説明

タイヤ用ゴム組成物

【課題】耐熱老化性を維持しつつセット性の悪化を防止したタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜100のカーボンブラック40〜100重量部、硫黄0.5〜10重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜10重量部を含み、かつ特定のジフェニルアミン0.1〜5重量部を含むことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。


(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関し、更に詳細には、耐熱老化性を維持しつつセット性の悪化を防止したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重荷重用タイヤのリムクッションは、走行中にホイールからの熱などにより劣化を受ける。特に、チューブレスタイプのタイヤでは、組み替え時にリムクッションに掛かる歪が大きく、ゴムが劣化し破断伸びが低下していると、リムクッションのトウ欠けを起こし故障に至る場合がある。そこで、リムクッションを構成するゴム組成物に特定の環状ポリスルフィドを配合することで耐熱老化性を向上させる技術が、以下の特許文献1として出願されている。しかしながら、当該ゴム組成物における加硫剤としての硫黄の一部又は全部をこの環状ポリスルフィドに置換すると、セット性が悪化するという問題があった。
【0003】
また、重荷重用タイヤのカーカスコートや、インナーライナーとカーカスとの間に挿入されるタイゴムは、走行中に透過酸素、熱などにより劣化を受ける。特に、ショルダー部における劣化は顕著であり、この劣化が進行するとゴムが硬化・脆化し、いわゆる吹き抜け故障を起こす場合がある。そこで、カーカスやタイゴムを構成するゴム組成物に前記した特定の環状ポリスルフィドを加硫系として配合すると、これらの耐熱老化性は大幅に向上するが、セット量が大きくなるという問題があった。タイヤでは、タイゴムのセット量が大きくなると、ブチルライナーとワイヤ間のゲージが低下することになり、吹き抜け故障を起こし易くなるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特願2004−301737
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明では、タイヤ用ゴム組成物に前記特定の環状ポリスルフィドと特定のジフェニルアミンを配合することで、耐熱老化性を維持しつつセット性の悪化を防止したタイヤ用ゴム組成物、特に、重荷重用タイヤのリムクッション、カーカス及びタイゴムに適したゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜100のカーボンブラック40〜100重量部、硫黄0.5〜10重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜10重量部を含み、かつ下記式(2)で表されるジフェニルアミン0.1〜5重量部を含むことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物が提供される。
【化1】

(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)
【化2】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)
【0007】
また、本発明によれば、ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜85のカーボンブラック40〜100重量部、硫黄0.5〜3重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜3重量部を含み、かつ下記式(2)で表されるジフェニルアミン0.1〜3重量部を含むことを特徴とするタイヤリムクッション用ゴム組成物が提供される。
【化3】

(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)
【化4】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)
【0008】
更に、本発明によれば、ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜100のカーボンブラック40〜80重量部、硫黄2〜10重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜10重量部を含み、かつ下記式(2)で表されるジフェニルアミン0.1〜5重量部を含むことを特徴とするタイヤのカーカス又はタイゴム用ゴム組成物が提供される。
【化5】

(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)
【化6】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、特に、重荷重タイヤのリムクッション、カーカスコート及びタイゴムなどに使用されるゴム組成物において、それらの過酷な状況下での優れた耐熱老化性と共に良好なセット性をも併せ有していることが強く要望されていたところ、特定の環状ポリスルフィドとジフェニルアミンを併用することによって、当該環状ポリスルフィドの優れた耐熱老化性が維持されると共にそれによるセット性の悪化が防止されるという事実を見出したものである。
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用される環状ポリスルフィドは、以下の一般式(1)によって表される環状ポリスルフィド化合物である。
【化7】

