説明

タイムリスト測定による即発及び壊変ガンマ線分別測定法

【課題】
即発ガンマ線分析法で使用する即発ガンマ線スペクトル中には即発ガンマ線と壊変ガンマ線は同一に記録され、お互いを明白に分離することは困難であった。本発明は即発ガンマ線と壊変ガンマ線を明白に分別して測定することで分析の確度を向上させる技術を提供することを謀題とする。
【解決手段】
パルス中性子ビームを利用し、中性子パルス発生信号をスタート信号として、スタート信号からの時間情報とガンマ線検出事象をリストモードで保存し、これを解析して時間分解即発ガンマ線及び壊変ガンマ線スペクトルの測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、即発ガンマ線及び壊変ガンマ線スペクトルを分別して測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子ビームを測定試料に照射すると直ちに測定試料から即発ガンマ線が放射される。この即発ガンマ線を測定し、ガンマ線エネルギーから元素の同定、ガンマ線強度から元素量の定量を行う分析法が即発ガンマ線分析法である。この際、中性子捕獲反応により生成する短半減期の放射性核種からの壊変ガンマ線も同時に測定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、以上の技術によれば、即発ガンマ線と壊変ガンマ線は同一ガンマ線スペクトル中に記録され、お互いを明白に分離することは困難であった。そのため、1)壊変ガンマ線ピークが分析対象の即発ガンマ線ピークの妨害ピークとなる、2)壊変ガンマ線が即発ガンマ線スペクトルのバックグラウンド増加の一因となる、3)壊変ガンマ線を分析に用いることは即発ガンマ線のバックグラウンドにより困難である、などの問題があった。
【0004】
さらに、パルス中性子を利用する即発ガンマ線測定では、中性子の有無によってパルス周期内のガンマ線強度の変化が生じる。その変化に対応したガンマ線検出系の不感時間補正の必要性の有無の確認及び補正法の確立が課題となる。
【0005】
本発明は、即発ガンマ線と壊変ガンマ線を明白に分別して測定することで分析の確度を向上させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、第一発明は、中性子ビームとして、パルス中性子ビームを利用し、中性子パルス発生信号をスタート信号として、スタート信号からの経過時間情報とガンマ線検出事象情報をリストモードで記録し、ガンマ線スペクトルに経過時間情報を加え、時間分解即発ガンマ線及び壊変ガンマ線スペクトルの測定を行うことを特徴とする測定技術である。
【0007】
第二発明は中性子照射時の即発ガンマ線スペクトルから中性子未照射時の壊変ガンマ線スペクトルを差し引くことで、即発ガンマ線スペクトルから壊変ガンマ線スペクトル成分を差し引くものであり、即発ガンマ線スペクトルのバックグラウンド抑制に効果的な測定技術である。
【0008】
第三発明は、パルス中性子ビームを利用した即発ガンマ線測定では中性子ビームの在る無しに対応して測定試料からのガンマ線強度の大きな変化が予想される。従って、中性子の在る無しに伴うガンマ線検出器の不感時間の補正が必要となる。この不感時間の補正のために、中性子照射時に生成する中性子パルスビーム周期に対して長半減期の放射性核種からの壊変ガンマ線強度を用いて、中性子ビームの在る無しに対応した測定系全体の不感時間の補正を簡便に行うものである。
上記不感時間とは、測定システムがパルスの処理に利用できない時間のことであり、一般的に高計数率の測定では不感時間が多くなり計数率が減少する。本発明におけるように、測定中に大きな計数率の変化が予想される系では、不感時間の評価が重要になる。
即ち、本発明は、中性子パルスビームを測定試料に照射し、中性子照射時のみ即発ガンマ線を放射させ、中性子照射による生成核種の半減期に応じて壊変ガンマ線を放射させ、その即発ガンマ線と壊変ガンマ線をガンマ線検出器で検出し、検出ガンマ線をガンマ線測定回路でガンマ線信号に整形してリストモード対応多重波高分析器に入力し、ガンマ線発生毎にそのエネルギー情報と時間情報を逐次リストファイルに保存し、保存されたエネルギー情報と時間情報を有するリストデータからガンマ線エネルギーと経過時間に対する計数値をプロットして時間分解即発ガンマ線スペクトル及び壊変ガンマ線スペクトルを得、これらのスペクトルを解析することにより、即発ガンマ線及び壊変ガンマ線を分別して測定する方法である。
