説明

タウリントランスポーター遺伝子

【課題】安価に天然型タンパク質又は組換えタンパク質を生産することができる方法を提供すること。
【解決手段】タウリントランスポーターを強発現し、且つ所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した細胞を培養し、所望のポリペプチドを産生させることを含む、ポリペプチドの製造方法。ハムスタータウリントランスポーター、それをコードするDNA、組換えベクター及び形質転換細胞なども提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハムスタータウリントランスポーター及びハムスタータウリントランスポーターをコードする遺伝子並びにタウリントランスポーターを強発現する細胞を用いてポリペプチドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術を用いて、医薬として有用なタンパク質を生産する際に、動物細胞を用いると、原核細胞が行い得ないような複雑な翻訳後修飾やフォールディングが可能となるため、動物細胞は組換えタンパク質生産のための宿主細胞として多用されてきている。
近年、抗体や生理活性タンパク質などの多くのバイオ医薬品が排出されているが、組換えタンパク質を効率よく動物細胞に生産させる技術は、バイオ医薬品の低コスト化につながり、患者への安定な供給を約束するものである。
従って、より生産効率の高いタンパク質の製造方法が望まれている。
【0003】
タウリンは、魚介類や軟体動物に多く含まれるアミノ酸の一種で、哺乳動物の成長に大切な栄養素である。タンパク質合成には使われないが、高コレステロール血症正常化、血圧降下、 解毒作用、免疫機能維持、生体膜安定化、神経興奮性調節、抗酸化性 などを有している。培養細胞においては、浸透圧調節および細胞膜の安定化に寄与することが知られている(非特許文献1)。しかし、タウリントランスポーターが機能するアストロサイト初代培養細胞の培地に、タウリンを添加しても、タウリンの細胞内への取り込みが増加するとは言えないことから(非特許文献2)、培地にタウリンを添加するだけでは不十分であった。
【0004】
一方、タウリントランスポーターを介したタウリンや他のアミノ酸の培養細胞内への取り込みが、培養細胞における所望の組換えタンパク質の産生向上に寄与するかどうかはまったく知られていない。
いくつかのタウリントランスポーター(ヒト:非特許文献3、マウス:非特許文献4、ラット:非特許文献5)、並びにそのタウリントランスポーターがタウリンやβ−アラニンなどのアミノ酸の細胞への取り込みに関与することは知られている(非特許文献6)が、ハムスターのタウリントランスポーターについてはその存在を含めて未だ知られていない。
【0005】
【非特許文献1】Ian Henry Lambert, Neurochemical Research (2004) 29(1), 27−63
【非特許文献2】Journal of Neurochemistry (2000), 75(3), 919−924
【非特許文献3】Uchida, S. et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1992) 89 (17), 8230−8234
【非特許文献4】Liu,Q.R. et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1992) 89 (24), 12145−12149
【非特許文献5】Smith,K.E. et.al., Mol. Pharmacol. (1992) 42 (4), 563−569
【非特許文献6】Ryo Shioda. et.al., Investigative Ophthalmology & Visual Science (2002) 43 (9), 2916
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安価に天然型タンパク質又は組換えタンパク質を生産することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意努力した結果、タウリントランスポーターを強発現する細胞を用いることによって、所望のポリペプチドの生産量を増加させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
(1)タウリントランスポーターを強発現し、且つ所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した細胞を培養し、所望のポリペプチドを産生させることを含む、ポリペプチドの製造方法。
(2)タウリントランスポーターを強発現する細胞が、タウリントランスポーターをコードするDNAを導入した細胞である(1)記載の製造方法。
(3)細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である(2)記載の製造方法。
(4)所望のポリペプチドが抗体である(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)タウリントランスポーターをコードするDNAが以下の(a)〜(e)のいずれかである(2)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
【0009】
(a) 配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
(b) 配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は/及び挿入されたアミノ酸配列を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c) 配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d) 配列番号1、3、5又は7の塩基配列を有するDNA
(e) 配列番号1、3、5又は7の塩基配列を有するDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
【0010】
(6)タウリン濃度が0g/L〜100 g/Lである培地で培養することを含む(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の方法で製造されたポリペプチドを含有する医薬品を製造する方法。
(8)以下の(a)〜(e)のいずれかであるタウリントランスポーターをコードするDNA(但し、配列番号3、5及び7の塩基配列を有するDNAを除く)。
(a) 配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は/及び挿入されたアミノ酸配列を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c) 配列番号2のアミノ酸配列と97%以上の相同性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d) 配列番号1の塩基配列を有するDNA
(e) 配列番号1の塩基配列を有するDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
【0011】
(9)以下の(A)〜(E)のいずれかであるポリペプチド(但し、配列番号4、6及び8のアミノ酸配列を有するポリペプチドを除く)。
(A) 配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド
(B) 配列番号2のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は/及び挿入されたアミノ酸配列を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチド
(C) 配列番号2のアミノ酸配列と97%以上の相同性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチド
(D) 配列番号1の塩基配列を有するDNAによりコードされるポリペプチド
(E) 配列番号1の塩基配列を有するDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNAによりコードされるポリペプチド
【0012】
(10)(8)記載のDNAを含む組換えベクター。
(11)(8)記載のDNAが導入されている細胞。
(12)タウリントランスポーターを強発現し、且つ所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した細胞。
(13)タウリントランスポーターをコードするDNAが導入されている細胞。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、安価に所望のポリペプチドを生産することができるようになった。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2006‐110467の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、新規にクローニングされたCHO細胞由来ハムスタータウリントランスポーター遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列を示す。
【図2】図2は、新規にクローニングしたCHO細胞由来Hamster TauTのアミノ酸配列から TMpred programによって予測された膜貫通領域および方向に基づいて、Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol.89, pp.8230−8234, September 1992, Shinichi Uchida et.al.のFIG.5.を参考に作成したタウリントランスポーター膜トポロジーである。◎はHamster TauT特異的なアミノ酸残基であり、第2ループ(EX:細胞膜外領域)、12番目の膜貫通領域(TM)およびC末端(IC:細胞内領域)にHuman TauTと異なるアミノ酸が多数存在する。
【図3】図3は、Hamster TauT(622アミノ酸)を発現させたプラスミドである。
