説明

タイヤコードの製造方法

【課題】撚りコードに接着剤を塗布するタイヤコードの製造方法であって、接着剤が高粘度であっても使用可能であり、溶剤等の希釈剤の使用を抑制すると共に接着剤の塗布量を削減することができ、且つコード内部へ接着剤が良好に浸透する、タイヤコードの製造方法を提供する。
【解決手段】撚りコードに活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を塗布するタイヤコードの製造方法であって、該接着剤組成物を含浸させたフェルト体に該撚りコードを連続的に押し付ける工程を含むことを特徴とするタイヤコードの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚りコードに接着剤を塗布してなるタイヤコードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤの補強材として主に有機繊維からなる撚りコードが用いられている。この撚りコードのゴム補強性が十分に発揮されるには、撚りコードとゴムとの接着性が重要である。このため、撚りコードの表面には、ゴム用接着剤が塗布されている。
【0003】
上述の撚りコードには、複雑な表面、例えば、コードフィラメントの撚りによる凹凸等が存在する。このため、従来の接着剤塗布技術には、低粘度の接着剤が使用されている。接着剤の粘度を調整するためには、水や有機溶媒等の希釈剤の使用が必要である。このように希釈された接着剤〔例えば、レゾルシンホルマリンラテックス(RFL)処理液、以下、単に「RFL処理液」と称する。〕は、ディップ手法でコードに塗布される。余分な量のRFL処理液は、絞りロールやバキュームで付着量を調整し、除去される。その後、希釈剤を蒸発させ、接着剤は熱又は光架橋される(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
低粘度の接着剤の場合、撚りコードのディップ(以下、単に「DIP」と称する。)塗布やコード内部の含浸は問題にならないが、溶媒等の希釈剤の蒸発に伴い接着剤に含まれる有害物質が発煙するという問題がある。また、接着剤中の希釈剤を除くために、乾燥等の時間やエネルギーが必要である。かかる視点からは、希釈剤を除くのが好ましい。
【0005】
しかし、高粘度の塗布材を用いる場合、従来のDIP法やブラシ法による塗布方法では、撚りコードの表面に、薄く、均一な接着層を形成させることができず、撚りコードへの塗布量が過大となると共にコード内部への浸透性がよくないという問題がある。
また、撚りコードに接着材料を噴霧によって被覆することも提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法によれば、希釈剤の使用を抑制できるものの依然として塗布量が過大であることとコード内部への浸透性がよくないという問題が残されていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−164468号公報
【特許文献2】国際公開第WO02/094962号パンフレット
【特許文献3】特開2005−68572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、撚りコードに活性エネルギー線架橋型接着剤を塗布するタイヤコードの製造方法であって、該接着剤が高粘度であっても使用可能であり、溶剤等の希釈剤の使用を抑制すると共に該接着剤の塗布量を削減することができ、且つ該撚りコード内部へ該接着剤が良好に浸透する、タイヤコードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、活性エネルギー線架橋型接着剤の塗布手段として、フェルト体に着目し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
(1)撚りコードに活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を塗布するタイヤコードの製造方法であって、該接着剤組成物を含浸させたフェルト体に該撚りコードを連続的に押し付ける工程を含むことを特徴とするタイヤコードの製造方法、
【0009】
(2)前記接着剤組成物が50〜3000mPa・sの粘度を有することを特徴とする上記(1)に記載のタイヤコードの製造方法、
(3)前記接着剤組成物が、(A)重量平均分子量500〜100,000の共役ジエン系重合体及び(B)電子対供与性の塩基性化合物を含有する接着剤組成物であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のタイヤコードの製造方法、
【0010】
(4)前記接着剤組成物が、前記電子対供与性の塩基性化合物(B)を、前記共役ジエン系重合体(A)100質量部あたり、0.2〜50質量部含有することを特徴とする上記(3)記載のタイヤコードの製造方法、
(5)前記接着剤組成物が、(C)紫外線又は放射線照射により架橋可能な官能基を1分子中に3個以上有する化合物及び/又は(D)紫外線又は放射線照射によりラジカル重合が可能な官能基を1又は2個有する化合物を更に含有していることを特徴とする上記(3)又は(4)のいずれかに記載のタイヤコードの製造方法、
(6)前記共役ジエン系重合体(A)の末端基が、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基又はアリル基であることを特徴とする上記(3)〜(5)のいずれかに記載のタイヤコードの製造方法、
