説明

タイヤリム組立体

【課題】主気室11内のリム外周面1aに薄板よりなる隔壁2が配設され、隔壁2によって区画された副気室3を有するタイヤリム組立体10において、タイヤ1が、路面の凹凸によって衝撃を受けた場合でも隔壁2と接触しないようにする。
【解決手段】
カーカス7を、タイヤ赤道面における周方向幅10mm当たりの、タイヤ子午線面内の曲げ剛性が400〜4500N・mm2となるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数本の補強材を配列してなるカーカスを両ビードコア間に設けたタイヤと、このタイヤを装着するリムとよりなり、これらによって囲まれた主気室内のリム外周面上に、薄板よりなる隔壁で区画された副気室が配設され、この副気室は前記隔壁に設けられた貫通穴を通してのみ前記主気室に連通するよう構成されてなるタイヤリム組立体に関し、特に、前記薄板よりなる隔壁の耐久性を確保することができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図1に、断面図で示すような、多数本の補強材を配列してなるカーカス97を両ビードコア8間に設けたタイヤ91と、このタイヤ91を装着するリム1とよりなるタイヤリム組立体90が知られており、このタイヤリム組立体90には、リム1とタイヤ90とによって囲まれた主気室11内のリム外周面1a上に、薄板よりなる隔壁2で区画された副気室12が配設され、副気室12は、隔壁2に設けられた貫通穴3を通してのみ主気室11に連通するよう構成されている(例えば、特許文献1参照)。このような副気室12は、ヘルムホルツ型共鳴器を構成し、所謂ロードノイズと呼ばれる、車両走行中のタイヤの変形に起因して発生する主気室12の空洞共鳴音に対して、これを吸音し車両走行時のノイズを低減することができる。
【0003】
ここで、主気室11の空洞共鳴音の周波数は、主気室11の容積によって変化するが、上記ノイズが問題となる乗用車においては、180〜300Hzの範囲にあり、一方、副気室12によって吸音できる共鳴音の周波数f0は、以下の式で表される。

