説明

タクロリムス外用剤

【課題】皮膚刺激が少なく、安定性に優れたタクロリムス外用剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、皮膚刺激が少なく、安定性に優れたタクロリムス軟膏剤を提供することを目的とする。本発明は、タクロリムスの可溶化剤としてトリアセチンを用いた軟膏剤がタクロリムスを十分に可溶化し、かつ皮膚刺激が少なく、安定性に優れていることを見出した。好ましくは、本発明の軟膏剤は、タクロリムスを可溶化したトリアセチンの液滴が軟膏基剤、好ましくはミツロウとワセリンの混合物中に分散している、o/o型(油中油型)軟膏剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてタクロリムスを含む外用剤に関する。より詳しくは、本発明は、対象に適用したときに刺激が少なく、安定性に優れたタクロリムス含有外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タクロリムスは、ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)の培養物から単離された、化学名17−アリル−1,14−ジヒドロキシ−12−〔2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルビニル〕−23,25−ジメトキシ−13,19,21,27−テトラメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ〔22.3.1.04,9〕オクタコス−18−エン−2,3,10,16−テトラオンのマクロライド系免疫抑制剤であり、医薬としては通常一般式
【化1】

で示される1水和物形態として使用される。これは、優れた免疫抑制作用および抗菌作用等の薬理作用を有し、臓器または組織の移植に対する拒絶反応、移植片対宿主反応、種々の自己免疫疾患、および感染症等の処置および予防に有用であることが知られている(特許文献1)。
【0003】
また、タクロリムスを外用剤として用いた場合、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患に有用であることも知られている(特許文献2)。アトピー性皮膚炎の患者数は近年急激に増加しており、アトピー性皮膚炎患者の皮膚は、健常者と比較して表皮脂質量および角質水分量が少なく、皮脂膜形成能が弱く、外的刺激に対する抵抗閾値の低下が認められることが知られている。また、皮膚のバリアー機能が破壊され、皮膚の異常乾燥や掻痒が生じると考えられている。したがって、タクロリムスを含む外用剤が必要とされている。
【0004】
さらに、タクロリムスは水にも油性溶媒にも溶け難い難溶性物質であるため、これを含む製剤にはタクロリムスを溶解することができる可溶化剤を用いる必要がある。かかる可溶化剤として典型的には界面活性剤が用いられるが、界面活性剤は通常皮膚刺激を有しているので、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患を処置するための薬剤には適さない。また、界面活性剤以外では、使用できる可溶化剤が極めて限られており、界面活性剤と同様に皮膚刺激を有するものや、有効成分であるタクロリムスを化学的に不安定にするものも存在しており、それらの不都合な特性を有する可溶化剤の使用は好ましくない。また、タクロリムス軟膏剤の皮膚刺激をより減少させるためには、可溶化剤が軟膏基剤と混和せず、安定な液滴分散を形成するものが好ましい。また、タクロリムスは免疫抑制剤であるから、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の処置に用いる場合、局所的に薬剤物質が送達されることが好ましい。全身的にタクロリムスが投与されると、望ましくない副作用、例えば腎機能低下が生じ、また不必要な免疫抑制のために、免疫によって本来防がれるべき疾患に罹患する危険が生じる。さらにまた、医薬品として十分な化学的および物理的安定性を有していることが望ましい。
【0005】
タクロリムス含有外用剤として例えば、軟膏剤(特許文献3)、ローション剤(特許文献4)、クリーム剤(特許文献5)およびゲル剤(特許文献6)等が存在する。それらには皮膚刺激の強い物質が使用されている、あるいは有効成分であるタクロリムスが長期保存によって分解してしまう等の課題が存在しており、依然としてより皮膚刺激が少なく、安定性に優れたタクロリムス含有外用剤が必要とされている。例えば可溶化剤として炭酸プロピレンを用いたタクロリムス軟膏剤として、プロトピック(登録商標)軟膏があるが、炭酸プロピレンは皮膚刺激のある物質であり、軟膏剤に用いるには適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−148181号公報
【特許文献2】特開平1−157913号公報
【特許文献3】特開平5−17481号公報
【特許文献4】特再WO94/0288894号公報
【特許文献5】特表2000−513739号公報
【特許文献6】特再WO99/055332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、皮膚刺激が少なく、安定性に優れたタクロリムス外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、タクロリムスの可溶化剤としてトリアセチンを用いた外用剤が、より皮膚刺激が少なく、安定性に優れていることを見出し、かかる知見に基づき本発明とした。すなわち本発明は、有効成分としてタクロリムスと、その可溶化剤としてトリアセチンを含む外用剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の外用剤は、皮膚刺激が少なく、安定性に優れているのみならず、基剤とタクロリムス可溶化トリアセチンが混和せず、安定な液滴分散を形成する外用剤である。かかる外用剤は、対象に局所的にタクロリムスを送達し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の態様において本発明は、タクロリムス、トリアセチンおよび基剤を含む外用剤を提供する。該外用剤中、トリアセチンに対してタクロリムスは、好ましくは0.03〜30重量%、より好ましくは0.2〜12.5重量%、最も好ましくは0.5〜3.3重量%であり得る。
【0011】
「タクロリムス」は、本発明において、FK−506またはFujimycinとしても公知である、上記23員マクロライド系ラクトンである。タクロリムスは、遊離形または薬学的に許容される塩形、あるいはそれらの水和物等の溶媒和物またはアナログであり得る。タクロリムスの塩、溶媒和物またはアナログ、特にタクロリムス・1水和物は、遊離形のタクロリムスと同程度の薬理活性を有するため、本明細書および特許請求の範囲において単にタクロリムスという場合、これらのいずれかまたは全てを意味している。また、タクロリムスの結晶相、非晶質相、半結晶相も本発明の「タクロリムス」に含まれる。好ましくは、タクロリムスは本発明の外用剤の総重量に対して0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.02〜0.5重量%、最も好ましくは0.03〜0.1重量%含まれ得る。
【0012】
「トリアセチン」は、本発明において、下記構造
【化2】

