説明

タグ通信装置、タグ通信方法、およびタグ通信システム

【課題】 精度の高い出力制御が可能なタグ通信装置を実現する。
【解決手段】 送信処理部7は、タグ応答信号の送信を要求するR/W要求信号を互いに異なる搬送周波数でRFIDタグ1に対して2回送信する。位相情報取得部8Aは、互いに異なる搬送周波数で送信されたタグ応答信号の位相をそれぞれ検出し、この位相差に基づいて距離算出部8Bが、リーダライタ2とRFIDタグ1との距離を算出する。出力制御部7Dは、距離算出部8Bで算出された距離に基づいて送信信号の出力レベルを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を介してRFIDタグと無線通信を行うタグ通信装置、タグ通信方法、およびタグ通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency Identification)タグ(無線タグ)の利用が普及しつつある。RFIDタグは、バーコードを代替するものとして特に物流の分野において期待を集めており、近い将来において広く普及することが予想されている。
【0003】
別の無線通信システムである携帯電話システムでは、送信側と受信側との距離に応じた送信電力レベル(出力レベル)を制御している。例えば、受信レベルを測定し、その測定結果を利用して、送信側と受信側との距離に応じた出力レベルの制御が行われている(特許文献1参照)。
【0004】
また、RFIDタグのリーダライタにおいても、上記の携帯電話システムと同様に、受信レベルに応じた出力レベル制御に関する技術がある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−154905号公報(1999年6月8日公開)
【特許文献2】特表2003−532203号公報(2003年10月28日公表)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
携帯電話端末における出力レベル制御は、例えば、29〜9dBmの範囲で行われている。つまり、ダイナミックレンジが20dBである。
【0006】
これに対して、パッシブタイプのRFIDタグとリーダライタの通信距離は、通常5m以内である。そのため、リーダライタの出力レベルのダイナミックレンジは3dB以内である。
【0007】
したがって、1dBの出力レベル制御を行う場合、携帯電話端末では1/20の影響度であるのに対し、RFIDタグ用のリーダライタでは1/3の影響度となる。そのため、RFIDタグと通信を行うリーダライタは、精度の高い出力レベル制御が要求される。
【0008】
つまり、携帯電話システムや特許文献2のように受信レベルによる出力レベル制御を行う場合、RFIDタグとリーダライタとの距離に応じた精度の高い出力レベル制御を行うことができない。そのため、リーダライタは、本来読み込まなくてもよい遠い領域に存在する不要なRFIDタグまで読み込んでしまうこととなる。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、精度の高い出力制御が可能なタグ通信装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のタグ通信装置は、RFIDタグと無線通信を行うタグ通信装置において、上記RFIDタグから、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されたタグ応答信号を受信するタグ応答信号受信部と、上記タグ応答信号を解析することによって、該RFIDタグと当該タグ通信装置との距離を算出する位置測定部と、上記位置測定部によって算出された距離に基づいて、送信信号の出力レベルを制御する出力制御部とを備えることを特徴としている。
【0011】
また、本発明のタグ通信方法は、RFIDタグと無線通信を行うタグ通信方法において、上記RFIDタグから、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されたタグ応答信号を受信するタグ応答信号受信ステップと、上記タグ応答信号を解析することによって、該RFIDタグと当該タグ通信装置との距離を算出する位置測定ステップと、上記位置測定部によって算出された距離に基づいて、送信信号の出力レベルを制御する出力制御ステップとを含むことを特徴としている。
【0012】
