説明

タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】優れた加工性および低転がり抵抗を有するタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対し、(A)白色充填剤を5〜150質量部、(B)シランカップリング剤を前記白色充填剤に対して1〜25質量部、および(C)両性界面活性剤を前記白色充填剤に対して1.5〜30質量%配合することを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物と、該ゴム組成物をトレッド(3)に使用した空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、優れた加工性および低転がり抵抗を有するタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費を向上させるため、タイヤは低転がり抵抗であることが求められている。この要求を解決するために、例えばタイヤにシリカのような白色充填剤を配合する手法が知られている。しかしながら白色充填剤をゴム組成物中に均一に分散させるのは一般的に困難であり、また、混練時に粘度が高くなり加工性を悪化させるという問題点がある。例えばシリカは、その粒子表面に存在するシラノール基による水素結合の形成のために凝集する傾向を有し、混練時の粘度の上昇が顕著である。このため、ゴム組成物に白色充填剤を十分な量で配合することができず、所望の低転がり抵抗を得ることが困難であった。
一方、シリカのような白色充填剤の分散性を向上させるために、シランカップリング剤を配合する手法も知られている。しかし、シランカップリング剤を多く配合すると、スコーチ時間が短くなりすぎたり、さらにトレッドの押出性が悪化する。
【0003】
なお、下記特許文献1〜3は、界面活性剤をゴム組成物に配合する技術を開示している。しかしながら、これらの技術はカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤をゴム組成物に添加するものであり、下記で説明する本発明のように両性界面活性剤を使用するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−275311号公報
【特許文献2】特許第3865900号公報
【特許文献3】特許第4475992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた加工性および低転がり抵抗を有するタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムに白色充填剤の特定量、シランカップリング剤の特定量および両性界面活性剤の特定量を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0007】
1.ジエン系ゴム100質量部に対し、
(A)白色充填剤を5〜150質量部、
(B)シランカップリング剤を前記白色充填剤に対して1〜25質量%、および
(C)両性界面活性剤を前記白色充填剤に対して1.5〜30質量%
配合することを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
2.前記両性界面活性剤が、ベタイン型またはアミンオキシド型であることを特徴とする前記1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
3.前記1または2に記載のゴム組成物をトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジエン系ゴムに白色充填剤の特定量、シランカップリング剤の特定量および両性界面活性剤の特定量を配合したので、優れた加工性および低転がり抵抗を有するタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
図1は、乗用車用の空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるトレッド3からなり、ビード部1、1間に繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。トレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。また、ビード部1においてはリムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
以下に説明する本発明のゴム組成物は、とくにトレッド3に有用である。
【0012】
(ゴム成分)
本発明で使用されるゴム成分は、ゴム組成物に配合することができる任意のゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
これらの中でも、本発明の効果の点からジエン系ゴムはSBR、BRが好ましい。
【0013】
(白色充填剤)
本発明で使用する白色充填剤とは、黒色を呈する充填剤以外の充填剤、例えば黒色を呈する充填剤以外の無機充填剤を意味し、具体的にはシリカ、炭酸カルシウム、クレー等が挙げられる。
なお、シリカを使用する場合、本発明の効果がさらに向上するという観点から、シリカの窒素吸着比表面積(NSA)が50〜200m/gであるのが好ましい。なお、窒素吸着比表面積(NSA)はJIS K6217−2に準拠して求めた値である。
【0014】
(シランカップリング剤)
本発明で使用するシランカップリング剤は、その効果向上の観点から、硫黄含有シランカップリング剤を使用するのが好ましい。シランカップリング剤としては、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであればよく、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0015】
(両性界面活性剤)
本発明で使用する両性界面活性剤としては、例えば、ベタイン型、アミノ酸型、アミンオキシド型等が挙げられる。
ベタイン型としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン等のアルキルベタイン型;コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の脂肪酸アミドプロピルベタイン型;2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルイミダゾール型等が挙げられる。
アミノ酸型としては、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルメチル-β-アラニン等が挙げられる。
アミンオキシド型としては、ラウリルジメチルアミンN‐オキシド、オレイルジメチルアミンN‐オキシド等が挙げられる。
両性界面活性剤は、白色充填剤、例えばシリカの表面に吸着して相互作用を生じ、凝集を抑制する。これにより、白色充填剤、例えばシリカの分散性が向上し、優れた加工性および低転がり抵抗を両立させることができる。
