タイヤ用補強材および空気入りタイヤ
【課題】 タイヤの補強層に使用する補強材として、複数の捲縮率を持つ波状やスパイラル状の捲縮加工を施して、加硫後のタイヤにおいても充分に変曲点を保持でき、捲縮加工を施したことによる効果を充分に発揮できるタイヤ用補強材および空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 フィラメントもしくはコード等の線状材よりなるタイヤ用補強材1を、その長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続するように捲縮加工を施したものとし、この補強材1を補強層の少なくとも1層に用いて空気入りタイヤを構成する。この補強材の捲縮率を0.05%以上とする。
【解決手段】 フィラメントもしくはコード等の線状材よりなるタイヤ用補強材1を、その長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続するように捲縮加工を施したものとし、この補強材1を補強層の少なくとも1層に用いて空気入りタイヤを構成する。この補強材の捲縮率を0.05%以上とする。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、タイヤの補強層に使用するタイヤ用補強材および空気入りタイヤに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ラジアルタイヤ等の空気入りタイヤにおいて、ベルト等の補強層には、高炭素鋼からなるスチール製や合成樹脂製のフィラメントもしくはコード等の線状材よりなる補強材が、多数並列してゴム材で被覆されシート化されて用いられている。
【0003】このタイヤ補強層における補強素子としては、通常、ストレート形態の線状材が一般に用いられているが、伸びや柔軟性が芳しくなく、衝撃吸収性、耐疲労性に劣るといった問題があることから、例えば、高炭素鋼からなるスチール製の単一フィラメント構造の線状材で、波状やスパイラル状の捲縮加工(所謂波付け加工)を施した補強材の実用化が考えられている。
【0004】しかし、捲縮加工を施したスチール製フィラメント等の補強材は、柔軟性は増すものの、低荷重負荷時の伸び特性に問題がある。例えば、捲縮加工されたフィラメントを引張テストすると、引張荷重の負荷により、まず捲縮加工による波形状やスパイラル形状がストレート状に伸びることから、低荷重負荷で大きな伸びを示し、ストレート状に伸び切ったところに変曲点(一次弾性限)が現われる。この変曲点は、図11の荷重−伸び特性図において(b)で示すように比較的低荷重域に存在する。そのため、前記の変曲点以上の荷重が負荷されると、捲縮加工による波形状やスパイラル形状が元の状態に復元せず、永久歪を生じてストレートのフィラメントを使用した場合と変らないことになる。
【0005】また、一次弾性限による変曲点が、タイヤ加硫時のリフト率に近いところにある場合、加硫後の物性は、ストレートの補強材を用いた場合と同じになり、タイヤ性能上、捲縮加工を施した補強材を用いたことによる特徴を発揮できないことになる。
【0006】また前記のような問題を解消するものとして、略スパイラル状の小さいくせ付け加工と、そのくせ形状とは別の比較的大きいうねりとの2種の形付け加工を複合させて施したフィラメントが提案されたが(実開平7−24995号公報)、この場合、フィラメントワイヤー時点では大きいうねりは存在するが、ゴムに埋設するときの張力や埋設後の工程取扱時に作用する力でうねりが伸びてなくなりその結果、製品タイヤ時点では従来の単一のスパイラル加工を施したうねりを持たないフィラメントと変らない状態となる。
【0007】本発明は、上記に鑑みてなしたもので、タイヤの補強層に使用するフィラメントやコード等の補強材として、異なった捲縮率の部分が複合する特殊な捲縮加工を施すことにより、荷重−伸び特性の変曲点を加硫後のタイヤにおいても保有でき、捲縮加工を施した補強材を補強層に使用したことによる効果を充分に確保できるタイヤ用補強材と、この補強材の使用により、製品時の伸びを適度に残してしかも操縦安定性、耐疲労性および耐久性に優れる空気入りタイヤを提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の課題を解決するものであり、請求項1の発明は、フィラメントもしくはコード等の線状材よりなるタイヤ用補強材であって、その長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続するように捲縮加工が施されてなることを特徴とする。
【0009】前記の複数の異なった捲縮率の部分は、振幅またはピッチのいずれか一方もしくは双方の変化により捲縮率を異にしたものである。
【0010】請求項3の発明は、前記のタイヤ用補強材が、二次元の波形による捲縮加工による補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続しているものであり、請求項4の発明は、前記のタイヤ用補強材が、スパイラル状の捲縮加工による補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続しているものである。
【0011】また前記の補強材は、下記の式で求まる補強材全体としての捲縮率が0.05%以上であるものが特に好適である。
【0012】捲縮率(%)=100(B−A)/Aここで、A:ストレート時の単位長さ当りの重量(g/m)
B:捲縮加工後の単位長さ当り重量(g/m)
すなわち、補強材全体としての捲縮率が0.05%より小さくなると、捲縮加工を施したことによる効果が小さくなるからである。また捲縮率の上限は、タイヤを構成する補強層の配置個所や目的によって異なり、必要に応じて10数%あるいはそれ以上の捲縮率を与えることも可能である。
【0013】前記において、複数の異なった捲縮率の部分が、それぞれ0.05%以上の捲縮率となっているものが好ましい。
【0014】さらに、前記の補強材は、引張モジュラス1500kgf/mm2 以上のフィラメント、コード等の線状材よりなるものが好ましい。
【0015】すなわち、補強素子の引張モジュラスが1500kgf/mm2 を下回るものであると、補強素子としての補強効果が小さくなる上に、捲縮加工を施したことによる効果も殆ど得られないものになる。
