説明

タイヤコード用ディップ液の供給装置、及び供給方法

【課題】簡易な構造で安価、かつ確実にディップ液を定量供給できるタイヤコード用ディップ液の供給装置、及びディップ液の供給方法を提供する。
【解決手段】ディップ液10を貯留するディップ液供給タンク21と、供給タンク21の低位に配置されタイヤコードをディップ処理するディップ浴11と、供給タンク21からディップ浴11にディップ液10を供給するための供給管22とを備えたタイヤコード用ディップ液の供給装置2において、ディップ浴11は大気圧に開放され、供給管22はディップ浴11内にディップ液10を供給するための吐出口23を有し、吐出口23がディップ浴11内のディップ液面15の設定高さの位置に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤコード用ディップ液の供給装置、及びその供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの補強材として使用されるナイロン、ポリエステル等の有機繊維タイヤコードは、耐久性、耐摩耗性等のタイヤ性能を維持、向上する上で、ゴム材料との接着性やコード特性が重要である。これらのコード特性を付与するために、接着処理液(ディップ液)に生コードを浸漬した後熱処理を施す、いわゆる接着熱処理が行われ、処理時の温度、張力および時間の条件設定、ヒートセットゾーンとノルマライジングゾーンの設置等によりコードの接着性の向上、高強度化、低収縮化等のコード特性の調整が図られている。
【0003】
従来より知れているディップ液は、例えばレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合体/ゴムラテックス混合液(RFL)等からなるものが一般的であり、接着熱処理としては、図1に示す接着熱処理装置(ディッピングマシン)30により、まず、ポリエステル等の有機繊維の生コードCをディップ液を貯留したディップ浴31中で浸漬処理した後、乾燥ゾーン32において処理温度を150〜180℃とし、処理時間を30〜120秒としてコードに浸透した接着剤液を乾燥させ、次いで、コード30をヒートセットゾーン33およびノルマライジングゾーン34に通し、例えば処理温度を200〜250℃、処理時間を30〜120秒で一定張力下にて処理し、接着性とコード特性を調整した処理コードPを得ていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記ディップ液を貯留するディップ浴には、所定液量のディップ液を貯留しておくために、従来は液量のチェックを頻繁に行いディップ液を手動により追加する、或いは自動液面センサーからの信号によりポンプを作動させディップ液を自動的に供給していたが、人手による煩雑な液量管理やチェック漏れによる液不足、或いはディップ液過付着等の不具合発生、また高価な自動液面センサーやそれを制御する複雑な電気設備を要していた。
【特許文献1】特開平5−339838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑み、簡易な構造で安価、かつ確実にディップ液を定量供給でき、さらには、液供給量の設定が任意かつ簡易に行え、連続的に確実な定量供給によりディップ浴内のディップ液量を制御することができるタイヤコード用ディップ液の供給装置、及びディップ液の供給方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、ディップ液を貯留するディップ液供給タンクと、前記供給タンクの低位に配置されタイヤコードをディップ処理するディップ浴と、前記供給タンクから前記ディップ浴に前記ディップ液を供給するための供給管とを備えたタイヤコード用ディップ液の供給装置において、前記ディップ浴は大気圧に開放され、前記供給管は前記ディップ浴内に前記ディップ液を供給するための吐出口を有し、前記吐出口が前記ディップ浴内のディップ液面設定高さの位置に配されていることを特徴とするタイヤコード用ディップ液の供給装置である。
【0007】
上記タイヤコード用ディップ液の供給装置において、前記吐出口が前記供給管の下端部に開けられた開口とすることができる。また、前記吐出口が前記供給管の途中の側壁に開けられた開口からなるものでもよい。さらに、前記供給管の途中の側壁と下端部に開けられた開口を有するものでもよい。
【0008】
