タイトジャンクション機能回復剤
【課題】タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を提供する。
【解決手段】皮膚乃至は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなる、タイトジャンクション傷害皮膚モデルと、タイトジャンクション機能トレーサーとを用い、トレーサーの分布の変化より、タイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別する。
【解決手段】皮膚乃至は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなる、タイトジャンクション傷害皮膚モデルと、タイトジャンクション機能トレーサーとを用い、トレーサーの分布の変化より、タイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分のスクリーニングに有用なタイトジャンクション機能回復剤の鑑別法に関する。また、当該鑑別法により見出したタイトジャンクション機能回復剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚におけるバリア機能は、生体にとっての異物の生体内への侵入を防ぐ意味で重要な機能の一つとなっている。かかるバリア機能の不全は肌荒れ、炎症などの原因ともなり、その保全策は化粧料分野においては一大課題となっている。この様な皮膚バリア機能の因子としては、角層細胞の形状や接合状態に起因する表皮・角層のバリア機能、表皮・真皮の含水量などの皮膚保湿性などが挙げられ、単純なものではなく、多くの因子が絡み合っていることが既に知られている。これらの因子で近年特に注目されているのは、表皮顆粒層に存在するタイトジャンクション蛋白であり、かかるタイトジャンクション蛋白を介した細胞接合の不全に皮膚バリア機能の低下が起因すると言う説である。(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)このタイトジャンクションの機能に注目した化粧料素材のスクリーニング法も前記の特許文献に開示されている。この方法では、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分を、数値として評価できるが、タイトジャンクションの不全に対してどの様にスクリーニング素材が働いているかを視覚的に捉えることは困難であり、この様な視覚的に皮膚バリア機能改善を捉えられる鑑別法が望まれていた。
【0003】
一方、アビジンとビオチンとが特異的に結合することを利用して、細胞などを染色するマーカーとして使用することは既に知られている(例えば、特許文献3を参照)。また動物の皮膚にビオチンを注射しタイトジャンクションの結合機能をトレースすることにより、視覚的に皮膚バリア機能改善を捉えられる鑑別法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、動物の皮膚においては個体差などにより皮膚の厚さが均一でなく、また注射を行うという煩雑な人為的作業によりトレーサーの投与位置、量などにばらつきが認められていた。これに対して、三次元培養皮膚モデルを用いて、タイトジャンクションの結合機能をトレースすることは全く知られていなかった。また、この様なトレーサーを用いることにより、他の皮膚生理化学的因子に関する染色法とともに二重染色しそれぞれの因子の影響度合いを視覚的に検討する試みも為されていなかった。
【0004】
タイトジャンクションの障害因子として、紫外線が知られている(例えば、特許文献4を参照)。またタイトジャンクションを傷害する可能性のある物質としては、カプリン酸などが存することは既に知られている(例えば、非特許文献1を参照)が、これを用いて、培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害し、スクリーニング用の素材とすることは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−26092号公報
【特許文献2】特開2006−250786号公報
【特許文献3】特表2002−534219 号公報
【特許文献4】特開2007−210948 号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kondoh M. et. al., Mol Pharmacol. 2005 Mar;67(3):749-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、カプリン酸処理などで作製したタイトジャンクション傷害皮膚モデルを被験体で処理し、しかる後に、タイトジャンクション機能の標識処理を行い、しかる後に標識の存在状況よりタイトジャンクション機能を鑑別することにより、傷害されたタイトジャンクションの機能回復過程を視覚的に捉えられることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理し、
前記傷害処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理し、
しかる後に、タイトジャンクション機能の標識処理を行い、
コントロールに対して有意にタイトジャンクション機能回復を示す検体を選択して含めることにより得られる、タイトジャンクション機能回復剤。
(2)前記検体が、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物である、(1)に記載のタイトジャンクション機能回復剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】無処理コントロールにおけるトレーサーの染色画像を示す図である。図中点線で囲まれた部分が角層で、それよりも下の部分が表皮層である。以下同様。(図面代用写真)