【0016】請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれかのタイヤ用補強材を、少なくとも1層の補強層の補強素子として用いた空気入りタイヤを特徴とする。前記の補強層としては、ベルト層の少なくとも1層であるのが、タイヤの性能の向上の点から特に好適である。
【0017】
【作用】上記した本発明のタイヤ用補強材は、長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続する捲縮加工されたものであるために、荷重−伸び特性において複数の変曲点を持つことになる。したがってこの補強材をベルト層等の補強層の少なくとも1層に用いた空気入りタイヤにあっては、前記補強材の変曲点の一つがタイヤ加硫時のリフト率付近にあっても、加硫後のタイヤにおいて変曲点を保有でき、低荷重域においては捲縮加工による効果で柔軟性を保有し、かつ補強材自体の伸長を抑制できる。
【0018】
【実施例】次に本発明の実施形態を図面に基いて説明する。
【0019】図1は、二次元や三次元の捲縮加工を施した単一フィラメント構造のタイヤ用補強材を拡大して示し、図2は同補強材(1)をすだれ状に多数並列させてゴム材(2)で被覆したシート(10)の断面を示している。
【0020】前記の補強材(1)は、高炭素鋼からなるスチール製のストレートのフィラメント(1a)を素材として、例えば図3の方法で波状の捲縮加工を施されてなる。特に本発明における補強材(1)は、フィラメント(1a)の長手方向の全長にわたって複数の異なった捲縮率の部分、例えば図のように大波部(3a)と小波部(3b)とを重複させることなく所要長さ毎に交互に連続させた複合形状の捲縮加工を施したものよりなる。
【0021】前記の複数の異なった捲縮率の部分は、振幅(W1 )(W2 )またはピッチ(P1 )(P2 )のいずれか一方もしくは双方を規則的に変化させるか、不規則に変化させることにより捲縮率を異にしたものであり、これによりこの単一フィラメントの補強材(1)は、複数の捲縮率の組合せにより、図11の荷重−伸び特性図において(a)で示すように複数の変曲点を有することになる。なお、図11中の(c)はストレートフィラメントの特性を示している。
【0022】前記の複数の異なった捲縮率の部分、例えば図の大波部(3a)と小波部(3b)とは、図1のように1ピッチ毎に変化して連続するものに限らず、複数ピッチ等の任意の長さ毎に変化させて連続させることができ、またストレート部を介して連続させる場合もある。
【0023】なお、前記の単一フィラメント構造の補強材(1)としては、乗用車用タイヤの場合には通常0.1〜1.0mmの線径のものが使用され、トラック、バス用タイヤ等の場合には0.1〜2.5mmの線径のものが使用される。もちろん前記以外の線径のフィラメントの使用も可能である。
【0024】前記の複数の異なった捲縮率の部分を有する捲縮加工の方法を、図3により説明する。
【0025】図3においては、大波部(3a)と小波部(3b)との2種の捲縮率の部分を交互に連続する捲縮加工を施す例を示しており、この図3における(1a)は加工前のストレートのフィラメント、(4)(5)は適宜駆動手段により駆動される一対の歯形ロールを示している。
【0026】ストレートのフィラメント(1a)を、前記一対の歯形ロール(4)(5)に導き通すことにより、該歯形ロール(4)(5)の外周に有する高低差のある歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の噛み合せで、図1に示すように上下に凹凸状をなしかつ振幅および/またはピッチの異なる大波部(3a)と小波部(3b)とが交互に連続する波形状の捲縮加工が施される。
【0027】この波形の振幅は、前記の歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の噛み合せの深さによって決定でき、また波形のピッチは、歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の間隔によって決定できる。
【0028】また、補強材(1)の波状の捲縮加工の形状としては、図1あるいは図4(A)のような正弦波のほか、図4(B)のような三角波、図4(C)のような台形波等、種々の波形状とすることができる。これらは図3の装置の歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の断面形状により設定できる。これらは補強層としての使用上における縦波や横波のいずれであってもよい。
【0029】さらに、補強材(1)に後述するスパイラル状の捲縮加工を施すこともできる。また波状とスパイラル状の捲縮加工を複合したものとすることもできる。
【0030】図5は、上記同様のスチール製の単一フィラメント構造の補強材(1)において、その長手方向の全長にわたって複数の異なった捲縮率の部分(13a)(13b)を重複させることなく所要長さ毎に交互に連続させたスパイラル状の捲縮加工を施した場合を示している。
【0031】この場合も、複数の異なった捲縮率の部分(13a)(13b)は、振幅(スパイラル径)またはピッチのいずれか一方もしくは双方を規則的に変化させるか、不規則に変化させることにより捲縮率を異にしており、この複数の捲縮率の組合せにより、荷重−伸び特性において複数の変曲点を有するものとなっている。
【0032】このスパイラル状の捲縮加工は、例えば図6R>6に示すスパイラル加工機を使用して行なうもので、2台の油圧サーボ加振器(6)(7)にそれぞれ導孔(8a)(9a)を有するガイド板(8)(9)を連結し、該ガイド板(8)(9)の導孔(8a)(9a)にストレートのフィラメント(1a)を通過させ、2台の加振器(6)(7)を90°位相で図7(ロ)のような波形にして駆動することにより、図5のスパイラル状をなす捲縮加工を施すことができる。この場合の異なった捲縮率部分(13a)(13b)の振幅やピッチは、前記加振器(6)(7)による振幅と位相差によって任意に決定できる。
