説明

タイヤ摩耗予測方法及びタイヤ摩耗予測装置

【課題】航空機に用いられるタイヤの摩耗量を高精度に予測することが可能なタイヤ摩耗予測方法及びタイヤ摩耗予測装置を提供する。
【解決手段】 タイヤ摩耗予測方法は、航空機に用いられるタイヤの摩耗量を予測する。タイヤ摩耗予測方法は、使用条件に応じて区分けされた複数の走行状態の各々に対応する複数の摩耗エネルギーEnを取得するステップAと、前記複数の摩耗エネルギーEnと、前記複数の走行状態の各々の使用頻度とを前記複数の走行状態別に乗算するとともに、乗算結果を積算してタイヤに蓄積される全摩耗エネルギーEAを算出するステップBと、前記全摩耗エネルギーEAに基づいて、前記航空機用タイヤの摩耗量を算出するステップCとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ、特に航空機に用いられるタイヤの摩耗量を予測するタイヤ摩耗予測方法及びタイヤ摩耗予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの開発において、数値解析手法や計算機環境の発達により、実際に空気入りタイヤを製造し、自動車に装着して走行試験を行わなくても、新たに設計した空気入りタイヤの摩耗といったタイヤ性能の予測・評価が可能になってきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、乗用車用タイヤの摩耗予測手法として、歪みゲージによって前後方向の応力(せん断力)とすべり量とを測定する測定装置を用いて、タイヤの摩耗予測を行う手法が開示されている。具体的に、特許文献1に係る方法では、タイヤの定常走行時(自由転動時)、旋回走行時、加速走行時、減速走行時など、それぞれの走行状態ごとの前後方向の応力(せん断力)とすべり量とを測定する。なお、摩擦エネルギーは、せん断力とすべり量との乗算によって算出されることから、測定結果に基づいて、各々の走行状態における摩擦エネルギーの予測値を算出する。また、かかる方法では、算出した各々の摩擦エネルギーの予測値と、車両の実走行によって取得した実測値とに基づいて補正係数を算出する。かかる方法では、補正係数に基づいて、摩擦エネルギーの予測値を補正するとともに、補正後の各々の摩擦エネルギーの総和をタイヤの摩耗量の予測に用いることで、予測精度を向上させている。また、より高精度なデータ採取を目的に特許第4198610号に記載の方法等も提案されている。
【0004】
このようなタイヤ摩耗予測方法を用いて、空気入りタイヤの設計・製造・評価といった開発サイクルの一部を数値解析で置き換えることで、空気入りタイヤの開発期間の短縮を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−001723号公報
【特許文献2】特許第4198610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、航空機に用いられるタイヤは、空港の滑走路面において、着陸時、プッシュバック走行、タクシー走行などの走行状態によって使用される。特に、着陸時には、タイヤに急激な加速及びすべりなどが発生する。
【0007】
従来技術に係る方法では、このような航空機に用いられるタイヤの走行状態、特に着陸時の走行状態に応じた摩耗エネルギーの予測値を高精度に取得することは困難であった。よって、航空機に用いられるタイヤを対象として摩耗量を高精度に予測することが難しく、対応策が望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、航空機に用いられるタイヤの摩耗量を高精度に予測することが可能なタイヤ摩耗予測方法及びタイヤ摩耗予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した問題を解決するにあたって、発明者等は、まず、航空機に用いられるタイヤの摩耗を予測するため、タイヤの走行状態ごとに区別すべき摩耗エネルギーの予測方法をについて検討した。その結果、発明者等は、例えば、タッチダウン時などを含む複数の走行状態別に、摩耗エネルギーの予測方法を区別すべきであることを発見した。
【0010】
かかる知見を踏まえ、本発明は以下の特徴を備える。すなわち、本発明の第1の特徴は、航空機用タイヤの摩耗を予測するタイヤ摩耗予測方法であって、使用条件に応じて区分けされた複数の走行状態の各々に対応する複数の摩耗エネルギーEnを取得するステップA(ステップS120)と、前記複数の摩耗エネルギーEnと、前記複数の走行状態の各々の使用頻度とを前記複数の走行状態別に乗算するとともに、乗算結果を積算してタイヤに蓄積される全摩耗エネルギーEAを算出するステップB(ステップS130)と、前記全摩耗エネルギーEAに基づいて、前記航空機用タイヤの摩耗量を算出するステップC(ステップS140)とを含むことを要旨とするものである。
【0011】
本発明の第1の特徴に係るタイヤ摩耗予測方法では、複数の摩耗エネルギーEnと、前記複数の走行状態の各々の使用頻度とを前記複数の走行状態別に乗算するとともに、乗算結果を積算してタイヤに蓄積される全摩耗エネルギーEAを算出するとともに、全摩耗エネルギーEAに基づいて、タイヤの摩耗量を予測する。
【0012】
このように、タイヤ摩耗予測方法によれば、タッチダウン時などの複数の走行状態を区別して、タイヤの摩耗を予測するので、区別しない場合と比べて、タイヤの摩耗量を高精度に予測できる。このように、タイヤ摩耗予測方法によれば、航空機に用いられるタイヤの摩耗量を高精度に予測することができる。
【0013】
本発明の第2の特徴は、上記特徴に係り、前記複数の走行状態は、前記航空機用タイヤが着陸した時点T1から、タイヤ回転速度がピークとなる時点T2までの走行状態を示すタッチダウン走行状態と、前記航空機用タイヤが前記時点T2から、最初の制動状態が終了する時点T3までの走行状態を示すタッチダウン後減速走行状態と、前記時点T3から次の離陸まで期間に、航空機に外力が働かずに走行する走行状態を示すタクシー走行状態と、航空機が特殊車両に牽引されて走行する走行状態を示すプッシュバック走行状態とを含み、前記タクシー走行状態は、前記航空機用タイヤに外力が働かずに転動することによって、前記航空機が直進に走行する走行状態を示すフリーローリング走行状態と、前記航空機用タイヤに制動力が付与されて走行する走行状態を示す減速走行状態と、前記航空機用タイヤが旋回して走行する走行状態を示す旋回走行状態とを含むことを要旨とする。
