説明

タキサン類の薬学的調合物

【課題】有効成分の1つとして有効量のタキサンを含む新規な薬学的調合物を提供する。
【解決手段】タキサン系抗腫瘍剤、特にパクリタキセルまたはドセタキセルまたはそれらの薬学的に許容される塩、及びジメチルイソソルビド(DMI)を含む薬学的調合物。この調合物は、N−メチルピロリジン−2−オン(NMP)を含んでもよく、非イオン性界面活性剤(クレマフォール、ポロキサマー及び/又はポリソルベート)を含んでもよい。薬学的調合物は水性希釈剤で希釈し、癌患者に投与するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタキサン類の薬学的調合物に関し、詳細には抗癌剤であるパクリタキセル(タキソール)(Taxol)(登録商標)及びドセタキセル(タキソテール)(Taxotere)(登録商標)またはこれらの誘導体、及び、N−メチルピロリジン−2−オン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMA)、及び/またはジメチルイソソルビド(DMI)の組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
1.パクリタキセル及びドセタキセルの背景
タキサン類、特に今日入手可能な2種類の薬剤であるパクリタキセル及びドセタキセルは抗腫瘍剤として有効である。タキサン類はある種のイチイの樹皮や針葉に天然に存在するか、もしくはこれから半合成的に得られる。パクリタキセルは1970年代後半に発見され、従来の化学療法薬とは異なる作用機序を有する有効な抗腫瘍剤であることが示された。
【0003】
詳細には、パクリタキセル、ドセタキセルや他のタキサン類は、紡錘糸の微小管の形成に不可欠なタンパク質であるチューブリンの重合化を促進することにより細胞毒性効果を発揮することが報告されている。この結果、非常に安定な非機能性の微小管が形成されるために、細胞の複製が阻害されて新生物細胞が死ぬものと考えられている。タキサン類は、他の抗腫瘍剤に対して治療抵抗性を示す多くの固体腫瘍の治療において有効な薬剤として知られている。
【0004】
パクリタキセルはI式にて示される複雑な構造を有する。
【0005】
【化1】

【0006】
パクリタキセルは水に対して難溶性であるため(10μg/mL未満)、静脈内投与用に水と調合することは実際上無理である。現在のところパクリタキセルは、癌患者への静脈内投与用には、ポリオキシエチル化したヒマシ油(ポリオキシル35またはクレマフォール(Cremaphor)(登録商標))を主溶媒とした溶液に調合されている。補助溶媒として高濃度のエタノールが用いられる。パクリタキセルの投与における主たる難点の1つは過敏反応が起こることである。重篤な皮膚の発疹、蕁麻疹、潮紅、呼吸困難、頻拍などを含むこれらの反応は、調合物中に溶媒として用いられている高濃度のポリオキシル35に少なくとも一部起因するものである。更に現在用いられているパクリタキセル製剤中の高濃度のエタノールは、多くの患者に急性アルコール中毒を引き起こす傾向がある。
【0007】
ドセタキセルはパクリタキセルの類似体であり、最近になって米国食品医薬品局により癌患者への投与が認可された。ドセタキセルは次の構造を有する。
【0008】
【化2】

