説明

タイヤカーカス補強体用3層金属コード

【課題】大幅に改善された疲労−フレッチング耐久性をも有するケーブルを提供する。
【解決手段】直径d1のL本(L=1〜4)のワイヤからなる内側層C1と、ピッチp2で螺旋状に一体巻回された直径d2のM本の中間層C2と、ピッチp3で螺旋状に一体巻回された直径d3のN本(N=8〜20)の外側層C3によりなるケーブルにおいて、架橋性ゴム配合物または架橋ゴム配合物で形成されたシースが、少なくとも中間層C2を覆っており、下記特徴(d1、d2、d3、p2およびp3の単位はmm)を有する。(i)0.10<d1<0.28(ii)0.10<d2<0.25(iii)0.10<d3<0.25(iv)M=6またはM=7(v)5π(d1+d2)<p2<p3<5π(d1+d2+d3)(vi)前記層C2、C3のワイヤは同じ捩り方向に巻回されていること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムおよび/またはプラスチック材料で作られる製品の補強要素として使用できる3層金属ケーブルに関する。
特に、本発明はタイヤの補強体に関し、より詳しくは、重車両等の産業車両用タイヤのカーカス補強体の補強体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤ用スチールケーブル(「スチールコード」)は、パーリティック(perlitic)(またはフェロ・パーリティック)炭素鋼(以下、「炭素鋼」と呼ぶ)で形成され、その炭素含有量(スチールの重量%)は0.1〜1.2%でありかつ最も一般的なこれらのワイヤの直径は0.10〜0.40mm(ミリメートル)である。これらのワイヤに要求される非常に高い引張り強度は、一般に2000MPaより大きく、好ましくは、ワイヤの加工硬化フェーズ中に生じる構造硬化により得られる2500MPaより大きい。これらのワイヤは、次にケーブルまたはストランドの形態に組立てられ、このため、使用されるスチールは、種々のケーブリング作業に耐える充分な捩り延性を有することも要求される。
特に重車両用タイヤのカーカス補強体を補強するため、中央層と該中央層の周囲に配置されたワイヤからなる1つ以上の実際に同心状の層とで形成された、今日もっとも頻繁に「層状」スチールケーブル(「層状コード」)または「多層」スチールケーブルと呼ばれるものが使用されている。ワイヤ間に大きい接触長さを与えるこれらの層状ケーブルは、第一にコンパクト性に優れていることにより、第二にフレッチングにより摩耗に対する感度が低いことにより、古い「ストランド状」ケーブル(「ストランドコード」)が好まれている。数ある層状ケーブルのうち、特に、コンパクト構造のケーブルおよびチューブ状すなわち円筒状の層を有するケーブル間に、既知の態様で区別がなされている。
【0003】
重車両用タイヤのカーカスに最も広く見られる層状ケーブルは、公式L+MまたはL+M+Nのケーブルである。後者の公式は、一般に最大タイヤのためのものである。これらのケーブルは、L本のワイヤからなる内側層で既知の態様で形成され、該内側層はM本のワイヤからなる層により包囲されている。ここで、一般に、Lは1から4まで変化し、Mは3から12まで変化し、Nは8から20まで変化する。組立体は、最終層の回りにヘリカルに巻回された外部ラッピングワイヤによりラッピングされる。
タイヤカーカス用補強体としてこれらの機能を満たすため、層状ケーブルは、第一に、曲げられたときの優れたフレキシビリティおよび高い耐久性をもたなくてはならない。このことは、特にこれらのワイヤが比較的小径、好ましくは0.28mm以下、より好ましくは0.25mm以下であり、一般に、タイヤのクラウン補強体の慣用ケーブルに使用されているワイヤの直径より小さい。
【0004】
これらの層状ケーブルは更に、タイヤの走行中に、大きい応力、より詳しくは反復曲げまたは曲率変化を受ける。これにより、隣接層間の接触、従って摩耗および疲労の結果として、ワイヤのレベルに摩擦が引起こされる。従って、層状ケーブルは、いわゆる「疲労−フレッチング(fatigue-fretting)」現象に対する高い抵抗性をもたなくてはならない。
最後に、層状ケーブルには、できる限りゴムを含浸させ、ゴムはケーブルを形成するワイヤ間の全てのスペース内に浸透することが重要である。なぜならば、この浸透が不充分であるとケーブルに沿って空のチャネルが形成され、例えばカットの結果としてタイヤ内に浸透し易い腐食性物質(例えば水)が、これらのチャネルおよびタイヤのカーカス内に移動するからである。この水分の存在は、乾燥大気中での使用と比較して、腐食を引起こしかつ上記品質低下現象(「疲労−腐食現象と呼ばれている」)を加速する上で重要な役割を演じる。
【0005】
一般的用語「疲労−フレッチング腐食」の範疇で概略的に一括されるこれらの全ての現象は、ケーブルの機械的特性の漸次劣化の原因であり、非常に苛酷な走行条件下で、ケーブルの寿命に悪影響を与えることがある。
重車両用タイヤカーカス(該カーカスでは、反復曲げ応力が特に苛酷であることが知られている)の層状ケーブルの耐久性を向上させるため、特に、ゴムの浸透能力を増大させて、腐蝕および疲労−腐食による危険性を制限すべく層状ケーブルの設計を変えることが提案されている。
例えば、9本のワイヤからなる中間層により包囲された3本のワイヤからなる内側層および15本の外側層で形成され、かつ中央層または内側層のワイヤの直径が他層のワイヤの直径より小さい構成の3+9+15構造の層状ケーブルが提案されている。これらのケーブルは、内側層の3本のワイヤの中心にチャネルすなわち毛管が存在(これらのチャネルはゴムの含浸後に空として留まっている)するためコアまで浸透されず、従って、水等の腐食媒体が伝播するのに好ましい状態にある。
【0006】
下記非特許文献1には、6本のワイヤからなる中間層(該中間層自体は12本のワイヤからなる外側層により包囲されている)により包囲された、単一ワイヤで形成された内側層で形成されたコンパクト型すなわち同心状管状層からなる1+6+12構造のケーブルが開示されている。ゴムの浸透能力は、一層と他層とで異なる直径のワイヤを用いるか、或いは1つの同じ層内でも異なる直径のワイヤを用いることにより改善される。例えば下記特許文献1または2には、ワイヤの直径の適当な選択により、より詳しくは、大きい直径の中心ワイヤの使用により浸透能力が改善された1+6+12構造のケーブルも開示されている。
ケーブル内にゴムを浸透させる構成のこれらの慣用ケーブルに対して更なる改善を図るため、少なくとも2つの同心状層により包囲された中央層を備えた多層ケーブル、例えば公式1+6+N、より詳しくは1+6+11のケーブル(その外側層は不飽和(不完全飽和)であり、従ってゴムの良好な浸透能力が確保される)が提案されている(例えば、下記特許文献3および2参照)。これらの提案された構造は、外側層を通るゴムの良好な浸透およびこれにより生じるセルフラッピングのため、ラッピングワイヤを省略することを可能にする。しかしながら、経験によれば、これらのケーブルは、ゴムが完全に中心まで浸透せず、いずれにせよ最適な浸透は得られないことが判明している。
