説明

タキサンのプロエマルジョン製剤ならびにその製造方法および使用

タキサンのプロエマルジョン製剤を提供する。プロエマルジョン製剤は、タキサン、油、界面活性剤および糖アルコールを含有する乾燥粉末である。さらに、該プロエマルジョン製剤の製造方法および使用、ならびに該プロエマルジョン製剤を含むキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願のクロスリファレンス)
米国特許法第119条(e)に従い、本願は、2010年2月19日付けで出願した米国仮特許出願番号61/306,315(本明細書の一部を構成する)の出願日についての優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
タキサン類は、天然に存在するジテルペン化合物のファミリーであり、パクリタキセルがこれに含まれる。タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮から最初に単離されたパクリタキセル、およびその半合成アナログであるドセタキセルが、タキサン化合物の2つの代表例である。タキサン類は、微小管相互作用により有糸分裂を停止することにより細胞増殖をブロックする活性物質である。
【0003】
タキサン類は、様々な癌を治療するために効果的に用いられており、ある特定の炎症性疾患の治療において治療効果を有するとの報告もされている。例えば、パクリタキセルは、卵巣癌や乳癌、ならびに悪性黒色腫、結腸癌、白血病や肺癌に対して活性を有することが分かっている(例えば、Borman, Chemical & Engineering News, Sep. 2, 1991, pp. 11-18;The Pharmacological Basis of Therapeutics (Goodman Gilman et al., eds.), Pergamon Press, New York (1990), p. 1239;Suffness, Antitumor Alkaloids, in: "The Alkaloids, Vol. XXV," Academic Press, Inc. (1985), Chapter 1, pp. 6-18;Rizzo et al., J. Pharm. & Biomed. Anal. 8(2):159-164 (1990);およびBiotechnology 9:933-938 (October, 1991)参照)。
【0004】
水性担体においても油性担体においても溶解度が低いタキサン分子の性質から、治療上有用な担体中でタキサン類をその投与が可能なように製剤化することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、タキサンのプロエマルジョン製剤を提供する。プロエマルジョン製剤は、タキサン、油、界面活性剤及び糖アルコールを含有する乾燥粉末である。本発明はさらに、該プロエマルジョン製剤の製造方法及び使用、ならびに該プロエマルジョン製剤を含むキットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明の一態様にはタキサンのプロエマルジョン製剤を包含し、この製剤は、タキサン、油、界面活性剤及び糖アルコールを含む乾燥粉末を含んでなり、この粉末は、水性媒体と組み合わせたときに、乾燥粉末の前駆エマルジョンのものと実質的に同じ粒子サイズを有する透明なエマルジョンが得られるように製剤化されている。例えば、タキサンは次式:
【化1】

[式中、
1は、
【化2】

、炭素数1〜6のアルキルまたはフェニルであり;
2は、
【化3】

(Xは0〜6)であり;
3は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルであり;
4は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルである]
で示される。例えば、タキサンはパクリタキセル又はドセタキセルである。例えば、油は0.1〜10重量%の範囲の量で存在する。ある特定の実施形態では、油は大豆油、トコフェロールおよび中鎖脂肪酸のグリセリンエステルからなる群から選択される。例えば、界面活性剤は、10〜70重量%の範囲の量で存在する。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80などが挙げられる。例えば、プロエマルジョン製剤は非水性溶媒を含有する。含有する場合、該非水性溶媒は、0.1〜30重量%の範囲の量で存在していてよい。非水性溶媒としては、プロピレングリコールなどが挙げられる。例えば、糖アルコールは乾燥重量で15〜80%の範囲の量で存在する。糖アルコールとしては、マンニトールが挙げられる。例えば、プロエマルジョン製剤はさらに乳化促進剤を含有する。乳化促進剤としてはオレイン酸が挙げられる。例えば、粒子サイズは70nm以下、あるいは50nm以下である。
【0007】
本発明の実施形態には、タキサン(例えば、パクリタキセルまたはドセタキセル);大豆油;ポリソルベート80;プロピレングリコール;およびマンニトールを含有し、水性媒体と組み合わせたときに、乾燥粉末の前駆エマルジョンのものと実質的に同じ粒子サイズを有する透明なエマルジョンが得られるように製剤化されている、乾燥粉末であるタキサンのプロエマルジョン製剤を包含する。例えば、大豆油は0.4〜8重量%の範囲の量で存在する。ある特定の場合では、ポリソルベート80は30〜60重量%の範囲の量で存在する。ある特定の場合では、プロピレングリコールは0.1〜15重量%の範囲の量で存在する。ある特定の場合では、マンニトールは乾燥重量で25〜65%の範囲の量で存在する。ある特定の場合では、プロエマルジョン製剤はさらにオレイン酸を含有する。
【0008】
本発明のさらなる態様は、対象にタキサンを投与する方法を包含する。該方法は、タキサンのプロエマルジョン製剤を水性媒体と組み合わせて透明なタキサンのエマルジョンを得ること;および該タキサンのエマルジョンを対象に投与することを含んでなる。例えば、該方法は、タキサンのプロエマルジョン製剤を、水性媒体と接触させる前に、1日またはそれ以上保存することを含んでなる。例えば、対象は細胞増殖性の疾患を患っている。
【0009】
本発明の態様には、透明なタキサンのエマルジョン組成物を包含する。例えば、この透明なタキサンエマルジョン組成物は、タキサン;油;界面活性剤;糖アルコールおよび水を含有する。例えば、タキサンは次式:
【化4】

