説明

ソーマチンによるコーヒー飲料の沈殿抑制方法

【課題】コーヒー飲料の沈殿を抑制する方法及びその方法により沈殿生成が抑制されたコーヒー飲料の提供。
【解決手段】ソーマチンを配合することによる、コーヒー飲料本来の香味を保持しつつ、沈殿の発生を抑制する方法に関する。本発明によれば、簡易且つ低コストの方法で、長期間保存しても沈殿が生じることなく、かつコーヒー飲料が本来持つ風味を有するコーヒー飲料を製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、コーヒー飲料の沈殿を抑制する方法及びその方法により沈殿が抑制されたコーヒー飲料に関する。より詳しくは、ソーマチンを配合することによる、コーヒー飲料本来の香味を保持しつつ、沈殿の発生を抑制する方法に関する。
【0002】
従来の技術
コーヒー飲料の製造においては、製造後の時間経過とともに沈殿が発生してしまうという品質面での普遍的な問題がある。特に、近年、コーヒー飲料市場の本物志向化、激しい開発競争により、成分・味わいの差別化が求められ、コーヒー豆由来の固形分が多く、沈殿発生リスクの高い製品が多く開発されている。また、市場での流通時間の長期化や自動販売機やコンビニ等のホットウォーマーでの長期間の加温販売なども沈殿リスクが高まる要因である。
【0003】
この問題を解決するために、さまざまな手法が検討されてきた。例えば、コーヒー豆由来成分の沈殿に寄与しているコーヒー中の高分子成分を、繊維質分解酵素やマンナン分解酵素で低分子化することにより、沈殿の発生を抑制する技術が報告されている(特許文献1、2)。しかし、これらの方法では、沈殿の発生リスクは抑制されるが、特殊な条件下で処理を行うことや処理時間の長期化により非常に煩雑な作業が必要となるだけでなく、用いる酵素は比較的高価であるため製造コストは高くなる。さらには、香味や食感に影響を及ぼし特にコク味に乏しいものとなりやすく、最適な方法とはいえなかった。
【0004】
また、アルカリ性塩による沈殿防止方法(特許文献3)や増粘性の添加剤を利用する沈殿防止方法(特許文献4、5)も報告されているが、いずれも沈殿発生の抑制は期待できるものの、その抑制効果は添加量に大きく左右されることから、抑制効果をあげるためには添加量を多くしなければならず、そのことによりコーヒー飲料自体の香味等の品質に悪影響を及ぼすものとなっていた。具体的には、アルカリ性塩については、塩味やぬめり感を感じ、増粘性の添加剤については、食感や味を悪くする傾向があった。
【特許文献1】特開平4−45745号
【特許文献2】特開平7−184546号
【特許文献3】特開平2−222647号
【特許文献4】特開2000−333610号
【特許文献5】特開平6−205641号
【0005】
発明が解決しようとする課題
本発明は、上記の現状に鑑み、コーヒー飲料本来の香味を保持しつつ、製造後の保存中の沈殿発生を抑制する方法、及びコーヒー飲料本来の香味が保持され、かつ沈殿発生が抑制されたコーヒー飲料を提供することを目的とする。また、特に、自動販売機のホット販売用やコンビニ等のホット販売用などの長期間の加温状態で保存される場合においても沈殿発生が抑制できることを目的とする。
【0006】
課題を解決するための手段
本発明者はかかる課題を解決するため、沈殿抑制に寄与するさまざま添加剤の検討を行った結果、甘味料として知られるソーマチンを微量配合することでコーヒー飲料の本来有する香味品質を害することなく、沈殿の発生が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、コーヒー飲料にソーマチンを配合することを特徴とするコーヒー飲料の沈殿抑制方法である。
また本発明は、コーヒー飲料にソーマチンを0.1〜3.0ppm配合することを特徴とするコーヒー飲料の沈殿抑制方法である。さらには、コーヒー飲料にソーマチンを0.1〜1.2ppm配合することを特徴とするコーヒー飲料の沈殿抑制方法である。
【0008】
本発明は、ソーマチンに加え、さらにカゼイン又はその塩を配合することを特徴とするコーヒー飲料の沈殿抑制方法である。
また本発明は、コーヒー飲料にソーマチンを配合することにより沈殿発生が抑制されたコーヒー飲料である。
【0009】
本発明は、ソーマチンを0.1〜3.0ppm含有するコーヒー飲料、好ましくは0.1〜1.2ppm含有するコーヒー飲料である。
さらに本発明は、ソーマチンに加え、さらにカゼイン又はその塩を含むコーヒー飲料である。
【0010】
発明の実施の形態
本発明において、コーヒー飲料とは、コーヒー豆を原料とし、抽出し、加熱殺菌工程等を経て製造される飲料製品のことをいう。製品の種類は特に限定されないが、1977年に認定された「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」の定義である「コーヒー」、「コーヒー飲料」、および「コーヒー入り清涼飲料」が主に挙げられる。また、コーヒー豆を原料とした飲料においても、乳固形分が重量%で3.0%以上のものは「飲用乳の表示に関する公正競争規約」の適用を受け、「乳飲料」として取り扱われるが、これも、本発明におけるコーヒー飲料に含まれる。
【0011】
原料のコーヒー豆の栽培樹種は、特に限定されないが、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種などが挙げられる。また、品種についても特に限定されず、例えば、モカ、ブラジル、コロンビア、グァテマラ、ブルーマウンテン、コナ、マンデリン、キリマンジャロなどが挙げられる。
【0012】
焙煎の度合(通常、浅煎り、中煎り、深煎りの順に表現される)についても、特に限定されない。また、コーヒーの生豆も用いることができる。さらに、複数品種のコーヒー豆をブレンドして用いることもできる。
【0013】
焙煎されたコーヒー豆の粉砕度合(通常、粗挽き、中挽き、細挽きなどに分類される)についても特に限定されず、各種の粒度分布の粉砕豆を用いることができる。抽出については、水や温水などを用いて、各種コーヒー抽出装置(ドリップ式、サイフォン式、ボイリング式、ジェット式、連続式など)で行うことができる。また、コーヒー焙煎豆の抽出温度やコーヒーの抽出度合が高いほど加熱殺菌後の沈殿物が発生しやすい傾向にあるが、温度条件や抽出条件は特に限定されない。
