タグペプチド
【課題】 従来よりも特異性および反応性が向上し、かつ免疫測定試薬用途にも使用可能なタグペプチド、および前記ペプチドを用いたタンパク質の精製・検出方法を提供すること。
【解決手段】 B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)のうち環状部分ペプチド16アミノ酸からなるオリゴペプチド、または前記オリゴペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるペプチド、をタグペプチドとして用い、前記タグペプチドを付加したタンパク質と前記タグペプチドを認識する物質により前記タンパク質を精製・検出することにより、前記課題を解決することができた。
【解決手段】 B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)のうち環状部分ペプチド16アミノ酸からなるオリゴペプチド、または前記オリゴペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるペプチド、をタグペプチドとして用い、前記タグペプチドを付加したタンパク質と前記タグペプチドを認識する物質により前記タンパク質を精製・検出することにより、前記課題を解決することができた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を高感度に検出するためのタグペプチド、およびそれを用いたタンパク質の精製・検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学的に発現させたタンパク質の精製・検出や、担体への固定化を簡便に行なうための技術として、前記タンパク質を発現させる際に、タグペプチドとよばれる、前記ペプチドを認識する物質(例えば抗体など)と特異的に結合可能なペプチドを、前記タンパク質に付加した状態で発現後、前記ペプチドを認識する物質を用いて精製・検出・固定化を行なう方法が知られている。
【0003】
従来から知られているタグペプチドの例として、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるFLAGタグ(特許文献1および2)、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるMycタグ(非特許文献1)、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるHisタグ(特許文献3および4)、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるEタグ、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるHAタグ、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるT7タグ、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるPkタグ、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるHSVタグ、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるVSV−Gタグ、などの正常細胞内には本来存在しない、ウイルス、ファージ、癌遺伝子由来のタンパク質の部分領域や、同じアミノ酸配列の繰り返しからなる、10アミノ酸程度のペプチドがあげられる。前記例示した9種類のタグペプチドの中で、FLAGタグ(配列番号1)は高性能なタグとして知られている。しかしながら、近年の実験の高感度化に伴い、特異性および反応性がさらに向上したタグペプチドが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許4703004号公報
【特許文献2】特許2665359号公報
【特許文献3】特開昭63−251095号公報
【特許文献4】米国特許5310663号公報
【特許文献5】特開2009−240300号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Evan et al.、Mol.Cel.Biol.、5(12)、3610−3616(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
新規のタグペプチドを検討する際、タグペプチドの原理から考えると、一見いかなるアミノ酸配列からなるペプチドでも、その配列を特異的に認識する物質(抗体など)があれば、タグペプチドとして使用できると思われる。しかしながら、現実的にタグペプチドとして産業上で使用することを考えた場合、タグペプチドの配列を決定することは容易ではない。その理由として、タグペプチドを付加したタンパク質を特異的に精製・検出するには、前記タグペプチドのアミノ酸配列が通常の実験系で使用されるタンパク質のアミノ酸配列の中に含まれないことはもちろん、それに類似するアミノ酸配列も存在しないことが必要なためである。仮に前記タグペプチドのアミノ酸配列と相同的な配列または類似の配列のタンパク質が実験系に存在すると,タグペプチドを付加したタンパク質の特異的な検出ができなくなってしまう。
【0007】
新規に考案したタグペプチドのアミノ酸配列に対して相同的な配列または類似の配列があるかを確認するには、BLASTといったデータベースを用いた相同性検索により可能である。しかしながら、タグペプチドを認識する物質(例えば抗体)が、前記タグペプチドのアミノ酸配列と類似した配列からなるペプチドに対してどの程度の交差反応性があるかを推測するのは困難であり、また前記データベースに未登録のタンパク質に対する交差反応性については予測がさらに困難である。そのため、従来から知られているタグペプチドは、ウイルス、ファージ、または癌遺伝子由来といった、正常細胞に本来存在しないタンパク質の部分領域からなるペプチドや、Hisタグ(配列番号3)のように同じアミノ酸配列の繰り返しといった、天然に存在する確率の低いアミノ酸配列からなるペプチドが用いられてきた。
【0008】
ならば、本来タンパク質には組み込まれないアミノ酸や低分子有機化合物をタグとして用いればよいのではないかと思われるが、実際には交差反応性の原因はアミノ酸の一次配列だけではなく、配列特異的ではない静電的相互作用や疎水的相互作用などの影響で起こることもある。つまり、天然に存在しないような物質をタグとして使用することは、かえって交差反応性の予測を困難にする可能性がある。また、前記アミノ酸や有機化合物をタグとする場合、タグを遺伝子工学的にタンパク質へ付加するのが困難という新たな問題が発生する。
【0009】
さらに、タグペプチドを免疫測定試薬用途に用いる場合、検体中に含まれる各種成分は検体間で異なるため、検体ごとにタグペプチドに対し異なる影響を与える可能性もある。つまり、たとえ産業上有効なタグペプチドが設計できても、前記タグペプチドがそのまま免疫測定試薬用途に用いることができるとは限らない。設計したタグペプチドを免疫測定試薬用途で使用可能かどうかを判断するには、非常に多数の検体を評価するしかないが、タグペプチドの有用性を確かめる目的で、非常に多数の検体を評価することは事実上極めて困難である。
【0010】
そこで本発明の目的は、従来よりも特異性および反応性が向上し、かつ免疫測定試薬用途にも使用可能なタグペプチド、および前記タグペプチドを用いたタンパク質の精製・検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を鑑み発明者が鋭意検討した結果、これまでに報告例がなく、かつ免疫測定試薬用途においても使用可能なタグペプチドを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明の第一の態様は、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチドである。
【0013】
また本発明の第二の態様は、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチドである。
【0014】
また本発明の第三の態様は、前記第一または第二の態様に記載のオリゴペプチドを付加したタンパク質と、前記ペプチドを認識する物質とを用いた、タンパク質の精製・検出方法である。
【0015】
また本発明の第四の態様は、前記タンパク質が、前記第一または第二の態様に記載のオリゴペプチドを遺伝子工学的に付加することで得られたタンパク質である、前記第三の態様に記載の精製・検出方法である。
【0016】
また本発明の第五の態様は、前記タンパク質が、前記第一または第二の態様に記載のオリゴペプチドを化学的に付加することで得られたタンパク質である、前記第三の態様に記載の精製・検出方法である。
【0017】
以降、本発明について詳細に説明する。
【0018】
タンパク質を精製・検出するのに有用なタグペプチドには、
(1)融合させるタンパク質に与える影響を少なくするためにアミノ酸の長さが短いこと、
(2)類似した配列が存在せず特異性が高いこと、