【0033】なお、上記の実施例においては、タイヤ用補強材(1)がスチール製の単一フィラメントよりなる場合を例にして説明したが、合成繊維等の他の素材のフィラメント、あるいは前記スチールや合成繊維製のフィラメントを撚合せた所謂撚コード、さらには前記のフィラメントを用いて編組した組紐よりなるコード等、他の高張力を有する線状材を使用することができ、この場合にも、波状やスパイラル状の捲縮加工を施して、複数の異なった捲縮率の部分を連続させるようにして実施することができる。
【0034】上記の波状およびスパイラル状のいずれの捲縮加工の場合も、次の式で求められる補強材全体としての捲縮率を0.05%以上にして、捲縮加工による効果を保持させるものとする。中でも複数の捲縮率の部分のいずれもが0.05%以上の捲縮率を持つものが特に好適である。
【0035】捲縮率(%)=100(B−A)/Aここで、A;ストレート時の単位長さ当りの重量(g/m)
B:捲縮加工後の単位長さ当り重量(g/m)
すなわち、線径0.25mmのスチール製フィラメントを素材とし、複数の異なった捲縮率の部分が1ピッチ毎に交互に連続する図1の形態の波状の捲縮加工を施した。この補強材(1)を、エンド数60本/25mmで並列させてゴム材で被覆し、これを加硫して幅25mm、厚み3mmのベルト状のサンプルを製作し、疲労寿命をテストしたところ、次の表1の結果が得られた。
【0036】なお、テストは、前記サンプルを、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」参考1の2の疲労強さの項に定義される(1) ファイアストン法(A法)に準拠する方法により、40kgfの力を繰返し負荷し、サンプル破断までのサイクル数を計数した。また同時に、比較のためにストレートのフィラメントを使用した場合と、4本のストレートフィラメントに撚をかけて得られた従来の1×4×0.25の撚コードを、エンド数15本/25mmでゴム材に埋設して加硫したものについても、それぞれ同様のテストを行なった。
【0037】
【表1】
【0038】上記の結果、前記の式で求められる捲縮率が0.05%未満のフィラメントの場合■は、ストレートのフィラメントの場合■と同様に、疲労寿命は極端に悪くなっているが、捲縮率が0.05%以上の場合には、疲労寿命が従来の撚コードの場合■に比して増大している。
【0039】したがって、補強材としての捲縮率は、0.05%以上とするのが、耐疲労性を向上させる上で、特に効果的なものである。
【0040】また、補強材としては、引張モジュラスが1500kgf/mm2 以上の線状材を用いるのがよい。
【0041】すなわち、下記の表2のように、引張モジュラスを異にする素材として、スチール、アラミド繊維、ビニロン繊維の各フィラメントを素材とする撚コードに捲縮加工を施し、このコードを補強素子としてゴム材で被覆したベルトを作り、該ベルトを図9の構造の2層ベルトに使用して、サイズ195/60R15のタイヤを製作し、それぞれコーナリングパワー(CP)、上下軸加速度を測定したところ、下記表1のような結果となった。
【0042】なお、上下軸加速度は、突起付ドラム上で速度60km/Hでタイヤを走行させて、突起を乗越した時に発生する上下軸方向の加速度を測定した。それぞれの素材のコードで単一の捲縮加工を施した場合を100として指数で表示した。
【0043】
【表2】
【0044】上記したように、CPの向上および上下軸加速度の低減の効果は、モジュラスが1500kgf/mm2 以上になれば、その効果が大きくなるので、タイヤ用補強材(1)としては、1500kgf/mm2 以上の引張モジュラスを有するものとするのが好ましい。
【0045】上記したタイヤ用補強材(1)は、その多数本を層状に並列させて、これを埋設するようにゴム材(2)で被覆することにより、図2のようなシート(10)に形成して、空気入りタイヤのベルト層やサイドウオールの補強層として、またビード部の補強層としてゴム材中に埋設して使用する。
【0046】この際、各補強材(1)の並列状態としては、図8(A)のように、同じ捲縮加工形状ものを位相を合せて並列する場合のほか、図8(B)(C)のように1〜数本毎にあるいは所要数本の群毎に位相を変化させたり、あるいは同図(D)のように、ランダムに並列させてゴム材により被覆してシート化することもできる。
【0047】また補強層内における各補強材としての捲縮率を同じにするほか、それぞれ個々に、あるいは1〜所要数本毎に、捲縮率を異にすることもできる。またタイヤにおける1枚の補強層を構成する補強材の大部分を上記した複数の異なった捲縮率を有する線状材を使用し、残余の補強材に従来の単一の捲縮加工を施したものとして、これらを交互に配置して並列させ、ゴム材で被覆してシート化することもできる。
【0048】特に、前記の補強材(1)の捲縮率を、タイヤ性能を引き出すのに好都合なものとなるように設計して、実施するのが特に好適である。
【0049】上記のように、捲縮加工を施した線状材よりなる補強材(1)を、例えば図9あるいは図10のように、タイヤにおけるベルト層等の補強層の少なくとも1層に用いて、ラジアルタイヤ等の空気入りタイヤ(T)を構成する。図9および図10において、(21)はベルト層、(22)はベルト補強層、(23)は両側折曲げベルト補強層、(11)はカーカス、(12)はトレッド、(14)はビード部を示す。
【0050】こうして構成された空気入りタイヤ(T)は、前記補強層の少なくとも1層(に上記した補強材(1)を用いたことにより、耐疲労性を向上でき、加硫後も変曲点を確保できて、低荷重負荷時の伸びを保有でき、柔軟性や操縦安定性および耐久性等の性能向上に寄与できる。
【0051】
【実施例】実施例1線径0.25mmのスチール製フィラメントを素材とし、図3の歯形ロール(4)(5)間を通して、複数の異なった捲縮率の部分が交互に連続する波形状の捲縮加工を施した補強材の場合(a)と、前記フィラメントに従来の単一の捲縮加工を施した補強材の場合(b)と、同フィラメントを使用した1×4×0.25の撚コードの場合(c)と、同フィラメントのストレートタイプの補強材の場合(d)とを、それぞれ多数並列してゴム材で被覆してシート化した。得られた厚さ1.1mmのシートを、図9におけるタイヤのそれぞれ2枚のベルト層(21)(21)の双方に使用して、サイズ195/60R15のタイヤを製作した。得られたタイヤ(A)〜(D)について、コーナリングパワー(CP)、上下加速度およびベルト折走行距離を測定し比較した。その結果を、次の表3に示す。なお、それぞれ単一の捲縮加工フィラメントを補強材とする場合(b)を100として指数で表示した。