[式中、
1は、
【化5】

、炭素数1〜6のアルキルまたはフェニルであり;
2は、
【化6】

(Xは0〜6)であり;
3は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルであり;
4は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルである]
で示される。ある特定の実施形態では、タキサンはパクリタキセルまたはドセタキセルである。ある実施形態では、油は0.0007〜6重量%の範囲の量で存在する。ある特定の実施形態では、油は、大豆油、トコフェロールおよび中鎖脂肪酸のグリセリンエステルからなる群から選択される。ある実施形態では、界面活性剤は0.07〜40重量%の範囲の量で存在する。例えば、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。例えば、該非イオン性界面活性剤はポリソルベート80である。例えば、該エマルジョンは非水性溶媒を含有する。例えば、該非水性溶媒は0.1〜17重量%の範囲の量で存在する。例えば、該非水性溶媒はプロピレングリコールである。例えば、糖アルコールは乾燥重量で0.1〜45%の範囲の量で存在する。例えば、該糖アルコールはマンニトールである。ある実施形態では、エマルジョン製剤は、乳化促進剤、例えばオレイン酸、をさらに含有する。ある実施形態では、エマルジョンは70nm以下の粒子サイズ、または50nm以下の粒子サイズを有する。
【0010】
本発明のさらなる態様としては、(a)水性媒体と組み合わせたときに、乾燥粉末の前駆エマルジョンのものと実質的に同じ粒子サイズを有する透明なエマルジョンが得られるように製剤化されている、タキサン、油、界面活性剤及び糖アルコールを含んでなる乾燥粉末であるタキサンのプロエマルジョン製剤;および(b)水性媒体(例えば水)を含むキットが挙げられる。例えば、タキサンは次式:
【化7】

[式中、
1は、
【化8】

、炭素数1〜6のアルキルまたはフェニルであり;
2は、
【化9】

(Xは0〜6)であり;
3は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルであり;
4は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルである]
で示される。ある特定の実施形態では、タキサンはパクリタキセルまたはドセタキセルである。ある実施形態では、油は0.0007〜6重量%の範囲の量で存在する。ある特定の実施形態では、油は、大豆油、トコフェロールおよび中鎖脂肪酸のグリセリンエステルからなる群から選択される。ある実施形態では、界面活性剤は0.07〜40重量%の範囲の量で存在する。例えば、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。例えば、該非イオン性界面活性剤はポリソルベート80である。例えば、該エマルジョンは非水性溶媒を含有する。例えば、該非水性溶媒は0.1〜17重量%の範囲の量で存在する。例えば、該非水性溶媒はプロピレングリコールである。例えば、糖アルコールは乾燥重量で0.1〜45重量%の範囲の量で存在する。例えば、該糖アルコールはマンニトールである。ある実施形態では、エマルジョン製剤は、乳化促進剤、例えばオレイン酸、をさらに含有する。ある実施形態では、エマルジョンは70nm以下の粒子サイズ、または50nm以下の粒子サイズを有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、タキサンのプロエマルジョン製剤を提供する。プロエマルジョン製剤は、タキサン、油、界面活性剤および糖アルコールを含有する乾燥粉末である。本発明はさらに、該プロエマルジョン製剤を製造する方法および使用、ならびに該プロエマルジョン製剤を含むキットを提供する。
【0012】
本発明をより詳細に記述するに先立って、本発明は記述する個々の態様に限定されるものでなくて、当然、変更を加えてもよいことは理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付する特許請求の範囲によってのみ限定されるから、本明細書で用いる用語は単に個々の態様を説明する目的で用いるものであり、限定を意図するものでないことも理解されるべきである。
【0013】
数値範囲を示す場合、特に明示しない限り下限の単位の少数第一位まで介在する各値、その範囲の上限と下限の間に介在する各値、および、いかなるその他の記述された、つまりその記述された範囲内に介在する各値が本発明の範囲内に含まれると理解する。記述された範囲における具体的に排除されたいかなる限界値に従って、これらのより小さい範囲の上限および下限は独立的にその小さい範囲内に含まれるかもしれないし、かつ、本発明の範囲内に含まれるかもしれない。その記述された範囲が限界値の片方もしくは両方を含む場合は、それらの含まれる限界値の片方もしくは両方が排除された範囲もまた本発明に含まれる。
【0014】
本明細書では、数値の前に用語“約”を付けて特定の範囲を示す。用語“約”が本明細書で用いられることによって、用語が先行する正確な数とともに、用語が先行する正確な数字に近いまたは近似する数に対して文字通りの裏付けを与える。ある数が具体的に示した数に近いか或は近似するかどうかを決定する際に、近いか或は近似する示されなかった数は、数が示された文脈において、その具体的に示された数に実質的に相当する数であり得る。
【0015】
特に明記しない限り、本明細書で用いる技術お用語よび科学用語はいずれも、本発明が属する技術における当業者が通常理解する意味と同じ意味を有する。また、本明細書に記述する方法および材料に類似または同等のいかなる方法および材料もまた本発明の実施または試験において使用可能であるが、代表例的な方法および材料がここでは記述される。
【0016】
本明細書に引用される刊行物および特許文献はいずれも本明細書の一部を構成するが、各刊行物または各特許文献が具体的かつ個別に示されていたものが参照により組み入れられ、かつ、参照によって本明細書に組み入れられることによって、引用される刊行物に関連する方法および/または材料を開示かつ記載するかのごとく組み入れられる。いかなる刊行物の引用も出願日前のその開示のためであり、先願発明を理由として本願発明がそのような刊行物に先立つ資格が与えられないことの承認として解釈されるべきものではない。さらに、その示された公開日は、独立して確認される必要があるかもしれない実際の公開日と異なるかもしれない。
【0017】
なお、本明細書および添付請求項で用いられるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈において特に明確に示されない限り、複数の指示対象を包含する。さらに、任意要素のいずれかを排除するように本請求項を作成することも可能である。このような記述それ自体は、請求項の要素の記述または「否定的」制限の使用に関連して、「だけ」、「のみ」などの排他的用語を用いるための先行詞としての代わりになることを意図する。
【0018】
本開示を読んだ当業者には明らかであろうように、本明細書に記述および例示される個々の実施形態の各々は、本発明の範囲または精神から逸脱することなしに、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離または結合されるだろう別々の要素および特徴を有する。示される方法のいずれもは、示される事象の順序、または、理論的に可能ないかなる他の順序で実施可能である。
【0019】
以下に、プロエマルジョン製剤および該製剤から調製されるエマルジョン、ならびにそれを用いる方法をさらに詳細に記載し、さらに、プロエマルジョン製剤およびエマルジョン、ならびに該製剤を含むキットを調製する方法について記載する。
【0020】
タキサンのプロエマルジョン製剤および該製剤から調製されるエマルジョン
本発明の態様はタキサンのプロエマルジョン製剤を包含する。プロエマルジョン製剤とあるとおり、この製剤は、水性媒体と組み合わせることによりタキサンのエマルジョンが得られる乾燥状態の組成物である。このプロエマルジョン製剤から調製されるエマルジョンは、一方の液体の小さい粒子(小球)が、この液体とは混ざらない他の液体中に懸濁している液体の調製物である。ある特定の実施形態では、本発明のプロエマルジョン製剤から調製されるエマルジョンは、油と水のエマルジョンである。この製剤はエマルジョンであり、一方の液体(例えば、油又は水)(分散相)が他方の液体(例えば、油または水でない方)(連続相)中に分散している2種類の混和しない(例えば、混合しない)液体の混合物である。このエマルジョン中に存在する水は、脱イオン水、USP注射用水(WFI)等を含む、任意の水であってよい。
【0021】
エマルジョンは、タキサン、油、界面活性剤、非水性溶媒、糖アルコールおよび水を含有する。ある特定の実施形態では、エマルジョンは透明である。透明とは、透明な(transparent)液体でない場合は、エマルジョンが透光性(translucent)であるという意味であり、即ち液体が澄んでいる(pellucid)という意味である。従って、エマルジョンは、例えば懸濁液でみられるような濁った状態ではない。タキサンのプロエマルジョン製剤から調製することができるエマルジョンに関するさらなる詳細を以下に記載する。
【0022】
上記のとおり、タキサンのプロエマルジョン前駆品は、乾燥状態の固形組成物である。この乾燥状態の固形組成物は、固形ブロックまたはケーキ、あるいは粒子状(即ち粉末)の組成物など、様々な形態をとることができる。粉末の態様では、粉末を構成する粒子の粒径は多様であり、ある場合では、粒径は、1μm〜1cm、例えば1μm〜5mm、または1μm〜1mmの範囲である。
【0023】
本発明の実施形態の乾燥プロエマルジョン製剤は、少なくとも、タキサン、油、界面活性剤及び糖アルコールを含有する。
【0024】
本発明におけるタキサンはジテルペン化合物であり、例えば、タキサンは次式:
【化10】