(3)ペプチドに対する親和性の高い物質が存在すること、
が要求される。そこで、前記要求を満たすペプチドを鋭意検討した結果、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の環状部分の16アミノ酸(配列番号10、以下BNMと略す)がタグペプチドとして有用であることを見出した。
【0019】
BNPは32アミノ酸からなる環状ペプチドである。健常人における血漿中BNP濃度は20pg/mL以下と極めて低いが、慢性および急性心不全患者では重症度に応じて著しく増加し、BNPの測定により心不全の病態の把握に重要な意義を持っていることから、近年極めて多くの検体が測定されている。通常BNPは、BNPのC末端を認識する抗体と環状部分を認識する抗体でBNPを挟み込むサンドイッチ法で測定されている。配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMは、
(1)アミノ酸の長さが比較的短く、
(2)BNMと交差反応性を有する物質の存在が否定されており、
(3)親和性および特異性の高い物質が存在する、
ためタグペプチドとして有用である。
【0020】
BNMを認識する抗体を使ったBNPの測定系は、すでに免疫測定試薬として上市(例えば、東ソー社製Eテスト「TOSOH」II(BNP))されている。つまり、これまでに非常に多数の検体が測定されているが、原因不明の交差反応などの問題は発生していない。このことは、BNMまたはそれと類似した配列を有するタンパク質およびペプチドは検体中には存在しないか、または存在しても測定に影響を与える濃度ではないことを意味している。以上より、BNMは特異性の高いタグペプチドとして有用であることを示唆しており、免疫測定試薬用途で有効に使用できるのはもちろん、通常の実験においても特異性や反応性の高いタグペプチドとして利用可能である。さらに、BNMに対する親和性および特異性の高い物質として、前述の上市された免疫測定試薬でも使用されている、BNMを認識する抗体が存在する。そのため、BNMはタグペプチドとして有用であり、BNMを付加したタンパク質とBNMを認識する抗体とを用いることで、特異性が高く、高感度な検出が可能である。
【0021】
BNMをタグペプチドとして用いる際、検体(血液)に含まれるBNPにより、BNMを付加したタンパク質とBNMを認識する物質との結合性に影響を与えるおそれが考えられた。そこで試料中に存在するBNPによる、BNMを付加したタンパク質とBNMを認識する物質との結合に与える影響について考察した。
【0022】
まず試料中に存在するBNPであるが、臨床上はBNP濃度が非常に高いと判定された試料(血清)でも、1000pg/mLを上回ることはない(なお、健常人は数pg/mL程度である)。BNPの分子量は3464であるので、モル濃度としては最大でも0.29pmol/mLとなる。免疫測定(例えば、ELISA測定)で使用する試料を、1測定(1ウェル)当たり、緩衝液で2倍希釈した試料150μL使用すると仮定した場合、1測定(1ウェル)当たり最大0.02175pmolのBNPが持ち込まれることになる。
【0023】
一方、ELISAプレート(NUNC社製マキシソープ、Product No.442404)に固定化できるBNM認識抗体(BNMを認識する物質)量を見積もると、前記ELISAプレートの吸着容量が650ng/cm2(カタログ記載値)、ウエルあたりの面積が2.7cm2(カタログ記載値)であることから、1ウェルあたり1775ngの抗体を固定化できる。抗体の分子量を150000と仮定した場合、固定化される抗体のモル数は11.7pmolとなる。なお、前記抗体には抗原結合サイトが2箇所あるので、反応に関与できる結合部位で考えると、23.4pmolとなる。
【0024】
つまり、たとえ試料中のBNPの全てがBNM認識抗体と結合していても、抗原結合サイト(23.4pmol)はBNP(0.02175pmol)の約1000倍量存在するため、ほとんどの結合サイトは残っており、実質、測定系への影響はないと考えられる。しかしながら測定系により、抗体や抗原の濃度、ブロッキング剤、緩衝液の条件などが異なるため、測定系を新たに構築した際は、大過剰のBNPを測定系に添加し、どの程度の濃度で影響がではじめるかを確認したほうがよい。
【0025】
BNMをタグペプチドとして利用することで、BNMを付加したタンパク質をアフィニティー精製することができる。アフィニティー精製は、適切な担体に、BNMを認識する物質をBNMを付加したタンパク質との結合性を保持した状態で結合させたものを用いて精製すればよい。BNMを認識する物質としては、BNMを認識するモノクローナル抗体・ポリクローナル抗体・抗血清が例示できるが、ロット間差の考慮が不要なモノクローナル抗体が、安定的な精製ができる点で好ましい。BNMを認識する物質と結合したBNMを付加したタンパク質の溶出は、通常pHを変化させて溶出すればよいが、pH変化に対して不安定なタンパク質を精製する場合は大過剰のBNMを添加して溶出させてもよい。
【0026】
発現させるタンパク質にBNMを付加する方法として、遺伝子工学的方法で付加する方法があげられる。具体的には、発現させるタンパク質のN末端側、C末端側または内部にBNMをコードするポリヌクレオチドを付加すればよい。なお、発現させるタンパク質のN末端側またはC末端側にBNMを付加する際、発現させるタンパク質のN末端側またはC末端側の直後にBNMを付加してもよいし、発現させるタンパク質との相互作用を避けるための任意のリンカーペプチドを介してBNMを付加してもよい。前記リンカーペプチドの一態様として、配列番号11に示すアミノ酸配列からなるフレキシブルなリンカーペプチドが例示できるが、前記配列に限定されるものではない。発現させるタンパク質にBNMを付加する別の方法として、化学的に付加する方法があげられる。前記方法の一態様として、発現させるタンパク質とSMCC(Succinimidyl 4−[N−maleimidomethyl]cyclohexane−1−carboxylate)などの試薬とを反応させることで前記タンパク質にマレイミド基を導入後、BNMと反応させて、BNMを化学的に導入する方法があげられるが、発現させるタンパク質とBNMとの結合方法に特に限定はなく、例えば、ポリエチレングリコールやポリエチレンイミンなどの高分子を介して付加してもよいし、マレイミド基以外の官能基を介して化学的に付加してもよい。マレイミド基以外の官能基としては、カルボジイミド(carbodiimide)、ヒドラジド(hydrazide)、ヒドロキシメチルホスフィン(hydroxymethylphosphine)、イミドエステル(imide ester)、イソシアネート(isocyanate)、ブロモアセテート(bromo acetate)、NHSエステル(N−hydroxysuccinimide ester)、ピリジルジスルフィド(pyridyl disulfide)、ソラレン(psoralen)等があげられる。
【0027】
BNMは、前述したタンパク質の精製・検出目的のほかに、タンパク質の担体への固定化目的で使用することもできる。タンパク質を直接水不溶担体に固定化すると、立体構造の変化がおきやすく、活性が失われる場合が多い。そこで、BNMを認識する物質を水不溶性担体に固定化しておき、前記固定化担体にBNMを付加したタンパク質を固定化させる方法を採用することにより、立体構造の変化がおきにくい状態で担体に固定化することができる。
【0028】
免疫測定試薬でしばしば問題になるのは、異好性抗動物抗体である。たとえば、ウサギ由来ポリクローナル抗体(抗原認識)と抗ウサギ抗体(水不溶性担体に固定化)とが反応系の中に含まれる場合、測定検体の中に抗ウサギ抗体が存在すると、検体中の抗ウサギ抗体により、本来想定している量のウサギ由来ポリクローナル抗体が水不溶性担体に捕捉されなくなり、正確な測定値が得られなくなってしまう。そこで、ウサギポリクローナル抗体にBNMを付加し、水不溶性担体に抗BNM抗体(BNMを認識する抗体)を固定化することで、異好性抗動物抗体の影響をなくした測定系が構築できる。
【0029】
なお、BNMは配列番号10に記載の16アミノ酸からなるオリゴペプチドであるが、BNMを認識する物質である、BNMと特異的に結合する抗体(BNM認識抗体)についてエピトープマッピングを行なった結果、BNM認識抗体はBNMの全アミノ酸配列を認識するのではなく、BNMのうち連続した9または10アミノ酸配列を認識していることが判明している(実施例6)。そのため、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、少なくとも10アミノ酸(すなわち連続した10アミノ酸以上)からなるオリゴペプチドであれば、タグペプチドとしてBNMと同等の有用性があるといえる。なお、前記オリゴペプチドはBNM(配列番号10)よりもアミノ酸の長さが短くなっているため、BNM(配列番号10)全長と比較し、付加するタンパク質への影響がより低減することが予想できる点で、好ましいといえる。
【0030】
