説明

タカン地上装置

【課題】方位バーストパルスの送信後の送信電力のピーク値を安定化させること。
【解決手段】本発明のタカン地上装置は、送信パルスのパルスゲートを生成するパルス生成回路と、パルス生成部にて生成された送信パルスのパルスゲートのタイミングでRF信号を送信パルスに変調する変調部と、変調部にて変調された送信パルスを、RFパワートランジスタにて増幅して空中線に送信する電力増幅器と、パルス生成部にて送信パルスとして生成された方位バーストパルスのトリガが終了した後、RFパワートランジスタのジャンクション温度が安定するまでの一定期間において、予め設定した時間間隔でスキッタ補償パルスのトリガを生成するスキッタ補償パルス生成回路と、を有し、パルス生成回路は、方位バーストパルス、局識別信号パルス、スキッタ補償パルス、応答パルス、スキッタパルスの順の優先順位で、送信パルスのパルスゲートを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タカン(TACAN;TACtical Air Navigation)地上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タカン装置は、航空機に搭載されるタカン機上装置と、地上に設置されるタカン地上装置と、から構成される。
【0003】
タカン機上装置は、タカン地上装置に質問パルスを送信し、質問パルスに対する応答パルスをタカン地上装置から受信し、質問パルスを送信してから応答パルスを受信するまでの時間差を基に、自身とタカン地上装置との距離を算出する。
【0004】
また、タカン機上装置は、常時、タカン地上装置から送信される方位情報(タカン地上装置からタカン送信出力信号として送信される全ての送信パルス信号で、空中線において振幅変調された信号)を受信し、受信した信号を基に、自身の方位を算出する。
【0005】
図3に、関連するタカン地上装置の一構成例を示す。
【0006】
図3に示すように、関連するタカン地上装置は、RF発信器1と、変調部2と、電力増幅器3と、空中線4と、パルス生成回路5と、タカン地上受信機6と、送信電力検波回路7と、補償電圧生成回路8と、を有している。
【0007】
RF発振器1は、タカン送信出力信号の元になるCW(Continuous Wave)のRF(Radio Frequency)信号を発振する。
【0008】
変調部2は、RF発振器1にて発振したCWのRF信号を、パルス生成回路5にて生成されたパルスゲートのタイミングで、ガウシアンパルス(送信パルス)に変調する。
【0009】
さらに、変調部2は、補償電圧生成回路8にて生成された補償電圧を基に、変調したガウシアンパルスの送信電力のピーク値を補正する。
【0010】
電力増幅器3は、変調部2にて変調されたガウシアンパルスを、RFパワートランジスタ(不図示)にて所定の送信電力まで増幅し、タカン送信出力信号として空中線4からタカン機上装置に向けて放射する。
【0011】
送信電力検波回路7は、電力増幅器3にて空中線4に放射されたタカン送信出力信号の送信電力のピーク値を検波する。
【0012】
補償電圧生成回路8は、送信電力検波回路7にて検波されたタカン送信出力信号の送信電力のピーク値を一定値に補正するための補償電圧を生成し、変調部2に出力することで、フィードバック制御を行っている。なお、補償電圧は、タカン送信出力信号の送信電力を平均化することで生成している。
【0013】
タカン地上受信機6は、タカン機上装置から空中線4を介して、質問パルスをタカン受信入力信号として受信すると、受信した質問パルスをデコードし、デコードした情報を基に、応答パルスのトリガを生成する。
【0014】
パルス生成回路5は、方位情報の基準となる方位バーストパルス、局識別信号パルス、ランダムスキッタパルスのパルスゲートを自身で生成する他、タカン地上受信機6にて生成された応答パルスのトリガを基に応答パルスのパルスゲートを生成する。
【0015】
なお、パルス生成回路5は、方位バーストパルス、局識別信号パルス、応答パルス、ランダムスキッタパルスの順の優先順位でパルスゲートを生成する。パルスゲートのタイミングが、タカン送信出力信号の送信タイミングとなる。
【0016】
タカン機上装置は、タカン地上装置から送信された方位バーストパルス(北基準信号、粗方位基準信号)と、タカン地上装置から送信された方位情報(空中線4において15Hz、135Hzに振幅変調された信号)とを比較し、自身の方位を算出している。
【0017】
方位バーストパルスの例としては、Xモード時において、北基準信号が互いに12μS離れた3.5μSのパルス幅の12ペアパルスで構成され、また、粗方位基準信号が6ペアパルスで構成されたものがある。これらペアパルス間の時間間隔は、前者が24μS、後者が30μSとなっている。また、方位バーストパルスのデューティーはランダムスキッタパルスの10倍前後となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平9−127226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以下、図3に示した関連するタカン地上装置の動作について図4を参照して説明する。
【0020】
なお、図4において、(a)は、タカン送信出力信号の送信電力を補償電圧により制御しない場合の送信電力波形を示し、(b)は、電力増幅器3のRFパワートランジスタのトランジスタジャンクション温度を示し、(c)は、補償電圧を示し、(d)は、タカン送信出力信号の送信電力を補償電圧により制御した場合の送信電力波形を示している。
【0021】
図4(b)に示すように、方位バーストパルスの送信中は、トランジスタジャンクション温度が急激に上昇する。
【0022】
そのため、タカン送信出力信号の送信電力を補償電圧により制御しない場合は、図4(a)に示すように、方位バーストパルスの送信によるトランジスタジャンクション温度の上昇に伴い、送信電力のピーク値は低下する。