【0007】
また、ゴムの浸透能力の改善は、充分なレベルの性能を確保する上で不充分である。これらのケーブルがタイヤカーカスの補強に使用される場合には、ケーブルは、腐食に耐えるだけでなく、多数の矛盾する基準、より詳しくは、靭性、フレッチングに対する抵抗性、ゴムに対する高度の接着性、反復曲げおよび引っ張りを受けたときの均一性、フレキシビリティおよび耐久性、および苛酷な曲げを受けたときの安定性等をも満たす必要がある。
かくして、前述の全ての理由から、このような基準および所与の基準に基いてこれまでになされている種々の最近の改善にもかかわらず、重車両用タイヤのカーカス補強体に今日使用されている最良のケーブルは、コンパクト形式または飽和(完全)外側層をもつ円筒状層を備えた形式の非常に慣用的な構造の少数の層状ケーブル(これらのケーブルは本質的に、前述のような3+9+15または1+6+12構造である)に限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願EP−A−648 891号明細書
【特許文献2】国際特許公開WO−A−98/41682号明細書
【特許文献3】欧州特許出願EP−A−719 889号明細書
【特許文献4】欧州特許出願EP−A−976 541号明細書
【特許文献5】国際特許公開WO−A−03/048447号明細書
【非特許文献1】RD(Research Disclosure)第34370号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今や、本件出願人は、研究中に、重車両用タイヤカーカスの補強体として知られた裁量の層状ケーブルの全体的性能を予期せずして更に改善する新規な層状ケーブルを見出した。本発明のこのケーブルは、特別な構造により、腐食の問題を制限するゴムの優れた浸透能力を有するだけでなく、従来技術のケーブルと比較して大幅に改善された疲労−フレッチング耐久性をも有している。これにより、重車両用タイヤおよび該タイヤのカーカス補強体の寿命は非常に大きく改善される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明の第一要旨は、タイヤカーカス補強体の補強要素として使用できるL+M+N構造の3層ケーブルであって、直径d1のL本(L=1〜4)のワイヤからなる内側層C1を有し、該内側層C1が、ピッチp2で螺旋状に一体巻回された直径d2のM本(M=3〜12)の中間層C2により包囲され、該中間層C2が、ピッチp3で螺旋状に一体巻回された直径d3のN本(N=8〜20)の外側層C3により包囲されており、少なくとも1つのジエンエラストマーをベースとする架橋性ゴム配合物または架橋ゴム配合物で形成されたシースが、少なくとも前記中間層C2を覆っていることを特徴とするケーブルにある。
また本発明は、本発明によるケーブルを、例えば、プライ、チューブ、コンベアベルトおよびタイヤ、より詳しくは、通常金属のカーカス補強体を使用する産業車両用タイヤ等のプラスチック材料および/またはゴムで作られた物品または半成品の補強に使用する方法に関する。
【0011】
本発明のケーブルは、特に、バン、「重車両」すなわち、地下鉄車両、バス、路面輸送機械(ローリ、トラクタ、トレーラ)、オフロード車両、農業用機械または建設機械、航空機、および他の輸送用および物流用車両から選択される産業車両用タイヤのカーカス補強体の補強要素として使用することを意図したものである。
しかしながら、本発明のケーブルは、本発明の他の特定実施形態に従って、タイヤの他の部分、特にタイヤ、より詳しくは重車両用タイヤまたは建設車両用タイヤのベルトまたはクラウン補強体の補強にも使用できる。
また本発明は、本発明によるケーブルで補強されたプラスチック材料および/またはゴム自体で作られた物品または半成品、特に上記産業車両用タイヤ、より詳しくは重車両用タイヤに関し、更には本発明によるケーブルにより補強されたゴム配合物のマトリックスを備えた複合ファブリック(これらはこのようなタイヤのカーカス補強体またはクラウン補強体として使用される)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】1+6+12構造のコントロールケーブルを通る横断面を示す顕微鏡写真(倍率:40倍)である。
【図2】1+6+12構造の本発明によるケーブルを通る横断面を示す顕微鏡写真(倍率:40倍)である。
【図3】ラジアルカーカス補強体を備えた重車両用タイヤ(本発明によるものであるか否かは無関係である)を全体的に示す半径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明およびその長所は、例示の実施形態の説明および該実施形態に関する図1〜図3を参照することにより容易に理解されよう。
I.測定および試験
I−1.空気透過性試験
空気透過性試験は、ゴム配合物がケーブルを透過する量を直接測定する簡単な方法である。この試験は、加硫ゴムプライ(これらはケーブルにより補強され、従って硬化ゴムが浸透されている)から直接取出されたケーブルについて剥皮(decortication)することにより行われる。
この試験は、所与の長さ(例えば2cm)のケーブルについて、次のように行われる。すなわち、空気が、所与の圧力(例えば1バール)でケーブルの入口に送られる。次に、測定中に流量計を用いて、出口での空気の体積が測定される。次にケーブルのサンプルがシール内にロックされ、これにより、ケーブルの一端から他端へとその長手方向軸線に沿って通される空気の量のみが測定に考慮される。測定された流量が小さいほど、多量のゴムがケーブルに浸透する。
【0014】
I−2.タイヤの耐久性試験
疲労−フレッチング−腐食を受けているときのケーブルの耐久性は、非常に長時間の走行試験により、重車両用タイヤのカーカスプライで評価される。
このために車両用タイヤが製造され、そのカーカス補強体は、験すべきケーブルにより補強された単一のゴム含浸プライで形成される。これらのタイヤは適当な既知のリムに装着されかつ水分が飽和された空気で同圧力(定格圧力と比較して過大圧力)まで膨張される。次にこれらのタイヤは、非常に高い荷重の下でかつ同一速度で、所与のキロメートル数だけ走行される。走行の終時に、ケーブルは、剥皮によりタイヤカーカスから取出され、残留破断荷重が、このように疲労を受けたワイヤおよびケーブルの両者について測定される。
【0015】
また、前のタイヤと同じタイヤが製造されかつ前と同じ方法で剥皮されるが、今回は走行は受けない。かくして、剥皮後に、疲労を受けないワイヤおよびケーブルの初期破断荷重が測定される。
最後に、残留破断荷重と初期破断荷重とを比較することにより、疲労後の破断荷重の退化(degeneration)が計算される(ΔFmと呼ばれかつ%で表される)。この退化ΔFmは、種々の機械的応力、特に、ワイヤ間の接触力の強い作用と、周囲空気から流入する水との連合作用(joint action)により引起こされるワイヤの疲労および摩耗(断面の縮小)によるものであり、換言すれば、走行中にタイヤ内でケーブルが受ける疲労−フレッチング腐食によるものである。