【0009】
パクリタキセルと同様、ドセタキセルも水に対して難溶性である。ドセタキセルを溶かすために現在最も好ましく用いられている溶媒はポリソルベート80(ツウィーン80)(Tween80)である。ポリオキシル35と同様、ポリソルベートもしばしば患者に過敏反応を引き起こす。更にポリ塩化ビニル製の投与器具では毒性の高いフタル酸ジエチルヘキシルが滲出する傾向があるため、ポリソルベートをこうした器具とともに使用することはできない。
【0010】
クレマフォールは比較的高い粘性を有するため、この製剤を患者に静脈内注入するためには補助溶媒を用いなければならない。一般的に使用されている補助溶媒としては、各種の低級アルコール、植物油及び他の油類、他の有機及び無機溶媒の組み合わせなどが含まれる。これらの薬剤の調合物を調製するうえで他の薬学的賦形剤も用いられる。現在のところ患者への投与に利用することができるのはパクリタキセルまたはドセタキセルの静脈内投与用調合物のみである。
【0011】
2.N−メチルピロリドン
N−メチルピロリジン−2−オンは、N−メチルピロリドン、1−メチル−2−ピロリドン、NMPなどとも称される一般的な工業用の溶媒である。NMPは薬学的調合物において、局所的に塗布される薬剤の皮膚への浸透を助けるための賦形剤としても使用されてきた。NMPは、遅揮発性であり、高い極性を有する非プロトン性の汎用溶媒であり、水やほとんどの有機溶媒と完全に混和する。
【0012】
NMPは、エトポシド、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、テニポシド、クロルテトラサイクリン、カンプトテシン類や他の水に難溶性の薬学的化合物などの様々な薬剤の溶媒として薬学的化合物の調製にも使用されてきた。NMPの薬学的な使用に関する従来特許として、米国特許第5,900,419号、同第5,880,133号、同第5,859,023号、同第5,859,022号、同第5,726,181号などがある。
【0013】
3.ジメチルアセトアミド及びジメチルイソソルビド
ジメチルアセトアミド(DMA)及びジメチルイソソルビド(DMI)は、親油性の高いカンプトテシン類似体の可能な溶媒として従来教示されている有機溶媒である。米国特許第5,447,936号、同第5,468,754号、同第5,597,829号、同第5,604,233号、同第5,633,260号、同第5,674,873号他には、水に難溶性の各種のカンプトテシン類似体を調合するための有用な溶媒としてのDMAの使用についての教示がなされている。DMIもまた、筋弛緩剤、アスピリン、及び各種ステロイドなどの他の薬剤の溶媒として用いられてきた。
【0014】
DMA及びDMIはいずれも安全性が高く、エタノール、プロピレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、ジエチルエーテル、植物油などの多くの有機溶媒、ならびに水と混和する。
【0015】
米国特許第5,877,205号は、DMA/PEGを補助溶媒として使用したパクリタキセルの調合物について開示している。この保存用製剤は患者に投与するためには水性脂質乳濁液により希釈する。
【0016】
該205号特許は、パクリタキセル/DMA/PEG保存用溶液を水性脂質乳濁液としての大豆油によって最終希釈する必要について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,877,205号
【発明の概要】
【0018】
本発明の薬学的調合物は、有効量のタキサン(有効成分)、有効成分の全体を溶解するうえで充分な量のNMP、及びDMA及び/またはDMIを含む補助溶媒を主要な成分として含むものである。薬学的調合物は、静脈内投与に適した調合物において普通に見られる他の薬学的賦形剤を含むことも可能である。
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、有効成分の1つとして有効量のタキサンを含む新規な薬学的調合物を提供することにある。
【0020】
本発明の別の目的は、容易かつ安全に患者に投与することが可能であるとともに、現在使用されている調合物と比較して毒性の低いタキサンの薬学的調合物を提供することにある。
【0021】
本発明の他の目的は以下の説明を読むことにより明らかとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の薬学的調合物はタキサン及びジメチルイソソルビドを含む。タキサンはパクリタキセル又はドセタキセルであってもよい。薬学的調合物は、補助溶媒としてN−メチルピロリジン−2−オン及び/又はジメチルアセトアミドを含んでいてもよく、非イオン性界面活性剤を含んでいてもよい。薬学的調合物は、水性希釈剤(水、生理食塩水、乳酸化したリンゲル液、又は米国局方品5%デキストロースなど)で希釈して投与される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここに述べられる好ましい実施形態は網羅的なものではなく、また、開示される形態そのものに発明を限定することを目的としたものではない。これらの実施形態は、発明の原理、及びその応用ならびに実際の使用を説明し、当業者をして発明の教示を再現することを可能ならしめるために選択かつ記載されるものである。
【0024】
本発明の薬学的調合物はそれぞれ2種類の基本的な成分、すなわち、1)タキサン(有効成分)、及び、2)有効成分の全体を溶解するうえで充分な量の主溶媒を含む。溶媒は好ましくはNMPまたはDMAもしくはDMIである。調合物は癌の治療を必要とする患者に、有効成分の認可された使用法である静脈内投与を行うためにパッケージングされる。
【0025】
調合物は必要に応じて各種の他の賦形剤を更に含むことが可能である。賦形剤は薬剤を調剤するうえで、界面活性剤、増粘剤/希釈剤、pH調整剤、安定化剤などとして、多くの目的で使用される。幾つかの典型的な賦形剤の例ならびにその一般的な使用法及び機能を下記に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
