説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】耐亀裂成長性を改善できるタイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤ、特にトレッド又はサイドウォールを提供する。
【解決手段】スチレンブタジエンゴムを主成分とするタイヤ用ゴム組成物。発泡剤により発泡させるか、超臨界流体を含浸させた後、温度及び圧力を臨界点以下に下げることにより発泡させるマイクロセルラー発泡により、平均気泡径が0.2〜20μmの独立気泡を含有し、発泡率が0.5〜6%である発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴムの破壊は、ゴム内の不均質構造による応力集中で生じた力が、ゴム強度を超えることで発生する。したがって、応力集中を低減することにより、ゴムが破壊されにくくなり、耐亀裂成長性を高めることが出来る。
【0003】
カーボンブラックやシリカなどの充填剤を減量することにより、ゴムの柔軟性が高くなり、応力集中を低減できるが、その一方で、補強性の低下によってゴム強度が低下し、良好な耐亀裂成長性が得られないおそれがある。このように、耐亀裂成長性を改善するためには、ゴム強度を維持しながら、応力集中を低減することが必要となる。
【0004】
特許文献1には、独立気泡を含有する発泡ゴムを用いて耐亀裂成長性を改善する方法が開示されている。しかし、耐亀裂成長性の更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−85303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、耐亀裂成長性を改善できるタイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均気泡径が0.2〜20μmの独立気泡を含有し、発泡率が0.5〜6%であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0008】
上記独立気泡がマイクロセルラー発泡で形成されたものであることが好ましい。
【0009】
上記ゴム組成物はスチレンブタジエンゴムを含有することが好ましい。
【0010】
上記ゴム組成物はトレッド又はサイドウォールに使用されることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定の平均気泡径の独立気泡を一定量含有するタイヤ用ゴム組成物であるので、耐亀裂成長性を改善でき、耐久性に優れた空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、平均気泡径が0.2〜20μmの独立気泡を含有し、発泡率が0.5〜6%である。特定の平均気泡径の独立気泡がゴム組成物中に一定量存在することで、柔軟性を高め、応力集中を低減することができる。また、充填剤を減量する必要がないため、良好な補強性を確保し、ゴム強度を維持することができる。その結果、良好な耐亀裂成長性が得られる。なお、ゴム組成物中に存在する気泡は独立気泡であることが必要であり、連続気泡では良好な性能が得られない。
【0014】
上記独立気泡の平均気泡径は、0.2μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。0.2μm未満であると、応力集中を充分に低減できないおそれがある。平均気泡径は、20μm以下、好ましくは14μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。20μmを超えると、柔軟性が高くなり過ぎて操縦安定性が悪化したり、ゴム強度が低下して良好な耐亀裂成長性が得られないおそれがある。
なお、独立気泡の平均気泡径は、後述する実施例の方法で測定できる。
【0015】
本発明のゴム組成物の発泡率は、0.5%以上、好ましくは0.8%以上、より好ましくは1%以上である。0.5%未満であると、応力集中を充分に低減できないおそれがある。発泡率は、6%以下、好ましくは5.5%以下、より好ましくは5%以下である。6%を超えると、柔軟性が高くなり過ぎて操縦安定性が悪化したり、ゴム強度が低下して良好な耐亀裂成長性が得られないおそれがある。
なお、発泡率は、後述する実施例の方法で算出できる。
【0016】
上記独立気泡を形成する方法としては特に限定されず、例えば、発泡剤を用いる方法が挙げられる。発泡剤としては、例えば、重炭酸アンモニウムなどの無機系発泡剤、アゾジカルボンアミドなどの有機系発泡剤などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、有機系発泡剤が好ましく、アゾジカルボンアミドがより好ましい。なお、発泡剤の反応温度は120℃以上とすることが好ましい。
【0017】
上記独立気泡を形成する好適な方法として、マイクロセルラー発泡が挙げられる。マイクロセルラー発泡により、微小な独立気泡が均一に分散したゴム組成物が得られるため、耐亀裂成長性の改善効果を高めることができる。
【0018】
マイクロセルラー発泡とは、発泡剤の代わりに超臨界流体を用いて発泡させる方法であり、具体的には、ゴム組成物に超臨界流体を含浸させた後、温度及び圧力を臨界点以下に下げることにより、ゴム組成物中に独立気泡を形成できる。
