説明

タイヤコード熱処理判定装置、タイヤコード熱処理判定方法及びタイヤコード熱処理判定プログラム

【課題】 タイヤコード(Dip反)に求められる物性を確保しつつ、熱処理炉内の送風装置の最適な清掃タイミングを認識させることができるタイヤコード熱処理判定装置、タイヤコード熱処理判定方法及びタイヤコード熱処理判定プログラムを提供する
【解決手段】 本発明に係るタイヤコード熱処理判定装置は、熱処理炉に設けられている温度測定器の状態に基づいて、雰囲気温度を検出する。さらに、タイヤコード熱処理判定装置は、検出した雰囲気温度に基づいて、タイヤコードの熱処理中におけるタイヤコードの最高温度TMAXを含む最高温度範囲RMAXにタイヤコードの温度が保持される保持時間PMAXを推定する。タイヤコード熱処理判定装置は、推定した保持時間PMAXが所定の閾値を下回った場合、その旨を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定器を用いて、空気入りタイヤに用いられる撚り繊維コードであるタイヤコードに熱風による熱処理を施す熱処理炉内の雰囲気温度を検出するタイヤコード熱処理判定装置、タイヤコード熱処理判定方法及びタイヤコード熱処理判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤには、PET繊維などの有機繊維コードによって構成されたタイヤコード(撚り繊維コード)が広く用いられている。このようなタイヤコードは、ゴムとの接着性を確保するため、熱処理炉(いわゆるHTマシン)内において一定時間熱風により加熱される(例えば、特許文献1)。
【0003】
熱処理炉内では、LPGや灯油を燃料としたバーナーを用いて生成された高温の空気(熱風)が、吹出し口から送風装置によって送風される。吹出し口から送風された空気は、循環ダクトを経由して吹出し口側に戻され、バーナーによって再び加熱される。
【特許文献1】特開平6−280167号公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した熱処理炉内では、循環ダクトを介して空気が循環するため、熱処理したタイヤコードの量に応じて、吹出し口などにスケールなどのゴミが付着する。吹出し口などにスケールなどのゴミが付着すると、吹出し口から送風される熱風の量は、徐々に低下し、熱処理炉内のタイヤコードが受ける熱量も低下することとなる。
【0005】
このため、吹出し口などを含む送風装置の定期的な清掃を怠ると、タイヤコードが充分に熱処理されずに、熱処理ならびに接着剤処理後のタイヤコード(いわゆるDip反)が、求められる物性を得ることができなくなるといった問題があった。
【0006】
この問題を回避するためには、定期的な送風装置の清掃が欠かせないが、送風装置の清掃間隔と、タイヤコード(Dip反)の物性との関係が明確でないため、タイヤコード(Dip反)に求められる物性を確保しつつ、吹出し口などの清掃間隔を最大限に延ばすことができないといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、タイヤコード(Dip反)に求められる物性を確保しつつ、熱処理炉内の送風装置の最適な清掃タイミングを認識させることができるタイヤコード熱処理判定装置、タイヤコード熱処理判定方法及びタイヤコード熱処理判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴は、空気入りタイヤに用いられる撚り繊維コードであるタイヤコード(タイヤコード20)が、熱処理炉(熱処理炉10)において、熱風(熱風W)によって正常に熱処理が施されているかを判定するタイヤコード熱処理判定装置(タイヤコード熱処理判定コンピュータ150)であって、前記熱処理炉に設けられている温度測定器の状態に基づいて、前記熱処理炉内の雰囲気温度を検出する雰囲気温度検出部(雰囲気温度検出部151)と、前記雰囲気温度検出部によって検出された前記雰囲気温度に基づいて、前記タイヤコードの熱処理中における前記タイヤコードの最高温度(最高温度TMAX)を含む最高温度範囲(最高温度範囲RMAX)に、前記タイヤコードの温度が保持される保持時間(保持時間PMAX)を推定する保持時間推定部(タイヤコード温度推定部155)と、前記保持時間推定部によって推定された前記保持時間が所定の閾値を下回った場合、前記保持時間が所定の閾値を下回ったことを報知する報知部(報知部157)とを備えることを要旨とする。
【0009】