一方、BNMを構成するアミノ酸のうちの一つ以上を他のアミノ酸に置換したオリゴペプチドであっても、BNMを認識する物質への結合能が極端に変化しない程度であれば、本発明のオリゴペプチドに含まれる。他のアミノ酸への置換は、公知の部位特異的変異導入法を用いて、親和性および特異性を確認しながら実施すればよい。またいくつかの変異を組み合わせることで、さらに性能を向上させることも可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、長さが16アミノ酸と比較的短く、これまでの実績から交差反応性を有する物質の存在が否定されており、親和性および特異性の高い物質(抗体)が存在する、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の環状部分(BNM)、およびそれを用いたタンパク質の精製・検出方法である。精製・検出対象タンパク質のN末端側、C末端側もしくは内部に、遺伝子工学的にまたは化学的にBNMを付加させ、それとBNMを認識する物質とを結合させて精製・検出する方法により、従来知られているHisタグを用いた精製・検出方法と比較し、特異性や感度を向上させることができる。
【0032】
なお本発明のオリゴペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるオリゴペプチドであってもよく、前記ペプチドは、BNMと比較し付加するタンパク質への影響がより低減することが予想できる点で、好ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で実施した、抗E2抗体へのBNM導入スキームを示すものである。
【図2】実施例3の結果を示すものである。図右側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図3】実施例4の結果を示すものである。図右側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図4】実施例6で用いた測定系を説明した図である。
【図5】実施例6の結果のうち、BM33−5の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図6】実施例6の結果のうち、BM33−14の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図7】実施例6の結果のうち、BM33−27の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図8】実施例6の結果のうち、BM33−28の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図9】実施例6の結果のうち、BM33−62の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図10】実施例6の結果のうち、5種類の抗体のエピトープマッピングの結果をまとめたものである。
【図11】実施例7の結果を示すものである。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1 BNP環状部分ペプチド(BNM)を付加した抗体の作製(その1)
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の環状部分(BNM)を付加した抗体を作製した。
(1)特許文献5に記載の方法に基づき、抗エストラジオール抗体(以下、抗E2抗体と略する)を作製した。
(2)(1)で作製した抗E2抗体とSulfo−SMCC(PIERCE社製、Product No.22322)とを添付の説明書に従って反応後、大過剰のBNMと反応させることで、BNMと共有結合した抗E2抗体を作製した(図1)。
【0036】
実施例2 BNP環状部分ペプチド(BNM)認識抗体の単離
BNP環状部分ペプチド(BNM)を認識する抗体を以下の方法で単離した。
(1)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNM 10mgを、マレイミドで活性化された10mgのオボアルブミン(PIERCE社製、Product No.77125)に、添付の説明書に従い結合させた。その後PBSで透析し、濃度1mg/mLに調製した。
(2)(1)で調製したBNM結合オボアルブミンとFCA(フロイント完全アジュバント)とを等量混合したエマルジョンを、100μL/匹でマウス腹腔内に注射した(1回目の免疫)。
(3)2回目以降は、FCAをFICA(フロイント不完全アジュバント)に変更したほかは、(2)と同様な免疫を毎週行ない、これを3回繰り返した。
(4)免疫後のマウスから脾臓B細胞を取り出し、ミエローマ細胞株とPEG法による細胞融合を行なった。
【0037】
前記操作により、BNMと特異的に結合する抗体(BNM認識抗体)を産生するハイブリドーマ5種(BM33−5、BM33−14、BM33−27、BM33−28、BM33−62)が得られた。
【0038】
実施例3 BNP環状部分ペプチド(BNM)のタンパク質固定化用タグとしての評価
実施例2で得られたBNM認識抗体を用いて、BNMを付加したタンパク質の固定が可能か評価した。
(1)実施例2で得られたハイブリドーマのうち、BM33−5を産生するハイブリドーマについて、定法により培養・精製することで、モノクローナル抗体(BM33−5)を得た。
(2)モノクローナル抗体(BM33−5)をELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、1重量%スキムミルクでブロッキングした。
(3)ウェルを洗浄後、実施例1で得られたBNMを付加した抗E2抗体(BNM結合抗E2抗体)を1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(2)のウェルに添加して反応させた。
(4)ウェルを洗浄後、0.15mAのエストラジオール(E2)認識アルカリホスファターゼ(E2−ALP)をウェルに添加し、1時間反応させた。
(5)反応後、定法に従いアルカリホスファターゼ活性を測定した。
(6)比較例として、BNM認識抗体を固定化せずブロッキング操作のみ行なったウェルについて、(3)から(5)に記載の操作を行なった。
【0039】
結果を図2に示す。BNM認識抗体を固定化したウェルにBNM結合抗E2抗体を添加したときが、BNM認識抗体を固定化しなかったウェルにBNM結合抗E2抗体を添加したときと比較し、有意にシグナルが高いことから、BNM認識抗体がBNMを付加したタンパク質と特異的に結合できることを確認した。
【0040】
実施例4 アルカリホスファターゼ標識BNM認識抗体の作製
実施例3の(1)で得られたモノクローナル抗体(BM33−5)を、アルカリホスファターゼ(ALP)標識キット(同仁化学社製、Product No.LK12)を用いて、製品添付のプロトコルに従い標識することで、ALP標識BNM認識抗体を作製した。
【0041】
実施例5 BNP環状部分ペプチド(BNM)のタンパク質検出用タグとしての評価
実施例2で得られたハイブリドーマより取得したBNM認識抗体が、BNMを付加したタンパク質を特異的に検出可能か評価した。
(1)E2−BSA(Sigma:E5630)をELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、1重量%スキムミルクでブロッキングした。
(2)ウェルを洗浄後、実施例1で得られたBNMを付加した抗E2抗体(BNM結合抗E2抗体)を1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(1)のウェルに添加して反応させた。
(3)ウェルを洗浄後、実施例4で得られたALP(アルカリホスファターゼ)標識BNM認識抗体(ALP標識BM33−5)を1000倍希釈した溶液を100μL添加し、1時間反応させた。
(4)ウェルを洗浄後、定法に従いALP活性を測定した。
(5)比較例として、(2)で添加する抗体をBNMを付加しない抗E2抗体(BNM非結合抗E2抗体)に変更し、同様の実験を行なった。
【0042】
結果を図3に示す。(2)でBNMを付加した抗E2抗体を添加したときが、BNMを付加しない抗E2抗体を添加したときと比較し、有意にシグナルが高いことから、BNM認識抗体を用いてBNMを付加した抗体を特異的に検出できることを確認した。
【0043】
実施例6 BNP環状部分ペプチド(BNM)認識抗体の認識部位の決定
実施例2で得られたハイブリドーマより取得した、5種類のBNM認識モノクローナル抗体(BM33−5、BM33−14、BM33−27、BM33−28、BM33−62)について、エピトープマッピングを行ない、各モノクローナル抗体がBNMのどの部分を認識しているか確認した。なお評価は、実施例2で得られたハイブリドーマより取得したモノクローナル抗体をELISAプレートのウェルに固定化し、BSA(Bovine Serum Albumin)でブロッキング後、BNPを反応させ、前記モノクローナル抗体と結合したBNPを、BNPのC末端側ペプチド(BNC)と特異的に反応する抗体(BNC認識抗体)で検出する測定系(図4a)を利用して行なった。詳細を図4bおよび下記に示す。
