説明

タイヤトレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】低温性能を満足しつつ、また加工性を維持しながら、低発熱性を改良する。
【解決手段】ヘテロ原子を含む官能基(例えばアミノ基やヒドロキシル基等)が導入された変性溶液重合スチレンブタジエンゴム60〜90質量部と、希土類元素系触媒(例えばネオジウム系触媒)を用いて合成されたブタジエンゴム10〜40質量部とを含有するゴム成分100質量部に対し、シリカ30〜110質量部を含むフィラー40〜110質量部を含有するとともに、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤をシリカ配合量の5〜30質量%含有するタイヤトレッド用ゴム組成物である。
(C2n+1O)Si−C2m−S−CO−C2k+1 …(1)
式中、nは1〜3の整数、mは1〜5の整数、kは2〜9の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトレッド部に用いられるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の低燃費化の要求は近年ますます高まり、タイヤについても低燃費化が求められている。タイヤの低燃費化を行う方法の一環として、低発熱性のゴム組成物を使用したり、タイヤを軽量化したりする方策がある。このうち、前者の低発熱性のゴム組成物を使用する方策は、低発熱化によりタイヤの転がり抵抗が低減するので、低燃費化に繋がるというものであり、種々の方策が提案されている。例えば、フィラーとしてシリカを用いるとともに、シリカの分散性を向上させるためにシランカップリング剤を併用することが知られている(例えば、下記特許文献1〜3参照)。
【0003】
また、更なる低発熱化のため、ポリマー末端をヒドロキシル基やアミノ基等の官能基で変性したスチレンブタジエンゴムを用いることにより、シリカの分散性を改良することも知られている(例えば、下記特許文献4〜6参照)。しかしながら、官能基を導入したスチレンブタジエンゴムを用いると、ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)が高くなり、低温性能が悪化するという問題がある。
【0004】
空気入りタイヤ、とりわけオールシーズンタイヤのトレッドに用いられるゴム組成物においては、冬場でも硬くなりにくくグリップ性能が悪化しないこと、即ち低温性能が求められるが、従来の低発熱性を改良したゴム組成物は低温性能に劣るという問題があり、サマータイヤ用としては好適であったものの、オールシーズンタイヤ用の要求特性を満足しないという問題があった。
【0005】
低温性能を改良するために、ガラス転移点の低いブタジエンゴムを配合することが考えられるが、コバルト触媒やニッケル触媒を用いて重合された汎用のブタジエンゴムでは、低温性能は改良するものの、低発熱性が損なわれるという問題がある。
【0006】
一方、タイヤトレッド用ゴム組成物において、天然ゴムを主体としたゴム成分に、ネオジウム系触媒を用いて重合されたブタジエンゴムを配合することにより、低発熱性を改善できることが知られている(下記特許文献7参照)。しかしながら、ネオジウム系触媒で重合したブタジエンゴムを用いることにより、低温性能と低発熱性を改良することはできるものの、加工性が悪化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−263998号公報
【特許文献2】特開2006−036918号公報
【特許文献3】特開2008−138086号公報
【特許文献4】特開2009−114427号公報
【特許文献5】特開2010−059398号公報
【特許文献6】特開2010−275386号公報
【特許文献7】特開2010−163544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように従来、オールシーズンタイヤ等に要求される低温性能を満足しつつ、また加工性を維持しながら、低発熱性を改良することは困難であり、これらを全て満足したものは得られていなかったのが実情である。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、低温性能を満足しつつ、また加工性を維持しながら、低発熱性を改良することができるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、ヘテロ原子を含む官能基が導入された変性溶液重合スチレンブタジエンゴム60〜90質量部と、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム10〜40質量部と、を含有するゴム成分100質量部に対し、シリカ30〜110質量部を含むフィラー40〜110質量部を含有するとともに、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤をシリカ配合量の5〜30質量%含有するものである。
(C2n+1O)Si−C2m−S−CO−C2k+1 …(1)
