説明

タグ付け方法

食品添加剤としての使用が容認できる少なくとも1のトレーサー化合物を含むトレーサー物質を物品に加えることによりタグ付けされた物品を形成すること;そして引き続き前記物品のサンプルを分析して前記トレーサー化合物の有無を調べ、これによって前記サンプルがタグ付けされた物品のサンプルであるかどうかを決定すること;を含む、物品を識別する方法。この方法は、持続可能な形で管理される供給源から植物油物品を識別するのに特に有用である。認可されている食品添加剤をトレーサーとして使用することにより、サプライチェーンにおいて物品を識別することが可能となり、それと同時に、必要に応じて食品中に安全に使用することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物をタグ付けする方法、およびタグ付け方法を使用してこのような物品を識別する方法に関する。本発明は特に、特別な仕方で生産されている、あるいは特定の場所にて生産されている天然物をタグ付けする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、経済的・環境的に持続可能な仕方で生産される物品の導入と利用可能性が商業的に極めて重要となっている。化石燃料の消費量を少なくする政治的圧力が高まっていることから、代替燃料(例えば、再生可能資源から製造される燃料、特にバイオディーゼル)の製造と消費が増大している。バイオディーゼルは、長鎖脂肪酸のメチルエステルを含み、植物油(トリグリセリド)からメタノールとのエステル交換反応によって製造される。バイディーゼルの消費増大に伴う問題は、植物油が産出されるオイル含有作物を成長させるのに膨大な土地が必要になる、という点である。不法に開拓された土地や食糧生産用から不法に流用されている土地にバイオディーゼル作物を成長させると、そうした作物の生産は、環境と生物多様性に対して望ましくない結果をもたらすことがある。したがって、持続可能な仕方で生産されている植物油を識別する方法が求められている。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、持続可能な仕方で生産されている植物油を識別する方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】図1は、実施例1の各抽出イオンクロマトグラムのオーバーレイを示している。
【図2a】図2aは、実施例2の各抽出イオンクロマトグラムのオーバーレイを示している。
【図2b】図2bは、実施例2の各抽出イオンクロマトグラムのオーバーレイを示している。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明によれば、物品を識別する方法は、食品添加剤としての使用が容認できる少なくとも1のトレーサー化合物を含むトレーサー物質を物品に加えることによりタグ付けされた物品を形成すること;そして引き続き前記物品のサンプルを分析して前記トレーサー化合物の有無を調べ、これによって前記サンプルがタグ付けされた物品のサンプルであるかどうかを決定すること;を含む。食料品をタグ付けするという考え方は、米国特許出願第2004/0029295号に記載されており、該特許出願によれば、光学的に認識可能なインディシア(indicia)と共にエンボス加工された平板状微粒子がタガント(taggants)として使用される。これらの微粒子は、米食品医薬品局によって一般に安全とみなされている(GRAS)ポリマー物質からなり、検出は、顕微鏡法や蛍光法等の視覚的方法による。同様に、米国特許出願第2004/081587号は、食品への使用が認可されている香味剤を使用することにより、薬物が患者によって摂取されているかどうかを識別するための解決策を説明している。香味剤は、水性媒体(例えば、体内において見られる媒体)に対する溶解性が低いものが、そしてさらに揮発性の比較的高いものが選択される。このことは、患者が吐き出す息において、香味剤の量が微量であっても検出できることを意味している。
【0006】
本発明の方法の好ましい応用は、生物由来の天然物(すなわち、植物源または動物源である組成物か、あるいは植物源または動物源から誘導される組成物)の識別に対する応用である。このような天然物としては、植物油や動物油(特に、燃料として適した、あるいはバイオディーゼル等の燃料を製造するための供給原料として適した植物油や動物油)がある。これに代わる応用としては、燃料として(例えば、ガソリンとエタノールとの混合物である“ガソホール”として)使用されるアルコール(特に、エタノールとメタノール)のタグ付けと識別がある。他の液体物品も、本発明の方法によってタグ付け・識別することができる。“タグ付け”とは、タグ付けされた物品が形成されるよう、物品に識別可能なトレーサーもしくはタグを加えることを意味しており、ここでトレーサーは、物品のあるサンプルにおいて、当該サンプルの素性(identity)をタグ付けされた物品のサンプルとして確認するために、化学分析もしくは別の方法によって引き続き識別することができる。
【0007】
