説明

タイヤ性能予測のシミュレーション方法

【課題】 タイヤ性能を予測するタイヤ性能予測のシミュレーション方法において、タイヤの挙動を解析するための計算工数を縮減することを目的とする。
【解決手段】 タイヤ性能予測のシミュレーション方法は、有限個の要素で形成されるタイヤモデル及び路面モデルを転動させてタイヤの性能を予測する。タイヤモデル及び路面モデルを作成するモデル作成ステップS102、S104と、境界条件をタイヤモデルに付与する境界条件付与ステップS106と、境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して、路面モデル上においてタイヤモデルを第1のパターンで転動させる第1転動計算を行う第1転動計算ステップS1072と、境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して、路面モデル上においてタイヤモデルを第1のパターンと異なる第2のパターンで転動させる第2転動計算を行う第2転動計算ステップS1073と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤの挙動を解析してタイヤ性能を予測するタイヤ性能予測のシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤの開発において、有限要素法などの数値解析手法や計算機環境の発達により、実際に空気入りタイヤを製造し、自動車に装着して走行試験を行わなくても、新たに設計した空気入りタイヤの挙動予測や評価が可能になってきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、タイヤを有限要素法に基づいてモデル化し、このモデルを用いてタイヤの挙動を予測するタイヤ性能予測のシミュレーション方法が記載されている。このシミュレーション方法は、タイヤモデルを作成した後、内圧や荷重等の境界条件を付与し、タイヤモデルを所定の方向に回転させて、タイヤの挙動を予測することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−160159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のタイヤ性能予測のシミュレーション方法は、以下の問題点があった。
【0006】
一般的にタイヤに装着されるタイヤは、一方向のみならず、双方向に回転するため、タイヤの挙動を予測する際には、双方向に回転させた状態のタイヤの挙動を解析する必要がある。したがって、タイヤ性能予測をシミュレーションする際に、タイヤモデルを作成する第1ステップと、タイヤに境界条件を付与する第2ステップと、タイヤを任意の一方向に転動させる第3ステップと、を実行してタイヤの性能を予測した後、再度、第1ステップ及び第2ステップを実行して、任意の一方向と逆方向に転動させる第4ステップを実行してタイヤの性能を予測する。すなわち、複数回に亘って、タイヤモデルの作成からタイヤの挙動の解析までを繰り返し実行する。
【0007】
更に、タイヤの挙動は、スリップ角の有無やその角度によって変化する。このスリップ角の有無等を考慮してタイヤの性能を予測しようとすると、解析対象が多くなり、計算工数が増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、車両に装着されるタイヤの挙動を解析してタイヤ性能を予測するタイヤ性能予測のシミュレーション方法において、タイヤの挙動を解析するための計算工数を縮減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法は、有限個の要素で形成されるタイヤモデルを路面モデルに対して転動させて、タイヤの性能を予測するシミュレーション方法であって、タイヤを有限個の要素に分割した複数の要素でモデル化したタイヤモデル及び路面モデルを作成するモデル作成ステップと、少なくともタイヤ内圧及び荷重を含む境界条件を前記タイヤモデルに付与する境界条件付与ステップと、前記境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して、前記路面モデル上においてタイヤモデルを第1のパターンで転動させる第1転動計算を行う第1転動計算ステップと、前記境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して、前記路面モデル上においてタイヤモデルを前記第1のパターンと異なる第2のパターンで転動させる第2転動計算を行う第2転動計算ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法によれば、境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して、複数のパターンで転動させたシミュレーション結果を別々に取得することができる。すなわち、境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して第1のパターンで転動させた第1転動計算ステップによって得られるシミュレーション結果と、境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して第2のパターンで転動させた第2転動計算ステップによって得られるシミュレーション結果と、を得ることができる。境界条件付与ステップによって得られる計算結果を共通して利用するため、タイヤモデル作成ステップ及び境界条件付与ステップを別々に実行するシミュレーション方法に比べて、計算工数を縮減して効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法を実行するためのシミュレーション装置を示す概略図である。