請求項5に記載の発明は、ディップ液を貯留するディップ液供給タンクと、前記供給タンクの低位に配置されタイヤコードをディップ処理するディップ浴と、前記供給タンクから前記ディップ浴に前記ディップ液を供給するための供給管とを備えたタイヤコード用ディップ液の供給装置において、前記ディップ浴は大気圧に開放され、前記供給管末端と着脱自在である管体が前記ディップ浴内の縦方向に配置され、前記管体は前記ディップ浴内に前記ディップ液を供給するための吐出口を有し、前記吐出口が前記ディップ浴内のディップ液面設定高さの位置に配されていることを特徴とするタイヤコード用ディップ液の供給装置である。
【0009】
上記タイヤコード用ディップ液の供給装置において、前記吐出口が前記管体の下端部に開けられた開口とすることができる。また、前記吐出口が前記管体の途中の側壁に開けられた開口からなるものでもよい。さらに、前記管体の途中の側壁と下端部に開けられた開口を有するものでもよい。
【0010】
請求項9に記載の発明は、前記のタイヤコード用ディップ液の供給装置を用いて、前記ディップ浴内のディップ液面が前記供給管に開口した吐出口に達すると該吐出口からのディップ液の吐出を停止し、該ディップ浴内のディップ液面が前記吐出口より低下すると該吐出口からディップ液を吐出することで、前記供給タンクから前記ディップ浴にディップ液を自動的に供給し、かつ、該ディップ浴内のディップ液量を前記吐出口を開口した液面高さに維持することを特徴とするタイヤコード用ディップ液の供給方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高価な部品を用いることなく簡易な構造で安価、かつ確実にディップ液を定量供給でき、さらには、ディップ浴内の液面高さの設定が任意かつ簡易に行え、連続的に確実な定量供給が可能となり、自動的にディップ浴内のディップ液量を常に一定に制御しタイヤコードの接着処理を安定に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。本実施形態においては、シングルコード(1本の生コード)のディップ処理例により本発明を説明するが、すだれ織物からなる場合も、ディップ浴の処理幅を拡張することによって実施することができる。
【0013】
図2は、有機繊維タイヤコードの接着熱処理工程において、接着処理液(ディップ液)を生コードCに塗布するディッピング工程1を示し、ディップ液10の液面を一定高さに維持し、清掃がしやすい構造を持つディップ浴11と、生コードCをディップ浴11に導くコード供給用ロール12、ディップ液を生コードCに塗布するための塗布用ロール13、過付着のディップ液10を除去するためのゴムや樹脂で表面被覆された絞りロール14とで構成され、ディップ液が塗布された生コードは図1に示す従来のディッピングマシン30に設けられた乾燥ゾーン32、ヒートセットゾーン33およびノルマライジングゾーン34に送られ熱処理される。
【0014】
図3は、第1実施形態のタイヤコード用ディップ液の供給装置2(以下、単に供給装置と言うことがある)を示し、図3においては、上記の生コードC、供給用ロール12、塗布用ロール13、絞りロール14は図示を省略している。
【0015】
供給装置2は、ディップ液10を貯留する供給タンク21と、この供給タンク21よりも低位に配置されたディップ浴11と、供給タンク21からディップ浴11にディップ液10を供給するために供給タンク21とディップ浴11とを連結する供給管22とで構成されている。なお、供給管22の材質は、金属、樹脂、ゴム製などから選択でき、その設置形態は固定式でも移動式でもよい。
【0016】
ディップ浴11は大気圧に開放され、図に示すように上面が全面的に開放されたものでも、上蓋などを備えて一部が開放されたものでもよい。
【0017】
供給管22は供給タンク21に貯留されたディップ液10を、ディップ浴11内のディップ液10の消費に応じてディップ浴11に供給する。供給タンク21とディップ浴11の間に開閉弁Bを設けてもよい。
【0018】
供給管22のディップ浴側の下端部は、ディップ液10をディップ浴11内に吐出する吐出口23を開口している。吐出口23のディップ浴11内での設定位置は、所望のディップ液面15の高さにより、任意の位置に設定することができる。すなわち、供給管22のディップ浴11内での配置をタンク11内で上下に移動することで、吐出口23が移動しディップ液面高さを任意に設定することができる。また、供給管22の配置をタンク11内で固定して使用してもよい。
【0019】