トレーサー物質は、固体物品中に組み込むことも、あるいは固体物品上にコーティングすることもできるが、本発明の方法は、トレーサー物質を、軟化状態もしくは溶融状態にて分散させることができる液体物品または固体物品をタグ付けするのに特に適している。こうして得られるタグ付け物品は、トレーサー物質と物品との均一もしくはほぼ均一な混合物を含むのが好ましい。特定の実施態様においては、本発明は、動物源や植物源から誘導される油(例えば、パーム油および大豆やトウモロコシから誘導される油)をタグ付け・識別するのに適している。トレーサーは、果実を破砕したときに、あるいは破砕した後すぐに油に加えるのが好ましい。これとは別に、トレーサーは、プロセシング段階においてトレーサー化合物が劣化するのを防止するために、初期プロセシングの後に加えることもできる。トレーサーが確実に供給源と結びつくように、トレーサーは、供給源から除去される前に粗製油に加えるのが好ましい。この趣旨で、元のそれぞれの供給源(それが地域であろうと個々の生産者であろうと)が、それぞれ特有のトレーサー物質を有してよい。このように、あるバッチの油の素性と供給源は、当該油が燃料製造のために使用されようと、他のいかなる目的に使用されようと、後続する任意のプロセシング段階においてトレーサーを分析することにより決定することができる。
【0008】
トレーサー物質は、食品添加剤[例えば、保存料、固化防止剤、コーティング、栄養剤、ガム、または香味料(好ましい)など]としての使用が容認できる少なくとも1のトレーサー化合物を含む。トレーサーは、米食品医薬品局(FDA)、および/または欧州委員会によって指定された関係機関、および/または任意の地域における食品添加剤の使用規制を担当する他の機関、または上記の機関に代わって任務を果たすための任意の機関によって許容しうる食品添加剤としてリストアップされている化合物を含むのが好ましい。適切な化合物は特に、
(i)1999/217/EC:“欧州議会の規制(EC)番号2232/96の申請において、および1996年10月28日の協議会の申請において作成の、食料品に使用されている香味物質の登録簿を採用している199年2月23日の委員会決議”(1999/217/EC: “Commission Decision of 23 February 1999 adopting a register of flavouring substances used in or on foodstuffs drawn up in application of Regulation (EC) No 2232/96 of the European Parliament and of the Council of 28 October 1996”);および/または
(ii)USコード、タイトル21−−食品と医薬品、第1章B節パート172−“ヒト消費サブパート(Human Consumption Subpart)Fに対して食品への直接添加が認可されている食品添加剤−−香味剤と関連物質、セクション172.515、合成による香味物質とアジュバント”(US Code Title 21 -- Food and Drugs, Chapter 1 Subchapter B Part 172 - “Food Additives Permitted for Direct Addition to Food for Human Consumption Subpart F -- Flavoring Agent and Related Substance Sec. 172.515 Synthetic Flavoring Substances and Adjuvants”)においてリストアップされている化合物を含む。
【0009】
関連リストへの言及は、最新情報への言及や、ときどき発せられることのある、リストの改正案に対する言及を含む。トレーサー化合物は、香味剤・エキス製造業組合(Flavor and Extract Manufacturers Association、FEMA)等の機関による見直しに関してGRAS[“一般に安全とみなされている(generally regarded as safe)”]状態を達成しているのが好ましい。食品へ添加しても安全であることが知られている物質をトレーサー化合物として選択することによって、識別可能なトレーサーを物品にタグ付けすることができ、これによりタグ付けされた物品を必要に応じて食品中に使用することが可能となる。
【0010】