【0014】
本発明の第3の特徴は、上記特徴に係り、前記ステップAは、前記複数の摩耗エネルギーEnとして、前記タッチダウン走行状態の一度の着陸当たりの摩耗エネルギーE1と、前記タッチダウン後減速走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE2と、前記フリーローリング走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE3と、前記減速走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE4と、前記旋回走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE5と、前記プッシュバック走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE6とを取得するステップを含み、前記ステップBでは、前記複数の走行状態の各々に対応する使用頻度として、前記タッチダウン走行状態の回数TDと、前記タッチダウン後減速走行状態の走行距離L1と、前記フリーローリング走行状態の走行距離L2と、前記減速走行状態の走行距離L3と、前記旋回走行状態の走行距離L4と、前記プッシュバック走行状態の走行距離L5とを取得するステップと、前記全摩耗エネルギーEAを、EA=E1×TD+E2×L1+E3×L2+E4×L3+E5×L4+E6×L5の計算式を用いて算出するステップとを含むことを要旨とする。
【0015】
本発明の第4の特徴は、上記特徴に係り、前記航空機用タイヤは、複数のリブ列を有しており、前記ステップBでは、リブ列ごとに前記全摩耗エネルギーEAnを算出する
ことを要旨とする。
【0016】
本発明の第5の特徴は、前記ステップAでは、前記航空機用タイヤが着陸した時点T1からタイヤ回転速度がピークとなる時点T2までの走行状態を示すタッチダウン走行状態において、一度の着陸当たりのリブ列の摩耗エネルギーE1を取得するステップを含み、前記摩耗エネルギーE1を取得するステップは、試験機を用いて前記タッチダウン走行状態を再現することによって、前記時点T1から前記時点T2までの期間を時間軸に沿って分割した複数の微小区間において、各微小区間にタイヤトレッド面の踏面全体に付与される第1接線力を取得するステップと、前記各微小区間における各リブ列の接地面積に比例させて、前記第1接線力を分配することにより、前記各微小区間における各リブ列の第2接線力を取得するステップと、前記第2接線力を剪断力として用いて、前記各微小区間における各リブ列の摩耗エネルギーを算出するステップと、前記各微小区間におけるリブ列ごとの摩耗エネルギーを積分することによって、タッチダウン走行状態の一度の着陸あたりの各リブ列の摩耗エネルギーE1を取得するステップとを含むことを要旨とする。
【0017】
本発明の第6の特徴は、前記ステップCでは、摩耗抵抗指数Glを取得するステップと、前記全体摩耗エネルギーEに前記摩耗抵抗指数Glを乗算して、摩耗量の予測値を算出するステップとを含むことを要旨とする。
【0018】
本発明の第7の特徴は、タイヤ摩耗予測装置であって、上記のタイヤ摩耗予測方法を実行することを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、航空機に用いられるタイヤの摩耗を高精度に予測することが可能なタイヤ摩耗予測方法及びタイヤ摩耗予測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法に関わる処理を説明するフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態に係る走行状態別の摩耗エネルギーE1乃至E6を取得する処理を説明するフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態に係る摩耗エネルギーE1を取得する処理を説明するフローチャートである。
【図4】図4は、本実施形態に係る測定装置を用いて測定された各種測定結果を示すグラフ図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る空気入りタイヤにおけるトレッド部を平面視した際の一部展開図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る全摩耗エネルギーEAを取得する処理を説明するフローチャートである。
【図7】図7は、本実施形態に係るタイヤの摩耗量予測値を算出する処理を説明するフローチャートである。
【図8】図8は、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法を実行するタイヤ摩耗予測装置の構成図である。
【図9】図9は、実施例に係るサンプルタイヤ1に対して、本発明に係るタイヤ摩耗予測方法に基づいて算出した摩耗エネルギーEの算出結果を示すグラフ図である。
【図10】図10は、実施例に係るサンプルタイヤ2に対して、本発明に係るタイヤ摩耗予測方法に基づいて算出した、摩耗エネルギーEの算出結果を示すグラフ図である。
【図11】図11は、実施例に係る評価結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なのものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0022】
[第1実施形態]
まず、本発明に係るタイヤ摩耗予測方法の第1実施形態について説明する。具体的には、(1)タイヤ摩耗予測方法、(2)タイヤ摩耗予測装置、(3)作用・効果について説明する。
【0023】
(1)タイヤ摩耗予測方法
本実施形態に係るタイヤ摩耗予測装置は、タイヤ摩耗予測方法により、タイヤ摩耗予測値を算出する。具体的には、タイヤ摩耗予測装置は、空気入りタイヤ(以下、単にタイヤとも示す)のトレッド部における摩擦エネルギーに基づいて、タイヤの摩耗量の予測値を算出する。なお、本実施形態において、予測対象とするタイヤは、航空機に用いられる航空機用タイヤであり、空港の滑走路において、着陸、プッシュバック走行、タクシー走行を行う際に用いられるものを想定している。また、タイヤは、トレッド部において、タイヤ周方向に延びる一つ以上の周方向溝と、当該周方向溝によって区画されることによって形成される複数のリブ列とを備えている。以下に、タイヤの摩耗を予測するタイヤ摩耗予測方法について説明する。
