90に対する軸直角方向の相対的な滑り変位が許容されるようになっており、これら位置決めナット156、コイルスプリング152、係合突部146によってアーマチャ138と駆動ロッド90の軸直方向相対変位を可能に連結するロッド基端側連結手段が構成されている。これにより、各部材の製造上の寸法誤差や組み付け時の位置決め誤差等に起因する駆動ロッド90とアーマチャ138との相対的な位置ずれを有利に吸収することが出来て、アーマチャ138をコイル104に対して軸直方向にも安定して位置決めすることが出来る。また、アクチュエータ作動時における一時的な軸ずれも有利に吸収されることとなって、安定した作動特性を得ることが出来るのである。
【0062】
なお、駆動ロッド90に対するアーマチャ138の軸直方向の相対変位量は、駆動ロッド90、カラー部材158乃至は位置決めナット156の外周端縁部とアーマチャ138の内周面との軸直方向対向面間距離によって規定されるが、かかる軸直角方向の相対変位の許容量としては、0.2mm〜3mmの範囲が好適に採用される。また、アーマチャ138の滑り変位をより良好に実現するために、例えばポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン等の低摩擦性材料による摺動部材をこれらの摺動面に組み込んだり、低摩擦処理を施す等しても良い。
【0063】
さらに本実施形態においては、位置決めナット156の駆動ロッド90へのねじ込み量を調節することにより、第二の取付金具14に対して支持ゴム弾性体54で弾性的に位置決め支持された加振板56に対してアーマチャ138の取付位置を軸方向に変更設定することが出来る。それによって、アーマチャ138の上下ヨーク118,120に対する磁力作用対向面間の距離を微調節することが可能となっている。また、本実施形態では、位置決めナット156に対して軸方向下側からロックボルト160が締め込まれており、位置決めナット156のねじ穴内でロックボルト160が駆動ロッド90の先端に当接されていることによって、駆動ロッド90に対する位置決めナット156の締付位置がロックされるようになっている。
【0064】
加えて、電磁加振器102のハウジング106の底壁部中央には、下透孔109が貫設されていることから、下透孔109を通じて、アーマチャ138が配設された電磁加振器102の内部空間が、直接に外部に開口せしめられるようになっている。そして、この開口部を通じてハウジング106の下透孔109の開口部に六角レンチ等の工具を差し入れることにより、上述のロックボルト160や位置決めナット156を操作して、アーマチャ138の位置を外部から調節することが出来るようにされている。
【0065】
一方、電磁加振器102の上方には、上透孔108を覆うようにして支持部材162が配設されている。支持部材162は非磁性材から形成されており、上ヨーク118の中央部分から駆動ロッド90における大径部164に至る略門形の断面形状をもって形成されている。これにより、支持部材162はアーマチャ138の上方に離隔して配設されており、アーマチャ138の上方への変位を阻害しないようにされている。そして、図2に示すように、支持部材162の中央部分にはやや上方に延び出す肉厚部166が形成されており、肉厚部166の中央部分にはロッド挿通孔168が貫設されている。そして、ロッド挿通孔168に駆動ロッド90の大径部164が遊挿状態で挿し入れられている。
【0066】
さらに、肉厚部166には、補助案内部材としてのロッド案内スリーブ170がロッド挿通孔168と同軸上に配設されている。ロッド案内スリーブ170は、前述の案内スリーブ126と略同様の構造とされており、ロッド挿通孔168の内径寸法より僅かに小さな内径寸法の滑らかな案内面としてのロッド案内面172を有する円筒形状とされて、例えばポリエチレンやポリテトラフルオロエチレン等の非磁性の低摩擦性材料で形成されている。また、ロッド案内スリーブ170においても、駆動ロッド90との擦れ等を軽減するために、軸方向両端部においてそれぞれ軸方向外方に向かって拡径する面取りが施されている。なお、駆動ロッド90はロッド案内スリーブ170に対して全周に亘って僅かな空隙をもって挿通されており、電磁加振器102の上側空間と内部空間が連通せしめられることによって、アーマチャ138の上方空間を密閉することが回避されている。
【0067】
これにより、ロッド案内スリーブ170が案内スリーブ126の上方に離隔して、上ヨーク118に対して固定的に配設されており、これらロッド案内スリーブ170と案内スリーブ126が同軸上に配設されている。そして、案内スリーブ126によってアーマチャ138が軸方向に案内されると共に、ロッド案内スリーブ170によって駆動ロッド90が軸方向に案内されるようになっている。
【0068】