また、カーカスプライの破断または早期に生じる他の損傷形式により、タイヤの強制破壊(例えば、クラウンの破壊またはデトレッディング)が生じるまで走行試験を遂行することを決定することもできる。
【0016】
II.本発明の詳細な説明
II−1.本発明のケーブル
ケーブルの説明のために本明細書で使用されるとき、用語「公式」または「構造」は、単に、これらのケーブルの構造をいうものとする。
前述のように、L+M+N構造をもつ本発明の3層ケーブルは、L本のワイヤで形成された直径d1の内側層C1を有し、該内側層C1は、M本のワイヤで形成された直径d2の中間層C2で包囲され、該中間層C2は、N本のワイヤで形成された直径d3の外側層C3で包囲されている。
【0017】
本発明によれば、少なくとも1つのジエンエラストマーをベースとする架橋性ゴム配合物(cross-linkable rubber composition)または架橋ゴム配合物(cross-linked rubber composition)で作られたシースが、少なくとも前記層C2を覆っている。層C1自体はこのゴムシースで覆うことができることを理解すべきである。
表現「少なくともジエンエラストマーをベースとする配合物」とは、既知の態様で、組成物が、大きい比率(すなわち、50%より大きいマス・フラクション)でこのまたはこれらのジエンエラストマー(単一または複数)有することを意味すると理解すべきである。
【0018】
本発明によるシースは、実際には円形であるのが有利な断面をもつ連続スリーブを形成すべく、前記層C2の回りを連続的に延びて該層C2を覆っている(すなわち、このシースは、ケーブルの半径に対して垂直なケーブルの「オルトラジアル(orthoradial)」方向に連続している)。
また、このシースのゴム配合物は架橋性配合物または架橋配合物であること、すなわち、シースのゴム配合物は、定義上、その硬化時(すなわち、その硬化時であって、溶融時ではない)に配合物の架橋を可能にするのに適した架橋系(cross-linking system)であることに留意すべきである。かくして、このゴム配合物は非溶融性であるということができる。なぜならば、このゴム配合物はどのような温度に加熱されても溶融されないからである。
【0019】
「ジエン」エラストマーまたは「ジエン」ゴムとは、既知の態様で、少なくとも一部がジエンモノマー(共役であるか否かを問わず、2つの二重炭素−炭素結合を支持するモノマー)から得られるエラストマー(すなわち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味するものと理解すべきである。
ジエンエラストマーは、既知の態様で、2つのカテゴリ、すなわち「本質的に不飽和」と呼ばれるものと、「本質的に飽和」と呼ばれるものとに類別される。一般に、「本質的に不飽和」のジエンエラストマーとは、本願では、少なくとも一部が、15%(モル%)より大きい一定含有量のジエンオリジン(共役ジエン)のメンバーまたはユニットを有する共役ジエンモノマーから得られるジエンエラストマーを意味するものと理解すべきである。かくして、例えば、ブチルゴムまたはジエンのコポリマーおよびEPDM型のα−オレフィンのコポリマー等のジエンエラストマーは、前述の定義内に含まれず、より詳しくは、「本質的に飽和」されたジエンエラストマーとして説明される(低いまたは非常に低い(常に15%より低い)含有量のジエンオリジンのユニット)「本質的に不飽和」のジエンエラストマーのカテゴリ内で、「高度の不飽和」ジエンエラストマーとは、特に、50%より大きい一定含有量のジエンオリジン(共役ジエン)のユニットを有するジエンエラストマーを意味するものと理解すべきである。
【0020】
これらの定義が与えられるならば、次のことが、本発明のケーブルに使用できるジエンエラストマーを特に意味するものと理解されよう。
(a)4〜12個の炭素原子をもつ共役ジエンモノマーの重合により得られるあらゆるホモポリマー
(b)1つ以上の共役ジエンと8〜20個の炭素原子をもつ1つ以上のビニル−芳香族化合物との共重合により得られるあらゆるコポリマー
(c)例えば、エチレンおよび上記種類の非共役ジエンモノマーから得られる、より詳しくは1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンまたはジクロペンタジエン等の、エチレンと、3〜6個の炭素原子をもつα−オレフィンと、6〜12個の炭素原子をもつ非共役ジエンモノマーとの共重合により得られる三元コポリマー
(d)イソブテンおよびイソプレン(ブチルゴム)のコポリマーおよびこの種のコポリマーのハロゲン化、より詳しくは塩素化または臭化バージョン
本発明はあらゆる種類のジエンエラストマーに適用できるが、最初に、本質的に不飽和ジエンエラストマー、より詳しくは上記種類(a)または(b)のジエンエラストマーに使用される。
【0021】
かくして、ジエンエラストマーは、ポリブタジエン(BR)、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、種々のブタジエンコポリマー、種々のイソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの配合物からなる群から選択するのが好ましい。これらのコポリマーは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)およびイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)からなる群から選択するのがより好ましい。
特に、本発明のケーブルが、タイヤの補強、より詳しくは重車両等の産業車両のタイヤのカーカス補強体として使用することを意図する場合には、選択されるジエンエラストマーは、大部分(すなわち、50phrより多い)がイソプレンエラストマーで構成される。「イソプレンエラストマー」とは、既知の態様で、イソプレンホモポリマーまたはコポリマー、換言すれば、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、種々のイソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの配合物からなる群から選択されるジエンエラストマーを意味するものと理解すべきである。
【0022】
本発明の有利な実施形態によれば、選択されるジエンエラストマーは、専ら(すなわち100phrまで)、天然ゴム、合成ポリイソプレンまたはこれらのエラストマーの配合物で構成され、合成ポリイソプレンは、シス1,4結合の含有量(モル%)、好ましくは90%より大きい、より好ましくは98%より大きい含有量を有する。