【0024】
(1.1)タイヤ摩耗予測方法の概要
図1を参照して、本実施形態にかかるタイヤ摩耗予測方法の概要について説明する。図1は、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法による処理を説明するフローチャートである。
【0025】
ステップS120において、タイヤ摩耗予測装置は、航空機用タイヤの使用条件に応じて区分けされた複数の走行状態の各々に対応する複数の摩耗エネルギーEnを取得する。なお、摩耗エネルギーEnは、単位面積当りの摩擦エネルギーであり、単位はkgf/cm(SI単位系ではN/m)である。
【0026】
ここで、本実施形態において、航空機用タイヤの使用条件に応じて区分けされた複数の走行状態には、タッチダウン走行状態と、タッチダウン後減速走行状態と、タクシー走行状態と、プッシュバック走行状態が含まれる。
【0027】
タッチダウン走行状態は、航空機用タイヤが着陸した時点T1から、タイヤ回転速度がピークとなる時点T2までの走行状態を示す。
【0028】
タッチダウン後減速走行状態は、航空機用タイヤが前記時点T2から、最初の制動状態が終了する時点T3までの走行状態を示す。
【0029】
タクシー走行状態は、最初の制動状態が終了する時点T3から次の離陸まで期間に、航空機に外力が働かずに走行する走行状態を示す。また、タクシー走行状態には、フリーローリング走行状態と、減速走行状態と、旋回走行状態とが含まれる。
【0030】
フリーローリング走行状態は、航空機用タイヤに外力が働かずに転動することによって、前記航空機が直進に走行する走行状態を示す。減速走行状態は、航空機用タイヤに制動力が付与されて走行する走行状態を示す。旋回走行状態は、航空機用タイヤが旋回して走行する走行状態を示す。
【0031】
プッシュバック走行状態は、航空機が特殊車両に牽引されて走行する走行状態を示す。なお、ステップS120における処理は、詳細を後述する。
【0032】
ステップS130において、タイヤ摩耗予測装置は、複数の摩耗エネルギーEnと、複数の走行状態の各々の使用頻度とを複数の走行状態別に乗算するとともに、乗算結果を積算して、航空機用タイヤに蓄積される全摩耗エネルギーEAを算出する。
【0033】
ここで、本実施形態において、複数の走行状態の各々に対応する使用頻度は、タッチダウン走行状態の回数TD、タッチダウン後減速走行状態の走行距離L1、フリーローリング走行状態の走行距離L2、減速走行状態の走行距離L3、旋回走行状態の走行距離L4、プッシュバック走行状態の走行距離L5を含む。なお、ステップS130における処理は、詳細を後述する。
【0034】
ステップS140において、タイヤ摩耗予測装置は、全摩耗エネルギーEAに基づいて、タイヤの摩耗量を予測する。具体的に、全摩耗エネルギーEAに基づいて、タイヤ全体の摩耗量予測値を算出する。なお、ステップS140における処理は、詳細を後述する。
【0035】
(1.2)走行状態に対応する摩耗エネルギーの取得方法
次に、図2を参照して、上述したステップS120において、複数の走行状態の各々に対応する複数の摩耗エネルギーEnを取得する処理の詳細を説明する。図2は、本実施形態に係る複数の摩耗エネルギーEnを取得する処理を説明するフローチャートである。
【0036】
ステップS121において、タイヤ摩耗予測装置は、タッチダウン走行状態の摩耗エネルギーE1を取得する。摩耗エネルギーE1は、タッチダウン走行状態を再現可能な測定装置を用いることにより、取得される。なお、ステップS121の詳細は、後述する。
【0037】
ステップS122において、タイヤ摩耗予測装置は、タッチダウン後減速走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE2を取得する。タッチダウン後減速走行状態とは、タッチダウン後に車輪に対して制動トルクを加えることで路面とタイヤの間に制動力を発生させる走行状態を示す。
【0038】
例えば、タイヤ摩耗予測装置は、タイヤ速度を高速(例えば、310km/h)の状態から、制動力を付与して減速走行を行う場合の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE2を取得する。
【0039】
ここで、単位走行距離当たりの摩耗エネルギーは、特開2001−001723号公報に記載の台上摩耗エネルギー測定装置を用いて取得することや、特開平7−63658号公報に記載のタイヤ踏面の接地部測定装置を用いて取得することができる。特開平7−63658号公報の方法を例に挙げると、接地部測定装置を用いて、滑り量S(cm)を測定すると共に、路面に設けられている3成分力変換器を用いて剪断力τ(kgf/cm2)を測定することができる。なお、特開平7−63658号公報にも記載されているように、タイヤ踏面の摩擦仕事量eは下記式で算出できる。
【数1】

【0040】
従って、接地部測定装置10によって測定された滑り量Sと剪断力τとを用いて、上記式によりタイヤ踏面の摩擦仕事量を算出し、摩擦仕事量eを摩耗エネルギーとして用いることができる。なお、滑り量Sと剪断力τとを測定する方法については、特開平7−63658号公報等に開示されている方法を用いることができる。
【0041】
タイヤ摩耗予測装置は、このような測定装置を用いて測定された摩耗エネルギーE2を取得する。
【0042】
ステップS123において、タイヤ摩耗予測装置は、タクシー走行時において、フリーローリング走行状態となるタイヤの単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE3を取得する。ここで、タクシー走行時のフリーローリング走行状態とは、タイヤに外力が働かず、単に転動しているのみの状態を示す。
【0043】
摩耗エネルギーE3は、例えば、特開2001−001723号公報に記載の手法を用いて測定することができる。具体的には、タイヤを回転自在の状態にするとともに、タイヤを接地台に航空機装着時の荷重にほぼ等しい荷重を与えて接地させるとともに、タイヤ接地台を水平方向に移動してタイヤを転動させることにより測定できる。