式中、nは1〜3の整数、mは1〜5の整数、kは2〜9の整数である。
【0011】
また、本発明の好ましい態様に係る空気入りタイヤは、該タイヤトレッド用ゴム組成物でトレッド部を作製してなるものである。
【0012】
また、本発明の好ましい態様に係るタイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法は、前記ゴム成分100質量部のうち、40質量部以上の前記変性溶液重合スチレンブタジエンゴムを含む60〜90質量部のゴム成分に、シリカ30〜110質量部を含むフィラー40〜110質量部と、該シリカ配合量の5〜30質量%の上記一般式(1)で表されるシランカップリング剤とを混合してマスターバッチを作製した後、前記マスターバッチに残部のゴム成分10〜40質量部を混合することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記のように、変性溶液重合スチレンブタジエンゴムと、希土類元素系触媒で重合されたブタジエンゴムと、シリカと、特定のシランカップリング剤を併用することにより、低温性能を確保しつつ、また加工性を維持しつつ、低発熱性を改良してタイヤの転がり抵抗を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分100質量部は、(A)ヘテロ原子を含む官能基が導入された変性溶液重合スチレンブタジエンゴム60〜90質量部と、(B)希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム10〜40質量部と、任意成分としての(C)他のジエン系ゴム0〜30質量部とからなる。このように、変性溶液重合スチレンブタジエンゴムと希土類元素系触媒のブタジエンゴムを組み合わせることにより、低発熱性と低温性能を改善することができる。
【0016】
上記(A)成分は、ヘテロ原子を含む官能基が導入された溶液重合スチレンブタジエンゴム(以下、変性S−SBRということがある)である。該官能基は、ポリマー鎖の末端に導入されてもよく、あるいはまたポリマー鎖中に導入されてもよいが、好ましくは末端に導入されることである。該官能基としては、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボキシル基、シアノ基、及びハロゲン基等が挙げられ、これらはそれぞれ1種のみ導入されてもよく、あるいはまた2種以上組み合わせて導入されてもよい。上記アミノ基としては、1級アミノ基だけでなく、2級もしくは3級アミノ基でもよい。アルコキシル基(−OR、但しRはアルキル基)としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。ハロゲン基としては、塩素、臭素などが挙げられる。これらの官能基は、シリカのシラノール基(Si−OH)と相互作用があるものとして知られているものである。ここで、相互作用とは、シリカのシラノール基との間で化学反応による化学結合又は水素結合することを意味する。
【0017】
このような官能基を導入した変性S−SBRを配合することにより、シリカとの親和性を高くして分散性を改善することができる。なお、かかる官能基を有する変性S−SBR自体は公知であり、その製造方法等は限定されるものではない。例えば、アニオン重合で合成されたS−SBRを変性剤で変性することで、上記官能基を導入することができる。
【0018】
該変性S−SBRとしては、特に限定するものではないが、そのガラス転移温度(Tg)が−70〜−10℃であるものが好ましく、より好ましくは−60〜−20℃である。また、スチレン含量(St)が5〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。なお、ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:−150℃〜50℃)測定される値である。スチレン含量は、HNMRスペクトルの積分比により算出される値である。
【0019】
上記(B)成分のブタジエンゴムは、希土類元素系触媒を用いて重合されたブタジエンゴム(以下、希土類元素系触媒BRということがある)である。希土類元素系触媒としては、ネオジウム系触媒が好ましく、例えば、ネオジウム単体、ネオジウムと他の金属類との化合物、及び有機化合物が挙げられ、より詳細には、NdCl、Et−NdCl等が具体例として挙げられる。
【0020】
希土類元素系触媒で合成したブタジエンゴムは、一般に、高シス含量で、かつ低ビニル含量のミクロ構造を有する。本実施形態において、希土類元素系触媒BRのミクロ構造は特に限定されないが、好ましくは、シス−1,4結合含有量が95%以上であり、かつビニル基(1,2−ビニル結合)含有量が1.8%以下のものを用いることである。シス−1,4結合含有量は96%以上であることがより好ましく、ビニル基含有量は1.0%以下であることがより好ましい。ここで、シス−1,4結合含有量及びビニル基含有量は、HNMRスペクトルの積分比により算出される値である。
【0021】
