説明

タイヤのシミュレーション方法

【課題】計算時間を短縮しつつ軟弱な泥路面でのタイヤ性能を精度良くシミュレートしうるタイヤのシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】軟弱な泥路面でのタイヤ性能をシミュレートするタイヤのシミュレーション方法であって、数値解析が可能な要素で少なくともトレッドパターンを有するタイヤをモデル化したタイヤモデルを設定するタイヤモデル設定ステップS1と、数値解析が可能な要素で前記泥路面をモデル化した軟弱路モデルを設定する路面モデル設定ステップS2と、タイヤモデルと軟弱路モデルとを接触させかつ軟弱路モデルの変形計算をコンピュータを用いて微小な時間増分毎に行うシミュレーションステップS4とを含むとともに、タイヤモデル設定ステップS1では、タイヤモデルを変形不能な剛体として設定し、シミュレーションステップS4では、タイヤモデルの変形計算を行わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算時間を短縮しつつ軟弱な路面でのタイヤ性能を精度良くシミュレートしうるタイヤのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車やSUVといった多目的車両に装着される空気入りタイヤは、泥路面のような軟弱な路面を走行する機会があるため、このような泥路面での走行性能(以下、このような性能を「マッド性能」と呼ぶことがある。)を良好に発揮することが求められている。従来、タイヤのマッド性能は、テストタイヤを装着した実車で泥路面を走行させ、ドライバーのフィーリングによって評価されていた。しかしながら、このような評価方法では、天候等による泥路面の状況の変化やドライバーの能力等によってバラツキが生じやすく、定量的なマッド性能の把握が困難であった。
【0003】
そこで、近年では、有限要素法等の数値解析手法を用いたコンピュータシミュレーションにより、泥路面でのタイヤの走行性能を予測・解析する方法が提案されている。関連する技術としては、下記特許文献1乃至2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−315236号公報
【特許文献2】特開2009−300278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のシミュレーション方法では、タイヤを実物通り弾性体としてモデル化したタイヤモデルと、泥路面をモデル化した泥路面モデルとを設定し、これらを接触させ、タイヤモデル及び泥路面モデルの両者の変形計算をコンピュータを用いて微小な時間増分毎に行う必要があり、多くの時間を要していた。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、計算時間を短縮しつつ軟弱な路面でのタイヤ性能を精度良くシミュレートしうるタイヤのシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、軟弱な路面でのタイヤ性能をシミュレートするタイヤのシミュレーション方法であって、数値解析が可能な要素で少なくともトレッドパターンを有するタイヤをモデル化したタイヤモデルを設定するタイヤモデル設定ステップと、数値解析が可能な要素で前記路面をモデル化した軟弱路モデルを設定する路面モデル設定ステップと、タイヤモデルと軟弱路モデルとを接触させかつ軟弱路モデルの変形計算をコンピュータを用いて微小な時間増分毎に行うシミュレーションステップとを含むとともに、前記タイヤモデル設定ステップでは、前記タイヤモデルを変形不能な剛体として設定し、前記シミュレーションステップでは、前記タイヤモデルの変形計算を行わないことを特徴とする。
【0008】
また請求項2記載の発明は、前記シミュレーションステップでは、予め定められた条件に基づいて、前記タイヤモデルを前記軟弱路モデルに対して転動させることを特徴とする。
【0009】
また請求項3記載の発明は、前記軟弱路モデル設定ステップは、前記シミュレーションステップにおいて、前記トレッドパターンが接触しない厚さで前記軟弱路モデルを設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