上述の如き構造とされたエンジンマウント10は、図示はされていないが、コイル104への通電を制御することが可能であり、例えば、パワーユニットのエンジン点火信号を参照信号とすると共に、防振すべき部材の振動検出信号をエラー信号として、適応制御等のフィードバック制御を行なうことによって、或いは予め設定された制御データに基づくマップ制御を利用すること等によって通電制御することが出来る。これにより、アーマチャ138に磁力を作用せしめて軸方向下方に加振駆動せしめると共に、コイル104への通電を停止して支持ゴム弾性体54の復元力を作用せしめることで、加振板56に対して、防振すべき振動に対応した駆動力を作用せしめ、以て作用流体室66の内圧制御による能動的防振効果を得ることが出来るのである。
【0069】
そこにおいて、本実施形態のエンジンマウント10では、駆動ロッド90がロッド案内スリーブ170によって軸方向に案内されることから、部品公差や組み付け誤差、或いは支持ゴム弾性体54の不規則な弾性変形等によって生じる駆動ロッド90の傾きを有効に抑えて、アーマチャ138が傾けられることが抑えられている。これにより、アーマチャ138の案内スリーブ126との擦れによる偏磨耗を軽減して、アーマチャ138に施されたコーティング処理による摺動特性や防錆特性を長期に亘って維持することが出来る。
【0070】
さらに、アーマチャ138と駆動ロッド90が位置決めナット156を含んで構成されたロッド基端側連結手段によって軸直方向相対変位可能に連結されていることから、たとえ駆動ロッド90に傾きが生じたとしても、ロッド基端側連結手段によって有効に吸収することが出来て、ロッド基端側連結手段によってアーマチャ138の傾きがより有効に抑えられているのである。また、アーマチャ138と駆動ロッド90が軸直方向相対変位が可能とされていることによって、部品公差や組み付け誤差による案内スリーブ126とロッド案内スリーブ170との間に相対的な位置ズレが生じているような場合にも、アーマチャ138と駆動ロッド90の相対変位によってかかる位置ズレが吸収されて、軸方向に安定して駆動せしめることが出来る。
【0071】
加えて、ロッド案内スリーブ170によって駆動ロッド90が軸方向に安定駆動せしめられることから、アーマチャ138を軸方向に安定駆動せしめるのみならず、その反対側に連結されている加振板56の加振駆動を安定して行わしめることも可能とされている。これにより、目的とする防振効果をより安定して発揮せしめることも可能とされているのである。
【0072】
要するに、上述の如き構造とされたエンジンマウント10では、案内スリーブ126とロッド案内スリーブ170で、アーマチャ138だけでなく駆動ロッド90も軸方向に案内されることから、アーマチャ138や駆動ロッド90の傾きが抑えられて、軸方向駆動力が安定して且つ効率的に加振板56に作用せしめられる。また、案内スリーブ126とロッド案内スリーブ170が、製造誤差や組付誤差の程度に僅かに偏心していたとしても、駆動ロッド90とアーマチャ138の連結部位で相対的な軸直角方向の変位が許容されていることから、これら駆動ロッド90とアーマチャ138が、何れも傾くことなく、軸方向で案内されることとなる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0074】
例えば、ロッド案内スリーブ170の具体的な形状は何等限定されるものではなく、駆動ロッド90の断面形状等に合わせて、円筒形状のみならず、楕円や矩形等の断面形状をもって形成しても良い。また、ロッド案内スリーブ170は単なる円筒形状の部材のみならず、例えばボールベアリング等の機構を用いることも可能である。更にまた、支持部材162の材料を適当に選択したり、必要に応じて適当な表面処理を施すこと等により、支持部材162でロッド案内スリーブ170を一体形成しても良い。
【0075】
また、電磁加振器102におけるアーマチャ138や上下ヨーク118,120の具体的形状についても何等限定されるものではなく、例えば、前述の実施形態における下ヨーク120の下端部を更に内方に延び出させて、かかる内方延長部に磁極を形成して、アーマチャ138の下端部との間で磁気ギャップを形成する等しても良い。
【0076】
また、アーマチャ138と駆動ロッド90との軸直方向の相対変位を許容するロッド基端側連結手段の具体的態様は、前述の態様に限定されるものではない。例えば、前記実施形態におけるコイルスプリング152は必ずしも必要ではないし、コイルスプリング152の如き金属バネの代わりにゴム弾性体を用いるなどしても良い。また、位置決めナット156の代わりにアーマチャ138の係合突部146の内径寸法よりも大きな外径寸法を有する円環状の係止部材を駆動ロッド90の係合突部146からの突出先端部にボルト固定することによって、アーマチャ138を駆動ロッド90から抜け出し不可能に係止するなどしても良い。
【0077】
加えて、本発明は、自動車用のボデーマウントやメンバマウント等、或いは自動車以外の各種装置におけるマウントや制振器などの防振装置や、そのような防振装置に用いられる防振用アクチュエータに対して、同様に適用可能である。
【0078】
例えば、本発明を適用した能動型制振器としては、具体的には、例えば、前述の実施形態に示された電磁加振器102におけるハウジング106の開口部側に金属板等からなる取付部としての加振板を弾性的に連結すると共に、かかる加振板とアーマチャ138を連結せしめる一方、加振板を取付部として制振すべき振動部材に対して固定的に取り付けて、コイル104を含むハウジング106を、振動部材に対して弾性的に連結支持せしめることにより、コイル104を含むハウジング106を、コイル104への通電によって振動部材に対して能動加振されるマスとして作用せしめることが出来るのである。