【図2】タイヤ性能予測のシミュレーションの流れを示すフローチャートである。
【図3】タイヤモデル及び路面モデルを模式的に示した図である。
【図4】タイヤモデルの転動計算の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)シミュレーション装置、(2)タイヤ性能予測処理、(3)タイヤモデルの転動計算処理、(4)作用・効果、(5)その他の実施形態について説明する。
【0013】
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なのものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0014】
(1)シミュレーション装置
まず、本実施形態に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法を実行するためのシミュレーション装置について説明する。図1は、当該シミュレーション装置としてのコンピュータ300を示す概略図である。
【0015】
図1に示すように、コンピュータ300は、半導体メモリやハードディスク等の記憶部(不図示)、CPU等の処理部(不図示)を有する本体部310と、キーボードやマウス等の入力部320と、液晶モニタ等の表示部330とを有する。
【0016】
コンピュータ300は、本実施形態に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法を実行するためのシミュレーションプログラムを実行する。例えば、コンピュータ300は、シミュレーションプログラム等を記録した外部記憶媒体からシミュレーションプログラム等を読み出して実行してもよい。あるいは、コンピュータ300の記憶部に格納(インストール)されたシミュレーションプログラム等を読み出して実行してもよい。コンピュータ300は、ネットワークを介してシミュレーションプログラム等を取得して実行してもよい。
【0017】
(2)タイヤ性能予測処理
次に、本実施の形態に係るタイヤ性能予測処理について説明する。本実施の形態においては、タイヤの接地面における物理的特性を予測する解析手法としてFEM(Finite Element Method:有限要素法) を使用する。なお、タイヤの物理的特性予測に適用できる解析手法はFEに限られず、BEM(Boundary Element Method:境界要素法)、FDM(Finite Differences Method:有限差分法)等も使用できる。予測対象の構造体や境界条件等によって最も適当な解析手法を選択し、又は複数の解析手法を組み合わせて使用することが好ましい。
【0018】
ステップ100では、タイヤ挙動予測の対象となるタイヤの設計案(タイヤ形状、構造、材料など)を定める。具体的には、タイヤのタイヤサイズ、形状、構造、材料、トレッドパターン等を定める。
【0019】
ステップ102では、タイヤモデルを作成する。このタイヤモデルの作成は、用いる数値解析手法により若干異なる。本実施の形態では数値解析手法として有限要素法(FEM)を用いるものとする。従って、上記ステップ102で作成するタイヤモデルは、有限要素法(FEM)に対応した要素分割(所謂メッシュ分割)によって複数の要素に分割され、タイヤを数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムヘのインプットデータ形式に数値化したものをいう。詳細は後述するが、要素分割とはタイヤ、及び路面等の対象物を小さな幾つかの(有限の)小部分である小六面体(ボクセル)に分割することをいう。この小部分ごとに計算を行い全ての小部分について計算した後、全部の小部分を足し合わせることにより全体の応答を得ることができる。
【0020】
上記タイヤモデルを作成した後には、ステップ104へ進み、路面の設定すなわち路面モデルの作成と共に路面状態の入力がなされる。このステップ104では、路面をモデル化し、そのモデル化した路面を実際の路面状態に設定するために入力するものである。路面のモデル化は、路面形状を要素分割してモデル化し、路面の摩擦係数μを選択設定することで路面状態を入力する。例えば、路面状態により乾燥(DRY)、濡れ(WET)、氷上、雪上、非舗装等に対応する路面の摩擦係数μが存在するので、摩擦係数μについて適正な値を選択することで、実際の路面状態を再現させることができる。図3は、タイヤモデル100と路面モデル200とを模式的に示した図である。