軟弱な路面、例えば十分な深さを有する泥路面では、通常、タイヤは、泥路面の底に接地することなく該底から浮いた状態で浮力を受けながら走行するため、タイヤを大きく変形させる程の荷重が作用しないことが多い。本発明では、このような軟弱路でのタイヤ走行状況に着目した。即ち、本発明では、タイヤモデルを変形不能な剛体として設定し、シミュレーションステップでは、軟弱路モデルの変形計算のみを行い、タイヤモデルの変形計算を行わないことを特徴としている。従って、本発明によれば、タイヤモデルの変形計算がなくなるため、計算時間を大幅に短縮することができる。他方、軟弱路では、上述のようにタイヤの変形は極めて小さい範囲に止まるため、タイヤモデルを剛体として取り扱ってもマッド性能の傾向に大きな差異が生じないので、シミュレーション結果をマッド性能の評価に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態で用いたコンピュータ装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】タイヤモデルを視覚化して示す斜視図である。
【図4】泥路面モデルと、それに接触させられたタイヤモデルとの関係を示す断面図である。
【図5】シミュレーションステップにおいて得られたタイヤモデルの縦荷重と時間との関係を示すグラフである。
【図6】図5のグラフにおいて、0〜0.30sのタイヤモデルと軟弱路モデルとの関係を示す断面図である。
【図7】図5のグラフにおいて、0.30s〜0.35sのタイヤモデルと軟弱路モデルとの関係を示す断面図である。
【図8】図5のグラフにおいて、0.35s〜0.40sのタイヤモデルと軟弱路モデルとの関係を示す断面図である。
【図9】図5のグラフにおいて、0.40s以降のタイヤモデルと軟弱路モデルとの関係を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、十分な厚さを有する軟弱な路面を走行するときのタイヤの走行性能を評価することができる。軟弱な路面の代表例としては、泥で満たされた泥路面が挙げられる。本発明の実施形態は、以下、泥路面を例に挙げて説明される。
【0013】
本明細書において、泥とは、少なくとも粘土(粒径:0.005未満)、シルト(粒径:0.005〜0.075mm)、細砂(粒径:0.075〜0.250mm)、中砂(粒径:0.250〜0.850mm)、粗砂(粒径:0.850〜2.00mm)、細礫(2.00mm〜4.75mm)及び中礫(4.75mm〜19.00mm)の1種又は2種以上の粒子と水分(10〜50%)とを含む混合物とする。
【0014】
特に限定はされないが、好ましい軟弱な泥路面としては、前記粒径は5.0mm以下、かつ、含水率(泥全体に占める水分の重量%)は0%よりも大かつ100%以下、好ましくは10〜50%、より好ましくは20〜40%、さらに好ましくは20〜30%程度の路面を想定することができる。
【0015】
図1には、本発明のシミュレーション方法を実施するためのコンピュータ装置1が示されている。前記コンピュータ装置1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成される。前記本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクのような大容量記憶装置(いずれも図示せず。)、CD−ROMなどのドライブ装置1a1、1a2が設けられる。そして、前記大容量記憶装置には後述するシミュレーション方法を実行するために必要な処理手順(プログラム)が記憶される。
【0016】
図2には、前記コンピュータ装置1を用いて行われる本発明のシミュレーション方法の手順の一実施形態が示される。先ず、本実施形態では、数値解析が可能な要素で少なくともトレッドパターンを有するタイヤをモデル化したタイヤモデルを設定するタイヤモデル設定ステップが行われる(ステップS1)。ここで、数値解析が可能とは、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法といった数値解析法にて取り扱い可能なことを意味し、本例では有限要素法及び有限体積法が採用される。
【0017】
図3には、タイヤモデル2の一例が3次元上に視覚化して表されている。タイヤモデル2は、解析しようとするタイヤを有限個の小さな要素2a、2b、2c…を用いて表すことによりモデル化される。このようなタイヤモデル2の実体は、前記コンピュータ装置1で取り扱いが可能な数値データである。具体的には、各要素2a、2b、2c…の節点座標値、要素番号及び節点番号及が定義される。特に限定されないが、各要素2a、2b、2c…には、例えば、縦溝と横溝とを含む複雑なトレッドパターンを表現するのに適した三次元の4面体ソリッド要素等が好ましい。これにより、図3のタイヤモデル2では、トレッド表面の縦溝及び横溝を含んだトレッドパターン形状が忠実に再現されている。但し、これ以外にも5面体又は6面体ソリッド要素などが用いられても良い。