トレーサー化合物は、窒素含有ヘテロ環および/またはイオウ含有ヘテロ環を含んでよい。この種類の適切なトレーサー化合物としては、ピラジニルメチルスルフィド、2,3−ジメチルピラジン、2,3−ジエチル−5−メチルピラジン、および5−アセチル−2,4−ジメチルチアゾールがある。好ましいトレーサー化合物はカルボニル化合物を含む。ケトンは、アルデヒドと比較して、時間が経過しても酸化や他の形態の劣化を受けにくいので特に好ましい。さらに、周知のように、天然に産出する油脂は空気中で酸化され、その結果、時間とともに特定のアルデヒド化学種のレベルが増大することから、アルデヒドをトレーサーとして使用することはあまり好ましくない。エステルやラクトンは油脂中に天然に存在し、したがって植物油中に使用するには好ましいトレーサー化合物とは言えない。最も好ましいトレーサー化合物は、芳香族ケトン、または飽和されているか又はα,β−不飽和を含有する脂肪族ケトンを含む。ジカルボニル化合物はあまり好ましくない。適切なトレーサー化合物としては、ペンタン−2−オン、4−メチルペンタン−2−オン、4−ヘキサン−3−オン、ヘプタン−2−オン、ヘプタン−3−オン、ヘプタン−4−オン、6−メチルヘプタン−3−オン、2,6−ジメチルヘプタン−4−オン、オクタン−2−オン、オクタン−3−オン、ノナン−2−オン、ノナン−3−オン、デカン−2−オン、ウンデカン−2−オン、ウンデカン−6−オン、3−ペンテン−2−オン、4−ヘキセン−3−オン、2−メチル−3−ヘプタノン、5−メチル−2−ヘプテン−4−オン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、1−オクテン−3−オン、2−オクテン−4−オン、3−オクテン−2−オン、3−デセン−2−オン、4−フェニル−3−ブテン−2−オン、エチルビニルケトン、シクロヘキサノン、2−シクロヘキセノン、アセトフェノン、α−イオノン、ショウノウ、カルボン、ダマセノン、β−ダマスコン、フェンコン(fenchone)、ゲラニルアセトン、イソメントン、ヌートカトン、およびジンゲロン等がある。
【0011】
トレーサー化合物は、天然に存在する化合物の合成品を含めて、天然物や合成物を含んでよい。トレーサー化合物は、タグ付けされていない形態において、タグ付けしようとする物品中には存在しない化合物であるように選択することができる。これとは別に、トレーサー化合物は、トレーサー化合物の濃度より低いレベルにて非タグ付け物品中に天然に存在する化合物を含んでよい。トレーサー化合物は、物品の貯蔵と輸送の条件下において、物品中のトレーサーの濃度に大きな影響を及ぼすほどには、トレーサーの損失が蒸発によって起こらない程度に低揮発性であるよう選択するのが好ましい。トレーサー物質は、2以上のトレーサー化合物を含有してよいが、20未満のトレーサー化合物を含有するのが好ましい。少なくとも2(好ましくは2〜12)のトレーサー化合物をトレーサー物質中に使用するのが好ましい。トレーサー物質が2以上のトレーサー化合物を含有すると、利用可能な異なったトレーサー物質の数が増大する。なぜなら、それぞれのトレーサー物質は、各トレーサー化合物の有無からだけでなく、存在する各トレーサー化合物の相対量からも識別できるからである。したがって、比較的限られた数の適切なトレーサー化合物から、極めて多数のトレーサー物質を調剤することが可能となる。このことは、サプライチェーンを通して物品を識別できるよう、生産者それぞれを特異なトレーサー物質と関連させることができる、という可能性をもたらす。
【0012】
トレーサー物質は、必要に応じて、他のトレーサー化合物、色素、相溶化剤、溶媒、および希釈剤等の成分をさらに含有してよい。適切な希釈剤は、タグ付けしようとする物品と類似した性質を有する物質を含んでよく、例えばトレーサー化合物は、トレーサー物質が植物油物品をタグ付けするよう意図されている場合は、適切な植物油のサンプル中に分散させることができる。このような組成物中にトレーサー化合物を予備分散させることにより、物品中にトレーサー化合物を完全に分散させることがより容易になる。計量型ポンプは通常、パーツ・パー・ミリオンの範囲でのみ作動し、したがってパーツ・パー・ビリオンのレベルにて存在することになるトレーサーの希釈がどうしても必要である。さらに、トレーサーの一部は、ニートであるときに可燃性の液体であるので、提唱されている該トレーサーを、タグ付けしようとする油のサンプル中にブレンドすることで、これらのトレーサーはより取り扱いやすくなる。トレーサー物質は、液体であるのが好ましく、あらかじめ定められた比較的少量のトレーサー物質を物品中に分散させるのに適した確かな方法によって物品に加えるのが好ましい。計量型ポンプは、物品にトレーサー物質を加える際に使用するのに適している。これとは別に、トレーサー物質は、個別の容器中または分散可能なカプセルもしくはペレット中にまとめられた所定量あるいはアリコートにて供給することもできる。分散可能なカプセル、ペレット、もしくは錠剤を使用する場合、分散剤またはカプセル物質は、さらなる処理もしくは食品への使用に対して不適切なものとなることなく物品中に残留する物質から作製するのが好ましい。このような物質は、高分子量の飽和油脂または硬化油脂から作製されるワックス状固体であってよい。一部の粗製天然油は、20〜25℃の温度にて、さらには50〜60℃の温度でもほぼ固体の場合があり、したがって完全なブレンディングと分散が確実になされるよう、トレーサー物質を加える前に、液体状態になるまで加温しなければならい場合がある。
【0013】