上記の構成および方法では、RFIDタグから互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されるタグ応答信号が受信されるようになっている。ここで、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されるタグ応答信号において、各搬送周波数における信号の位相の状態は、該タグ応答信号を送信したRFIDタグとタグ通信装置との距離に応じて異なっている。この位相の状態は、距離に応じて極めて敏感に変化するものである。すなわち、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されるタグ応答信号を解析することによって、RFIDタグとタグ通信装置との距離をより精度よく算出することが可能となる。
【0013】
そして、精度よく算出された距離に基づいて送信信号の出力レベルを制御するため、精度の高い出力制御が可能となる。そして、精度の高い距離測定結果に応じて出力レベルの制御を行うため、読み込むべきRFIDタグと通信可能な最小限の出力レベルにすることができる。その結果、省電力化を図ることができる。特に携帯型端末などに適用した場合に長時間のバッテリ運用が可能となる。さらに、必要最小限の出力レベルに抑えることができるため、他のシステムとの干渉を低減することができる。
【0014】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、上記RFIDタグが付けられた対象物を特定する対象物情報を取得する対象物情報取得部を備え、上記出力制御部は、さらに上記対象物情報取得部が取得した対象物情報に基づいて、上記出力レベルを制御する構成としてもよい。
【0015】
RFIDタグが付けられる対象物によっては、実際の物理的な距離よりも長い距離に応じた出力レベルを必要とする場合がある。例えば、誘電率の大きな対象物である。
【0016】
しかしながら、上記の構成によれば、距離および対象物情報に基づいて出力レベルを制御するため、対象物に応じた適切な出力レベルの制御を行うことができる。これにより、読み込むべきRFIDタグと確実に通信を行うことができる。
【0017】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、上記出力制御部は、上記位置測定部によって算出された距離が通信可能な最大限度の距離となるように、上記出力レベルを制御する構成としてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、読み込むべきRFIDタグよりも遠い位置に存在するRFIDタグと通信しないため、省電力化を図ることができる。また、不要なRFIDタグを読み込む必要がないため、処理速度が高速化できる。また、タグ通信装置を設置する際、通信範囲にRFIDタグを配置するだけで、タグ通信装置の出力レベルの制御を簡単に行うことができる。
【0019】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、上記タグ応答信号受信部が複数のRFIDタグからタグ応答信号を受信し、上記出力制御部は、上記位置測定部によって算出された上記複数のRFIDタグと当該タグ通信装置との距離の中から最長の距離を抽出し、抽出した距離が通信可能な最大限度の距離となるように、上記出力レベルを制御する構成としてもよい。
【0020】
上記の構成によれば、複数のRFIDタグの中で最も遠い位置にあるRFIDタグと通信可能な必要最小限の出力レベルに制御される。これにより、読み込むべきRFIDタグと通信できなくなることがないとともに、省電力化を図ることができる。
【0021】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、上記出力制御部は、出力レベルの設定指示を取得したときに上記出力レベルの制御を行い、その後、設定した出力レベルを維持する構成としてもよい。
【0022】
上記の構成によれば、一旦出力レベルの制御を行った後は、設定された最適な出力レベルが維持される。これにより、タグ通信装置を設置した際に設定指示を出すだけで出力レベルの制御を容易に行うことができる。
【0023】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、RFIDタグとの距離と、該距離に応じて予め定められた出力レベルとを対応付けた情報を記憶する出力情報記憶部を備える構成としてもよい。上記の構成によれば、距離に応じた出力レベルの算出処理を省略することができる。