上記(C)成分は、上述した変性S−SBR及び希土類元素系触媒BR以外のジエン系ゴムであるが、これは任意成分であり、従ってゴム成分中に含まれても、含まれなくてもよい。他のジエン系ゴムとしては、例えば、未変性のスチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体、またはこれらの2種以上の組み合わせ等が挙げられ、特に限定されない。好ましくは、天然ゴムを用いることである。
【0022】
上記のようにゴム成分は、(A)変性S−SBR:60〜90質量%、(B)希土類元素系触媒BR:10〜40質量%、及び(C)その他のジエン系ゴム:0〜30質量%からなる。(A)変性S−SBRが60質量%未満では、低発熱性の改良効果が不十分となる。また、(B)希土類元素系触媒BRが10質量%未満では、低温性能が悪化してしまう。(A)変性S−SBRのゴム成分中に占める比率は、65〜85質量%であることが好ましく、より好ましくは65〜80質量%である。(B)希土類元素系触媒BRのゴム成分中に占める比率は、15〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜30質量%である。(C)他のジエン系ゴムのゴム成分中に占める比率は、0〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。
【0023】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記ゴム成分100質量部に対して、シリカ30〜110質量部を含むフィラー40〜110質量部が配合される。フィラーとしては、シリカ単独でもよく、シリカとともにカーボンブラック等の他の充填剤を含んでもよい。フィラーの配合量が40質量部未満では、補強性を確保することが困難となり、逆に110質量部を超えると、低発熱性を改善することが困難となる。フィラーの配合量は、より好ましくは50〜80質量部である。また、シリカの配合量が30質量部未満では、低発熱性の改善効果が不十分となる。シリカの配合量は、より好ましくは40〜80質量部である。また、フィラー全体のうち、シリカを70質量%以上含むことが、低発熱性の点から好ましく、より好ましくは80質量%以上である。なお、フィラーは、基本的には、シリカ単独、又はシリカとカーボンブラックとのブレンドからなるが、本発明の効果を損なわない限り、クレー、タルク、マイカなどの他の充填剤を含んでもよい。カーボンブラックの配合量は、特に限定されないが、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくはタイヤへの色付けのために2〜10質量部とすることである。
【0024】
シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)150〜250m/gであるものが好ましく用いられ、より好ましくは180〜230m/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
【0025】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記一般式(1)で表される保護化メルカプト基を有するシランカップリング剤(保護化メルカプトシランカップリング剤)が配合される。かかる保護化メルカプトシランカップリング剤を配合することにより、未加硫ゴム組成物の粘度上昇を抑えて、加工性を維持することができる。保護化メルカプトシランカップリング剤としては、例えば、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどが好ましいものとして挙げられる。保護化メルカプトシランカップリング剤の配合量は、シリカ配合量の5〜30質量%(すなわち、シリカ100質量部に対して5〜30質量部)であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。
【0026】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤのトレッド用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0027】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、上記フィラー及びシランカップリング剤とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することである。
【0028】
本実施形態に係るゴム組成物は、より好ましくは、上記ゴム成分100質量部のうち、40質量部以上の変性S−SBRを含む60〜90質量部のゴム成分に、上記フィラー及びシランカップリング剤を、予め密閉式混合機等で混合してマスターバッチを作製した後(第一混合段階)、該マスターバッチに残部のゴム成分10〜40質量部を混合する(第二混合段階)により調製されることである。このように、まず変性S−SBRを含むゴム成分にシリカを含むフィラーを混合し、一部のゴム成分を後入れすることにより、シリカを変性S−SBRに偏在させることができ、これにより低発熱性と耐摩耗性を改良することができる。変性S−SBRへのシリカの偏在化を期待するため、第二混合段階において後入れする残部のゴム成分としては、変性S−SBR以外のジエン系ゴムであることが好ましく、すなわち、上記希土類元素系触媒BRや、天然ゴム等の他のジエン系ゴムであることが好ましい。このように第一混合段階及び第二混合段階を経て得られた混合物は、最終混合段階において加硫剤及び加硫促進剤が添加混合されることで、本実施形態に係るゴム組成物が得られる。