【図2】図1と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図3】図1と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図4】1mMカプリン酸ナトリウム処理におけるトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図5】図4と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図6】図4と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図7】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図8】図7と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図9】図7と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図10】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図11】図10と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図12】図10と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図13】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図14】図13と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図15】図13と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図16】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図17】図16と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図18】図16と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図19】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図20】図19と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図21】図19と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図22】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、0.1%パルマリア抽出物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図23】図22と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図24】図22と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1>本発明のタイトジャンクション傷害皮膚モデル
本発明のタイトジャンクション傷害皮膚モデルは、皮膚バリア機能向上成分のスクリーニング用のものであって、皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなることを特徴とする。前記の皮膚としては、所望により体毛を除去し、生体より採取した皮膚断片であって、表皮顆粒層、表皮基底層及び真皮部分からなるものが好ましく、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウサギの皮膚断片が好ましい。又、前記培養皮膚三次元モデルとしては、ヒト又はヒトを除く動物の皮膚より採取した、正常な(癌化していない)ケラチノサイト、フィブロブラストなどの皮膚細胞を培養し、三次元構造を構築し、皮膚の構造に疑似させたものが好ましく、この様な形態の市販品を購入して使用することもできる。好ましい市販品としては、例えば、倉敷紡績株式会社から販売されて
いる「EFT-400」(正常培養ヒト三次元皮膚モデル)などが好適に例示できる。特に表皮
成分のみで構成される「EPI-200」や、USA MaTek社から販売されている「EpiDerm」など
がさらに好適に例示できる。かかる皮膚又は培養皮膚三次元モデルは、真皮側又は表皮基底層側から傷害手段を講じてタイトジャンクション部分を傷害する。傷害手段としては、例えば、紫外線や化学物質などが好ましく例示でき、紫外線であれば、波長280〜320nmの紫外線を7.5〜200mJ/cm2、さらに好ましくは50〜160mJ/cm2の単位あたりのエネルギー量で照射すればよく、化学的な処置であれば、カプリン酸、カプリル酸などの中鎖長(炭素数8〜12)の脂肪族飽和直鎖脂肪酸またはその一価金属塩の0.1〜10mM、さらに好ましくは0.5〜2mMの溶液を真皮側又は表皮基底層側から、5〜24時間、さらに好ましくは10〜15時間作用させればよい。また、オクルディンやクローディンの細胞外ドメインを認識する中和抗体を使用することもできる。これらの傷害処置の内、特に好ましいものは化学的傷害処置であり、なかでもカプリン酸ナトリウムによる処理が特に好ましい。これはタイトジャンクションに対して均質な損傷がなしうるからである。この様な均質な傷害は、後記の傷害タイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングにおいては、そのメカニズムを的確に鑑別する上で非常に重要な因子となる。処置後傷害手段は直ちに皮膚又は培養皮膚三次元モデルより離脱させる。離脱は、紫外線照射であれば照射を終了することによりできるし、化学的傷害手段であれば、培地又はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)などで洗浄することによりなしうる。斯くして得ら
れたタイトジャンクション傷害皮膚モデルは、後記 タイトジャンクション機能回復剤の
鑑別法に用いられ、傷害されたタイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングに好適に使用される。
【0012】
<2>本発明のタイトジャンクション機能トレーサーキット
