説明

タイヤ用ゴム組成物およびそれからなるタイヤ

【課題】タイヤのグリップ性能および車の操縦安定性に優れるタイヤの製造を可能にするタイヤ用ゴム組成物およびそれからなるタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分100重量部に対して、
化学式(I)
【化1】


で示されるオキサゾリン基を有する重合体を0.1〜30重量部含有するタイヤ用ゴム組成物、およびそれからなるタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリップ性能および操縦安定性を向上させたタイヤの製造を可能にするタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の運動性能の向上および高馬力化、ならびに高速道路の整備などに伴い、安全性に対する意識も高まっている。とりわけ、加速性能やブレーキ性能に代表されるグリップ性能は重要な要求特性である。
【0003】
従来より、グリップ性能を向上させる手法として、スチレン量およびビニル量を上昇させたスチレンブタジエンゴムをゴム成分として使用することにより得られたゴム組成物のガラス転移点を向上させる方法が知られている。しかし、この場合、耐摩耗性が低下する、あるいは低温時においてタイヤのグリップ性能が低下し、タイヤが脆化して破壊されるという問題があった。
【0004】
また、オイルなどの軟化剤を多量に配合する手法がよく知られている。しかし、耐摩耗性が低下するという問題があった。
【0005】
グリップ性能、耐摩耗性の両方を改善する手法として、微粒子のカーボンブラックを多量に使う手法も知られているが、過剰量のカーボンブラックを用いた場合、カーボンブラックの分散不良が生じるため、耐摩耗性が逆に低下するという問題があった。
【0006】
ほかに、ゴム組成物にタングステンなどの無機化合物を添加する手法(特許文献1参照)やアクリル系樹脂を添加する手法(特許文献2参照)およびウレタン系粒子を添加する手法(特許文献3参照)などが提案されているが、充分なグリップ性能および操縦安定性を示すタイヤ用ゴム組成物はいまだに得られていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2000−319447号公報
【特許文献2】特開2002−80642号公報
【特許文献3】特開2002−97303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、タイヤのグリップ性能および車の操縦安定性に優れるタイヤの製造を可能にするタイヤ用ゴム組成物およびそれからなるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム成分100重量部に対して、化学式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
で示されるオキサゾリン基を有する重合体を0.1〜30重量部含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0012】
前記重合体の主鎖骨格が、スチレン重合体および/またはアクリル重合体であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分100重量部に対して、プロトン酸および/またはフェノール誘導体を0.1〜30重量部含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記タイヤ用ゴム組成物からなるタイヤに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オキサゾリン基を含む重合体を配合することにより、タイヤのグリップ性能を向上させ、さらに優れた車の操縦安定性を示すタイヤ用ゴム組成物、およびそれからなるタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分、および化学式(I)
【0017】
【化2】

