説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】環境への負荷が低く、シランカップリング剤とシリカとの反応率を向上させ、良好なウェットグリップ性能を維持しつつ、耐摩耗性、ゴム強度を向上できるタイヤ用ゴム組成物、及び該タイヤ用ゴム組成物をタイヤの各部材に用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤのウェットグリップ性能の向上を目的に、補強用充填剤としてシリカが使用されている。また、シリカだけでは充分な効果が得られないため、シリカと共に、シリカとゴム成分を結合させるシランカップリング剤が使用されている。
【0003】
シランカップリング剤とシリカとが反応するためには、シランカップリング剤が有するケイ素原子に結合しているアルコキシ基等が加水分解され、シラノール基が生成する必要がある。しかし、アルコキシ基等の加水分解反応は短時間で進行しないため、ゴムの混練工程においてアルコキシ基等の加水分解反応が充分に進行していなかった。そのため、シランカップリング剤とシリカとの反応率が低くなり、シリカの性能を最大限まで引き出せていなかった。そして、混練工程の後に行われる押出し工程において、未反応のシランカップリング剤が反応してアルコールを発生させ、ゴム内に気泡を発生させるという工程上の問題もあった。
【0004】
上記問題を解決する方法として、特許文献1〜3には、それぞれ四ホウ酸リチウム、四ホウ酸アンモニウム、酸化ホウ素をゴム組成物に配合することが開示されている。しかし、ホウ素化合物は、環境汚染を引き起こす可能性があるため、近年になって、その使用が制限されつつあり、他の方法の提供が求められている。また、マレイン酸樹脂については、詳細に検討されていなかった。
【0005】
一方、トレッドに使用されるゴム組成物には、ウェットグリップ性能の向上のために、シリカと共に水酸化アルミニウムが使用されている。しかし、水酸化アルミニウムを配合すると、耐摩耗性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−284505号公報
【特許文献2】特開2007−284506号公報
【特許文献3】特開2007−284507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、環境への負荷が低く、シランカップリング剤とシリカとの反応率を向上させ、良好なウェットグリップ性能を維持しつつ、耐摩耗性、ゴム強度を向上できるタイヤ用ゴム組成物、及び該タイヤ用ゴム組成物をタイヤの各部材に用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0009】
上記マレイン酸樹脂の酸価が150〜350mgKOH/gであることが好ましい。
【0010】
上記マレイン酸樹脂の軟化点が80〜160℃であることが好ましい。
【0011】
上記マレイン酸樹脂がエステル型ロジン変性マレイン酸樹脂であることが好ましい。
【0012】
上記タイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。
【0013】
上記タイヤ用ゴム組成物は、上記シランカップリング剤の含有量がシリカ100質量部に対して、3〜15質量部、上記マレイン酸樹脂の含有量がシリカ100質量部に対して、0.3〜15質量部、上記水酸化アルミニウムの含有量がゴム成分100質量部に対して、1〜60質量部であることが好ましい。
【0014】
上記タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを混練する第一ベース練り工程、上記第一ベース練り工程により得られた混練物1と、ステアリン酸と、酸化亜鉛とを混練する第二ベース練り工程、及び、上記第二ベース練り工程により得られた混練物2と、加硫剤と、加硫促進剤とを混練する仕上げ練り工程を含む製法により得られることが好ましい。
【0015】
上記第一ベース練り工程の混練温度が120〜160℃であることが好ましい。
【0016】
上記タイヤ用ゴム組成物は、トレッド用ゴム組成物として用いられることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【0018】
上記空気入りタイヤは、競技用タイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを含むタイヤ用ゴム組成物であるので、シランカップリング剤とシリカとの反応率を向上させ、良好なウェットグリップ性能を維持しつつ、耐摩耗性、ゴム強度を向上でき、該ゴム組成物をタイヤの各部材に使用することにより、上記性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。また、マレイン酸樹脂は、環境への負荷が低いため、環境へ配慮しつつ上記性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを含む。マレイン酸樹脂を配合することにより、シランカップリング剤とシリカとの反応率を向上させ、押出し工程でのアルコールの発生量を抑制すると共に、良好なウェットグリップ性能を維持しつつ、さらに、ホウ素化合物では向上できなかったゴム強度、耐摩耗性をも向上でき、タイヤの耐久性を向上できる。また、耐摩耗性の低下の原因となる水酸化アルミニウムを配合した場合であっても、マレイン酸樹脂を配合することにより、良好な耐摩耗性が得られる。
【0021】
本発明で使用できるゴム成分としては、特に限定されず、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、イソプレンブタジエンゴム等のジエン系ゴムが挙げられる。ジエン系ゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐摩耗性、ウェットグリップ性能、低燃費性を高度に両立できるという理由から、SBRが好ましい。