本発明のタイトジャンクション機能トレーサーキットは、標識されていてもよいビオチンと、標識されていてもよいアビジンからなるタイトジャンクション機能トレーサーキットであって、前記ビオチン又はアビジンのどちらかは蛍光標識されていることを特徴とする。前記標識としては、例えば、フルオロセイン、ローダミン、フルオテトラメチルローダミン、ダンシルなどの蛍光標識、ルシフェリンなどの発光標識、ガリウムなどの放射性標識、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼなどの酵素標識などが例示でき、感度高く、視覚的にタイトジャンクション機能を鑑別するには、ビオチン又はアビジンのどちらかに蛍光標識を用いることが好ましい。タイトジャンクションの機能を鑑別するためには、本発明のキットでは、標識されていてもよいビオチンを、真皮側又は表皮基底層側から作用させ、表皮顆粒層に向かって作用させる。この時、タイトジャンクションの機能が正常であれば標識されていてもよいビオチンは表皮顆粒層で食い止められ、角層には移動しない。タイトジャンクションの機能が不全であれば、標識されていてもよいビオチンは角層へと移動する。この様な皮膚組織中での、標識されていてもよいビオチンの移動は標識されていてもよいアビジンを作用させることにより、可視化できる。前記アビジンとしては、ビオチンとの不可逆的結合性を有するものであれば、何れも用いることが出来、例えば、ストレプトアビジン等が、その入手の容易性から好適に例示できる。かかるアビジンの標識としては、蛍光標識サクシニルビオチンなど、蛍光標識されていることが好ましい。本発明のキットについて、真皮側又は表皮基底層側より作用させる物質として標識されていてもよいアビジンを選択し、組織中の標識されていてもよいアビジンの可視化手段として標識されていてもよいビオチンを用いることもできるが、タイトジャンクションの機能の正確な鑑別には、真皮側より作用させる物質として標識されていてもよいビオチンを用い、該ビオチンの可視化手段として標識されていてもよいアビジンを用いることがより好ましい。該ビオチンの好ましい市販品としては、EZ-LinkTM-スルフォ-NHS-LC-ビオチン(ピアス社製;PIERCE)などが好適に例示できる。また該アビジンの好ましい市販品としては、ストレプトアビジン-テキサスレッド(オンコジーン社製;ONCOGENE)などが好適に
例示される。なお角層と表皮顆粒層の境界については、光学顕微鏡下で撮影した画像をもとに判断してもよいし、角層あるいは表皮顆粒層、好ましくはタイトジャンクションをト
レーサーで使用するものと明らかに蛍光波長の異なる蛍光物質で標識することによって蛍光顕微鏡下で同時に判断してもよい。例えばタイトジャンクションに特異的に反応する抗体を用いることができるが、抗オクルディン抗体を用い、蛍光標識二次抗体による染色を併用した二重染色条件で本願の発明を実施することが好適に例示できる。
【0013】
<3>本発明のタイトジャンクション機能回復剤の鑑別法
本発明のタイトジャンクション機能回復剤の鑑別法は、前記タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理したものと、未処理のものとを、前記タイトジャンクション機能トレーサーキットで処理し、トレーサーの皮膚組織内における分布状況を調べ、表皮顆粒層から角層へのトレーサーの動きが、検体で処理することにより妨げられている蓋然性が、未処理のものに比して有意に高い場合には、前記検体の投与が皮膚のタイトジャンクションを回復させる効果を有し、該回復によって皮膚バリア機能が向上すると鑑別することを特徴とする。前記蓋然性は、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを、蛍光顕微鏡下観察することに容易に鑑別しうる。蓋然の差の有意性は、蛍光顕微鏡の観察像をコンピューターなどに取込み、アドビ社製の「フォトショップ」などの画像処理ソフトを用いて、二値化などの画像処理を行い、蛍光部位と非蛍光部位とを分けて、角層部に透過した蛍光部位の総面積比を求め、これを統計処理することにより明らかにできる。検体未処理と、処理とにおける、この値の差が大きいほど、検体のタイトジャンクション傷害回復作用、言い換えればバリア機能の回復作用が優れると鑑別できる。又、検体の濃度は実際に皮膚に投与した場合に外挿できるように設定し、ドーズを振って用量効果をみることも好ましい。本発明の鑑別法では、画像として、タイトジャンクションの傷害からの回復が鑑別できるので、蛍光部分の偏りや、時系列的変化などを追うことにより、タイトジャンクションの回復過程のメカニズムなども知ることができる。以上の作業を工程に分けて表現すると以下のようになる。
(工程1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害手段により傷害し、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを作製する工程
(工程2)タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理する工程
(工程3)工程2の検体で処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルと、検体で処理しないタイトジャンクション傷害皮膚モデルをタイトジャンクション機能トレーサーキットの片方、好ましくは標識されたビオチンで処理する工程
(工程4)工程3のトレーサー処理した皮膚モデルより顕微鏡用の標本を作製する工程(好ましくは工程5)工程4の標本を抗オクルディン抗体で処理し、蛍光標識二次抗体にて処理する工程
(工程6)工程4の標本をトレーサーキットのもう一方、好ましくは、蛍光標識アビジンで処理する工程
(工程7)工程4の標本を顕微鏡下、好ましくは蛍光顕微鏡下観察する工程
(好ましくは工程8)工程7の顕微鏡像をイメージ画像としてコンピューターに取込み、画像処理し、蛍光部と非蛍光部とに分け、角層部に透過した蛍光部の量を求める工程(好ましくは工程9)工程8の蛍光部の量を、検体未処理の場合の工程8の蛍光部の量からの差を求め、タイトジャンクション機能の回復促進作用の有無を鑑別する工程
【0014】
