説明

タイヤコード被覆用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】タイヤコードとの接着性能、ゴム強度及び燃費性能をバランス良く得られるタイヤコード被覆用ゴム組成物、該ゴム組成物を用いたカーカス及びバンド、並びに該カーカス及び/又はバンドを有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴムの主鎖に水酸基が直接結合した改質天然ゴム、酸化亜鉛及び硫黄を含むタイヤコード被覆用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤコード被覆用ゴム組成物、カーカス、バンド及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用タイヤには大きな荷重がかかるため、補強材としてスチールコード、テキスタイルコードなどのタイヤコード(カーカスコード、バンドコード等)が用いられている。特に走行中にタイヤが発熱することによって、ゴムとタイヤコードとが剥離すると、致命的なタイヤ故障の原因となる。このため、タイヤコードを被覆するゴム組成物には、高いゴム強度と、タイヤコードとの強い接着性が要求される。
【0003】
一方、近年、地球環境保全に対する関心が高まり、自動車産業では、タイヤの低燃費性向上への要求が厳しくなっているが、タイヤの低燃費化は主にトレッドゴムのみ着目され、他のコンポーネントの低燃費化は疎かにされてきたため、カーカス、バンド等の他の部材に対しても低燃費化が要求されている。また、石油資源には限りがあるため、現在使用されている石油資源由来の原材料の一部又は全部を石油外資源由来の原材料に代替することも要求されており、例えば、特許文献1〜3には、燃費性能等の改善を目的としたエポキシ化天然ゴム、カーボン及びシリカなどを含むタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。しかし、強い接着性と高いゴム強度が要求されるタイヤコード被覆用ゴム組成物への適用は検討されていない。
【0004】
従来からタイヤコード被覆用ゴム組成物には、一般に、ゴム成分として天然ゴム及び/又はイソプレンゴム、並びに乳化重合スチレンブタジエンゴム、補強剤としてカーボンブラックが使用されているため、低燃費性に劣るという問題がある。一般に、低燃費性を向上させるために、補強剤としてカーボンブラックの代わりにシリカを使用する手法が知られているが、この手法を用いるとコードとの接着性が悪化するという問題がある。この問題に対し、特許文献4には、分子鎖末端をシリカとの相互作用を有する構造に変性した溶液重合スチレンブタジエンゴムを用いることで低燃費性能と接着性能を両立させる方法が開示されている。しかし、スチレンブタジエンゴムの分子鎖末端の変性が検討されているにすぎず、天然ゴムの変性については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−246712号公報
【特許文献2】特開2004−182905号公報
【特許文献3】特開2006−199858号公報
【特許文献4】特開2007−145898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、タイヤコードとの接着性能、ゴム強度及び燃費性能をバランス良く得られるタイヤコード被覆用ゴム組成物、該ゴム組成物を用いたカーカス及びバンド、並びに該カーカス及び/又はバンドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、天然ゴムの主鎖に水酸基が直接結合した改質天然ゴム、酸化亜鉛及び硫黄を含むタイヤコード被覆用ゴム組成物に関する。
上記改質天然ゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中、5質量%以上であり、上記ゴム成分100質量部に対して、上記酸化亜鉛の含有量が4〜15質量部、上記硫黄の含有量が2.5質量部以上であることが好ましい。
【0008】
上記改質天然ゴムが下記式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構成単位の少なくとも1つを有することが好ましい。
【化1】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。)
【0009】
上記改質天然ゴムがエポキシ基を有することが好ましい。
上記改質天然ゴムが下記式(5)で表される構成単位を有することが好ましい。
【化2】

(式中、xは1以上の整数である。)
【0010】
上記改質天然ゴムの水酸基の含有量が、イソプレンユニットに対して、0.5〜25モル%であることが好ましい。
更に、上記タイヤコードがテキスタイルコードであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記ゴム組成物をカーカスコードに被覆したカーカスに関する。
本発明はまた、上記ゴム組成物をバンドコードに被覆したバンドに関する。
本発明は更に、上記カーカス及び/又は上記バンドを用いて作製したタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化亜鉛及び硫黄を含むタイヤコード被覆用ゴム組成物において、天然ゴムの主鎖に水酸基が直接結合した改質天然ゴムを配合しているので、タイヤコードとの接着性能、ゴム強度及び燃費性能のすべての性能をバランス良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<タイヤコード被覆用ゴム組成物>
本発明のタイヤコード被覆用ゴム組成物は、天然ゴムの主鎖に水酸基が直接結合した改質天然ゴム(水酸基化天然ゴム)、酸化亜鉛及び硫黄を含有する。ゴム成分として、主鎖に水酸基を直接結合させた天然ゴムを使用しているので、該水酸基によってタイヤコードとの接着性能を向上させることができる。また、該水酸基によってシリカ等のフィラーと天然ゴムとの相互作用が強まり、その相互作用によってフィラーの分散性が向上するため、高いゴム強度と優れた燃費性能が得られる。このため、本発明では、コードとの接着性能を改善できるとともに、優れたゴム強度及び燃費性能も得られ、これらの性能をバランス良く得ることができる。
【0014】