(1)実施例2で得られたハイブリドーマより取得した、BNM認識モノクローナル抗体を、ELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、3重量%BSA(Bovine Serum Albumin)でブロッキングした。
(2)ウェルを洗浄後、配列番号10および12から23のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(1)のウェルに添加して反応させた。
(3)ウェルを洗浄後、濃度1μg/mLのBNP溶液100μLを添加し反応させ、アルカリホスファターゼ(ALP)を標識したBNC認識抗体(BC23−11)で検出した。
【0044】
図4bの測定系において、ウェルに結合したBNM認識モノクローナル抗体と、(2)で添加したオリゴペプチドとに結合性があれば、(3)においてBNPと結合できなくなるため、本測定系によって固定化抗体の抗原認識部位を解析することができる。各抗体について各オリゴペプチドとの結合性をまとめたものを図5から図9に示す。なお、図5から図9において、各グラフの結果は上段から、
配列番号12(CFGRKMDRIS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち1番目から9番目までのアミノ酸のN末端側にシステインが結合)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号13(FGRKMDRISS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち1番目から10番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号14(GRKMDRISSS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち2番目から11番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号15(RKMDRISSSS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち3番目から12番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号16(KMDRISSSSG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち4番目から13番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号17(MDRISSSSGL、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち5番目から14番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号18(DRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち6番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号19(RISSSSGLGC、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち7番目から16番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号20(MDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち5番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号21(KMDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち4番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号22(RKMDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち3番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号23(GRKMDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち2番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
BNM全長(配列番号10)を用いたときの結果、
配列番号10および12から23に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを添加しないとき(peptide−)の結果、
をそれぞれ示している。図5から図9の結果から得られた、各抗体における認識部位をまとめたものを図10に示す。図10において各抗体が認識しているアミノ酸配列を下線で示している。図10に示すように、抗体は配列番号10に記載のBNMの16アミノ酸全長を認識しているのではなく、配列番号10に記載のアミノ酸のうち連続する9または10アミノ酸を認識していることがわかる。したがって、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるオリゴペプチドであれば、タグペプチド、すなわちタンパク質を精製・検出するのに有用であることがわかる。
【0045】
実施例7 従来のタグペプチドとの性能比較
タグペプチドとして従来より広く利用されているHisタグ(配列番号3)との性能を比較した。
(1)抗BNM抗体(実施例2で得られたハイブリドーマより取得した、BNM認識モノクローナル抗体)または抗His抗体(Roche社製、Product No.1922416)をELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、3重量%BSAでブロッキングした。
(2)ウェルを洗浄後、N末端をビオチン化した配列番号24(抗BNM抗体使用時)または25(抗His抗体使用時)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを図11に記載の濃度で反応させた。なお、配列番号24のN末端側8アミノ酸は配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるリンカーペプチドであり、C末端側15アミノ酸は配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、1番目のフェニルアラニンから15番目のグリシンまでのアミノ酸からなるオリゴペプチドである。また、配列番号25のN末端側8アミノ酸は配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるリンカーペプチドであり、C末端側6アミノ酸はHisタグである。
(3)ウェルを洗浄後、アルカリホスファターゼで標識されたストレプトアビジン(Streptavidin−ALP)を1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(2)のウェルに添加して反応させた。
(4)反応後、定法に従いアルカリホスファターゼ活性を測定した。
【0046】
結果を図11に示す。図11の結果から、タグペプチドとして従来より広く用いられているHisタグ結合ビオチン−抗His抗体(αHIS)の組み合わせよりも、BNM結合ビオチン−抗BNM抗体の組み合わせのほうが、特に抗BNM抗体にBM33−5またはBM33−14を用いたとき、タグペプチドを付加したタンパク質を高感度に検出できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNPの環状部分ペプチドをタンパク質に付加することで、タンパク質の高純度な精製および高感度な検出を可能とする。これは免疫測定試薬に用いるタンパク質の固定化および検出に極めて有効な方法である。なお、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNPの環状部分ペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるオリゴペプチドであれば、前記高純度な精製および高感度な検出が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を高感度に検出するためのタグペプチド、およびそれを用いたタンパク質の精製・検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学的に発現させたタンパク質の精製・検出や、担体への固定化を簡便に行なうための技術として、前記タンパク質を発現させる際に、タグペプチドとよばれる、前記ペプチドを認識する物質(例えば抗体など)と特異的に結合可能なペプチドを、前記タンパク質に付加した状態で発現後、前記ペプチドを認識する物質を用いて精製・検出・固定化を行なう方法が知られている。