ただし、
V:副気室の容積(cm3
S:貫通穴の断面積(cm2
L:貫通穴の長さ(cm)
【0004】
以上のことから、主気室11の空洞共鳴音を吸音するためには、f0が180〜300Hの範囲に入るよう副気室12の容積Vを十分に大きくする必要があり、これに必要な副気室12の容積を確保しようとすると、副気室12のタイヤ幅方向、タイヤ周方向のそれぞれの長さには限度があるので、副気室12のタイヤ半径方向の長さ(高さ)を大きくする必要があり、具体的には、乗用車用タイヤの場合、副気室12のタイヤ半径方向最外部を、リムのビードシート面から60mm外側に位置させなければならない場合もある。
【特許文献1】特開2002−079802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、副気室の高さを高くすると、タイヤの内圧が低い状態で走行した場合や、車両走行時、タイヤが路面の凹凸によって衝撃を受けた場合、図2に示すように、サイドウォール部が大きく撓み、トレッド部の内側面が隔壁2の頂部に当たってしまう可能性があり、これに対して、隔壁2はリムの軽量化のためこれを薄肉の板で作られているので、トレッド部の内側面が隔壁2を壊したり変形させたりする虞が十分ある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、タイヤが、低内圧で走行したり、路面の凹凸によって衝撃を受けたりした場合でも前記隔壁と接触することのないタイヤリム組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多数本の補強材を配列してなるカーカスを両ビードコア間に設けたタイヤと、このタイヤを装着するリムとよりなり、これらによって囲まれた主気室内のリム外周面上に、薄板よりなる隔壁で区画された副気室が配設され、この副気室は前記隔壁に設けられた貫通穴を通して前記主気室に連通するよう構成されてなるタイヤリム組立体において、
前記カーカスは、タイヤ赤道面における周方向幅10mm当たりの、タイヤ子午線面内の曲げ剛性が400〜4500N・mm2であることを特徴とするタイヤリム組立体である。
【0008】
そして、前記補強材はスチールコードで構成され、その撚り構造は1xN、もしくは、1+Nであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記タイヤのカーカスは、タイヤ赤道面における周方向幅10mm当たりの、タイヤ子午線面内の曲げ剛性が400〜4500N・mm2であるので、サイドウォール部の剛性を高め、内圧が低下したり、路面から衝撃を受けたりしてもタイヤのトレッド部の内面が副気室を形成する隔壁に接触するのを防止することができ、好ましくは、前記補強材はスチールコードで構成され、その撚り構造は1xN、もしくは、1+Nとすることにより、車両の高速走行に伴う遠心力によってリムに取り付けられている副気室形成用の隔壁が外れて飛散しタイヤをバーストさせるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図に基づいて説明する。図3は、本発明に係るタイヤリム組立体を示す断面図であり、また、図4は、図3のA−A矢視に対応する断面図であり、リム1とこのリム1に装着されたタイヤ4とよりなるタイヤリム組立体10において、リム1およびタイヤ4によって囲まれた主気室11内のリム外周面1aに、隔壁2によって区画された副気室12が配設されていて、副気室12は、隔壁2に設けられた貫通穴3を通してのみ主気室11に連通している。この副気室12は、貫通穴3と協働して、主気室11にて発生する空洞共鳴音を吸音するヘルムホルツ型共鳴器として機能するが、この共鳴器を効果的に機能させるためには、先に述べたように副気室12のタイヤ半径方向の長さ(高さ)を十分大きくする必要があり、具体的には、乗用車用のタイヤの場合、この副気室12を区画する隔壁2のタイヤ半径方向最外部の、リム1のビードシート面1bからのタイヤ半径方向高さFを60mmとすれば、これを効果的に防止することができる。
【0011】
また、隔壁2は、軽量化のため隔壁として機能するのに必要な最低限の厚さとすることが望ましく、例えば、これをアルミニウム製の薄板で形成した場合、その厚さを0.5〜3mmとするのが好ましく、これを0.5mm未満とした場合には、剛性不足のため共鳴音吸音効果を発揮させることができなくなる可能性があり、一方、これを、3mmを越えるものとした場合には、重量的に問題となってしまう。
【0012】
なお、副気室12は、図4に示したような周方向に連続するものの他、図5に示すように、周方向には複数の気室に分割されているものであってもよく、この場合、周方向のアンバランスが発生しないよう、回転対称性を備えさせることが重要である。
【0013】
リム1とともにタイヤリム組立体10を構成するタイヤ4は、一対のビードコア8がそれぞれ配置されたビード部と、両側部をビードコア8の周りで半径方向外側に折り返された一層以上のカーカスプライよりなるカーカス7と、一対のビードコア8の半径方向外側に配置されたそれぞれのビードフィラ15と、トレッド部14においてカーカス7の外側に配設されたベルト9とよりなるが、タイヤ4の特徴として、カーカス7は、タイヤ赤道面における周方向幅10mm当たりの、タイヤ子午線面内の曲げ剛性が、従来は、50N・mm2未満であるのに対して、400〜4500N・mm2の範囲にあり、このように、上記曲げ剛性を400N・mm2以上とすることによって、主気室11の内圧が低い状態で走行したり路面からの衝撃を受けたりした場合に、もしサイドウォール部にビードフィラ15を配置しただけのタイヤ4の場合には起きるであろう、サイドウォール部5が大きく撓むことによるトレッド部14の隔壁2頂部への衝突を防止することができる。
【0014】
ここで、タイヤ赤道面における周方向幅10mm当たりの、タイヤ子午線面内の曲げ剛性とは、タイヤ赤道面に沿って測った幅が10mmのカーカス部分について、これをタイヤ子午線面内、すなわち、タイヤ中心軸線を含む面内で曲げ変形させたときの剛性であり、カーカス7のタイヤ子午線面内の曲げ変形に対する断面二次モーメントIxと、カーカス7の平均縦弾性係数EIavとの積として表すことができ、例えば、図6(a)に斜視図で例示するような、補強材17をラジアル方向に向けて配列させた1層のカーカスプライよりなるカーカスの場合には、カーカス7の総厚さをD、カーカス7の単位周方向幅をb(=10mm)、単位周方向幅bのカーカス部分の断面積St(=Dxb)、面積St中に含まれる補強材(例えばスチールコード)の総断面積をScd、補強材17の縦弾性係数をEIcdとしたとき、断面二次モーメントIxおよび平均縦弾性係数EIavは、それぞれ、式(1)および式(2)のように表すことができる。但し、式(2)において、カーカス7における補強材17以外のゴム部分の縦弾性係数は、補強材のそれに対して無視できるほど小さいのでゼロであると仮定している。