【0011】
(7)前記共役ジエン系重合体(A)の末端基が、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基であることを特徴とする上記(6)に記載のタイヤコードの製造方法、
(8)前記電子対供与性の塩基性化合物(B)が、不対電子を有する窒素原子を含む化合物、又は不対電子を有する構造を含む化合物を熱分解により生成する化合物であることを特徴とする上記(4)に記載のタイヤコードの製造方法、
(9)前記不対電子を有する窒素原子を含む化合物が、アミン化合物であることを特徴とする上記(8)に記載のタイヤコードの製造方法、及び
(10)前記撚りコードがポリエステル繊維からなる上記(1)〜(9)のいずれかに記載のタイヤコードの製造方法
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撚りコードに活性エネルギー線架橋型接着剤を塗布するタイヤコードの製造方法において、該接着剤が高粘度であっても使用可能となり、溶剤等の希釈剤の使用を抑制することも可能となり、該接着剤の塗布量を削減することができた。更に、該撚りコード内部へ接着剤が良好に浸透することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の製造方法は、撚りコードに活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を塗布するタイヤコードの製造方法である。そして、該接着剤組成物を含浸させたフェルト体に該撚りコードを連続的に押し付ける工程を含むことを特徴とする。
以下、本発明の製造方法を図面に基づいて説明する。図1は、本発明のタイヤコードの製造方法の一例を示す概念図である。
図1において、所定の活性エネルギー線架橋型接着剤組成物1(以下、「接着剤組成物1」ということがある)を含浸させた所定の形状のフェルト体2により撚りコード3を挟み込み、フェルト体押圧装置4によりフェルト体2に撚りコード3を押し付けた状態を維持し、且つ撚りコード3を所定搬送速度で搬送することにより、フェルト体2に撚りコード3を連続的に押し付け、接着剤組成物1を均一に塗布することができる。
なお、接着剤組成物1は所定の接着剤組成物供給装置5により、撚りコード3への塗布前及び/又は塗布中にフェルト体2に供給される。
【0014】
本発明の製造方法に用いられるフェルト体2は、羊毛等の繊維が水分と熱と圧力で揉み固められたプレスフェルト、多数の針により繊維を絡ませてなるニードルフェルト、織られてなる織フェルト、樹脂により固められた樹脂加工フェルト等のいずれのフェルトからなっていても良く、フェルトの材質としては羊毛、化学繊維のいずれでも良い。
【0015】
フェルト体2の形状としては、接着剤組成物1を含浸させることができれば如何なる形状でも良い。例えば、図1のような円盤状(厚さの薄い円筒状等)、楕円盤状(厚さの薄い楕円筒状等)、多角柱形状(厚さの薄い3〜8角柱状等)等、種々の形状を採り得る。
【0016】
撚りコードは種々の有機繊維からなる。好ましくは、タイヤに用いる撚りコードは、特に制限されないが、ポリエチレンテレフタレート(以下、単に「PET」と称する。)等のポリエステル繊維、アラミド等の芳香族系繊維、ナイロン等の各種有機繊維から形成される。
本発明の製造方法は、活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を用いるので、ナイロン等より接着しにくい、PET等のポリエステル繊維、アラミド等の芳香族系繊維の接着に有用であり、タイヤ用として汎用に用いられているPET等のポリエステル繊維の接着に特に有用である。
【0017】
フェルト体押圧装置4としては、フェルト体2に撚りコード3を所定の押圧にて押し付けた状態を連続的に維持できる装置であれば何でも良く、接着剤組成物1の含浸を均一にするためには、図1のように撚りコード3を複数のセットのフェルト体2に押し付けることが好ましい。
また、所定の接着剤組成物供給装置5としては、接着剤組成物1をフェルト体2に連続的に供給できるものであれば何でも良い。フェルト体2への供給速度は、フェルト体2の大きさ及び撚りコードの搬送速度に合わせて適宜選択されるが、例えば、通常の撚りコードの搬送速度が
1〜100m/分の場合、供給速度は0.2〜100ml/分程度が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法に用いられる活性エネルギー線架橋型接着剤組成物1は、50〜3000mPa・sの粘度を有することが好ましい。接着剤組成物1は環境等を考慮すれば、無溶媒であることが好ましく、その場合は粘度が80〜3000mPa・s程度と比較的高くなる。
【0019】
また、活性エネルギー線架橋型接着剤組成物1は、(A)重量平均分子量500〜100,000の共役ジエン系重合体及び(B)電子対供与性の塩基性化合物を含有する接着剤組成物であることが好ましい。共役ジエン系重合体(A)の重量平均分子量が500以上であると架橋硬化後接着剤組成物1の硬度が高過ぎないので好ましく、100,000以下であれば接着強度が高くなり好ましい。
【0020】
