説明

タクロリムスカプセル剤

【課題】含量均一性を向上させたタクロリムスカプセル剤を提供する。
【解決手段】前記カプセル剤は、タクロリムスを含有する平均粒子径が10〜300μmの粒子と、平均粒子径が10〜100μmの賦形剤粒子とを含み、前記タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)が0.0046以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タクロリムスカプセル剤に関する。本発明によれば、タクロリムスカプセル剤の含量均一性を向上させることができる。
【背景技術】
【0002】
タクロリムスは、ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)の培養物から分離されたマクロライド系免疫抑制剤である。タクロリムスは水不溶性であるため、経口投与時のバイオアベイラビリティー改善のための手法が必要であり、その手法の1つとして、タクロリムス含有の固溶体組成物が知られている(以上、特許文献1)。また、タクロリムス含有の固溶体は、水分に対して不安定であることから、製剤化の際には、可能な限り、簡便な製剤化が必要である。
【0003】
一般的に主薬を含有する造粒物等と賦形剤とを混合する際には、その主薬の製剤中における含量均一性が問題となる場合がある。含量均一性を改善する方法として、流動化剤等の配合剤を添加する方法、粒子径の制御、あるいは、造粒などの粉体加工工程を追加する方法等が知られており、種々の薬物に適用されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、適度な可塑性及び結合力を有する物質(例えば、固体状態のポリエチレングリコール、又は、特定粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、若しくはメチルセルロース)を用いてポリエチレンオキサイドの整粒剤を調製し、これを均一に分散させた組成物及び製造方法が開示されている。
特許文献3には、成形性、流動性、及び崩壊性に優れており、従って、活性成分の含量均一性に優れた賦形剤として、粒子内細孔容積を最適化させたセルロース無機化合物多孔質複合粒子が開示されている。
特許文献4には、予め薬物と流動改質剤(例えば、タルク、軽質無水ケイ酸など)とを混合した後、その混合粉末とその他の添加剤とを更に混合(すなわち、段階的混合)する方法が開示されている。
特許文献5には、微粉末の平均粒子径を1μm〜20μmとし、且つ、医薬含量を錠剤全重量の0.1%〜10%とすることを特徴とする、医薬含量が均一な錠剤を製造する方法が開示されている。
特許文献6には、薬物と、微晶質セルロースが含まれる直接圧縮用ビヒクルとを、充分な剪断条件下にて混合することにより、均一な顆粒を得る方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、前記のようなタクロリムス含有固溶体の安定性の問題から、タクロリムス含有固溶体では、可能な限り、簡便な製剤化法が必要とされているが、これまで、そのような観点からの含量均一性を向上させる方法は開示されていない。タクロリムス含有固溶体の製剤化の際の、簡便な含量均一性改善方法が切望されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−277321号公報
【特許文献2】特開2005−232185号公報
【特許文献3】特開2005−232260号公報
【特許文献4】特開2003−81876号公報
【特許文献5】特開2003−119121号公報
【特許文献6】特表平10−506412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明者は、タクロリムス固溶体の製剤化に際し、その簡便な製剤化方法として、タクロリムス固溶体と各種賦形剤との混合による方法を検討した。タクロリムス固溶体と各種賦形剤は同程度の粒度を持つにもかかわらず、混合工程において含量均一性が充分に担保されず、一定の品質を保証することが困難であった。
そこで、タクロリムス固溶体粒子の粒子数と各種賦形剤粒子の粒子数に着目し、検討を重ねたところ、タクロリムス固溶体粒子の粒子数と、前記固溶体粒子と混合する添加剤粒子の粒子数が、或る粒子数比率になるときに含量均一性が向上することを知見し、本発明を完成させた。
タクロリムス固溶体粒子と他の賦形剤粒子との混合による製剤化に関して、それぞれの粒子数の制御によって、その含量均一性を改善した例は未だ知られていない。
【0008】
従って、本発明の課題は、含量均一性を向上させたタクロリムスカプセル剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