このような特徴によれば、熱処理炉内の雰囲気温度に基づいて、タイヤコードの熱処理中において、タイヤコードの最高温度を含む最高温度範囲にタイヤコードの温度が保持される保持時間が推定される。
【0010】
ここで、発明者は、熱処理ならびに接着剤処理後のタイヤコード(Dip反)の物性は、熱処理されることによって到達するタイヤコードの最高温度と、その保持時間とによって決まるとの知見に基づいて、当該保持時間を推定することとしたのである。
【0011】
すなわち、このような特徴によれば、推定した保持時間に基づいて、タイヤコード(Dip反)に求められる物性を確保できるか否かが判定可能となる。
【0012】
また、当該保持時間が所定の閾値を下回った場合、その旨が報知されるため、熱処理炉の運転操作者などに、熱処理炉内の送風装置の最適な清掃タイミングを認識させることができる。
【0013】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記雰囲気温度検出部は、複数の前記温度測定器(例えば、熱電対131〜138)によって、複数の前記雰囲気温度を検出し、前記保持時間推定部は、少なくとも、複数の前記雰囲気温度のデータを用いた有限要素法にしたがった演算によって、前記保持時間を推定することを要旨とする。
【0014】
本発明の第3の特徴は、空気入りタイヤに用いられる撚り繊維コードであるタイヤコードが、熱処理炉において、熱風によって正常に熱処理が施されているかを判定するタイヤコード熱処理判定方法であって、前記熱処理炉に設けられている温度測定器の状態に基づいて、前記熱処理炉内の雰囲気温度を検出するステップと、前記検出するステップにおいて検出された前記雰囲気温度に基づいて、前記タイヤコードの熱処理中における前記タイヤコードの最高温度を含む最高温度範囲に、前記タイヤコードの温度が保持される保持時間を推定するステップと、前記推定するステップにおいて推定された前記保持時間が所定の閾値を下回った場合、前記保持時間が所定の閾値を下回ったことを報知するステップとを備えることを要旨とする。
【0015】
本発明の第4の特徴は、本発明の第3の特徴に係り、前記雰囲気温度を検出するステップでは、複数の前記温度測定器によって、複数の前記雰囲気温度を検出し、
前記保持時間を推定するステップでは、少なくとも、前記雰囲気温度のデータを用いた有限要素法にしたがった演算によって、前記保持時間を推定することを要旨とする。
【0016】
本発明の第5の特徴は、空気入りタイヤに用いられる撚り繊維コードであるタイヤコードが、熱処理炉において、熱風によって正常に熱処理が施されているかを判定するタイヤコード熱処理判定プログラムであって、コンピュータに、前記熱処理炉に設けられている温度測定器の状態に基づいて、前記熱処理炉内の雰囲気温度を検出する雰囲気温度検出手順と、前記雰囲気温度検出手順において検出された前記雰囲気温度に基づいて、前記タイヤコードの熱処理中における前記タイヤコードの最高温度を含む最高温度範囲に、前記タイヤコードの温度が保持される保持時間を推定する保持時間推定手順と、前記保持時間推定手順において推定された前記保持時間が所定の閾値を下回った場合、前記保持時間が所定の閾値を下回ったことを報知する報知手順と
を実行させることを要旨とする。
【0017】
本発明の第6の特徴は、本発明の第5の特徴に係り、前記雰囲気温度検出手順では、複数の前記温度測定器によって、複数の前記雰囲気温度を検出し、前記保持時間推定手順では、少なくとも、複数の前記雰囲気温度のデータを用いた有限要素法にしたがった演算によって、前記保持時間を推定することを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の特徴によれば、タイヤコード(Dip反)に求められる物性を確保しつつ、熱処理炉内の送風装置の最適な清掃タイミングを認識させることができるタイヤコード熱処理判定装置、タイヤコード熱処理判定方法及びタイヤコード熱処理判定プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0020】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0021】
(タイヤコード熱処理判定装置を含む熱処理炉の概略構成)
図1は、本実施形態の係るタイヤコード熱処理判定装置を含む熱処理炉の全体概略構成を示している。同図に示すように、熱処理炉10には、タイヤコード20を熱風Wによって熱処理を施すために用いられる送風装置100が設けられている。
【0022】
送風装置100は、LPGや灯油を燃料としたバーナー(不図示)によって加熱された空気である熱風Wをノズル口101から送風する。
