説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】低燃費性、耐摩耗性をバランス良く改善できるタイヤ用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、シリカと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に対する省燃費性の要請が高まり、タイヤのゴム物性が省燃費性に重要な影響を及ぼすことが知られているため、省燃費性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することが望まれている。一般に、省燃費タイヤとするためにはゴム組成物のヒステリシスロスを低下させることが有効である。
【0003】
タイヤ用ゴム組成物の充填剤としては、補強性と耐摩耗性の点でカーボンブラックが汎用されている。カーボンブラック配合で低燃費化を図る場合、カーボンブラックの粒子径を大きくする、カーボンブラック量を少なくするといった方法が考えられるが、耐破壊性能、耐摩耗性能、ウェットグリップ性などの低下が避けられない。また、特許文献1に、ジアミン化合物の添加によりカーボンブラックの分散性を向上し、低発熱性を改善する技術が提案されているが、充分に満足な性能とはいえない。
【0004】
一方、充填剤としてシリカを用いて低燃費化を図れることも知られているが、シリカ配合は、カーボンブラック配合に比べて耐摩耗性などが劣り、充分な性能を得ることが困難である。近年の低燃費性の要請から、シリカ配合の改善が行われているが、耐摩耗性を維持しつつ、低燃費性に優れたゴム組成物を提供するという点について、未だに改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2912845号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、耐摩耗性をバランス良く改善できるタイヤ用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、シリカと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0008】
上記両性化合物は、下記式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】

(式(I)中、Rは、炭素数2〜30のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を表す。Aは、酸性官能基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数1〜20のアルコキシシリル基を表す。式(I)で表される化合物は、該化合物の金属塩でもよい。)
【0009】
上記両性化合物は、下記式(I−1)及び/又は下記式(I−2)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】

[式(I−1)中、pは2〜8の整数を表す。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【0010】
上記式(I−2)中のMr+で表される金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、又は亜鉛イオンであることが好ましい。
【0011】
上記シリカの窒素吸着比表面積は、30〜500m/gであることが好ましい。
上記シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10〜150質量部であることが好ましい。
上記両性化合物の含有量は、上記シリカ100質量部に対して0.01〜30質量部であることが好ましい。
【0012】
上記両性化合物として、該両性化合物を極性溶媒に溶解した溶液を配合して得られるものが好ましい。
また、上記両性化合物を極性溶媒に溶解した溶液を用いて該両性化合物をシリカに担持したものを配合して得られるものが好ましい。
ここで、極性溶媒としては、水が好ましい。
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、シリカと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物であるので、低燃費性、耐摩耗性をバランス良く改善できる。更に、両性化合物溶液や該溶液を用いて作製した両性化合物担持シリカを使用することで、該化合物が少量であっても低燃費性、耐摩耗性を充分に改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴム(NR)及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、シリカと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有する。
【0015】
天然ゴムやジエン系合成ゴムに、シリカと、酸性官能基及び塩基性官能基の両官能基を有する両性化合物とを配合すると、該両性化合物の酸性官能基がゴムと反応し、塩基性官能基がシリカ表面と反応するため、シリカの分散性が向上するとともに、シリカの拘束により発熱を抑制できる。従って、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善できる。
【0016】
特に、該両性化合物を水などの極性溶媒に溶解した溶液を原材料として配合したり、該溶液を用いてシリカに両性化合物を担持した担持体を配合することにより、該化合物を高次元に分散できるため、低燃費性、耐摩耗性を顕著に改善できる。そのため、少ない配合量でも効果的に性能を改善できる。
【0017】
本発明では、ゴム成分として、NR、ジエン系合成ゴム(イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)など)が使用される。なかでも、低燃費性、機械的強度の点からは、NRが好ましく、耐摩耗性の点からは、BRが好ましく、ウェットグリップ性の点からは、SBRを使用することが好ましい。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0019】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、十分なゴム強度、低燃費性が得られない傾向がある。該NRの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。50質量%を超えると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0020】
BRとしては特に限定されず、例えば、高シス含量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBRなどを使用できる。なかでも、耐摩耗性の向上効果が高いという理由から、シス含有量が95質量%以上のBRが好ましい。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法により測定できる。
【0021】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、充分な耐摩耗性が得られず、低燃費性、耐摩耗性をバランス良く向上できないおそれがある。該BRの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0022】
SBRとしては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0023】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。50質量%未満であると、低燃費性、耐摩耗性をバランス良く向上できないおそれがある。該SBRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%でもよい。
【0024】
本発明では、シリカが使用される。これにより、低燃費性、耐摩耗性をバランス良く改善できる。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0025】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、30m/g以上が好ましく、80m/g以上がより好ましく、120m/g以上が更に好ましい。30m/g未満では、補強性が小さく、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、シリカのNSAは、500m/g以下が好ましく、300m/g以下がより好ましく、250m/g以下が更に好ましい。500m/gを超えると、シリカの分散性が悪く、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0026】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。10質量部未満であると、耐摩耗性が充分でない傾向がある。上記シリカの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、シリカのゴムへの分散が困難になり、ゴムの加工性が悪化する傾向がある。
【0027】
本発明のゴム組成物には、シリカと共に、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという理由から、スルフィド系が好ましい。
【0028】
スルフィド系シランカップリング剤としては、本発明の効果が良好に得られるという理由から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドが好ましい。
【0029】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満では、未加硫ゴム組成物の粘度が高く、加工性が悪化する傾向がある。また、該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られない傾向がある。
【0030】
本発明では、酸性官能基と塩基性官能基とを有する両性化合物が使用される。酸性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、チオスルホン酸基(−SSOH)、ジチオカルボン酸基(−CSSH)、炭素数1〜20のアルキル基を有するチオアルキルカルボン酸基(−SRCOOH:Rは直鎖状又は分岐状のアルキル基)、フェノール性水酸基などが挙げられ、なかでも、チオスルホン酸基が好ましい。塩基性官能基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基などが挙げられる。両性化合物は、該化合物の金属塩でもよい。
【0031】
上記両性化合物として、下記式(I)で表される化合物を好適に使用できる。
【化3】