【図4】図4は、50mlシェーカーフラスコバッチ培養7日目における生細胞密度プロットである(n=7)。pHyg/TauT導入細胞の生細胞密度は、pHyg導入細胞に対して優位であった(P<0.05)。
【図5】図5は、50mlシェーカーフラスコバッチ培養7日目における乳酸産生量プロットである(n=7)。pHyg/TauT導入細胞は低乳酸産生であり、pHyg導入細胞に対して優位であった(t検定 P<0.05)。
【図6】図6は、50mlシェーカーフラスコバッチ培養7日目における抗グリピカン−3抗体産生量プロットである(n=7)。pHyg/TauT導入細胞の7株中4株は、pHyg導入細胞の最高値以上の抗体産生量を有していた。
【図7】図7は、50mlシェーカーフラスコ流加培養7日目における抗グリピカン−3抗体産生量プロットである(n=7)。 pHyg/TauT導入細胞の抗グリピカン−3抗体は、pHyg導入細胞に対して優位であった(P<0.01)。
【図8】図8は、静置培養での拡大過程で増殖能の高かったpHyg/TauT導入細胞であるT10の1L ジャーによる流加培養における生存率を示すグラフである。T10の生存率は培養32日目においても80%以上であった。一方で、親株は19日目には80%を下回った。
【図9】図9は、静置培養での拡大過程で増殖能の高かったpHyg/TauT導入細胞であるT10の1L ジャーによる流加培養における抗体産生量を示すグラフである。培養35日目における抗グリピカン−3抗体産生量は 2.9g/Lであった。
【図10】図10は、TauT導入T10細胞が細胞膜上にTauT分子を発現していることを示すフローサイトメトリー分析の結果である。1次抗体としてウサギ抗ラットタウリントランスポーター抗体(Alpha diagnostics社, U.S.)を使用(抗体±)し、2次抗体としてロバ抗ウサギIgG抗体Pycoerythrin Conjugate(Abcam社, U.K.)で標識した。
【図11】図11は、1Lジャー流加培養中の細胞内アンモニア含量(濃度比)を示すグラフである。親株にたいして、pHyg/TauT導入株のアンモニア抑制は顕著であった。
【図12】図12は、培地中のタウリン濃度に依存してタウリンが細胞内に取り込まれていることを示すグラフである。タウリンの取り込み量は、pHyg/TauT導入株と親株で差はみられなかった。
【図13】図13は、培地中のグルタミン消費を示すグラフである。pHyg/TauT導入株は親株にたいして、培地中のタウリン濃度に依存せずに細胞あたりのグルタミン消費量が顕著に高かった。
【図14】図14は、pHyg/TauT導入株の抗グリピカン−3抗体産生量が、培養開始時の培地中のタウリン濃度に依存することなく、同程度であることを示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、タウリントランスポーターを強発現し、且つ所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した細胞を培養し、所望のポリペプチドを産生させることを含む、ポリペプチドの製造方法を提供する。
本発明の方法において、細胞は、所望のポリペプチドを産生できる天然の細胞であっても、所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した形質転換細胞であってもよいが、所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した形質転換細胞が好ましい。
【0016】
本発明の方法において、所望のポリペプチドは特に限定されず、抗体(例えば、抗IL−6レセプター抗体、抗グリピカン−3抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗GPIIb/IIIa抗体、抗TNF抗体、抗CD25抗体、抗EGFR抗体、抗Her2/neu抗体、抗RSV抗体、抗CD33抗体、抗CD52抗体、抗IgE抗体、抗CD11a抗体、抗VEGF抗体、抗VLA4抗体など)や生理活性タンパク質(顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン、インターフェロン、IL−1やIL−6等のインターロイキン、t−PA、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固因子、PTHなど)など如何なるポリペプチドでもよいが、特に抗体が好ましい。抗体は、天然抗体、Fab、scFv、sc(Fv)2などの低分子化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの如何なる抗体であってもよい。
【0017】
本発明者らは、タウリントランスポーターを強発現する細胞を用いることにより、強発現したタウリントランスポーターを介して、タウリンやβ−アラニンだけでなく、グルタミンについても特異的に細胞内への取り込みを促進することを見出した。
【0018】
タウリントランスポーターは、タウリンやβ−アラニンなどのアミノ酸を細胞内に取り込む機能を有する膜タンパク質として知られているが、細胞にタウリントランスポーターを強発現させることによりグルタミンを特異的に細胞内に取り込むようになることは知られていない。ハイブリドーマにおいてグルタミンが抗体の産生に関与していることが知られている(文献;Yeon−Ho Jeong et al, Enzyme and Microbial Technology (1995) 17,47−55)ことから、タウリントランスポーターを強発現させた細胞が抗体等のタンパク質の産生を増強させる効果は、このタウリントランスポーターによるグルタミンの細胞内への特異的な取り込み作用による可能性も考えられる。
【0019】
タウリントランスポーターを強発現する細胞は、天然の細胞と比較してタウリントランスポーターの発現量が増加している細胞であれば特に限定されない。天然の細胞は特に限定されないが、例えばCHO細胞など組換えタンパク質を製造する際に宿主として用いられている細胞を挙げることができる。
タウリントランスポーターを強発現する細胞としては、例えば、タウリントランスポーター遺伝子が人為的に導入された細胞を挙げることができる。タウリントランスポーター遺伝子が人為的に導入された細胞は当業者に公知の方法により作製することが可能であり、例えば、タウリントランスポーター遺伝子をベクターに組込み、該ベクターを細胞に形質転換することにより作製することが可能である。
【0020】
細胞に強発現させるタウリントランスポーター遺伝子としては、如何なる生物由来のタウリントランスポーターでもよく、特に限定されない。具体的には、ヒト、マウス、ラット、ハムスターなどのげっ歯類などの生物由来のタウリントランスポーターが挙げられ、ヒト、げっ歯類或いは宿主細胞と同じ種由来のタウリントランスポーターであることが好ましく、例えば、タウリントランスポーターを強発現させる細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)である場合には、ヒト或いはハムスター由来のタウリントランスポーターであることが好ましい。
さらに、細胞に強発現させるタウリントランスポーター遺伝子としては、タウリントランスポーターをコードする以下の(a)〜(e)のいずれかのDNAを挙げることもできる。
【0021】
(a) 配列番号2、4,6又は8のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
(b) 配列番号2、4,6又は8のアミノ酸配列において、1又は複数(例えば、数個)のアミノ酸が置換、欠失、付加又は/及び挿入されたアミノ酸配列を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c) 配列番号2、4,6又は8のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d) 配列番号1、3、5又は7の塩基配列を有するDNA
(e) 配列番号1、3、5又は7の塩基配列を有するDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
タウリントランスポーターを強発現する細胞は如何なる細胞でもよいが、CHO細胞が好ましく、特にCHO dhfr−細胞が好ましい。
【0022】
所望のポリペプチドを製造するには、タウリントランスポーターを強発現する細胞に所望のポリペプチドをコードする遺伝子を導入し、該細胞を培地中で培養することにより製造することが可能である。
タウリントランスポーター遺伝子が人為的に導入された細胞を用いて所望のポリペプチドを製造する場合、タウリントランスポーター遺伝子と所望のポリペプチドをコードする遺伝子の導入の順序は特に制限されず、タウリントランスポーター遺伝子を導入した後に所望のポリペプチドをコードする遺伝子を導入してもよいし、所望のポリペプチドをコードする遺伝子を導入した後にタウリントランスポーター遺伝子を導入してもよい。又、タウリントランスポーター遺伝子と所望のポリペプチドをコードする遺伝子を同時に導入してもよい。
【0023】
タウリントランスポーター遺伝子及び所望のポリペプチドをコードする遺伝子の導入は単一のベクターにより同時に導入してもよいし、複数のベクターを用いて別々に導入してもよい。
【0024】
タウリントランスポーターを強発現する細胞の培養には、通常の細胞(好ましくは、動物細胞)培養で使用されている培地を用いることができる。これらには通常、アミノ酸、ビタミン類、脂質因子、エネルギー源、浸透圧調節剤、鉄源、pH緩衝剤を含む。これらの成分の含量は、通常、アミノ酸は0.05−1500mg/L、ビタミン類は0.001−10mg/L、脂質因子は0−200mg/L、エネルギー源は1−20g/L、浸透圧調節剤は0.1−10000mg/L、鉄源は0.1−500mg/L、pH緩衝剤は1−10000mg/L、微量金属元素は0.00001−200mg/L、界面活性剤は0−5000mg/L、増殖補助因子は0.05−10000μg/Lおよびヌクレオシドは0.001−50mg/Lの範囲が適当であるが、これらに限定されず、培養する細胞の種類、所望のポリペプチドの種類などにより適宜決定できる。
【0025】
上記成分のほか、例えば、微量金属元素、界面活性剤、増殖補助因子、ヌクレオシドなどを添加しても良い。