【0044】
ステップS124において、タイヤ摩耗予測装置は、タクシー走行時において、減速走行状態となるタイヤの単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE4を取得する。ここで、タクシー走行時の減速走行状態とは、速度調整のために、車軸に制動トルクを加えることで路面とタイヤの間に制動力を発生させる走行状態を示す。
【0045】
例えば、タイヤ摩耗予測装置は、タイヤ速度を低速(例えば、30km/h)の状態から、制動力を付与して減速走行を行う場合の摩耗エネルギーE4を取得する。なお、摩耗エネルギーE2との測定方法の違いは、速度が遅い点だけであり、当該測定方法と同様の手法によって測定することができる。
【0046】
ステップS125において、タイヤ摩耗予測装置は、タクシー走行時において、旋回走行状態となるタイヤの単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE5を取得する。ここで、タクシー走行時の旋回走行とは、ターミナルから離着陸路までの間に機体が曲がることでタイヤに横方向入力が発生する状態を示す。
【0047】
なお、摩耗エネルギーE5は、タイヤが旋回走行状態、つまり航空機の進行方向に対してタイヤにスリップ角が与えられて走行している時に生じるタイヤの摩耗エネルギーである。このような旋回走行状態における摩耗エネルギーE5も、上述した特開平7−63658号公報の方法を用いて測定することが可能である。
【0048】
ステップS126において、タイヤ摩耗予測装置は、プッシュバック走行状態となるタイヤの単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE6を取得する。ここで、プッシュバック走行とは、格納庫から機体を出すときなどに、タイヤに対して、通常の旋回時より大きなスリップ角がタイヤに付与される状態である。このような航空機がプッシュバック走行状態における摩耗エネルギーE6も、上述した特開平7−63658号公報の方法を用いて測定することが可能である。
【0049】
(1.3)タッチダウン走行状態における摩耗エネルギーの取得方法
次に、図3を参照して、上述したステップS121において、タッチダウン走行状態におけるタイヤの摩耗エネルギーE1を取得する処理の詳細を説明する。図3は、本実施形態に係る摩耗エネルギーE1を取得する処理を説明するフローチャートである。
【0050】
まず、ステップS1211において、タイヤ摩耗予測装置は、タッチダウン走行状態におけるタイヤを再現可能な装置による測定結果に基づいて、タッチダウン時のタイヤ速度の経時変化を示す速度情報と、タッチダウン時のタイヤ荷重の経時変化を示す荷重情報と、タッチダウン時のスリップ率の経時変化を示すスリップ率情報とを取得する。
【0051】
具体的に、ドラム式操縦性試験機を測定装置として用いて、航空機の着陸時と同等程度の条件をタイヤに付与する試験を行い、速度情報と、荷重情報と、スリップ率情報とを取得する。なお、測定装置としてのドラム式操縦性試験機は、航空機用タイヤの荷重と速度に耐えられる性能を有していれば、どのようなドラム試験機を用いてもよい。
【0052】
測定方法としては、着陸時相当の周速で回転するドラムに対し、無回転状態のタイヤを軸フリーの状態で規定の荷重が発生するまで一定速度で押し付ける。押し付け速度は、実際の着陸時にタイヤが路面に押し付けられる速度と同等としている。
【0053】
速度情報とは、ドラム上を走行するタイヤの表面速度の時間変化を示す情報である。荷重情報とは、ドラム上を走行するタイヤにかかる荷重の時間変化を示す情報である。スリップ率情報とは、タイヤの転がり半径をr、回転角速度ω、ドラム周速度Vとして、下記1式によって表されるスリップ率Sの時間変化を示す情報である。
【数2】

【0054】
ここで、図4は、測定装置を用いて、上述した試験によって測定された各種測定結果を示すグラフ図である。なお、同図において、横軸は、タイヤがドラム面に接地した時点T1を“0”とした経過時間(sec)を示し、縦軸は、それぞれの測定値の単位を示す。同図に示すように、測定装置は、タイヤ速度、ドラム速度、タイヤ荷重、表面温度、接線力などが測定可能である。また、同図に示すように、本実施形態において、タッチダウン時Ttdは、着陸時にタイヤが接地した時点T1から、タイヤ速度がピークを迎える時点T2までの期間である。
【0055】
タイヤ摩耗予測装置は、測定装置を用いて測定を行うことによって、同図に示される各種情報を取得することができる。なお、これらの情報は、従来から用いられているドラム式操縦性試験機によって測定可能な情報である。
【0056】
ステップS1212において、タイヤ摩耗予測装置は、タイヤの摩擦係数を取得する。具体的に、タイヤ摩耗予測装置は、タイヤの動摩擦係数μを取得する。
【0057】
ステップS1213において、タイヤ摩耗予測装置は、タイヤが接地する時点T1から時点T2までの期間を時間軸に沿って分割した複数の微小区間において、各微小区間にタイヤトレッド面の踏面全体に付与される第1接線力を取得する。具体的に、タイヤ摩耗予測装置は、タッチダウン時Ttdを微小区間dtに分割する。なお、微小区間dtは、小さいほど精度は向上するが、タイヤがドラムに接地した時点T1から加速度が“0”になる時点T2までの期間の1/5以下の期間であれば十分な精度が確保できる。
【0058】
また、タイヤ摩耗予測装置は、荷重情報から微小区間dtごとのタイヤ荷重値Wdtを抽出する。このとき、タイヤ摩耗予測装置は、微小区間dtに対応するタイヤ荷重値のデータ数が複数ある場合、平均値を算出することで、一のタイヤ荷重値Wdtを取得する。
【0059】
また、タイヤ摩耗予測装置は、下記の1式に基づいて、微小区間dtにタイヤに付与される第1接線力Fdtを算出する。なお、下記式において、μは、タイヤの動摩擦係数を示す。
【数3】

【0060】
なお、上記式において、第1接線力を算出する際に、静止摩擦係数でなく、動摩擦係数μを取得するのは、次の理由による。すなわち、タイヤがドラムの接地面に接地した際には、瞬時に静止摩擦領域から動摩擦領域に移行するためである。
【0061】
ステップS1214において、タイヤ摩耗予測装置は、各微小区間dtにおける各リブ列の接地面積に比例させて、第1接線力Fdtを分配することにより、各微小区間における各リブ列の第2接線力Fndtを取得する。