【0079】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図である。
【図2】図1に示したエンジンマウントの要部拡大図である。
【符号の説明】
【0081】
10 エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
56 加振板
68 平衡室
70 受圧室
72 加振室
90 駆動ロッド
102 電磁加振器
104 コイル
118 上ヨーク
120 下ヨーク
126 案内スリーブ
138 アーマチャ
162 支持部材
170 ロッド案内スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルの周囲にヨーク部材を組み付けて固定側磁路を備えた固定子を構成すると共に、筒状のガイド内面を有する案内部材を該コイルの中心孔内に設けて該ヨーク部材で支持せしめ、該コイルへの通電によって生ぜしめられる磁界の作用によって駆動力が及ぼされる可動子を該案内部材に挿入配置して、該コイルへの通電によって該可動子に及ぼされる駆動力を外部の出力対象部材に作用せしめるようにしたソレノイド型アクチュエータにおいて、
前記可動子から軸方向外方に向かって延び出す連結ロッドを設け、該連結ロッドを該可動子に対して軸直角方向の相対変位を許容しつつ軸方向で位置決めするロッド基端側連結手段によって該連結ロッドの軸方向一端部を該可動子に連結して、該連結ロッドを介して該可動子から該出力対象部材に駆動力が伝達されるようにする一方、該連結ロッドに外挿されて該連結ロッドを軸方向に案内する案内面を有する補助案内部材を設けて、該補助案内部材を該固定子によって支持させたことを特徴とするソレノイド型アクチュエータ。
【請求項2】
前記補助案内部材の前記案内面における少なくとも一方の軸方向端縁部において、軸方向外方に向かって拡径する面取りが施されている請求項1に記載のソレノイド型アクチュエータ。
【請求項3】
前記連結ロッドの外径寸法が軸方向の中間部分で変化せしめられて、前記可動子から軸方向外方に突出せしめられた部分において、該可動子に連結される該連結ロッドの軸方向一端側よりも外径寸法の大きい大径部が形成されており、該大径部において前記補助案内部材の前記案内面で案内されるようになっている請求項1又は2に記載のソレノイド型アクチュエータ。
【請求項4】
軸方向に往復変位可能に離隔配置された出力部材を、防振すべき振動に対応して加振駆動せしめる防振用アクチュエータであって、
請求項1乃至3の何れかに記載のソレノイド型アクチュエータを用い、前記出力部材を前記ソレノイド型アクチュエータにおける前記出力対象部材として前記可動子と連結すると共に、前記コイルに対して目的とする振動に対応した周波数成分を有する駆動電圧を印加して該可動子を軸方向に加振駆動せしめることによって、該出力部材を加振駆動するようにしたことを特徴とする防振用アクチュエータ。
【請求項5】
相互に連結されることにより振動伝達系を構成する一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結する一方、該本体ゴム弾性体によって壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室を形成すると共に、該受圧室の壁部の別の一部を加振部材で構成し、該加振部材に加振力を及ぼすアクチュエータを設けて、該アクチュエータで該加振部材を加振駆動することにより該受圧室の圧力を能動的に制御するようにした能動型防振装置において、
前記アクチュエータとして請求項4に記載の防振用アクチュエータを用い、前記固定子を略収容状態で固定的に支持せしめるハウジングを前記第二の取付部材に固定する一方、前記加振部材を該防振用アクチュエータにおける前記出力部材として前記可動子と連結することによって、該防振用アクチュエータで該加振部材を加振駆動するようにしたことを特徴とする能動型防振装置。
【請求項6】
防振対象部材に装着されることにより、該防振対象部材に加振力を及ぼして能動的な制振作用を発揮する能動型防振用制振器であって、
請求項4に記載の防振用アクチュエータを用い、該防振用アクチュエータにおける前記固定子と前記可動子の一方において前記防振対象部材に固定するための取付部を設けると共に、それら固定子と可動子の他方にマス部を設けたことを特徴とする能動型防振用制振器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−55767(P2006−55767A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240974(P2004−240974)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】