【0003】
従来から知られているタグペプチドの例として、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるFLAGタグ(特許文献1および2)、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるMycタグ(非特許文献1)、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるHisタグ(特許文献3および4)、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるEタグ、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるHAタグ、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるT7タグ、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるPkタグ、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるHSVタグ、配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるVSV−Gタグ、などの正常細胞内には本来存在しない、ウイルス、ファージ、癌遺伝子由来のタンパク質の部分領域や、同じアミノ酸配列の繰り返しからなる、10アミノ酸程度のペプチドがあげられる。前記例示した9種類のタグペプチドの中で、FLAGタグ(配列番号1)は高性能なタグとして知られている。しかしながら、近年の実験の高感度化に伴い、特異性および反応性がさらに向上したタグペプチドが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許4703004号公報
【特許文献2】特許2665359号公報
【特許文献3】特開昭63−251095号公報
【特許文献4】米国特許5310663号公報
【特許文献5】特開2009−240300号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Evan et al.、Mol.Cel.Biol.、5(12)、3610−3616(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
新規のタグペプチドを検討する際、タグペプチドの原理から考えると、一見いかなるアミノ酸配列からなるペプチドでも、その配列を特異的に認識する物質(抗体など)があれば、タグペプチドとして使用できると思われる。しかしながら、現実的にタグペプチドとして産業上で使用することを考えた場合、タグペプチドの配列を決定することは容易ではない。その理由として、タグペプチドを付加したタンパク質を特異的に精製・検出するには、前記タグペプチドのアミノ酸配列が通常の実験系で使用されるタンパク質のアミノ酸配列の中に含まれないことはもちろん、それに類似するアミノ酸配列も存在しないことが必要なためである。仮に前記タグペプチドのアミノ酸配列と相同的な配列または類似の配列のタンパク質が実験系に存在すると,タグペプチドを付加したタンパク質の特異的な検出ができなくなってしまう。
【0007】
新規に考案したタグペプチドのアミノ酸配列に対して相同的な配列または類似の配列があるかを確認するには、BLASTといったデータベースを用いた相同性検索により可能である。しかしながら、タグペプチドを認識する物質(例えば抗体)が、前記タグペプチドのアミノ酸配列と類似した配列からなるペプチドに対してどの程度の交差反応性があるかを推測するのは困難であり、また前記データベースに未登録のタンパク質に対する交差反応性については予測がさらに困難である。そのため、従来から知られているタグペプチドは、ウイルス、ファージ、または癌遺伝子由来といった、正常細胞に本来存在しないタンパク質の部分領域からなるペプチドや、Hisタグ(配列番号3)のように同じアミノ酸配列の繰り返しといった、天然に存在する確率の低いアミノ酸配列からなるペプチドが用いられてきた。
【0008】
ならば、本来タンパク質には組み込まれないアミノ酸や低分子有機化合物をタグとして用いればよいのではないかと思われるが、実際には交差反応性の原因はアミノ酸の一次配列だけではなく、配列特異的ではない静電的相互作用や疎水的相互作用などの影響で起こることもある。つまり、天然に存在しないような物質をタグとして使用することは、かえって交差反応性の予測を困難にする可能性がある。また、前記アミノ酸や有機化合物をタグとする場合、タグを遺伝子工学的にタンパク質へ付加するのが困難という新たな問題が発生する。
【0009】
さらに、タグペプチドを免疫測定試薬用途に用いる場合、検体中に含まれる各種成分は検体間で異なるため、検体ごとにタグペプチドに対し異なる影響を与える可能性もある。つまり、たとえ産業上有効なタグペプチドが設計できても、前記タグペプチドがそのまま免疫測定試薬用途に用いることができるとは限らない。設計したタグペプチドを免疫測定試薬用途で使用可能かどうかを判断するには、非常に多数の検体を評価するしかないが、タグペプチドの有用性を確かめる目的で、非常に多数の検体を評価することは事実上極めて困難である。
【0010】
そこで本発明の目的は、従来よりも特異性および反応性が向上し、かつ免疫測定試薬用途にも使用可能なタグペプチド、および前記タグペプチドを用いたタンパク質の精製・検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を鑑み発明者が鋭意検討した結果、これまでに報告例がなく、かつ免疫測定試薬用途においても使用可能なタグペプチドを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明の第一の態様は、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチドである。
【0013】
また本発明の第二の態様は、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチドである。
【0014】
また本発明の第三の態様は、前記第一または第二の態様に記載のオリゴペプチドを付加したタンパク質と、前記ペプチドを認識する物質とを用いた、タンパク質の精製・検出方法である。
【0015】
また本発明の第四の態様は、前記タンパク質が、前記第一または第二の態様に記載のオリゴペプチドを遺伝子工学的に付加することで得られたタンパク質である、前記第三の態様に記載の精製・検出方法である。
【0016】
また本発明の第五の態様は、前記タンパク質が、前記第一または第二の態様に記載のオリゴペプチドを化学的に付加することで得られたタンパク質である、前記第三の態様に記載の精製・検出方法である。
【0017】
以降、本発明について詳細に説明する。
【0018】
タンパク質を精製・検出するのに有用なタグペプチドには、
(1)融合させるタンパク質に与える影響を少なくするためにアミノ酸の長さが短いこと、
(2)類似した配列が存在せず特異性が高いこと、
(3)ペプチドに対する親和性の高い物質が存在すること、
が要求される。そこで、前記要求を満たすペプチドを鋭意検討した結果、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の環状部分の16アミノ酸(配列番号10、以下BNMと略す)がタグペプチドとして有用であることを見出した。
【0019】
BNPは32アミノ酸からなる環状ペプチドである。健常人における血漿中BNP濃度は20pg/mL以下と極めて低いが、慢性および急性心不全患者では重症度に応じて著しく増加し、BNPの測定により心不全の病態の把握に重要な意義を持っていることから、近年極めて多くの検体が測定されている。通常BNPは、BNPのC末端を認識する抗体と環状部分を認識する抗体でBNPを挟み込むサンドイッチ法で測定されている。配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMは、
(1)アミノ酸の長さが比較的短く、
(2)BNMと交差反応性を有する物質の存在が否定されており、
(3)親和性および特異性の高い物質が存在する、
ためタグペプチドとして有用である。
【0020】
BNMを認識する抗体を使ったBNPの測定系は、すでに免疫測定試薬として上市(例えば、東ソー社製Eテスト「TOSOH」II(BNP))されている。つまり、これまでに非常に多数の検体が測定されているが、原因不明の交差反応などの問題は発生していない。このことは、BNMまたはそれと類似した配列を有するタンパク質およびペプチドは検体中には存在しないか、または存在しても測定に影響を与える濃度ではないことを意味している。以上より、BNMは特異性の高いタグペプチドとして有用であることを示唆しており、免疫測定試薬用途で有効に使用できるのはもちろん、通常の実験においても特異性や反応性の高いタグペプチドとして利用可能である。さらに、BNMに対する親和性および特異性の高い物質として、前述の上市された免疫測定試薬でも使用されている、BNMを認識する抗体が存在する。そのため、BNMはタグペプチドとして有用であり、BNMを付加したタンパク質とBNMを認識する抗体とを用いることで、特異性が高く、高感度な検出が可能である。