を有する、化学名グリセリントリアセテートの化合物であり、その性質は例えば、医薬品添加物規格2003および医薬品添加物事典2007(薬事日報社、それらの内容を引用して本明細書の一部とする)に記載されている。トリアセチンは、遊離形のタクロリムスを25℃において、約12.5g/100gで溶解することができる。好ましくは、トリアセチンは本発明の外用剤の総重量に対して0.1〜30重量%、より好ましくは1.0〜20重量%、さらに好ましくは3.0〜6.0重量%、最も好ましくは4.0〜5.0重量%含まれ得る。
【0013】
「外用剤」は、本発明において、対象の皮膚または粘膜、例えば皮膚、眼、鼻腔、耳、肛門、膣、尿道、肛門内、気管、肺、舌下、口腔内等に投与するための剤型を意味し、典型的には軟膏剤、液剤、ローション剤、リニメント剤、ゲル剤、エアロゾール剤、プラスター剤、パップ剤またはクリーム剤の形態を取り得る。本発明の特に好ましい態様において、外用剤は第15改正日本薬局方、製剤総則(その内容を、参照により本明細書の一部とする)に定義の皮膚または眼軟膏剤を意味する。
【0014】
さらに好ましくは、本発明の軟膏剤は油脂性軟膏剤である。ここで油脂性軟膏剤とは、軟膏剤の中でも乳剤性基剤、水溶性基剤、懸濁性基剤を用いた軟膏剤を除いたものを意味し、有効成分を油脂性基剤中に分散および/または溶解した軟膏剤、または有効成分を溶解した溶液を油脂性基剤中に分散した軟膏剤を意味する。より好ましい態様において、本発明の軟膏剤は、タクロリムスを可溶化したトリアセチンの液滴が基剤中に分散している、o/o型(油中油型)エマルジョン形態の軟膏剤であり得る。
【0015】
エマルジョンはエマルションとも呼ばれ、微細な液滴粒子がこれと混じり合わない他の液体中に分散、浮遊している液体混合物を意味する。本発明において、エマルジョンはより微細な液滴が分散しているマイクロエマルジョンを含んでいてもよい。液滴と液体は典型的には水と油の何れかであるが、相互に実質的に溶解しなければ油と油であってもよい。典型的には、例えばレーザー回折法でエマルジョン液滴粒子の体積平均粒子径を測定すると、好ましくは約0.01μm〜500μm、より好ましくは0.1μm〜50μmの平均粒子径が得られる。
【0016】
本発明の外用剤は、有効成分であるタクロリムス、タクロリムスの可溶化剤であるトリアセチンに加えて、基剤を含む。基剤は、外用剤に用いることができるあらゆる基剤または基剤の混合物であってよく、それ自体薬効を示さない物質である。基剤の例には、例えば油性基剤または疎水性基剤、乳剤型基剤、親水性基剤または水溶性基剤、ゲル基剤、あるいは慣用の成分、例えば脂肪酸またはその誘導体、多価カルボン酸とアルコールとのエステル、高級アルコール、粉粒状無機物質、ゲル生成剤、水、アルコール、多価アルコール、アルカノールアミン、噴射剤等が含まれる。具体的な製剤においてどのような基剤を用いることができるかは剤型によって変化するが、目的とする製剤、有効成分の力価、有効成分の放出速度等の既知の要因に基づいて、当業者によって容易に選択され得る。
【0017】
より具体的な態様において、基剤には、例えば水、動植物油(例えばオリーブ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、ゴマ油、ヒマシ油等)、低級アルコール類(例えばエタノール、プロパノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、フェノール等)、高級脂肪酸およびそのエステル、ロウ類、高級アルコール、多価アルコール、親水ワセリン、精製ラノリン、吸収軟膏、加水ラノリン、親水軟膏、デンプン、プルラン、アラビアガム、トラガカントガム、ゼラチン、デキストラン、セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、合成高分子(例えばカルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、プロピレングリコール、マクロゴール(例えばマクロゴール200〜600等)、およびそれらの2種以上の組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
特に軟膏剤の基剤には、高級脂肪酸及びそのエステル(アジピン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、イソオクタン酸セチル、ラノリンおよびラノリン誘導体等)、ロウ類(鯨ロウ、ミツロウ、セレシン等)、高級アルコール(セタノール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等)、炭化水素類(親水ワセリン、白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等)、動植物油およびそれらの2種以上の組合せが含まれる。特に好ましいものはミツロウとワセリンの混合物である。また所望により、上記軟膏基剤に加えて、本発明の軟膏剤は流動パラフィン等のパラフィン、ラノリン、動植物油、天然ワックス、水素添加大豆リン脂質(レシチン)、高級アルコールを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の軟膏基剤は、トリアセチンと非混和性である。