【0019】
超臨界流体とは、臨界点以上の温度及び圧力に保持された物質であり、気体の拡散性と液体の溶解性とを有している。超臨界流体として使用する物質は特に限定されず、例えば、二酸化炭素、水、窒素などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、二酸化炭素が好ましい。
【0020】
超臨界流体を含浸させる際の圧力は、超臨界流体として使用する物質の臨界圧力以上の圧力であればよい。二酸化炭素(臨界圧力:7.4MPa)の場合、効率良く含浸できるという点から、圧力は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは11MPa以上であり、好ましくは20MPa以下、より好ましくは14MPa以下である。同様の理由から、超臨界流体を含浸させる際の温度は、二酸化炭素(臨界温度:31℃)の場合、好ましくは35℃以上、より好ましくは38℃以上であり、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。
【0021】
超臨界流体は、ゴム組成物の加硫前に含浸させてもよいし、加硫後に含浸させてもよい。
加硫前に含浸させる場合は、例えば、未加硫ゴム組成物の押出工程において、未加硫ゴム組成物を充填した押出機に超臨界流体を注入しながら、押出しを実施すればよい(連続法)。この方法によれば、ゴム組成物が押出機から押し出された際に、独立気泡が形成される。また、加硫後に含浸させる場合は、例えば、超臨界流体として使用する物質を加硫ゴム組成物とともにオートクレーブなどの密閉容器に封入し、該物質の臨界点以上の温度及び圧力下で一定時間保持した後、密閉容器を開放すればよい(バッチ法)。この方法によれば、密閉容器を開放した際に、独立気泡が形成される。
【0022】
バッチ法の場合、ゴム組成物及び超臨界流体を密閉容器内で保持時間を変化させることにより、独立気泡が形成される範囲を調節することができる。保持時間が長くなるにつれて、独立気泡が形成される範囲が広くなる。本発明のゴム組成物をトレッドに使用する場合、ゴム組成物の表面から1cm以上の範囲で独立気泡が形成されていることが好ましい。超臨界流体として二酸化炭素を使用する場合、ゴム組成物の表面から1cm以上の範囲に独立気泡を形成するためには、保持時間を1時間程度にすればよい。
【0023】
本発明のゴム組成物が含有するゴム成分としては特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐亀裂成長性の改善効果が高いという点から、SBR、BRが好ましく、SBR及びBRの併用がより好ましい。
【0024】
SBR、BRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0025】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは55質量%以上である。また、SBRの含有量は、100質量%であってもよいが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。上記範囲内であれば、本発明の効果が良好に得られる。
【0026】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは35質量%以上である。また、BRの含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。上記範囲内であれば、本発明の効果が良好に得られる。
【0027】
ゴム成分100質量%中のSBR及びBRの合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であれば、本発明の効果が良好に得られる。
【0028】
本発明のゴム組成物には、上記成分以外にも、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、オイル、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業において一般的に使用される成分を配合できる。
【0029】
本発明のゴム組成物は、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで上記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。発泡剤を用いる場合、各成分の混練り時に発泡剤を混練りし、得られた未加硫ゴム組成物を発泡剤の反応温度以上で加硫することで、独立気泡を形成できる。また、マイクロセルラー発泡を用いる場合、上述の連続法、バッチ法などにより、独立気泡を形成できる。
【0030】
本発明のゴム組成物はタイヤの各部材に使用することができ、なかでも、トレッド、サイドウォールに好適に使用できる。
【0031】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて製造される。
すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッド等の形状に押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の空気入りタイヤを製造できる。独立気泡は、上述の本発明のゴム組成物と同様の方法で形成することができる。
