説明

タグボート用ウインチ

【課題】グリスなどで汚れることがなく、清掃などのメンテナンが不要のタグボート用ウインチを提供すること。
【解決手段】船体の甲板上に設けられ、曳航用ロープ及び錨用チェンを繰り出し及び巻き取り可能としたタグボート用ウインチであって、駆動源に連動連結し、前記曳航用ロープを巻回する第1のドラム及び前記錨用チェンを巻回する第2のドラムが取付けられた軸体と、この軸体を支持する調芯機能付きのベアリングと、この軸体に設けられ、前記駆動源から前記第1のドラムへの動力の伝達を入り切りする第1のクラッチ及び前記駆動源から前記第2のドラムへの動力の伝達を入り切りする第2のクラッチとを備え、各前記クラッチは、グリスが封入された密封構造であることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曳航用ロープや錨用チェンを繰り出したり、巻き取ったりするタグボート用ウインチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーなどの大型船舶が港湾などを出入りする場合、水先案内のためにタグボートで曳航するが、曳航用ロープ(以下、単に「ロープ」とする場合がある)は、タグボート上に配置されたウインチに巻回されて、繰り出し、巻取り操作がなされている。また、タグボートの錨の繰り出し、巻取りについて、同じウインチでなされるようになっている。(例えば、特許文献1を参照。)
【0003】
図8に従来のウインチの構成を示す平面断面図を示す。図8に示すように、従来のウインチは、曳航用ロープ(図示せず)を巻回する第1のドラム100及び錨用チェン(図示せず)を巻回する第2のドラム200が取付けられた軸体300と、この軸体300に設けられ、駆動源である油圧モータ400から第1のドラム100への動力の伝達を入り切りする第1のクラッチ110及び駆動源から第2のドラム200への動力の伝達を入り切りする第2のクラッチ220とを備えたものが一般的である。
【0004】
また、図示するように、軸体300は、甲板などから立設したフレーム500の上端の軸受部600において、メタル610を介して支持されており、さらに、前記ドラム100,200やクラッチ110,220などはメタル700などを介して支持されている。
【0005】
なお、図8に示した例では、第2のドラム200及び第2のクラッチ220は、第1のドラム100を挟んで左右それぞれに配置されている。また、図中、符号800で示すものはギヤケースであり、油圧モータ400の伝動軸410に連結した第1歯車810やこれに噛合する第2歯車820などを収納している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−269683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来のウインチでは、第1のドラム100、第2のドラム200、第1のクラッチ110及び第2のクラッチ220などの部材と、軸体300との摺動部分には焼付き及び錆付きを防止するために、定期的なグリス塗布が必要であった。
【0008】
そのため、グリスの塗布が適正なタイミングで適正に行われたとしても、グリスが床面に落下したり周辺に飛散したりして、ウインチ周りはグリスによる汚れが酷くなる。したがって、不要なグリスの清掃作業が必要になり、乗務員に無用な役務の負担が生じていた。また、除去したグリスを誤って海中に投棄してしまう場合が生じるなど、環境保護の観点からも好ましくなかった。
【0009】
さらに、ウインチの清掃作業中にクラッチを作動させてしまった場合、指を挟んで怪我するおそれもあって危険であるため、ウインチにおける清掃などのメンテナンスは、好ましくは不要にしたいという現場からの要望がある。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、少なくともクラッチを、グリスが封入された密封構造としたメンテナンスフリーのタグボート用ウインチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、船体の甲板上に設けられ、曳航用ロープ及び錨用チェンを繰り出し及び巻き取り可能としたタグボート用ウインチであって、駆動源に連動連結し、前記曳航用ロープを巻回する第1のドラム及び前記錨用チェンを巻回する第2のドラムが取付けられた軸体と、この軸体を支持する調芯機能付きのベアリングと、この軸体に設けられ、前記駆動源から前記第1のドラムへの動力の伝達を入り切りする第1のクラッチ及び前記駆動源から前記第2のドラムへの動力の伝達を入り切りする第2のクラッチと、を備え、各前記クラッチは、グリスが封入された密封構造であることを特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)に記載のタグボート用ウインチにおいて、前記ベアリングを密封構造とし、当該ベアリング及び前記クラッチに充填したグリスの漏出を防止したことを特徴とする。