【0026】
具体的には、例えば、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−オルニチン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等、好ましくはL−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シスチン、L−グルタミン、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等のアミノ酸類;i−イノシトール、ビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチンアミド、ニコチン酸、p−アミノ安息香酸、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、塩酸ピリドキシン、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等、好ましくはビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等のビタミン類;塩化コリン、酒石酸コリン、リノール酸、オレイン酸、コレステロール等、好ましくは塩化コリン等の脂質因子;グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等、好ましくはグルコース等のエネルギー源;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム等、好ましくは塩化ナトリウム等の浸透圧調節剤;EDTA鉄、クエン酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等、好ましくは塩化第二鉄、EDTA鉄、クエン酸鉄等の鉄源類;炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、HEPES、MOPS等、好ましくは炭酸水素ナトリウム等のpH緩衝剤を含む培地を例示できる。
【0027】
上記成分のほか、例えば、硫酸銅、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化ニッケル、塩化スズ、塩化マグネシウム、亜ケイ酸ナトリウム等、好ましくは硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム等の微量金属元素;Tween80、プルロニックF68等の界面活性剤;および組換え型インスリン、組換え型IGF−1、組換え型EGF、組換え型FGF、組換え型PDGF、組換え型TGF−α、塩酸エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、レチノイン酸、塩酸プトレッシン等、好ましくは亜セレン酸ナトリウム、塩酸エタノールアミン、組換え型IGF−1、塩酸プトレッシン等の増殖補助因子;デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、アデノシン、シチジン、グアノシン、ウリジン等のヌクレオシドなどを添加してもよい。なお上記培地の好適例においては、ストレプトマイシン、ペニシリンGカリウム及びゲンタマイシン等の抗生物質や、フェノールレッド等のpH指示薬を含んでいても良い。
【0028】
培地のpHは培養する細胞により異なるが、一般的にはpH6.8〜7.6、多くの場合pH7.0〜7.4が適当である。
培地は、市販の動物細胞培養用培地、例えば、D−MEM (Dulbecco's Modified Eagle Medium)、 D−MEM/F−12 1:1 Mixture (Dulbecco's Modified Eagle Medium : Nutrient Mixture F−12)、 RPMI1640、CHO−S−SFM II(Invitrogen社)、 CHO−SF (Sigma−Aldrich社)、 EX−CELL 301 (JRH biosciences社)、CD−CHO (Invitrogen社)、 IS CHO−V (Irvine Scientific社)、 PF−ACF−CHO (Sigma−Aldrich社)などの培地を用いることも可能である。
又、培地は無血清培地であってもよい。
【0029】
タウリントランスポーターを強発現する細胞がCHO細胞である場合、CHO細胞の培養は当業者に公知の方法を用いて行うことができる。例えば、通常、気相のCO2濃度が0−40%、好ましくは、2−10%の雰囲気下、30−39℃、好ましくは37℃程度で、培養することが可能である。
後述の実施例からも明らかなように、タウリントランスポーターを強発現する細胞においては、細胞の生育阻害物質となる乳酸などの老廃物の産生が抑制されうる。その結果、細胞は高い生存率維持効果を示すこととなり、本発明の細胞は3ヶ月或いはそれ以上もの長期間の培養が可能である。
【0030】
さらには培養細胞で抗体などの所望のポリペプチドを産生する場合、培養後期においては細胞がかなり高密度の状態(およそ1 x 10 cells/ml)となり、乳酸などの老廃物の影響が極めて高くなる。本発明の細胞により所望のポリペプチドを製造すれば、培養後期においても高い生存率を維持し、所望のポリペプチドの産生量の向上についても期待できる。
本発明の細胞を用いて所望のポリペプチドを産生するために適当な培養期間は、通常1日〜3ヶ月であり、好ましくは1日〜2ヶ月、さらに好ましくは1日〜1ヶ月である。
【0031】
また、動物細胞培養用の各種の培養装置としては、例えば発酵槽型タンク培養装置、エアーリフト型培養装置、カルチャーフラスコ型培養装置、スピンナーフラスコ型培養装置、マイクロキャリアー型培養装置、流動層型培養装置、ホロファイバー型培養装置、ローラーボトル型培養装置、充填槽型培養装置等を用いて培養することができる。
培養は、バッチ培養(batch culture)、流加培養(fed−batch culture)、連続培養(continuous culture)などのいずれの方法を用いてもよいが、流加培養又は連続培養が好ましく、流加培養がより好ましい。
さらに本発明の細胞を培養する際に、細胞へのタウリンの取り込みを促進するために培地中にタウリンを添加してもよい。培地に添加するタウリンの濃度は特に限定されないが、通常0g/L〜100g/L、好ましくは0g/L〜20g/L、さらに好ましくは0g/L〜10g/Lである。
【0032】
本発明の方法により製造されたポリペプチドが医薬として利用可能な生物学的活性を有する場合には、このポリペプチドを医薬的に許容される担体又は添加剤と混合して製剤化することにより、医薬品を製造することができる。
【0033】
医薬的に許容される担体及び添加剤の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
実際の添加物は、本発明治療剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、もちろんこれらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製されたポリペプチドを溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0035】
ポリペプチドの有効投与量は、ポリペプチドの種類、治療や予防の対象とする疾患の種類、患者の年齢、疾患の重篤度などにより適宜選択される。例えば、ポリペプチドが抗グリピカン抗体である場合、抗グリピカン抗体の有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.001mgから1000mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.01〜100000mg/bodyの投与量を選ぶことができる。しかしながら、これらの投与量に制限されるものではない。
ポリペプチドの投与方法は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによる全身又は局所投与)、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。
【0036】
また、本発明は、以下の(A)〜(E)のいずれかである新規ポリペプチド(但し、配列番号4、6及び8のアミノ酸配列を有するポリペプチドを除く)を提供する。
【0037】
(A) 配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド
(B) 配列番号2のアミノ酸配列において、1又は複数(例えば、数個)のアミノ酸が置換、欠失、付加又は/及び挿入されたアミノ酸配列を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチド
(C) 配列番号2のアミノ酸配列と97%以上の相同性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチド
(D) 配列番号1の塩基配列を有するDNAによりコードされるポリペプチド
(E) 配列番号1の塩基配列を有するDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNAによりコードされるポリペプチド
本発明の新規ポリペプチドは、ハムスタータウリントランスポーター及びそれと機能的に同等なポリペプチドである。
【0038】
本発明において、ハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等とは、タウリンへの結合活性、タウリンの細胞内への輸送活性などのハムスタータウリンポーターが有する活性と同様の活性を有していることを言う。このようなポリペプチドには、例えば、ハムスタータウリントランスポーターの変異体などが含まれる。
【0039】
あるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドを調製するための、当業者によく知られた方法としては、ポリペプチドに変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto−Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271−275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468−500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441−9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350−367、Kunkel,TA(1985) Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488−492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763−2766)などを用いて、ハムスタータウリントランスポーターのアミノ酸に適宜変異を導入することによりハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドを調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、本発明のハムスタータウリントランスポーターのアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、ハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドもまた本発明のポリペプチドに含まれる。
【0040】
本発明のハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドとしては、具体的には、ハムスタータウリントランスポーターアミノ酸配列中の1又は2個以上、好ましくは、1個以上30個以下、より好ましくは1個以上20個以下、さらに好ましくは1個以上10個以下、最も好ましくは1個以上5個以下のアミノ酸が欠失したもの、ハムスタータウリントランスポーターアミノ酸配列に1又は2個以上、好ましくは、1個以上30個以下、より好ましくは1個以上20個以下、さらに好ましくは1個以上10個以下、最も好ましくは1個以上5個以下のアミノ酸が付加したもの、ハムスタータウリントランスポーターアミノ酸配列中の1又は2個以上、好ましくは、1個以上30個以下、より好ましくは1個以上20個以下、さらに好ましくは1個以上10個以下、最も好ましくは1個以上5個以下のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたもの等が挙げられる。
【0041】
変異するアミノ酸残基は、特に限定されないが、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0042】
なお、あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662−5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487−6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431−1433 、 Dalbadie−McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409−6413 )。
【0043】
本発明のハムスタータウリントランスポーターに1又は複数個のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドとしては、例えば、ハムスタータウリントランスポーターを含む融合ポリペプチドが挙げられる。融合ポリペプチドは、本発明のタンパク質ハムスタータウリントランスポーターと他のポリペプチドとが融合したものであり、本発明に含まれる。融合ポリペプチドを作製する方法は、本発明のハムスタータウリントランスポーターをコードする遺伝子と他のポリペプチドをコードする遺伝子をフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明のポリペプチドとの融合に付される他のポリペプチドとしては、特に限定されない。
【0044】
本発明のポリペプチドとの融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204−1210 )、6 個のHis (ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−myc の断片、VSV−GPの断片、p18HIVの断片、T7−tag、HSV−tag 、E−tag 、SV40T 抗原の断片、lck tag 、α−tubulinの断片、B−tag 、Protein C の断片、GST (グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP (マルトース結合ポリペプチド)等が挙げられる。
市販されているこれらのポリペプチドをコードする遺伝子を本発明のポリペプチドをコードする遺伝子と融合させ、これにより調製された融合遺伝子を発現させることにより、融合ポリペプチドを調製することができる。
【0045】
また、あるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドを調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47−9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者であれば、本発明のハムスタータウリントランスポーターをコードするDNA配列もしくはその一部を基に、これと相同性の高いDNAを単離して、該DNAからハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドを単離することも通常行いうることである。このように、本発明のハムスタータウリントランスポーターをコードするDNAもしくはその一部からなるDNAとハイブリダイズするDNAがコードするポリペプチドであって、本発明のハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドもまた本発明のポリペプチドに含まれる。
【0046】
本発明のハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件としては、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられ、好ましくは50℃、2×SSC 、0.1%SDSである。またより好ましくは、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、2×SSC及び0.1%SDSが挙げられる。これらの条件において、温度を下げる程に高い相同性を有するDNAのみならず、低い相同性しか有していないDNAまでも包括的に得ることができる。逆に、温度を上げる程、高い相同性を有するDNAのみを得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度以外にも塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0047】
これらハイブリダイゼーション技術により単離されるDNAがコードするポリペプチドは、通常、本発明のハムスタータウリントランスポーターとアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明のポリペプチドには、本発明のハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等であり、本発明のハムスタータウリントランスポーターアミノ酸配列と高い相同性を有するポリペプチドも含まれる。高い相同性とは、通常、97%以上の相同性、好ましくは98%以上の相同性、さらに好ましくは99%以上の相同性を指す。ポリペプチドの相同性を決定するには、文献(Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726−730)に記載のアルゴリズムにしたがえばよい。
【0048】
本発明のポリペプチドは、後述するそれを産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られたポリペプチドが、本発明のハムスタータウリントランスポーターと同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明のポリペプチドを原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来のポリペプチドのアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。また、真核細胞、例えば哺乳動物細胞で発現させた場合、N末端のシグナル配列は除去される。本発明のポリペプチドはこのようなポリペプチドも包含する。
【0049】
本発明のポリペプチドは、当業者に公知の方法により、組み換えポリペプチドとして、また天然のポリペプチドとして調製することが可能である。組み換えポリペプチドであれば、本発明のポリペプチドをコードするDNAを、適当な発現ベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して得た形質転換体を回収し、抽出物を得た後、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいは本発明のポリペプチドに対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
【0050】
また、本発明のポリペプチドをグルタチオンSトランスフェラーゼポリペプチドとの融合ポリペプチドとして、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換えポリペプチドとして宿主細胞(例えば、動物細胞や大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換えポリペプチドはグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。