【0029】
なお、上記第一混合段階で混合するゴム成分の量は60〜80質量部であることがより好ましい。また、この第一混合段階で混合するゴム成分中に含まれる上記変性S−SBRの量は40〜90質量部であることが好ましく、より好ましくは60〜80質量部である。上記フィラー及びシランカップリング剤以外の添加剤についての添加時期としては、加硫系配合剤(即ち、加硫剤及び加硫促進剤)を最後に添加することを除けば特に限定されないが、第一混合段階において混合することが好ましい。すなわち、第一混合段階では、フィラー及びシランカップリング剤とともに、加硫系配合剤を除くその他の添加剤が配合されることが好ましい。従って、第二混合段階では、上記残部のゴム成分のみがマスターバッチに添加し混合されることが好ましい。
【0030】
本実施形態に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、JIS K6255のリュプケ式反発弾性試験に準拠して温度60℃で測定した加硫物の反発弾性率が60〜80%であることが好ましい。60℃での反発弾性率は低発熱性の指標として一般に用いられており、これが60%未満では、低発熱性に劣り、空気入りタイヤの転がり抵抗性能の改善効果が不十分となる。逆に、80%を超えると、湿潤路面での制動性能(ウェット制動性)が悪化するおそれがある。60℃での反発弾性率は、65〜75%であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、また、JIS K6253に準拠してタイプAデュロメータにより温度−10℃で測定した加硫物の硬さが80以下であることが好ましい。−10℃での硬さは低温性能の指標として一般に用いられており、これが80より大きいと、低温性能が悪化する。−10℃での硬さは、75以下であることが好ましい。該硬さの下限は特に限定されないが、通常は65以上であることが好ましい。
【0032】
60℃での反発弾性率と−10℃での硬さは、上記変性S−SBRの配合量、希土類元素系触媒BRの配合量、シリカの種類及び配合量等によって変化するので、上記数値範囲を満足するようにこれらを適宜設定すればよい。例えば、変性S−SBRの配合量が多いほど反発弾性率は高くなる傾向があり、また希土類元素系触媒BRの配合量が多いほど−10℃硬さは低下する傾向がある。また、シリカについては、BETが小さく、また配合量が少ないほど、反発弾性率は高くなる傾向があり、また、配合量が少ないと硬さが低下する傾向がある。本実施形態によれば、上記のように変性S−SBRと希土類元素系触媒BRとを組み合わせることにより、シリカ配合において、低温性能と低発熱性を従来よりも高度に両立することができるので、60℃での反発弾性率と−10℃での硬さを上記数値範囲内に容易に設定することができる。
【0033】
以上よりなる本実施形態に係るゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド部のためのゴム組成物として好適に用いられ、常法に従い加硫成形することにより、トレッド部を形成することができる。本実施形態に係るゴム組成物は、特に、オールシーズンタイヤのトレッド用に好適であるが、これに限定されるものではなく、各種空気入りタイヤに適用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
[第1実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し第1マスターバッチを得た(排出温度=160℃)。次いで、第二混合段階において、得られた第1マスターバッチを再度混合し第2マスターバッチを得た(排出温度=160℃)。次いで、最終混合段階で第2マスターバッチと硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0036】
・未変性SBR:JSR株式会社製「SBR1502」
・変性S−SBR1:アミノ基及びアルコキシル基末端変性溶液重合SBR(Tg=−35℃、St=20質量%)、JSR株式会社製「HPR350」
・変性S−SBR2:ヒドロキシル基末端変性溶液重合SBR(St=21質量%、Tg=−25℃)、日本ゼオン(株)製「Nipol NS616」
・Co−BR:宇部興産株式会社製「BR150B」(コバルト系触媒により重合されたブタジエンゴム)
・Nd−BR:ランクセス社製「Buna CB22」(ネオジウム系触媒で重合されたブタジエンゴム、シス−1,4結合含有量=96.5%、ビニル基含有量=0.4%)
・NR:天然ゴム(RSS#3)、
・カーボンブラック:東海カーボン株式会社製「シーストKH」