【0014】
本発明に使用するソーマチンは、いわゆる、Thaumatinであり、タウマチンとも呼ばれ、西アフリカに生育するクズウコン科(Marantaceae科)に属する多年性の植物ソーマトコッカスダニエリ(Thaumatococcus Daniellii BENTH)の種子から得られるタンパク質系の甘味物質である。本発明では、ソーマチン単体だけでなく、デキストリンなどの他の素材を利用して製剤化されたソーマチン製剤を使用することもできる。例えば、ソーマチン製剤「ネオサンマルクAG」、「ネオサンマルクDC」(三栄源FFI社製)、甘味料製剤「サンスイート」(三栄源FFI社製)、甘味料製剤「ソーマックスA」(北埼玉ヨシオカ社製品)などが挙げられる。
【0015】
本発明のソーマチンと併用するカゼイン又はその塩については、カゼイン、カゼインナトリウム等の食品に利用できるものであればよい。
本発明においては、通常のコーヒー飲料と同様に、原料や添加剤を適宜選択することができる。例えば、コーヒー成分に関しては、コーヒー抽出液、コーヒーエキス、インスタントコーヒー等を利用することができ、乳成分に関しては、牛乳、生クリーム、各種粉乳を利用することができ、甘味成分としては、ショ糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、各種甘味料、各種高甘味度甘味料、糖アルコールなどが利用できる。添加剤としては、特に制限されず、pH調整剤、乳化剤又は糊料などを添加することができる。
【0016】
コーヒー飲料の沈殿抑制方法
本発明の方法は、上述のコーヒー飲料の製造に用いられる。本発明の方法によれば、コーヒー飲料本来の香味は保持され、かつ製造後の沈殿発生が抑制されるため、本発明の方法は固形分含量が高いコーヒー飲料に好適に用いられる。例えば、固形分含量が1重量%以上のコーヒー飲料や、上記のような乳固形分が重量%で3.0%以上含まれる乳飲料にも好適に用いられる。
【0017】
ソーマチンの配合量は、コーヒー飲料に対して、0.1〜3.00ppmの濃度で配合するのが好ましい。0.1ppm未満の濃度であると、沈殿抑制の効果は得られず、3.00ppmを超えるとソーマチンの持つ香味が影響し、コーヒー飲料の本来持つ香味を損ねてしまう。より好ましい配合量は、0.1〜1.2ppmであり、この範囲内であれば、ソーマチンの持つ甘味の発現が抑えられ、コーヒー飲料本来の香味を保持しつつ、沈殿の発生を抑制することができる。つまり、上述のようにソーマチンは本来甘味物質であり、甘味成分等として食品に添加されるが、本発明においては、その配合量は甘味を発現する濃度以下であってもよいことから、コーヒー飲料本来の香味を保持することができる。
【0018】
本発明の沈殿抑制方法では、ソーマチンに加え、カゼイン又はその塩を併用して配合させることにより、沈殿発生の抑制効果が相乗的に発揮される。
本発明のソーマチンと併用するカゼイン又はその塩については、カゼイン、カゼインナトリウム等の食品に利用できるものであればよく、その使用量は、沈殿発生の抑制効果を相乗的に発現することができ、かつ風味に悪影響を及ぼさない程度が好ましく、具体的には、0.01%〜0.25%が好ましい。
【0019】
また、ソーマチン又はカゼイン若しくはその塩のコーヒー飲料への配合時期については、特に制限されるものではない。一般的なコーヒー飲料の製造方法は、「焙煎」「粉砕」「抽出」「調合」「ろ過」「充填」「巻締」「殺菌」「冷却」「箱詰」からなっているが、「調合」の工程で添加するのが好ましい。
【0020】
本発明の沈殿抑制方法を用いれば、コーヒー飲料の保存中の沈殿生成が抑えられるだけでなく、コーヒー飲料本来の香味を保持することができる。
コーヒー飲料
本発明のコーヒー飲料は、上述のコーヒー飲料の沈殿抑制方法を用いて製造される、沈殿生成が抑制されたコーヒー飲料である。
【0021】
ソーマチンは、コーヒー飲料中に、0.1〜3.00ppmの濃度で含有するのが好ましい。コーヒー飲料中に0.1〜1.2ppmの濃度で含有するのがより好ましく、この範囲内であれば、ソーマチンの持つ甘味の発現が抑えられ、コーヒー飲料本来の香味が保持される。
【0022】
ソーマチンと併用するカゼイン又はその塩については、カゼイン、カゼインナトリウム等の食品に利用できるものであればよく、その含有量は、0.01%〜0.25%が好ましい。
【0023】
本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
実施例
実施例1 ソーマチン製剤による沈殿抑制効果の検証
コーヒー焙煎豆(コロンビアスプレモ)を中挽きにしたもの500gを95℃の湯で抽出し、5000mlの抽出液を得る。これを25℃まで冷却した後、炭酸水素ナトリウムを15g添加した。これに牛乳1000ml、砂糖500g、乳化剤(シュガーエステル)3g、カゼインナトリウム5g、カラギナン0.5gを加えて混合溶解させたものをベースとした。そのベースに、ソーマチン製剤(三栄源FFI社製)をソーマチン単体量としてそれぞれ0〜2.25ppmの範囲になるように配合し、それぞれ10000mlまでメスアップした。これらを70℃まで昇温してホモジナイザーにより200kg/cmで均質化処理を行い、190g容量の缶に充填して、124℃20分間レトルト殺菌を施した。ここで用いられた製剤は、ソーマチン、アラビアガム及びデキストリンからなる製剤である(ソーマチン0.15%、アラビアガム1.35%、デキストリン98.5%。三栄源社ホームページより)。
【0024】
それらを55℃の状態で保存し、2週間、4週間、6週間後のそれぞれの沈殿量を目視により評価し、沈殿の全くないもの又はほとんどないものを◎、沈殿が増えるにつれて〇、△として、沈殿の非常に多いものを×とした。また、香味評価については、風味良好を〇とし、風味に悪影響が出ているものを×として、3段階により評価した。結果は下記の通りであった。
【0025】
【表1】