【0021】
なお、流体モデルを作成して、路面とタイヤモデルの間に設けても良い。流体モデルは、タイヤの一部(または全部)および接地面、タイヤが移動・変形する領域を含む流体領域を分割し、モデル化するものであり、タイヤモデルと流体モデルは一部重なって定義されることが好ましい。
【0022】
このようにして、路面状態の入力がなされると、次いて、ステップ106として、境界条件設定ステップが実行される。この境界条件とは、タイヤモデルに解析上すなわちタイヤの挙動をシミュレートする上で必要なものであり、タイヤモデルに付与する各種条件である。境界条件は、例えば、タイヤモデル100と路面モデル200とが接触する条件が挙げられる。上記ステップ106の境界条件の設定では、少なくともタイヤモデルにタイヤ内圧と荷重とを付与する。なお、本実施の形態では、タイヤ内圧と荷重とを付与しているが、その他の境界条件を付与するように構成してもよい。
【0023】
境界条件設定ステップS106の後、転動計算ステップが実行される(ステップ107)。転動計算ステップは、トレッドパターンモデル設定ステップにおいて設定されたトレッドパターンモデルを予め設定された初期境界条件の下で平滑路面モデル上を転動させる転動計算を実行する。
【0024】
例えば、転動計算ステップでは、タイヤモデルに予め定めた内圧と負荷荷重とが与えられた状態で、タイヤモデルが路面モデル上を一方向に直進するような回転変位が与えられる。転動計算ステップで実行される転動計算には、制動時の転動条件も含む。なお、転動計算ステップについては、後述にて詳細に説明する。
【0025】
次に、ステップ107までに作成されたり設定されたりした数値モデルをもとに、解析としてのタイヤモデルの変形計算を行う。すなわち、境界条件の設定が終了すると、タイヤモデルの変形計算を行う。このステップ108では、タイヤモデルおよび与えた境界条件より、有限要素法に基づいてタイヤモデルの変形計算を行う。この変形計算は、タイヤ転動時の状態を得るために(過渡的な状態を得るために)、タイヤモデルの変形計算を繰り返し(例えば1msec以内の計算を繰り返して行い)、その度に境界条件を更新するようにしてもよい。また、変形計算は、タイヤ変形が定常状態となることを想定した予め定めた計算時間を採用することができる。次のステップ110では、上述の計算結果を出力する。この計算結果とは、タイヤ変形時のせん断変形量、せん断応力分布、及びトレッド部の摩耗期待値などの物理量を採用することができる。
【0026】
(3)タイヤモデルの転動計算処理
以下において、上述のタイヤ性能予測のシミュレーション方法におけるタイヤモデルの転動計算処理について、図4を参照して説明する。タイヤモデルの転動計算処理は、境界条件設定ステップによって得られる計算結果に対して、複数の転動パターンでタイヤモデルを転動させる転動計算を実行する。本実施の形態では、第1パターン及び第2パターンによってタイヤモデルを転動させる転動計算を実行した後、第3パターン又は第4パターンでタイヤモデルを転動させて計算した転動計算結果を得るように構成されている。
【0027】
まず、タイヤモデルを路面モデル上において第1のパターンで転動させる第1転動計算を行うか否かを判定する(ステップ1071)。ステップ1071においてYESと判定された場合には、境界条件設定ステップによって得られる計算結果に対して、第1転動計算ステップを実行する(ステップ1072)。この第1パターンは、一方向に向かって直進する転動パターンであり、具体的には正転方向の転動パターンである。
【0028】
一方、ステップ1071においてNOと判定された場合には、境界条件設定ステップ106によって得られる計算結果に対して、路面モデル200上において第2パターンでタイヤモデルを転動させる第2転動計算を行う第2転動計算ステップ1073を実行する(ステップ1073)。この第2パターンは、一方向と逆方向に向かって直進する転動パターンであり、具体的には逆転方向の転動パターンである。
【0029】
次いで、ステップ1072の後、タイヤモデル100を路面モデル200上において第3のパターンで転動させる第3転動計算を行うか否かを判定する(ステップ1074)。ステップ1074においてYESと判定された場合には、ステップ1072において得られる計算結果に対して、路面モデル200上において第3パターンでタイヤモデルを転動させる第3転動計算を行う第3転動計算ステップを実行する(ステップ1075)。この第3パターンは、進行方向に対して右のスリップ角で転動させる転動パターンである。
【0030】
一方、ステップ1074においてNOと判定された場合には、ステップ1072において得られる計算結果に対して、路面モデル200上において第4パターンでタイヤモデルを転動させる第4転動計算を行う第4転動計算ステップを実行する(ステップ1077)。この第4パターンは、進行方向に対して左のスリップ角で転動させる転動パターンである。
【0031】