斯くして、タイトジャンクションの傷害回復に有効であると鑑別された検体は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分として有用である。かかる成分を製剤上の任意成分とともに、化粧料などの皮膚外用剤に含有せしめ、皮膚に投与することにより、タイトジャンクションの傷害により、皮膚バリア機能が低下した皮膚において、タイトジャンクション機能を回復せしめ、皮膚バリア機能を向上させ、肌荒れなどの好ましくない事象を改善したり、更に悪くなるのを予防したりする作用を発現する。この様な成分が、本発明に言う、タイトジャンクション機能回復剤である。かかるタイトジャンクション機能回復剤としては、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物が好ましく例示できる。パルマリア抽出物とは、紅藻類のパルマリア・パルメート(Palmaria palmate)を水で抽出して
、所望により限外濾過などで分子量を整え、溶媒除去した抽出物である。これらの2種の混合物が特に好ましい。かかる成分の化粧料などの皮膚外用剤における好ましい含有量は、0.05〜1質量%である。
【0015】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例】
【0016】
実施例1
(工程1)「EPI-200」を、1mMカプリン酸ナトリウムを含む培地で12時間培養した。(工程2、3)処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む、1mMカプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して
培養を続け、一定時間ごとに「EPI-200」を回収する1時間前にトレーサーとして「EZ-LinkTM-スルフォ-NHS-LC-ビオチン」を最終濃度0.1mg/mlになるように加えた。一
方、未処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物を含まない70%エタノール水溶液を添加し、同様に培養を続けた。
(工程4)工程1〜3で処理した「EPI-200」を回収し、「OCTコンパウンド」(サクラファインテック社製)に浸漬し、液体窒素中で凍結した。続いて凍結切片作製装置にて凍結切片標本を作製した。
(工程5)該標本をウサギ抗オクルディン抗体(インビトロジェン社製)と反応させ、その後FITC標識ロバ抗ウサギ抗体(ICN-ファーマシューティカル社製)及びストレプトアビジン-テキサスレッド(オンコジーン社製)と反応させた。
(工程6)工程5で得た標本を488、543nmの2波長で、蛍光顕微鏡下で観察した。
【0017】
図1〜3は無処理コントロール、図4〜6は1mMカプリン酸ナトリウムで処理したとき
の皮膚モデル組織切片像である。図1、4はトレーサーの染色画像、図2、5は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図3、6はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図1〜3より表皮基底層側(下)より添加したトレーサーが細胞間を通ってタイトジャンクションの位置(矢印、抗オクルディン抗体染色部位)、即ち顆粒層のところで止まっていることが判り、図4〜6よりカプリン酸ナトリウム処理でタイトジャンクションを傷害せしめることによってトレーサーが一部顆粒層より上の角層部分に漏出していることが判る(図6*印)。図7〜9はその後3時間経過、図10〜12は6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。一方、図13〜15はタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地で培養した3時間経過後、図16〜18はその6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。図7、10、13、16はトレーサーの染色画像、図8、11、14、17は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図9、12、15、18はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図7〜9及び10〜12よりカプリン酸ナトリウムによってタイトジャンクション傷害後、カプリン酸ナトリウムを離脱せしめてもトレーサーが角層部分に漏出したままであったが(図9、12*印)、図13〜15及び16〜18に示すようにε,γ−グルタミルリジンとパルマリア抽出物の混合物で処理することによってトレーサーの角層部分への漏出が防がれていることが判る。なお、図19〜21にはタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンのみを、図22〜24にはタイトジャンクション傷害後に0.1%パルマリア抽出物のみを添加して6時間後の結果も示す。図19、22はトレーサーの染色画像、図20、23は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図21、24はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。ε,γグルタミルリジン、パルマリア抽出物はいずれも単独でもトレーサーの角層部分への漏出を防ぐことが判る。即ち本鑑別法は、タイトジャンクション機能に関与した皮膚バリア改善素材のスクリーニングに適していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分の評価に応用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分のスクリーニングに有用なタイトジャンクション機能回復剤の鑑別法に関する。また、当該鑑別法により見出したタイトジャンクション機能回復剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚におけるバリア機能は、生体にとっての異物の生体内への侵入を防ぐ意味で重要な機能の一つとなっている。かかるバリア機能の不全は肌荒れ、炎症などの原因ともなり、その保全策は化粧料分野においては一大課題となっている。