【0019】
例えばプラスター剤の基剤には、アクリル酸エステル共重合体、シリコーン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のような高分子化合物が含まれ、さらに例えばロジン、ロジンエステル、石油樹脂のような粘着賦与剤、ポリブテン、オリーブ油、流動パラフィン、液状イソプレンのような可塑剤、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカのような充填剤等を含んでいてもよい。
【0020】
例えばパップ剤の基剤には、グリセリン、水、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、カルボキシビニルポリマー、アラビアゴム、アルギン酸、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等が含まれ、さらに例えば、プロピレングリコール、ソルビトールのような湿潤剤、カオリン、酸化チタン、タルクのような充填剤、クロタミトン、アジピン酸ジイソプロピルのような吸収促進剤を含んでいてもよい。
【0021】
例えばクリーム剤の基剤には、白色ワセリン、ワックス、流動パラフィン、スクワランのような炭化水素、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールのような高級アルコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル等の脂肪酸エステル、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸ナトリウムのような高分子化合物、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールのような多価アルコールが含まれ、さらに例えば、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステルグリコールアルキルエーテルのような界面活性剤、ジイソプロパノールアミン、水酸化ナトリウムのようなpH調節剤、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウムのような安定化剤、メチルパラベン、プロピルパラベンのような防腐剤、クロタミトン、メントールのような吸収促進剤を含んでいてもよい。
【0022】
ミツロウは、天然ロウの一種であり、サラシミツロウも含まれる。好ましくはミツロウは、色素、過酸化物等の不純物を除去したカラム精製ミツロウ(例えば、ビーズワックス−S(クローダジャパン(株)))である。ミツロウは本発明の軟膏剤の総重量に対して、好ましくは1.0〜10重量%、より好ましくは2〜9重量%、さらに好ましくは4〜8重量%、最も好ましくは5〜7重量%含まれ得る。
【0023】
ワセリンは、白色ワセリンや黄色ワセリン等の通常のワセリンを含み、好ましくは色素、過酸化物等の不純物を除去したカラム精製ワセリン(例えば、クロラータムV(クローダジャパン(株)))である。ワセリンは本発明の軟膏剤の総重量に対して、好ましくは60〜99重量%、より好ましくは70〜95重量%、最も好ましくは80〜90重量%含まれ得る。
【0024】
所望により本発明の外用剤には、一般的に用いられる添加剤、例えば乳化剤、湿潤剤、安定剤、安定化剤、分散剤、可塑剤、pH調節剤、吸収促進剤、ゲル化剤、防腐剤、充填剤、保存剤、防腐剤、色素、香料、清涼剤、増粘剤、酸化防止剤、美白剤、紫外線吸収剤などの成分を配合してもよい。あるいは微量、例えば製剤の総重量に対して1重量%未満の界面活性剤、例えばTween(登録商標)20、80などを加えることもできる。上記添加剤として製剤中にどのような具体的な化合物を含有せしめることができるか、そして具体的な化合物がどのような性質で製剤中で用いられるかは当業者であれば容易に理解することができ、ある化合物が複数種類にわたる性質を発揮することも許容される。
【0025】
好適な保湿剤は、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、コレステロール、プルラン等を含むが、これらに限定されない。