【0018】
本実施形態のタイヤモデル2は、当初から剛体として定義されることを特徴事項の一つとしている。このようなタイヤモデル2は、荷重が作用しても変形しない。従って、このようなタイヤモデル2は、トレッドパターンを再現する点を除いて、タイヤの内部構造(例えば、カーカス、ベルト及び各種のゴム部材)を省略してモデル化することができる。これは、モデル作成時間の短縮に役立つ。剛体からなるタイヤモデル2は、前記各要素2a、2b…を、変形しない剛要素で定義することにより、容易に設定することができる。ただし、タイヤモデル2は、変形しない点及び内部構造が不要となる点を除き、その質量や形状、大きさなどは、解析対象となるタイヤに従って定義される。
【0019】
次に、数値解析が可能な要素で泥の路面をモデル化した泥路面モデル3が設定される(ステップS2)。
【0020】
図4には、泥路面モデル3を視覚化した側面図が示される。この実施形態の泥路面モデル3は、有限体積法にて取り扱い可能なオイラー要素でモデル化されている。また、泥路面モデル3は、平面剛要素4の上の空間に固定された本実施形態では格子状のメッシュ3aと、このメッシュ3aによって区切られた空間を移動することができる泥モデル3b(グレーの着色部分)とを含む。格子状のメッシュの各交点又は各格子の重心点などにおいて、泥モデル3bの圧力や流速などの物理量が逐次計算されかつ記憶される。
【0021】
前記泥モデル3bは、現実の路面の泥を模したもので、泥路面モデル3の上部を除き、底部及び周囲で閉じられている。つまり、泥モデル3bは、例えば上部が開放された箱の中に入れられた泥と等価である。前記泥モデル3bの厚さHは、解析の対象となる現実の泥路面の泥厚さに相当するので、本実施形態では、平面剛要素4の影響を無視できる程度の十分な大きさが与えられる。
【0022】
また、本実施形態の泥路面モデル3は、タイヤモデル2と接触しかつそれを転動させるのに必要かつ十分な幅及び長さが与えられた三次元空間を有する。ここで、タイヤモデル2の転動は、マッド性能を評価しうるものであれば1回転よりも小さい回転量であっても良い。
【0023】
さらに、図4に示されるように、泥路面モデル3は、タイヤモデル2の表面との接触が考慮される。泥路面モデル3の変形計算(後述)では、タイヤモデル2及び泥路面モデル3の互いの位置情報から両者の交差部分Jが計算される。タイヤモデル2及び泥モデル3bは、前記交差部分Jの境界JL(つまり、タイヤモデル2のトレッドパターンの表面)を介して接触するものとして取り扱われる。即ち、泥モデル3bは境界JLを介してタイヤモデル2に圧力等を与える。逆に、タイヤモデル2は、その表面を「壁」(カップリングサーフェース)として泥モデル3bに与え、該泥モデル3bを変形させる。
【0024】
さらに、前記泥モデル3bには、実際の泥に近似した物性が定義され、本実施形態では弾塑性特性、崩壊特性及び粘着力が定義される。
【0025】
前記弾塑性特性とは、泥モデル3bの物理特性が、応力状態に基づいて異なること言う。
【0026】
また、前記崩壊特性とは、泥モデル3bが、圧縮応力(平均圧縮応力)の下では塑性ひずみが生じても破壊しない一方、引張応力(平均引張応力)の下では、その等価塑性ひずみが特定の値に達すると破壊する特性である。泥モデル3bが破壊する等価塑性ひずみは、拘束圧に拘わらずほぼ一定の値を示す。従って、泥モデル3bに、この崩壊特性と上記弾塑性特性とを定義することにより、タイヤが泥路面を走行するときの泥路面状況がシミュレーション結果により正確に取り込まれる。
【0027】
さらに、泥モデル3bには、粘着力が定義される。タイヤが泥路面を走行した場合、泥はタイヤ表面に粘着する。従って、タイヤ表面に粘着した泥は、トレッドパターンを埋めるため、タイヤのトラクション低下などを引き起こす。しかし、トレッドパターンの溝の排土性が良ければ、このようなトラクション低下は最小限に抑えられる。従って、本発明のシミュレーション方法は、タイヤの溝の排土性をも評価するのに役立つ。
【0028】