【0062】
ここで、図5には、本実施形態に係る空気入りタイヤにおけるトレッド部を平面視した際の一部展開図が示されている。
【0063】
図5に示すように、本実施形態に係るタイヤのトレッド部には、タイヤ周方向Tcに延びる8つの周方向溝10と、周方向溝に区画されることによって形成されるリブ列20が形成されている。具体的に、トレッド部には、センターリブ列21と、センターリブ列21のトレッド幅方向Tw外側に形成されるリブ列22乃至29が設けられている。なお、トレッド部のパターンは、タイヤ赤道線CLを中心に線対称に形成されている。
【0064】
また、同図に示すように、タイヤが着陸時のタッチダウン時Ttdに路面に接地する際、タイヤの接地面積は、接地を開始した時点T1(時間“0”)近傍においては、センターリブ列21の接地面Z21と、リブ列22の接地面Z22と、リブ列26の接地面Z26とを含む接地領域Zaであるが、接地面積は、時間の経過に伴って、接地領域Zbまで広がっていく。
【0065】
また、微小区間dtにおける接地面積は、タイヤ荷重Wdtの増加に応じて広がっていく。具体的に、タッチダウン時Ttdにおいて、時間の経過した微小区間dtほど、タイヤ荷重Wdtが増加していくため、接地面積が広がっていく。また、タイヤ荷重Wdtの増加が安定すると、接地面積は、最大の接地領域Zbにおいて広がりが止まる。
【0066】
また、このような場合、タッチダウン時Ttdにおいは、第1接線力Fdtが付与される接地面積が広がっていくことになる。かかる点を考慮して、タイヤ摩耗予測装置は、微小区間dtにおける第1接線力Fdtを、リブ列21乃至29の接地面の各々に付与される第2接線力Fdtに分配する。リブ列21乃至29の接地面の各々の第2接線力Fdtは下記式によって示される。
【数4】

【0067】
なお、上記式において、Zdtは、微小区間dtにおけるタイヤ全体の接地面積Zdtを示す。また、タイヤ摩耗予測装置は、荷重情報に基づいて、微小区間dtのタイヤ荷重dtを抽出し、抽出したタイヤ荷重dtに対応するタイヤ全体の接地面積Zdtを取得する。なお、この接地面積Zdtは、正規内圧の空気入りタイヤに付与するタイヤ荷重に基づいて測定可能であるため、微小区間dtにおけるタイヤ荷重Wdtごとに接地面積Zdtを予め測定しておくことが好ましい。また、正規内圧は、TRA(米国タイヤリム協会)による規定に準拠することが好ましい。
【0068】
また、Zは、各々のリブ列20ごとの接地面における接地面積Zを示す。なお、nは、各々のリブ列20の接地面の数に応じて付されており、図5の例では、9つのリブ列20が形成されているので、“1〜9”の数値が該当する。
【0069】
このようにして、タイヤ摩耗予測装置は、微小区間dtにおける第1接線力Fdtを、リブ列21乃至29の接地面の各々に対応する第2接線力Fdtに分配する。
【0070】
ステップS1215において、タイヤ摩耗予測装置は、第2接線力Fdtと、スリップ率情報と、タイヤ速度情報とに基づいて、微小区間dtにおけるリブ列21乃至29ごとに摩耗エネルギーE1dtを算出する。具体的に、タイヤ摩耗予測装置は、上述した2式に基づいて、微小区間dtごとのスリップ率Sdtを算出する。また、微小区間dtごとの摩耗エネルギーE1dtは、下記式によって算出される。
【数5】

【0071】
なお、上記式において、Sdtは、微小区間dtにおけるスリップ率Sdtを示し、Vdtは、タイヤ速度Vdtを示す。つまり、タイヤ摩耗予測装置は、スリップ率Sdtにタイヤ速度Vdtを乗算することで、すべり量を算出する。また、上記1式に示すように、一般に摩耗エネルギーは、剪断力が用いられるが、本実施形態では、上記式に示すように、第2接線力Fdtを剪断力として用いて、各微小区間dtにおける各リブ列の摩耗エネルギーE1dtを算出する。
【0072】
ステップS1216において、タイヤ摩耗予測装置は、各微小区間dtにおけるリブ列ごとの摩耗エネルギーE1dtを積分することによって、タッチダウン走行状態の一度の着陸あたりの各リブ列の摩耗エネルギーE1を取得する。具体的に、タイヤ摩耗予測装置は、タッチダウン時Ttdと微小区間dtとの関係に基づいて、摩耗エネルギーE1dtを積分し、タッチダウン時Ttdにおけるリブ列20の接地面の摩耗エネルギーE1を算出する。なお、摩耗エネルギーE1は、各々のリブ列21乃至29の接地面ごとに算出される。摩耗エネルギーE1は、下記式によって算出される。
【数6】

【0073】
(1.4)全体摩耗エネルギーを算出する処理
次に、全体摩耗エネルギーEを算出するステップS130の処理について具体的に説明する。
【0074】
ステップS131において、タイヤ摩耗予測装置は、複数の走行状態の使用頻度を取得する。具体的に、タイヤ摩耗予測装置は、着陸回数TDを取得するとともに、走行距離L1乃至L5を取得する。これらの情報は、実際に航空機が走行した実走行記録から取得することが好ましい。なお、走行距離L1乃至L5は、シミュレーションによって、取得してもよい。
【0075】
ステップS132において、タイヤ摩耗予測装置は、複数の走行状態に対応する摩耗エネルギーE1乃至E6と、複数の走行状態に対応する使用頻度とを、複数の走行状態別に乗算するとともに、乗算結果を積算して、タイヤに蓄積される全摩耗エネルギーEAを算出する。具体的に、タイヤ摩耗予測装置は、下記の式に基づいて、全摩耗エネルギーEAを算出する。なお、全摩耗エネルギーEAは、リブ列ごとに算出され、全摩耗エネルギーEAn(リブ列をn)として算出される。
【数7】

【0076】

(1.5)摩耗量予測値の算出方法
次に、図6を参照して、上述したステップS140において、摩耗エネルギーEnに基づいて、タイヤの摩耗量予測値を算出する処理を説明する。図6は、本実施形態に係るタイヤの摩耗量予測値を算出する処理を説明するフローチャートである。
【0077】
ステップS141において、タイヤ摩耗予測装置は、タイヤのトレッド部に配置されるトレッドゴムの摩耗抵抗指数Glを取得する。具体的に、JIS K6264で規定されているランボーン摩耗試験によって、摩耗寿命の予測を行なうタイヤ(例えば、タイヤサイズ1400×530×R23のタイヤ)のトレッド部のゴムと同等のゴムサンプルの標準気温(例えば、25°C)における摩耗抵抗指数Glを求めて、タイヤ摩耗予測装置に入力する。