本発明の特定の一実施形態によれば、この天然ゴムおよび/またはこれらの合成ポリイソプレンと、他の高度の不飽和ジエンエラストマー、特に上記のようなSBRまたはBRとのブレンドを使用することもできる。
【0023】
本発明のケーブルのゴムシースには単一または幾つかのジエンエラストマーを含有させることができ、該ジエンエラストマーは、ジエンエラストマー以外の任意の種類の合成エラストマーまたはエラストマー以外のポリマー(例えば熱可塑性ポリマー。エラストマー以外のこれらのポリマーは少数ポリマーとして存在する)と組合せて使用できる。
前記シースのゴム組成はいかなるプラストマーも存在せず、ポリマーベースとしての1つのジエンエラストマー(またはジエンエラストマーの配合物)のみを有するのが好ましいが、前記組成には、エラストマー(単一または複数)のマス・フラクションxeより少ないマス・フラクションxpの少なくとも1つのプラストマーを含有させることができる。
このような場合には、好ましくは次の関係、すなわち0<xp<0.5xeが適用される。
【0024】
より好ましくは、次の関係が適用される。すなわち0<xp<0.1xe
好ましくは、ゴムシースの架橋系はいわゆる加硫系、すなわち硫黄(または硫黄供与体)および第一加硫促進剤である。このベース加硫系には、種々の既知の第二促進剤または加硫活性剤を添加できる。硫黄は、好ましくは0.5〜10phrの間、より好ましくは1〜8phrの間の量で使用され、第一加硫促進剤(例えば、スルフェンアミド)が好ましくは0.5〜10phr、より好ましくは0.5〜5.0phrの間の量で使用される。
【0025】
本発明によるシースのゴム組成は、前記架橋系に加え、タイヤ用ゴム組成に使用できる全ての通常成分、例えばカーボンブラックをベースとする補強フィラーおよび/または補強無機フィラーを含み、該補強無機フィラーには、シリカ、耐老化剤(例えば抗酸化剤)、エキステンダーオイル、可塑剤または未硬化状態での配合物の加工を容易にする薬剤、メチレン受容体および供与体、樹脂、ビスマレイミド(bismaleimides)、「RFS」(レゾルシノール/ホルムアルデヒド/シリカ)形式の既知の接着促進系、または金属塩(より詳しくはコバルト塩)がある。
好ましくは、ゴムシースの配合物は、架橋されたとき、1998年のASTM D 412規格に従って測定したセカント引っ張り係数M10を有し、この値は20MPaより小さく、より好ましくは12MPaより小さく、特に4〜11の間にある。
【0026】
好ましくは、このシースの配合物は、本発明によるケーブルが補強用のものである場合のゴムマトリックスに使用される配合物と同一のものが選択される。かくして、シースおよびゴムマトリックスのそれぞれの材料間に不相容性の問題は生じない。
好ましくは、前記配合物は天然ゴムをベースとしかつ補強フィラーとして、グレード(SATM)300、500または700(例えばN326,N330、N347、N375、N683、N772)のカーボンブラックを有している。
【0027】
本発明によるケーブルでは、下記特性の少なくとも1つ、より好ましくは全てが満たされる。
・層C3は飽和層である。すなわち、この層には、直径d2の少なくとも1つの第(N+1)番目のワイヤを付加するには不充分なスペースが存在する。ここで、Nは、層C2の回りに1つの層として巻回できるワイヤの最大数を表す。
・ゴムシースは、内側層C1を覆いおよび/または中間層C2の隣接対のワイヤを分離する。
・ゴムシースは、事実上、層C3の各ワイヤの半径方向内方の半周を覆い、この層C3の隣接対をなすワイヤを分離する。
本発明によるL+M+N構造では、中間層C2は、好ましくは6本または7本のワイヤを有し、この場合、本発明によるケーブルは下記の好ましい特性を有している(d1、d2、d3、p2、p3の単位はmm)。
(i)0.10<d1<0.28
(ii)0.10<d2<0.25
(iii)0.10<d3<0.25
(iv)M=6またはM=7
(v)5π(d1+d2)<p2≦p3<5π(d1+2d2+d3
(vi)前記層C2、C3のワイヤは、同じ捩り方向(S/SまたはZ/Z)
【0028】
好ましくは、特性(v)がp2=p3で、ケーブルがコンパクトであるといわれるときは、更に特性(vi)(同方向に巻回された層C2、C3のワイヤ)を考察する。
既知の定義によれば、ピッチとはケーブルの軸線Oに平行に測定した長さを表し、ケーブルの一端で、このピッチを有するワイヤは、ケーブルの軸線Oの回りで完全に1回転することが思い出されよう。かくして、軸線Oが該軸線Oに垂直な2つの平面により切断されかつ2つの層C2またはC3のうちの一方のワイヤのピッチに等しい長さで分離される場合には、このワイヤの軸線は、これらの2つの平面内に、対象ワイヤの層C2またはC3に対応する2つの円上に同じ位置を有する。
【0029】
特性(vi)によれば、層C2およびC3の全てのワイヤは同じ捩り方向、すなわち、S方向(S/S構造)またはZ方向(Z/Z構造)のいずれかの方向に巻回される。層C2およびC3を同方向に巻回すると、本発明によるケーブルにおいて、これらの2つの層C2およびC3間の摩擦を最小にでき、従って該層を構成するワイヤの摩耗を最小にできる(もはや、ワイヤ間にいかなる交差接触も存在しないからである)。
本発明の好ましいケーブルのコンパクトな性質(層C2およびC3について同一のピッチおよび捩り方向)にもかかわらず、層C3は、前記シースが組み込まれていることにより、図2に示すように事実上円形の断面を有することに留意すべきである。実際に、この図2から、ケーブルの長手方向対称軸線から測定した層C3のN本のワイヤのそれぞれの半径の比(標準偏差/算術平均)により定義される変化係数CVが非常に小さくなることが容易に理解されよう。
【0030】
ここで、例えば1+6+12構造のコンパクトな層状ケーブルでは、コンパクト性は、例えば図1に示すように、このようなケーブルの断面が事実上多角形である輪郭(この場合、上記変化係数CVが非常に大きい)を有することである。
好ましくは、図2に示すように、本発明のケーブルは1+M+N構造の層状ケーブル、すなわちその内側層C1が単一ワイヤで形成される。
本発明のケーブルでは、好ましくは、比(d1/d2)が、次式のように、層C2のワイヤの本数M(6または7)に従って所与の範囲内に設定される。
M=6の場合、1.10<(d1/d2)<1.40
M=7の場合、1.40<(d1/d2)<1.70
小さ過ぎる比の値は、層C2の内側層とワイヤとの間の摩耗にとって好ましくない。大き過ぎる比の値は、最終的に大きく変更されない抵抗レベルについて、ケーブルのコンパクト性およびケーブルのフレキシビリティに悪影響を与える。直径d1が過度に大きいことにより増大した内側層C1の剛性は、ケーブリング作業中のケーブルの可能性自体にとっても好ましくない。
【0031】
層C2およびC3のワイヤは、同一の直径を有するか、層毎に異なる直径を有する。特にケーブリング方法を簡単化しかつコストを低減させるためには、同じ直径(d2=d3)のワイヤを使用するのが好ましい。