[1]タクロリムスを含有する平均粒子径が10〜300μmの粒子と、平均粒子径が10〜100μmの賦形剤粒子とを含み、前記タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)が0.0046以上である、タクロリムスカプセル剤、
[2]前記賦形剤が乳糖である、[1]に記載のタクロリムスカプセル剤、
[3]前記タクロリムス含有粒子が水溶性重合体を更に含み、前記水溶性重合体とタクロリムスの重量比(水溶性重合体:タクロリムス)が0.1:1〜20:1であるタクロリムス含有固溶体組成物である、[1]又は[2]に記載のタクロリムスカプセル剤、
[4]前記水溶性重合体が水溶性セルロース重合体である、[1]〜[3]のいずれか1つに記載のタクロリムスカプセル剤、
[5]前記水溶性セルロース重合体がヒドロキシプロピルメチルセルロースである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載のタクロリムスカプセル剤、
[6]タクロリムスを含有する平均粒子径が10〜300μmの粒子と、平均粒子径が10〜100μmの賦形剤粒子とを、前記タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)が0.0046以上で混合することを特徴とする、タクロリムスカプセル剤の製造方法、並びに
[7]タクロリムスを含有する平均粒子径が10〜300μmの粒子と、平均粒子径が10〜100μmの賦形剤粒子とを含むタクロリムスカプセル剤において、前記タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)を0.0046以上とすることを特徴とする、タクロリムスカプセル剤の含量均一性を向上させる方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タクロリムスカプセル剤の含量均一性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いるタクロリムス含有粒子は、有効成分であるタクロリムス(化合物名:17−アリル−1,14−ジヒドロキシ−12−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルビニル]−23,25−ジメトキシ−13,19,21,27−テトラメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ[22.3.1.04,9]オクタコス−18−エン−2,3,10,16−テトラオン)を含有し、且つ、平均粒子径が10〜300μmである粒子である限り、特に限定されるものではない。タクロリムスは、例えば、特開昭62−277321号公報に記載の方法に従って、ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)の培養物から単離・精製することにより取得することができる。
【0012】
前記タクロリムス含有粒子としては、例えば、特開昭62−277321号公報に記載のタクロリムス含有固溶体組成物を挙げることができる。前記タクロリムス含有固溶体組成物は、タクロリムスと水溶性重合体とを含み、所望により、医薬製剤の分野で常用される各種添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、着色剤、甘味剤、芳香剤、希釈剤、滑沢剤を更に含むことができる。
【0013】
タクロリムス含有粒子の平均粒子径は、10〜300μmであり、好ましくは30〜200μmであり、特に好ましくは40〜120μmである。粒子径に関しては測定方法にいくつかの方法があるが(製剤学 p.56-58、南江堂、初版、1987年)、本明細書における「平均粒子径」とは、篩い分け法に基づき得られた重量基準の粒子径を用いて重量累積曲線を描かせた場合、50%あたりの粒子径のことをいう。
【0014】
本発明で用いることのできるタクロリムス含有固溶体組成物は、例えば、特開昭62−277321号公報に記載の方法に従って、調製することができる。具体的には、タクロリムスを有機溶媒[例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等)、酢酸エチル、又はジエチルエーテル]に溶解し、この溶液に水溶性重合体を加え、得られる懸濁液又は溶液に、必要に応じて添加剤を加え、次いで有機溶媒を留去することにより、タクロリムス含有固溶体組成物を調製することができる。
【0015】
前記水溶性重合体は、タクロリムスを分散させることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、水溶性セルロース重合体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等を挙げることができる。また、水溶性重合体の量は、タクロリムスを分散させることができる量であれば、特に限定されるものではないが、水溶性重合体とタクロリムスの重量比(水溶性重合体:タクロリムス)として、0.1:1〜20:1であることが好ましい。