好適な安定剤または安定化剤は、例えばエデト酸(EDTA)、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アルギニン、トコフェノール、シリコーン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を含むが、これらに限定されない。
好適な清涼剤は、カンフル、メントール、植物抽出フレーバー等を含むが、これらに限定されない。
好適な増粘剤は、例えばアラビアゴム、グアガム、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、セルロース、ポリアクリル酸塩等を含むが、これらに限定されない。
【0026】
別の態様において、本発明は、タクロリムスを含む外用剤の製造方法であって、トリアセチンにタクロリムスを可溶化する工程を含むことを特徴とする製造方法に関する。より具体的な態様において、タクロリムスを含む外用剤の製造方法は、
(1)トリアセチンにタクロリムスを可溶化し、
(2)タクロリムスのトリアセチン溶液を基剤と混合する
工程を含む。添加剤は各々独立して、または添加剤の混合物の形態で、工程(1)の前もしくは途中、または工程(2)の前、途中もしくは後で、基剤、トリアセチン、タクロリムスのトリアセチン溶液または該溶液と基剤の混合物に加えることができる。
【0027】
上記工程(1)は、好ましくは60℃〜80℃で行い、常套の撹拌装置、試験用機で例えるとマグネティックスターラー(矢沢科学:KF−800)、ホモジナイザー(IKA ジャパン:T−25)、真空乳化撹拌装置(みずほ工業:PVQ−1〜5)、真空乳化装置(プライミクス:T.K.アヂホミキサー2M−03〜5型)等を用いて行うことができる。60℃未満ではトリアセチンにタクロリムスを速やかに可溶化させることができない場合があり、また80℃を超えると、タクロリムスが分解したり、あるいはトリアセチンが気化するおそれがあるため好ましくない。上記工程(2)は、好ましくは、60〜80℃、例えば約70℃で適当な時間、上記常套の撹拌装置を用いて分散させ、撹拌しながら徐々に冷却し、20〜40℃、例えば30〜40℃、好ましくは約35℃で撹拌終了とすることができる。
【0028】
例えば本発明の軟膏剤は、常套の軟膏剤の製造法によって、例えば実施例に記載の方法によって製造することができる。例えば、油脂性基剤を加温して融解、混和し、半ば冷却した後、タクロリムスを少量のトリアセチンに溶かし、前記の融解した基剤中に分散させ、全質均等な分散状態になるまでかき混ぜて練り合わせることによって(溶融法)、本発明の軟膏剤を製造することができる。
【0029】
かくして得られた本発明の外用剤は、皮膚または粘膜刺激が少なく、安定性に優れている。皮膚または粘膜刺激は、例えば既知の動物実験または皮膚もしくは粘膜モデル実験、例えば実施例に記載の皮膚刺激性試験によって判定することができる。安定性は、例えば既知の安定性試験、例えば実施例に記載の安定性試験によって判定することができる。
【0030】
本発明の外用剤は、皮膚疾患、例えば炎症性または自己免疫性皮膚疾患、特に接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、薬剤関連湿疹性皮膚炎、光線湿疹性発疹、原発性刺激性皮膚炎のような湿疹性皮膚炎、蕁麻疹、紅斑、乾癬、扁平苔癬、天疱瘡、類天疱瘡、湿疹状皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎の処置に有用である。本発明の外用剤によって処置し得る対象には、ヒトを含む温血動物、例えばイヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、ウサギ、ラットまたはマウスが含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の外用剤の投与回数および投与量は処置する症状、剤型、投与経路、患者の年齢体重、性別もしくは一般的な健康状態、および基剤等によって適宜選択することができるが、適量、例えば体重約70kgの温血動物に適用するとき1日当たりタクロリムスの量で0.1〜500mg、好ましくは1〜100mg、より好ましくは5〜10mgを1日1回またはそれ以上、例えば、1〜6回で投与すればよい。
【実施例1】
【0032】
製剤例1
トリアセチン4.0gにタクロリムス0.1gを60℃から80℃で加温溶解させた(I液)。ミツロウ1.0gおよびワセリン94.9gを融解混合したものに前記I液を加え、マグネティックスターラー(矢沢科学:KF−800)およびホモジナイザー(IKAジャパン:T−25)を用いて攪拌し、水冷下で内容物が40℃になるまで同条件で攪拌を続けて、タクロリムス0.1%軟膏剤を調製した(実施例)。
また、トリアセチンに代えて炭酸プロピレンを用いた軟膏剤を調製した(比較例)。
【表1】