【0024】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、タグ応答信号の送信を要求する要求信号をRFIDタグに対して無線により送信する制御を行う送信制御部と、上記要求信号が互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されるように制御する周波数制御部とを備える構成としてもよい。
【0025】
上記の構成では、要求信号は、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信される。この場合、RFIDタグは、要求信号を受信した時点で、該要求信号の搬送周波数に応じた搬送周波数からなるタグ応答信号を送信すればよいことになる。このようなRFIDタグは、例えば一般的に普及している安価なパッシブタイプのRFIDタグによって実現可能である。すなわち、上記の構成によれば、一般的に普及しているRFIDタグを用いて距離測定ならびに出力レベルを制御することが可能であり、特殊なRFIDタグを用いる必要がないことになる。よって、精度の高い出力レベルの制御が可能なシステムを容易かつ安価に構築することが可能となる。
【0026】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、上記位置測定部が、互いに異なる複数の搬送周波数によって受信されたタグ応答信号の各搬送周波数における信号の位相情報を取得する位相情報取得部と、上記位相情報取得部によって取得された位相情報と搬送周波数とに基づいて上記距離を算出する距離算出部とを備えている構成としてもよい。
【0027】
上記の構成によれば、タグ応答信号の各搬送周波数における信号の位相情報が取得され、この位相情報と搬送周波数とによって上記距離が算出される。ここで、詳細は後述するが、複数の搬送周波数による信号の位相情報と搬送周波数とが求められれば、距離を算出することが可能となる。すなわち、上記の構成によれば、上記距離の算出を的確に行うことができ、その結果一層精度の高い出力レベルの制御が可能なタグ通信装置を提供することができる。
【0028】
また、本発明のタグ通信装置は、上記の構成に加えて、上記タグ応答信号受信部が、互いに異なる3つ以上の搬送周波数によって送信されたタグ応答信号を受信し、上記位相情報取得部が、各搬送周波数の信号のうち、信号の状態が距離を算出する上でより好ましい状態となっている2つの搬送周波数の信号を選択して、位相情報を取得する構成としてもよい。
【0029】
上記の構成によれば、互いに異なる3つ以上の搬送周波数によって要求信号が送信されることによって、互いに異なる3つ以上の搬送周波数によるタグ応答信号が受信されることになる。ここで、タグ応答信号において、搬送周波数によっては、例えばマルチパスが発生することなどにより信号の状態が距離の算出に適していない状態となっていることも考えられる。これに対して、上記の構成によれば、互いに異なる3つ以上の搬送周波数のうち、信号の状態が距離を算出する上でより好ましい状態となっている2つの搬送周波数の信号が選択されて、これらに基づいて位相の検知が行われるので、位相の検知の精度を高めることが可能となる。よって、距離算出の精度が高まり、これに伴い、出力レベルの制御の精度を高めることが可能となる。
【0030】
また、本発明のタグ通信システムは、上記本発明のタグ通信装置と、該タグ通信装置と無線通信を行う少なくとも1つのRFIDタグとを備えることを特徴としている。
【0031】
上記の構成によれば、RFIDタグとの通信を管理する上で、タグ通信装置の出力レベルの制御を精度よく行うシステムを容易に構築することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のタグ通信装置は、RFIDタグから、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されたタグ応答信号を受信するタグ応答信号受信部と、上記タグ応答信号を解析することによって、該RFIDタグと当該タグ通信装置との距離を算出する位置測定部と、上記位置測定部によって算出された距離に基づいて、送信信号の出力レベルを制御する出力制御部とを備える。これにより、精度の高い出力制御が可能となる。
【0033】
また、本発明のタグ通信システムは、上記本発明のタグ通信装置と、該タグ通信装置と無線通信を行う少なくとも1つのRFIDタグとを備えることを特徴としている。
【0034】
上記の構成によれば、RFIDタグとの通信を管理する上で、タグ通信装置の出力レベルの制御を精度よく行うシステムを容易に構築することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について図1ないし図9に基づいて説明すると以下の通りである。