(式中、xは、2〜6の数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基を示す。)
【0011】
当該環状ポリスルフィドは、例えば、式:X−R−X(式中、Xは、ハロゲン原子、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン又は芳香族を含むアルキレンである。)のジハロゲン化合物と、式:M2x(式中、Mは、アルカリ金属、xは、2〜6の整数である。)のアルカリ金属の多硫化物を、親水性及び親油性溶媒の非相溶混合溶媒中において、二相系で反応させるか、あるいは、M2xの溶液中にX−R−Xを、両者が界面で反応するような速度で添加して反応させることによって得られる。より詳細な製造法については、特開2002−293783号公報に開示されている。
【0012】
当該環状ポリスルフィドは、本発明のタイヤ用ゴム組成物における配合量として、ジエン系ゴム100重量部に対して0.5〜10重量部(本発明のタイヤリムクッション用ゴム組成物の場合には、0.5〜3重量部の範囲に、また、タイヤのカーカス又はタイゴム用ゴム組成物の場合には、0.5〜10重量部の範囲にすることが好ましい。)とすることが、本発明によるタイヤ用ゴム組成物における優れた耐熱老化性とセット性とをバランスさせる上で好ましい。上記配合量の下限未満では、所期の耐熱老化性を得ることができず、逆に、上記上限を超えると、耐熱老化性は向上するがセット性の悪化が防止できなくなるので好ましくない。
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において上記環状ポリスルフィドと併用されるジフェニルアミンは、以下の一般式(2)によって表されるジフェニルアミン化合物である。
【化8】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)
【0014】
当該ジフェニルアミンは、本発明のタイヤ用ゴム組成物における配合量として、ジエン系ゴム100重量部に対して0.1〜5重量部(本発明のタイヤリムクッション用ゴム組成物の場合には、0.1〜3重量部の範囲に、また、タイヤのカーカス又はタイゴム用ゴム組成物の場合には、0.1〜5重量部の範囲にすることが好ましい。)とすることが、本発明によるゴム組成物における優れた耐熱老化性とセット性とをバランスさせる上で好ましい。上記配合量の下限未満では、所期のセット性の向上効果を得ることができず、逆に、上記上限を超えると、これがブリードするので好ましくない。
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、各種ブタジエンゴム(BR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、単独又は二種以上のブレンドゴムとして使用されてよい。
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合するカーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積が20〜100のカーボンブラックが使用される(特に、本発明のタイヤリムクッション用ゴム組成物の場合には、窒素吸着比表面積が20〜85のカーボンブラックの使用が、また、タイヤのカーカス又はタイゴム用ゴム組成物の場合には、窒素吸着比表面積が20〜100のカーボンブラックの使用が好ましい。)。当該カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対して40〜100重量部(本発明のタイヤリムクッション用ゴム組成物の場合には、40〜100重量部の範囲に、また、タイヤのカーカス又はタイゴム用ゴム組成物の場合には、40〜80重量部の範囲にすることが好ましい。)とすることが、適度の硬度と切断時伸びを得る上で好ましい。
【0017】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合する硫黄としては、タイヤ用ゴム組成物に一般に使用される0.5〜10重量部(本発明のタイヤリムクッション用ゴム組成物の場合には、0.5〜3重量部の範囲に、また、タイヤのカーカス又はタイゴム用ゴム組成物の場合には、2〜10重量部の範囲にすることが好ましい。)の配合量とすることが、適度の加硫物性を得る上で好ましい。
【0018】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、他の配合剤として、加硫又は架橋促進剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、充填剤など、かかる一般タイヤ用に配合されている各種配合剤及び添加剤が配合され、かかる配合剤及び添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0019】
以下、標準例、実施例及び比較例によって本発明を更に説明するが、本発明の技術的範囲をこれらの実施例によって限定するものでないことは言うまでもない。
【0020】
試験に使用した環状ポリスルフィドの合成
30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液89.7g(0.15モル)に、水80g、硫黄4.8g(0.15モル)及び触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド1.16g(0.0045モル)を添加して、80℃で、2時間反応させた後、トルエン100gを加え、90℃で、1,6−ジクロロヘキサン23.3g(0.15モル)を1時間滴下し、更に4時間反応させた。反応終了後、有機相を分離し、減圧下、90℃で濃縮した後、以下の式(3)で示される環状ポリスルフィドを35.2g(収率95%)で得た。
【化9】