この様な皮膚バリア機能の因子としては、角層細胞の形状や接合状態に起因する表皮・角層のバリア機能、表皮・真皮の含水量などの皮膚保湿性などが挙げられ、単純なものではなく、多くの因子が絡み合っていることが既に知られている。これらの因子で近年特に注目されているのは、表皮顆粒層に存在するタイトジャンクション蛋白であり、かかるタイトジャンクション蛋白を介した細胞接合の不全に皮膚バリア機能の低下が起因すると言う説である。(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)このタイトジャンクションの機能に注目した化粧料素材のスクリーニング法も前記の特許文献に開示されている。この方法では、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分を、数値として評価できるが、タイトジャンクションの不全に対してどの様にスクリーニング素材が働いているかを視覚的に捉えることは困難であり、この様な視覚的に皮膚バリア機能改善を捉えられる鑑別法が望まれていた。
【0003】
一方、アビジンとビオチンとが特異的に結合することを利用して、細胞などを染色するマーカーとして使用することは既に知られている(例えば、特許文献3を参照)。また動物の皮膚にビオチンを注射しタイトジャンクションの結合機能をトレースすることにより、視覚的に皮膚バリア機能改善を捉えられる鑑別法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、動物の皮膚においては個体差などにより皮膚の厚さが均一でなく、また注射を行うという煩雑な人為的作業によりトレーサーの投与位置、量などにばらつきが認められていた。これに対して、三次元培養皮膚モデルを用いて、タイトジャンクションの結合機能をトレースすることは全く知られていなかった。また、この様なトレーサーを用いることにより、他の皮膚生理化学的因子に関する染色法とともに二重染色しそれぞれの因子の影響度合いを視覚的に検討する試みも為されていなかった。
【0004】
タイトジャンクションの障害因子として、紫外線が知られている(例えば、特許文献4を参照)。またタイトジャンクションを傷害する可能性のある物質としては、カプリン酸などが存することは既に知られている(例えば、非特許文献1を参照)が、これを用いて、培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害し、スクリーニング用の素材とすることは全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−26092号公報
【特許文献2】特開2006−250786号公報
【特許文献3】特表2002−534219 号公報
【特許文献4】特開2007−210948 号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kondoh M. et. al., Mol Pharmacol. 2005 Mar;67(3):749-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、カプリン酸処理などで作製したタイトジャンクション傷害皮膚モデルを被験体で処理し、しかる後に、タイトジャンクション機能の標識処理を行い、しかる後に標識の存在状況よりタイトジャンクション機能を鑑別することにより、傷害されたタイトジャンクションの機能回復過程を視覚的に捉えられることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理し、
前記傷害処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理し、
しかる後に、タイトジャンクション機能の標識処理を行い、
コントロールに対して有意にタイトジャンクション機能回復を示す検体を選択して含めることにより得られる、タイトジャンクション機能回復剤。
(2)前記検体が、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物である、(1)に記載のタイトジャンクション機能回復剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】無処理コントロールにおけるトレーサーの染色画像を示す図である。図中点線で囲まれた部分が角層で、それよりも下の部分が表皮層である。以下同様。(図面代用写真)
【図2】図1と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図3】図1と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図4】1mMカプリン酸ナトリウム処理におけるトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図5】図4と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図6】図4と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図7】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図8】図7と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図9】図7と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図10】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図11】図10と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図12】図10と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図13】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図14】図13と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図15】図13と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図16】