【0018】
で示されるオキサゾリン基を有する重合体(以下、重合体1とする)からなる。
【0019】
ゴム成分としては、一般的にタイヤ工業において使用するゴム成分があげられ、とくにポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系合成ゴムが好ましい。なかでも、グリップ性能および耐摩耗性をバランスよく向上させることから、ゴム成分としてはSBRが好ましい。これらのゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ゴム成分中にSBRを含有する場合、ゴム成分中におけるSBRの含有率は50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。含有率が50重量%未満では、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。SBRの含有率は100重量%とすることがとくに好ましい。
【0021】
重合体1の重量平均分子量は2000以上であることが好ましく、5000以上であることがより好ましい。重量平均分子量が2000未満では、ゴム中から重合体1がブルームし、グリップ性能および操縦安定性が低下する傾向がある。また、重合体1の重量平均分子量は200000以下であることが好ましく、180000以下であることがより好ましい。重量平均分子量が200000をこえると、ゴム中における重合体1の分散が悪くなり強度が低下する傾向がある。
【0022】
重合体1中のオキサゾリン基の含有数はオキサゾリン価(g solid/eq.)で表される。オキサゾリン価とはオキサゾリン基1モル当たりの重合体の重量のことであり、オキサゾリン価が大きいほど重合体中のオキサゾリン含有量は多くなる。
【0023】
重合体1のオキサゾリン価は100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましい。オキサゾリン価が100未満では、重合体1がブルームし、グリップ性能および操縦安定性が低下する傾向がある。また、オキサゾリン価は5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましい。オキサゾリン価が5000をこえると、グリップ性能および操縦安定性の改善効果が見られない傾向がある。
【0024】
重合体1の主鎖骨格としては、具体的に、アクリル酸塩、不飽和ニトリル、不飽和アミド、ビニルエステル、ビニルエーテル、α−オレフィン、ハロゲン含有α,β−不飽和脂肪族炭化水素、α,β−不飽和芳香族炭化水素などの重合体が挙げられる。たとえば、アクリル酸塩の重合体としてはアクリル重合体があげられ、また、不飽和芳香族炭化水素の重合体としては、スチレン重合体などがあげられる。なかでも生産性、コスト、加工性などの面から、スチレン重合体および/またはアクリル重合体であることが好ましい。
【0025】
前記主鎖骨格を重合体とすることによって、ゴム中からのブルームを抑制でき、グリップ性能および操縦安定性の低下を防ぐという優れた効果が得られる。
【0026】
重合体1の含有量は、ゴム成分100重量部に対して0.1重量部以上、好ましくは2重量部以上である。含有量が0.1重量部未満では、グリップ性能の改善効果が得られにくい。また、重合体1の含有量は30重量部以下、好ましくは20重量部以下である。含有量が30重量部をこえると、耐摩耗性が低下する。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、さらにプロトン酸および/またはフェノール誘導体を含有していることが好ましい。
【0028】
プロトン酸は、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸であることが好ましい。
【0029】
脂肪族カルボン酸としては、具体的に、酢酸、プロピオン酸、オレイン酸などの脂肪族モノカルボン酸、および琥珀酸、マレイン酸などの脂肪族ジカルボン酸があげられる。
【0030】
また、芳香族カルボン酸としては、具体的に、安息香酸、p−メトキシ安息香酸、p−クロロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸などの芳香族モノカルボン酸、およびフタル酸、無水フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族カルボン酸などがあげられる。
【0031】
プロトン酸としては、オキサゾリン基と相互作用することでグリップ性能および操縦安定性を改善する効果が得られることから、相互作用のより大きいものとして芳香族カルボン酸が好ましく、芳香族モノカルボン酸がより好ましい。
【0032】
フェノール誘導体としては、具体的には4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−メチルシクロヘキシルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2’−ブチリデン−ビス−(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−o−クレゾール)、4,4’−ジチオビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィドなどのようなビスフェノール誘導体、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール、アルキル化フェノール、シクロヘキシル化フェノール、1−オキシ−3−メチル−4−イソプロピルベンゼン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−sec−ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールなどのようなモノフェノール誘導体などが挙げられる。なかでも、フェノール誘導体としては、オキサゾリン基に対して少量でより効果的に相互作用がはたらき、高いグリップ性能および操縦安定性が得られることから、ビスフェノール誘導体であることが好ましい。
【0033】
フェノール誘導体は、プロトン酸と組み合わせて使用することもできる。
【0034】
プロトン酸および/またはフェノール誘導体の含有量は、ゴム成分100重量部に対して0.1重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましい。含有量が0.1重量部未満では、グリップ性能の改善効果が得られにくい傾向がある。また、芳香族カルボン酸および/またはフェノール誘導体の含有量は30重量部以下であることが好ましく、20重量部以下であることがより好ましい。含有量が30重量部をこえると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0035】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分、重合体1、ならびにプロトン酸および/またはフェノール誘導体に加えて、さらに、シリカ、カーボンブラックなどの補強用充填剤を含有することが好ましい。これらは2種以上組み合わせて用いてもよい。補強用充填剤としては、なかでも、カーボンブラックを主として含有することが好ましい。