(A)成分としての共役ジエン系重合体は、共役ジエン単独重合体、共役ジエン共重合体、及びこれらの変性重合体を含むことができる。共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサンジエン等が挙げられ、中でも1,3−ブタジエンが好ましい。共役ジエン共重合体としては、共役ジエン−芳香族ビニル共重合体が好ましい。芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。また、これら共役ジエン系重合体の主鎖は、硫黄と架橋反応の架橋部位となり易い、アリル位に水素原子を有する炭素−炭素二重結合を、分子鎖内の単位として含むことが好ましい。上記共役ジエン系重合体としては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、イソプレン−ブタジエン共重合体等が挙げられる。また、上記共役ジエン系重合体は、接着剤組成物を配合する温度において液状、特に0℃以下でも液状であると作業性及び接着剤組成物の混合工程が容易で好ましく、また、50℃以上の温度でも液状でかつ蒸気圧が小さいのが好ましい。接着剤組成物を配合する温度において液状でなくても、接着剤組成物において上記共役ジエン系重合体が液状になれば特に制限されない。
【0021】
さらに、共役ジエン系重合体(A)の末端又は主鎖にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する官能基を導入した変性重合体も用いることができる。共役ジエン系重合体(A)への官能基を導入は(A)の主鎖にグラフトするよりも(A)の末端に導入するほうが接着強度向上のため好ましい。このような官能基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基又はアリル基等が挙げられる。これらの内、共役ジエン系重合体(A)の末端基が、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基であることが好ましい。
このような変性重合体は、アクリル化ポリブタジエン、メタクリル化ポリブタジエン等がある。メタクリレート基末端のポリブタジエンとしては、例えば大阪有機化学工業(株)製の商標「BAC45」(ポリブタジエン部位のMw=2800、粘度=3.4Pa・s、ケン化価=約49)が挙げられる。また、主鎖又は末端にメタクリレートがグラフトしたメタクリレートグラフト化ポリブタジエンとしては、Ricon Resins INC.製の商標「RIACRYL3100」(Mw=5100,メタクリロイル(オキシ)基の個数=2/分子鎖);同社製の商標「RIACRYL3500」(Mw=6800,メタクリロイル基の個数=9/分子鎖);同社製の商標「RIACRYL3801」(Mw=3200,メタクリロイル(オキシ)基の個数=8/分子鎖)等が挙げられる。
【0022】
(B)成分の、電子対供与性の塩基性化合物は、不対電子を有する窒素原子を含む化合物、又は不対電子を有する構造を含む化合物を熱分解により生成する化合物であることが好ましい。不対電子を有する窒素原子を含む化合物の例としては、(a)芳香族アミン、(b)アルデヒドアミン、(c)グアニジン類、(d)チオ尿素酸類、(e)複素環系アミン、(f)脂肪族アミン残基又は複素環系アミン残基を含みかつ炭素−炭素二重結合を有する重合性モノマー等のアミン化合物を挙げることができる。
【0023】
芳香族アミン(a)としては、アニリン、m−フェニレンジアミン又は2,4−トルイレンジアミン等のアミノ基含有芳香族化合物が挙げられる。アルデヒドアミン(b)としては、n−ブチルアルデヒドアニリン等が挙げられる。グアニジン類(c)としては、ジフェニルグアニジン又はジオルトトリルグアニジン等が挙げられる。チオ尿酸類(d)としては、チオカルバニリド、ジエチルチオ尿素又はテトラメチルチオ尿素等が挙げられる。複素環系アミン(e)としては、ピリジン又は2−メチルイミダゾール等の窒素含有複素環を有する化合物が挙げられる。
【0024】
重合性モノマー(f)としては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、m−(N,N−ジメチルアミノ)スチレン、p−(N,N−ジメチルアミノ)スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、1−ビニルイミダゾール、アリルアミン、2,5−ジスチリルピリジン、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ビニル−2H−インダゾール、4−ジイソプロピルアミノ−1−ブテン、トランス−2−ブテン−1,4−ジアミン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、4−メチル−5−ビニルチアゾール、N−ビニルホルムアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン及びN,N−ジエチルアクリルアミド等からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0025】
上記の化合物に加えて、(g)脂肪族アミン、及び(h)上記(a)〜(g)以外のアミン化合物も不対電子を有する窒素原子を含む化合物として用いることができる。脂肪族アミン(g)としては、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;エチレンジアミン等のジアミン類;又はポリエチレンポリアミン等の高分子アミン等が挙げられる。上記アミン化合物(h)としては、一級又は二級アミノ基をアクリル化、メタクリル化等により置換した置換アミン化合物が挙げられる。
【0026】