【0023】
ノズル口101から送風された熱風Wは、タイヤコード20を加熱した後、循環ダクト110を介して、送風装置100のノズル口101側に戻され、バーナーによって再び加熱される。
【0024】
タイヤコード20は、自動車用の空気入りタイヤなどに用いられる有機繊維(例えば、PET繊維)の撚り繊維コードであり、ゴムとの接着性を確保するために、高温(例えば、240℃)で一定時間(例えば、80秒)加熱される。
【0025】
タイヤコード20は、送りローラ30A〜30Eによって、一定速度で矢印ARの方向に熱風Wを受けながら移動させられる。
【0026】
タイヤコード熱処理判定コンピュータ150(タイヤコード熱処理判定装置)は、熱処理炉10内の雰囲気温度に基づいて、タイヤコード20の温度を推定し、タイヤコード20が所定の温度で一定時間加熱されているか否かを判定するものである。
【0027】
具体的には、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、熱処理炉10に設置されている熱電対131〜138(図1において不図示、図2(a)及び(b)参照)と接続されており、熱電対131〜138(温度測定器)の状態に基づいて、タイヤコード20の温度を推定する。
【0028】
また、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、タイヤコード20が所定の温度で一定時間加熱されていないと判定した場合、その旨を熱処理炉10の運転操作者などに報知する。
【0029】
熱処理炉10の運転操作者などは、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150による当該報知に基づいて、送風装置100を清掃し、ノズル口101などに付着したスケールなどのゴミを除去する。
【0030】
図2(a)は、図1に示した熱処理炉10内に設置されている送風装置100(循環ダクト110を含む)及び送りローラ30A〜30Eを模式的に示した平面図である。また、図2(b)は、図2(a)に示したF2B方向からの矢視図である。
【0031】
熱電対131〜138は、図2(a)に示すように、送りローラ30A〜30Eの端部近傍に設置されている。また、熱電対131〜138は、図2(b)に示すように、送りローラ30A〜30Eによって蛇行させられるタイヤコード20に沿って、約10mごとに設置されている。なお、熱電対131〜138の設置位置は、送りローラ30A〜30Eの端部近傍ではなく、例えば、各送りローラの間に設置してもよい。
【0032】
(タイヤコード熱処理判定装置の論理ブロック構成)
図3は、本実施形態において、タイヤコード熱処理判定装置を構成するタイヤコード熱処理判定コンピュータ150の論理ブロック構成図である。
【0033】
同図に示すように、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、雰囲気温度検出部151、情報入力部153、タイヤコード温度推定部155及び報知部157を備えている。
【0034】
雰囲気温度検出部151は、熱電対131〜138(温度測定器)の状態に基づいて、熱処理炉10内の雰囲気温度を検出するものである。
【0035】
具体的には、雰囲気温度検出部151は、熱電対131〜138の状態に基づいて、熱処理炉10内における複数の位置における雰囲気温度を検出し、検出した複数の雰囲気温度のデータをタイヤコード温度推定部155に出力する。
【0036】
情報入力部153は、熱処理炉10の運転操作者などに、情報を入力させるものである。また、情報入力部153は、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150と接続される他のコンピュータから情報を入力させることもできる。
【0037】
例えば、情報入力部153には、熱処理炉10内において熱処理が施されるタイヤコード20の種別や、タイヤコード20を構成する物質の熱伝達係数などが入力される。
【0038】
タイヤコード温度推定部155は、雰囲気温度検出部151によって出力された熱処理炉10内における複数の位置における雰囲気温度に基づいて、タイヤコード20の温度を推定するものである。
【0039】
具体的には、タイヤコード温度推定部155は、雰囲気温度検出部151によって出力された雰囲気温度のデータに基づいて、タイヤコード20の熱処理中におけるタイヤコード20の最高温度TMAXを含む最高温度範囲RMAXにタイヤコード20の温度が保持される保持時間PMAXを推定する(図5参照)。なお、本実施形態において、タイヤコード温度推定部155は、保持時間推定部を構成する。