【0032】
(式(I)中、Rは、炭素数2〜30のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を表す。Aは、酸性官能基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数1〜20のアルコキシシリル基を表す。式(I)で表される化合物は、該化合物の金属塩でもよい。)
【0033】
式(I)の窒素を含む官能基部分は、シリカ表面に存在するシラノール基などの官能基と反応することでシリカと結合し、酸性官能基部分は、ポリマーの二重結合と反応する。そのため、シリカの分散性が向上し、かつその分散状態を維持できる。また、反応によりシリカが拘束されているため、発熱性を抑えることも可能となる。よって、前述の性能をバランス良く改善できる。
【0034】
のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜12である。Rは直鎖状、分岐状のいずれでも良く、アルキレン基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基など、アルケニレン基の具体例としては、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基など、アルキニレン基の具体例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基などが挙げられる。
【0035】
Aの酸性官能基としては、前述の同様のものが挙げられる。R及びRの炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基など、アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基などが挙げられ、炭素数1〜20のアルコキシシリル基としては、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基などが挙げられる。
【0036】
本発明では、両性化合物として、下記式(I−1)表される化合物及び/又は下記式(I−2)で表される化合物を使用することが好ましい。
【化4】

[式(I−1)中、pは2〜8の整数を表す。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【0037】
上記式(I−2)で表される化合物は任意の公知の方法により製造できる。例えば、ハロアルキルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及びジハロアルカンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0038】
具体的には、qが6の化合物の場合、6−ハロヘキシルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及び1,6−ジハロヘキサンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0039】
また、qが3の化合物の場合、3−ハロプロピルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及び1,3―ジハロプロパンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0040】
上記式(I−1)で表される化合物は、例えば、上記式(I−2)で表される化合物とプロトン酸とを反応させることにより製造できる。
【0041】
本発明では、式(I−1)及び(I−2)で表される化合物の混合物も使用できる。該混合物は、式(I−1)で表される化合物と式(I−2)で表される化合物とを混合する方法、上記Mで示される金属を含有する水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩などを用いて式(I−1)で表される化合物の一部を金属塩化する方法、プロトン酸を用いて式(I−2)で表される化合物の一部を中和する方法により製造できる。このようにして製造した式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、濃縮、晶析などの操作により、反応混合物から取り出すことができ、取り出された式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、通常0.1〜5%程度の水分を含む。また、本発明では、式(I−1)で表される化合物のみ、又は式(I−2)で表される化合物のみを用いることもできる。更に、複数種の式(I−1)で表される化合物、式(I−2)で表される化合物を併用することもできる。
【0042】
式(I−1)中、pは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。
【0043】
r+で示される金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンが更に好ましい。rは金属イオンの価数を表し、当該金属において可能な範囲であれば、限定されない。通常rは、金属イオンがアルカリ金属イオンの場合は1、コバルトイオンの場合は2又は3、銅イオンの場合は1〜3の整数、亜鉛イオンの場合は2である。上記製法によれば、通常、式(I−1)で表される化合物のナトリウム塩が得られるが、カチオン交換反応を行うことで他の金属塩に変換できる。
【0044】
上記式(I−1)、(I−2)で表される化合物のメディアン径は、好ましくは0.05〜100μmの範囲であり、より好ましくは1〜100μmの範囲である。メディアン径は、レーザー回折法にて測定できる。
【0045】
本発明では、上記両性化合物として、該化合物の溶液を好適に使用できる。一般的に、両性化合物は分子内塩を形成することがあり、融点が高くなる傾向がある。高融点でも反応は界面で進行するが、溶液状態の両性化合物を用いることで、ミクロなレベルで両性化合物を分散できるため、低燃費性、耐摩耗性が顕著に改善される。また、少量の使用でも反応点が増加し、効果的に低燃費性、耐摩耗性が発現する。
【0046】
両性化合物を溶解する溶媒は、該化合物の溶解が可能であれば特に限定されないが、極性溶媒が好ましい。極性溶媒としては、水、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどが挙げられる。なかでも、溶解性や得られるゴム組成物の性能の点から、水が好ましい。これらは単独、又は混合して使用しても良い。