層C2の周囲に単一飽和層C3で巻回されるワイヤの最大本数Nmaxは、もちろん、多くのパラメータ(内側層の直径d2、層C2のワイヤの本数Mおよび直径d2、層C3のワイヤの直径d3)の関数である。
本発明は、構造1+6+10、1+6+11、1+6+12、1+7+11、1+7+12または1+7+13のケーブルから選択されるケーブルについて実施するのが好ましい。
本発明は、構造1+6+12のケーブルを備えた重車両用タイヤのカーカスに実施するのがより好ましい。
【0032】
一方ではケーブルの強度、実施可能性および曲げ強度と、他方ではゴム浸透能力とのより良い妥協を図るためには、層C2およびC3のワイヤの直径が0.14〜0.22mmの間にあることが好ましい(両者の直径が同一であるか否かは問わない)。
このような場合には、次の関係を満たすことがより好ましい。すなわち、
0.18<d1<0.24
0.16<d2≦d3<0.19
5<p2≦p3<12(小ピッチ、単位mm)または20<p2≦p3<30(大ピッチ、単位mm)
実際に、重車両用タイヤのカーカス補強体では、直径d2、d3は0.16〜0.19mmの間で選択されるのが好ましい。0.19mmより小さい直径は、ケーブルの曲率が大きく変化したときにワイヤが受ける応力レベルを小さくできる。一方、0.16mmより大きい直径は、特に、ワイヤの強度および工業的コストの理由から選択される。
【0033】
有利な一実施形態では、例えば、p2およびp3を8〜12mmの間に選択し、1+6+12構造のケーブルを使用するのが有利である。
ゴムシースは、0.010〜0.040mmの平均厚さを有するのが好ましい。
概略的に、本発明は、任意の種類の金属ワイヤ、より詳しくは、例えば炭素鋼ワイヤおよび/またはステンレス鋼ワイヤ等のスチールワイヤを用いて実施できる。好ましくは炭素鋼が使用されるが、他のスチールまたは他の合金を使用できることはもちろんである。
炭素鋼を使用する場合には、その炭素含有量(スチールの重量%)は、好ましくは0.1〜1.2%、より好ましくは0.4〜1.0%である。これらの含有量は、タイヤに要求される機械的特性とワイヤの可能性との間に良好な妥協を与える。0.5〜0.6%の炭素含有量は、引抜きが容易であるため、このようなスチールを究極的に安価にできることに留意すべきである。また、本発明の他の有利な実施形態は、意図する用途に基いて、特に低コストおよび引抜き容易性から、例えば0.2〜0.5%の低含有量のスチールを用いることからなる。
【0034】
本発明のケーブルが産業車両のタイヤカーカスの補強に使用される場合には、これらのワイヤは、好ましくは2000MPaより大きい、より好ましくは3000MPaより大きい引張り強度を有する。非常に大きい寸法のタイヤの場合には、特に、3000〜4000MPaの間の引張り強度をもつワイヤが選択される。当業者ならば、特にスチールの炭素含有量およびこれらのワイヤの最終加工硬化比(ε)を調節することにより、このような強度をもつ炭素鋼ワイヤを製造する方法が理解されよう。
本発明のケーブルには、外側層のピッチより小さいピッチでかつ前記外側層の方向と同じまたは反対の巻回方向でケーブルの回りで螺旋状に巻回される、例えば単一ワイヤ(金属であるか否かは問わない)で形成される外側ラップを設けることができる。
【0035】
しかしながら、本発明のケーブルは、既にセルフラッピングされているというその特殊構造のため、一般に、ケーブルの最外層のラップとワイヤとの間の摩耗の問題を有利に解決する外側ラッピングワイヤの使用を必要とする。
しかしながら、層C3のワイヤが炭素鋼で作られる一般的な場合に、ラッピングワイヤを使用するときは、上記特許文献2において教示されているように、ステンレス鋼ラップと接触するこれらの炭素鋼ワイヤのフレッチングによる摩耗を低減させるため、ステンレス鋼のラッピングワイヤが有利に選択される。ステンレス鋼ワイヤは、例えば上記特許文献4に開示されているように、均等態様で、複合ワイヤ(該複合ワイヤのスキンのみがステンレス鋼であり、複合ワイヤのコアは炭素鋼である)に置換できる。また、上記特許文献5に開示されているように、ポリエステルまたはサーモトロピック芳香族ポリエステルアミドから形成されたラップを使用できる。
本発明によるケーブルは、当業者に知られている種々の技術、例えば最初に押出しヘッドを用いてコアまたは中間構造L+M(層C1+C2)のシース形成を行い、次にこのようにしてシース形成された層C2の回りで残りのN本のワイヤ(層C3)をケーブリングまたはツイスティングする最終作業の第二フェーズを行う。任意の中間巻回作業および巻解き作業中にゴムシースにより引起こされる未硬化状態の粘着の問題は、例えばプラスチック材料の挿入フィルムを用いる等の当業者に知られた方法で解決できる。
【0036】
II−2.本発明のタイヤ
例えば図3には、ラジアルカーカス補強体(これは本発明によるものでも本発明によらないものでもよい)を備えた重車両用タイヤ1の全体の半径方向断面を概略的に示すものである。
このタイヤ1は、クラウン2と、2つの側壁3と、2つのビード4とを有し、ビード4内にはカーカス補強体7が係止(アンカーリング)されている。クラウン2の上には、両側壁3を介してビード4に結合されたトレッド(簡単化のため図3には示されていない)が載置されており、クラウン2は、既知の金属ケーブルにより補強された、例えば少なくとも2つの重畳交差プライで形成されたクラウン補強体6により、既知の態様で補強されている。ここでは、カーカス補強体7は、2つのビードワイヤ5の回りに巻付けることにより各ビード4内に係止されている。この補強体7のターンアップ8は、例えば、タイヤ1(ここでは、リム9に装着されたところが示されている)の外側に向かって配置されている。カーカス補強体7は、いわゆる「ラジアル」ケーブルにより補強された少なくとも1つのプライで形成されている。すなわち、これらのケーブルは、事実上互いに平行に配置されておりかつ一ビードから他ビードにかけて、正中周方向平面(タイヤの回転軸線に対して垂直でかつ両ビード4の中間に位置しかつクラウン補強体6の中心を通る平面)に対して80〜90°の間の角度を形成するように延びている。
【0037】
もちろん、このタイヤ1は更に、既知の態様で、内側ゴム層またはエラストマー層(一般に「内側ゴム」と呼ばれている)を有し、該エラストマー層は、タイヤの半径方向内方面を形成しかつタイヤの内部から流入する空気の拡散からカーカスプライを保護することを意図している。タイヤ1は更に中間エラストマー補強層を有するのが有利である。この中間エラストマー補強層は、カーカスプライと内側層との間に配置され、内側層従ってカーカス補強体を補強すること、およびカーカス補強体が受ける力を部分的に分散させることを意図している。
本発明によるタイヤは、そのカーカス補強体7が少なくとも1つのカーカスプライを有し、そのラジアルケーブルが本発明による3層スチールケーブルで形成されていることに特徴を有する。
【0038】