融合ポリペプチドの精製後、必要に応じて融合ポリペプチドのうち目的のポリペプチド以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
【0051】
天然のポリペプチドであれば、当業者に周知の方法、例えば、本発明のポリペプチドを発現している組織や細胞の抽出物に対し、後述するハムスタータウリントランスポーターに結合する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
さらに、本発明は、以下の(a)〜(e)のいずれかであるタウリントランスポーターをコードするDNA(但し、配列番号3、5及び7の塩基配列を有するDNAを除く)を提供する。
【0052】
(a) 配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、1又は複数(例えば、数個)のアミノ酸が置換、欠失、付加又は/及び挿入されたアミノ酸配列を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c) 配列番号2のアミノ酸配列と97%以上の相同性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d) 配列番号1の塩基配列を有するDNA
(e) 配列番号1の塩基配列を有するDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
本発明のDNAは、上述したような本発明のポリペプチドの in vivo や in vitroにおける生産に利用される他、ハムスタータウリントランスポーターを強発現する細胞の作製に用いることができる。本発明のDNAは、本発明のポリペプチドをコードしうるものであれば、いかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明のポリペプチドをコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0053】
本発明のDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、本発明のポリペプチドを発現している細胞よりcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNAの配列(例えば、配列番号1)の一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより調製できる。cDNAライブラリーは、例えばSambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載の方法により調製してもよいし、市販の 遺伝子ライブラリーを用いてもよい。また、本発明のポリペプチドを発現している細胞よりRNAを調製し、本発明のDNAの配列(例えば、配列番号1)に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、タウリントランスポーターをコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
【0054】
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、それがコードする翻訳領域を決定でき、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列を得ることができる。また、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNA ライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
具体的には、次のようにすればよい。まず、本発明のポリペプチドを発現する細胞、組織などから、mRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294−5299) 、AGPC法 (Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156−159) 等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia) 等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia) を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0055】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、 AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit (生化学工業)等を用いて行うこともできる。また、プライマー等を用いて、5'−Ampli FINDER RACE Kit (Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction ; PCR)を用いた5'−RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 8998−9002 ; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919−2932) にしたがい、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
【0056】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を調製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列は、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により確認することができる。
【0057】
また、本発明のDNAにおいては、発現に使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、より発現効率の高い塩基配列を設計することができる(Grantham, R. et al., Nucelic Acids Research (1981) 9, r43−74 )。また、本発明のDNAは、市販のキットや公知の方法によって改変することができる。改変としては、例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドや適当なDNAフラグメントの挿入、リンカーの付加、開始コドン(ATG)及び/又は終止コドン(TAA、TGA、又はTAG)の挿入等が挙げられる。
【0058】
本発明のDNAはまた、配列番号1の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつタウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを含む。
【0059】
ストリンジェントな条件としては、当業者であれば適宜選択することができるが、例えば低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、例えば42℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられ、好ましくは50℃、2×SSC 、0.1%SDSである。またより好ましくは、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、2×SSC及び0.1%SDSが挙げられる。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAを得ることができる。上記のハイブリダイズするDNAは好ましくは天然由来のDNA、例えばcDNA又は染色体DNAであってよい。
【0060】
これらハイブリダイゼーション技術により単離されるDNAは、通常、本発明のハムスタータウリントランスポーターをコードするDNAと塩基配列において高い同一性を有する。本発明のDNAには、本発明のハムスタータウリントランスポーターと機能的に同等なポリペプチドをコードし、本発明のハムスタータウリントランスポーターをコードするDNAと高い同一性を有するDNAも含まれる。高い同一性とは、通常、96%以上の相同性、好ましくは98%以上の相同性、さらに好ましくは99%以上の同一性を指す。塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403−410, 1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは、例えば、score = 100、wordlength = 12とする。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0061】
また、本発明は、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持したり、本発明のポリペプチド(すなわち、ハムスタータウリントランスポーター及びそれと機能的に同等なポリペプチド)を発現させるために有用である。また、宿主細胞にタウリントランスポーターを強発現させるために有用である。宿主細胞にタウリントランスポーターを強発現させることにより、宿主細胞へのタウリンの取り込みが促進され、宿主細胞による所望のポリペプチドの生産を増加させることができる。
【0062】
ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有することが好ましい。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM−T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1−Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544−546;FASEB J. (1992) 6, 2422−2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041−1043 )、またはT7プロモーターなどを持っていることが好ましい。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX−5X−1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(Qiagen社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0063】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379 )を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0064】