泥モデル3bに定義される上記各特性は、解析対象となる泥路面の粒子や含水率に応じて設定される。なお、各特性の定義等については、解析対処の泥路面等に基づき、例えば、先に示した特許文献2の記載された方法が好適に利用できる。
【0029】
次に、本実施形態では、境界条件等、後述のシミュレーションステップを行うに際して必要な条件が定義される(ステップS3)。設定される条件としては、例えばタイヤモデル2が装着されるリム、内圧、泥路面モデル3とタイヤモデル2との間の摩擦係数、タイヤモデル2のスリップ角、キャンバー角、転動速度、タイヤモデル2や泥路面モデル3の変形計算時の初期の時間増分及び両モデル2、6の初期位置などの条件が含まれる。
【0030】
また、境界条件として、泥路面モデル3には、泥モデル3bの流出流入条件などが挙げられる。本実施形態の泥路面モデル3では、泥モデル3bが存在する泥層については、上面を除いた底部及び側部を壁で囲まれた条件が定義される。即ち、泥層については、上面を除いて泥モデル3bの出入り、即ち流出入はない。また外部から泥モデル3bが供給されることはない。さらに、泥路面モデル3の泥モデル3bの上部には、泥モデル3bが移動可能なようにある程度の高さを有した空間層3cが設けられている。該空間層3cは、全ての面が解放されている。
【0031】
さらに、泥モデル3bの厚さ(即ち、泥層の厚さ)Hが定義される。この厚さHは、後述のシミュレーションステップにおいて、タイヤモデル2のトレッドパターンが、泥路面モデル3の底面である平面剛要素4に接触しない泥厚さで定義される。この厚さHは、泥モデル3bの粘度、及び、タイヤモデル2の縦荷重などによって適宜決定することができる。
【0032】
次に、コンピュータ装置1は、図4に示されるように、タイヤモデル2と泥路面モデル3の泥モデル3bとを接触させかつ泥路面モデル3の変形計算を、微小な時間増分毎に行うシミュレーションステップが行われる(ステップS4)。本発明のシミュレーションステップでは、泥路面モデル3の変形計算のみ行われ、剛体であるタイヤモデル2の変形計算を行わないことを特徴としている。
【0033】
上述のように、軟弱かつ十分な深さを有する泥路面では、通常、タイヤは、泥路面の底に接地することなく浮いた状態で走行するため、タイヤを大きく変形させるような荷重が殆ど作用しない。本発明では、このようなタイヤの泥路面走行時の状況に着目して、タイヤモデル2を変形不能な剛体として設定している。そして、シミュレーションステップでは、泥路面モデル3の変形計算のみを行い、タイヤモデル2の変形計算を行わないこととした。これにより、本発明では、タイヤモデル2の作成時間の短縮はもとより、タイヤモデル2の変形計算がなくなるため、シミュレーションに要する計算時間を大幅に短縮することができる。また、泥路面では、上述のようにタイヤの変形は極めて小さい範囲に止まるため、タイヤモデル2を剛体として取り扱っても、大きな精度の低下なしにマッド性能をシミュレートすることができる。
【0034】
泥路面モデル3の変形計算は、種々の方法で行われるが、本実施形態では陽解法で計算される。陽解法は、各モデル2、3に荷重等が作用した瞬間を時刻0とし、設定された時間増分Δtごとに時間を区切り、各時刻でのモデル2、3の変位が求められる。このため、収束計算は必要ないが、計算を安定させるために、前記時間増分Δtは、クーラン(Courant)条件を満たすように設定される。このような計算には、例えば、汎用の有限要素解析アプリケーションソフトウエア(例えばMSC社製 MSC−Dytran)などを用いて行われる。
【0035】
そして、上記シミュレーションステップを終えると、必要な物理量が出力される(ステップS5)。図5には、横軸に時間、縦軸に物理量としてタイヤモデル2に作用した縦荷重が出力されている。このシミュレーションの計算条件等は、次の通りである。
<泥モデルの特性の参考とした実際の泥>
採取地:奈良県
礫分(粒子径2〜75mm):0%
砂分(粒子径0.075〜2mm):44.8%
砂粒分(粒子径:0.075mm未満):55.2%
含水率:26.3%
地盤材料の分類:砂質粘度(低粘性)
分類記号(CLS)
【0036】
<計算条件>
タイヤサイズ:285/60R18
泥の厚さH:15cm
タイヤモデルの泥路面モデルへの沈下量D:8cm
タイヤモデルを回転させるときの速度:1rps
【0037】
<実施例1、2>
実施例1及び2は、タイヤモデルが剛体からなり、シミュレーションにおいて、タイヤモデルの変形計算が行われていない。また、実施例1のシミュレーションでは、タイヤモデルを時刻0.3秒においてタイヤモデルを上記回転速度で開始させている。実施例2のシミュレーションでは、タイヤモデルを上記縦荷重のみ作用させて泥路面モデルに接触させており、回転はさせていない。