【0052】
【表3】
【0053】上記の結果、コーナリングパワー、上下軸加速度、ベルト折走行距離の全てが、従来の単一の捲縮加工フィラメントを補強材とする場合に比して良好なものとなった。特にコーナリングパワー、耐久性が良好なものとなった。
【0054】実施例2線径0.175mmのスチール製フィラメントを素材とし、図6の装置を通して、2台の油圧サーボ加自身器を図7の(イ)および(ロ)の波形で駆動してスパイラル状の捲縮加工を行ない、単一の捲縮率をもつ補強材と、複数の異なった捲縮率を有する補強材をそれぞれ製作し、それぞれの補強材を並列してゴム材で被覆し、厚み1.0mmのシートを得た。
【0055】こうして得られた(イ)(ロ)それぞれのシートを、図10(A)のタイヤ構造におけるアラミト繊維コードよりなる2枚の交叉ベルト(1500d/2本撚、エンド数23本/25mm、交差角23°)(21)の上に、周方向に対し0°の2層ベルト補強層(22)として配置し、サイズ195/60R15のタイヤを製作した。また同時に、前記の(ロ)のシートを、図10(B)のタイヤ構造において、アラミド繊維のベルト層(21)の上に、両側折曲げベルト補強層(23)として配置し、サイズ195/60R15のタイヤを得た。
【0056】これらのタイヤについて、それぞれ高速耐久性を調べた。その結果を、下記表4に示す。なお、高速耐久性は、単一の捲縮率の捲縮加工フィラメントを補強材とした場合を100として指数で表示した。
【0057】
【表4】
【0058】上記の結果、本発明の複数の異なった捲縮率の部分を連続させた補強材を補強層に用いることにより、高速耐久性を向上できることが判明した。
【0059】
【発明の効果】上記したように本発明のタイヤ用補強材によれば、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく連続するように捲縮加工されているために、荷重−伸び特性において複数の変曲点を持つことになって、仮に一の変曲点がタイヤ加硫時のリフト率付近にあっても、加硫後のタイヤは捲縮加工による変曲点を保有でき、低荷重域においては捲縮加工による効果で柔軟性があってかつ補強材自体の伸長を抑制できる。
【0060】したがって、前記の補強材を使用した空気入りタイヤは、波状やスパイラル状の捲縮加工を施した補強材を補強層に用いたことによる効果を充分に発揮でき、複雑かつ任意の伸び特性を確保でき、操縦安定性、高速耐久性、耐疲労性を良好に確保できる。
【0061】特に、請求項5のように補強材としての捲縮率を、0.05%以上に設定した場合には、前記の作用が顕著なものになり、また前記の補強材が、引張モジュラス1500kgf/mm2 以上の線状材を使用することより、その作用がさらに効果的に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のタイヤ用補強材の1実施例を示す一部の拡大正面図である。
【図2】同上の補強材を並列しゴム材で被覆してシート状に形成した一部の断面図である。
【図3】同上のタイヤ用補強材の製造法の1例を示す一部の概略説明図である。
【図4】(A)(B)(C)のそれぞれ捲縮加工による波形状を例示する一部の略示正面図である。
【図5】スパイラル状に捲縮加工したタイヤ補強材を例示する一部の拡大正面図である。
【図6】同上のタイヤ用補強材の製造法の1例を示す一部の概略説明図である。
【図7】(イ)(ロ)それぞれスパイラル加工機の駆動波形とスパイラル形状とを示す正面図である。
【図8】(A)(B)(C)(D)それぞれタイヤ補強材の配置形態を示す説明図である。
【図9】タイヤ補強材をタイヤの補強層としてのベルトに使用した空気入りタイヤの実施例を示す略示断面図である。
【図10】(A)および(B)は他のタイヤにおける補強層としての使用例を示す略示断面図である。
【図11】タイヤ用補強材の荷重−伸び特性図である。
【符号の説明】
(1) 補強材
(1a) ストレートのフィラメント
(2) ゴム材
(3a) 大波部
(3b) 小波部
(4)(5) 歯形ロール
(4a)(4b)(5a)(5b) 歯形部
(6)(7) 油圧サーボ加振器
(8)(9) ガイド板
(13a)(13b) 異なった捲縮率の部分
(21) ベルト層
(22) ベルト補強層
(23) 折曲げベルト補強層
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、タイヤの補強層に使用するタイヤ用補強材および空気入りタイヤに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ラジアルタイヤ等の空気入りタイヤにおいて、ベルト等の補強層には、高炭素鋼からなるスチール製や合成樹脂製のフィラメントもしくはコード等の線状材よりなる補強材が、多数並列してゴム材で被覆されシート化されて用いられている。
【0003】このタイヤ補強層における補強素子としては、通常、ストレート形態の線状材が一般に用いられているが、伸びや柔軟性が芳しくなく、衝撃吸収性、耐疲労性に劣るといった問題があることから、例えば、高炭素鋼からなるスチール製の単一フィラメント構造の線状材で、波状やスパイラル状の捲縮加工(所謂波付け加工)を施した補強材の実用化が考えられている。
【0004】しかし、捲縮加工を施したスチール製フィラメント等の補強材は、柔軟性は増すものの、低荷重負荷時の伸び特性に問題がある。例えば、捲縮加工されたフィラメントを引張テストすると、引張荷重の負荷により、まず捲縮加工による波形状やスパイラル形状がストレート状に伸びることから、低荷重負荷で大きな伸びを示し、ストレート状に伸び切ったところに変曲点(一次弾性限)が現われる。この変曲点は、図11の荷重−伸び特性図において(b)で示すように比較的低荷重域に存在する。そのため、前記の変曲点以上の荷重が負荷されると、捲縮加工による波形状やスパイラル形状が元の状態に復元せず、永久歪を生じてストレートのフィラメントを使用した場合と変らないことになる。
【0005】また、一次弾性限による変曲点が、タイヤ加硫時のリフト率に近いところにある場合、加硫後の物性は、ストレートの補強材を用いた場合と同じになり、タイヤ性能上、捲縮加工を施した補強材を用いたことによる特徴を発揮できないことになる。