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールAQ」(BET=205m/g)
・オイル:JOMO製「プロセスNC140」
・Si75:スルフィドシランカップリング剤、デグサ社製「Si75」
・NXT:3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン(上記式(1)中、n=2,m=3,k=7)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「NXT」
・ステアリン酸:花王株式会社製「ルナックS20」
・亜鉛華:三井金属鉱業株式会社製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:住友化学工業株式会社製「アンチゲン6C」
・ワックス:大内新興化学工業(株)製「サンノックN」
・加硫促進剤:住友化学工業株式会社製「ソクシールCZ」
・硫黄:鶴見化学工業株式会社製「粉末硫黄」
【0037】
各ゴム組成物について、未加硫状態での粘度を測定するとともに、150℃で30分間加硫した所定形状の試験片を用いて、反発弾性率と−10℃硬さを測定した。更に、各ゴム組成物をトレッド用ゴムとして用いて、215/45ZR17の空気入りラジアルタイヤを作製し、転がり抵抗性能とスノー制動性能を評価した。各評価・測定方法は以下の通りである。
【0038】
・反発弾性率:JIS K6255に従い、60℃におけるリュプケ式反発弾性試験を実施して、反発弾性率を測定した。値が大きいほど、発熱しにくく、即ち低発熱性に優れることを意味する。
【0039】
・−10℃硬さ:JIS K6253に準拠してタイプAデュロメータを用いて、−10℃での硬さを測定した(試験片の厚み=20mm)。値が小さいほど、低温性能に優れることを意味する。
【0040】
・粘度:JIS K6300に準拠して東洋精機(株)製ロータレスムーニー測定機を用い、未加硫ゴムを100℃で1分間余熱後、4分後のトルク値をムーニー単位で測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が小さいほど、粘度が小さく、加工性に優れることを意味する。
【0041】
・転がり抵抗性能:空気圧230kPa、荷重4.4kNとして、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて、室温を23℃に設定し、80Km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。結果は、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が小さいほど、転がり抵抗が小さく、従って低燃費性に優れることを示す。
【0042】
・スノー制動性能:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、雪道において60km/h走行からABS作動させて20km/hまで減速時の制動距離を測定し(n=10の平均値)、各測定値の逆数について、比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど制動距離が短く、従ってスノー制動性能(低温性能)に優れることを示す。
【0043】
結果は、表1に示す通りであり、変性S−SBRを配合した比較例2,8では、比較例1に対し、転がり抵抗性能は改善したものの、スノー制動性能が大幅に悪化した。比較例3では、Co−BRを配合したことで、比較例2に対して低温性能は改善されたが、転がり抵抗性能は悪化した。比較例4,9では、Nd−BRを配合したことにより、比較例2,8に対して、転がり抵抗性能とスノー制動性能を改善することができたが、加工性が大幅に悪化していた。比較例5では、保護化メルカプトシランカップリング剤の配合量が少なすぎて、加工性の改善効果が認められなかった。比較例6では、Nd−BRの配合量が少なすぎて、スノー制動性能の改善効果に劣っていた。比較例7では、Nd−BRの配合量が多すぎて、転がり抵抗性能の改善効果が得られなかった。
【0044】
これに対し、実施例1〜6であると、反発弾性率を60〜80%の範囲内としつつ、−10℃硬さを80以下に設定することができ、スノー制動性能の悪化をできるだけ抑えながら、また、加工性を維持しつつ、転がり抵抗性能を大幅に改善することができた。
【0045】
【表1】

【0046】
[第2実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に従い、第一混合段階で同表に記載の成分を混合して第1マスターバッチを得た(排出温度=160℃)。次いで、第二混合段階において、得られた第1マスターバッチに同表に記載の残部のゴム成分を添加し混合して第2マスターバッチを得た(排出温度=160℃)。次いで、最終混合段階において、得られた第2マスターバッチに同表に記載の硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。表2中の各成分の詳細は、上記表1と同じである。
【0047】