選択されるトレーサー化合物は、物品において、低レベルの濃度でも、利用可能な分析法によって検出可能でなければならない。したがって、物品中の各トレーサー化合物の濃度は、選択された分析法について、当該トレーサー化合物に対し検出限界より大きくなければならない。各トレーサー化合物の濃度はさらに、天然に産出するいかなる量よりも大幅に高くなければならない。物品中のトレーサー化合物の濃度は、トレーサー化合物の食品用添加剤としての使用が認可されている濃度以下であり、通常は認可された濃度より低い。トレーサー物質は通常、各トレーサー化合物が物品中に5ppb〜5ppm(好ましくは約10〜約1000ppb、さらに好ましくは約50〜500ppb)の濃度にて存在するレベルで物品に添加される。物品に添加するトレーサー物質の量は、所定の濃度の各トレーサー化合物が物品中にもたらされるように算出するのが好ましく、各トレーサー化合物の濃度もしくは相対濃度は、タグ付けされた物品に識別可能な特性を与えるように選択される。
【0014】
各トレーサー化合物は、物品のサンプルにおいて、適切な分析法により定量的に検出可能であるのが好ましい。好ましい分析法としては、クロマトグラフィー、特に、適切な検出器と連結された液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)がある。本発明において使用するための特に好ましい分析法は、適切な検出器と連結されたガスクロマトグラフィーである。GCに連結された、窒素へテロ環とイオウへテロ環に対する好ましい検出器はパルス炎光光度検出器であり、したがってこの技術はGC−PFPDとなる。カルボニル含有化合物に対する好ましい検出器は質量分析計であり、この技術はGC−MSとなる。タグ付けされた物品サンプルは、分析にかける前に、トレーサー化合物の性質、物品の性質、および選択される分析法に応じて、1以上の予備工程(例えば、分離、誘導体化、および濃縮等)に付すことができる。必要に応じて、内部標準物質を、分析の前にサンプル中に組み込むこともできる。トレーサー化合物は、分析の前に物品サンプルから分離することができ、本発明の好ましい実施態様においては、適切な溶媒中への抽出が行われる。溶媒は、物品サンプルに対して不混和性であるように、そして分析における後続する工程のための適切なマトリックスをもたらすように選択される。これとは別に、タグ付けされた物品サンプルを容器中にて加熱し、そして上部空間のサンプルを分析(例えば、クロマトグラフィーカラム中に注入することによって)用に採取することもできる。トレーサー化合物は、必要に応じて、分析にかける前に物品サンプルから誘導体化することもできるし、あるいは物品サンプルの抽出された一部から誘導体化することもできる。物品が油または脂であるとき、トレーサー化合物は通常、先ず誘導体化試剤に対して混和性であるより流動性の高い液体中に抽出される。誘導体化が使用される場合、誘導体化は、存在しているトレーサー化合物を、サンプル中に存在している他の化合物と比較して分離および/または識別できるという、分析法の能力を高めるように選択される。熟練した分析者であれば、サンプル処理手順、および使用する方法に適した具体的な誘導体化試剤を選択することができる。
【0015】
一例として、パーム油中に分散させたケトンを含む少なくとも1のトレーサー化合物の検出において使用するための、本発明の方法の1つの好ましい実施態様に適用される適切な分析法を以下に説明する。第1の工程においては、存在するすべてのトレーサー化合物を、メタノール中に抽出することによって油から抜き取る。パーム油に対しては不混和性であるが、水性誘導体化試剤に対しては混和性であるようメタノールが選択され、メタノールは、トレーサー化合物に対する良溶媒となる。これに代わる適切な溶媒を選択することもできる。トレーサー化合物を含有するメタノール層を採集する。次いで、抽出されたメタノール性溶液とO−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(PFBHA)の水溶液とを反応させることによってトレーサー化合物を誘導体化して、対応するペンタフルオロベンジルオキシム誘導体を得る。最後に、得られた誘導体を、分析及び濃縮のため有機相(例えばクロロホルム)中に抽出する。誘導体を含有する有機層を取り出し、通常は乾燥し、次いでGC/MSによって分析する。これらの誘導体は、GCに取り付けることができる一般的な検出器で検出するのが元のケトンより簡単である。なぜなら、フッ素を含有していることから質量がより大きく、そしてさらに、同時抽出されているいかなるバックグラウンドマトリックスとも化学的にかなり異なるからである。ペンタフルオロベンジルオキシム誘導体を分析すべくGC装置に取り付けることができる一般的な検出器としては、陰イオンモードで動作する電子捕獲型検出器、ハロゲン特異的検出器、および質量分析計などがある。ペンタフルオロベンジルオキシム誘導体は、非誘導体化トレーサーよりかなり長い溶出時間を有することがあるけれども、トレーサー誘導体のシグナルを圧倒する(swamp)ために、溶出時間は、パーム油の主成分に関してあまり長くなってはならない。トレーサーのオキシム誘導体はさらに、非誘導体化トレーサーのスペクトルよりも簡単に識別・定量化される特徴的なスペクトルを有する。これとは別に、当業者であれば、おそらくは幾らかの型通りの実験の後に、カルボニル化合物のための他の適切な誘導体化用試剤を選択することができる。