【0022】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。
【0023】
本発明のゴム組成物がSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%である。60質量%未満であると、充分なウェットグリップ性能、耐摩耗性が得られないおそれがある。
【0024】
本発明では、シリカが使用される。シリカを配合することにより、ウェットグリップ性能、耐摩耗性、ゴム強度、低燃費性が向上する。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0025】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、45m/g以上が好ましく、70m/g以上がより好ましく、100m/g以上が更に好ましく、150m/g以上が特に好ましい。45m/g未満では、補強性が低く、充分な耐摩耗性、ゴム強度が得られないおそれがある。また、シリカのNSAは、500m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。500m/gを超えると、ゴムへの分散が困難となり、分散不良を起こし、耐摩耗性、ゴム強度、低燃費性が低下するおそれがある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0026】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは60質量部以上である。10質量部未満であると、充分な低燃費性、ウェットグリップ性能が得られないおそれがある。また、充分なゴムの強度が得られず、耐摩耗性が低下するおそれがある。上記シリカの含有量は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。120質量部を超えると、硬度が過度に増大し、ウェットグリップ性能が低下するおそれがある。また、シリカの分散が不均一となり、耐摩耗性、ゴム強度が低下するおそれがある。
【0027】
本発明では、シランカップリング剤が使用される。シランカップリング剤を配合することにより、ゴムとシリカの結合が生じ、耐摩耗性、ゴム強度、ウェットグリップ性能が向上する。本発明で使用されるシランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、良好な耐摩耗性、ゴム強度が得られるという理由からスルフィド系のシランカップリング剤が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドがより好ましい。
【0028】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上、更に好ましくは6質量部以上である。シランカップリング剤の含有量が3質量部未満では、転がり抵抗の低減(低燃費性向上)効果、耐摩耗性、ゴム強度の向上効果が充分に得られない傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が15質量部を超えると、高価なシランカップリング剤の添加量に見合った転がり抵抗の低減(低燃費性向上)効果、耐摩耗性、ゴム強度の向上効果が得られない傾向がある。また、硬度が過度に増大し、ウェットグリップ性能が低下するおそれがある。
【0029】
本発明では、マレイン酸樹脂が使用される。これにより、シランカップリング剤が有するアルコキシ基等の加水分解反応が促進され、ゴム組成物の混練工程において、アルコキシ基等の加水分解反応が充分に進行する(シラノール基が充分に生成する)ため、シランカップリング剤とシリカとの反応率を向上させることができ、得られたゴム組成物(空気入りタイヤ)の低燃費性、耐摩耗性、ゴム強度、ウェットグリップ性能を向上できる。
【0030】
マレイン酸樹脂としては、例えば、ロジンと無水マレイン酸との反応生成物(ロジン−無水マレイン酸付加体で構成されたロジン変性マレイン酸樹脂)、ロジンと無水マレイン酸と多価アルコールとの反応生成物(エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂)などが挙げられる。
【0031】
なお、本明細書におけるマレイン酸樹脂には、上記無水マレイン酸をマレイン酸やフマル酸に代えて得られる樹脂も含まれる。すなわち、例えば、エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂には、ロジンと無水マレイン酸と多価アルコールとの反応生成物以外にも、ロジンとマレイン酸と多価アルコールとの反応生成物や、ロジンとフマル酸と多価アルコールとの反応生成物等も含まれる。
【0032】
上記ロジンとしては、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸を主成分とするトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等が挙げられる。
【0033】
上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0034】
なお、ロジンに対するマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸の量、多価アルコールの種類、量および反応時間を変えることにより、マレイン酸樹脂の酸価、軟化点を調整することができる。
【0035】
上記マレイン酸樹脂のなかでも、エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂が好ましい。エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂は、例えば、以下の製造方法により得られる。
(1)ロジンを無水マレイン酸又はフマル酸と反応させ、生じた生成物を多価アルコールでエステル化する方法。