【0040】
タイヤコード温度推定部155は、少なくとも、複数の雰囲気温度のデータを用いた有限要素法(FEM)にしたがった演算によって、最高温度範囲RMAX(例えば、220〜250℃)の保持時間PMAXを推定する。
【0041】
また、タイヤコード温度推定部155は、情報入力部153を用いて入力されたタイヤコード20の種別や、タイヤコード20を構成する物質の熱伝達係数を加えて、保持時間PMAXを演算することもできる。
【0042】
具体的には、試験環境において、熱電対に巻き付けられたタイヤコード20に熱風Wを当て、タイヤコード20の温度推移を実測する。次いで、FEMを用いて、タイヤコード20の温度推移(熱伝達係数)のプログラムを構築する。
【0043】
さらに、空気、タイヤコード20の比熱、熱伝導率、密度などの物性、熱処理炉10の構造、Dip反の構造、タイヤコード20の送り速度、温度などの条件、及び試験環境において測定されたタイヤコード20の熱伝達係数のデータを、当該プログラムを実行するタイヤコード温度推定部155に提供し、タイヤコード20の温度推移が推定される。
【0044】
報知部157は、タイヤコード温度推定部155によって判定された保持時間PMAXが所定の閾値(例えば、45秒)を下回った場合、保持時間PMAXが所定の閾値を下回ったことを報知するものである。
【0045】
具体的には、報知部157は、警報器を備え、保持時間PMAXが所定の閾値を下回った場合、当該警報器を鳴動させる。
【0046】
また、報知部157は、警報器に限らず、警報ランプを点灯させたり、保持時間PMAXが所定の閾値を下回ったことを通信ネットワーク(不図示)を介して接続することができる他のコンピュータ装置(PDAや携帯電話端末を含む)に通知したりすることもできる。
【0047】
(タイヤコード熱処理判定装置の動作)
次に、上述したタイヤコード熱処理判定コンピュータ150の動作について説明する。図4は、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150の動作フローを示している。
【0048】
同図に示すように、ステップS10において、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、熱電対131〜138を用いて、熱処理炉10内における複数の位置について、雰囲気温度のデータを取得する。
【0049】
ステップS20において、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、タイヤコード20の温度を演算する。上述したように、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、空気、タイヤコード20の比熱、熱伝導率、密度などの物性、熱処理炉10の構造、Dip反の構造、タイヤコード20の送り速度、温度などの条件、及び試験環境において測定されたタイヤコード20の熱伝達係数のデータに基づいて、タイヤコード20の熱処理中におけるタイヤコード20の最高温度TMAXを含む最高温度範囲RMAX(例えば、220〜250℃)に、タイヤコード20の温度が保持される保持時間PMAXを推定する(図5参照)。
【0050】
具体的には、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、熱電対131〜138を用いて取得した熱処理炉10内における複数の位置の雰囲気温度に基づいて、要素(例えば、熱電対131,132,133を用いて取得した雰囲気温度)を決定する。
【0051】
さらに、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、当該要素ごとに、雰囲気温度及びタイヤコード20を構成する物質の熱伝達係数(タイヤコード20の種別を含んでもよい)を用いて、保持時間PMAXを演算する。
【0052】
ステップS30において、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、演算した保持時間PMAXが許容範囲内、つまり、保持時間PMAXが所定の閾値(例えば、45秒)を下回っているか否かを判定する。
【0053】
保持時間PMAXが許容範囲である場合(ステップS30のYES)、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、ステップS10からの処理を繰り返す。