改質天然ゴムの水酸基の含有量(水酸基化率:天然ゴムのイソプレンユニットに対して水酸基が結合した割合)は、0.5モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、該水酸基化率は、25モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましい。0.5モル%未満であると、接着性能改善効果や燃費性能の低減効果が見られず、25モル%を超えると加工性が悪化する傾向が見られる。
【0015】
改質天然ゴムはエポキシ基を有するものが好ましい。改質天然ゴムのエポキシ化率(天然ゴムのイソプレンユニットに対するエポキシ基の割合)は、5モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。また、該エポキシ化率は、40モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましい。5モル%未満であると、接着性能の改善効果が少なく、40モル%を超えると、燃費性能の低減効果が小さくなる傾向がある。
【0016】
上記改質天然ゴムは、上記式(1)、(2)、(3)及び(4)からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を有することが好ましい。これにより、タイヤコードとの接着性能を改善できる。また、フィラーと天然ゴムの相互作用を高め、フィラーの均一分散を促し、ゴム強度及び燃費性能をバランス良く改善できる。更に、上記改質天然ゴムは、上記式(5)で表される構成単位を有することが好ましい。これにより、上記接着性能をより改善できる。また、上記相互作用、均一分散の作用効果をより高め、ゴム強度及び燃費性能をバランス良く改善できる。
【0017】
本発明における改質天然ゴムは、アミン類により修飾されていないもの(例えば、主鎖にアミン類が結合していないもの)であってもよい。
なお、上記改質天然ゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
改質天然ゴム(水酸基化天然ゴム、水酸基化エポキシ化天然ゴム)を製造する方法としては特に限定されず、例えば、天然ゴム又はエポキシ化天然ゴムの主鎖に公知の方法で水酸基を導入することにより製造できる。例えば、天然ゴム又はエポキシ化天然ゴムを有機溶媒に溶解させた後、酸触媒及び水を所定量加え、反応溶液を室温以上、反応溶液の還流温度以下に維持しながら反応させることにより調整できる。反応時間は主に酸触媒及び水の添加量、反応温度に影響され、これらの制御により天然ゴム又はエポキシ化天然ゴムの不飽和結合に対する水酸基変性率を制御することが可能である。
【0019】
天然ゴムとしては、RSS#3、TSR20などのゴム業界で一般的に使用されているものを挙げることができる。
また、エポキシ化天然ゴム(ENR)としては、市販のENRを用いてもよいし、天然ゴム(NR)をエポキシ化して用いてもよい。NRをエポキシ化する方法としては特に限定されず、例えば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などの方法を用いて行うことができる(特公平4−26617号公報、特開平2−110182号公報、UK Patent GB2113692、等)。過酸法としては、例えば、NRに過酢酸や過蟻酸などの有機過酸を反応させる方法などが挙げられる。
【0020】
改質天然ゴムの配合量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。5質量%未満であると、接着性能の改善効果や燃費性能の低減効果が得られないおそれがある。また、該配合量は、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0021】
ゴム成分としては、改質天然ゴム以外に、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、などのゴムも併用でき、なかでも、コードとの接着性を十分なものとし、かつ優れた耐熱性を発現させる観点からは、SBRとの混合ゴムを用いることが好ましい。
【0022】
本発明のゴム組成物において、使用できるSBRとしては、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)が挙げられ、なかでも、加工性が良いという点から、E−SBRが好ましい。
【0023】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、タイヤとしての耐久性が低下する傾向がある。また、該スチレン含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。40質量%を超えると、低発熱性が低下する傾向がある。
【0024】
ゴム組成物がSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。10質量%未満であると、タイヤコードとの接着性、タイヤの耐久性が低下する傾向がある。該SBRの含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。40質量%を超えると、低発熱性が低下し、接着性が悪化するとともに、破断応力や破断時伸びが低く、タイヤの耐久性に劣る傾向がある。
【0025】
また、本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴム及びSBRの合計含有量は、好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは100質量%である。85質量%未満であると、低発熱性や接着性が悪化するおそれがある。
【0026】
本発明における酸化亜鉛としては、従来からゴム工業で使用されるものが挙げられ、具体的には、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛1号、2号などが挙げられる。酸化亜鉛は、加硫促進助剤として作用する。
【0027】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは4質量部以上、より好ましくは4.5質量部以上である。4質量部未満では、タイヤコードとの接着性が悪化する傾向がある。また、該含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。15質量部を超えると、酸化亜鉛の配合による効果が得られず、コストアップする傾向がある。