2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを代替の誘導体化剤として使用することができるが、あまり好ましいとは言えない。なぜなら、試験において、特に検出器が電子衝撃モードにおいて作動する質量分析計であるときには、トレーサー誘導体は、バックグラウンドマトリックスと簡単には区別しにくいからである。当業者であれば、サンプル中のトレーサー化合物の定量的な(あるいは好ましくは少なくとも半定量的な)測定値が得られるよう算出される代替の処理・分析法を選択するであろう。物品中のトレーサー化合物を直接分析することも可能である。物品が油もしくは脂である場合、脂肪質残留物の付着物が分析装置(特にクロマトグラフィーカラム)上に堆積するのを防止するために、トレーサー化合物を抜き取るのが極めて好ましい。
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
実施例1
2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、および2−ウンデカノンをそれぞれ、粗製パーム油中に500ppbの濃度にて溶解した。次いでタグ付けされた油10mlを、60℃にて1時間攪拌しながら、5mlのメタノールで抽出した。タグを含有する抽出物を取り出した。1mg/ml濃度のO−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩水溶液5mlを抽出物に加え、激しく攪拌しながら60℃にて2時間インキュベートした。次いでこの反応混合物を、60℃で20分攪拌しながら2.5mlのクロロホルムで抽出した。誘導体を含有するクロロホルム層を取り出し、脱脂綿プラグを通して乾燥してから、陰イオン化学イオン化(NCI)モードでのGC/MSによる分析に付した。使用したGC/MS機器は、J&Wサイエンティフィック(Scientific)(商標)HP−5キヤピラリーカラム(長さ30m、内径0.32mm、固定相の厚さ0.25mm)を備えた、アジレント5973マス・セレクティブ・デテクター(Mass Selective Detector)付きのアジレント(Agilent)(登録商標)6890GCであった。初期のオーブン温度は50℃であり、この温度を5分保持してから、16.67℃/分の割合で300℃まで温度を上昇させ、この温度で20分保持した。
【0018】
これらの条件に従い、メタンを試剤ガスとして使用してNCIモードにて分析を行った。イオン源と四重極の温度を、それぞれ154℃と150℃に設定した。[M−20]に対応するイオン質量を選択イオンモニタリング(SIM)モードにて観察して、個々のタグ付け物品を識別した。目的のそれぞれのイオンに対し、抽出されたイオンクロマトグラムを使用してピーク面積を測定した。2−ヘプタノントレーサーの誘導体、2−オクタノントレーサーの誘導体、2−ノナノントレーサーの誘導体、および2−ウンデカノントレーサーの誘導体に対し、m/eがそれぞれ289、303、317、および345のシグナルが観察された。図1は、各抽出イオンクロマトグラムのオーバーレイを示している。
【0019】
実施例2
2−メチル−3−ヘプタノン、6−ウンデカノン、エチルビニルケトン、5−メチル−2−ヘプテン−4−オン、および2,6−ジメチル−4−ヘプタノンをそれぞれ、500ppbの濃度にて粗製パーム油中に溶解した。次いで、タグ付けされた油10mlを、60℃で1時間攪拌しながら5mlのメタノールで抽出した。タグを含有する抽出物を取り出した。1mg/mlの濃度のO−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(PFBHA)水溶液5mlを抽出物に加え、60℃で2時間インキュベートした。次いで反応混合物を、60℃で20分攪拌しながら2.5mlのクロロホルムで抽出した。誘導体を含有するクロロホルム層を取り出し、脱脂綿プラグを通して乾燥してから、実施例1に記載したのと同じ装置および方法を使用してGC/MSによる分析に付した。2−メチル−3−ヘプタノン、6−ウンデカノン、エチルビニルケトン、5−メチル−2−ヘプテン−4−オン、および2,6−ジメチル−4−ヘプタノンの誘導体に対し、m/eがそれぞれ303、345、259、301、および317のシグナルが観察された。図2aと2bは、各抽出イオンクロマトグラムのオーバーレイを示している。
【0020】
これら実施例に記載の手順は繰り返し操作を含むが、それでもなおトレーサー化合物の定量化が可能である。実施例1)と2)に記載の化合物に関する応答の相対標準偏差(RSD)は、平均で5〜6%であることが見出された。RSDは、前述の分析法を、実施例に記載したトレーサー化合物のそれぞれに、別個の5サンプルの組み合わせに対して適用するか、あるいは単独に対して適用することによって得た。さらに、実施例に記載の手順には不確実性が付きものであるということを知ることで、トレーサー化合物を長期間にわたって観察することが可能となり、そしてトレーサー化合物の安定性や他の点に関してある結論を導き出すことが可能となる。トレーサー化合物が油中に、40℃での貯蔵にて6週間にわたって存在した場合でも、顕著な分解は観察されなかった。さらに、周囲温度未満の温度で貯蔵しても、油からのトレーサー化合物の分離は起こらなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品添加剤としての使用が容認できる少なくとも1のトレーサー化合物を含むトレーサー物質を物品に加えることによりタグ付けされた物品を形成すること、