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)に記載のタグボート用ウインチにおいて、前記クラッチをドッグクラッチとし、当該クラッチの噛合歯を囲繞するクラッチカバーを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、駆動源に連動連結して回転する軸体に、曳航用ロープを巻回する第1のドラムや、錨用チェンを巻回する第2のドラム、さらには、前記第1のドラムへの動力の伝達を入り切りする第1のクラッチ及び前記第2のドラムへの動力の伝達を入り切りする第2のクラッチを摺動自在に取付けていながら、各クラッチと軸体との摺動部分からグリスなどが漏出することを防止することができる。したがって、グリスによってウインチ周辺が汚れる心配がなく、また、グリス清掃作業そのものが不要となり、無駄な労力を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るウインチを備えるタグボートの側面視による説明図である。
【図2】同平面視による説明図である。
【図3】本実施形態に係るウインチの縦断面視による説明図である。
【図4】同ウインチの要部拡大図である。
【図5】同ウインチの側面図である。
【図6】同ウインチの平面図である。
【図7】図6のI−I線における断面図である。
【図8】従来のタグボート用ウインチの平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係るタグボート用ウインチ(以下、単に「本ウインチ」という場合もある)Aについて、図1〜図7を参照しながら具体的に説明する。本ウインチを搭載したタグボートは、大型船などを曳航する場合は後進するものであり、図1及び図2に示すように、船体に設けられた船橋Bの前方甲板上に本ウインチAは設けられている。
【0017】
ウインチAは、進行方向に対して左右側にそれぞれ配設されており、これらウインチA,Aの前方には曳航用ロープ10を案内するためのロープリーダRが立設されている
【0018】
なお、本実施形態では、1機のロープリーダRと左右2機のウインチA,Aとで曳航部を構成し、2本の曳航用ロープ(以下、単に「ロープ」とする場合がある)10,10を操作可能としているが、1機のウインチAに対して1機のロープリーダRを備えた曳航部を左右に2組設置することもできる。
【0019】
左右一対で配設されたウインチA,Aは、互いに線対称な構成であり、実質的には同一構成といってよいため、以下では、理解を容易にするために進行方向の左側に配設されたウインチAについて説明し、右側に配設されたウインチAに関する説明は省略する。
【0020】
図3に示すように、ウインチAは、駆動源である油圧モータMに連動連結し、曳航用ロープ10を巻回する第1のドラム1及び錨用チェン20を巻回する第2のドラム2が取付けられた軸体3を備えており、この軸体3は、基枠5上に立設した支持フレーム6,6の上端をはじめ、所定個所にそれぞれ設けられた複数の調芯機能付きの複数のベアリング4により支持されている。すなわち、ベアリング4としては自動調心コロ軸受を採用している。
【0021】
また、軸体3には、油圧モータMから第1のドラム1への動力の伝達を入り切りする第1のクラッチ11が第1のキー31を介して取付けられるとともに(図7参照)、油圧モータMから第2のドラム2への動力の伝達を入り切りする第2のクラッチ22が第2のキー32を介して取付けられている。
【0022】
図3において、符号7はギヤケースを示しており、油圧モータMの伝動軸21に設けた第1歯車71と、軸体3の一端に取付けた第2歯車72と、この第2歯車72と第1歯車71との間に介設される遊歯車73とを収容している。
【0023】
かかる構成により、油圧モータMからの回転力は、第1歯車71→遊歯車73→第2歯車72と所定の減速比で伝達されて軸体3を回転させることができる。
【0024】
そして、第1のクラッチ11が接続されると、軸体3の回転が第1のドラム1に伝わり、ロープ10を繰り出したり、あるいは巻き取ったりすることができる(図1及び図2を参照)。