【0028】
本発明では、加硫剤として硫黄が使用される。硫黄としては、従来から公知のものを用いることができ、例えば、鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄、フレキシス社製のクリステックスHSOT20、三新化学工業(株)製のサンフェルEX等を用いることができる。
【0029】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは2.8質量部以上である。2.5質量部未満では、タイヤコードとの接着層に充分な硫黄が供給されず、接着性に劣る傾向がある。また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。10質量部を超えると、硫黄架橋の密度が大きくなり、破断応力や破断時伸びなどのゴム特性が充分に得られない傾向がある。
【0030】
ゴム組成物には、加硫剤とともに加硫促進剤が配合されてもよい。加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。なかでも、架橋反応性に優れる点からスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系化合物等が挙げられる。
【0031】
本発明のゴム組成物には、カーボンブラックを配合してもよい。これにより、ゴムの強度を向上させることができる。また、カーボンブラックを配合した場合、低発熱性に劣るという問題があるが、本発明では、水酸基化天然ゴムを使用しているため、良好な低発熱性も得られる。カーボンブラックは、通常のカーボンブラック製造法により得られる。具体的には、例えば、ファーネス法などの方法において、原料導入量、燃焼用空気導入量、燃焼用空気の酸素含有率、反応温度、反応時間などの因子を適宜調節することにより、調製できる。
【0032】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、65m/g以上がより好ましい。50m/g未満では、ゴム組成物とタイヤコードとの接着性が悪化する傾向がある。また、カーボンブラックのNSAは、150m/g以下が好ましく、130m/g以下がより好ましい。150m/gを超えると、低発熱性が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K6217、7項のA法によって求められる。
【0033】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは4質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。4質量部未満では、ゴム組成物とタイヤコードとの接着性が低下する傾向がある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。80質量部を超えると、ゴム組成物の低発熱性が低下する傾向がある。
【0034】
本発明のゴム組成物には、シリカを配合してもよい。これにより、低発熱性が得られる。また、タイヤコード被覆用ゴム組成物にシリカを配合した場合、コードとの接着性が低下する傾向があるが、本発明では水酸基化天然ゴムを使用しているため、同時に良好な接着性能も得られる。シリカとしては、例えば、乾式法により得られるシリカ(無水ケイ酸)、湿式法により得られるシリカ(含水ケイ酸)等を用いることができ、なかでも、湿式法により得られるシリカを用いることが好ましい。
【0035】
シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、30m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましく、80m/g以上がより好ましい。30m/g未満では、補強効果が小さく、加硫後の破壊強度が低下する傾向がある。また、該窒素吸着比表面積は500m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。500m/gを超えると、加工性が悪化し、また低発熱性が低下する傾向もある。
なお、シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、ASTM−D−4820−93に準拠した方法により測定することができる。
【0036】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上である。20質量部未満では、シリカによる補強性が小さく、タイヤ走行時に路面の凸凹や異物と接触することにより、ゴム組成物が破断するおそれがある。また、該シリカの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、ゴム組成物の低発熱性が低下する傾向がある。
【0037】
また、本発明のゴム組成物において、カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは25質量部以上、より好ましくは35質量部以上である。25質量部未満であると、ゴム組成物とタイヤコードとの接着性が低下する傾向がある。該合計含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは110質量部以下である。150質量部を超えると、ゴム組成物の低発熱性が低下し、更に加工性が悪化する傾向がある。
【0038】
シリカを配合する場合、それとともにシランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては特に制限はなく、従来、タイヤ工業においてシリカと併用されているものが使用でき、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド等のスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン等のニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロ系が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
シランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。1質量部未満では、加硫後のゴム強度が低下してタイヤの耐久性が悪化する傾向がある。また、該シランカップリング剤の含有量は、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。15質量部を超えると、シランカップリング剤配合による効果が得られず、コストアップする傾向がある。
【0040】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、通常ゴム工業で使用される添加剤、例えば、ステアリン酸、各種老化防止剤、ワックス、アロマオイルなどのオイル、などを適宜配合することができる。
【0041】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0042】
本発明のゴム組成物は、カーカスコード、バンドコード等のタイヤコードを被覆するゴム組成物として使用される。具体的には、特開2009−13220号公報の図面等に示されるカーカス、特開平6−270606号公報の図面等に示されるバンドに使用される。
【0043】
<カーカス、バンド及び空気入りタイヤ>
本発明のカーカスは、従来公知の方法により製造でき、例えば、複数のカーカスコードを引き伸ばして並列に配列した状態でカーカスコードの上下に未加硫のタイヤコード被覆用ゴム組成物をトッピングすることにより作製することができる。なお、カーカスコードとしては、従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリエステル等の有機繊維からなるテキスタイルコード(繊維コード)、スチールからなるスチールコード等を用いることができる。また、本発明のバンドも従来公知の方法により製造でき、バンドコードとしても公知のものが使用できる。
【0044】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、前記配合剤を混練りした後、得られた混練物でカーカスコード、バンドコードを被覆し、タイヤ成型機上にて、カーカス、バンド形状に成形し、他のタイヤ各部材と貼りあわせた後、加硫することにより本発明のタイヤを製造することができる。
【0045】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、トラック・バス、及び地球環境保全に対応した低公害車両(エコカー)等に好適に適用できる。
【実施例】
【0046】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0047】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
水酸基化天然ゴムa〜c:下記製造例1で製造
水酸基化エポキシ化天然ゴムA〜C:下記製造例2で製造
天然ゴム(NR):TSR
エポキシ化天然ゴム(ENR25):クンプーランガスリー社(Kumpulan Guthrie Berhad)(マレーシア)製のエポキシ化天然ゴム(エポキシ化率:25%モル)
SBR:乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR):日本ゼオン(株)製のNipol 1502(結合スチレン量:23.5%)
カーボンブラック(1):三菱化学(株)製のダイアブラックH(N330、NSA:79m/g)
カーボンブラック(2):キャボットジャパン(株)製のN220(NSA:120m/g、DBP:114cm/100g)
シリカ:Rhodia社製のZEOSIL 115GR(NSA:115m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製の椿
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0048】
製造例1 水酸基化天然ゴムa〜cの作製
5000mlのガラス反応容器に温度計及びフッ素炭素樹脂羽根の機械攪拌機を取り付けて温度制御可能な浴槽中に設置し、これを反応器とした。トルエンに天然ゴム100質量部を溶解させた後、パラトルエンスルホン酸(酸触媒)及び水をそれぞれ表1に示す量添加した。この反応溶液を攪拌しながら反応溶液の還流温度を保ちつつ、5時間攪拌させた。反応溶液をメタノールにより凝固させて水洗後、50〜60℃で6時間真空乾燥を行うことにより、表1に示す水酸基化率の水酸基化天然ゴムa〜cを得た。
【0049】
製造例2 水酸基化エポキシ化天然ゴムA〜Cの作製
天然ゴムの代わりにENR25(エポキシ化天然ゴム)を用い、パラトルエンスルホン酸(酸触媒)及び水の添加量を表2に示す量に変更した以外は、水酸基化天然ゴムの作製と同様の操作により、表2に示す水酸基化率、エポキシ化率の水酸基化エポキシ化天然ゴムA〜Cを得た。
【0050】
(エポキシ化率、水酸基化率の測定方法)
得られた乾燥ゴムを重水素化クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴(NMR)分光分析により、炭素−炭素二重結合部と脂肪族部の積分値h(ppm)の比から以下の算出式を用いてエポキシ化率を算出した。その変化率と全反射フーリエ変換赤外分光法(ATR−FTIR)による水酸基の吸収ピーク(3400cm−1)の変化率から水酸基化率を算出した。
(エポキシ化率E%)=3×h(2.69)/(3×h(2.69)+3×h(5.14)+h(0.87))×100
調製した水酸基化天然ゴムa〜cの水酸基化率、水酸基化エポキシ化天然ゴムA〜Cの水酸基化率、エポキシ化率を表1〜2に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1、2の結果から、各水酸基化天然ゴム、水酸基化エポキシ化天然ゴムが反応により水酸基化やエポキシ化が施されていることが確認できた。
また、上記分析により、水酸基化天然ゴムa〜cが上記式(1)及び(2)で表される構成単位を有していること、水酸基化エポキシ化天然ゴムA〜Cが上記式(1)、(2)及び(5)で表される構成単位を有していることが観測された。
【0054】
実施例1〜16及び比較例1〜4
<ゴム試験片及び試験用タイヤの作製>
1.7Lバンバリーを用いて、表3〜6に示す配合に従い、硫黄、加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、ロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物(加硫ゴムシート)を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物でテキスタイルコードを被覆し、カーカス形状に成形し、他のタイヤ各部材と貼りあわせて未加硫タイヤを作製した。それを150℃で30分間加硫することにより試験用タイヤを製造した。