【0016】
本発明で用いる賦形剤粒子は、製薬学的に使用されうる賦形剤である粒子である限り、特に限定されるものではない。前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、でんぷん、マンニトール、微結晶セルロース等の製薬の分野で常用されるものを挙げることができる。本発明では、賦形剤として、上記の1種又はそれ以上を使用することができる。これら賦形剤の平均粒子径は、10μm〜100μm、好ましくは30〜80μm、更に好ましくは、40μm〜60μm、最も好ましくは、45μmである。これら粒子径は、賦形剤そのものの粒子径を示す場合、及び粉砕等の物理的な処理後の粒子径を示す場合もある。粉砕等の物理的な処理には、製薬の分野で一般的に使用される粉砕機等を使用することが可能である。
【0017】
本発明のカプセル剤は、タクロリムス含有粒子と賦形剤粒子とを主成分として含み、必要に応じて、医薬製剤の分野で常用される各種添加剤、例えば、結合剤、崩壊剤、着色剤、甘味剤、芳香剤、希釈剤、滑沢剤を更に含むことができる。本明細書において「主成分として含む」とは、全構成成分に対して、50重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは99重量%以上であることを意味する。
【0018】
本発明は、タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)を0.0046以上とすることを特徴とする。すなわち、本発明のカプセル剤では、カプセル中の主成分であるタクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)が0.0046以上である。また、本発明の製造方法では、タクロリムス含有粒子と賦形剤粒子とを混合する際の粒子数比率(A/B)が0.0046以上である。また、本発明による、カプセル剤の含量均一性を向上させる方法では、粒子数比率(A/B)を0.0046以上に設定する。
以下、特に断らない限り、タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)を「粒子数比率」と称する。すなわち、単に「粒子数比率」と記載した場合には、賦形剤粒子の粒子数(B)に対するタクロリムス含有粒子の粒子数(A)の比率(A/B)を意味するものとする。
【0019】
本発明のカプセル剤は、例えば、本発明の製造方法、あるいは、本発明による、カプセル剤の含量均一性を向上させる方法(以下、本発明の方法と称する)により調製することができる。本発明の方法では、タクロリムス含有粒子と賦形剤粒子とを、粒子数比率(A/B)が0.0046以上で混合する。前記混合方法としては、通常の製剤工程で用いる各種混合方法、例えば、袋を用いた袋混合、V字形混合機、DC形混合機、あるいはスクリューやパドルを用いた混合機による一般的な粉体の混合方法を用いることができ、特に限定されない。
【0020】
本発明方法において、タクロリムス含有粒子又は賦形剤粒子の各粒子数は、例えば、実測により、あるいは、各種パラメーターを実測し、その値から算出することができる。例えば、後述の実施例1に示すように、粒子の全重量及び平均粒子径を測定し、式(1)〜(3)に基づいて粒子数を算出することができる。
【0021】
本発明方法は、以下の手順に限定されるものではないが、例えば、以下の手順により、混合する粒子数を決定することができる。まず、粒子径及び含有量の定まったタクロリムス含有粒子に対し、その個数を算出する。次に、配合する賦形剤粒子(例えば、乳糖粒子)の粒子径及び粉体密度を用いて、含量均一性を確保するための賦形剤粒子の個数を算出する。以上より、含量均一性を確保するためのタクロリムス含有粒子の個数、及び賦形剤粒子の個数が決定されるが、実際の生産においては、これらの値から、配合する賦形剤の配合量を算出し、タクロリムス含有粒子と賦形剤とを配合することで含量均一性を担保することができる。
【0022】
本発明のカプセル剤、又は、本発明の方法により得られたカプセル剤において、その含量均一性は、例えば、後述の実施例1に記載の方法に従って相対偏差値を算出し、その値に基づいて評価することができる。一般に、相対偏差値が3.5%以下の場合、好ましくは3.2%以下の場合、最も好ましくは3.0%以下の場合、含量均一性が良好と判断することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0024】
《実施例1:タクロリムスカプセル剤における含量均一性の評価》
(1)タクロリムスカプセル剤の調製