【0036】
(リーダライタの構成)
図2は、本実施形態に係るRFIDタグ通信システム(タグ通信システム)の概略構成を示すブロック図である。同図に示すように、RFIDタグ通信システムは、1つ以上のRFIDタグ1…およびリーダライタ(タグ通信装置)2を備えた構成となっている。
【0037】
RFIDタグ1は、各種物品に取り付けられるものであり、取り付けられている物品あるいはそれに関連する物や人に関する情報を記憶するものである。このRFIDタグ1は、無線通信用IC(Integrated Circuit)、記憶部、およびアンテナなどを備えた構成となっている。本実施形態においては、RFIDタグ1として、電池などの電源を有しておらず、リーダライタ2から電波で送電された電力によって回路が動作し、リーダライタ2と無線通信を行うパッシブタイプのRFIDタグを用いることが想定されている。なお、本実施形態において用いられるRFIDタグは、上記のようなパッシブタイプのRFIDタグに限定されるものではなく、電池などの電源を有するアクティブタイプのRFIDタグであっても構わない。
【0038】
リーダライタ2は、各RFIDタグ1との間で無線通信を行い、RFIDタグ1に記憶されている情報の読み書きを行う装置である。なお、本実施形態では、リーダライタ2は、RFIDタグ1に記憶されている情報の読み書きを行うものとしているが、これに限定されるものではなく、RFIDタグ1に記憶されている情報の読み出しのみを行うRFIDリーダであってもよい。
【0039】
本実施形態では、リーダライタ2が送受信する電波の周波数帯域は、800MHz〜960MHz前後のいわゆるUHF帯としている。このような周波数帯域の電波を用いることにより、リーダライタ2は、数m〜数10m程度の距離範囲内に位置するRFIDタグ1と通信可能となる。なお、本実施形態においては、UHF帯を用いた通信を想定しているが、これに限定されるものではなく、RFIDタグ向けの周波数帯域としての、13.56MHz帯、2.45GHz帯などの周波数帯域を用いてもよく、さらには、無線による通信を行うことが可能なその他の周波数帯による通信が行われても構わない。
【0040】
リーダライタ2は、送信アンテナ3、受信アンテナ(タグ応答信号受信部)4、送信処理部5、受信処理部(タグ応答信号受信部)6、通信制御部7、位置測定部8、および外部通信部9を備えた構成となっている。
【0041】
送信アンテナ3は、RFIDタグ1…に対して電波を送信するアンテナであり、受信アンテナ4は、RFIDタグ1…から送られてきた電波を受信するアンテナである。この送信アンテナ3および受信アンテナ4は、例えばパッチアンテナやアレーアンテナなどによって構成される。なお、本構成例では、送信アンテナ3と受信アンテナ4とをそれぞれ別に設けているが、1つのアンテナを送信アンテナ3および受信アンテナ4の両方の機能を有するものとして用いる構成としてもよい。
【0042】
受信処理部6は、受信アンテナ4において受信された受信信号の増幅、復調などの処理を行うブロックである。
【0043】
位置測定部8は、RFIDタグ1から受信した受信信号に基づいて、該RFIDタグ1との距離を測定するブロックである。なお、リーダライタ2とRFIDタグ1との距離とは、厳密には、リーダライタ2における送信アンテナ3とRFIDタグ1との距離と、RFIDタグ1と受信アンテナ4との距離の加算平均に相当する。また、RFIDタグ1がアクティブタイプの場合には、受信アンテナ4とRFIDタグ1との距離に相当する。
【0044】
通信制御部7は、通信対象となるRFIDタグ1に対して、送信アンテナ3および/または受信アンテナ4を介して情報の読み出しおよび/または書き込み制御、ならびに、位置測定部8によって測定された距離に応じて送信処理部5における送信信号の出力レベルの制御を行うブロックである。
【0045】
送信処理部5は、送信アンテナ3から送信される送信信号の変調、増幅などの処理を行うブロックである。なお、送信処理部5は、通信制御部7によって、送信信号の搬送周波数および送信信号の出力レベルが制御される。
【0046】
外部通信部9は、リーダライタ2において読み出されたRFIDタグ1の情報を外部装置に送信したり、外部装置からのRFIDタグ1に対する書き込み情報を受信したりするブロックである。外部装置と外部通信部9との間は、有線または無線によって通信接続されている。ここで、リーダライタ2によるRFIDタグ1に対する読み書き処理に基づいて動作する外部装置が、該リーダライタ2を内蔵する構成であっても構わない。