[式中、
1は、
【化11】

、炭素数1〜6のアルキルまたはフェニルであり;
2は、
【化12】

(Xは0〜6)であり;
3は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルであり;
4は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルである]
で示される化合物である。
【0025】
ある特定の実施形態では、タキサンはパクリタキセルまたはドセタキセルである。本発明におけるタキサンとしては、さらに7−エピタキソール、7−アセチルタキソール、10−デスアセチルタキソール、10−デスアセチル−7−エピタキソール、7−キシロシルタキソール、10−デスアセチル−7−グルタリルタキソール、7−N,N−ジメチルグリシルタキソール、7−L−アラニルタキソール、SB−T−1011等が挙げられるがこれに限定されない。タキサンは、遊離塩基でも塩としても存在してよい。
【0026】
プロエマルジョン製剤は有効量の1種またはそれ以上のタキサンを含有する。有効量とは、所望の結果(例えば、細胞増殖の阻害)をもたらすのに十分な用量を意味する。タキサンの有効量は、用いる具体的なタキサンによって様々であるが、ある特定の実施形態では、0.05〜5重量%、例えば0.1〜3重量%、あるいは0.3〜2重量%の範囲である。ある特定の実施形態では、プロエマルジョン製剤は有効量のパクリタキセルを含有する。ある特定の実施形態では、パクリタキセルは、プロエマルジョン製剤中、0.05〜5重量%、例えば0.1〜2.5重量%、あるいは0.3〜1.0重量%の範囲の量で存在する。ある特定実施形態では、プロエマルジョン製剤は、有効量のドセタキセルを含有する。ある特定の実施形態では、ドセタキセルは、プロエマルジョン製剤中、0.1〜5重量%、例えば0.2〜3重量%、あるいは0.5〜2重量%の範囲の量で存在する。
【0027】
本発明のプロエマルジョン製剤には、1種またはそれ以上の油からなる油成分もまた存在する。本発明における油は、生理学的に許容されるものであって、単純脂質、誘導脂質、複合脂質(天然の植物由来の油や脂、動物由来の油やと脂、および鉱油やそれらの混合物から誘導される)が挙げられるがこれらに限定されず、また、天然に存在するものであっても合成されるものであってもよい。
【0028】
ある実施形態では、油としては、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、コーン油、ピーナッツ油、サフラワー油、グレープシード油、ユーカリ油、中鎖脂肪酸エステルおよび短鎖脂肪酸エステル等が挙げられるがこれらに限定されない。本発明における動物由来の油および脂としては、肝油、アザラシ油、イワシ油、ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸などが挙げられるがこれらに限定されない。本発明における鉱油としては、液状パラフィン(例えば、n−アルカンから誘導されるもの)、ナフテン油(例えば、シクロアルカンに基づく油)、芳香油(例えば、芳香族炭化水素に基づく油)が挙げられるがこれに限定されない。これらの1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。例えば、本発明のエマルジョン製剤のある態様は、大豆油、オリーブ油、ゴマ油またはそれらの組合せを含む。他の実施形態では、大豆油、オリーブ油またはそれらの組合せを含む。ある態様では高度に精製された油および脂を用いる。
【0029】
本発明の油には、トコフェロールも包含される。トコフェロールは天然および合成化合物のファミリーであり、一般名トコールまたはビタミンEとしても知られている。このクラスの化合物では、α−トコフェロールが最も一般的で活性な形態であり、以下の構造式(スキームI)を有する。
【化13】