【0021】
BNMをタグペプチドとして用いる際、検体(血液)に含まれるBNPにより、BNMを付加したタンパク質とBNMを認識する物質との結合性に影響を与えるおそれが考えられた。そこで試料中に存在するBNPによる、BNMを付加したタンパク質とBNMを認識する物質との結合に与える影響について考察した。
【0022】
まず試料中に存在するBNPであるが、臨床上はBNP濃度が非常に高いと判定された試料(血清)でも、1000pg/mLを上回ることはない(なお、健常人は数pg/mL程度である)。BNPの分子量は3464であるので、モル濃度としては最大でも0.29pmol/mLとなる。免疫測定(例えば、ELISA測定)で使用する試料を、1測定(1ウェル)当たり、緩衝液で2倍希釈した試料150μL使用すると仮定した場合、1測定(1ウェル)当たり最大0.02175pmolのBNPが持ち込まれることになる。
【0023】
一方、ELISAプレート(NUNC社製マキシソープ、Product No.442404)に固定化できるBNM認識抗体(BNMを認識する物質)量を見積もると、前記ELISAプレートの吸着容量が650ng/cm2(カタログ記載値)、ウエルあたりの面積が2.7cm2(カタログ記載値)であることから、1ウェルあたり1775ngの抗体を固定化できる。抗体の分子量を150000と仮定した場合、固定化される抗体のモル数は11.7pmolとなる。なお、前記抗体には抗原結合サイトが2箇所あるので、反応に関与できる結合部位で考えると、23.4pmolとなる。
【0024】
つまり、たとえ試料中のBNPの全てがBNM認識抗体と結合していても、抗原結合サイト(23.4pmol)はBNP(0.02175pmol)の約1000倍量存在するため、ほとんどの結合サイトは残っており、実質、測定系への影響はないと考えられる。しかしながら測定系により、抗体や抗原の濃度、ブロッキング剤、緩衝液の条件などが異なるため、測定系を新たに構築した際は、大過剰のBNPを測定系に添加し、どの程度の濃度で影響がではじめるかを確認したほうがよい。
【0025】
BNMをタグペプチドとして利用することで、BNMを付加したタンパク質をアフィニティー精製することができる。アフィニティー精製は、適切な担体に、BNMを認識する物質をBNMを付加したタンパク質との結合性を保持した状態で結合させたものを用いて精製すればよい。BNMを認識する物質としては、BNMを認識するモノクローナル抗体・ポリクローナル抗体・抗血清が例示できるが、ロット間差の考慮が不要なモノクローナル抗体が、安定的な精製ができる点で好ましい。BNMを認識する物質と結合したBNMを付加したタンパク質の溶出は、通常pHを変化させて溶出すればよいが、pH変化に対して不安定なタンパク質を精製する場合は大過剰のBNMを添加して溶出させてもよい。
【0026】
発現させるタンパク質にBNMを付加する方法として、遺伝子工学的方法で付加する方法があげられる。具体的には、発現させるタンパク質のN末端側、C末端側または内部にBNMをコードするポリヌクレオチドを付加すればよい。なお、発現させるタンパク質のN末端側またはC末端側にBNMを付加する際、発現させるタンパク質のN末端側またはC末端側の直後にBNMを付加してもよいし、発現させるタンパク質との相互作用を避けるための任意のリンカーペプチドを介してBNMを付加してもよい。前記リンカーペプチドの一態様として、配列番号11に示すアミノ酸配列からなるフレキシブルなリンカーペプチドが例示できるが、前記配列に限定されるものではない。発現させるタンパク質にBNMを付加する別の方法として、化学的に付加する方法があげられる。前記方法の一態様として、発現させるタンパク質とSMCC(Succinimidyl 4−[N−maleimidomethyl]cyclohexane−1−carboxylate)などの試薬とを反応させることで前記タンパク質にマレイミド基を導入後、BNMと反応させて、BNMを化学的に導入する方法があげられるが、発現させるタンパク質とBNMとの結合方法に特に限定はなく、例えば、ポリエチレングリコールやポリエチレンイミンなどの高分子を介して付加してもよいし、マレイミド基以外の官能基を介して化学的に付加してもよい。マレイミド基以外の官能基としては、カルボジイミド(carbodiimide)、ヒドラジド(hydrazide)、ヒドロキシメチルホスフィン(hydroxymethylphosphine)、イミドエステル(imide ester)、イソシアネート(isocyanate)、ブロモアセテート(bromo acetate)、NHSエステル(N−hydroxysuccinimide ester)、ピリジルジスルフィド(pyridyl disulfide)、ソラレン(psoralen)等があげられる。
【0027】
BNMは、前述したタンパク質の精製・検出目的のほかに、タンパク質の担体への固定化目的で使用することもできる。タンパク質を直接水不溶担体に固定化すると、立体構造の変化がおきやすく、活性が失われる場合が多い。そこで、BNMを認識する物質を水不溶性担体に固定化しておき、前記固定化担体にBNMを付加したタンパク質を固定化させる方法を採用することにより、立体構造の変化がおきにくい状態で担体に固定化することができる。
【0028】
免疫測定試薬でしばしば問題になるのは、異好性抗動物抗体である。たとえば、ウサギ由来ポリクローナル抗体(抗原認識)と抗ウサギ抗体(水不溶性担体に固定化)とが反応系の中に含まれる場合、測定検体の中に抗ウサギ抗体が存在すると、検体中の抗ウサギ抗体により、本来想定している量のウサギ由来ポリクローナル抗体が水不溶性担体に捕捉されなくなり、正確な測定値が得られなくなってしまう。そこで、ウサギポリクローナル抗体にBNMを付加し、水不溶性担体に抗BNM抗体(BNMを認識する抗体)を固定化することで、異好性抗動物抗体の影響をなくした測定系が構築できる。
【0029】
なお、BNMは配列番号10に記載の16アミノ酸からなるオリゴペプチドであるが、BNMを認識する物質である、BNMと特異的に結合する抗体(BNM認識抗体)についてエピトープマッピングを行なった結果、BNM認識抗体はBNMの全アミノ酸配列を認識するのではなく、BNMのうち連続した9または10アミノ酸配列を認識していることが判明している(実施例6)。そのため、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、少なくとも10アミノ酸(すなわち連続した10アミノ酸以上)からなるオリゴペプチドであれば、タグペプチドとしてBNMと同等の有用性があるといえる。なお、前記オリゴペプチドはBNM(配列番号10)よりもアミノ酸の長さが短くなっているため、BNM(配列番号10)全長と比較し、付加するタンパク質への影響がより低減することが予想できる点で、好ましいといえる。
【0030】
一方、BNMを構成するアミノ酸のうちの一つ以上を他のアミノ酸に置換したオリゴペプチドであっても、BNMを認識する物質への結合能が極端に変化しない程度であれば、本発明のオリゴペプチドに含まれる。他のアミノ酸への置換は、公知の部位特異的変異導入法を用いて、親和性および特異性を確認しながら実施すればよい。またいくつかの変異を組み合わせることで、さらに性能を向上させることも可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、長さが16アミノ酸と比較的短く、これまでの実績から交差反応性を有する物質の存在が否定されており、親和性および特異性の高い物質(抗体)が存在する、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の環状部分(BNM)、およびそれを用いたタンパク質の精製・検出方法である。精製・検出対象タンパク質のN末端側、C末端側もしくは内部に、遺伝子工学的にまたは化学的にBNMを付加させ、それとBNMを認識する物質とを結合させて精製・検出する方法により、従来知られているHisタグを用いた精製・検出方法と比較し、特異性や感度を向上させることができる。
【0032】
なお本発明のオリゴペプチドは、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるオリゴペプチドであってもよく、前記ペプチドは、BNMと比較し付加するタンパク質への影響がより低減することが予想できる点で、好ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で実施した、抗E2抗体へのBNM導入スキームを示すものである。
【図2】実施例3の結果を示すものである。図右側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図3】実施例4の結果を示すものである。図右側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図4】実施例6で用いた測定系を説明した図である。