【0047】
また、使用する両性化合物溶液の濃度(該化合物の溶解量)は、溶解性や得られるゴム組成物の性能の点から、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
なお、両性化合物溶液は、両性化合物だけでなく、他の配合剤を溶解させても良い。
【0048】
また、本発明では、上記両性化合物を極性溶媒に溶解した溶液を用いて、シリカに該化合物を担持し、得られた両性化合物担持シリカを特に好適に使用できる。この場合、溶液を用いることによる前述の作用が大きく発揮され、低燃費性、耐摩耗性を顕著、かつ効果的に改善できる。
【0049】
上記両性化合物は、予めシリカ(担持剤)と混合して作製した担持品を使用してもよい。両性化合物担持シリカは、担持剤に担持する公知の方法を用いて調製できる。例えば、両性化合物溶液及びシリカを公知の方法で混合した後、ロータリーエバポレーターなどを用いて溶媒を除去する手法、などにより、担持品を調製できる。担持品は、シリカ100質量部に対して、両性化合物を、好ましくは10〜1000質量部、より好ましくは10〜100質量部の範囲で混合して調製することが好ましい。
【0050】
本発明のゴム組成物において、上記両性化合物の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは2.0質量部以上である。0.01質量部未満であると、低燃費性、耐摩耗性の改善効果が低下するおそれがある。また、該含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以上である。30質量部を超えても、低燃費性、耐摩耗性の更なる向上効果は得られず、加工性が低下する傾向がある。
【0051】
特に、両性化合物溶液を配合する場合や両性化合物担持シリカを配合する場合、効果的に改善効果が発現する点から、上記両性化合物の含有量が、ゴム組成物中の全シリカ量100質量部に対し、0.01〜5質量部(好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部)となるように溶液や両性化合物担持シリカを配合してもよい。
【0052】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、クレーなどの補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイルなどの軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0053】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又はキサンテート系加硫促進剤が挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0054】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)などが挙げられる。なかでも、CBSが好ましく、CBSと1,3−ジフェニルグアニジンを併用することがより好ましい。
【0055】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。上記範囲内に調整することで、低燃費性、耐摩耗性の性能バランスに優れたゴムを調製できる。
【0056】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、加工性に劣り、低燃費性、耐摩耗性が低下する傾向がある。該オイルの含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。15質量部を超えると、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0057】
本発明のゴム組成物は、トレッド(キャップトレッド)などに好適に使用できる。
【0058】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。両性化合物溶液を配合する場合や該溶液を用いて作製したシリカ担持品を配合する場合も、該溶液やシリカ担持品と他の成分とを混練し、加硫する方法で製造できる。
【0059】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0060】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0061】
以下、製造例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
3−ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩:関東化学(株)製
チオ硫酸ナトリウム・五水和物:関東化学(株)製
フタルイミドカリウム:関東化学(株)製
ジメチルホルムアミド:関東化学(株)製
1,6−ジブロモヘキサン:関東化学(株)製
ヒドラジン・一水和物:関東化学(株)製
【0062】
(製造例1 S−(3ーアミノプロピル)チオ硫酸(両性化合物A))
窒素ガスで置換した反応容器に3−ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩75g、チオ硫酸ナトリウム・五水和物85.26g、メタノール375ml、水375mlを加え、これらの混合物を70℃、5時間還流した。放冷した後、減圧下でメタノールを除去した。残渣に水酸化ナトリウム13.68gを加え、室温で1時間攪拌した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣にエタノール600mlを加えて1.5時間還流した。熱ろ過を行い、ろ液を減圧下で濃縮し結晶を得た。結晶をろ過により取り出し、エタノールで洗浄し、更にヘキサンでの洗浄を行った。得られた結晶を真空乾燥し、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウムを得た。
窒素ガスで置換した反応容器にS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウム52g、水90ml、5mol/l塩酸を加え、得られた溶液を減圧下で濃縮し、ろ過により結晶を取り出した。得られた結晶を真空乾燥し、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸を得た。
【化5】