このクラスの他の化合物としては、α−、β−、γ−およびδ−トコトリエノールや、酢酸トコフェロール、リン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロールおよびリノール酸トコフェロールなどのα−トコフェロール誘導体が挙げられる。所望により、上記の具体的なトコフェロール類を含む任意のトコフェロールが存在し得る。
【0030】
本発明における油としては、中鎖脂肪酸のポリオールエステルもまた挙げられる。「中鎖脂肪酸のポリオールエステル」なる語は、中鎖脂肪酸(例えば、脂肪酸が6〜12炭素の鎖長を有する)と共に鎖を形成する、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の開鎖ポリオール(ポリエチレングリコール等)のエステルや混合エステルを包含する。ある場合では、中鎖脂肪酸のポリオールエステルは、例えば、ココナッツ油の分画により商業的に入手可能な、C8−C10脂肪酸のトリグリセリドまたはジグリセリドである。ここに記載する商業的に入手可能な製品は、典型的な組成として、約68%C8脂肪酸(カプリル酸)トリグリセリドと約28%のC10脂肪酸(カプリン酸)トリグリセリドと少量のC6およびC14脂肪酸トリグリセリドの組成を有する、「Miglyol」や「Captex 300」などの商標で販売されているものである。
【0031】
ある場合では、プロエマルジョン製剤における油の量は0.05〜12重量%、例えば0.〜10重量%、あるいは0.4〜8重量%の範囲である。
【0032】
本発明のプロエマルジョン製剤のある特定の態様では、1種またはそれ以上の界面活性剤が存在する。本発明における界面活性剤としては、医薬製剤に用いることができる任意のタイプの界面活性剤が挙げられ、リン脂質、精製リン脂質、非イオン性界面活性剤又はそれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。精製リン脂質にはホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンおよび主成分としてのホスファチジルコリンとスフィンゴミエリンを包含し得る。例えば、精製リン脂質には、卵黄レシチンや大豆レシチンが包含される。本発明における非イオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、ポリオキシアルキレンコポリマー、やソルビタン脂肪酸エステルが挙げられるがこれに限定されない。ある実施態様では、ソルビタン脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween65);トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween85);モノステアリン酸ポリエチレングリコール400;ポリソルベート60(Tween60);モノステアリン酸ポリオキシエチレン(Myrj49);ポリソルベート80(Tween80);ポリソルベート40(Tween40);およびポリソルベート20(Tween20))またはソルビタン脂肪酸エステル(例えば、トリオレイン酸ソルビタン(Span85);トリステアリン酸ソルビタン(Span65);セスキオレイン酸ソルビタン(Arlacel83);モノステアリン酸グリセリル;モノオレイン酸ソルビタン(Span80);モノステアリン酸ソルビタン(Span60);モノパルミチン酸ソルビタン(Span40);モノラウリン酸ソルビタン(Span20))である。プロエマルジョン製剤中の界面活性剤の量は変更し得る。ある場合では、プロエマルジョン製剤中の界面活性剤の量は10〜70重量%、例えば20〜65重量%、あるいは30〜60重量%の範囲である。本発明のプロエマルジョン製剤における油と界面活性剤の混合比は変更し得るが、ある場合では、1/1000〜1/2、例えば1/100〜1/5である。
【0033】
本発明のプロエマルジョン製剤はさらに、1種又はそれ以上の糖アルコール(すなわち、多価アルコール)を含有する。本発明における多価アルコールとしては、d−ソルビトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ズルシトール、イジトール、マンニトール等が挙げられるが、これに限定されない。糖アルコールは様々な量で存在することができ、ある場合では、15〜80重量%、例えば25〜65重量%の範囲である。
【0034】
ある場合では、本発明のプロエマルジョン製剤はさらに、1種またはそれ以上の非水性溶媒を含有する。本発明における非水系溶媒としては、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG300、400、600等)、グリセリン、エタノール、トリアセチン、ジメチルイソソルビド、グリコフロール、炭酸プロピレン、水、ジメチルアセトアミドまたはそれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。非水性溶媒は、様々な量で存在することができ、ある場合では、0.1〜30重量%、例えば0.1〜15重量%の範囲である。
【0035】
本発明のエマルジョン製剤の特定の実施形態は、さらに1種またはそれ以上の乳化促進剤を含有する。医薬製剤に使用することができる任意のタイプの脂肪酸を乳化促進剤として使用することができる。この場合の脂肪酸としては、6〜22炭素の脂肪酸が挙げられる。天然または合成、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれも使用でき、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、リノレン酸、ミリスチン酸等が挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、エマルジョン製剤は、精製脂肪酸、例えば、オレイン酸を含有する。プロエマルジョン製剤中に乳化促進剤が存在する場合の量は様々であり、ある場合では、0.1〜5重量%、例えば0.1〜3重量%の範囲である。
【0036】
プロエマルジョン製剤の一態様では、プロエマルジョン製剤を、水性媒体と組み合わせたときに、乾燥粉末の前駆エマルジョンのそれと実質的に同じ粒径を有するエマルジョンが得られるように製剤化する。これらの場合では、プロエマルジョン製剤は、例えば以下により詳細に記載するように、前駆エマルジョンから調製される。この前駆エマルジョンでは、この前駆エマルジョンは様々な粒径(分散相中の分散相の液滴(すなわち、小球)の平均直径を指す)を有し、ある特定の実施形態では、3〜100nm、例えば、5〜70nm、あるいは7〜50nmの範囲である。プロエマルジョンを、注射用水、生理食塩水などの水性媒体と組み合わせたときに、粒径が、前駆エマルジョンの粒径と実質的に同じ最終エマルジョンが調製される。このように、最終エマルジョンと前駆エマルジョンとの粒径における変化の違いは、50nm以下、例えば20nm以下、10nm以下、例えば5nm以下または3nm以下である。ある場合では、最終のエマルジョンの粒径は、3〜70nm、例えば5〜50nm、あるいは7〜30nmの範囲である。具体的な特定の実施形態では、エマルジョンは、透明(例えば、上述したように)で、且つ70nm以下、例えば、50nm以下、あるいは30nm以下の粒径を有する。
【0037】
タキサンのプロエマルジョン製剤の調製方法
プロエマルジョン製剤は前駆エマルジョンから調製することができる。前駆エマルジョンは、前駆エマルジョンを製造するのに十分な条件下で、プロエマルジョン製剤(例えば、上述したような)の成分を一定量の水性媒体(例えば、水)と組み合わせた後、例えば上述したように、前駆エマルジョンから水を分離して所望のプロエマルジョンを得ることにより調製することができる。
【0038】