【0033】
安定性試験
上記実施例および比較例の軟膏剤を、3℃または30℃で1週間保存した。保存後の各軟膏剤10g(タクロリムスとして10mg)を、アセトニトリル5mLおよびヘキサン20mLに加え、攪拌混合した。溶媒を分離し、アセトニトリル層にさらにヘキサン20mLを加え、攪拌混合した。アセトニトリル層を分取し、これを試料溶液として下記条件で高速液体クロマトグラフィーに付し、タクロリムス分解産物であるTautomerおよびその他の類縁物質の量を測定した。
【表2】

【0034】
安定性試験の結果を下記表に示す。
【表3】

トリアセチンを用いた本発明の軟膏剤は、炭酸プロピレンを用いた比較例と比較してタクロリムスがより安定である。
【0035】
皮膚刺激性試験
ウサギ皮膚一次刺激性試験
適用前日にウサギ(日本白色種、雄、体重2.0kg以上)の背部を電気バリカンで除毛し、製剤例に記載の実施例1及び実施例1から活性成分を除いた基剤のみの製剤のそれぞれ0.5gを、パラフィルムにて裏打ちして動物用パッチテスト用絆創膏(鳥居薬品(株))に貼付したリント布(2.5×2.5cm)に塗布して貼付した。絆創膏の剥離防止のため、ネックレスを24時間装着させた。なお、1群は5匹とした。
適用後24時間経過時にネックレス及び絆創膏をはずし、適用局所を脱脂綿で清拭した。適用後24、48及び72時間経過時に、Draize法の皮膚反応の評価基準に従って、紅斑及び痂皮形成又は浮腫形成の程度を評点化した:
【表4】