大腸菌を宿主とする場合以外にも、例えば、本発明のポリペプチドを製造するために用いられるベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (Invitrogen社製)や、pEGF−BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8 )、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac−to−BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw )、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」( Invitrogen社製)、pNV11 、SP−Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)などが挙げられる。
【0065】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV−LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが好ましく、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0066】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV )等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH )遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0067】
また、本発明は、本発明のベクターが導入された宿主細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の宿主細胞は、例えば、本発明のポリペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。また、本発明の宿主細胞は、タウリントランスポーターを強発現することができ、タウリンの取り込みが促進され、所望のポリペプチドの生産を増加させることができる。ポリペプチド製造のための産生系は、in vitroおよびin vivo の産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0068】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108, 945)、COS 、3T3、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney )、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle, et al., Nature (1981) 291, 358−340 )、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9 、Sf21、Tn5が知られている。CHO 細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO 細胞であるdhfr−CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216−4220 )やCHO K−1 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0069】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum )由来の細胞がポリペプチド生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces )属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae )、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus )属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger )が知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli )、例えば、JM109、DH5α、HB101 等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
【0070】
これらの細胞を目的とする遺伝子により形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、目的とする遺伝子がコードするポリペプチドが得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM 、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
一方、in vivo でポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とする遺伝子を導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0071】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993 )。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0072】
例えば、目的とする遺伝子を、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含む遺伝子断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のポリペプチドを得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるポリペプチドを含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699−702 )。
【0073】
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のポリペプチドをコードする遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のポリペプチドを得ることができる(Susumu, M. et al., Nature (1985) 315, 592−594 )。
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするポリペプチドをコードする遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens )のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum )に感染させ、本タバコの葉より所望のポリペプチドを得ることができる(Julian K.−C. Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131−138)。
【0074】
これにより得られたポリペプチドは、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なポリペプチドとして精製することができる。ポリペプチドの分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればポリペプチドを分離、精製することができる。
【0075】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたポリペプチドも包含する。
なお、ポリペプチドを精製前又は精製後に適当なポリペプチド修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり部分的にペプチドを除去することもできる。ポリペプチド修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0076】
また、本発明は、本発明のポリペプチドと結合する抗体を提供する。本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、ポリクローナル抗体の他、モノクローナル抗体も含まれる。また、ウサギなどの免疫動物に本発明のポリペプチドを免疫して得た抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれる。
感作抗原として使用されるポリペプチドは、完全なポリペプチドであってもよいし、また、ポリペプチドの部分ペプチドであってもよい。ポリペプチドの部分ペプチドとしては、例えば、ポリペプチドのアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。本明細書で述べる「抗体」とはポリペプチドの全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0077】
本発明のポリペプチド又はその断片をコードする遺伝子を公知の発現ベクター系に挿入し、該ベクターにより本明細書で述べた宿主細胞を形質転換させ、該宿主細胞内外から目的のポリペプチド又はその断片を公知の方法で得て、これらを感作抗原として用いればよい。また、本発明のポリペプチドを発現する細胞又はその溶解物あるいは化学的に合成した本発明のポリペプチドを感作抗原として使用してもよい。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が使用される。