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図17】図16と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図18】図16と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図19】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図20】図19と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図21】図19と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図22】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、0.1%パルマリア抽出物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図23】図22と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図24】図22と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1>本発明のタイトジャンクション傷害皮膚モデル
本発明のタイトジャンクション傷害皮膚モデルは、皮膚バリア機能向上成分のスクリーニング用のものであって、皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなることを特徴とする。前記の皮膚としては、所望により体毛を除去し、生体より採取した皮膚断片であって、表皮顆粒層、表皮基底層及び真皮部分からなるものが好ましく、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウサギの皮膚断片が好ましい。又、前記培養皮膚三次元モデルとしては、ヒト又はヒトを除く動物の皮膚より採取した、正常な(癌化していない)ケラチノサイト、フィブロブラストなどの皮膚細胞を培養し、三次元構造を構築し、皮膚の構造に疑似させたものが好ましく、この様な形態の市販品を購入して使用することもできる。好ましい市販品としては、例えば、倉敷紡績株式会社から販売されて
いる「EFT-400」(正常培養ヒト三次元皮膚モデル)などが好適に例示できる。特に表皮
成分のみで構成される「EPI-200」や、USA MaTek社から販売されている「EpiDerm」など
がさらに好適に例示できる。かかる皮膚又は培養皮膚三次元モデルは、真皮側又は表皮基底層側から傷害手段を講じてタイトジャンクション部分を傷害する。傷害手段としては、例えば、紫外線や化学物質などが好ましく例示でき、紫外線であれば、波長280〜320nmの紫外線を7.5〜200mJ/cm2、さらに好ましくは50〜160mJ/cm2の単位あたりのエネルギー量で照射すればよく、化学的な処置であれば、カプリン酸、カプリル酸などの中鎖長(炭素数8〜12)の脂肪族飽和直鎖脂肪酸またはその一価金属塩の0.1〜10mM、さらに好ましくは0.5〜2mMの溶液を真皮側又は表皮基底層側から、5〜24時間、さらに好ましくは10〜15時間作用させればよい。また、オクルディンやクローディンの細胞外ドメインを認識する中和抗体を使用することもできる。これらの傷害処置の内、特に好ましいものは化学的傷害処置であり、なかでもカプリン酸ナトリウムによる処理が特に好ましい。これはタイトジャンクションに対して均質な損傷がなしうるからである。この様な均質な傷害は、後記の傷害タイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングにおいては、そのメカニズムを的確に鑑別する上で非常に重要な因子となる。処置後傷害手段は直ちに皮膚又は培養皮膚三次元モデルより離脱させる。離脱は、紫外線照射であれば照射を終了することによりできるし、化学的傷害手段であれば、培地又はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)などで洗浄することによりなしうる。斯くして得ら
れたタイトジャンクション傷害皮膚モデルは、後記 タイトジャンクション機能回復剤の
鑑別法に用いられ、傷害されたタイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングに好適に使用される。
【0012】
<2>本発明のタイトジャンクション機能トレーサーキット
本発明のタイトジャンクション機能トレーサーキットは、標識されていてもよいビオチンと、標識されていてもよいアビジンからなるタイトジャンクション機能トレーサーキットであって、前記ビオチン又はアビジンのどちらかは蛍光標識されていることを特徴とする。前記標識としては、例えば、フルオロセイン、ローダミン、フルオテトラメチルローダミン、ダンシルなどの蛍光標識、ルシフェリンなどの発光標識、ガリウムなどの放射性標識、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼなどの酵素標識などが例示でき、感度高く、視覚的にタイトジャンクション機能を鑑別するには、ビオチン又はアビジンのどちらかに蛍光標識を用いることが好ましい。タイトジャンクションの機能を鑑別するためには、本発明のキットでは、標識されていてもよいビオチンを、真皮側又は表皮基底層側から作用させ、表皮顆粒層に向かって作用させる。この時、タイトジャンクションの機能が正常であれば標識されていてもよいビオチンは表皮顆粒層で食い止められ、角層には移動しない。タイトジャンクションの機能が不全であれば、標識されていてもよいビオチンは角層へと移動する。この様な皮膚組織中での、標識されていてもよいビオチンの移動は標識されていてもよいアビジンを作用させることにより、可視化できる。前記アビジンとしては、ビオチンとの不可逆的結合性を有するものであれば、何れも用いることが出来、例えば、ストレプトアビジン等が、その入手の容易性から好適に例示できる。かかるアビジンの標識としては、蛍光標識サクシニルビオチンなど、蛍光標識されていることが好ましい。本発明のキットについて、真皮側又は表皮基底層側より作用させる物質として標識されていてもよいアビジンを選択し、組織中の標識されていてもよいアビジンの可視化手段として標識されていてもよいビオチンを用いることもできるが、タイトジャンクションの機能の正確な鑑別には、真皮側より作用させる物質として標識されていてもよいビオチンを用い、該ビオチンの可視化手段として標識されていてもよいアビジンを用いることがより好ましい。該ビオチンの好ましい市販品としては、EZ-LinkTM-スルフォ-NHS-LC-ビオチン(ピアス社製;PIERCE)などが好適に例示できる。また該アビジンの好ましい市販品としては、ストレプトアビジン-テキサスレッド(オンコジーン社製;ONCOGENE)などが好適に