各ゴム組成物について、未加硫状態での粘度を測定するとともに、150℃で30分間加硫した所定形状の試験片を用いて、反発弾性率と−10℃硬さと耐摩耗性を評価・測定した。更に、各ゴム組成物をトレッド用ゴムとして用いて、215/45ZR17の空気入りラジアルタイヤを作製し、転がり抵抗性能とスノー制動性能を評価した。各評価・測定方法は、耐摩耗性を除いて上記第1実施例と同じである(但し、粘度、転がり抵抗性能及びスノー制動性能は例Aを100とした指数で示した。)。
【0048】
・耐摩耗性:JIS K6264に準拠し、岩本製作所(株)製のランボーン摩耗試験機を用いて、荷重40N、スリップ率30%の条件で摩耗減量を測定し、摩耗減量の逆数について例Aの値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを意味する。
【0049】
結果は、表2に示す通りであり、第1実施例と同様に通常混合を行った例A及びDに対し、所定量のゴム成分を第二混合段階で後入れした例E〜Hであると、反発弾性率と−10℃硬さに改善効果が認められ、転がり抵抗性能とスノー制動性能のバランスがより高度に改善されていた。また、耐摩耗性についても顕著な改善効果が得られた。これに対し、第二混合段階で後入れしたゴム成分が少なすぎる例Bでは、改善効果は得られなかった。逆に、多量の変性S−SBRを後入れした例Cでは、例Aに対して、転がり抵抗性能及び耐摩耗性が悪化していた。
【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ原子を含む官能基が導入された変性溶液重合スチレンブタジエンゴム60〜90質量部と、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム10〜40質量部と、を含有するゴム成分100質量部に対し、
シリカ30〜110質量部を含むフィラー40〜110質量部を含有するとともに、
下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤をシリカ配合量の5〜30質量%含有することを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
(C2n+1O)Si−C2m−S−CO−C2k+1 …(1)
(式中、nは1〜3の整数、mは1〜5の整数、kは2〜9の整数である。)
【請求項2】
JIS K6255のリュプケ式反発弾性試験に準拠して温度60℃で測定した加硫物の反発弾性率が60〜80%であり、JIS K6253に準拠してタイプAデュロメータにより温度−10℃で測定した加硫物の硬さが80以下であることを特徴とする請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量部のうち、40質量部以上の前記変性溶液重合スチレンブタジエンゴムを含む60〜90質量部のゴム成分に、前記フィラー及びシランカップリング剤を混合してマスターバッチを作製した後、前記マスターバッチに残部のゴム成分10〜40質量部を混合してなることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記残部のゴム成分が、前記変性溶液重合スチレンブタジエンゴム以外のジエン系ゴムであることを特徴とする請求項3記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記変性溶液重合スチレンブタジエンゴムの官能基が、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボキシル基、シアノ基、及びハロゲン基から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム組成物でトレッド部を作製してなる空気入りタイヤ。
【請求項7】
ヘテロ原子を含む官能基が導入された変性溶液重合スチレンブタジエンゴム60〜90質量部と、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム10〜40質量部と、を含有するゴム成分100質量部のうち、40質量部以上の前記変性溶液重合スチレンブタジエンゴムを含む60〜90質量部のゴム成分に、シリカ30〜110質量部を含むフィラー40〜110質量部と、該シリカ配合量の5〜30質量%の下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤とを混合してマスターバッチを作製した後、前記マスターバッチに残部のゴム成分10〜40質量部を混合することを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法。
(C2n+1O)Si−C2m−S−CO−C2k+1 …(1)
(式中、nは1〜3の整数、mは1〜5の整数、kは2〜9の整数である。)

【公開番号】特開2013−112731(P2013−112731A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259169(P2011−259169)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】