【0047】
なお、上記リーダライタ2が備える通信制御部7、位置測定部8、および外部通信部9は、ハードウェアロジックによって構成されていてもよいし、CPUなどの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行することにより実現する構成となっていてもよい。
【0048】
CPUなどの演算手段および記憶手段によって上記の各構成を構成する場合、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行することによって、通信制御部7、位置測定部8、および外部通信部9の各種機能および各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
【0049】
この記録媒体としては、コンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであっても良いし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読取り可能なプログラムメディアであっても良い。
【0050】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0051】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0052】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別の記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【0053】
(出力レベル制御に関する詳細構成)
次に、リーダライタ2における送信信号の出力レベル制御に関する詳細な構成について図1を参照しながら説明する。同図に示すように、送信処理部5は、周波数調整部としてのPLL(Phase Locked Loop)部5A、変調部5B、および電力増幅部5Cを備えている。また、受信処理部6は、増幅部6A、および周波数変換部6Bを備えている。また、位置測定部8は、位相情報取得部8A、および距離算出部8Bを備えている。また、通信制御部7は、周波数制御部7A、送信制御部7B、受信制御部7C、出力制御部7D、および出力テーブル記憶部(出力情報記憶部)7Eを備えている。
【0054】
受信処理部6において、増幅部6Aは、受信アンテナ4において受信された受信信号の増幅を行うブロックである。周波数変換部6Bは、増幅部6Aにおいて増幅された受信信号の周波数を変換して、より低周波の信号に変換する処理を行うブロックである。
【0055】
位置測定部8において、位相情報取得部8Aは、周波数変換部6Bによって周波数変換された受信信号の位相を検出し、これを位相情報として取得するブロックである。距離算出部8Bは、位相情報取得部8Aによって取得された位相情報に基づいて、該当RFIDタグ1とリーダライタ2との距離を算出するブロックである。この距離の算出方法の詳細については後述する。
【0056】
通信制御部7において、周波数制御部7Aは、PLL部5Aによって設定される搬送信号の周波数を制御するブロックである。送信制御部7Bは、変調部5Bに対して、送信信号を変調すべきデータを入力するブロックである。
【0057】
また、通信制御部7の受信制御部7Cは、距離算出部8Bによって算出された距離情報を通信制御部7が受信する処理を行うブロックである。受信制御部7Cは、受信した距離情報を出力制御部7Dに出力する。
【0058】
さらに、出力テーブル記憶部7Eは、RFIDタグ1とリーダライタ2との距離と、その距離を通信可能な最大限度距離とする送信信号の出力レベルとを対応付けたテーブルを記憶するものである。
【0059】
図3は、出力テーブル記憶部7Eが記憶するテーブルの一例を示す図である。図示されるように、出力テーブル記憶部7Eは、例えば距離「1.0m」と出力レベル「21dBm」とを対応付けて記憶している。この場合、出力レベル21dBmで通信可能な最大距離が1.0mであることを示している。
【0060】
また、通信制御部7の出力制御部7Dは、受信した各RFIDタグ1の距離情報のうち最も長い距離に対応する出力レベルを出力テーブル記憶部7Eから読み出し、読み出した出力レベルになるように電力増幅部5Cの増幅率を制御するブロックである。出力制御部7Dは、図示しない入力部に入力された出力レベルの設定変更指示に応じて、送信信号の出力レベルの設定処理を行い、その後、次の設定変更指示を受けるまで、設定した出力レベルを維持する。