【0063】
(製造例2 S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸(両性化合物B))
反応容器に、フタルイミドカリウム99.2g及びジメチルホルムアミド480mlを加えた。この混合物に1,6−ジブロモヘキサン200gとジメチルホルムアミド200mlとの混合物を室温で滴下した。滴下終了後、得られた混合物を120℃まで昇温して5時間還流し、放冷後、反応混合物から溶媒を留去した。酢酸エチルと水とを加えて分液した後、有機層を濃縮した。得られた残渣にヘキサンと酢酸エチルを加え、結晶を析出させた。結晶を取り出し、真空乾燥して、N−(6−ブロモヘキシル)フタルイミドを得た。
反応容器に、N−(6−ブロモヘキシル)フタルイミド40g、チオ硫酸ナトリウム・五水和物32.0g、メタノール200ml、水200mlを加え、これらの混合物を5時間還流させ、放冷後、反応混合物から溶媒を留去した。得られた残渣に、エタノール200mlを加えて1.5時間還流した。熱ろ過を行い、ろ液を減圧下で濃縮し結晶を得た後、静置した。結晶をろ過により取り出し、エタノールで洗浄し、更にヘキサンでの洗浄を行った。得られた結晶を真空乾燥し、6−フタルイミドヘキシルチオ硫酸ナトリウム塩を得た。
窒素置換した反応容器に、6−フタルイミドヘキシルチオ硫酸のナトリウム塩20.0g(54.7mmol)及びエタノール200mlを仕込み、得られた混合物にヒドラジン・一水和物4.25g(84.8mmol)を滴下した。滴下終了後、得られた混合物を70℃で5時間攪拌した後、減圧下でエタノールを留去した。残渣にメタノール100mlを加えて1時間還流させた。熱ろ過により結晶を取得し、これをメタノールで洗浄し、真空乾燥することにより、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸ナトリウム塩を得た。
窒素ガスで置換した反応容器に、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸ナトリウム26g、水45ml、5mol/l塩酸を加え、得られた溶液を減圧下で濃縮し、ろ過により結晶を取り出した。得られた結晶を真空乾燥し、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸を得た。
【化6】