【0078】
ステップS142において、タイヤ摩耗予測装置は、摩耗エネルギーEnと摩耗抵抗指数Glを乗算して、タイヤの摩耗量予測値を算出する。
【0079】
具体的に、タイヤ摩耗予測装置は、摩耗抵抗指数Glと、摩耗エネルギーEの逆数1/Eとの乗算結果を摩耗速度(Gl/E)として算出する。ここで、nは、各々のリブ列21乃至29の接地面の数に応じて付された数である。つまり、このとき、タイヤ摩耗予測装置は、各々のリブ列21乃至29の接地面ごとの摩耗速度(Gl/E)を算出する。また、タイヤ摩耗予測装置は、各々の摩耗速度に対して、空気入りタイヤの使用期間Mを乗算して、各々のリブ列21乃至29の接地面ごとの摩耗量の予測値D(=M(Gl/E))を算出する。
【0080】
なお、タイヤ摩耗予測装置は、タイヤの摩耗寿命を予測することができる。タイヤ摩耗予測装置は、摩耗速度(Gl/E)に対して、タイヤ棄却限界に至るまでの残溝の深さを乗算した値に基づいて、タイヤの摩耗寿命を予測することができる。なお、タイヤ棄却限界に至るまでの残溝の深さは、トレッド部に形成される周方向溝10の深さNSDから、タイヤの棄却限界とされる1.0mmを減算した値を用いることが好ましい。
【0081】
具体的には、タイヤ摩耗予測装置は、各々のリブ列21乃至29毎の摩耗寿命予測値Tlを下記式によって算出することによって、タイヤの摩耗寿命を予測することができる。
【数8】

【0082】
なお、上記の式では、タイヤの棄却限界を1.0mmとした場合を例に挙げているが、これに限定されず、適切な値を設定してもよい。
【0083】
(2)タイヤ摩耗予測装置
図7には、本発明の実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法を実行するタイヤ摩耗予測装置(シミュレーション装置)としてのコンピュータ300の概略が示されている。同図に示すように、コンピュータ300は、半導体メモリー、ハードディスクなどの記憶部(不図示)、処理部(不図示)などを備えた本体部310と、入力部320と、表示部330とを備える。処理部は、図1乃至7を用いて説明した空気入りタイヤのタイヤ摩耗予測方法に関わる処理を実行する。
【0084】
コンピュータ300は、図示しないが着脱可能な記憶媒体と、この記憶媒体に対して書き込み・読み出しを可能にするドライバが備えられていてもよい。図1乃至7を用いて説明した空気入りタイヤのタイヤ摩耗予測方法に関わる処理を実行するプログラムを予め記憶媒体に記録しておき、記憶媒体から読み出されたプログラムを実行してもよい。コンピュータ300の記憶部にプログラムを格納(インストール)して実行してもよい。コンピュータ300は、図示しないが、例えば、ネットワークに接続可能であってもよい。ネットワークを介して、タイヤ摩耗予測方法に関わる処理を実行するプログラムを取得してもよい。
【0085】
(3)作用・効果
本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法では、複数の走行状態の各々に対応する複数の摩耗エネルギーE1乃至E6と、複数の走行状態の各々の使用頻度とを走行状態別に乗算するとともに、乗算結果を積算してタイヤに蓄積される全摩耗エネルギーEAを算出するとともに、全摩耗エネルギーEAに基づいて、タイヤの摩耗量を予測する。
【0086】
このように、タイヤ摩耗予測方法によれば、複数の走行状態を区別して、タイヤの摩耗を予測するので、区別しない場合と比べて、タイヤの摩耗量を高精度に予測できる。
【0087】
また、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法では、ドラム式操縦性試験機による測定結果に基づいて、着陸時におけるタッチダウン時の速度情報と荷重情報とスリップ率情報とを取得するとともに、これらの情報に基づいて、タッチダウン走行状態における一度の着陸あたりの摩耗エネルギーE1を算出する。
【0088】
このように、かかるタイヤ摩耗予測方法によれば、タッチダウン走行状態、すなわち、タイヤに急激な加速及びスリップが発生するタイヤの摩耗エネルギーE1と、タッチダウン時以外の走行状態における摩耗エネルギーE2乃至E6とを区別して、タイヤの摩耗量を予測するので、区別せずに単に着陸時などのように予測する場合と比べて、タイヤの摩耗量を高精度に予測できる。
【0089】
また、かかるタイヤ摩耗予測方法によれば、タッチダウン走行状態における摩耗エネルギーE1を算出する際、摩擦係数(動摩擦係数)μと、速度情報と、荷重情報と、スリップ率情報とを取得するとともに、これらの情報に基づいて、タッチダウン時Ttdの微小区間dtにおける第1接線力Fdtを算出する。タイヤ摩耗予測方法では、タイヤ全体に付与される第1接線力Fdtに対して、タイヤ接地面を区分けしたリブ列21乃至29の接地面積と微小区間dtの接地面積Zdtの接地面積との比例関係に基づいて、リブ列21乃至29ごとに、第2接線力Fdtを算出する。また、タイヤ摩耗予測方法では、第2接線力Fdtとスリップ率情報とタイヤ速度情報とに基づいて、微小区間dtにおける摩耗エネルギーE1dtを算出する。タイヤ摩耗予測方法では、摩耗エネルギーE1dtを積分して、リブ列21乃至29の接地面ごとに摩耗エネルギーE1を算出する。
【0090】
このように、タイヤ摩耗予測方法では、着陸時において、タイヤ速度、タイヤ荷重、スリップ率、タイヤの接地面積などが経時変化することを考慮して、タッチダウン走行状態における摩耗エネルギーE1を算出するので、より実際の状況に即した精度の高い摩耗予測を行うことができる。
【0091】
また、かかるタイヤ摩耗予測方法によれば、着陸時の直後のタッチダウン後減速走行状態と、タクシー走行時の旋回走行状態、減速走行状態、フリーローリング走行状態と、プッシュバック走行状態との各々の走行状態を区別して、単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE2乃至E6を算出するので、使用条件が異なる各々の走行状態を区別していない場合と比べて、より精度の高い摩耗予測を行うことができる。
【0092】