【0015】
なお、Scdは、補強材1本の直径をdとし、断面積Stに含まれる補強材の本数をNとして、式(3)で表すことができる。

【0016】
図6(b)は、補強材17をラジアル方向に向けて配列させた2層のカーカスプライよりなるカーカス7Aを示す斜視図であり、この場合も、2層の総厚さをDとすることにより、断面二次モーメントIxおよび平均縦弾性係数EIavを、それぞれ、式(1)および式(2)のように表すことができる。
【0017】
なお、カーカス7の、タイヤ赤道面における周方向幅10mm当たりの、タイヤ子午線面内の曲げ剛性が4500 N・mm2を越えたものにすると、サイドウォール部の柔軟性を損ない乗り心地を悪化させることになってしまう。
【0018】
また、カーカス7の補強材17をスチールコードで構成し、その撚り構造を1xN、もしくは、1+Nとするのが好ましく、このことによって、カーカス7の強度を高め、タイヤ4の高速回転によって副気室12を形成する隔壁2のリム1への取り付けが外れて隔壁2が飛散した場合に、タイヤ4がバーストするのを防止することができる。
【0019】
また、スチールコードの撚り構造を1xN、もしくは、1+Nとすことによって、有機繊維コードを使用した場合に対比して、タイヤ重量が幾分増加するものの転がり抵抗を大幅に低減させることができる。
【実施例】
【0020】
補強材、および、曲げ剛性の少なくとも一方が互いに異なるカーカス7を有するタイヤ4を試作し、これらのタイヤを、副気室12を形成する隔壁2が設けられたリム1にそれぞれ装着し、これらのタイヤリム組立体10を比較例2、3、および実施例1〜3とし、これらについて実車走行時におけるロードノイズ騒音と、実車走行後の、隔壁2の損傷の有無とについて調査をおこなった。各例の、カーカスの補強材および曲げ剛性を表1に示す。
【0021】
また、リム1に隔壁2がない点、すなわち、副気室12がない点だけが比較例2とは異なるタイヤリム組立体を比較例1として、これについても同様の調査を行った。
【0022】
この調査において用いたタイヤのサイズは、225/60R16である。
【0023】
走行中のロードノイズ騒音については、このタイヤに、前記サイズに対する所定空気圧を充填して対応する乗用車に装着し、この乗用車に乗車した二人のテストドライバーによる官能評価により評価し、その結果を、比較例1を100とする指数(数値が大きい方が、騒音低減効果が大きい)で表し、表1に記した。
【0024】
また、隔壁2の損傷の有無に関する評価については、上記サイズのタイヤに、前記サイズに対する所定空気圧の約半分である100kPaの内圧を充填して、対応する乗用車に装着し、これを悪路走行評価用テストコースで100km走行させ、走行後、隔壁を目視でチェックし、その結果を、表1に記した。
【0025】
ここで、隔壁の厚さは0.5mmとし、副気室の容積は103cm3、副気室12と主気室11とを連通させる貫通穴3の直径は5mmとした。このとき、隔壁2の頂部の、リム1のビードシート面1bからの高さFは60mmであった。
【0026】
また、実施例1および比較例2について、タイヤ4の高速回転によって隔壁2がリム1へから外れて飛散した場合における、タイヤ4のバーストの可能性を評価するため、リム1から隔壁2を取り外し、この状態の隔壁2を主気室11内に収容するようにしてタイヤとリムとを組み付けてタイヤリム組立体とし、これらの、実施例1および比較例1にそれぞれ対応するタイヤリム組立体を車両の右前輪に装着して、時速80km/hで1時間走行させ、走行後、リム解きをしてこれらのタイヤ内部の損傷を調査した。評価結果を表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、特に乗用車用タイヤに適用するのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来のタイヤリム組立体を示す断面図である。
【図2】トレッド部の内側面が隔壁頂部に接触した状態における従来のタイヤリム組立体を示す断面図である。
【図3】本発明に係る実施形態のタイヤリム組立体を示す断面図である。
【図4】図3のA−A矢視に対応する断面図である。
【図5】他の態様における、図3のA−A矢視に対応する断面図である。
【図6】カーカスの一部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1 リム
1a リムの外周面
1b リムのビードシート面
2、2A 隔壁
3 貫通穴
4 タイヤ
4a タイヤの内面
7、7A カーカス
8 ビードコア
9 ベルト
10 タイヤリム組立体
11 主気室
12、12A 副気室
13 サイドウォール
14 トレッド部
15 ビードフィラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の補強材を配列してなるカーカスを両ビードコア間に設けたタイヤと、このタイヤを装着するリムとよりなり、これらによって囲まれた主気室内のリム外周面上に、薄板よりなる隔壁で区画された副気室が配設され、この副気室は前記隔壁に設けられた貫通穴を通して前記主気室に連通するよう構成されてなるタイヤリム組立体において、
前記カーカスは、タイヤ赤道面における周方向幅10mm当たりの、タイヤ子午線面内の曲げ剛性が400〜4500N・mm2であることを特徴とするタイヤリム組立体。
【請求項2】
前記補強材はスチールコードで構成され、その撚り構造は1xN、もしくは、1+Nであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤリム組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−67220(P2009−67220A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237562(P2007−237562)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】