例示される。なお角層と表皮顆粒層の境界については、光学顕微鏡下で撮影した画像をもとに判断してもよいし、角層あるいは表皮顆粒層、好ましくはタイトジャンクションをト
レーサーで使用するものと明らかに蛍光波長の異なる蛍光物質で標識することによって蛍光顕微鏡下で同時に判断してもよい。例えばタイトジャンクションに特異的に反応する抗体を用いることができるが、抗オクルディン抗体を用い、蛍光標識二次抗体による染色を併用した二重染色条件で本願の発明を実施することが好適に例示できる。
【0013】
<3>本発明のタイトジャンクション機能回復剤の鑑別法
本発明のタイトジャンクション機能回復剤の鑑別法は、前記タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理したものと、未処理のものとを、前記タイトジャンクション機能トレーサーキットで処理し、トレーサーの皮膚組織内における分布状況を調べ、表皮顆粒層から角層へのトレーサーの動きが、検体で処理することにより妨げられている蓋然性が、未処理のものに比して有意に高い場合には、前記検体の投与が皮膚のタイトジャンクションを回復させる効果を有し、該回復によって皮膚バリア機能が向上すると鑑別することを特徴とする。前記蓋然性は、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを、蛍光顕微鏡下観察することに容易に鑑別しうる。蓋然の差の有意性は、蛍光顕微鏡の観察像をコンピューターなどに取込み、アドビ社製の「フォトショップ」などの画像処理ソフトを用いて、二値化などの画像処理を行い、蛍光部位と非蛍光部位とを分けて、角層部に透過した蛍光部位の総面積比を求め、これを統計処理することにより明らかにできる。検体未処理と、処理とにおける、この値の差が大きいほど、検体のタイトジャンクション傷害回復作用、言い換えればバリア機能の回復作用が優れると鑑別できる。又、検体の濃度は実際に皮膚に投与した場合に外挿できるように設定し、ドーズを振って用量効果をみることも好ましい。本発明の鑑別法では、画像として、タイトジャンクションの傷害からの回復が鑑別できるので、蛍光部分の偏りや、時系列的変化などを追うことにより、タイトジャンクションの回復過程のメカニズムなども知ることができる。以上の作業を工程に分けて表現すると以下のようになる。
(工程1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害手段により傷害し、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを作製する工程
(工程2)タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理する工程
(工程3)工程2の検体で処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルと、検体で処理しないタイトジャンクション傷害皮膚モデルをタイトジャンクション機能トレーサーキットの片方、好ましくは標識されたビオチンで処理する工程
(工程4)工程3のトレーサー処理した皮膚モデルより顕微鏡用の標本を作製する工程(好ましくは工程5)工程4の標本を抗オクルディン抗体で処理し、蛍光標識二次抗体にて処理する工程
(工程6)工程4の標本をトレーサーキットのもう一方、好ましくは、蛍光標識アビジンで処理する工程
(工程7)工程4の標本を顕微鏡下、好ましくは蛍光顕微鏡下観察する工程
(好ましくは工程8)工程7の顕微鏡像をイメージ画像としてコンピューターに取込み、画像処理し、蛍光部と非蛍光部とに分け、角層部に透過した蛍光部の量を求める工程(好ましくは工程9)工程8の蛍光部の量を、検体未処理の場合の工程8の蛍光部の量からの差を求め、タイトジャンクション機能の回復促進作用の有無を鑑別する工程
【0014】
斯くして、タイトジャンクションの傷害回復に有効であると鑑別された検体は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分として有用である。かかる成分を製剤上の任意成分とともに、化粧料などの皮膚外用剤に含有せしめ、皮膚に投与することにより、タイトジャンクションの傷害により、皮膚バリア機能が低下した皮膚において、タイトジャンクション機能を回復せしめ、皮膚バリア機能を向上させ、肌荒れなどの好ましくない事象を改善したり、更に悪くなるのを予防したりする作用を発現する。この様な成分が、本発明に言う、タイトジャンクション機能回復剤である。かかるタイトジャンクション機能回復剤としては、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物が好ましく例示できる。パルマリア抽出物とは、紅藻類のパルマリア・パルメート(Palmaria palmate)を水で抽出して
、所望により限外濾過などで分子量を整え、溶媒除去した抽出物である。これらの2種の混合物が特に好ましい。かかる成分の化粧料などの皮膚外用剤における好ましい含有量は、0.05〜1質量%である。
【0015】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例】
【0016】
実施例1
(工程1)「EPI-200」を、1mMカプリン酸ナトリウムを含む培地で12時間培養した。(工程2、3)処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む、1mMカプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して