【0054】
保持時間PMAXが許容範囲でない場合(ステップS30のNO)、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、警報器(または警報ランプ)によって、保持時間PMAXが許容範囲でないこと、つまり、熱処理炉10に異常があることを報知する。
【0055】
例えば、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150は、図5に示すグラフにおいて、タイヤコード20の温度の推移が点線に示すような状態となった場合、熱処理炉10に異常があることを報知する。
【0056】
ステップS40による報知によって、保持時間PMAXが許容範囲でないことを認識した熱処理炉10の運転操作者は、送風装置100を清掃し、ノズル口101などに付着したスケールなどのゴミを除去する。
【0057】
(作用・効果)
以上説明したタイヤコード熱処理判定コンピュータ150によれば、熱処理炉10内の雰囲気温度に基づいて、タイヤコード20の熱処理中において、タイヤコード20の最高温度TMAXを含む最高温度範囲RMAXにタイヤコード20の温度が保持される保持時間PMAXが推定される。
【0058】
すなわち、熱処理ならびに接着剤処理後のタイヤコード20(Dip反)の物性は、熱処理されることによって到達するタイヤコード20の最高温度TMAXと、保持時間PMAXとによって決まるため、推定した保持時間PMAXに基づいて、タイヤコード20(Dip反)に求められる物性を確保できるか否かが判定可能となる。
【0059】
また、保持時間PMAXが所定の閾値を下回った場合、その旨が報知されるため、熱処理炉10の運転操作者などに、熱処理炉10内の送風装置100の最適な清掃タイミングを認識させることができる。
【0060】
また、タイヤコード熱処理判定コンピュータ150によれば、推定した保持時間PMAXに基づいて、タイヤコード20(Dip反)に求められる物性を確保できるか否かが判定可能となる。このため、熱処理後のタイヤコード20(Dip反)の物性を直接確認する必要がなく、当該確認に伴うタイヤコード20の熱処理の中断を回避することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0062】
例えば、上述した本発明の実施形態では、タイヤコード20を構成する物質の熱伝達係数やタイヤコード20の種別を用いて、最高温度TMAXを含む最高温度範囲RMAXにタイヤコード20の温度が保持される保持時間PMAXを推定する形態としたが、さらに、他のデータ(例えば、季節や日ごとの外気温の推移データ)を加えて、保持時間PMAXを推定してもよい。当該データを用いれば、タイヤコード20の熱処理の時期によらず、タイヤコード20(Dip反)が、求められる物性を確保しているか否かを、さらに正確に判定することができる。
【0063】
上述した本発明の実施形態では、熱処理炉10内の雰囲気温度を測定する温度測定器として、熱電対131〜138を用いる形態としたが、熱電対に代えて、例えば、赤外線温度計などを用いてもよい。また、上述した本発明の実施形態では、複数の熱電対(温度測定器)を用いる形態としたが、温度測定器は必ずしも複数用いなくてもよい。
【0064】
さらに、上述した本発明の実施形態では、有限要素法(FEM)を用いて保持時間PMAXを推定する形態としたが、保持時間PMAXの推定には、必ずしも有限要素法を用いなくてもよい。
【0065】
また、上述したタイヤコード熱処理判定コンピュータ150の論理ブロックを構成する雰囲気温度検出部151、情報入力部153、タイヤコード温度推定部155及び報知部157の機能は、CD−ROMなどの記録媒体よる提供や、通信ネットワークを介した提供が可能なプログラムとしても提供することができる。
【0066】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係るタイヤコード熱処理判定装置を含む熱処理炉の全体概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る熱処理炉内に設置されている送風装置及び送りローラを模式的に示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係るタイヤコード熱処理判定装置の論理ブロック構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係るタイヤコード熱処理判定装置の動作フロー図である。