(2)無水マレイン酸又はフマル酸を多価アルコールと反応させ、得られたポリエステルをロジンと反応させる方法。
(3)ロジン、無水マレイン酸又はフマル酸、多価アルコールを同時に反応させる方法。
【0036】
エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂の具体例としては、例えば、荒川化学工業社製マルキードNo.1、2、5、6、8、31、32、33、34、3002等、ハリマ化成社製ハリマックR−80、T−80、R−100、M−453、M−130A、135GN、145P、R−120AH等のエステル型ロジン変性マレイン酸樹脂があげられる。
【0037】
マレイン酸樹脂の酸価(mgKOH/g)は、好ましくは150以上、より好ましくは180以上である。150未満であると、シランカップリング剤とシリカとの反応率を充分に向上できないおそれがある。マレイン酸樹脂の酸価は、好ましくは350以下、より好ましくは320以下、更に好ましくは280以下である。350を超えると、架橋(加硫)反応に影響を与える場合があり、好ましくない。
本明細書において、酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、電位差滴定法(JIS K 0070:1992)により測定した値である。
【0038】
マレイン酸樹脂の軟化点は、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは120℃以上である。80℃未満であると、気温の影響を受けて、ブロッキング(樹脂同士が部分溶融し凝集)するおそれがあり、製造現場でのハンドリングに悪影響を及ぼすおそれがある。マレイン酸樹脂の軟化点は、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。160℃を超えると、樹脂成分がゴム成分へ充分に溶解せずに破壊核となる場合があり、好ましくない。
なお、マレイン酸樹脂の軟化点とは、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0039】
マレイン酸樹脂の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上である。上記含有量が0.3質量部未満では、シランカップリング剤とシリカとの反応率向上効果が充分に得られないおそれがある。また、上記含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。上記含有量が15質量部を超えると、シランカップリング剤の反応を促進しすぎて、シランカップリング剤同士の凝集反応が多くなってしまう傾向がある。
【0040】
本発明では、水酸化アルミニウムが使用される。これにより、ウェットグリップ性能が向上できる。また、本発明では、耐摩耗性の低下の原因となる水酸化アルミニウムを配合した場合であっても、マレイン酸樹脂を配合することにより、良好な耐摩耗性が得られ、良好なウェットグリップ性能を維持しつつ、耐摩耗性、ゴム強度を向上できる。水酸化アルミニウムとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0041】
水酸化アルミニウムの平均一次粒子径は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上である。0.5μm未満では、水酸化アルミニウムの分散が困難となり、耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、水酸化アルミニウムの平均一次粒子径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。10μmを超えると、水酸化アルミニウムが破壊核となり、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
なお、本発明において、水酸化アルミニウムの平均一次粒子径は、凝集構造を構成する水酸化アルミニウムの最小粒子単位を円として観察し、その最小粒子の絶対最大長を円の直径として測定した値の平均値を意味する。水酸化アルミニウムの平均一次粒子径は、例えば(株)日立製作所製の透過型電子顕微鏡H−7100を用いて、一次粒子100個の直径を観察し、その一次粒子100個の直径の平均値を求めることによって得られる。
【0042】
水酸化アルミニウムの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。1質量部未満では、ウェットグリップ性能を充分に改善できないおそれがある。また、水酸化アルミニウムの含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。60質量部を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0043】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、クレー等の補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル等の軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0044】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを配合することが好ましい。これにより、良好な耐摩耗性、ゴム強度が得られる。カーボンブラックとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0045】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上である。50m/g未満では、充分な補強性が得られず、充分な耐摩耗性、ゴム強度が得られない傾向がある。カーボンブラックのNSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは150m/g以下である。200m/gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001に準拠して測定される値である。