【0023】
そこで、図4(c)に示すように、方位バーストパルスの送信によるトランジスタジャンクション温度の上昇に対して、送信電力とは逆特性となる補償電圧を変調部2のトランジスタ(不図示)に印加する。
【0024】
これにより、図4(d)に示すように、方位バーストパルスの送信中における送信電力のピーク値の低下が抑圧される。
【0025】
また、図4(d)に示すように、方位バーストパルスの送信後の80μSは送信をしない期間としている。
【0026】
そのため、上記期間の経過後に、送信パルス(応答パルスまたはスキッタパルス)が発生することになるが、この送信パルスの発生タイミングは、タカン機上装置からの質問パルスのタイミング、または、スキッタパルスのタイミングに起因するため、ランダムなタイミングとなる。
【0027】
タカン地上装置においては、方位バーストパルスの送信後も、方位情報を継続して送信する必要がある。そのため、方位バーストパルスの送信後に発生した送信パルスは、方位バーストパルスの送信によりトランジスタジャンクション温度が急激に上昇した後、その後に低下して安定するまでの期間内に送信されることになる。
【0028】
しかし、関連するタカン地上装置においては、方位バーストパルスの送信後のトランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間は、補償電圧による送信電力のピーク値の補正が不安定であるという課題があった。
【0029】
以下、この課題について詳細に説明する。
【0030】
図4(a)に示すように、方位バーストパルスの送信後の送信パルスの発生タイミングは、大別して、パルス幅が粗い送信パルス発生タイミング(1)と、パルス幅が密な送信パルス発生タイミング(2)と、に分けられる。
【0031】
図4(b)に示すように、パルス幅が粗い送信パルス発生タイミング(1)の条件と、パルス間隔が密な送信パルス発生タイミング(2)の条件とで、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの熱変動は、互いに異なる特性を示す。
【0032】
送信パルス発生タイミング(1)の条件と送信パルス発生タイミング(2)の条件とを比較すると、パルス幅が密な送信パルス発生タイミング(2)の条件の方が、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの熱変動は不規則となる。
【0033】
そのため、図4(c)に示すように、補償電圧は低下する一方なのに対し、図4(b)に示すように、トランジスタジャンクション温度は不規則な変化となるため、トランジスタジャンクション温度の変化によっては、補償電圧による送信電力の補正が正常に作用せず、送信電力のピーク値が不安定になる可能性がある。
【0034】
例えば、図4(d)に示すように、送信パルス発生タイミング(1)の条件では、送信電力の補正が正常に作用し、送信パルス発生タイミング(2)の条件では、送信電力の補正が正常に作用しないという事象が起こり得る。
【0035】
タカン機上装置では、タカン地上装置から送信され、空中線において振幅変調された信号の電力ピーク値を基に方位を算出するため、送信電力のピーク値が不安定であることにより、算出した方位が不安定となる結果となっていた。
【0036】
そこで、本発明の目的は、送信電力のピーク値の安定化を図ることができるタカン地上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明のタカン地上装置は、
送信パルスのパルスゲートを生成するパルス生成回路と、
前記パルス生成部にて生成された送信パルスのパルスゲートのタイミングでRF信号を送信パルスに変調する変調部と、
前記変調部にて変調された送信パルスを、RFパワートランジスタにて増幅して空中線に送信する電力増幅器と、
前記パルス生成部にて送信パルスとして生成された方位バーストパルスのトリガが終了した後、前記RFパワートランジスタのジャンクション温度が安定するまでの一定期間において、予め設定した時間間隔でスキッタ補償パルスのトリガを生成するスキッタ補償パルス生成回路と、を有し、
前記パルス生成回路は、方位バーストパルス、局識別信号パルス、スキッタ補償パルス、応答パルス、スキッタパルスの順の優先順位で、送信パルスのパルスゲートを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明のタカン地上装置によれば、方位バーストパルスの送信後、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間に、予め設定した時間間隔でスキッタ補償パルスを送信するため、送信電力のピーク値の安定化を図ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態のタカン地上装置の一構成例を示すブロック図である。
【図2】図1に示したタカン地上装置の動作を説明する図である。
【図3】関連するタカン地上装置の一構成例を示すブロック図である。
【図4】図3に示したタカン地上装置の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して、本発明のタカン地上装置の実施形態について説明する。
【0041】
図1に、本発明の一実施形態のタカン地上装置の構成を示す。
【0042】
図1に示すように、本実施形態のタカン地上装置は、図3と比較して、スキッタ補償パルス生成回路9を設けた点が異なる。
【0043】
以下、図3と異なる部分について説明する。
【0044】
スキッタ補償パルス生成回路9は、パルス生成回路5から方位バーストパルスのパルスゲートを入力し、方位バーストパルスのトリガが終了して一定時間(例えば、80μS。図2および図4参照)が経過してから、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの一定期間において、予め設定した時間間隔でスキッタ補償パルスのトリガを生成しパルス生成回路5に出力する。