【0025】
一方、第2のクラッチ22が接続されると、軸体3の回転が第2のドラム2に伝わり、錨用チェン20を繰り出したり、あるいは巻き取ったりすることができる。
【0026】
ところで、第1のクラッチ11及び第2のクラッチ22は、図3又は図4においては、軸体3の上側の表示部分では非接続状態を、下側の表示部分では接続状態を示している。
【0027】
本ウインチAは、上述した構成において、第1のクラッチ11及び第2のクラッチ22を密封構造とし、これに封入されたグリスの漏出を防止した点に特徴がある。しかも、本実施形態では、調芯機能付きのベアリング4により軸体3を支持しているため、軸体3の如何なる個所からもグリスなどが漏出することはなく、グリスの飛散や落下によるウインチ周辺の汚れがなくなる。
【0028】
すなわち、本実施形態に係る第1のクラッチ11は、図3及び図4に示すように、第1のドラム1側に設けられた固定歯部11aと、軸体3に第1のキー31を介して連動連結され、かつ軸方向にスライド自在に取り付けられた摺動歯部11bとからなるドッグクラッチで構成されており、両者が噛合するときにクラッチ接続される。なお、ここで、ドッグクラッチとは、所謂「噛み合いクラッチ」を指し、爪クラッチとも呼ばれるものである。図中、符号11cは摺動歯部11bに係合して軸方向へ摺動させるためのフォークである。
【0029】
そして、摺動歯部11bの内周面にグリス溜まり12を環状に設け、予めグリスを充填させるとともに、当該摺動歯部11bの軸方向における前後端にはそれぞれシール部材14を設け、グリス溜まり12に充填されたグリスを密封した状態としている。なお、グリス溜まり12は1つとするのではなく、複数設けても構わない。
【0030】
なお、摺動歯部11bの外周面には、グリス溜まり溝12に連通するグリスニップル13が点対称となるように2つ設けられており、グリスを充填する際には、一方のグリスニップル13を外し、他方のグリスニップル13にグリスガン(図示せず)を接続して、一方からグリスがあふれる程度まで充填させるとよい。
【0031】
また、軸体3における摺動歯部11bの摺動面Sについては、SUSによる肉盛溶接を行った後に研磨する防錆処理を行っており、波しぶきなどがかかっても錆の発生がなく、いつでも円滑なクラッチ動作が実現される。
【0032】
ところで、本ウインチAでは、サイズの違いはあるが第2のクラッチ22についても上述してきた第1のクラッチ11と同じ構造のドッグクラッチで構成している。したがって、ここでの説明は省略するが、第1のクラッチ11と同様に、グリスは密封された状態が維持され、漏出することがない。図3及び図4において、符号22aは固定歯部、符号22bは摺動歯部、符号22cはフォークをそれぞれ示している。
【0033】
また、軸体3を支持する複数のベアリング4は自動調心コロ軸受からなり、シール部材40を備えている。このように、調芯機能付きであるため、例えば、第1のドラム1などにベルトを巻回してブレーキをかけたとしても、軸体3を円滑に回転させることができ、焼付きなどの虞もないため、従来のメタルなどによる軸受構造に比較して耐久性も著しく向上している。さらに、本実施形態では、第2のドラム2についてはブロンズ製のメタルによる軸受を採用しているが、これにもやはりグリス溜まりとなる溝部(図示せず)を形成するとともに、軸受両端をシールした密封軸受構造としている。したがって、メタル部内への海水の浸入などを防止でき、従来発生していた錆付きなどによる作動不良を防止でき、なおかつグリス漏れを防止している。
【0034】
このように、本ウインチAでは、焼付き及び錆付き防止が図れるとともに、軸体3の如何なる個所からもグリスなどが漏出することはなく、グリスの飛散や落下によるウインチ周辺の汚れがなくなるため、グリス清掃作業そのものが不要となり、乗務員の負担が軽減される。また、グリスが海中に落下することもないため、環境保護の観点からも好ましいウインチ構造と言える。そして、自動調心コロ軸受からなるベアリング4を用いているため、耐久性も著しく向上している。
【0035】
また、図3、図4及び図7に示すように、第1のクラッチ11の噛合歯、すなわち、固定歯部11aと摺動歯部11bとの噛合部分を囲繞するクラッチカバー8を備えている。
【0036】
クラッチカバー8は、図7に示すように、2枚のSUS製の帯体80,80を環状に連結して構成されており、固定歯部11aや摺動歯部11bから所定間隔をあけた位置で第1のドラム1の側板に形成したリブ15にボルト82で止めている。