前駆エマルジョン製剤は、任意の簡便なプロトコルに従って調製することができる。この場合、所望のプロエマルジョン製剤の成分を、所望の前駆エマルジョンを製造するのに十分な条件下で、水性媒体(例えば、水)と組み合わせることができる。したがって、ある量のタキサン成分、油成分、界面活性剤成分、非水性溶媒成分および糖アルコール成分を、前駆エマルジョンを製造するのに十分な条件下で水と組み合わせることができる。前駆エマルジョンでは、タキサン(例えば、上記の)の量は様々であるが、0.1〜5mg/mL、例えば0.5〜2mg/mlの範囲である。油(例えば、上記の)の量は様々であるが、0.1〜100mg/mL、例えば1〜10mg/mlの範囲である。界面活性剤(例えば、上記の)の量は様々であるが、25〜400mg/mL、例えば50〜200mg/mlの範囲である。非水性溶媒(例えば、上述の)が存在する場合の量は様々であるが、ある場合では、0.1〜50mg/mL、例えば0.1〜25mg/mlの範囲である。糖アルコール(例えば、上記の)の量は様々であるが、ある場合では25〜300mg/mL、例えば50〜150mg/mlの範囲である。
【0039】
前駆エマルジョンは、任意の簡便なプロトコルを用いて調製することができる。成分を、任意の好都合な順序で水性媒体と組み合わせることができる。この場合の水性媒体としては、脱イオン水、注射用USP水(WFI)などが挙げられるがこれに限定されない。特定の成分を互いに組み合わせた後、水性媒体と組み合わせるか、またはすべての成分を実質的に同時に組み合わせてもよい。組み合わせには、所望の前駆エマルジョンを製造するための攪拌(agitation)の様々な方法(例えば、かき混ぜ(stirring)など)が含まれる。特定の実施形態では、この調製方法は、活性成分、水および油を混合し、混合物を乳化させることを含む。例えば、適当な油の滑らかな混合物に注射溶媒(例えば、WFI)を添加することができる。混合物を最初に大まかに乳化させてもよい。たとえば、大まかな乳化のため、ホモミキサー(みずほ工業株式会社)やハイフレックスディスペンサー(SMT)を使用することができる。混合物を大まかに乳化した後、例えば高圧乳化機を用いて、混合物を微細に乳化することができる。微細乳化には、ゴーリンホモジナイザー(APV−SMT)やマイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス、ニュートン、マサチューセッツ州)などの高圧ホモジナイザーを使用することができる。また、微細乳化のために、エマルジョン製剤を乳化装置により、500〜850kg/cmの範囲の圧力で複数回、例えば2〜50回、例えば5〜20回処理してもよい。この調製方法は、室温または室温よりも低い温度で行うことができる。特定の実施形態では、この調製方法は、窒素ガスを用いて乳化装置をフラッシングすることを含む。前駆エマルジョンを調製するためのプロトコルの具体例を以下に、実験の項に記載する。
【0040】
前駆エマルジョンの調製後、前駆エマルジョンから水を分離して所望のプロエマルジョンを得ることができる。この場合、前駆エマルジョンを乾燥させて所望のプロエマルジョン製剤を得ることができる。蒸発、凍結乾燥等が挙げられるがこれに限定されない任意の簡便なプロトコルを使用して前駆エマルジョンを乾燥させることができる。蒸発による場合、前駆製剤を所望のプロエマルジョン製剤を生じるのに適切な温度で十分な時間維持することができる。ある場合では、前駆製剤を、20〜80℃、例えば40〜60℃の範囲の温度で10〜120分、例えば20〜60分間維持して所望のプロエマルジョンを得る。
【0041】
ある場合では、前駆エマルジョンを乾燥してバルク量のプロエマルジョン製剤を製造する。バルク量のプロエマルジョン製剤の製造により、そのバルク量の用量が得られ、水性媒体と組み合わせて、ある用量の注射可能な最終のエマルジョンを製造することができる。所望であれば、プロエマルジョン製剤のバルク量は、単回用量及び使用に割り当てる前に一定期間保存することができる。この場合の保存期間は様々であるが、ある実施形態では、5分間〜24時間、例えば5分〜12時間、あるいは5分〜6時間の範囲である。
【0042】
所望であれば、前駆エマルジョンの一定量を、プロエマルジョンを保持し、輸送、貯蔵、取り扱い時中は無菌に保つ、個々の用量容器(例えば、バイアル)に充填することができる。充填段階の前または最中に、エマルジョンはあらゆる細菌やウイルスを除去するため十分に小さい孔径を有するサブミクロンの滅菌フィルターを通過させることができる。本明細書で用いられる用語「バイアル」は、プロエマルジョン製剤を保持するために用いられる任意の密な壁できた容器を指す。ある場合には、バイアルは透明なガラスでできており、これは、使用の際に、透明で、カラメル化しておらず、崩壊していない状態のままであるかを確かめる封入された薬剤の目視検査や、封入された薬剤の無菌性を危うくするまたは破壊する可能性がある壁面の細いひび割れがないかを確かめる容器自体の目視検査が可能である等を含め、いくつかの利点がある。医薬用バイアルの様々な種類が知られている。シングルチャンバーバイアルは、皮下注射針をゴム製シールを介して挿し入れることができるようにゴム又はプラスチックプラグで密封することができる。あるいは、シングルチャンバーバイアルは、水溶液(例えば、静脈内輸液バッグ内の生理食塩水又はデキストリン溶液として)を含有することができる密封された袋の中に、脆くて簡単に破ることのできる材料でできたものであってもよく、このタイプのバイアルは、それ破損することで内容物がバイアルから密封された袋に放出され混合される。さらに他の実施形態では、同様の構造の二室バイアル(例えば、米国特許出願公開第20030099674号および米国特許第4781354号に記載されているような)を用いることができる。前駆エマルジョンを容器内へ充填した後、前駆エマルジョンを容器内で乾燥させて、容器(例えばバイアル)内でプロエマルジョン製剤を製造することができる。所望であれば、プロエマルジョン製剤の投与量を、再構成および使用までの一定の長期間保存することができ、この場合の保存期間は様々で、特定の実施形態では1週間以上、1ヶ月以上、3ヶ月カ月以上、6ヶ月以上、または1年以上である。保存する場合は、任意の適切な保管条件を採用することができる。
【0043】
タキサンエマルジョン製剤および使用方法
例えば、上述したプロエマルジョン製剤の調製に続いて、対象への所望の投与の際には、投与量のプロエマルジョンを水性媒体と組み合わせて使用に適したエマルジョン製剤を調製することができる。投与量のプロエマルジョン製剤を任意の適切な水性媒体と組み合わせることができ、この場合の水性媒体としては、脱イオン水、注射用USP水(WFI)、生理食塩水等が挙げられるがこれに限定されない。エマルジョンの調製の際に採用される液体と固体の比率は様々であり、特定の実施形態では、0.5〜300、1〜200、または2〜150の範囲である。ある場合では、水性媒体と組み合わせるプロエマルジョン製剤の投与量は100〜1200gまたは300〜600gであり、投与量と組み合わせる水性媒体の量は100〜1200mLまたは250〜600mLの範囲である。
【0044】
所望であれば、プロエマルジョン製剤は、水性媒体との組み合わせの前に一定期間保存することができる。この保存期間は様々であり、例えば、5分〜24時間、5分〜12時間または5分〜6時間である。この保存条件は様々である、ある場合では、この保存条件は、5〜60℃あるいは8〜40℃の範囲の温度によって特徴付けられる。プロエマルジョン製剤が安定に保存される保存期間の間は、タキサン活性成分の活性は保持される。従って、保存後に再構成されたエマルジョン中のタキサン活性成分の活性は、乾燥前の前駆エマルジョンにおける活性と実質的に同じであり、下記表に示すHPLCにより測定した場合のその差異の程度は、15%以下、10%以下、5%以下である。
【表1】