【0006】また前記のような問題を解消するものとして、略スパイラル状の小さいくせ付け加工と、そのくせ形状とは別の比較的大きいうねりとの2種の形付け加工を複合させて施したフィラメントが提案されたが(実開平7−24995号公報)、この場合、フィラメントワイヤー時点では大きいうねりは存在するが、ゴムに埋設するときの張力や埋設後の工程取扱時に作用する力でうねりが伸びてなくなりその結果、製品タイヤ時点では従来の単一のスパイラル加工を施したうねりを持たないフィラメントと変らない状態となる。
【0007】本発明は、上記に鑑みてなしたもので、タイヤの補強層に使用するフィラメントやコード等の補強材として、異なった捲縮率の部分が複合する特殊な捲縮加工を施すことにより、荷重−伸び特性の変曲点を加硫後のタイヤにおいても保有でき、捲縮加工を施した補強材を補強層に使用したことによる効果を充分に確保できるタイヤ用補強材と、この補強材の使用により、製品時の伸びを適度に残してしかも操縦安定性、耐疲労性および耐久性に優れる空気入りタイヤを提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の課題を解決するものであり、請求項1の発明は、フィラメントもしくはコード等の線状材よりなるタイヤ用補強材であって、その長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続するように捲縮加工が施されてなることを特徴とする。
【0009】前記の複数の異なった捲縮率の部分は、振幅またはピッチのいずれか一方もしくは双方の変化により捲縮率を異にしたものである。
【0010】請求項3の発明は、前記のタイヤ用補強材が、二次元の波形による捲縮加工による補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続しているものであり、請求項4の発明は、前記のタイヤ用補強材が、スパイラル状の捲縮加工による補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続しているものである。
【0011】また前記の補強材は、下記の式で求まる補強材全体としての捲縮率が0.05%以上であるものが特に好適である。
【0012】捲縮率(%)=100(B−A)/Aここで、A:ストレート時の単位長さ当りの重量(g/m)
B:捲縮加工後の単位長さ当り重量(g/m)
すなわち、補強材全体としての捲縮率が0.05%より小さくなると、捲縮加工を施したことによる効果が小さくなるからである。また捲縮率の上限は、タイヤを構成する補強層の配置個所や目的によって異なり、必要に応じて10数%あるいはそれ以上の捲縮率を与えることも可能である。
【0013】前記において、複数の異なった捲縮率の部分が、それぞれ0.05%以上の捲縮率となっているものが好ましい。
【0014】さらに、前記の補強材は、引張モジュラス1500kgf/mm2 以上のフィラメント、コード等の線状材よりなるものが好ましい。
【0015】すなわち、補強素子の引張モジュラスが1500kgf/mm2 を下回るものであると、補強素子としての補強効果が小さくなる上に、捲縮加工を施したことによる効果も殆ど得られないものになる。
【0016】請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれかのタイヤ用補強材を、少なくとも1層の補強層の補強素子として用いた空気入りタイヤを特徴とする。前記の補強層としては、ベルト層の少なくとも1層であるのが、タイヤの性能の向上の点から特に好適である。
【0017】
【作用】上記した本発明のタイヤ用補強材は、長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続する捲縮加工されたものであるために、荷重−伸び特性において複数の変曲点を持つことになる。したがってこの補強材をベルト層等の補強層の少なくとも1層に用いた空気入りタイヤにあっては、前記補強材の変曲点の一つがタイヤ加硫時のリフト率付近にあっても、加硫後のタイヤにおいて変曲点を保有でき、低荷重域においては捲縮加工による効果で柔軟性を保有し、かつ補強材自体の伸長を抑制できる。
【0018】
【実施例】次に本発明の実施形態を図面に基いて説明する。
【0019】図1は、二次元や三次元の捲縮加工を施した単一フィラメント構造のタイヤ用補強材を拡大して示し、図2は同補強材(1)をすだれ状に多数並列させてゴム材(2)で被覆したシート(10)の断面を示している。
【0020】前記の補強材(1)は、高炭素鋼からなるスチール製のストレートのフィラメント(1a)を素材として、例えば図3の方法で波状の捲縮加工を施されてなる。特に本発明における補強材(1)は、フィラメント(1a)の長手方向の全長にわたって複数の異なった捲縮率の部分、例えば図のように大波部(3a)と小波部(3b)とを重複させることなく所要長さ毎に交互に連続させた複合形状の捲縮加工を施したものよりなる。
【0021】前記の複数の異なった捲縮率の部分は、振幅(W1 )(W2 )またはピッチ(P1 )(P2 )のいずれか一方もしくは双方を規則的に変化させるか、不規則に変化させることにより捲縮率を異にしたものであり、これによりこの単一フィラメントの補強材(1)は、複数の捲縮率の組合せにより、図11の荷重−伸び特性図において(a)で示すように複数の変曲点を有することになる。なお、図11中の(c)はストレートフィラメントの特性を示している。
【0022】前記の複数の異なった捲縮率の部分、例えば図の大波部(3a)と小波部(3b)とは、図1のように1ピッチ毎に変化して連続するものに限らず、複数ピッチ等の任意の長さ毎に変化させて連続させることができ、またストレート部を介して連続させる場合もある。
【0023】なお、前記の単一フィラメント構造の補強材(1)としては、乗用車用タイヤの場合には通常0.1〜1.0mmの線径のものが使用され、トラック、バス用タイヤ等の場合には0.1〜2.5mmの線径のものが使用される。もちろん前記以外の線径のフィラメントの使用も可能である。
【0024】前記の複数の異なった捲縮率の部分を有する捲縮加工の方法を、図3により説明する。
【0025】図3においては、大波部(3a)と小波部(3b)との2種の捲縮率の部分を交互に連続する捲縮加工を施す例を示しており、この図3における(1a)は加工前のストレートのフィラメント、(4)(5)は適宜駆動手段により駆動される一対の歯形ロールを示している。