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴムシート、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表3〜6に示す。
【0055】
(ゴム強度)
前記加硫ゴムシートを用いて、3号ダンベル型ゴム試験片を作製し、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて引張試験を行い、破断強度(TB)及び破断時伸び(EB)を測定し、その積(TB×EB)を算出した。基準配合(比較例1、2、3又は4)のTB×EBを100とし、下記計算式により、各配合のゴム強度(TB×EB)を指数表示した。なお、ゴム強度指数が大きいほど、ゴム強度に優れることを示す。
(ゴム強度指数)=(各配合のTB×EB)/(基準配合のTB×EB)×100
【0056】
(接着性試験)
前記未加硫ゴム組成物とカーカスコード(テキスタイルコード)とを貼り合わせ、180℃の条件下で40分間加硫し、引張試験機(インストロン社製)を用いて、ゴムとカーカスコードとの間の接着性を目視で評価した。
○:ゴムシートとカーカスコードとの接着性が良好
×:ゴムシートとカーカスコードとの接着性が悪い
【0057】
(転がり抵抗)
転がり抵抗試験機を用いて、前記試験用タイヤを、リム15×6JJ、タイヤ内圧230kPa、荷重3.43kN及び速度80km/hの条件下で走行させたときの転がり抵抗を測定し、基準配合(比較例1、2、3又は4)の転がり抵抗指数を100とし、下記計算式により、各配合の転がり抵抗を指数表示した。なお、転がり抵抗指数が大きいほど、転がり抵抗が低減され、優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(基準配合の転がり抵抗)/(各配合の転がり抵抗)×100
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
表3の結果から、カーボンブラック配合系では、実施例1〜4のように水酸基化天然ゴムを用いると、NR(TSR)を用いた比較例1に比べて、ゴム強度及び転がり抵抗が改善され、接着性能も良好であった。また、表4の結果から、カーボンブラック配合系では、実施例5〜8のように水酸基化エポキシ化天然ゴムを用いると、エポキシ化天然ゴム(ENR25)を用いた比較例2に比べて、高いゴム強度及び優れた接着性能が得られるとともに、転がり抵抗も改善されるという結果が得られた。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
表5の結果から、シリカ配合系でも、実施例9〜12のように水酸基化天然ゴムを用いると、NRを用いた比較例3に比べて、高いゴム強度及び優れた接着性能が得られるとともに、転がり抵抗も改善されるという結果が得られた。また、表6の結果から、シリカ配合系でも、実施例13〜16のように水酸基化エポキシ化天然ゴムを用いると、エポキシ化天然ゴムを用いた比較例4に比べて、高いゴム強度及び優れた接着性能が得られるとともに、転がり抵抗も改善されるという結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムの主鎖に水酸基が直接結合した改質天然ゴム、酸化亜鉛及び硫黄を含むタイヤコード被覆用ゴム組成物。
【請求項2】
改質天然ゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中、5質量%以上であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、酸化亜鉛の含有量が4〜15質量部、硫黄の含有量が2.5質量部以上である請求項1記載のタイヤコード被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
改質天然ゴムが下記式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構成単位の少なくとも1つを有する請求項1又は2記載のタイヤコード被覆用ゴム組成物。
【化1】

(式中、x、yはそれぞれ1以上の整数である。)
【請求項4】
改質天然ゴムがエポキシ基を有する請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤコード被覆用ゴム組成物。
【請求項5】
改質天然ゴムが下記式(5)で表される構成単位を有する請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤコード被覆用ゴム組成物。
【化2】

(式中、xは1以上の整数である。)
【請求項6】
改質天然ゴムの水酸基の含有量が、イソプレンユニットに対して、0.5〜25モル%である請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤコード被覆用ゴム組成物。
【請求項7】
タイヤコードがテキスタイルコードである請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤコード被覆用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物をカーカスコードに被覆したカーカス。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物をバンドコードに被覆したバンド。
【請求項10】
請求項8記載のカーカス及び/又は請求項9記載のバンドを用いて作製したタイヤ。

【公開番号】特開2010−254954(P2010−254954A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274787(P2009−274787)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【特許番号】特許第4538533号(P4538533)
【特許公報発行日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】