【0046】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満の場合、充分な耐摩耗性、ゴム強度が得られないおそれがある。カーボンブラックの含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは30質量部以下である。50質量部を超えると、ゴムが硬くなり過ぎ、ウェットグリップ性能が低下する傾向があり、また、シリカによる低燃費性の改善効果が損なわれる傾向がある。
【0047】
本発明で使用できる加硫促進剤としては、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、1,3−ジフェニルグアニジン(DPG)等が挙げられる。なかでも、良好な低燃費性、耐摩耗性、ゴム強度が得られるという理由から、TBBSが好ましく、TBBSとDPGを併用することが好ましい。
【0048】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどの混練機を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
本発明の効果がより得られる点から、ゴム成分と、シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを混練する第一ベース練り工程、第一ベース練り工程により得られた混練物1と、ステアリン酸と、酸化亜鉛とを混練する第二ベース練り工程、及び、第二ベース練り工程により得られた混練物2と、加硫剤と、加硫促進剤とを混練する仕上げ練り工程を含む製法により製造することが好ましい。このような製法によれば、マレイン酸樹脂によるシランカップリング剤の加水分解反応の促進効果が、酸化亜鉛やステアリン酸によって損なわれることを防止することができる。これにより、シリカとシランカップリング剤との反応率がより向上し、低燃費性、耐摩耗性、ゴム強度を好適に向上できる。
【0049】
第一ベース練り工程における混練温度は120〜160℃が好ましく、130〜155℃がより好ましい。120℃未満では、シリカとシランカップリング剤との充分な反応率が得られないおそれがある。一方、160℃を超えると、ゴム成分が熱により劣化するおそれがあるため好ましくない。また、第二ベース練り工程における混練温度は、第一ベース練り工程における混練温度と同様の温度範囲であることが好ましい。なお、仕上げ練り工程における混練温度は特に限定されないが、50〜120℃程度であればよい。
【0050】
本発明のゴム組成物は、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッド)、サイドウォール、クリンチ、インナーライナーなどのタイヤの各部材に使用することができ、特にトレッドに好適に使用できる。
【0051】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0052】
また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、バス用タイヤ、トラック用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられるが、特に競技用タイヤとして好適に用いられる。
【実施例】
【0053】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0054】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のSBR Nipol NS210
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(NSA:114m/g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
水酸化アルミニウム:昭和電工(株)製のハイジライトH−43(平均一次粒子径:1μm)
四ホウ酸カリウム4水和物:和光純薬工業(株)製
マレイン酸樹脂(1)(マルキードNo.31):荒川化学工業社製のマルキードNo.31(エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂、軟化点:140℃、酸価:200mgKOH/g)
マレイン酸樹脂(2)(マルキードNo.33):荒川化学工業社製のマルキードNo.33(エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂、軟化点:140℃、酸価:300mgKOH/g)
アロマオイル:ジャパンエナジー社製のX140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学(株)製の硫黄
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン)
【0055】
実施例1〜4及び比較例1〜2
(第一ベース練り工程)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物1を得た。
(第二ベース練り工程)
次に、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、上記混練物1に老化防止剤、ステアリン酸および酸化亜鉛を添加し、150℃の条件下で2分間混練りし、混練り物2を得た。
(仕上げ練り工程)
さらに、オープンロールを用いて、上記混練物2に硫黄および加硫促進剤を添加し、60℃の条件下で4分間混練りして未加硫ゴム組成物を得た。
(加硫工程)