【図5】実施例6の結果のうち、BM33−5の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図6】実施例6の結果のうち、BM33−14の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図7】実施例6の結果のうち、BM33−27の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図8】実施例6の結果のうち、BM33−28の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図9】実施例6の結果のうち、BM33−62の抗体のエピトープマッピングを行なった結果である。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【図10】実施例6の結果のうち、5種類の抗体のエピトープマッピングの結果をまとめたものである。
【図11】実施例7の結果を示すものである。図左側は、本ELISAのアッセイフォーマットを示す。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1 BNP環状部分ペプチド(BNM)を付加した抗体の作製(その1)
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の環状部分(BNM)を付加した抗体を作製した。
(1)特許文献5に記載の方法に基づき、抗エストラジオール抗体(以下、抗E2抗体と略する)を作製した。
(2)(1)で作製した抗E2抗体とSulfo−SMCC(PIERCE社製、Product No.22322)とを添付の説明書に従って反応後、大過剰のBNMと反応させることで、BNMと共有結合した抗E2抗体を作製した(図1)。
【0036】
実施例2 BNP環状部分ペプチド(BNM)認識抗体の単離
BNP環状部分ペプチド(BNM)を認識する抗体を以下の方法で単離した。
(1)配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNM 10mgを、マレイミドで活性化された10mgのオボアルブミン(PIERCE社製、Product No.77125)に、添付の説明書に従い結合させた。その後PBSで透析し、濃度1mg/mLに調製した。
(2)(1)で調製したBNM結合オボアルブミンとFCA(フロイント完全アジュバント)とを等量混合したエマルジョンを、100μL/匹でマウス腹腔内に注射した(1回目の免疫)。
(3)2回目以降は、FCAをFICA(フロイント不完全アジュバント)に変更したほかは、(2)と同様な免疫を毎週行ない、これを3回繰り返した。
(4)免疫後のマウスから脾臓B細胞を取り出し、ミエローマ細胞株とPEG法による細胞融合を行なった。
【0037】
前記操作により、BNMと特異的に結合する抗体(BNM認識抗体)を産生するハイブリドーマ5種(BM33−5、BM33−14、BM33−27、BM33−28、BM33−62)が得られた。
【0038】
実施例3 BNP環状部分ペプチド(BNM)のタンパク質固定化用タグとしての評価
実施例2で得られたBNM認識抗体を用いて、BNMを付加したタンパク質の固定が可能か評価した。
(1)実施例2で得られたハイブリドーマのうち、BM33−5を産生するハイブリドーマについて、定法により培養・精製することで、モノクローナル抗体(BM33−5)を得た。
(2)モノクローナル抗体(BM33−5)をELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、1重量%スキムミルクでブロッキングした。
(3)ウェルを洗浄後、実施例1で得られたBNMを付加した抗E2抗体(BNM結合抗E2抗体)を1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(2)のウェルに添加して反応させた。
(4)ウェルを洗浄後、0.15mAのエストラジオール(E2)認識アルカリホスファターゼ(E2−ALP)をウェルに添加し、1時間反応させた。
(5)反応後、定法に従いアルカリホスファターゼ活性を測定した。
(6)比較例として、BNM認識抗体を固定化せずブロッキング操作のみ行なったウェルについて、(3)から(5)に記載の操作を行なった。
【0039】
結果を図2に示す。BNM認識抗体を固定化したウェルにBNM結合抗E2抗体を添加したときが、BNM認識抗体を固定化しなかったウェルにBNM結合抗E2抗体を添加したときと比較し、有意にシグナルが高いことから、BNM認識抗体がBNMを付加したタンパク質と特異的に結合できることを確認した。
【0040】
実施例4 アルカリホスファターゼ標識BNM認識抗体の作製
実施例3の(1)で得られたモノクローナル抗体(BM33−5)を、アルカリホスファターゼ(ALP)標識キット(同仁化学社製、Product No.LK12)を用いて、製品添付のプロトコルに従い標識することで、ALP標識BNM認識抗体を作製した。
【0041】
実施例5 BNP環状部分ペプチド(BNM)のタンパク質検出用タグとしての評価
実施例2で得られたハイブリドーマより取得したBNM認識抗体が、BNMを付加したタンパク質を特異的に検出可能か評価した。
(1)E2−BSA(Sigma:E5630)をELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、1重量%スキムミルクでブロッキングした。
(2)ウェルを洗浄後、実施例1で得られたBNMを付加した抗E2抗体(BNM結合抗E2抗体)を1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(1)のウェルに添加して反応させた。
(3)ウェルを洗浄後、実施例4で得られたALP(アルカリホスファターゼ)標識BNM認識抗体(ALP標識BM33−5)を1000倍希釈した溶液を100μL添加し、1時間反応させた。
(4)ウェルを洗浄後、定法に従いALP活性を測定した。
(5)比較例として、(2)で添加する抗体をBNMを付加しない抗E2抗体(BNM非結合抗E2抗体)に変更し、同様の実験を行なった。
【0042】
結果を図3に示す。(2)でBNMを付加した抗E2抗体を添加したときが、BNMを付加しない抗E2抗体を添加したときと比較し、有意にシグナルが高いことから、BNM認識抗体を用いてBNMを付加した抗体を特異的に検出できることを確認した。
【0043】
実施例6 BNP環状部分ペプチド(BNM)認識抗体の認識部位の決定
実施例2で得られたハイブリドーマより取得した、5種類のBNM認識モノクローナル抗体(BM33−5、BM33−14、BM33−27、BM33−28、BM33−62)について、エピトープマッピングを行ない、各モノクローナル抗体がBNMのどの部分を認識しているか確認した。なお評価は、実施例2で得られたハイブリドーマより取得したモノクローナル抗体をELISAプレートのウェルに固定化し、BSA(Bovine Serum Albumin)でブロッキング後、BNPを反応させ、前記モノクローナル抗体と結合したBNPを、BNPのC末端側ペプチド(BNC)と特異的に反応する抗体(BNC認識抗体)で検出する測定系(図4a)を利用して行なった。詳細を図4bおよび下記に示す。
(1)実施例2で得られたハイブリドーマより取得した、BNM認識モノクローナル抗体を、ELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、3重量%BSA(Bovine Serum Albumin)でブロッキングした。
(2)ウェルを洗浄後、配列番号10および12から23のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(1)のウェルに添加して反応させた。
(3)ウェルを洗浄後、濃度1μg/mLのBNP溶液100μLを添加し反応させ、アルカリホスファターゼ(ALP)を標識したBNC認識抗体(BC23−11)で検出した。
【0044】
図4bの測定系において、ウェルに結合したBNM認識モノクローナル抗体と、(2)で添加したオリゴペプチドとに結合性があれば、(3)においてBNPと結合できなくなるため、本測定系によって固定化抗体の抗原認識部位を解析することができる。各抗体について各オリゴペプチドとの結合性をまとめたものを図5から図9に示す。なお、図5から図9において、各グラフの結果は上段から、