【実施例】
【0032】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0033】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
スチレンブタジエンゴム(SBR):JSR(株)のSBR1503
ブタジエンゴム(BR):宇部興産(株)製のBR150B
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のシーストSO
シリカ:デグッサ・ヒュルス(株)製のウルトラシルVN3(BET比表面積:175m/g)
シランカップリング剤:デグッサ・ヒュルス(株)製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
ステアリン酸:日油(株)製の桐
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:フレキシス社製のサントフレックス13((N−1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤CBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
発泡剤(1):永和化成工業(株)製のビニホールAC♯LQ
発泡剤(2):永和化成工業(株)製のビニホールSE♯30
【0034】
実施例1〜9及び比較例1〜5
(株)神戸製鋼所製の1.7Lのバンバリーミキサーを用いて、表1の工程1に示す配合量の薬品を充填率が58%になるように投入して、回転数80rpmの条件下で、混練機の表示温度が150℃になるまで3〜8分混練りした。
次に、工程1により得られた混合物に対して、工程2に示す配合量の薬品を加え、オープンロールを用いて、50℃の条件下で3分混練りして、未加硫ゴム組成物を得た。
次に、工程2で得られた未加硫ゴム組成物をそれぞれの評価に必要なサイズに成形し、160℃で20分間プレス加硫することにより、加硫ゴム組成物を作製した。この工程で行った加硫により、発泡剤を添加した配合は、独立気泡が形成された。
実施例3、6及び9は、加硫ゴム組成物及びCOをオートクレーブ内に封入し、40℃、12MPaで1時間放置したあと、バルブを開放して常圧に戻すことにより、独立気泡を形成した(マイクロセルラー発泡)。
【0035】
上記加硫ゴム組成物を用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
(発泡率)
発泡前後のゴム組成物の比重を測定し、下記式により発泡率(%)を算出した。数値が大きいほど、体積あたりの独立気泡が多いことを示す。
(発泡率)=(発泡前の比重/発泡後の比重−1)×100
【0037】
(平均気泡径)
上記加硫ゴム組成物をカミソリで切断し、その断面をキーエンス社製のマイクロスコープVHX−1000を用いて1000倍で観察した。そして、観察した写真から、Media Cybernetics社製の画像処理ソフトImage−Proを用いて独立気泡の直径の平均値を算出した。
【0038】
(耐亀裂成長性)
上記加硫ゴム組成物を用いて1mm×50mm×20mmのゴムスラブシートを作製し、サンプル幅の2mmまでカミソリにてカットして初期亀裂を入れ、デマッチャ試験機を用いて繰り返し歪みを加えた。歪み率は5%、周波数は5Hz、サンプル温度は70℃とした。繰り返し歪みを加えてから亀裂成長長さが1mm程度になるまでの、初期の亀裂成長速度dc/dn(m/cycle)を測定した。なお、データはN=4の平均とした。測定結果は、下記計算式により指数表示した。数値が小さいほど、耐亀裂成長性に優れることを示す。
(耐亀裂成長性指数)=(各配合の亀裂成長速度/比較例1の亀裂成長速度)×100
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、特定の平均気泡径の独立気泡を一定量含有する実施例は、比較例と比較して、耐亀裂成長性が改善した。特に、マイクロセルラー発泡によって形成された微小な独立気泡を含有する実施例3、6、9は、耐亀裂成長性の改善効果が大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均気泡径が0.2〜20μmの独立気泡を含有し、
発泡率が0.5〜6%であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記独立気泡がマイクロセルラー発泡で形成されたものである請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
スチレンブタジエンゴムを含有する請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
トレッド又はサイドウォールに使用される請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−31231(P2012−31231A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169461(P2010−169461)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】