【0026】ストレートのフィラメント(1a)を、前記一対の歯形ロール(4)(5)に導き通すことにより、該歯形ロール(4)(5)の外周に有する高低差のある歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の噛み合せで、図1に示すように上下に凹凸状をなしかつ振幅および/またはピッチの異なる大波部(3a)と小波部(3b)とが交互に連続する波形状の捲縮加工が施される。
【0027】この波形の振幅は、前記の歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の噛み合せの深さによって決定でき、また波形のピッチは、歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の間隔によって決定できる。
【0028】また、補強材(1)の波状の捲縮加工の形状としては、図1あるいは図4(A)のような正弦波のほか、図4(B)のような三角波、図4(C)のような台形波等、種々の波形状とすることができる。これらは図3の装置の歯形部(4a)(4b)および(5a)(5b)の断面形状により設定できる。これらは補強層としての使用上における縦波や横波のいずれであってもよい。
【0029】さらに、補強材(1)に後述するスパイラル状の捲縮加工を施すこともできる。また波状とスパイラル状の捲縮加工を複合したものとすることもできる。
【0030】図5は、上記同様のスチール製の単一フィラメント構造の補強材(1)において、その長手方向の全長にわたって複数の異なった捲縮率の部分(13a)(13b)を重複させることなく所要長さ毎に交互に連続させたスパイラル状の捲縮加工を施した場合を示している。
【0031】この場合も、複数の異なった捲縮率の部分(13a)(13b)は、振幅(スパイラル径)またはピッチのいずれか一方もしくは双方を規則的に変化させるか、不規則に変化させることにより捲縮率を異にしており、この複数の捲縮率の組合せにより、荷重−伸び特性において複数の変曲点を有するものとなっている。
【0032】このスパイラル状の捲縮加工は、例えば図6R>6に示すスパイラル加工機を使用して行なうもので、2台の油圧サーボ加振器(6)(7)にそれぞれ導孔(8a)(9a)を有するガイド板(8)(9)を連結し、該ガイド板(8)(9)の導孔(8a)(9a)にストレートのフィラメント(1a)を通過させ、2台の加振器(6)(7)を90°位相で図7(ロ)のような波形にして駆動することにより、図5のスパイラル状をなす捲縮加工を施すことができる。この場合の異なった捲縮率部分(13a)(13b)の振幅やピッチは、前記加振器(6)(7)による振幅と位相差によって任意に決定できる。
【0033】なお、上記の実施例においては、タイヤ用補強材(1)がスチール製の単一フィラメントよりなる場合を例にして説明したが、合成繊維等の他の素材のフィラメント、あるいは前記スチールや合成繊維製のフィラメントを撚合せた所謂撚コード、さらには前記のフィラメントを用いて編組した組紐よりなるコード等、他の高張力を有する線状材を使用することができ、この場合にも、波状やスパイラル状の捲縮加工を施して、複数の異なった捲縮率の部分を連続させるようにして実施することができる。
【0034】上記の波状およびスパイラル状のいずれの捲縮加工の場合も、次の式で求められる補強材全体としての捲縮率を0.05%以上にして、捲縮加工による効果を保持させるものとする。中でも複数の捲縮率の部分のいずれもが0.05%以上の捲縮率を持つものが特に好適である。
【0035】捲縮率(%)=100(B−A)/Aここで、A;ストレート時の単位長さ当りの重量(g/m)
B:捲縮加工後の単位長さ当り重量(g/m)
すなわち、線径0.25mmのスチール製フィラメントを素材とし、複数の異なった捲縮率の部分が1ピッチ毎に交互に連続する図1の形態の波状の捲縮加工を施した。この補強材(1)を、エンド数60本/25mmで並列させてゴム材で被覆し、これを加硫して幅25mm、厚み3mmのベルト状のサンプルを製作し、疲労寿命をテストしたところ、次の表1の結果が得られた。
【0036】なお、テストは、前記サンプルを、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」参考1の2の疲労強さの項に定義される(1) ファイアストン法(A法)に準拠する方法により、40kgfの力を繰返し負荷し、サンプル破断までのサイクル数を計数した。また同時に、比較のためにストレートのフィラメントを使用した場合と、4本のストレートフィラメントに撚をかけて得られた従来の1×4×0.25の撚コードを、エンド数15本/25mmでゴム材に埋設して加硫したものについても、それぞれ同様のテストを行なった。
【0037】
【表1】
【0038】上記の結果、前記の式で求められる捲縮率が0.05%未満のフィラメントの場合
【0039】したがって、補強材としての捲縮率は、0.05%以上とするのが、耐疲労性を向上させる上で、特に効果的なものである。
【0040】また、補強材としては、引張モジュラスが1500kgf/mm2 以上の線状材を用いるのがよい。
【0041】すなわち、下記の表2のように、引張モジュラスを異にする素材として、スチール、アラミド繊維、ビニロン繊維の各フィラメントを素材とする撚コードに捲縮加工を施し、このコードを補強素子としてゴム材で被覆したベルトを作り、該ベルトを図9の構造の2層ベルトに使用して、サイズ195/60R15のタイヤを製作し、それぞれコーナリングパワー(CP)、上下軸加速度を測定したところ、下記表1のような結果となった。
【0042】なお、上下軸加速度は、突起付ドラム上で速度60km/Hでタイヤを走行させて、突起を乗越した時に発生する上下軸方向の加速度を測定した。それぞれの素材のコードで単一の捲縮加工を施した場合を100として指数で表示した。
【0043】
【表2】
【0044】上記したように、CPの向上および上下軸加速度の低減の効果は、モジュラスが1500kgf/mm2 以上になれば、その効果が大きくなるので、タイヤ用補強材(1)としては、1500kgf/mm2 以上の引張モジュラスを有するものとするのが好ましい。