又、本発明は、上記即発ガンマ線及び壊変ガンマ線を分別して測定する方法において、中性子照射時の即発ガンマ線スペクトル成分から中性子未照射時の壊変ガンマ線スペクトル成分を差し引くことにより、即発ガンマ線スペクトルに対する壊変ガンマ線スペクトルによる影響を抑制して即発ガンマ線と壊変ガンマ線を明白に分別して測定することで分析の確度を向上させるものである。
更に又、本発明は、上記即発ガンマ線及び壊変ガンマ線を分別して測定する方法において、生成放射性核種の半減期が、中性子照射周期に対して長い場合、即ち、測定系の中性子パルスビームの照射周期を大きく越える場合には、その生成放射性核種からの壊変ガンマ線ピークが経過時間に関係なくほぼ一定の強度を保つので、中性子パルスビーム周期に対して長半減期の生成放射性核種からの壊変ガンマ線ピーク強度を用いて、中性子ビームの在る無しにかかわらず測定系全体の即発ガンマ線の補正を行うことができるものである。これは、生成放射性核種の壊変による減衰を無視できるほど早く次の中性子パルスが来ると壊変を無視できることを意味している。
【発明の効果】
【0009】
第一発明によれば、パルス中性子ビームとその中性子パルス・スタート信号からの経過時間情報を利用することで、時間軸に対してガンマ線スペクトルが得られる。得られた時間分解ガンマ線スペクトル中のガンマ線ピーク強度の時間依存性から明白に即発ガンマ線と壊変ガンマ線の識別が容易に可能であり、さらに任意の時間領域で時間軸に対してそれぞれのガンマ線スペクトルを積算することで特定の時間領域におけるガンマ線スペクトルを再構成することができる。従って、時間領域を指定すれば即発ガンマ線及び壊変ガンマ線スペクトルを識別して取得可能となる。
【0010】
第二発明によれば、第一発明により取得した即発ガンマ線スペクトルから壊変ガンマ線スペクトルを差分することによりパルス中性子周期に対して長半減の壊変核種からのガンマ線成分を抑制し、即発ガンマ線スペクトルのバックグランド抑制及びピーク計数―バックグランド計数比の向上を行うことができる。
ピーク計数―バックグランド計数比とは、本発明では、ピーク計数率が減少することなくピークの底辺にあるバックグランド係数が減少することを指し、このことにより、1)バックグランドに埋もれて見えなかったピークが認識できるようになる、2)ピークの統計誤差が小さくなる、などの利点が生じる。
【0011】
第三発明によれば、中性子パルス周期に対して長半減期核種の壊変ガンマ線強度は時間依存性がなく、該当壊変ガンマ線強度の変化は不感時間の影響によるものである。従って、不感時間補正の必要性の有無は、該当壊変ガンマ線強度の変化を確認することで確認でき、補正が必要となる場合でも該当壊変ガンマ線強度変化から容易に補正が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の一実施形態を、図1に示す。中性子ビーム1は、中性子ディスクチョッパー2によりパルス化され中性子パルスビームとなる。中性子パルスビームは測定試料3に照射され、中性子照射時のみ即発ガンマ線4が放射され、壊変ガンマ線5はその半減期に応じて照射中にその強度が増加し、未照射時に減衰しながら放射される。即発ガンマ線4と壊変ガンマ線5はガンマ線検出器6で検出され、ガンマ線測定回路7でガンマ線信号8に整形されリストモード対応多重波高分析器9に入力される。
一方、中性子をチョップする中性子ディスクチョッパー2の中性子窓10の開閉情報はスタート信号11としてリストモード対応多重波高分析器9に入力される。リストモード対応多重波高分析器9は、ガンマ線信号を受け取ると中性子窓からの経過時間とエネルギーをハードディスク等にリストファイル12として逐次保存していく。保存された時間情報とエネルギー情報を有するリストデータからガンマ線エネルギーと経過時間に対し計数値をプロットし時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトル13が得られる。時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトル13中で、即発ガンマ線ピーク14は中性子ビームが測定試料に到着後直ちに立上り、ビームが無くなると直ちに立下り台形型のピーク形状をしている。壊変ガンマ線ピーク15は、生成核種の半減期が中牲子照射時間に対して短いと中性予照射中に半減期に伴って強度が増加し、中性子未照射時に減衰するようなピーク形状をとり、半減期が中性子照射時間に対して長いと、測定系の不感時間の影響が無視できる場合には経過時間に関係なく一定の強度を保つ。