ディッピング処理中にディップ浴11中のディップ液10が消費され、液面15が吐出口23よりも低下すると、供給タンク21からタンク21内の空気圧とディップ液10の自重により供給管22を経て送られてくるディップ液10が吐出口23から自動的に吐出しディップ浴11に供給され、液面15が上昇し吐出口23に達するとディップ液10が吐出口23を覆うことで供給タンク21内が密閉状態となりディップ液10の吐出が自動的に停止する。これにより、ディップ浴11内のディップ液面高さ15を常に所定の高さに維持することができる。
【0020】
また、図4に示す第2の実施形態のように、ディップ液10の吐出口は、供給管22の途中の側壁に開けられた開口からなる吐出口24でもよい。吐出口24は所望の液面高さにより、任意の位置に開口でき、その開口形状は矩形、円形、楕円などが選択でき、限定されることはない。
【0021】
これにより、図5に示す図4の一部拡大斜視図に示すように、ディッピング処理中にディップ浴11中のディップ液10が消費され、液面15が吐出口24の下端24bよりも低下すると、供給タンク21から供給管22を経て送られてくるディップ液10が吐出口24から自動的に吐出し供給され、これにより液面15が上昇し吐出口上端24aに達すると吐出口24からのディップ液10の吐出が自動的に停止し、ディップ浴11内のディップ液面高さ15を常に所定の高さに維持することができる。
【0022】
これは、大気圧の原理を利用したもので、ディップ液10の液面高さを常に吐出口上端24aと下端24bの間に維持することができる。
【0023】
また、供給管22の延長部26をディップ浴11内の底部に突き当たるように配してもよい。この場合、吐出口24のディップ浴11内での上下位置が決まることで、所定のディップ液面高さを得ることができる。逆に、延長部26をディップ浴11内の底部に突き当てた状態で吐出口24の開口位置を変更することで任意の液面高さを選択することもできる。
【0024】
さらに、供給管22の延長部26の下端部にディップ液10を吐出する開口部25を設けておいてもよい。開口部25はディップ液10の交換などの際に、空のディップ浴11内にディップ液10を所定の液面15まで予め供給することができる。
【0025】
図6は、第3の実施形態を示し、供給管22の末端22aと着脱自在である管体27が前記ディップ浴11内に固定されたもので、管体27はその下端部にディップ液の吐出口27bを開口している。
【0026】
供給管22と管体27を接続することで、供給管22から管体27にディップ液10が導入され、管体27の下端部に設けられたディップ液吐出口27bからディップ液10をディップ浴11内に供給し、ディップ浴11内のディップ液面15を吐出口27bの高さに維持することができる。
【0027】
この管体27は、例えばディップ浴の側壁に配置され、その吐出口27bを任意に高さとすることができ、またディップ浴11内で上下方向に移動可能としてもよく、もちろん管体27自体の長さは交換可能とすることができる。
【0028】
また、図7は、第4の実施形態を示し、供給管22の末端22aと着脱自在である管体28が前記ディップ浴11内に固定されたもので、管体28はその途中の側壁にディップ液の吐出口29を開口している。
【0029】
この場合も、供給管22と管体28を接続することで、供給管22から管体28にディップ液10が導入され、管体28に開口された吐出口29からディップ液10をディップ浴11内に供給し、ディップ浴11内のディップ液面15を吐出口29の上端と下端の間に維持することができる。
【0030】
さらに、管体28の下端部にディップ液10を吐出する開口部28aを設けておいてもよい。開口部28aはディップ液10の交換などの際に、空のディップ浴11内にディップ液10を所定の液面15まで予め供給することができる。
【0031】
このような管体27、28を使用すると、供給管22の配置操作が容易となりディップ液10をより簡便にディップ浴11に供給することができ、また、ディップ液面15の高さの設定が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明にかかるタイヤコード用ディップ液の供給装置、及び供給方法は、上記実施形態で説明したシングルコード処理装置、複数本のシングルコードを同時処理するコードセッター、すだれ織物を接着熱処理するディッピングマシンに適用することができ、また対象コードとしては、ナイロン、ポリエステルなどの有機繊維の他に、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維コードが挙げられる。得られた処理コードは、各種サイズ、用途に使用される空気入りタイヤのカーカス、ベルト、ベルト補強層、サイド補強層などの補強材に、また各種ゴム製品の補強コードとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ディッピング工程を示す概略図である。