【0026】
上記結果より、ソーマチンをある範囲で微量配合することにより、香味が良好で、沈殿発生が抑制されることが判明した。また、カゼイン又はその塩と併用利用することで、極少量の配合量で沈殿発生が効果的に抑制されることが分かった。さらに、この実験により、一般的な自動販売機の加温販売やコンビニ等のホットウォーマーでの販売にも適する条件や期間においても沈殿発生が抑制されることが分かった。

実施例2 ソーマチン単体による沈殿抑制効果の実証
ソーマチン単体での沈殿抑制効果を検証するため、実施例1で製造した実験3〜7と同濃度のソーマチン、アラビアガム、デキストリンをそれぞれ単体として含む以外は、実施例1と同様である系で評価した。評価結果を以下に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
表2〜4で明らかな通り、実施例1で得られた実験例での沈殿発生抑制効果は、ソーマチン製剤の成分であるソーマチンによるものであることが分かった。
発明の効果
本発明によれば、簡易且つ低コストの方法で、長期間保存しても沈殿が生じることなく、かつコーヒー飲料が本来持つ風味を有するコーヒー飲料を製造することが可能となる。また、ソーマチンに加えカゼイン又はその塩を併用配合することで、沈殿発生抑制効果はさらに高められる。また、特に、自動販売機のホット販売用やコンビニ等のホット販売用などの長期間の加温状態で保存される場合においても沈殿発生が抑制されることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーマチンを配合することを特徴とする、コーヒー飲料の沈殿抑制方法。
【請求項2】
前記ソーマチンの配合量が0.1〜3.0ppmである、請求項1記載の沈殿抑制方法。
【請求項3】
前記ソーマチンの配合量が0.1〜1.2ppmである、請求項1または2記載の沈殿抑制方法。
【請求項4】
さらに、カゼイン又はその塩を配合する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の沈殿抑制方法。
【請求項5】
前記コーヒー飲料が固形分含量の高いものである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
固形分含量が1重量%以上である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法により沈殿発生が抑制されたコーヒー飲料。
【請求項8】
ソーマチンを0.1〜3.0ppm含有するコーヒー飲料。
【請求項9】
ソーマチンを0.1〜1.2ppm含有するコーヒー飲料。
【請求項10】
さらに、カゼイン又はその塩を含有する、請求項8または9記載のコーヒー飲料。
【請求項11】
固形分含量の高い、請求項8乃至10のいずれか1項に記載のコーヒー飲料。
【請求項12】
固形分含量が1重量%以上である、請求項11記載のコーヒー飲料。

【公開番号】特開2007−97539(P2007−97539A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295148(P2005−295148)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】