【0013】
(実施形態の効果)
この実施形態によれば、スタート信号11から時間情報とガンマ線検出事象をリストファイルに保存し、時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトル13を取得することで即発ガンマ線と壊変ガンマ線を明白に分別して測定可能となる。時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトル13データの任意の時間領域のスペクトルを時間軸で積算することで、特定の時間領域のガンマ線スペクトルを得ることができる。
【0014】
(他の実施形態)
図1の実施形態では、定常的な中性子ビームを中性子ディスクチョッパーによりパルス化しているが、他の実施形態では、中牲子パルスビームのスタート信号を利用すれば、加速器中性子源の様に元々中性子パルスビームを発生するものでも良い。
【実施例】
【0015】
時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトルの測定
Na2CO3 0.3グラムを測定試料として時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトルを測定した。試料中のNaは中性子捕獲反応の際に92keVをはじめ複数の即発ガンマ線を放射し、また20ミリ秒という極短半減期を有する放射性同位元素24mNaを生成する。24mNaは472keVの壊変ガンマ線を放射する。測定は原研東海研究所JRR−3研究用原子炉の即発ガンマ線分析装置内に中牲子ディスクチョッパーを設置し、図1に示した測定スキームで行った。測定結果を図2に示す。図2における測定条件を以下に示す。測定時間3000sec、時間分解能1msec、中性子パルス幅94msec、パルス間隔;188msecである。Naの92keV即発γ線は中性子パルス照射後直ちに立ち上がり、照射終了後に立ち下がっているのに対し、極短寿命核種である24mNa(半滅期20msec)の472keV壊変γ線では照射中にγ線強度の成長曲線が見られ、照射終了後放射壊変に伴ってγ線強度が減衰する様子が認められる。このように本発明により即発ガンマ線と壊変ガンマ線を明確に分別して測定可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態を示す模式図である。
【図2】この発明の実施例である時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトル。
【符号の説明】
【0017】
1 中性子ビーム 2 中性子ディスクチョッパー
3 測定試料 4 即発ガンマ線
5 壊変ガンマ線 6 ガンマ線検出器
7 ガンマ線測定回路 8 ガンマ線信号
9 ガンマ線信号 10 中性子窓
11 スタート信号 12 リストモードファイル
13 時間分解即発及び壊変ガンマ線スペクトル
14 即発ガンマ線ピーク 15 壊変ガンマ線ピーク
16 壊変ガンマ線
17 即発ガンマ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス中性子ビームを利用し,中性子パルス発生信号をスタート信号として、スタート信号からの経過時間情報とガンマ線検出事象情報をリストモードで記録し、これを解析して時間分解即発ガンマ線及び壊変ガンマ線スペクトルの測定を行う測定法。
【請求項2】
中性子照射時の即発ガンマ線スペクトルから中性子未照射時の壊変ガンマ線スペクトルを差し引くことで、即発ガンマ線スペクトルから壊変ガンマ線スペクトル成分を差し引き、即発ガンマ線スペクトルのバックグラウンドを抑制する測走法。
【請求項3】
中性子パルスビーム周期に対して長半減期の中性子照射中に生成する放射性核種からの壊変ガンマ線ピーク強度を用いて、中性子ビームの在る無しに対応した測定系全体の不感時間の補正を行うガンマ線検出系の不感時間の補正法。









【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−113010(P2006−113010A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302928(P2004−302928)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】