【図2】ディップ浴の概略図である。
【図3】第1実施形態のディップ液の供給装置の概略図である。
【図4】第2実施形態のディップ液の供給装置の概略図である。
【図5】図4における、供給管部分の拡大斜視図である。
【図6】第3実施形態のディップ液の供給装置の概略図である。
【図7】第4実施形態のディップ液の供給装置の概略図である。
【符号の説明】
【0034】
2……タイヤコード用ディップ液の供給装置
10……ディップ液
11……ディップ浴
15……液面高さ
21……供給タンク
22……供給管
23……吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディップ液の供給タンクと、前記供給タンクの低位に配置されタイヤコードをディップ処理するディップ浴と、前記供給タンクから前記ディップ浴に前記ディップ液を供給するための供給管とを備えたタイヤコード用ディップ液の供給装置において、
前記ディップ浴は大気圧に開放され、
前記供給管は前記ディップ浴内に前記ディップ液を供給するための吐出口を有し、
前記吐出口が前記ディップ浴内のディップ液面設定高さの位置に配されている
ことを特徴とするタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項2】
前記吐出口が前記供給管の下端部に開けられた開口からなる
ことを特徴とする請求項1に記載のタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項3】
前記吐出口が前記供給管の途中の側壁に開けられた開口からなる
ことを特徴とする請求項1に記載のタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項4】
前記供給管の下端部に開けられた開口を有する
ことを特徴とする請求項3に記載のタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項5】
ディップ液の供給タンクと、前記供給タンクの低位に配置されタイヤコードをディップ処理するディップ浴と、前記供給タンクから前記ディップ浴に前記ディップ液を供給するための供給管とを備えたタイヤコード用ディップ液の供給装置において、
前記ディップ浴は大気圧に開放され、
前記供給管末端と着脱自在である管体が前記ディップ浴内の縦方向に配置され、
前記管体は前記ディップ浴内に前記ディップ液を供給するための吐出口を有し、
前記吐出口が前記ディップ浴内のディップ液面設定高さの位置に配されている
ことを特徴とするタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項6】
前記吐出口が前記管体の下端部に開けられた開口からなる
ことを特徴とする請求項5に記載のタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項7】
前記吐出口が前記管体の途中の側壁に開けられた開口からなる
ことを特徴とする請求項5に記載のタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項8】
前記管体の下端部に開口を有する
ことを特徴とする請求項7に記載のタイヤコード用ディップ液の供給装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のタイヤコード用ディップ液の供給装置を用いて、
前記ディップ浴内のディップ液面が前記供給管に開口した吐出口に達すると該吐出口からのディップ液の吐出を停止し、該ディップ浴内のディップ液面が前記吐出口より低下すると該吐出口からディップ液を吐出することで、前記供給タンクから前記ディップ浴にディップ液を自動的に供給し、かつ、
該ディップ浴内のディップ液量を前記吐出口を開口した液面高さに維持する
ことを特徴とするタイヤコード用ディップ液の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−68140(P2009−68140A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237923(P2007−237923)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】