【0036】
適用後24及び72時間経過時における適用局所の紅斑/痂皮形成及び浮腫形成の評点を合計して4で除し、個体別の刺激性指数とした。さらに平均値を算出して、一次刺激性指数(P.I.I.:Primary Irritation Index)とした。P.I.I.よりDraizeの刺激区分に従って、刺激の程度を区分し、ウサギの皮膚に対する刺激性を評価した:
【表5】

いずれも、全ての観察時点において紅斑/痂皮形成及び浮腫形成は認められず、P.I.I.はともに0であり、「無刺激物」に区分された。
【0037】
製剤例2
タクロリムス水和物1.02gをトリアセチン5gに加熱溶解させ、そこにマクロゴール400:83.98g及びマクロゴール4000:10gを加えてさらに加熱混合し、冷却して、非水性ゲル製剤を製造する。
【表6】

(%は重量%を意味する。以下同じ)
【0038】
製剤例3
タクロリムス水和物1.02gをトリアセチン5gに加熱溶解させ、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル5gを加える。この液を流動パラフィン83.98gに加え、スターラーを用いて分散させる。さらに、撹拌しながらパルミチン酸デキストリン5gをくわえてゲル化させて、乳剤性リオゲル製剤を製造する。
【表7】

【0039】
製剤例4
メチルパラベン0.15g、プロピルパラベン0.1gを精製水に加熱溶解させ、40℃以下に冷却後、濃グリセリン10g、クエン酸0.5g及びカーボポール980:0.5gを溶解させる。この液に、タクロリムス水和物1.02gをトリアセチン20gに加熱溶解させ冷却した液を加え、スターラーを用いて分散させる。さらに、撹拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH4〜7に調節してゲル化させ、最後に全量を100gに精製水で補正して、水性ゲル剤を製造する。なお、カーボポール980を0.1g〜0.2gとすると、ローション剤を得ることができる。
【表8】

【0040】
製剤例5
トリアセチン20g、セタノール3g、ステアリルアルコール3g及びtween80:0.5gを70℃で融解混合させ、これにタクロリムス水和物1.02gを加えて加熱溶解させる。これに、メチルパラベン0.15g、プロピルパラベン0.1gを精製水52.23gに加熱溶解させたものを投入して、スターラーを用いて撹拌させる。撹拌しながら冷却し、クリームとする。
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タクロリムス、トリアセチンおよび基剤を含む外用剤。
【請求項2】
トリアセチンに対してタクロリムスが0.03〜30重量%である、請求項1の外用剤。
【請求項3】
軟膏剤の形態である、請求項1または2に記載の外用剤。
【請求項4】
軟膏基剤としてミツロウとワセリンの混合物を含む、請求項3の外用剤。
【請求項5】
ミツロウがカラム精製ミツロウである、請求項4の外用剤。
【請求項6】
ワセリンがカラム精製ワセリンである、請求項4の外用剤。
【請求項7】
タクロリムスを可溶化したトリアセチンの液滴が基剤中に分散した形態である、請求項3〜6の何れかに記載の軟膏剤。
【請求項8】
タクロリムスを含む外用剤の製造方法であって、トリアセチンにタクロリムスを可溶化する工程を含むことを特徴とする、製造方法。

【公開番号】特開2012−149097(P2012−149097A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106155(P2012−106155)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【分割の表示】特願2010−532940(P2010−532940)の分割
【原出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000169880)高田製薬株式会社 (33)
【Fターム(参考)】