上記効果は、両性界面活性剤としてとくにベタイン型またはアミンオキシド型を使用することにより、一層向上する。
【0016】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、
(A)白色充填剤を5〜150質量部、
(B)シランカップリング剤を前記白色充填剤に対して1〜25質量%、および
(C)両性界面活性剤を前記白色充填剤に対して1.5〜30質量%
配合することを特徴とする。
前記(A)白色充填剤の配合量が5質量部未満であると、低転がり抵抗が得られない。逆に150質量部を超えると、耐摩耗性が悪化する。
前記(B)シランカップリング剤の配合量が白色充填剤に対して1質量%未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に白色充填剤に対して25質量%を超えると加工性が悪化する。
前記(C)両性界面活性剤の配合量が前記白色充填剤に対して1.5質量%未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に30質量%を超えると加工性が悪化する。
【0017】
前記(A)白色充填剤のさらに好ましい配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、20〜100質量%である。
前記(B)シランカップリング剤のさらに好ましい配合量は、白色充填剤に対し、3〜15質量%である。
前記(C)両性界面活性剤のさらに好ましい配合量は、白色充填剤に対し、3〜20質量%である。
【0018】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、充填剤、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0020】
実施例1〜4および比較例1〜3
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で150℃で30分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で該ゴム組成物および加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0021】
ムーニー粘度:ゴム組成物のムーニー粘度を、JIS K6300に基づき100℃で測定した。結果は、比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど粘度が低く、加工性が良好であることを示す。
転がり抵抗:レオメトリックス社製RDA−IIを用い、1%ねじれ、20Hz、60℃の条件でtanδ(60℃)を測定し、この値をもって転がり抵抗性を評価した。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が大きいほど、低転がり抵抗であることを示す。
ペイン効果:未加硫のゴム組成物を用いて160℃、20分の加硫を行ない、歪0.28%〜30.0%までの歪せん断応力G’を測定した。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が大きいほど、シリカ分散が良好であることを示す。
結果を併せて表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
*1:SBR(日本ゼオン(株)製Nipol 1502、油展量=SBR100質量部に対し37.5質量部)
*2:BR(日本ゼオン(株)製Nipol 1220)
*3:シリカ(ローディア社製Zeosil 1165MP、NSA=165m/g)
*4:カーボンブラック(東海カーボン(株)製シースト6、NSA=119m/g)
*5:シランカップリング剤(エボニックデグッサジャパン(株)製Si69、化合物名=ビス−トリエトキシシリルプロピルテトラスルフィド)
*6:両性界面活性剤−1(花王(株)製アンヒトール20N。ラウリルジメチルアミンN−オキシド)
*7:両性界面活性剤−2(花王(株)製アンヒトール20AB。コカミドプロピルベタイン)
*8:両性界面活性剤−3(花王(株)製アンヒトール20Y−N。2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(アルキルはC11主成分))
*9:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*10:ステアリン酸(日油(株)製ビーズステアリン酸)
*11:老化防止剤(FLEXSYS製SANTOFLEX 6PPD)
*12:アロマオイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号S)
*13:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
*14:加硫促進剤−1(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ−G)
*15:加硫促進剤−2(住友化学(株)製ソクシノールD−G)
【0024】
上記の表から明らかなように、実施例1〜4で調製されたゴム組成物は、ジエン系ゴムに白色充填剤の特定量、シランカップリング剤の特定量および両性界面活性剤の特定量を配合したので、従来の代表的な比較例1に比べて、優れた加工性および低転がり抵抗を両立していることが分かる。
これに対し、比較例2は、両性界面活性剤の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、シリカの分散性が向上せず、加工性および低転がり抵抗も改善されなかった。
比較例3は、両性界面活性剤の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、シリカの分散性が向上せず、加工性および低転がり抵抗も改善されなかった。
【符号の説明】
【0025】
1 ビード部
2 サイドウォール
3 トレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、
(A)白色充填剤を5〜150質量部、
(B)シランカップリング剤を前記白色充填剤に対して1〜25質量%、および
(C)両性界面活性剤を前記白色充填剤に対して1.5〜30質量%
配合することを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記両性界面活性剤が、ベタイン型またはアミンオキシド型であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物をトレッドに使用した空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−112743(P2013−112743A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260190(P2011−260190)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】