また、タイヤ摩耗予測方法によれば、摩耗エネルギーE1nと着陸回数TDとを乗算し、単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE2乃至E6と、各々の走行状態に対応する走行距離L1乃至5とを乗算するとともに、乗算結果を積算して全摩耗エネルギーEAnを算出する。すなわち、タイヤ摩耗予測方法によれば、着陸回数TD及び走行距離L1乃至5を補正値として用いて、全摩耗エネルギーEnを算出するので、着陸回数TD及び走行距離L1乃至5を用いていない場合と比べて、より精度の高い全摩耗エネルギーEnを算出することができる。
【0093】
以上のように、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法によれば、航空機に用いられるタイヤの摩耗量を高精度に予測することができる。
【0094】
また、タイヤ摩耗予測方法では、従来技術のように、実測によって取得した実測値に基づいて、補正処理を行うことが不要になり、タイヤ摩耗予測における処理の効率化を図ることができる。
【0095】
更に、タイヤ摩耗予測方法では、上述した全摩耗エネルギーEAと、摩耗抵抗指数Glに基づいて、摩耗量予測値を算出するので、タイヤの棄却限界の周方向溝10の深さに至るまでの摩耗寿命予測を精度よく行うことができる。
【0096】
また、タイヤ摩耗予測方法によれば、ドラム式操縦性試験機などの測定装置によって測定が可能な情報に基づいて、摩耗エネルギーE1乃至E6を取得できるので、実際に市場走行を行わずに、タイヤの摩耗量の予測を効率よく実施することができる。
【0097】
[その他の実施形態]
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例が明らかとなる。例えば、本発明の実施形態は、次のように変更することができる。
【0098】
例えば、上述した実施形態では、空気入りタイヤとして、航空機に用いられるタイヤを一例として挙げて説明したが、これに限定されない。本実施形態に係る摩耗予測方法は、例えば、速度が急激に上昇、又は、下降するタイヤや、非常に大きなスリップが発生するタイヤなどの摩耗予測に有用である。
【0099】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0100】
[実施例]
次に、本発明の効果を更に明確にするために、以下の実施例に係るタイヤ摩耗予測方法を用いて行った比較評価について説明する。
【0101】
(1)実施例の説明
まず、2つのサンプルタイヤ1乃至2を準備し、各々のサンプルタイヤ1乃至2に対して、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法によって算出された全摩耗エネルギーEAnを算出した。なお、nは、各々のリブ列の接地面の数に応じて付された数値である。
【0102】
また、サンプルタイヤ1は、構造がバイアス構造のものを用いた。サンプルタイヤ1は、トレッド部において、7本のリブ列が設けられているものを用いた。サンプルタイヤ2は、構造がラジアル構造のものを用いた。サンプルタイヤ2は、トレッド部において、7本のリブ列が設けられているものを用いた。
【0103】
また、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法において、摩耗エネルギーE1は、下記の条件によって測定した速度情報と、荷重情報と、スリップ率情報とを用いて算出した。
【0104】
・ タイヤサイズ : 1400X530R23
・ リムサイズ : 23inch
・ 内圧条件 : 1440kPa
・ 測定装置 :ドラム式操縦性試験機
・ 測定方法 :着陸時相当の周速で回転するドラムに対し、無回転状態のタイヤを軸フリーの状態で規定の荷重が発生するまで一定速度で押し付ける試験である。押し付け速度は実際の着陸時にタイヤが路面に押し付けられる速度と同等としている。
【0105】
また、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法において、摩耗エネルギーE2乃至6は、下記の条件によって測定した。
【0106】
・ タイヤサイズ : 1400X530R23
・ リムサイズ : 23inch
・ 内圧条件 : 1440kPa
・ 測定装置 :特許第4198610号に準ずる測定装置
・ 測定方法 :特許第4198610号に準ずる
また、図9は、サンプルタイヤ1に対して、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法に基づいて算出した、摩耗エネルギーEの算出結果を示すグラフ図である。図10は、サンプルタイヤ2に対して、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法に基づいて算出した、摩耗エネルギーEの算出結果を示すグラフ図である。なお、図9乃至10において、センターリブ列が“リブ列1”であり、センターリブ列からトレッド幅方向Tw外側に形成されるリブ列ほど、番号が大きくなるように付与されている。
【0107】
(2)評価方法
サンプルタイヤ1乃至2に対して、本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法に基づいて算出した摩耗エネルギーEの算出結果と、実測値による摩耗量とを比較して、評価を行った。
【0108】
ここで、摩耗量Dと摩耗エネルギーEとは、摩耗量D=(摩耗抵抗指数Gl*溝深さNSB)/摩耗エネルギーEの関係がある。ここで、摩耗抵抗指数Glと、溝深さNSBとは、一定値(定数)であるため、実測値の摩耗量と予測値の摩耗エネルギーに比例の相関関係があれば、予測値の精度が高いことになる。
【0109】
よって、サンプルタイヤ1乃至2の摩耗エネルギーEと、約300回離着陸を実施した空気入りタイヤの実測値による摩耗量とにおいて、比例の相関関係が見られるか否かを評価した。
【0110】
(3)評価結果
本実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法によって算出したサンプルタイヤ1乃至2の摩耗エネルギーEと、実測値による摩耗量Dとによる評価結果について、図10を参照しながら説明する。図10には、評価結果を示すグラフ図が示されている。なお、同図において、横軸は、摩耗エネルギーを示し、縦軸は、摩耗量を示す。
【0111】
また、同図においては、実施形態に係るタイヤ摩耗予測方法によって算出したサンプルタイヤ1乃至2の各々のリブ列における摩耗エネルギーEを横軸に対応させてプロットし、サンプルタイヤ1乃至2の各々のリブ列における実測値によるタイヤの摩耗量Dを縦軸に対応させてプロットした。