調合物中に用いられる全ての希釈剤、担体、及び賦形剤は薬学的に許容可能な化合物である。
【0028】
調合物は好ましくは以下のようにして調製される。第1に有効成分を完全に主溶媒に溶解する。第2に他の添加剤及び賦形剤を個々にまたは組み合わせにて加えて調合物を完成する。通常この後、調合物はパッケージングされて病院や診療所に出荷される。
【0029】
最後に、完成した調合物を、水や生理食塩水(0.1%〜0.9%NaCl)、乳酸化したリンゲル液、米国局方品5%デキストロースなどの一般的な非経口送達用ビヒクルにて希釈する。この最終的な希釈は、通常は患者への投与の直前に病院や治療センターにおいて行われる。
【0030】
タキサン類の好ましい薬学的調合物には、タキサンの全体量を溶解するうえで充分な量の主溶媒に薬学的な有効量のタキサンを溶解した溶液が含まれる。
【0031】
現在のパクリタキセルの推奨される投与量は、100〜250mg/mの範囲であり、ドセタキセルの現在の推奨される投与量は50〜150mg/mの範囲である。典型的な成人患者の体表面積は1.5〜2.0mであるので、パクリタキセルの好ましい全投与量は150〜500mgの範囲であり、ドセタキセルでは75〜300mgの範囲である。患者の体表面積がこれらの範囲の外側である場合、この変動に合わせて投与量を調整する。
【0032】
NMPに対するパクリタキセル及びドセタキセルの最大溶解度は約40mg/mLであることが示されている。タキサンの全体を溶解するうえで充分な量のNMPが用いられることが好ましいため、好ましい調合物は、パクリタキセルでは少なくとも4〜13mLのNMPを、ドセタキセルでは2〜8mLのNMPを含む。主溶媒にタキサンを完全に溶解するためにこれよりも多い量がしばしば用いられる。
【0033】
DMAでは、パクリタキセル及びドセタキセルの最大溶解度は100mg/mLよりも大きいことが観察されている。タキサンの全体を溶解するうえで充分な量のDMAが用いられることが好ましいため、好ましい調合物は、パクリタキセル及びドセタキセルでは約1〜5mLのDMAを含む。主溶媒にタキサンを完全に溶解するためにこれよりも多い量がしばしば用いられる。
【0034】
DMIでは、パクリタキセル及びドセタキセルの最大溶解度は約40mg/mLである。タキサンの全体を溶解するうえで充分な量のDMIが用いられることが好ましいため、好ましい調合物は、パクリタキセルでは少なくとも4〜15mLのDMAを、ドセタキセルでは2〜10mLのDMAを含む。主溶媒にタキサンを完全に溶解するためにこれよりも多い量がしばしば用いられる。
【0035】
好ましい調合物は、タキサンの全体量を溶解するうえで充分であるよう予め決められた量のNMPに有効量のタキサンを加えることによって調製される。このNEAT調合物に所望の賦形剤を加える。この濃縮化された調合物をパッケージングして供給する。この濃縮化された調合物を、患者への投与の直前に、上記の慣用の非経口送達用担体に希釈する。
【実施例】
【0036】
好ましいタキサン/NMP調合物の1つを以下の表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
好ましいタキサン/DMA調合物の1つを以下の表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
好ましいタキサン/DMI調合物の1つを以下の表4に示す。
【0041】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0042】
調合物はパッケージングされた後、推奨投与量及び投与比率を考慮し主治医によって処方される、その患者の治療レジメンにしたがって患者に投与される。
【0043】
以上の説明文はあくまで説明を目的としたものであり、いかなる意味においても上記に述べられた詳細そのものに発明を限定するものとして解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タキサン及びジメチルイソソルビドを含む薬学的調合物。
【請求項2】
前記タキサンがパクリタキセルである請求項1に記載の薬学的調合物。
【請求項3】
前記タキサンがドセタキセルである請求項1に記載の薬学的調合物。
【請求項4】
N−メチルピロリジン−2−オン及び/又はジメチルアセトアミドを補助溶媒として更に含む請求項1〜3のいずれかに記載の薬学的調合物。
【請求項5】
非イオン性界面活性剤を更に含む請求項1〜4のいずれかに記載の薬学的調合物。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤が、クレマフォール、ポロキサマー及び/又はポリソルベートである請求項5に記載の薬学的調合物。
【請求項7】
クレマフォールを含む請求項1〜5のいずれかに記載の薬学的調合物。
【請求項8】
水性希釈剤で希釈される請求項1〜7のいずれかに記載の薬学的調合物。
【請求項9】
水性希釈剤が、水、生理食塩水、乳酸化したリンゲル液、又は米国局方品5%デキストロースである請求項8に記載の薬学的調合物。

【公開番号】特開2010−235636(P2010−235636A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160404(P2010−160404)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【分割の表示】特願2000−591995(P2000−591995)の分割
【原出願日】平成12年1月7日(2000.1.7)
【出願人】(500175967)バイオニューメリック・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (27)
【Fターム(参考)】