【0036】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は80m2/g以上であることが好ましく、100m2/g以上であることがより好ましい。チッ素吸着比表面積が80m2/g未満では、グリップ性能および耐摩耗性がともに低下する傾向がある。また、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は280m2/g以下であることが好ましく、200m2/g以下であることがより好ましい。280m2/gをこえると、カーボンブラックの良好な分散が得られにくく耐摩耗性が低下する。
【0037】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100重量部に対して10重量部以上であることが好ましく、20重量部以上であることがより好ましい。含有量が10重量部未満では、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は200重量部以下であることが好ましく、150重量部以下であることがより好ましい。含有量が200重量部をこえると、ゴム組成物の加工性が低下する傾向がある。
【0038】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物には、ゴム成分、重合体1、ならびにプロトン酸および/またはフェノール誘導体、ならびに前記補強用充填剤以外にも、必要に応じてシランカップリング剤、ミネラルオイルなどの軟化剤、老化防止剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤、各種軟化剤、各種老化防止剤、ステアリン酸、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤などの通常のタイヤ工業で使用される添加剤を適宜配合することができる。
【0039】
本発明のタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、ゴム成分、重合体1、ならびにプロトン酸および/またはフェノール誘導体、必要に応じて前記補強用充填剤および添加剤を配合した本発明のタイヤ用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材、とくにトレッドの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを得る。
【0040】
本発明のタイヤは、高いグリップ性能を示し、なかでも、とくに高い性能が求められる競技用タイヤとすることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0042】
以下に、実施例および比較例で用いた各種薬品について説明する。
SBR:JSR(株)製のSBR1502
カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のショウブラックN220(チッ素吸着比表面積:125m2/g)
シリカ:デグッサ社製のウルトラシルVN3(チッ素吸着比表面積:210m2/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69
化合物A:(株)日本触媒製のエポクロスRPS(主鎖骨格:スチレン重合体、重量平均分子量:20000、オキサゾリン価:220)
化合物B:(株)日本触媒製のエポクロスWS(主鎖骨格:アクリル重合体、重量平均分子量:160000、オキサゾリン価:3700)
プロトン酸:安息香酸
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
【0043】
実施例1〜3および比較例
表1に示す硫黄、加硫促進剤以外の薬品を配合処方にしたがって、バンバリーミキサーを用いて120℃で5分間混練りし、そののち硫黄、加硫促進剤を加えて、ロール機を用いて50℃で5分間混練りして各種供試ゴム組成物を得た。
【0044】
得られた前記各種供試ゴム組成物を170℃で20分間プレス加硫して各種加硫物を得、下記の試験に用いた。
【0045】
(グリップ性能)
(株)上島製作所製のフラットベルト式摩擦試験機(FR5010型)を使用して、速度20km/h、荷重4kgf、外気温度30℃で路面に対するサンプルのスリップ率を0〜70%まで変化させ、その際に検出される摩擦係数のうち、最大のものの値を読み取った。そして、比較例の値を100とし、そのほかの値をそれぞれ指数表示した。なお、サンプルとしては、前記加硫物を幅20mおよび直径100mmの円筒形に成形したものを用いる。
【0046】
(操縦安定性)
前記加硫物からなるトレッドを有する215/45 R17のサイズのタイヤを作製し、アスファルト路面のテストコースにおいて該タイヤを装着した車による実車走行をおこなった。そして、その際における操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価した。なお、評価は5点満点でおこない、数値が大きいほど操縦安定性がよいことを示している(5;良い、4;やや良い、3;普通、2;やや悪い、1;悪い)。
【0047】
試験結果を表1に示す。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100重量部に対して、
化学式(I)
【化1】

で示されるオキサゾリン基を有する重合体を0.1〜30重量部含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記重合体の主鎖骨格が、スチレン重合体および/またはアクリル重合体である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
さらに、ゴム成分100重量部に対して、プロトン酸および/またはフェノール誘導体を0.1〜30重量部含有する請求項1または2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のタイヤ用ゴム組成物からなるタイヤ。

【公開番号】特開2006−219583(P2006−219583A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34182(P2005−34182)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】