【0061】
送信処理部5において、PLL部5Aは、送信アンテナ3から送信される送信信号の搬送周波数を設定するブロックであり、PLL回路によって構成される。変調部5Bは、PLL部5Aによって生成された搬送信号に変調を加えて送信信号にデータを重畳させる処理を行う。本実施形態においては、変調部5Bは、ASK(Amplitude Shift Keying)変調によって送信信号を生成する。なお、送信信号の変調方式としては、上記のASK変調に限定されるものではなく、FSK(Frequency Shift Keying)変調、PSK(Phase Shift Keying)変調など、その他のデジタル変調方式を採用してもよい。
【0062】
また、送信処理部5の電力増幅部5Cは、送信信号の増幅を行うブロックである。電力増幅部5Cは、通信制御部7の出力制御部7Dによって設定された出力レベルになるように送信信号の増幅を行う。
【0063】
(距離測定の方法)
次に、距離測定処理の詳細について説明する。本実施形態においては、リーダライタ2がRFIDタグ1に対してR/W要求信号(要求信号)を送信し、RFIDタグ1がこれに応じてタグ応答信号を返信するようになっている。この様子を図4(a)〜図4(c)に示す。
【0064】
リーダライタ2は、常に特定の信号を送信している一方、RFIDタグ1に対してタグ応答信号を送信することを要求する時に、図4(b)に示すように、タグ応答信号の返信を要求するR/W要求信号を送信する。すなわち、リーダライタ2における送信制御部7Bは、定常状態では定常状態を示すデータを送信するように変調部5Bを制御し、タグ応答信号を要求する際には、R/W要求信号を構成するデータを送信するように変調部5Bを制御する。RFIDタグ1は、常にリーダライタ2から送られてくる信号を監視し、R/W要求信号を受信したことを検知すると、それに応答する形でタグ応答信号を送信する。
【0065】
タグ応答信号は、図4(c)に示すように、プリアンブル部とデータ部とによって構成されている。プリアンブル部は、タグ応答信号の始まりを示すデータを示しており、同一規格(例えばEPC(Electronic Product Code))内であれば、全てのRFIDタグ1に共通の所定のデータとなっている。データ部は、プリアンブル部に引き続いて送信されるものであり、RFIDタグ1から送信される実質的な情報を示すデータを示している。このデータ部に含まれる情報としては、例えば各RFIDタグ1に固有のID情報などが挙げられ、RFIDタグ1が貼り付けられる対象物を特定する対象物情報が含まれる。他に、RFIDタグ1から送信すべき情報、例えばRFIDタグ1内の記憶部に格納されている各種情報などを含んでいてもよい。
【0066】
そして、リーダライタ2は、R/W要求信号を2回送信するとともに、各R/W要求信号の送信における搬送周波数を互いに異ならせている。すなわち、リーダライタ2における周波数制御部7Aは、1回目のR/W要求信号の送信時には、第1の周波数fで搬送信号を出力するようにPLL部5Aを制御し、2回目のR/W要求信号の送信時には、第1の周波数fとは異なる第2の周波数fで搬送信号を出力するようにPLL部5Aを制御する。この状態を、図5に示す。
【0067】
同図に示すように、第1の周波数fで送信されたR/W要求信号をRFIDタグ1が受信すると、同じく第1の周波数fでタグ応答信号が返信される。そして、リーダライタ2では、位相情報取得部8Aが受信したタグ応答信号のプリアンブル部を解析することによって、タグ応答信号の位相の変化を示すφを検出する。同様に、第2の周波数fで送信されたR/W要求信号をRFIDタグ1が受信すると、同じく第2の周波数fでタグ応答信号が返信される。そして、リーダライタ2では、位相情報取得部8Aが受信したタグ応答信号のプリアンブル部を解析することによって、タグ応答信号の位相の変化を示すφを検出する。
【0068】
なお、上記の例では、タグ応答信号の位相の変化は、プリアンブル部を解析することによって検出するようになっているが、これに限定されるものではなく、データ部をも含めて位相の変化を検出してもよいし、データ部において位相の変化を検出してもよい。ただし、変調方式がPSKである場合には、内容が変化しうるデータ部に基づいて、距離に伴う位相の変化を検出することは困難となるので、内容が固定であるプリアンブル部において位相の変化を検出することが好ましい。
【0069】
以上のようにして、位相情報取得部8Aが位相の変化φおよびφを検出すると、この位相の変化の情報が距離算出部8Bに伝送される。距離算出部8Bは、φおよびφに基づいて、RFIDタグ1とリーダライタ2との距離を以下のように算出する。