このカーカスプライでは、本発明によるケーブルの密度は、好ましくはラジアルプライの40〜100ケーブル/dm(デシメートル)、より好ましくは50〜80ケーブル/dmであり、従って、互いに隣接する2つのラジアルケーブルの軸線と軸線との間の距離は、好ましくは1.0〜2.5mm、より好ましくは1.25〜2.0mmである。本発明によるケーブルは、2つの隣接ケーブル間のゴムの幅(「Lc」)が0.35〜1mmの間にあるように配置されるのが好ましい。この幅「Lc」は、既知の態様で、カレンダリングピッチ(ゴムファブリック内のケーブルの敷設ピッチ)とケーブルの直径との間の差を表す。表された最小値以下では、ゴムブリッジは、幅が狭過ぎると、プライの加工中、特に、伸びまたは剪断によりゴムブリッジがそれ自体の平面内で受ける変形中に機械的に品質低下する危険がある。示された最大値を超えると、タイヤの側壁上に生じる外観の傷またはケーブル間での物体の穿刺による孔が生じる危険がある。これらと同じ理由から、幅「Lc」は0.5〜0.8mmの間で選択されるのがより好ましい。
好ましくは、カーカスプライのファブリックに使用されるゴム配合物は、加硫されるとき(すなわち硬化後)、20MPaより小さい、より好ましくは12MPaより小さい5〜11MPaのセカント引っ張り係数M10を有する。一方では本発明のケーブルと、他方ではこれらのケーブルにより補強されるファブリックとの間の耐久性の最高の妥協が記録されることが、このような係数の範囲内にある。
【0039】
III.本発明の実施形態の例
III−1.使用されるワイヤの性質および特性
本発明に従うか否かとは無関係に、幾つかのケーブル例を製造するには、商業的ワイヤ(commercial wires:その初期直径は約1mmである)から出発して、既知の方法に従って製造される細い炭素鋼ワイヤが使用される。使用されるスチールは、例えば既知の炭素鋼(USA規格 1069)であり、その炭素含有量は0.70%である。
商業的出発ワイヤ(commercial starting wires)は、これらが後で加工される前に、既知の脱脂処理および/または酸洗い処理を受ける。この段階では、ワイヤの引張り強度は約1150MPaに等しく、その破断伸びは約10%である。次に、各ワイヤが銅めっきされ、更に大気温度での電解により亜鉛めっきされる。次にワイヤは、ジュール効果により540℃まで加熱され、銅および亜鉛の拡散により黄銅を得る。重量比(フェーズα)/(フェーズα+フェーズβ)は約0.85に等しい。黄銅コーティングが得られたならば、ワイヤには熱処理を行なわない。
【0040】
水中エマルションの形態をなす引抜き潤滑剤を用いたウェット媒体中での冷間引抜きにより、いわゆる「最終」加工硬化が各ワイヤに行われる。このウェット引抜きは、商業的出発ワイヤについて上記初期直径から計算された最終加工硬化比(ε)を得るため、既知の態様で行われる。
定義によれば、加工硬化作業の比εは、公式ε=Ln(Si/Sf)により与えられる。ここで、Lnは自然対数、Siはこの加工硬化前のワイヤの初期断面、Sfは加工硬化後のワイヤの最終断面を表す。
かくして、最終加工硬化比を調節することにより、直径の異なる2群のワイヤが製造される。第一群のワイヤは、インデックス1のワイヤ(F1印のワイヤ)について約0.200mm(ε=3.2)に等しい平均直径φを有し、第二群のワイヤは、インデックス2または3のワイヤ(F2またはF3印のワイヤ)について約0.175mm(ε=3.5)に等しい平均直径φを有する。
【0041】
ワイヤを包囲する黄銅コーティングは非常に薄くて1μmより大幅に小さく、例えば約0.15〜0.30μmである。これは、スチールワイヤの直径に比べて無視できるものである。もちろん、ワイヤの異なる元素(例えば、C、Mn、Si)におけるスチールの成分は、出発ワイヤのスチールの成分と同じである。
ワイヤの製造過程で、黄銅コーティングは、ワイヤの引抜き並びにゴムへのワイヤの付着を容易にする。もちろん、ワイヤは、黄銅以外の薄い金属層であって、例えばこれらのワイヤの腐食抵抗性および/またはゴムに対するワイヤの付着性を向上させる機能を有する金属層、例えばCo、Ni、Zn、AlまたはCu、Zn、Al、Ni、Co、Snの2以上の配合物の合金の金属層で被覆することができる。
【0042】
III−2.ケーブルの製造
A)ケーブルC−IおよびC−II
上記ワイヤは、次に、従来技術のコントロールケーブル(図1)および本発明によるケーブル用の1+6+12構造の層状ケーブルの形態に組立てられる。ワイヤF1は層C1を形成するのに使用され、ワイヤF2およびF3は、これらの種々のケーブルの層C2およびC3を形成するのに使用される。
この例示実施形態における各ケーブルはラップが設けられておらず、下記特性を有している(dおよびpの単位はmmである)。
構造1+6+12
1=0.200(mm)
(d1/d2)=1.14
2=d3=0.175(mm)
2=p3=10(mm)
【0043】
層C2およびC3のワイヤF2およびF3は、同じ捩り方向(Z方向)に巻回される。従って、2種類のケーブル(コントロールケーブルC−Iおよび本発明のケーブルC−II)は、唯一の事実すなわち、本発明のケーブルC−IIでは層C1およびC2により形成される中心コアが、非加硫ジエンエラストマー(硬化状態)をベースとするゴム配合物によるシースで覆われているという事実で区別される。
本発明によるケーブルC−IIは、幾つかの段階、第一に1+6構造の中間ケーブルを作ることにより、次にこの中間ケーブルの押出しヘッドを介してシースを形成することにより、最後に、このようにしてシースが形成された層C2の回りに残りの12本のワイヤのケーブリング作業を行うことにより得られた。ゴムシースの「未硬化状態での粘着」の問題を回避するため、中間巻回作業中および巻解き作業中に、プラスチック材料(PET)からなる挿入フィルムを使用した。
【0044】
図1と比較することにより、図2から明瞭に理解されようが、層C3は、層C2にシースが形成されていることにより、層C2から間隔を隔てられている。単に層C2のワイヤ間にゴムを浸透させることにより、内側層C1にもシースが形成されている(層C1は、視覚的にも層C2から間隔を隔てている)。
ゴムシースを構成するエラストマー配合物は、天然ゴムおよびカーボンブラックをベースとするもので、ケーブルの補強を意図したカーカス補強プライのエラストマー配合物と同じ配合を有している。
【0045】
B)ケーブルC−IIIおよびC−IV
カーボンの量を変える(0.70%の代わりに0.58%にする)ことにより、補完比較試験のための他のケーブルを製造した。このようにして得られたコントロールケーブルおよび本発明によるケーブルは、それぞれ、符号C−IIIおよびC−IVを付して示すものとする。ケーブルC−IVの一変更形態(C−IVbis)では、層C1およびC2で形成されたコアがゴム含浸(rubberised)される前に、更に層C1(中心ワイヤ)自体がゴム含浸され、2種類のケーブル(C−IVおよびCIVbis)が均等結果をもたらしたことが観察された。