【0045】上記したタイヤ用補強材(1)は、その多数本を層状に並列させて、これを埋設するようにゴム材(2)で被覆することにより、図2のようなシート(10)に形成して、空気入りタイヤのベルト層やサイドウオールの補強層として、またビード部の補強層としてゴム材中に埋設して使用する。
【0046】この際、各補強材(1)の並列状態としては、図8(A)のように、同じ捲縮加工形状ものを位相を合せて並列する場合のほか、図8(B)(C)のように1〜数本毎にあるいは所要数本の群毎に位相を変化させたり、あるいは同図(D)のように、ランダムに並列させてゴム材により被覆してシート化することもできる。
【0047】また補強層内における各補強材としての捲縮率を同じにするほか、それぞれ個々に、あるいは1〜所要数本毎に、捲縮率を異にすることもできる。またタイヤにおける1枚の補強層を構成する補強材の大部分を上記した複数の異なった捲縮率を有する線状材を使用し、残余の補強材に従来の単一の捲縮加工を施したものとして、これらを交互に配置して並列させ、ゴム材で被覆してシート化することもできる。
【0048】特に、前記の補強材(1)の捲縮率を、タイヤ性能を引き出すのに好都合なものとなるように設計して、実施するのが特に好適である。
【0049】上記のように、捲縮加工を施した線状材よりなる補強材(1)を、例えば図9あるいは図10のように、タイヤにおけるベルト層等の補強層の少なくとも1層に用いて、ラジアルタイヤ等の空気入りタイヤ(T)を構成する。図9および図10において、(21)はベルト層、(22)はベルト補強層、(23)は両側折曲げベルト補強層、(11)はカーカス、(12)はトレッド、(14)はビード部を示す。
【0050】こうして構成された空気入りタイヤ(T)は、前記補強層の少なくとも1層(に上記した補強材(1)を用いたことにより、耐疲労性を向上でき、加硫後も変曲点を確保できて、低荷重負荷時の伸びを保有でき、柔軟性や操縦安定性および耐久性等の性能向上に寄与できる。
【0051】
【実施例】実施例1線径0.25mmのスチール製フィラメントを素材とし、図3の歯形ロール(4)(5)間を通して、複数の異なった捲縮率の部分が交互に連続する波形状の捲縮加工を施した補強材の場合(a)と、前記フィラメントに従来の単一の捲縮加工を施した補強材の場合(b)と、同フィラメントを使用した1×4×0.25の撚コードの場合(c)と、同フィラメントのストレートタイプの補強材の場合(d)とを、それぞれ多数並列してゴム材で被覆してシート化した。得られた厚さ1.1mmのシートを、図9におけるタイヤのそれぞれ2枚のベルト層(21)(21)の双方に使用して、サイズ195/60R15のタイヤを製作した。得られたタイヤ(A)〜(D)について、コーナリングパワー(CP)、上下加速度およびベルト折走行距離を測定し比較した。その結果を、次の表3に示す。なお、それぞれ単一の捲縮加工フィラメントを補強材とする場合(b)を100として指数で表示した。
【0052】
【表3】
【0053】上記の結果、コーナリングパワー、上下軸加速度、ベルト折走行距離の全てが、従来の単一の捲縮加工フィラメントを補強材とする場合に比して良好なものとなった。特にコーナリングパワー、耐久性が良好なものとなった。
【0054】実施例2線径0.175mmのスチール製フィラメントを素材とし、図6の装置を通して、2台の油圧サーボ加自身器を図7の(イ)および(ロ)の波形で駆動してスパイラル状の捲縮加工を行ない、単一の捲縮率をもつ補強材と、複数の異なった捲縮率を有する補強材をそれぞれ製作し、それぞれの補強材を並列してゴム材で被覆し、厚み1.0mmのシートを得た。
【0055】こうして得られた(イ)(ロ)それぞれのシートを、図10(A)のタイヤ構造におけるアラミト繊維コードよりなる2枚の交叉ベルト(1500d/2本撚、エンド数23本/25mm、交差角23°)(21)の上に、周方向に対し0°の2層ベルト補強層(22)として配置し、サイズ195/60R15のタイヤを製作した。また同時に、前記の(ロ)のシートを、図10(B)のタイヤ構造において、アラミド繊維のベルト層(21)の上に、両側折曲げベルト補強層(23)として配置し、サイズ195/60R15のタイヤを得た。
【0056】これらのタイヤについて、それぞれ高速耐久性を調べた。その結果を、下記表4に示す。なお、高速耐久性は、単一の捲縮率の捲縮加工フィラメントを補強材とした場合を100として指数で表示した。
【0057】
【表4】
【0058】上記の結果、本発明の複数の異なった捲縮率の部分を連続させた補強材を補強層に用いることにより、高速耐久性を向上できることが判明した。
【0059】
【発明の効果】上記したように本発明のタイヤ用補強材によれば、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく連続するように捲縮加工されているために、荷重−伸び特性において複数の変曲点を持つことになって、仮に一の変曲点がタイヤ加硫時のリフト率付近にあっても、加硫後のタイヤは捲縮加工による変曲点を保有でき、低荷重域においては捲縮加工による効果で柔軟性があってかつ補強材自体の伸長を抑制できる。
【0060】したがって、前記の補強材を使用した空気入りタイヤは、波状やスパイラル状の捲縮加工を施した補強材を補強層に用いたことによる効果を充分に発揮でき、複雑かつ任意の伸び特性を確保でき、操縦安定性、高速耐久性、耐疲労性を良好に確保できる。
【0061】特に、請求項5のように補強材としての捲縮率を、0.05%以上に設定した場合には、前記の作用が顕著なものになり、また前記の補強材が、引張モジュラス1500kgf/mm2 以上の線状材を使用することより、その作用がさらに効果的に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のタイヤ用補強材の1実施例を示す一部の拡大正面図である。
【図2】同上の補強材を並列しゴム材で被覆してシート状に形成した一部の断面図である。
【図3】同上のタイヤ用補強材の製造法の1例を示す一部の概略説明図である。
【図4】(A)(B)(C)のそれぞれ捲縮加工による波形状を例示する一部の略示正面図である。
【図5】スパイラル状に捲縮加工したタイヤ補強材を例示する一部の拡大正面図である。
【図6】同上のタイヤ用補強材の製造法の1例を示す一部の概略説明図である。