【0112】
同図に示すように、本実施形態に係る方法に基づいて算出した摩耗エネルギーEと、実測によって測定したタイヤの摩耗量Dとの間に、略比例の相関関係が見られた。
【0113】
したがって、本発明に係るタイヤ摩耗予測方法は、タイヤの摩耗量を高精度に予測できることが証明された。
【符号の説明】
【0114】
CL…タイヤ赤道線、Za…接地領域、Zb…接地領域、Z21…接地面、Z22…接地面、Z26…接地面、Tc…タイヤ周方向、Tw…トレッド幅方向、10…周方向溝、21…センターリブ列、22〜29…リブ列、300…コンピュータ、310…本体部、320…入力部、330…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用タイヤの摩耗を予測するタイヤ摩耗予測方法であって、
使用条件に応じて区分けされた複数の走行状態の各々に対応する複数の摩耗エネルギーEnを取得するステップAと、
前記複数の摩耗エネルギーEnと、前記複数の走行状態の各々の使用頻度とを前記複数の走行状態別に乗算するとともに、乗算結果を積算してタイヤに蓄積される全摩耗エネルギーEAを算出するステップBと、
前記全摩耗エネルギーEAに基づいて、前記航空機用タイヤの摩耗量を算出するステップCとを含む
ことを特徴とするタイヤ摩耗予測方法。
【請求項2】
前記複数の走行状態は、
前記航空機用タイヤが着陸した時点T1から、タイヤ回転速度がピークとなる時点T2までの走行状態を示すタッチダウン走行状態と、
前記航空機用タイヤが前記時点T2から、最初の制動状態が終了する時点T3までの走行状態を示すタッチダウン後減速走行状態と、
前記時点T3から次の離陸まで期間に、航空機に外力が働かずに走行する走行状態を示すタクシー走行状態と、
航空機が特殊車両に牽引されて走行する走行状態を示すプッシュバック走行状態とを含み、
前記タクシー走行状態は、
前記航空機用タイヤに外力が働かずに転動することによって、前記航空機が直進に走行する走行状態を示すフリーローリング走行状態と、
前記航空機用タイヤに制動力が付与されて走行する走行状態を示す減速走行状態と、
前記航空機用タイヤが旋回して走行する走行状態を示す旋回走行状態とを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ摩耗予測方法。
【請求項3】
前記ステップAは、前記複数の摩耗エネルギーEnとして、
前記タッチダウン走行状態の一度の着陸当たりの摩耗エネルギーE1と、
前記タッチダウン後減速走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE2と、
前記フリーローリング走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE3と、
前記減速走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE4と、
前記旋回走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE5と、
前記プッシュバック走行状態の単位走行距離当たりの摩耗エネルギーE6とを取得するステップを含み、
前記ステップBでは、前記複数の走行状態の各々に対応する使用頻度として、
前記タッチダウン走行状態の回数TDと、
前記タッチダウン後減速走行状態の走行距離L1と、
前記フリーローリング走行状態の走行距離L2と、
前記減速走行状態の走行距離L3と、
前記旋回走行状態の走行距離L4と、
前記プッシュバック走行状態の走行距離L5とを取得するステップと、
前記全摩耗エネルギーEAを、EA=E1×TD+E2×L1+E3×L2+E4×L3+E5×L4+E6×L5の計算式を用いて算出するステップとを含む
ことを特徴とする請求項2に記載のタイヤ摩耗予測方法。
【請求項4】
前記航空機用タイヤは、複数のリブ列を有しており、
前記ステップBでは、リブ列ごとに前記全摩耗エネルギーEAを算出する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のタイヤ摩耗予測方法。
【請求項5】
前記ステップAでは、
前記航空機用タイヤが着陸した時点T1からタイヤ回転速度がピークとなる時点T2までの走行状態を示すタッチダウン走行状態において、一度の着陸当たりのリブ列の摩耗エネルギーE1を取得するステップを含み、
前記摩耗エネルギーE1を取得するステップは、
試験機を用いて前記タッチダウン走行状態を再現することによって、前記時点T1から前記時点T2までの期間を時間軸に沿って分割した複数の微小区間において、各微小区間にタイヤトレッド面の踏面全体に付与される第1接線力を取得するステップと、
前記各微小区間における各リブ列の接地面積に比例させて、前記第1接線力を分配することにより、前記各微小区間における各リブ列の第2接線力を取得するステップと、
前記第2接線力を剪断力として用いて、前記各微小区間における各リブ列の摩耗エネルギーを算出するステップと、
前記各微小区間におけるリブ列ごとの摩耗エネルギーを積分することによって、タッチダウン走行状態の一度の着陸あたりの各リブ列の摩耗エネルギーE1を取得するステップとを含む
ことを特徴とする請求項4に記載のタイヤ摩耗予測方法。
【請求項6】
前記ステップCでは、
摩耗抵抗指数Glを取得するステップと、
前記全体摩耗エネルギーEに前記摩耗抵抗指数Glを乗算して、摩耗量の予測値を算出するステップとを含む
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のタイヤ摩耗予測方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のタイヤ摩耗予測方法を実行するタイヤ摩耗予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−113724(P2013−113724A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260404(P2011−260404)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】