【0046】
III−3.タイヤの耐久性
次に、上記3層ケーブルは、重車両用ラジアルタイヤのカーカスプライの製造に慣用的に使用されている補強フィラーとしての天然ゴムおよびカーボンブラックをベースとする既知の配合物で形成された複合ファブリック内にカレンダリングすることにより組み込まれる。この配合物は、エラストマーおよび補強フィラーに加え、本質的に、抗酸化剤、ステアリン酸、エキステンダーオイル、接着促進剤としてのナフテン酸コバルト、および最後に加硫系(硫黄、促進剤、ZnO)を有している。
これらのケーブルにより補強される複合ファブリックは、2つの薄いゴム層で形成されたゴムマトリックスを有し、これらのゴム層はケーブルの両側に重畳されかつ各ゴム層は0.75mmの厚さを有している。カレンダリングピッチ(ゴムファブリック内でのケーブルの敷設ピッチ)は、2種類のケーブルとも1.5mmである。
【0047】
A)試験1
寸法315/70 R22.5 XZAの重車両用タイヤ(P−IおよびP−IIで示す)について2シリーズの走行試験を行った。各シリーズにおいて、タイヤは、走行用タイヤおよび新しいタイヤの剥皮を行う他のタイヤを使用した。
タイヤのカーカス補強体は、上記ゴム含浸されたファブリックで形成された単一ラジアルプライで形成されている。
タイヤP−IはケーブルC−Iにより補強されかつ従来技術のコントロールタイヤを構成しており、一方、タイヤP−IIはケーブルにより補強された本発明によるタイヤである。従ってこれらのタイヤは、これらのカーカス補強体7を補強する層状ケーブルを除き、同一である。
【0048】
特に、これらのタイヤのクラウン補強体6は、既知の態様で、65°の角度で傾斜した金属ケーブルにより補強された2つのトライアンギュレーションハーフプライ(triangulation half-plies)で形成されており、この上には26°の角度(半径方向内方プライ)および18°の角度(半径方向外方プライ)で傾斜した非伸長性金属ケーブルで補強された2つの交差した重畳ワーキングプライが載置されている。これらの各クラウン補強体では、使用される金属ケーブルは既知の慣用ケーブルであり、これらのケーブルは互いに実質的に平行に配置されている。また、表示された全ての傾斜角度は、正中周方向平面に対して測定されたものである。
タイヤP−Iは重車両用タイヤとして本件出願人により市販されており、これらの認識された性能により、この試験のための選択のコントロールを構成する。
これらのタイヤは、セクションI−2で説明したような苛酷走行試験を受け、試験は、試験されるタイヤの強制破壊が生じるまで遂行する。
【0049】
コントロールタイヤP−Iは、これに賦課される非常に苛酷な走行条件下で、232,000kmの平均距離走行後に破壊され、その後にカーカスプライの破断が生じる(多くのケーブルC−Iはタイヤの底ゾーンで破断される)ことに留意されたい。このことは、コントロールタイヤが既に非常に高性能になっていることを当業者に証明するものであり、このような走行距離は、ほぼ8ヶ月の連続走行およびほぼ8000万回の疲労サイクルに匹敵する。
しかしながら、予想外であるが、本発明によるタイヤP−IIは、約400,000kmの平均走行距離または約70%の耐久性でのゲインを有し、極めて優れた耐久性を呈した。
【0050】
また、本発明のタイヤの破壊は、強度に関係するカーカス補強体のレベルに生じるのではなく、クラウン補強体に生じ、このことは、本発明によるケーブルの卓越した性能を証明するものである。
走行後、剥皮、すなわちタイヤからのケーブルの取出し(extraction)が行われる。次にケーブルは引っ張り試験を受け、これは、ケーブルのワイヤの位置に従っておよび試験される各ケーブルについて、各種類のワイヤの初期破断荷重(新しいタイヤから取出したケーブル)および残留破断荷重(走行後にタイヤから取出したケーブル)を測定することにより行われる。この試験には、走行中に破断されないコントロールケーブルC−Iのみが対象とされる。
平均退化(average deterioration)ΔFmは、下記表1において%で示されている。
平均退化ΔFmは、内側層C1および層C2およびC3のコードの両方について計算される。ケーブル自体についての全退化ΔFmも計算される。
【0051】
【表1】

【0052】
表1を読むと、分析されるケーブルのゾーンがいかなるゾーンであっても、本発明によるケーブルC−IIには最高の結果が記録されていることが理解されよう。特に、ケーブル内への浸透が大きいほど(層C3、C2次にC1)退化ΔFmが大きくなり、本発明によるケーブルの退化ΔFmは、考察する層C1、C2またはC3に基いて、コントロールケーブルの1/4〜1/6であることが観察されよう。
最後におよび上記全てから、極めて大きい走行距離に耐えた本発明によるケーブルC−IIの全退化(ΔFm)は、コントロールケーブルの全退化(ΔFm)の1/5〜1/6であることが明らかになる。
【0053】
これらの結果との相関関係として、種々のワイヤの視覚試験は、ワイヤ相互の反復摩擦から生じる摩耗またはフレッチング(接触点での材料の腐蝕)の現象が、ケーブルC−Iと比較して大幅に低減されることを示している。
要約すれば、本発明によるケーブルC−IIの使用により、コントロールタイヤでも優れているカーカスの寿命を一層大きく増大できる。
【0054】
上記耐久性の結果はまた、後述のように、ケーブルへのゴムの浸透量に非常に強い相関関係を有していることを表している。
非疲労ケーブルC−IおよびC−II(新しいタイヤから取出した後)には、1分間にケーブルを通過する空気の体積(cm3)を測定(10回の測定の平均)することにより、セクションI−1で説明した空気透過性試験を行った。
下記表2には、空気の平均流量(コントロールケーブルでの相対単位ベース100での10回の測定の平均)およびゼロ空気流量に対応する測定回数に関して得られた結果が示されている。
【0055】
【表2】

【0056】
本発明のケーブルC−IIは、最低の空気透過性(ゼロまたは事実上ゼロの平均空気流量)、従って最高のゴム浸透量を有するケーブルであることに留意すべきである。
かくして、中間層C2(および内側層C1)を覆うゴムシースにより不透過性にされた本発明によるケーブルは、タイヤの側壁またはトレッドからカーカス補強体(ここで、ケーブルは、既知の態様で、最も強い機械的作用を受ける)のゾーンに向かって通過する酸素および水分の流れから保護される。
【0057】
B)試験2
第二試験では、前述と同じ寸法(315/70 R 22.5 XZA)をも新しい重車両用タイヤ(該タイヤはケーブルC−IIIおよびC−IVを使用している)が製造され、このタイヤに前と同じ耐久性試験を行った。
コントロールタイヤ(P−IIIで示す)は、これらの極端な走行条件下で250,000kmの平均距離を走行し、走行の終時に、ビードゾーン内のコントロールケーブルの破壊の開始によりビードが変形した。