配列番号12(CFGRKMDRIS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち1番目から9番目までのアミノ酸のN末端側にシステインが結合)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号13(FGRKMDRISS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち1番目から10番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号14(GRKMDRISSS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち2番目から11番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号15(RKMDRISSSS、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち3番目から12番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号16(KMDRISSSSG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち4番目から13番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号17(MDRISSSSGL、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち5番目から14番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号18(DRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち6番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号19(RISSSSGLGC、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち7番目から16番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号20(MDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち5番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号21(KMDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち4番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号22(RKMDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち3番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
配列番号23(GRKMDRISSSSGLG、配列番号10に記載のアミノ酸配列のうち2番目から15番目までのアミノ酸)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを用いたときの結果、
BNM全長(配列番号10)を用いたときの結果、
配列番号10および12から23に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを添加しないとき(peptide−)の結果、
をそれぞれ示している。図5から図9の結果から得られた、各抗体における認識部位をまとめたものを図10に示す。図10において各抗体が認識しているアミノ酸配列を下線で示している。図10に示すように、抗体は配列番号10に記載のBNMの16アミノ酸全長を認識しているのではなく、配列番号10に記載のアミノ酸のうち連続する9または10アミノ酸を認識していることがわかる。したがって、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるオリゴペプチドであれば、タグペプチド、すなわちタンパク質を精製・検出するのに有用であることがわかる。
【0045】
実施例7 従来のタグペプチドとの性能比較
タグペプチドとして従来より広く利用されているHisタグ(配列番号3)との性能を比較した。
(1)抗BNM抗体(実施例2で得られたハイブリドーマより取得した、BNM認識モノクローナル抗体)または抗His抗体(Roche社製、Product No.1922416)をELISAプレートに1μg/ウェルで固定化し、3重量%BSAでブロッキングした。
(2)ウェルを洗浄後、N末端をビオチン化した配列番号24(抗BNM抗体使用時)または25(抗His抗体使用時)に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを図11に記載の濃度で反応させた。なお、配列番号24のN末端側8アミノ酸は配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるリンカーペプチドであり、C末端側15アミノ酸は配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNMのうち、1番目のフェニルアラニンから15番目のグリシンまでのアミノ酸からなるオリゴペプチドである。また、配列番号25のN末端側8アミノ酸は配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるリンカーペプチドであり、C末端側6アミノ酸はHisタグである。
(3)ウェルを洗浄後、アルカリホスファターゼで標識されたストレプトアビジン(Streptavidin−ALP)を1μg/mLの濃度で調整し、当該溶液100μLを(2)のウェルに添加して反応させた。
(4)反応後、定法に従いアルカリホスファターゼ活性を測定した。
【0046】
結果を図11に示す。図11の結果から、タグペプチドとして従来より広く用いられているHisタグ結合ビオチン−抗His抗体(αHIS)の組み合わせよりも、BNM結合ビオチン−抗BNM抗体の組み合わせのほうが、特に抗BNM抗体にBM33−5またはBM33−14を用いたとき、タグペプチドを付加したタンパク質を高感度に検出できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNPの環状部分ペプチドをタンパク質に付加することで、タンパク質の高純度な精製および高感度な検出を可能とする。これは免疫測定試薬に用いるタンパク質の固定化および検出に極めて有効な方法である。なお、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるBNPの環状部分ペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなるオリゴペプチドであれば、前記高純度な精製および高感度な検出が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチド。
【請求項2】
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオリゴペプチドを付加したタンパク質と、前記ペプチドを認識する物質とを用いた、タンパク質の精製・検出方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、請求項1または2に記載のオリゴペプチドを遺伝子工学的に付加することで得られたタンパク質である、請求項3に記載の精製・検出方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、請求項1または2に記載のオリゴペプチドを化学的に付加することで得られたタンパク質である、請求項3に記載の精製・検出方法。
【請求項1】
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチド。
【請求項2】
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドのうち、少なくとも連続した10アミノ酸からなる、タンパク質を精製・検出するのに有用なオリゴペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオリゴペプチドを付加したタンパク質と、前記ペプチドを認識する物質とを用いた、タンパク質の精製・検出方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、請求項1または2に記載のオリゴペプチドを遺伝子工学的に付加することで得られたタンパク質である、請求項3に記載の精製・検出方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、請求項1または2に記載のオリゴペプチドを化学的に付加することで得られたタンパク質である、請求項3に記載の精製・検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−140331(P2012−140331A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291802(P2010−291802)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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