また、第2転動計算ステップによって得られた計算結果に対しても、第3パターンで転動させる転動計算と、第4パターンで転動させる転動計算とを実行する。すなわち、第2転動計算ステップの後、タイヤモデル100を路面モデル200上において第3のパターンで転動させる第3転動計算を行うか否かを判定する(ステップ1079)。ステップ1079においてYESと判定された場合には、ステップ1073において得られる計算結果に対して、路面モデル200上において第3パターンでタイヤモデル100を転動させる第3転動計算を行う第3転動計算ステップを実行する(ステップ1081)。この第3パターンは、進行方向に対して右のスリップ角で転動させる転動パターンである。
【0032】
一方、ステップ1079においてNOと判定された場合には、ステップ1073において得られる計算結果に対して、路面モデル200上において第4パターンでタイヤモデル100を転動させる第4転動計算を行う第4転動計算ステップを実行する(ステップ1083)。この第4パターンは、進行方向に対して左のスリップ角で転動させる転動パターンである。
【0033】
このようにして、第1パターンで転動させた後に第3パターンで転動させた転動計算結果Aと、第1パターンで転動させた後に第4パターンで転動させた転動計算結果Bと、第2パターンで転動させた後に第3パターンで転動させた転動計算結果Cと、第2パターンで転動させた後に第4パターンで転動させた転動計算結果Dと、を得ることができる。
【0034】
(4)作用・効果
本実施の形態に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法によれば、境界条件設定ステップによって得られる共通の計算結果に対して、複数のパターンで転動させた転動計算を実行するため、転動計算工程を一部共通しつつ、異なるパターンのシミュレーション結果を取得することができる。
【0035】
具体的には、4つの転動計算結果A〜Dは、境界条件設定ステップによって得られる共通の計算結果を用いて計算を実行している。4つの転動計算結果A〜Dを得るために境界条件設定ステップまでの計算を複数回実行する場合と比較して、計算工数を縮減することができる。また、第1パターンで転動させた計算結果を用いて、2つの転動パターン(第3パターン及び第4パターン)で転動させた転動計算を実行しており、転動計算結果Aと転動計算結果Bとは、第3転動計算ステップと第4転動計算ステップ以外のステップが共通化されている。よって、計算工数を縮減し、タイヤ性能予測方法に効率化を図ることができる。
【0036】
(5)その他の実施形態
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例が明らかとなる。例えば、本発明の実施形態は、次のように変更することができる。
【0037】
例えば、本実施の形態では、第1転動計算ステップにおいてタイヤモデルを正転方向に転動させる転動計算を実行し、かつ第2転動計算ステップにおいてタイヤモデルを逆転方向に転動させる転動計算を実行しているが、例えば、第1転動計算ステップにおいて進行方向に対して右のスリップ角で転動させる転動計算を実行し、かつ第2転動計算ステップにおいてタイヤモデルを進行方向に対して左のスリップ角で転動させる転動計算を実行してもよいし、第1転動計算ステップにおいて転動方向への回転トルクをタイヤモデルに対して付与して転動させる進行方向に対して右のスリップ角で転動させる転動計算を実行し、かつ第2転動計算ステップにおいて進行方向に対して右のスリップ角で転動させる転動計算を実行してもよい。
【0038】
また、本実施の形態では、第3転動計算ステップにおいて進行方向に対して右のスリップ角で転動させる転動計算を実行し、第4転動計算ステップにおいてタイヤモデルを進行方向に対して左のスリップ角で転動させる第4転動計算を実行するように構成されているが、例えば、第3転動計算ステップにおいて転動方向への回転トルクをタイヤモデルに対して付与して転動させる転動計算を実行し、かつ第4転動計算ステップにおいて転動方向と逆方向への回転トルクをタイヤモデルに対して付与して転動させる転動計算を実行してもよいし、第3転動計算ステップにおいてタイヤモデルを正転方向に転動させる転動計算を実行し、かつ第4転動計算ステップにおいてタイヤモデルを逆転方向に転動させる転動計算を実行してもよい。
【0039】
更に、本実施の形態では、第1転動計算ステップにおいて得られる計算結果に対して第3転動計算及び第4転動計算を実行するように構成されているが、例えば、第1転動計算ステップにおいて得られる計算結果に対して第3転動計算及び第4転動計算を実行することに加えて、転動方向への回転トルクをタイヤモデルに対して付与して転動させる第5転動計算を実行し、かつ転動方向と逆方向への回転トルクをタイヤモデルに対して付与して転動させる第6転動計算を実行するように構成してもよい。
【0040】
また、本実施の形態では、進行方向に対して右のスリップ角の転動パターンと、進行方向に対して左のスリップ角と、によってタイヤモデルを転動させる転動計算を実行しているが、スリップ角の有無やスリップ角が異なる転動パターンでタイヤモデルを転動させて、タイヤの性能を予測するように構成してもよい。
【0041】