【図5】本発明の実施形態に係るタイヤコードの最高温度、最高温度範囲及び保持時間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
10…熱処理炉、20…タイヤコード、30A〜30E…送りローラ、100…送風装置、101…ノズル口、110…循環ダクト、131〜138…熱電対、150…タイヤコード熱処理判定コンピュータ、151…雰囲気温度検出部、153…情報入力部、155…タイヤコード温度推定部、157…報知部、RMAX…最高温度範囲、TMAX…最高温度、PMAX…保持時間、W…熱風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤに用いられる撚り繊維コードであるタイヤコードが、熱処理炉において、熱風によって正常に熱処理が施されているかを判定するタイヤコード熱処理判定装置であって、
前記熱処理炉に設けられている温度測定器の状態に基づいて、前記熱処理炉内の雰囲気温度を検出する雰囲気温度検出部と、
前記雰囲気温度検出部によって検出された前記雰囲気温度に基づいて、前記タイヤコードの熱処理中における前記タイヤコードの最高温度を含む最高温度範囲に、前記タイヤコードの温度が保持される保持時間を推定する保持時間推定部と、
前記保持時間推定部によって推定された前記保持時間が所定の閾値を下回った場合、前記保持時間が所定の閾値を下回ったことを報知する報知部と
を備えるタイヤコード熱処理判定装置。
【請求項2】
前記雰囲気温度検出部は、複数の前記温度測定器によって、複数の前記雰囲気温度を検出し、
前記保持時間推定部は、少なくとも、複数の前記雰囲気温度のデータを用いた有限要素法にしたがった演算によって、前記保持時間を推定する請求項1に記載のタイヤコード熱処理判定装置。
【請求項3】
空気入りタイヤに用いられる撚り繊維コードであるタイヤコードが、熱処理炉において、熱風によって正常に熱処理が施されているかを判定するタイヤコード熱処理判定方法であって、
前記熱処理炉に設けられている温度測定器の状態に基づいて、前記熱処理炉内の雰囲気温度を検出するステップと、
前記検出するステップにおいて検出された前記雰囲気温度に基づいて、前記タイヤコードの熱処理中における前記タイヤコードの最高温度を含む最高温度範囲に、前記タイヤコードの温度が保持される保持時間を推定するステップと、
前記推定するステップにおいて推定された前記保持時間が所定の閾値を下回った場合、前記保持時間が所定の閾値を下回ったことを報知するステップと
を備えるタイヤコード熱処理判定方法。
【請求項4】
前記雰囲気温度を検出するステップでは、複数の前記温度測定器によって、複数の前記雰囲気温度を検出し、
前記保持時間を推定するステップでは、少なくとも、前記雰囲気温度のデータを用いた有限要素法にしたがった演算によって、前記保持時間を推定する請求項3に記載のタイヤコード熱処理判定方法。
【請求項5】
空気入りタイヤに用いられる撚り繊維コードであるタイヤコードが、熱処理炉において、熱風によって正常に熱処理が施されているかを判定するタイヤコード熱処理判定プログラムであって、
コンピュータに、
前記熱処理炉に設けられている温度測定器の状態に基づいて、前記熱処理炉内の雰囲気温度を検出する雰囲気温度検出手順と、
前記雰囲気温度検出手順において検出された前記雰囲気温度に基づいて、前記タイヤコードの熱処理中における前記タイヤコードの最高温度を含む最高温度範囲に、前記タイヤコードの温度が保持される保持時間を推定する保持時間推定手順と、
前記保持時間推定手順において推定された前記保持時間が所定の閾値を下回った場合、前記保持時間が所定の閾値を下回ったことを報知する報知手順と
を実行させるタイヤコード熱処理判定プログラム。
【請求項6】
前記雰囲気温度検出手順では、複数の前記温度測定器によって、複数の前記雰囲気温度を検出し、
前記保持時間推定手順では、少なくとも、複数の前記雰囲気温度のデータを用いた有限要素法にしたがった演算によって、前記保持時間を推定する請求項5に記載のタイヤコード熱処理判定プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−225799(P2006−225799A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41160(P2005−41160)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】