【0045】
なお、スキッタ補償パルス生成回路9に対しては、上記動作を実現するために、方位バーストパルスの送信後(方位バーストパルスのトリガが終了後)、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間長を予め推定し、その推定した期間長を設定しておく。
【0046】
パルス生成回路5は、方位情報の基準となる方位バーストパルス、局識別信号パルス、ランダムスキッタパルスのパルスゲートを自身で生成する他、タカン地上受信機6にて生成された応答パルスのトリガを基に応答パルスのパルスゲートを生成するとともに、スキッタ補償パルス生成回路9にて生成されたスキッタ補償パルスのトリガを基にスキッタ補償パルスを生成している。
【0047】
なお、パルス生成回路5は、方位バーストパルス、局識別信号パルス、スキッタ補償パルス、応答パルス、ランダムスキッタパルスの順の優先順位で、パルスゲートを生成する。そのため、方位バーストパルスの送信後において、上記一定期間は応答パルスまたはランダムスキッタパルスのパルスゲートを抑圧し、スキッタ補償パルスのパルスゲートのみを生成する。上記一定期間の経過後に応答パルスまたはランダムスキッタパルスのパルスゲートを生成することになる。
【0048】
以下、図1に示した本実施形態のタカン地上装置の動作について図2を参照して説明する。
【0049】
なお、図2において、(e)は、タカン送信出力信号の送信電力を補償電圧により制御しない場合の送信電力波形を示し、(f)は、電力増幅器3のRFパワートランジスタのトランジスタジャンクション温度を示し、(g)は、補償電圧を示し、(h)は、タカン送信出力信号の送信電力を補償電圧により制御した場合の送信電力波形を示している。
【0050】
図2(e)に示すように、本実施形態では、スキッタ補償パルス生成回路9により、方位バーストパルスの送信後、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間に、予め設定した時間間隔でスキッタ補償パルスを送信する。
【0051】
タカン地上装置においては、方位情報を継続して送信するために、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間に送信パルスは必要である。
【0052】
スキッタ補償パルスは、予め設定した時間間隔であるため、図2(h)に示すように、補償電圧により送信電力のピーク値を正確に補正することが可能である。
【0053】
そのため、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間でも、タカン地上装置から安定した送信電力で送信パルスを送信することが可能である。
【0054】
なお、スキッタパルスまたは応答パルスは、トランジスタジャンクション温度が安定した後、送信することとなる。
【0055】
以上説明したように、関連するタカン地上装置においては、方位バーストパルスの送信後、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間に、ランダムなタイミングでスキッタパルスまたは応答パルスが送信されていた。そのため、フィードバック制御による送信電力の補正が不安定になるという問題があった。
【0056】
これに対して、本実施形態のタカン地上装置では、方位バーストパルスの送信後、トランジスタジャンクション温度が安定するまでの期間に、予め設定した時間間隔でスキッタ補償パルスを送信するため、フィードバック制御による送信電力の補正を安定化させることができ、それにより、送信電力のピーク値の安定化を図ることができる。
【0057】
また、タカン機上装置は、タカン地上装置から送信され、空中線において振幅変調された信号を基に方位を算出するため、送信電力のピーク値が安定化することにより、タカン機上装置で算出する方位の安定化を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 RF発振器
2 変調部
3 電力増幅器
4 空中線
5 パルス生成回路
6 タカン地上受信機
7 送信電力検波回路
8 補償電圧生成回路
9 スキッタ補償パルス生成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信パルスのパルスゲートを生成するパルス生成回路と、
前記パルス生成部にて生成された送信パルスのパルスゲートのタイミングでRF信号を送信パルスに変調する変調部と、
前記変調部にて変調された送信パルスを、RFパワートランジスタにて増幅して空中線に送信する電力増幅器と、
前記パルス生成部にて送信パルスとして生成された方位バーストパルスのトリガが終了した後、前記RFパワートランジスタのジャンクション温度が安定するまでの一定期間において、予め設定した時間間隔でスキッタ補償パルスのトリガを生成するスキッタ補償パルス生成回路と、を有し、
前記パルス生成回路は、方位バーストパルス、局識別信号パルス、スキッタ補償パルス、応答パルス、スキッタパルスの順の優先順位で、送信パルスのパルスゲートを生成することを特徴とするタカン地上装置。
【請求項2】
前記パルス生成回路は、前記一定期間の経過後に、応答パルスまたはスキッタパルスのパルスゲートを生成することを特徴とする請求項1に記載のタカン地上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117958(P2012−117958A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269263(P2010−269263)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】