培養を続け、一定時間ごとに「EPI-200」を回収する1時間前にトレーサーとして「EZ-LinkTM-スルフォ-NHS-LC-ビオチン」を最終濃度0.1mg/mlになるように加えた。一
方、未処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物を含まない70%エタノール水溶液を添加し、同様に培養を続けた。
(工程4)工程1〜3で処理した「EPI-200」を回収し、「OCTコンパウンド」(サクラファインテック社製)に浸漬し、液体窒素中で凍結した。続いて凍結切片作製装置にて凍結切片標本を作製した。
(工程5)該標本をウサギ抗オクルディン抗体(インビトロジェン社製)と反応させ、その後FITC標識ロバ抗ウサギ抗体(ICN-ファーマシューティカル社製)及びストレプトアビジン-テキサスレッド(オンコジーン社製)と反応させた。
(工程6)工程5で得た標本を488、543nmの2波長で、蛍光顕微鏡下で観察した。
【0017】
図1〜3は無処理コントロール、図4〜6は1mMカプリン酸ナトリウムで処理したとき
の皮膚モデル組織切片像である。図1、4はトレーサーの染色画像、図2、5は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図3、6はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図1〜3より表皮基底層側(下)より添加したトレーサーが細胞間を通ってタイトジャンクションの位置(矢印、抗オクルディン抗体染色部位)、即ち顆粒層のところで止まっていることが判り、図4〜6よりカプリン酸ナトリウム処理でタイトジャンクションを傷害せしめることによってトレーサーが一部顆粒層より上の角層部分に漏出していることが判る(図6*印)。図7〜9はその後3時間経過、図10〜12は6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。一方、図13〜15はタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地で培養した3時間経過後、図16〜18はその6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。図7、10、13、16はトレーサーの染色画像、図8、11、14、17は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図9、12、15、18はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図7〜9及び10〜12よりカプリン酸ナトリウムによってタイトジャンクション傷害後、カプリン酸ナトリウムを離脱せしめてもトレーサーが角層部分に漏出したままであったが(図9、12*印)、図13〜15及び16〜18に示すようにε,γ−グルタミルリジンとパルマリア抽出物の混合物で処理することによってトレーサーの角層部分への漏出が防がれていることが判る。なお、図19〜21にはタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンのみを、図22〜24にはタイトジャンクション傷害後に0.1%パルマリア抽出物のみを添加して6時間後の結果も示す。図19、22はトレーサーの染色画像、図20、23は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図21、24はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。ε,γグルタミルリジン、パルマリア抽出物はいずれも単独でもトレーサーの角層部分への漏出を防ぐことが判る。即ち本鑑別法は、タイトジャンクション機能に関与した皮膚バリア改善素材のスクリーニングに適していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分の評価に応用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理し、
前記傷害処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理し、
しかる後に、タイトジャンクション機能の標識処理を行い、
コントロールに対して有意にタイトジャンクション機能回復を示す検体を選択して含めることにより得られる、タイトジャンクション機能回復剤。
【請求項2】
前記検体が、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物である、請求項1に記載のタイトジャンクション機能回復剤。
【請求項1】
皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理し、
前記傷害処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理し、
しかる後に、タイトジャンクション機能の標識処理を行い、
コントロールに対して有意にタイトジャンクション機能回復を示す検体を選択して含めることにより得られる、タイトジャンクション機能回復剤。
【請求項2】
前記検体が、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物である、請求項1に記載のタイトジャンクション機能回復剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−100356(P2013−100356A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−28575(P2013−28575)
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2009−92329(P2009−92329)の分割
【原出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2009−92329(P2009−92329)の分割
【原出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】
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