不対電子を有する構造を含む化合物を熱分解により生成する化合物としては、公知の加硫促進剤が好ましい。例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド等のジスルフィド化合物が挙げられる。なお、不対電子を有する構造を含む化合物を熱分解により生成する化合物は、接着のための加硫処理時に、加硫温度である130〜180℃で分解するのが好ましい。
【0027】
電子対供与性の塩基性化合物(B)の配合量は塩基の電子対供与性により異なるが、共役ジエン系重合体(A)100質量部あたり、0.2〜50質量部含有することが好ましい。
【0028】
接着剤組成物1は、更に(C)紫外線又は放射線照射により架橋可能な官能基を1分子中に3個以上有する化合物及び/又は(D)紫外線又は放射線照射によりラジカル重合が可能な官能基を1又は2個有する化合物を含有していることが好ましい。(A)成分100質量部に対して(C)成分は30〜80質量部含有することが好ましく、(D)成分は3〜60質量部含有することが好ましい。
【0029】
接着剤組成物1は、活性エネルギー線架橋型であり、活性エネルギー線としては、紫外線、電子線やガンマ線等の放射線等が挙げられる。活性エネルギー線は、公知の方法で照射される。一般に、紫外線照射の場合、照射量は100〜3000mJ/cm2であり、照射時間は1〜30秒である。電子線照射の場合、照射量は2〜50MRadであり、照射時間は0.5〜30秒である。紫外線照射の場合は光開始剤を配合する必要があるが、電子線やガンマ線等の放射線等の照射の場合は光開始剤を配合する必要がない。
【0030】
接着剤組成物1を紫外線照射により架橋硬化する場合は、例えば、2,4−ジエチルチオキサントン(例えば日本化薬(株)製;商標「KAYACURE DETX−S」)や、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル(同社製;商標「KAYACURE DMBI」等の光開始剤を、(A)成分100質量部に対して、0.1〜10質量部配合するのが好ましい。
さらに、硫黄(例えば軽井沢製作所製の粉末硫黄)、加硫促進剤(例えばメルカプトベンゾチアゾール(Flexys社製、商標「Perkacit MBT PDR−D」;ジサルファイド(AKZO社製、商標「Lucidol S−50」、又はパーオキシド等を、(A)成分100質量部に対して、それぞれ0.1〜3質量部配合しても良い。
【0031】
(C)成分は、紫外線又は放射線照射により架橋可能な官能基を1分子中に3個以上、通常3〜8個有する化合物である。かかる化合物としては、(E)分子中に3個以上のアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、又は下記一般式(I):
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、Rlは炭素数2〜5のアルキレン基、好ましくはエチレン基又はプロピレン基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、好ましくは水素原子又はメチル基を示す。mは0〜5の整数、好ましくは1〜3の整数である。)で表される官能基を有する化合物が好ましく、式(I)で表される官能基を有する化合物が特に好ましい。アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を分子中に3個以上有する化合物としては、例えば、3価以上の多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステルが挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が好ましく用いられる。式(I)で表される官能基を3個以上有する化合物としては、ペンタエリスリトールポリエトキシアクリレート(日本化薬(株)製の商標「KAYARAD THE−330」)、ペンタエリスリトールポリプロポキシアクリレート(同社製、商標「KAYARAD TPA−320」;同社製,商標「KAYARAD TPA−330」)、ジペンタエリスリトールポリアクリレート(荒川化学工業(株)製、商標「ビームセット700」)、ペンタエリスリトールポリアクリレート(同社製、商標「ビームセット710」)等が挙げられる。
また、化合物(C)として、アクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基で変性されたノボラック型フェノール樹脂を用いることができる。
【0034】
(D)成分は、粘度調整剤であり、紫外線又は放射線照射によりラジカル重合が可能な官能基を1又は2個有する化合物であり、単官能又は2官能性の液状化合物が好ましい。このような化合物としては、(F)分子内に1個又は2個のアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を有する化合物、特に、ポリオキシアルキレン誘導体が好ましい。単官能の化合物としては、例えば、フェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート(新中村化学工業(株)製;商標「AMP−60G」,商標「APG−400」),テトラヒドロフルフリルモノアクリレート(SARTOMER社製,商標「SR−285」),イソオクチルモノアクリレート(SARTOMER社製,商標「SR−440」)等が挙げられる。また、2官能の低分子化合物としては例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製,商標「APG−400」),ポリプロピレングリコールジメタクリレート(同社製,商標「9PG」)等が挙げられる。