【0021】
試験ゴム組成物の作製
以下の表1に示す加硫促進剤と硫黄を除く各成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し、160℃に達した時に放出したマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を8インチのオープンロールで混練して、標準例、比較例及び実施例に示すそれぞれのゴム組成物を得た。
【0022】
試験方法
1)切断時伸び(EB): JIS K 6251に準拠して、上記各ゴム組成物を15cm×15cm×0.2cmの金型中で、150℃、40分間プレス加硫して得た試験サンプル(ゴムシート)からJIS3号形ダンベルにて2mm厚のゴムシートを打抜き、500mm/分の引張速度の条件下で、切断時伸び(EB)を測定した。結果は、標準例1及び2を100として指数で示した。指数が大きい程、切断時伸びが良好であることを示す。
2)熱老化EB保持率: JIS K 6251に準拠して、前記各ゴムシートの熱老化前と熱老化後(80℃×96時間)の切断時伸びを測定し、(熱老化後の切断時伸び)/(熱老化前の切断時伸び)の熱老化保持率を算出し、標準例1及び2を100として指数で示した。指数が大きい程、耐熱老化性が良好であることを示す。
3)セット性: 上記各ゴム組成物を、所定の金型中にて148℃で45分間加圧加熱し、JIS K6262「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの永久歪試験方法」に規定する大型試験片を作製した。この試験片に対して25%の圧縮を加え、JIS K6257に規定する空気循環式の高温槽で、170℃、22時間老化した後の圧縮永久歪を測定した。圧縮永久歪の量を、従来例の標準例1及び2を100として指数で示した。この指数が95以上であれば、従来例に比してセット性が同等以上であると評価した。指数が大きい程、セット性が良好であることを示す。
【0023】
標準例1〜2、実施例1〜6及び比較例1〜2
結果を、以下の表1に示す。
【表1】

【0024】
表1の結果によると、環状ポリスルフィドを単独で配合する(比較例1及び2)と、耐熱老化性は大幅に向上するがセット性が低下しているのに対して、当該環状ポリスルフィドとジフェニルアミンを併用で配合する(実施例1〜6)と、その耐熱老化性を高いまま維持しつつセット性も向上していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0025】
よって、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、特に、優れた耐熱老化性と共に良好なセット性が要求されるタイヤのリムクッション、カーカス又はタイゴム用ゴム組成物として使用すれば、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜100のカーボンブラック40〜100重量部、硫黄0.5〜10重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜10重量部を含み、かつ下記式(2)で表されるジフェニルアミン0.1〜5重量部を含むことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)
【化2】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)
【請求項2】
ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜85のカーボンブラック40〜100重量部、硫黄0.5〜3重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜3重量部を含み、かつ下記式(2)で表されるジフェニルアミン0.1〜3重量部を含むことを特徴とするタイヤリムクッション用ゴム組成物。
【化3】

(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)
【化4】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)
【請求項3】
ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜100のカーボンブラック40〜80重量部、硫黄2〜10重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜10重量部を含み、かつ下記式(2)で表されるジフェニルアミン0.1〜5重量部を含むことを特徴とするタイヤカーカス用ゴム組成物。
【化5】

(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)
【化6】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)
【請求項4】
ジエン系ゴム100重量部に対し、窒素吸着比表面積20〜100のカーボンブラック40〜80重量部、硫黄2〜10重量部、下記式(1)で表される環状ポリスルフィド化合物0.5〜10重量部を含み、かつ下記式(2)で表されるジフェニルアミン0.1〜5重量部を含むことを特徴とするタイヤのタイゴム用組成物。
【化7】

(式中、xは、2〜6の整数、nは、1〜20の整数、Rは、置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族を含むアルキレン基である。)
【化8】

(式中、Rは、C4〜C10のアルキル基である。)

【公開番号】特開2007−99872(P2007−99872A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290314(P2005−290314)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】