【0078】
げっ歯目の動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。ウサギ目の動物としては、例えば、ウサギが使用される。霊長目の動物としては、例えば、サルが使用される。サルとしては、狭鼻下目のサル(旧世界ザル)、例えば、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等が使用される。
【0079】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。一般的方法としては、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射する。具体的には、感作抗原をPBS (Phosphate−Buffered Saline) や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに対し、所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に投与する。さらに、その後、フロイント不完全アジュバントに適量混合した感作抗原を、4〜21日毎に数回投与することが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを常法により確認する。
【0080】
ここで、本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を得るには、血清中の所望の抗体レベルが上昇したことを確認した後、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出す。この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用してもよいし、必要に応じこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して、これを使用してもよい。例えば、本発明のポリペプチドをカップリングさせたアフィニティーカラムを用いて、本発明のポリペプチドのみを認識する画分を得て、さらにこの画分をプロテインAあるいはプロテインGカラムを利用して精製することにより、免疫グロブリンGあるいはMを調製することができる。
【0081】
モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物の血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を取り出し、細胞融合に付せばよい。この際、細胞融合に使用される好ましい免疫細胞として、特に脾細胞が挙げられる。前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としては、好ましくは哺乳動物のミエローマ細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞選別のための特性を獲得したミエローマ細胞が挙げられる。
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Galfre, G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3−46) 等に準じて行うことができる。
【0082】
細胞融合により得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常、数日・数週間継続して行う。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0083】
次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラムなどにより精製することで調製することが可能である。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの精製、検出に用いられる。
【0084】
このように得られたモノクローナル抗体はまた、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体として得ることができる(例えば、Borrebaeck, C. A. K. and Larrick, J. W., THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。組換え型抗体は、それをコードする遺伝子をハイブリドーマ又は抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させる。本発明は、この組換え型抗体を包含する。
【0085】
さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドに結合する限り、その抗体断片や抗体修飾物であってよい。例えば、抗体断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv) (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879−5883) が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968−2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476−496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497−515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652−663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663−669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132−137参照)。
【0086】
抗体修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明の「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
前記のように得られた抗体は、均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製は通常のポリペプチドで使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988) が、これらに限定されるものではない。上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又は酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)等により行うことができる。
【0087】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia) 等が挙げられる。
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization : A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーはHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0088】
また、本発明の抗体の抗原結合活性を測定する方法として、例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。ELISAを用いる場合、本発明の抗体を固相化したプレートに本発明のポリペプチドを添加し、次いで目的の抗体を含む試料、例えば、抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。酵素、例えば、アルカリフォスファターゼ等で標識した抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションし、次いで洗浄した後、p−ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。ポリペプチドとしてポリペプチドの断片、例えばその C末端からなる断片あるいは N末端からなる断片を使用してもよい。本発明の抗体の活性評価には、BIAcore(Pharmacia製) を使用することができる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0090】
〔実施例1〕CHO細胞由来ハムスタータウリントランスポーター遺伝子クローニング
CHO DXB11細胞に抗IL−6レセプター抗体遺伝子を導入した抗IL−6レセプター抗体産生細胞(特開平8−99902号公報)からtotal RNA抽出をおこなったのち、ポリAに依存するcDNAを合成した。SalI、XhoI、EcoRIの三種類の制限酵素で断片化したcDNAを鋳型することで、Hamsterタウリントランスポーター(TauT)遺伝子をPCRにより得た。PCRプライマーは 既知であるRat/Mouse TauT間で遺伝子配列が保存されている5’,3’を含むものを設計して用いた。クローニングされた遺伝子は塩基配列を決定し、既知の生物種のTauT との相同性から Hamster TauTをコードしていることを確認した(図1)。Hamster TauTアミノ酸配列はMouse(96% Identity)、Rat(96% Identity)、Human(93% Identity) TauTに対して高い相同性を有しており、12の膜貫通領域をもつトランスポーターであることが予想された(図2)。
【0091】
〔実施例2〕ハムスタータウリントランスポーター導入による生細胞密度増加、乳酸産生量抑制、および抗体産生量増加