【0037】
なお、本ウインチAでは、かかるクラッチカバー8を第1のクラッチ11にのみ設けたが、第2のクラッチ22に設けることもできる。
【0038】
クラッチ操作する場合、フォーク11cは遠隔操作される。したがって、従来、ウインチAをメンテナンスしている乗務員などがいるときにフォーク11cが遠隔操作されたりすると大変危険であったが、本ウインチAではクラッチカバー8を備えているため、噛合部分に手を挟んだりする事故を未然に防止することができる。特に、本ウインチAは、グリスなどの漏出もなく、かつグリスの補充も必要のないメンテナンスフリーの構成であるため、ウインチAに人が接近することも稀であるため、より安全性は高い。
【0039】
上述した実施形態から、以下のタグボート用ウインチが実現できる。
【0040】
(1)船体(タグボート)の甲板上に設けられ、曳航用ロープ10及び錨用チェン20を繰り出し及び巻き取り可能であり、駆動源(例えば、油圧モータM)に連動連結し、曳航用ロープ10を巻回する第1のドラム1及び錨用チェン20を巻回する第2のドラム2が取付けられた軸体3と、この軸体3を支持する調芯機能付きのベアリング4と、この軸体3に設けられ、前記駆動源から第1のドラム1への動力の伝達を入り切りする第1のクラッチ11及び前記駆動源から第2のドラム2への動力の伝達を入り切りする第2のクラッチ22と、を備え、前記各クラッチ(第1のクラッチ11、第2のクラッチ22)は、グリスが封入された密封構造であるタグボート用ウインチA。
【0041】
かかるタグボート用ウインチAによれば、各クラッチ(第1のクラッチ11、第2のクラッチ22)と軸体3との摺動部分からグリスなどが漏出することを防止することができるため、グリスによってウインチ周辺が汚れる心配がなく、また、グリス清掃作業そのものが不要となり、乗務員の無駄な労力を省くことができる。
【0042】
(2)上記(1)の構成において、前記ベアリング4を密封構造とし、当該ベアリング4及び前記クラッチ(第1のクラッチ11、第2のクラッチ22)に充填したグリスの漏出を防止したタグボート用ウインチA。
【0043】
かかるタグボート用ウインチAによれば、上記(1)の効果をさらに高めて、メンテナンスフリーのウインチとすることができるとともに、焼付き及び錆付き防止が図れるために耐久性も著しく向上する。
【0044】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、前記クラッチ(第1のクラッチ11、第2のクラッチ22)をドッグクラッチとし、当該クラッチの噛合歯を囲繞するクラッチカバー8を備えるタグボート用ウインチA。
【0045】
かかるタグボート用ウインチAによれば、クラッチに指などを挟まれたりする虞がなく、安全性が向上する。
【符号の説明】
【0046】
A タグボート用ウインチ
M 油圧モータ(駆動源)
1 第1のドラム
2 第2のドラム
3 軸体
4 ベアリング
8 クラッチカバー
10 曳航用ロープ
11 第1のクラッチ
20 錨用チェン
22 第2のクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の甲板上に設けられ、曳航用ロープ及び錨用チェンを繰り出し及び巻き取り可能としたタグボート用ウインチであって、
駆動源に連動連結し、前記曳航用ロープを巻回する第1のドラム及び前記錨用チェンを巻回する第2のドラムが取付けられた軸体と、
この軸体を支持する調芯機能付きのベアリングと、
この軸体に設けられ、前記駆動源から前記第1のドラムへの動力の伝達を入り切りする第1のクラッチ及び前記駆動源から前記第2のドラムへの動力の伝達を入り切りする第2のクラッチと、を備え、
各前記クラッチは、グリスが封入された密封構造であることを特徴とするタグボート用ウインチ。
【請求項2】
前記ベアリングを密封構造とし、当該ベアリング及び前記クラッチに充填したグリスの漏出を防止したことを特徴とする請求項1記載のタグボート用ウインチ。
【請求項3】
前記クラッチをドッグクラッチとし、当該クラッチの噛合歯を囲繞するクラッチカバーを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のタグボート用ウインチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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