【0064】
上記製造例1〜2で得られた両性化合物A〜Bのメディアン径(50%D)を、(株)島津製作所製SALD一2000J型を用い、レーザー回折法(測定操作は下記のとおり)により測定したところ、メディアン径(50%D)は66.7μmであった。得られた両性化合物A〜Bを粉砕し、そのメディアン径(50%D)を14.6μmに調製し、以下の実施例で使用した。
<測定操作>
両性化合物A〜Bを分散溶媒(トルエン)と分散剤(10質量%スルホこはく酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム/トルエン溶液)との混合溶液に室温で分散させ、得られた分散液に超音波を照射しながら、該分散液を5分間撹拌して試験液を得た。該試験液を回分セルに移し、1分後に測定した。(屈折率:1.70−0.20i)
【0065】
(製造例3 両性化合物水溶液)
1000mlメスフラスコにイオン交換水1000gと両性化合物A又はB440gを加え、湯せん(50℃)しながら両性化合物A又はBを溶解し、30質量%両性化合物A水溶液、及びB水溶液を調製した。
【0066】
(製造例4 シリカ担持品)
30質量%両性化合物A水溶液又はB水溶液に、シリカ100gを添加、混合した後、ホモミキサーを用いて25℃で30分間攪拌した。その後、ロータリーエバポレーターにて溶媒の濃縮除去を行い、両性化合物A担持シリカ又はB担持シリカ102g(両性化合物2g/シリカ100g)を得た。
【0067】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
スチレンブタジエンゴム(SBR):日本ゼオン(株)製のNipol1502
シリカ:デグッサ社製のウルトラシルVN3
両性化合物A:S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸(製造例1で調製)
両性化合物B:S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸(製造例2で調製)
両性化合物A担持シリカ:製造例4で調製
両性化合物B担持シリカ:製造例4で調製
両性化合物A水溶液:製造例3で調製
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製の椿
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤D:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン)
【0068】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を160℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0069】
得られた加硫ゴム組成物について下記の評価を行った。結果を表1に示した。
【0070】
(低燃費性(転がり抵抗))
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪み10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定した。比較例1のtanδを100とし、各配合を指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗特性が優れる。
【0071】
(摩耗試験)
加硫ゴム組成物について、ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃、スリップ率20%及び試験時間2分間の条件下でランボーン摩耗量を測定した。更に、測定したランボーン摩耗量から容積損失率を計算した。比較例1の容積損失率を100とし、各配合を指数表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れる。
【表1】

【0072】
表1より、両性化合物を用いた実施例1〜4では、比較例1に比べ、耐摩耗性を維持しつつ、低燃費性を改善できた。特に、シリカ担持品を用いた実施例5〜8では、化合物量が少量にもかかわらず、低燃費性を大きく改善できるとともに、耐摩耗性の改善効果も得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、シリカと、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物とを含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記両性化合物が下記式(I)で表される化合物である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

(式(I)中、Rは、炭素数2〜30のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を表す。Aは、酸性官能基を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数1〜20のアルコキシシリル基を表す。式(I)で表される化合物は、該化合物の金属塩でもよい。)
【請求項3】
前記両性化合物が下記式(I−1)及び/又は下記式(I−2)で表される化合物である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化2】

[式(I−1)中、pは2〜8の整数を表す。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【請求項4】
前記式(I−2)中のMr+で表される金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、又は亜鉛イオンである請求項3記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記シリカの窒素吸着比表面積が30〜500m/gである請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10〜150質量部である請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
前記両性化合物の含有量は、前記シリカ100質量部に対して0.01〜30質量部である請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
前記両性化合物として、該両性化合物を極性溶媒に溶解した溶液を配合して得られる請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
前記両性化合物を極性溶媒に溶解した溶液を用いて該両性化合物をシリカに担持したものを配合して得られる請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項10】
前記極性溶媒が水である請求項8又は9記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−7008(P2013−7008A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142315(P2011−142315)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】