【0045】
組み合わせのプロトコルは様々であり、エマルジョンと水性媒体の両方が含まれている袋を混練する等による、攪拌(agitation)(例えばかき混ぜ(stirring))を採用することができる。
【0046】
プロエマルジョン製剤と水性媒体との再構成時に生成されるタキサンエマルジョン製剤は、生理学的に許容されるpHを有することができる。特定の実施形態では、エマルジョン製剤のpHは2.5〜8、3〜7、または3.5〜6の範囲である。このタキサンエマルジョン製剤は透明な製剤である。エマルジョン中のタキサンの濃度は様々であり、ある実施形態では、0.05〜10mg/mLあるいは0.2〜3mg/mLである。
【0047】
タキサンエマルジョン製剤を使用する方法としては、タキサンエマルジョン製剤の有効量を対象に投与して目的とする状態について対象を処置することが挙げられる。「処置する」または「処置」は、その対象を苦しめている状態に関連する症状の少なくとも抑制または軽減を意味し、この場合の抑制および軽減は、広い意味で、例えば、処置される状態に関連するパラメータ、例えば痛み等の症状の大きさを少なくとも減少させることを意味する目的で用いられる。従って、処置には、その状態が完全に抑制される(例えば、それが起こらないよう阻止するまたは止める)、例えば、終結することによって対象がもはやその状態に苦しまなくなくなるような状況も含まれる。このように、処置には状態の阻止と管理の両方が含まれる。
【0048】
本方法の実施において、本明細書に記載したエマルジョン製剤を対象に非経口投与することができる。「非経口投与」は、ある量のエマルジョン製剤を、対象(例えば手術後の痛みを有する患者)に対して、消化管以外の経路によって送達するプロトコルによる投与を意味する。非経口投与の例としては、筋肉内注射、静脈内注射、経皮吸収、吸入などが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、非経口投与は、注射送達デバイスを用いた注射によるものである。対象に投与されるエマルジョン製剤の量は、具体的な患者、状態の性質、タキサン活性成分の性質などの様々な因子によって様々である。ある実施形態では、対象に投与するエマルジョンの容量は100〜1000mL、200〜600mLの範囲であってよい。この容量を投与する時間は、0.5〜6時間、あるいは1〜3時間である。所定の投与手順の間に投与される投与量は様々であり、ある場合では、20〜500mg/mあるいは50〜300mg/mの範囲である。
【0049】
ある場合では、本発明の組成物が投与される人は、本発明の方法が必要であると診断された人である。ある実施形態では、本発明の方法は診断工程を含む。任意の便利なプロコルを用いて本発明の方法が必要であると診断することができる。さらに、例えばその人が標的とする疾患(例えば、細胞増殖性疾患)を患っている場合、本方法を実践する前に、本発明の方法が必要であると分かるかもしれない。標的とする状態の診断または評価を任意の便利な診断プロトコルを用いて行うことができる。
【0050】
本発明の方法はさらに、タキサンエマルジョン製剤の投与を含む処置プロトコルの有効性を評価することを含むことができる。処置の有効性の評価は、任意の便利なプロトコルを用いて行うことができる。
【0051】
本発明のタキサンエマルジョン製剤は、様々な異なるタイプの対象に投与することができる。本発明が目的とする対象としては:肉食動物(例えば、イヌやネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、ラット)、ウサギ目(例えばラビット)及び霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、サル)を含む、ヒトおよび非ヒトの哺乳類が挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、対象(例えば患者)は、ヒトである。
【0052】
有用性
本発明のエマルジョン製剤および方法は、細胞増殖性疾患の状態に苦しんでいる対象の処置を含む、様々な用途に用いることができる。本発明の組成物を用いて治療することができる細胞増殖性疾患としては:脳、乳房、肺、大腸、前立腺や卵巣のがん、骨髄腫、神経芽腫または肉腫、ならびに白血病やリンパ腫が挙げられるが、これに限定されない。目的とする具体的な疾患状態としては、ヒトの卵巣がん、乳がん、悪性リンパ腫、肺癌、黒色腫およびカポジ肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
キット
さらに、上述したような本発明の方法を実施する際に使用可能なキットも提供する。例えば、本発明を実施するためのキットは、単位投薬形態、例えばアンプルなど、または多用量形態の中に本エマルジョン組成物がある量で存在するキットなどであってもよい。従ってある実施形態では、キットは、1またはそれ以上の単位用量(例えば、バイアル)のプロエマルジョン製剤を含むことができる。本明細書において用いられる用語「単位用量」は、ヒトおよび動物の対象に対する単位投与量として適当な物理的に別個の単位を意味し、各単位は所望の効果をもたらすのに十分な量で算出された量で本発明のプロエマルジョン製剤を含有する。本発明のエマルジョン製剤の単位投与量は、使用される具体的な活性成分、達成されるべき効果、本発明の活性成分に関する対象における薬物動態など、さまざまな要因に依存する。さらに他の実施形態では、本発明のキットは単一の複数用量のエマルジョン製剤を含んでいてもよい。
【0054】
特定の実施形態において、キットはさらに、タキサンエマルジョンの再構成に使用するのに適したある量の水性媒体を含んでいてもよい。水性媒体としては、上記のような任意の便利な水性媒体が挙げられ、例えば、IVバッグ等の任意の適切な容器内に存在する。
【0055】
上記の成分に加えて、本発明のキットにはさらに本発明の方法を実施するための使用説明書を入れることもできる。これらの使用説明書は、本発明のキットに様々な形態で存在させることができ、それらのうちの1つ以上をキットに存在させてもよい。そのような使用説明書を存在させることが可能な1つの形態は、情報を適切な媒体または基質の上に印刷した形態、例えば1枚またはそれ以上の情報を印刷した紙片などであり、それをキットの包装材、パッケージ挿入物などに入れてもよい。使用説明書は、情報を記憶させておいたコンピューター読み取り可能媒体、例えばディスケット、CDなどに存在させてもよい。使用説明書は、遠く離れた場所で、インターネットを通じて情報にアクセスするのに用いられるウェブサイト上に存在していてもよい。他の便利な手段も可能であり、本キットに入れることができる。
【0056】
以下の実施例は、当業者に本発明の製造および使用方法の完全な開示および説明を与える目的で示すものであり、本発明者らが発明であると考える事項の範囲を限定することを意図するものでなく、かつ以下に示す実験が、実施した全ての実験またはそれら実験のみについて実施したことを示すことを意図するものでもない。用いる数(例えば量、温度など)に関して正確さを確保する努力を行ったが、いくらかの実験誤差および偏差を考慮に入れるべきである。特に明記しない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度でありそして圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【実施例】
【0057】
実験
A.パクリタキセル製剤
【表2】