同じ条件下で、本発明によるタイヤ(P−IVで示す)は、430,000kmの平均走行距離または約70%の耐久性のゲインをもつ顕著に改善された耐久性を明らかにした。また、本発明のタイヤの破壊は、強度に関係するカーカスの補強アーマチャのレベルには生じないで、クラウンの補強アーマチャに生じる。このことは、本発明によるケーブルの卓越した性能を示しかつ確認するものである。
剥皮の後、下記結果が得られた。
【0058】
【表3】

【0059】
これらの結果は、上記表2の結果を凌駕するものであるが、これらの結果が正しいものであることを確証するものである。なぜならば、対象とする層(C1、C2またはC3)の如何にかかわらず、本発明のケーブルC−IVには、コントロールケーブルC−IIIと比較して、事実上いかなる退化も見当たらないからである。
結論的にいえば、上記試験により証明されるように、本発明のケーブルは、タイヤ、特に重車両用タイヤのカーカス補強体のケーブルの疲労−フレッチング腐蝕の現象を大幅に低減でき、従ってこれらのタイヤの寿命を向上できる。
最後に述べるが、決して些細でないことは、本発明によるこれらのケーブルは、これらの特殊な構造およびおそらくは座屈に対する非常に優れた抵抗性のため、低い空気圧での走行中に、2〜3倍改善された耐久性をタイヤのカーカス補強体に付与したことに留意されたい。
もちろん、本発明は上記実施形態の例に限定されるものではない。
【0060】
かくして、例えば、本発明のケーブルの内側層C1は非円形断面のワイヤ、例えば組成変形されるもの、より詳しくは、実質的に楕円形または多角形断面例えば三角形、正方形または長方形断面のワイヤで形成することもできる。また層C1は、円形断面であるか否かを問わず、例えば波打ちワイヤまたは螺旋状ワイヤ、または螺旋状またはジグザグ形状の捩られたプリフォームドワイヤで形成することもできる。このような場合には、層C1の直径d1は中心ワイヤを包囲する仮想回転円筒状の直径(バルクの直径)を表すものであって、中心ワイヤ自体の直径(断面が非円形であるときは任意の他の横方向サイズ)を表すものではない。これと同じことは、層C1が前の例におけるような単一ワイヤで形成されておらず、幾つかのワイヤ(例えば中間層C2と同じまたは異なる捩り方向に、互いに平行に配置されまたは交互に捩られた2本のワイヤ)を一体に組合せて形成されたものにも適用される。
しかしながら、工業的可能性、コストおよび全体的性能の理由から、本発明は、円形断面の単一慣用リニア中心ワイヤ(層C1)を用いて実施するのが好ましい。
また、ケーブリング作業中に中心ワイヤに作用する応力は、他のワイヤに作用する応力より小さいので(ケーブル内でのワイヤの位置に留意されたい)、このワイヤは、高捩り延性をもつ例えばスチール配合物を使用する必要がなく、任意の種類のスチール例えばステンレス鋼を使用するのが有利である。
【0061】
また、2つの層C2および/またはC3の(少なくとも)一方のリニアワイヤを、プリフォームドワイヤまたは変形ワイヤ、またはより一般的には直径d2および/またはd3の他のワイヤの断面とは異なる断面のワイヤと置換することもでき、これにより、例えば、ゴムまたは他の任意の材料が浸透できる能力を改善でき、かつこの置換ワイヤのバルクの直径を、対象とする層(C2および/またはC3)を構成する他のワイヤの直径(d2および/またはd3)より小さくし、等しくしまたは大きくすることができる。
本発明の精神を変えることなく、本発明によるケーブルを構成するワイヤの全てまたは幾つかは、金属であるか否かを問わず、スチールワイヤ以外のワイヤ、より詳しくは例えば液晶有機ポリマーのモノフィラメントのように大きい機械的強度をもつ無機または有機材料のワイヤで構成することもできる。
また本発明は、任意のマルチストランドスチールケーブル(「マルチストランドロープ」)であって、その構造が、少なくとも、エレメンタリーストランド、本発明による3層ケーブルとして取り入れているマルチストランドスチールケーブルに関する。
【符号の説明】
【0062】
1 重車両用タイヤ
2 クラウン
4 ビード
6 クラウン補強体
7 カーカス補強体
C1 内側層
C2 中間層
C3 外側層
CI コントロールケーブル
CII 本発明によるケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径d1のL本(L=1〜4)のワイヤからなる内側層C1を有し、該内側層C1が、ピッチp2で螺旋状に一体巻回された直径d2M本の中間層C2により包囲され、該中間層C2が、ピッチp3で螺旋状に一体巻回された直径d3のN本(N=8〜20)の外側層C3により包囲されているL+M+N構造の3層金属ケーブルにおいて、少なくとも1つのジエンエラストマーをベースとする架橋性ゴム配合物または架橋ゴム配合物で形成されたシースが、少なくとも前記中間層C2を覆っており、
下記特徴(d1、d2、d3、p2およびp3の単位はmm)、すなわち、
(i)0.10<d1<0.28
(ii)0.10<d2<0.25
(iii)0.10<d3<0.25
(iv)M=6またはM=7
(v)5π(d1+d2)<p2<p3<5π(d1+d2+d3
(vi)前記層C2、C3のワイヤは同じ捩り方向に巻回されていること
を有することを特徴とするケーブル。
【請求項2】
前記ジエンエラストマーは、天然ゴム、合成ポリイソプレン、およびこれらのエラストマーの配合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載のケーブル。
【請求項3】
前記外側層C3は飽和層であることを特徴とする請求項1記載のケーブル。
【請求項4】
前記ゴムシースは更に内側層C1を覆っていることを特徴とする請求項1記載のケーブル。
【請求項5】
下記関係、すなわち、
M=6の場合、1.10<(d1/d2)<1.40
M=7の場合、1.40<(d1/d2)<1.70
を満たすことを特徴とする請求項記載のケーブル。
【請求項6】
1+M+N構造を有しかつ内側層C1が単一ワイヤにより形成されていることを特徴とする請求項1記載のケーブル。
【請求項7】
1+6+12構造であることを特徴とする請求項6記載のケーブル。
【請求項8】
下記関係、すなわち、
0.18<d1<0.24
0.16<d2≦d3<0.19
5<p23<12
を有することを特徴とする請求項記載のケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−122291(P2011−122291A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7517(P2011−7517)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【分割の表示】特願2006−546073(P2006−546073)の分割
【原出願日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】