また、ポジティブキャンバやネガティブキャンバがついて転動するパターンの計算を実施し、タイヤ性能を予測するように構成してもよい。
【0042】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0043】
本実施の形態に係るタイヤ性能予測のシミュレーション方法によってタイヤ性能予測処理を実行した。実施例と比較例において転動計算処理を異ならせ、計算工数を比較評価した。転動計算処理は、転動計算ステップにおいて、第1転動計算ステップ又は第2転動計算ステップを実行した後、第3転動計算ステップ(進行方向に対して右のスリップ角)、第4転動計算ステップ(進行方向に対して左のスリップ角)、第5転動計算ステップ(転動方向の回転トルク)、及び第6転動計算ステップ(逆転方向の回転トルク)を実行し、転動計算結果A〜Hを得るように構成した。
【0044】
比較例に係るシミュレーション方法は、転動計算結果毎に、タイヤモデル作成処理、境界条件設定処理、第1転動計算処理又は第2転動計算処理、及び第3転動計算処理〜第6転動計算処理のうちいずれか1つの処理、すなわち4工程を実行した。一方、実施例に係るシミュレーション方法は、8つの転動計算処理全てにおいて、タイヤモデル作成処理及び境界条件設定処理を共通化し、その境界条件設定処理において得られた計算結果に対して、第1転動計算処理又は第2転動計算処理を実行する。そして、第1転動計算処理において得られた計算結果を共通化し、この共通化した計算結果に対して第3計算処理〜第6計算処理をそれぞれ実行して、転動計算結果A〜Dを得た。また、第2転動計算処理において得られた計算結果を共通化し、この共通化した計算結果に対して第3転動計算処理〜第6転動計算処理をそれぞれ実行して、転動計算結果E〜Hを得た。実施例と比較例との計算工数の比較評価を表1に示す。
【表1】

【0045】
表1に示すように、比較例に係るシミュレーション方法の計算工数100に対して、実施例に係るシミュレーション方法の計算工数は、80であり、計算工数が縮減できることがわかった。すなわち、効率よくシミュレーションを実行できることがわかった。
【符号の説明】
【0046】
100…タイヤモデル、 200…路面モデル、 300…コンピュータ、 310…本体部、 320…入力部、 330…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限個の要素で形成されるタイヤモデルを路面モデルに対して転動させて、タイヤの性能を予測するタイヤ性能予測のシミュレーション方法であって、
タイヤを有限個の要素に分割した複数の要素でモデル化したタイヤモデル及び路面モデルを作成するモデル作成ステップと、
少なくともタイヤ内圧及び荷重を含む境界条件を前記タイヤモデルに設定する境界条件設定ステップと、
前記境界条件設定ステップによって得られる計算結果に対して、前記路面モデル上において前記タイヤモデルを第1パターンで転動させる第1転動計算を行う第1転動計算ステップと、
前記境界条件付与ステップによって得られる計算結果に対して、前記路面モデル上において前記タイヤモデルを前記第1パターンと異なる第2パターンで転動させる第2転動計算を行う第2転動計算ステップと、を備える、タイヤ性能予測のシミュレーション方法。
【請求項2】
前記第1パターンは、一方向に向かって直進する転動パターンであって、
前記第2パターンは、一方向と逆方向に向かって直進する転動パターンである、請求項1に記載のタイヤ性能予測のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記第1転動計算ステップによって得られる計算結果に対して、前記タイヤモデルを進行方向に対して右のスリップ角で転動させる第3転動計算を行う第3転動計算ステップと、
前記第1転動計算ステップによって得られる計算結果に対して、前記タイヤモデルを進行方向に対して左のスリップ角で転動させる第4転動計算を行う第4転動計算ステップと、を備える、請求項1又は請求項2に記載のタイヤ性能予測のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第1転動計算ステップによって得られる計算結果に対して、前記転動方向への回転トルクを前記タイヤモデルに対して付与して転動させる第5転動計算を行う第5転動計算ステップと、
前記第1転動計算ステップによって得られる計算結果に対して、前記転動方向と逆方向への回転トルクを前記タイヤモデルに対して付与して転動させる第5転動計算を行う第5転動計算ステップと、を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載のタイヤ性能予測のシミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1308(P2013−1308A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136300(P2011−136300)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】