【図7】(イ)(ロ)それぞれスパイラル加工機の駆動波形とスパイラル形状とを示す正面図である。
【図8】(A)(B)(C)(D)それぞれタイヤ補強材の配置形態を示す説明図である。
【図9】タイヤ補強材をタイヤの補強層としてのベルトに使用した空気入りタイヤの実施例を示す略示断面図である。
【図10】(A)および(B)は他のタイヤにおける補強層としての使用例を示す略示断面図である。
【図11】タイヤ用補強材の荷重−伸び特性図である。
【符号の説明】
(1) 補強材
(1a) ストレートのフィラメント
(2) ゴム材
(3a) 大波部
(3b) 小波部
(4)(5) 歯形ロール
(4a)(4b)(5a)(5b) 歯形部
(6)(7) 油圧サーボ加振器
(8)(9) ガイド板
(13a)(13b) 異なった捲縮率の部分
(21) ベルト層
(22) ベルト補強層
(23) 折曲げベルト補強層
【特許請求の範囲】
【請求項1】フィラメントもしくはコード等の線状材よりなるタイヤ用補強材であって、その長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続するように捲縮加工が施されてなることを特徴とするタイヤ用補強材。
【請求項2】複数の異なった捲縮率の部分は、振幅およびピッチのいずれか一方もしくは双方の変化により捲縮率を異にしたものである請求項1に記載のタイヤ用補強材。
【請求項3】二次元の波形による捲縮加工によるタイヤ用補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続している請求項1または2に記載のタイヤ用補強材。
【請求項4】スパイラル状の捲縮加工による補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続している請求項1または2に記載のタイヤ用補強材。
【請求項5】下記の式で求められる補強材全体としての捲縮率が0.05%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材。
捲縮率(%)=100(B−A)/Aここで、A:ストレート時の単位長さ当りの重量(g/m)
B:捲縮加工後の単位長さ当り重量(g/m)
【請求項6】複数の異なった捲縮率の部分が、それぞれ0.05%以上の捲縮率となっている請求項5に記載のタイヤ用補強材。
【請求項7】引張モジュラスが1500kgf/mm2 以上の線状材よりなる請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材。
【請求項8】請求項1〜7のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材を、少なくとも1層の補強層の補強素子として用いてなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項9】請求項1〜7のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材を用いた補強層が、ベルト層の少なくとも1層である請求項8に記載の空気入りタイヤ。
【請求項1】フィラメントもしくはコード等の線状材よりなるタイヤ用補強材であって、その長手方向にわたって複数の異なった捲縮率の部分が連続するように捲縮加工が施されてなることを特徴とするタイヤ用補強材。
【請求項2】複数の異なった捲縮率の部分は、振幅およびピッチのいずれか一方もしくは双方の変化により捲縮率を異にしたものである請求項1に記載のタイヤ用補強材。
【請求項3】二次元の波形による捲縮加工によるタイヤ用補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続している請求項1または2に記載のタイヤ用補強材。
【請求項4】スパイラル状の捲縮加工による補強材であって、複数の異なった捲縮率の部分が重複することなく交互に連続している請求項1または2に記載のタイヤ用補強材。
【請求項5】下記の式で求められる補強材全体としての捲縮率が0.05%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材。
捲縮率(%)=100(B−A)/Aここで、A:ストレート時の単位長さ当りの重量(g/m)
B:捲縮加工後の単位長さ当り重量(g/m)
【請求項6】複数の異なった捲縮率の部分が、それぞれ0.05%以上の捲縮率となっている請求項5に記載のタイヤ用補強材。
【請求項7】引張モジュラスが1500kgf/mm2 以上の線状材よりなる請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材。
【請求項8】請求項1〜7のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材を、少なくとも1層の補強層の補強素子として用いてなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項9】請求項1〜7のいずれか1項に記載のタイヤ用補強材を用いた補強層が、ベルト層の少なくとも1層である請求項8に記載の空気入りタイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図8】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図8】
【図10】
【公開番号】特開2000−198311(P2000−198311A)
【公開日】平成12年7月18日(2000.7.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−1329
【出願日】平成11年1月6日(1999.1.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成12年7月18日(2000.7.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成11年1月6日(1999.1.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
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