【0035】
接着剤組成物1は、更に加工の必要に応じて、ラジカル反応性を有する低粘度液体を適宜混合することができる。
また、前記接着剤組成物1は、エポキシ化合物、無機フィラー及び高分子フィラーからなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を、(A)成分100質量部に対して、合計で10〜40質量部含有することができる。
【0036】
無機フィラーとしては、クレー、シリカ、タルク、カーボンブラック等が挙げられる。クレーとしては、NANOCOR INC.社製のモンモリロナイトクレー(商標:「Nanomer PGW」、「Nanomer PGA」、「Nanomer PGV」、「Nanomer PGN」等)が市販されている。また高分子フィラーとしては、例えば、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合物、変性ポリブタジエン、変性アクリロニトリルブタジエンコポリマー等が挙げられ、市販品としては、(株)クラレ製のイソブチレンと無水マレイン酸の共重合物(商標:「イソバン10」、「イソバン04」、「イソバン110」)や、宇部興産(株)製のアミン基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマー(商標:「HYCAR ATBN 1300x16」)、カルボキシル基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマー(商標:「HYCAR CTBN 1300x8」)等が挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法においては、所望により接着剤組成物1を塗布する前に撚りコード表面の少なくとも一部にアンダーコート層(プライマー層)を形成しても良い。アンダーコート層の厚みは1〜10μmが好ましい。アンダーコート組成物としては、被着体の材質に応じて適宜公知の接着処理剤を使用することができる。アンダーコート組成物は特に限定されるものではないが、好ましくは、ビスフェノール骨格を有する化合物100質量部に対して、(F)分子内に3個以上のアクリロイルオキシ基及び/又はメタクリロイルオキシ基を有する化合物を5〜50質量部含む組成物である。ビスフェノール骨格を有する化合物は、更に上記一般式(I)で表される官能基を有する化合物であることが好ましい。ビスフェノール骨格を有する化合物としては、エトキシ化ビスフェノールFジアクリレート(日本化薬(株)製、商標「KAYARAD R−712」)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(同社製、商標「KAYARAD R−551」)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(SARTOMER社製、商標「SR−348」、商標「SR−480」、商標「SR9036」)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(荒川化学工業(株)製、商標「ビームセット750」)等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、接着剤組成物1の付着量 (%)及び接着剤組成物1の撚りコード内部浸透性は以下の方法で評価した。
<接着剤組成物1の付着量 (%)>
接着剤組成物1塗布前後の撚りコード5mの質量を求め、以下の式によって付着量を得た。
{(接着剤組成物1塗布後の撚りコード5mの質量)−(接着剤組成物1塗布前の撚りコード5mの質量)}/(接着剤組成物1塗布後の撚りコード5mの質量)×100
<接着剤組成物1の撚りコード内部浸透性>
接着剤組成物1付着後の撚りコードの内部をほぐして目視により観察し、以下の評価基準により良好か否かを判断した。
良好: 撚りコードを構成するフィラメント本数の1/2以上に接着剤組成物1が浸透していた。
やや良好: 撚りコードを構成するフィラメント本数の1/2未満、1/5以上に接着剤組成物1が浸透していた。
不良: 撚りコードを構成するフィラメント本数の1/5未満に接着剤組成物1が浸透していた。
【0039】
実施例1〜4
表1に示す配合処方により、(D)成分であるポリプロピレングリコールジメタクリレートの配合量を適宜変量して粘度調節をして、表2に示す実施例1〜4の粘度を有する4種類の接着剤組成物1を得た。
次に、直径A=19mm、厚さB=4mmの羊毛製プレスフェルトからなるフェルト体に十分接着剤組成物1を染込ませた後、PET製 1870dtex/2の撚りコードを挟み込んでフェルト体押圧装置4に装着した。撚りコードの搬送速度を8m/分として、接着剤組成物供給装置からフェルト体2への接着剤組成物1の供給速度は2ml/分とした。得られた4種類の接着剤組成物1塗布済みの撚りコードを紫外線照射条件:1000mJ/cm2にて紫外線照射し架橋硬化した。得られた実施例1〜4の撚りコードの接着剤組成物1の付着量 (%)及び接着剤組成物1の撚りコード内部浸透性を評価した。結果を表2に示す。
【0040】
比較例1