【0038】
<比較例1、2>
比較例1及び2は、タイヤモデルが弾性体からなる。即ち、これらのタイヤモデルは、内部構造までモデル化されており、各要素には、解析対象となるタイヤモデルの材料物性が定義されている。また、シミュレーションにおいて、タイヤモデルの変形計算も行われている。さらに、比較例1のシミュレーションでは、タイヤモデルを時刻0.3秒においてタイヤモデルを上記回転速度で開始させている。比較例2のシミュレーションでは、タイヤモデルを上記縦荷重のみ作用させて泥路面モデルに接触させており、回転はさせていない。
【0039】
[シミュレーション結果の検討]
次に、図5において、回転させていない比較例2及び実施例2について検討する。図6及び図7に示されるように、比較例2では、0〜0.3秒かけてタイヤモデル2を8cmの沈下量Dで沈下させた。その課程において、泥路面モデル3の反力Rが約0.15秒で最大となった。タイヤモデル2は、泥路面モデル3からの反力によって支えられ、0.4秒後以降は、タイヤモデル2によってどけられた泥モデル3bが周囲にゆっくりと流れていき、反力(縦荷重)が徐々に減少する。実施例2では、タイヤモデルが剛体であるため、弾性変形しない分、波形に振動が無いことがわかる。また、図5から明らかなように、実施例2では、反力の増加は比較例2に比べると小さい。しかし、実施例2も、縦荷重の変遷を見れば、比較例2とほぼ同様の傾向を示していることがわかる。
【0040】
次に、比較例1及び実施例1について検討する。比較例1では、図6乃至7に示されるように、0〜0.3秒かけてタイヤモデル2を8cm沈下させた後、図8乃至9に示されるように、0.3秒から1rpsでタイヤモデル2を回転させた。従って、比較例1は、0.3秒までは、比較例2と同一の課程を辿る一方、0.3秒以降は、タイヤモデル2の回転に伴って泥が掘られ、一気に縦荷重Rが減少することがわかる。このような縦荷重の変化に関して、実施例2でも、比較例2とほぼ同様の傾向を示していることがわかる。
【0041】
次に、上記実施例2及び比較例2の各シミュレーションに要した時間を調べた。タイヤモデルの作成時間については、比較例2の作成時間を100とすると、実施例2では25となり75%の短縮が図れた。また、シミュレーション時間については、比較例2を100とすると、実施例2では29となり、71%の大幅な短縮が図れた。
【0042】
以上の実施例から明らかなように、本発明では、マッド性能の傾向を損ねることなしに、計算結果を大幅に短縮していることが確認できた。
【符号の説明】
【0043】
1 コンピュータ装置
2 タイヤモデル
3 泥路面モデル
3a メッシュ
3b 泥モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱な路面でのタイヤ性能をシミュレートするタイヤのシミュレーション方法であって、
数値解析が可能な要素で少なくともトレッドパターンを有するタイヤをモデル化したタイヤモデルを設定するタイヤモデル設定ステップと、
数値解析が可能な要素で前記路面をモデル化した軟弱路モデルを設定する路面モデル設定ステップと、
タイヤモデルと軟弱路モデルとを接触させかつ軟弱路モデルの変形計算をコンピュータを用いて微小な時間増分毎に行うシミュレーションステップとを含むとともに、
前記タイヤモデル設定ステップでは、前記タイヤモデルを変形不能な剛体として設定し、
前記シミュレーションステップでは、前記タイヤモデルの変形計算を行わないことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記シミュレーションステップでは、予め定められた条件に基づいて、前記タイヤモデルを前記軟弱路モデルに対して転動させる請求項1記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記軟弱路モデル設定ステップは、前記シミュレーションステップにおいて、前記トレッドパターンが接触しない厚さで前記軟弱路モデルを設定する請求項1又は2記載のタイヤのシミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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