乾燥エマルジョン前駆製剤を調製するにあたり、100mgのパクリタキセルを、2000 mgのプロピレングリコールと混合し、超音波で50℃に加熱した。得られた混合物を、10,000 mgのポリソルベート80および100 mgの大豆油と混合し、熱を加えながら攪拌した。次いで、温度を60℃に維持しながら、得られた混合物を高速攪拌機(12000回転×15分)で攪拌し、湯(温度60℃)を加えて体積を100mLとした。次いで、10,000 mgのマンニトールを添加し、マンニトールが溶解するまで攪拌した。得られた溶液50mlをバイアルに入れ、キャップで密閉した。バイアルを12分間120℃で滅菌した後、室温まで放冷した。滅菌後、バイアル中の液体をエバポレーターで留去(50℃×1時間)し、粉末を得た。得られた粉末は、乾燥したパクリタキセルエマルジョン前駆製剤である。
使用時に、得られた粉末を水と混合して、注射に適した透明なエマルジョン溶液を得た。
【0058】
さらに、上記のプロトコルを用いて以下の製剤を調製した。
【表3】


【表4】

【0059】
B.ドセタキセル製剤
【表5】


乾燥エマルジョン前駆製剤を調製するにあたり、50mgのドセタキセルを120mgのオレイン酸、500mgのプロピレングリコールおよび5000mgのポリソルベート80と混合し、超音波で50℃に加熱した。得られた混合物を50mgの大豆油と混合し、熱を加えながら攪拌した。混合物の温度を60℃に維持しながら、得られた混合物を高速攪拌機(11,000回転×7分)で攪拌し、湯(温度60℃)を加えて体積を50mLとした。5000mgのマンニトールを添加し、マンニトールが溶解するまで攪拌した。得られた溶液10mLをバイアルに入れ、キャップで密閉した。バイアルを12分間120℃の温度で滅菌した後、室温まで放冷した。滅菌後、バイアル中の液体をエバポレーターで留去(50℃×1時間)し粉末を得た。得られた粉末は、乾燥したドセタキセルエマルジョン前駆製剤である。
使用時に、得られた粉末を水と混合して、注射に適した透明なエマルジョン溶液を得た。
【0060】
さらに、上記のプロトコルを用いて以下の製剤を調製した。
【表6】