実施例1のクローニングにより取得したHamster TauT(以下TauT)遺伝子にKozak配列を加え、CMVプロモーター発現プラスミドpHyg/TauT(図3)を構築した。pHyg/TauTあるいはTauT遺伝子を除いたコントロールプラスミドpHygを、親株である抗グリピカン−3抗体産生CHO細胞(国際公開第WO 2006/006693号パンフレットを参照)にエレクトロポレーション法で導入した。発現プラスミド導入細胞をHygromycin(400μg/ml)存在下で選抜したのち、安定して増殖する細胞株すべてを拡大した(pHyg/TauT:8株, pHyg:7株)。TauT mRNAを調製ののちTaqMan法により、親株に対して優位な発現を確認できる7株をpHyg/TauT導入細胞とした。導入細胞(7株)のmRNA平均発現量はコントロール(7株)の約40倍であった。計14株の細胞は2x10cells/mLの初発密度で50mlシェーカーフラスコによるバッチ(batch)培養および流加(Fed−batch)培養をおこない、培養後期7日目における生細胞密度、乳酸産生量、抗グリピカン−3抗体産生量を比較した。バッチ培養においては細胞増殖にともない培養液中に乳酸などの生育阻害物質が蓄積し、増殖が抑制されるが、pHyg/TauT導入細胞の生細胞密度(図4)および乳酸産生量(図5)はpHyg導入細胞に対して優位であった(t検定 P<0.05)。抗グリピカン−3抗体産生量に関しては、pHyg/TauT導入細胞の7株中4株がpHyg導入細胞の最高値以上であった(図6)。さらにpHyg/TauT導入細胞の抗グリピカン−3抗体産生量の優位性(t検定 P<0.01, 図7)が流加培養により明らかになったため、上記4株中で最も増殖能が高かったpHyg/TauT導入細胞(T10)と親株の1L ジャーによる流加培養をおこなったところ、T10は培養32日目においても生存率が80%以上に維持されており(図8)、乳酸産生が抑制されていた。その結果、抗グリピカン−3抗体産生量は、培養35日目において2.9g/L(図9)を達成した。TauT導入T10細胞が細胞膜上にTauT分子を発現していることはフローサイトメトリー分析(図10)で確認した。以上の結果は、Hamster TauTを人為的に発現させることによって抗体産生細胞のポテンシャルが上がり、抗体高産生株が得られることを示唆している。
【0092】
〔実施例3〕ハムスタータウリントランスポーター導入株のアンモニア産生量抑制、タウリンの取り込み、グルタミン消費量増加、およびタウリン否依存的な抗体産生量
親株及びpHyg/TauT導入株を、初発2x10cells/mLで1Lジャー流加培養し、適時、培養槽から450x10 細胞を含む培養液を採取した。遠心により、培養上清を分取したのち、細胞ペレットにプロテアーゼ阻害剤(Complete Mini、 Roche Diagnostics社、Protease inhibitor cocktail tablets)を含む1mLの冷却滅菌水を加え、氷上にて、超音波細胞破砕機(MISONIX ASTRASON MODEL XL2020を用いて5秒パルス操作後、5秒休止を1セットとし、計12セット、処理を繰り返し、細胞を完全に破砕した。処理後の溶液は全量を遠心式ろ過ユニットにアプライすることで、分子量5000以下のろ液を調製して、細胞内アミノ酸測定用の試料とした。各試料は、さらに、ニンヒドリン試液−L8500セット(和光純薬工業)および、日立製全自動アミノ酸分析装置(L−8500)の改良型を用いて、570nmの吸光度を検出、比較し、試料中の各種アミノ酸濃度を求めた。培養液中の各種アミノ酸およびアンモニア等の濃度は直接測定した値であるので、μMオーダーの濃度比較をおこない、一方、細胞内濃度は、細胞ペレットに冷却滅菌水1mLを加えたのち、超音波細胞破砕をおこなっていることから、各種アミノ酸およびアンモニア等の測定値を細胞あたりの値に換算し、その換算値の比較をおこなった。 図11のアンモニア濃度比は、1Lジャー流加培養開始時の450x105個当たりの親株のアンモニア検出値を1と規定し、培養開始時、6日目、12日目、18日目の検出値と比較し、比を求めた。また、図12、図13のタウリンとグルタミン酸も、上記アミノ酸分析により測定した。
その結果、pHyg/TauT導入株は、培養後期において、細胞内アンモニアが低濃度に維持されており、抗体高産生に寄与していると考えられた(図11)。
【0093】
細胞内のタウリン濃度比は、上記、アンモニアとほぼ同様の方法で求めた(図12)。相違点は、50mLシェーカーバッチ培養4日目の200x105個当たりの親株のアンモニア検出値を1と規定していることである。
【0094】
その結果、pHyg/TauT導入株は、タウリン添加量に依存してタウリンを取り込んでおり、その取り込み量は親株と同等であった。しかし、図13に示すように、pHyg/TauT導入株のグルタミン消費量は、親株にたいして顕著であり、初発タウリン濃度に依存しなかった。グルタミンがハイブリドーマの細胞増殖や生存率、および抗体産生能を改善し、抗体産生量を上げる働きをすることは報告されている(Enzyme and Microbial Technology 17:47−55, 1995)。よって、pHyg/TauT導入株の抗体産生増強効果は、タウリントランスポーターを介した、タウリン以外の他のアミノ酸(グルタミンなど)の取り込みによる可能性も考えられる。なお、グルタミン濃度は、図12における培養4日目の培養液をアミノ酸分析した測定値を、1x105細胞あたりに換算した値である。
【0095】
抗グリピカン−3抗体産生量は、50mLシェーカー流加培養開始時の初発タウリン濃度(0〜500mM(62.575g/L))に依存しなかった(図14)。また、親株についても初発タウリン濃度による抗体産生量の影響に優位な差は認められなかった。
以上の結果は、培養開始時の培地中にタウリンを含んでいなくともTauT強発現株が高い抗体産生能を有することを示唆しており、タウリン以外のアミノ酸等の取り込みについても促進している可能性も考えられる。
【0096】
本発明は、あらゆる抗体産生細胞へ応用可能である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、ポリペプチドの生産に利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0098】
<配列番号1>
配列番号1は、ハムスタータウリントランスポーターをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、ハムスタータウリントランスポーターのアミノ酸配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、ラットタウリントランスポーターをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、ラットタウリントランスポーターのアミノ酸配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、マウスタウリントランスポーターをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、マウスタウリントランスポーターのアミノ酸配列を示す。
<配列番号7>
配列番号7は、ヒトタウリントランスポーターをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
<配列番号8>
配列番号8は、ヒトタウリントランスポーターのアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウリントランスポーターをコードするDNAと所望のポリペプチドをコードするDNAが導入され、当該タウリントランスポーターと当該所望のポリペプチドを発現している細胞を培養し、培養液中に当該所望のポリペプチドを産生させることを含む、当該所望のポリペプチドの製造方法。
【請求項2】
所望のポリペプチドが抗体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
タウリントランスポーターをコードするDNAが以下の(a)〜(e)のいずれかである請求項1又は2に記載の製造方法。
(a) 配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
(b) 配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加又は/及び挿入されたアミノ酸配列を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(c) 配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列と97%以上の同一性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(d) 配列番号1、3、5又は7の塩基配列を有するDNA
(e) 配列番号1、3、5又は7の塩基配列と96%以上の同一性を有し、かつタウリントランスポーター活性を有するポリペプチドをコードするDNA
【請求項4】
タウリン濃度が0g/L〜100 g/Lである培地で培養することを含む請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
タウリントランスポーターをコードするDNAを導入していない細胞による培養よりも、細胞あたりのグルタミン消費量が高い請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
以下の工程を含む、所望のポリペプチドを含有する医薬品を製造する方法;
(i)請求項1〜5のいずれかに記載の方法で所望のポリペプチドを製造する工程、
(ii)当該ポリペプチドを医薬的に許容される担体又は添加剤と混合する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−143247(P2012−143247A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92948(P2012−92948)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【分割の表示】特願2008−510979(P2008−510979)の分割
【原出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】