タクロリムス含有固溶体粒子は、特開昭62−277321号公報に記載の方法に準じて調製した。すなわち、タクロリムスをエタノールに溶解し、これに水溶性セルロース重合体を加え懸濁させた。この溶液に乳糖を懸濁させた後、有機溶媒を留去した。残渣の生成物を減圧乾燥、粉砕、分級等の適当の処理を行うことで目的とする固溶体粒子を得た。乳糖粒子(粒子径=45μm)を、上述固溶体粒子と所定の混合比率にて混合ならびに分級後、カプセルに充填した。
【0025】
本発明のカプセル剤として、タクロリムス含有固溶体粒子を用いて、表1に示す粒子数比率のカプセルE1〜E3を調製した。また、比較例として、タクロリムス含有固溶体粒子を用いて、表1に示す粒子数比率のカプセルC1〜C2を調製した。
【0026】
(2)含量均一性の評価
得られた各カプセルについて、それぞれ、10個のカプセル(N=10)を無作為に抽出し、個々のカプセルに含まれる混合物中のタクロリムスの含量をHPLC法を用いて測定することにより、含量均一性を評価した。結果を表1及び図1に示す。
【0027】
《表1》
比較例 実施例
カプセル C1 C2 E1 E2 E3
タクロリムス含有固溶体
粒子の粒子数(A) 1,800 3,600 4,250 8,500 42,500
乳糖粒子の粒子数(B) 850,000 800,000 850,000 800,000 1,550,000
粒子数比率(A/B) 0.0021 0.0045 0.0050 0.0106 0.0274
相対偏差[RSD](%) 4.20 3.70 2.00 2.50 1.10
【0028】
表1に示す粒子数は、粒子の全重量(W)及び平均粒子径を測定し、下記式(1)〜(3)に基づいて算出した。
[粒子の全体積(V)]=[粒子の全重量(W)]/[粒子の比重(ρ)] (1)
[一粒子当たりの体積(v)]=(4/3)×π×[平均粒子半径(r)](2)
[粒子数(A又はB)]=V/v (3)
【0029】
一般に、相対偏差値が3.5%以下の場合、含量均一性が良好と判断される。表1及び図1に示すように、粒子数比率が0.0046以上の場合に、相対偏差値が3.2%以下となり、良好な均一性が得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、医薬製剤の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】異なる粒子数比率で調製した各タクロリムスカプセル剤において、粒子数比率と含量均一性との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タクロリムスを含有する平均粒子径が10〜300μmの粒子と、平均粒子径が10〜100μmの賦形剤粒子とを含み、前記タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)が0.0046以上である、タクロリムスカプセル剤。
【請求項2】
前記賦形剤が乳糖である、請求項1に記載のタクロリムスカプセル剤。
【請求項3】
前記タクロリムス含有粒子が水溶性重合体を更に含み、前記水溶性重合体とタクロリムスの重量比(水溶性重合体:タクロリムス)が0.1:1〜20:1であるタクロリムス含有固溶体組成物である、請求項1又は2に記載のタクロリムスカプセル剤。
【請求項4】
前記水溶性重合体が水溶性セルロース重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタクロリムスカプセル剤。
【請求項5】
前記水溶性セルロース重合体がヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のタクロリムスカプセル剤。
【請求項6】
タクロリムスを含有する平均粒子径が10〜300μmの粒子と、平均粒子径が10〜100μmの賦形剤粒子とを、前記タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)が0.0046以上で混合することを特徴とする、タクロリムスカプセル剤の製造方法。
【請求項7】
タクロリムスを含有する平均粒子径が10〜300μmの粒子と、平均粒子径が10〜100μmの賦形剤粒子とを含むタクロリムスカプセル剤において、前記タクロリムス含有粒子の粒子数(A)と前記賦形剤粒子の粒子数(B)との比率(A/B)を0.0046以上とすることを特徴とする、タクロリムスカプセル剤の含量均一性を向上させる方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−37808(P2008−37808A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215034(P2006−215034)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】