【0061】
C.投与
以下の判断基準を用いて、本発明の実施形態を用いた処置に対する乳癌患者の応答を測定した。

部分寛解(PR):少なくとも1ヶ月間全ての測定可能な病変の直径の合計の50%以上の減少。
マイナー寛解(MR):少なくとも1ヶ月間全ての測定可能な病変の直径の合計の25〜50%の減少。
進行性疾患(PD):1サイクルの化学療法の間に測定可能な病変の直径の合計の25%以上の進行または、転移性疾患と一致する外観またはなんらかの新しい病変。
【0062】
上記のエマルジョン前駆体の使用にあたり、乾燥させたエマルジョン前駆製剤を、適当な水性媒体中で再構成して注射に適した透明なエマルジョンを得た。透明なエマルジョンは、6時間で1平方メートル当たり17.5〜35mgのタキサン(患者の体表面積に基づく)を供給するのに十分な濃度をもたらす。透明なエマルジョンは輸注を開始する30〜60分前に調製する。透明なエマルジョンは、容量500mLのポリプロピレンをライニングした半硬質の容器内で調製される。
【0063】
透明なエマルジョンの入った容器は、ポリエチレンチューブを介してIVポンプに接続した。次いで、IVEX−HP インラインフィルタ Set−SL、15"、アボットモデル#4525(孔径0.22ミクロン)をポリエチレンラインチューブを介してIVポンプに接続した。インラインフィルタを対象のセントラル・アクセス・デバイスに接続した。
【0064】
透明なエマルジョンを、IVポンプにより制御して6時間にわたって注入した。この手順を3回、計18時間繰り返し、注入した。到達した最終的な用量は70〜140mg/M/18時間である。この輸液手順を21日ごとに行い、2サイクル後ごとに、応答について患者をモニターした。患者がパクリタキセルの投与量に対して毒性またはアレルギー反応を示す場合、許容されるまで投薬量を減らした。このサイクルは、患者が進行性疾患を呈するまでまたは4〜6サイクル安定であるまで継続した。上記の透明なエマルジョンの70〜140mg/M/18時間の速度21日ごとの処置の後、患者を2サイクルごとに応答について観察した。
【0065】
本発明の理解を明確にする目的で説明及び例示によって詳細に記述してきたが、本発明の教示に照らし、添付した特許請求の範囲の精神から逸脱することなく、ある特定の変更や修飾を行うことができることは当業者には自明であろう。
【0066】
従って、上記の記載は単に本発明の原理を説明したものである。当業者が、本明細書に明確に記述または示されなかったけれども、本発明の原理を具体化する様々な配置を考案することができるであろうし、それらも本発明の精神および範囲の中に含まれることは理解されるであろう。その上、本明細書に示した全ての例示や条件語句の全ては、当該技術の促進に本発明者らが貢献した本発明の原理および概念の理解において読者を助けることを主に意図するものであり、そのように具体的に示した例示や条件への限定ではないと解釈されるべきである。また、本発明の原理、態様、実施形態を列記する本明細書における全ての陳述は、その具体例同様に、それらの構造および機能の両方における均等物を包含することを意図する。加えて、そのような均等物は、現在公知の均等物と、将来開発される均等物(つまり、同じ機能を奏するいかなる開発された要素)の両方を構造に関係なく含むことを意図する。従って、本発明の範囲は、本明細書に示され記述された例示した実施形態に限定されることを意図するものでない。むしろ、本発明の範囲および精神は添付した特許請求の範囲によって具体化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タキサン;
油;
界面活性剤;および
糖アルコール
を含有してなる乾燥粉末を含有してなるタキサンのプロエマルジョン製剤であって、
該乾燥粉末が、水性媒体と組み合わせたときに該乾燥粉末の前駆エマルジョンと実質的に同じ粒子サイズを有する透明なエマルジョンを生じるように製剤化されている、プロエマルジョン製剤。
【請求項2】
タキサンが次式:
【化1】

[式中、
1は、
【化2】

、炭素数1〜6のアルキルまたはフェニルであり;
2は、
【化3】

(Xは0〜6)であり;
3は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルであり;
4は、炭素数1〜6のアルキル又はフェニルである]
で示される、請求項1記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項3】
タキサンがパクリタキセルまたはドセタキセルである、請求項2記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項4】
油が、大豆油、トコフェロールおよび中鎖脂肪酸のグリセリンエステルからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項5】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求項1〜4のいずれかに記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤がポリソルベート80である、請求項5に記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項7】
プロエマルジョン製剤が非水性溶媒を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項8】
非水性溶媒がプロピレングリコールである、請求項7記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項9】
糖アルコールがマンニトールである、請求項1〜8のいずれかに記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項10】
プロエマルジョン製剤がさらに乳化促進剤を含有する、請求項1〜9のいずれかに記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項11】
乳化促進剤がオレイン酸である、請求項10に記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項12】
粒子サイズが70nm以下である、請求項1〜11のいずれかに記載のプロエマルジョン製剤。
【請求項13】
(a)請求項1〜12のいずれかに記載のタキサンプロエマルジョン製剤を水性媒体と組み合わせて透明なタキサンエマルジョンを得ること;および
(b)該タキサンエマルジョンを対象に投与すること
を含んでなる、対象にタキサンを投与する方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載のタキサンプロエマルジョン製剤と水性媒体とを組み合わせて透明なタキサンエマルジョンを得ることを含んでなる方法によって製造される、透明なタキサンエマルジョン。
【請求項15】
(a)請求項1〜12のいずれかに記載のタキサンプロエマルジョン製剤;および
(b)水性媒体
を含んでなるキット。

【公表番号】特表2013−520435(P2013−520435A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554053(P2012−554053)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2011/025418
【国際公開番号】WO2011/103413
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(502346286)テイコク ファーマ ユーエスエー インコーポレーテッド (26)
【出願人】(300025767)テクノガード株式会社 (7)
【Fターム(参考)】