そして引き続き前記物品のサンプルを分析して前記トレーサー化合物の有無を調べ、これによって前記サンプルがタグ付けされた物品のサンプルであるかどうかを決定すること、
を含む、物品を識別する方法。
【請求項2】
物品が生物由来の天然物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
物品が、植物源または動物源から誘導される油、脂、もしくはアルコールを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1のトレーサー化合物が、米食品医薬品局(FDA)および/または欧州委員会によって容認できる食品添加剤としてリストアップされている化合物から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1のトレーサー化合物がカルボニル化合物を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1のトレーサー化合物がケトンを含む、請求項5項に記載の方法。
【請求項7】
前記ケトンが、ペンタン−2−オン、4−メチルペンタン−2−オン、4−ヘキセン−3−オン、ヘプタン−2−オン、ヘプタン−3−オン、ヘプタン−4−オン、6−メチルヘプタン−3−オン、2,6−ジメチルヘプタン−4−オン、オクタン−2−オン、オクタン−3−オン、ノナン−2−オン、ノナン−3−オン、デカン−2−オン、ウンデカン−2−オン、ウンデカン−6−オン、3−ペンテン−2−オン、4−ヘキセン−3−オン、2−メチル−3−ヘプタノン、5−メチル−2−ヘプテン−4−オン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、1−オクテン−3−オン、2−オクテン−4−オン、3−オクテン−2−オン、3−デセン−2−オン、4−フェニル−3−ブテン−2−オン、エチルビニルケトン、シクロヘキサノン、2−シクロヘキセノン、アセトフェノン、α−イオノン、ショウノウ、カルボン、ダマセノン、β−ダマスコン、フェンコン、ゲラニルアセトン、イソメントン、ヌートカトン、およびジンゲロンからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記トレーサー化合物が、窒素含有ヘテロ環および/またはイオウ含有ヘテロ環を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記トレーサー化合物が、ピラジニルメチルスルフィド、2,3−ジメチルピラジン、2,3−ジエチル−5−メチルピラジン、および5−アセチル−2,4−ジメチルチアゾールからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
トレーサー物質が、物品中に所定の濃度のトレーサー化合物もしくは各トレーサー化合物をもたらすように算出される量にて物品に添加される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
トレーサー物質が、物品中に5ppb〜5ppmの範囲の濃度の、好ましくは約10〜約1000ppbの範囲の濃度の、さらに好ましくは50〜500ppbの範囲の濃度のトレーサー化合物もしくは各トレーサー化合物をもたらすように算出される量にて物品に添加される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
トレーサー物質が2以上のトレーサー化合物を含み、トレーサー化合物の相対量を、タグ付けされた物品に識別可能な特徴をもたらすように選択し、トレーサー化合物の特徴的な相対量を識別することによりトレーサー物質の有無を識別するために、サンプルの分析を行う、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
トレーサー物質が2〜12のトレーサー化合物を含有する、請求項12に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate


【公表番号】特表2010−539922(P2010−539922A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526368(P2010−526368)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050656
【国際公開番号】WO2009/040563
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】