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、170℃で12分間加硫することにより、試験用タイヤ(カートタイヤ、タイヤサイズ:11×7.10−5)を製造した。
【0056】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表1に示す。なお、表中のn.d.とは未検出を示す。
【0057】
(未反応カップリング剤量)
得られた未加硫ゴム組成物を細かく切り、エタノール中で24時間抽出を行った。抽出液中に抽出された未反応のシランカップリング剤量をガスクロマトグラフィで測定し、配合したシランカップリング剤量から未反応のシランカップリング剤量(質量%)を算出した。この値が小さいほど、混練工程終了後の未加硫ゴム組成物中に未反応で存在するシランカップリング剤量が少ないことを意味する。すなわち、混練工程中により多くのシランカップリング剤が反応したことを意味し、良好であることを示す。
【0058】
(エタノール発生指数)
得られた未加硫ゴム組成物から試験片を作成し、ヘッドスペースガスクロマトグラフィを用いて、150℃の条件下で10分間加熱して揮発成分(エタノール)を追い出し、その時のエタノール発生量を測定し、比較例1のエタノール発生指数を100とし、下記計算式により、各配合のエタノール発生量を指数表示した。なお、エタノール発生指数が小さいほど、エタノールの発生量が少なく、押出し工程等で気泡が発生しにくいため、良好であることを示す。
(エタノール発生指数)=(各配合のエタノール発生量)/(比較例1のエタノール発生量)×100
【0059】
(ウェットグリップ性能)
上記試験用タイヤを装着した試験用カートで1周2kmのテストコース(ウェット路面)を8周走行し、走行時における操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価した。評価結果は、比較例1を3点とし、5点満点で表示した。数値が大きいほど、ウェットグリップ性能が良好であることを示す。
【0060】
(耐摩耗性)
上記評価後の試験用タイヤの摩耗状態を目視で確認し、耐摩耗性を評価した。評価結果は、比較例1を3点とし、5点満点で表示した。数値が大きいほど、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0061】
(引張り試験)
得られた加硫ゴム組成物から試験片を作製しJIS−K6251に準じて3号ダンベルを用いて引張り試験を実施し、破断強度(TB)と破断時伸び(EB)を測定した。そして、TB×EB/2の値をゴム強度として、比較例1のゴム強度を100とし、結果を指数表示した。指数が大きいほどゴム強度に優れることを示す。
【0062】
【表1】

【0063】
シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを含む実施例は、未反応のシランカップリング剤量が未検出と少なく、良好なウェットグリップ性能を維持しつつ、耐摩耗性、ゴム強度を向上できた。
特に、酸価が150mgKOH/g以上のマレイン酸樹脂(1)、(2)を配合した実施例1〜4において、良好な結果が得られた。また、四ホウ酸カリウム4水和物を配合した比較例2では、ゴム強度、耐摩耗性が実施例に比べて劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを含むタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記マレイン酸樹脂の酸価が150〜350mgKOH/gである請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記マレイン酸樹脂の軟化点が80〜160℃である請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記マレイン酸樹脂がエステル型ロジン変性マレイン酸樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
カーボンブラックを含む請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記シランカップリング剤の含有量がシリカ100質量部に対して、3〜15質量部、前記マレイン酸樹脂の含有量がシリカ100質量部に対して、0.3〜15質量部、前記水酸化アルミニウムの含有量がゴム成分100質量部に対して、1〜60質量部である請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
ゴム成分と、シリカと、シランカップリング剤と、マレイン酸樹脂と、水酸化アルミニウムとを混練する第一ベース練り工程、
前記第一ベース練り工程により得られた混練物1と、ステアリン酸と、酸化亜鉛とを混練する第二ベース練り工程、及び、
前記第二ベース練り工程により得られた混練物2と、加硫剤と、加硫促進剤とを混練する仕上げ練り工程
を含む製法により得られる請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
前記第一ベース練り工程の混練温度が120〜160℃である請求項7記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
トレッド用ゴム組成物として用いられる請求項1〜8のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【請求項11】
競技用タイヤである請求項10記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−18839(P2013−18839A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152036(P2011−152036)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】