実施例1と同じ接着剤組成物1を低速ポンプで供給し、コーティング器具(コーティングノズル、コーティングガイド)を用いてPET製 1870dtex/2の撚りコード表面に接着剤組成物1を噴霧によって塗ってからエアーブローで均一化させた。エアーブロー器具としてはインターレーサーを用いた。(詳細は、特許文献3の実施例1を参照)
低速ポンプ:マルチチュービングポンプ〔MULTI TUBING PUMP(PHU−1/COU−3)、アズワン株式会社製〕、塗布ガイド:ヤーンオイリングガイド〔YARN OILING GUIDE(B307013)、湯浅糸道工業株式会社製〕及びエアーブロー器具:インターレーサー〔INTERLACER(Y−698)、湯浅糸道工業株式会社製〕を用いた。撚りコードの搬送速度:8m/分、低速ポンプ速度:20回転/分であった。得られた接着剤組成物1塗布済みの撚りコードを紫外線照射条件:1000mJ/cm2にて紫外線照射し架橋硬化した。得られた比較例1の撚りコードの接着剤組成物1の付着量 (%)及び接着剤組成物1の撚りコード内部浸透性を評価した。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表2から明らかなように、本発明の製造方法により得られた実施例1〜4の撚りコードは、比較例1の撚りコードと比較して、高粘度であっても接着剤組成物の塗布量が少なく、且つ接着剤組成物が撚りコード内部に浸透していた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のタイヤコードの製造方法は、無溶媒で高粘度の活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を少ない塗布量で撚りコードに塗布できるので、有害物質の発煙やエネルギー消費を伴う希釈剤の使用を抑制することができるばかりでなく、接着剤の塗布量を削減することができるので、タイヤ用撚りコードの製造方法としてタイヤ産業において好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明のタイヤコードの製造方法の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0046】
1 活性エネルギー線架橋型接着剤組成物
2 フェルト体
3 撚りコード
4 フェルト体押圧装置
5 接着剤組成物供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚りコードに活性エネルギー線架橋型接着剤組成物を塗布するタイヤコードの製造方法であって、該接着剤組成物を含浸させたフェルト体に該撚りコードを連続的に押し付ける工程を含むことを特徴とするタイヤコードの製造方法。
【請求項2】
前記接着剤組成物が50〜3000mPa・sの粘度を有することを特徴とする請求項1に記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項3】
前記接着剤組成物が、(A)重量平均分子量500〜100,000の共役ジエン系重合体及び(B)電子対供与性の塩基性化合物を含有する接着剤組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項4】
前記接着剤組成物が、前記電子対供与性の塩基性化合物(B)を、前記共役ジエン系重合体(A)100質量部あたり、0.2〜50質量部含有することを特徴とする請求項3記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項5】
前記接着剤組成物が、(C)紫外線又は放射線照射により架橋可能な官能基を1分子中に3個以上有する化合物及び/又は(D)紫外線又は放射線照射によりラジカル重合が可能な官能基を1又は2個有する化合物を更に含有していることを特徴とする請求項3又は4のいずれかに記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項6】
前記共役ジエン系重合体(A)の末端基が、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基又はアリル基であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項7】
前記共役ジエン系重合体(A)の末端基が、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基であることを特徴とする請求項6に記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項8】
前記電子対供与性の塩基性化合物(B)が、不対電子を有する窒素原子を含む化合物、又は不対電子を有する構造を含む化合物を熱分解により生成する化合物であることを特徴とする請求項4に記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項9】
前記不対電子を有する窒素原子を含む化合物が、アミン化合物であることを特徴とする請求項8に記載のタイヤコードの製造方法。
【請求項10】
前記撚りコードがポリエステル繊維からなる請求項1〜9のいずれかに記載のタイヤコードの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−138292(P2009−138292A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314890(P2007−314890)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】