【0070】
まず、送信アンテナ3からRFIDタグ1までの距離、および、受信アンテナ4からRFIDタグ1までの距離を等しいものと仮定し、これを距離rとする。第1の周波数fおよび第2の周波数fによって搬送される信号が往復2rの距離を伝搬することによって生じる位相の変化φおよびφは、次の式で表される。
【0071】
【数1】

【0072】
上式において、cは光速を表している。上記の2つの式に基づいて、距離rは、次の式で求められる。
【0073】
【数2】

【0074】
以上のようにして、位相の変化φおよびφに基づいて、送信アンテナ3からRFIDタグ1までの距離rを求めることができる。なお、RFIDタグ1において、R/W要求信号を受信してからタグ応答信号を送信する間に、位相のずれが生じることが予想されるが、この位相のずれは、第1の周波数fおよび第2の周波数fによって搬送される信号のどちらにおいても同じ量となる。よって、RFIDタグ1における信号の送受信時に生じる位相のずれは、上記の距離の算出に影響を与えることはない。
【0075】
なお、数2において、Δφが2π以上となっている場合には、距離rを的確に算出することができない。すなわち、測定可能な距離rの最大値rmaxは、Δφ=2πの時であり、次の式で表される。
【0076】
【数3】

【0077】
ここで、例えば第1の周波数fと第2の周波数fとの差を5MHzとした場合、数3より最大距離rmaxは30mとなる。また、同様に、第1の周波数fと第2の周波数fとの差を2MHzとした場合、数3より最大距離rmaxは75mとなる。UHF帯を利用したRFID通信システムにおいて、想定される最大通信距離は10m程度であるので、上記のような測定は実用上問題がないことがわかる。
【0078】
なお、上記の最大距離rmax以上の測定が必要となる場合であっても、例えば受信信号の受信強度の測定を併用することによって、距離rの測定を行うことが可能である。具体的には、Δφが2π以上となる可能性がある場合、距離rの候補r’は、r’=r+n・rmax(nは0以上の整数)となる。よって、受信信号の受信強度は、距離rが長くなる程小さくなることを利用することによって、上記のnの値を特定することが可能となる。
【0079】
なお、アクティブタイプのRFIDタグを用いる場合には、リーダライタ2側からR/W要求信号を送信せずに、RFIDタグ側から能動的に送られるタグ応答信号に基づいて、距離の測定を行うようになっていてもよい。
【0080】
(出力レベルの設定処理の流れ)
次に、図6に示すフローチャートを参照しながら、入力部にレベル設定変更指示が入力されたときの、リーダライタ2における送信信号出力レベルの設定処理の流れについて説明する。
【0081】
出力レベルの設定変更指示が入力されると、出力制御部7Dは、電力増幅部5Cにおける出力レベルを初期値(通常、最大限の出力レベルとなっている)に設定する(S1)。
【0082】
次に、周波数制御部7Aが、R/W要求信号を送信する際の搬送信号の周波数を第1の周波数fとなるようにPLL部5Aを制御する(S2)。そして、送信制御部7Bが、R/W要求信号を示すデータを搬送信号に重畳させるように変調部5Bを制御する。
【0083】
続いて、電力増幅部5Cは、変調部5Bによって変調された送信信号を、S1で設定された最大限の出力レベルになるように増幅する。その後、増幅された送信信号が送信アンテナ3から送信される(S3)。
【0084】
次に、出力レベルの設定処理のために予め配置された複数の対象物の各々に付けられたRFIDタグ1がR/W要求信号を検出すると、タグ応答信号を返信する。このタグ応答信号を受信アンテナ4が受信し、受信処理部6が受信処理を行う(S4)。
【0085】
その後、受信制御部7Cは、各RFIDタグ1から受信すべき全ての周波数の受信信号を受信したか否かを判定し、全て受信していないと判定された場合(S5においてNO)には、S2からの処理に戻る。ここで、上記の例では、受信信号の周波数としては、第1および第2の周波数が想定されているので、受信制御部7Cは、第1および第2の周波数の受信信号をともに受信したか否かを判定することになる。
【0086】
この時点では、第1の周波数の受信信号のみを受信しているので、S2からの処理が行われることになる。そして、2回目のS2の処理において、周波数制御部7Aが、R/W要求信号を送信する際の搬送信号の周波数を第2の周波数となるようにPLL部5Aを制御する。その後、S3、S4の処理が行われ、受信すべき全ての周波数の受信信号を受信したと判定され(S5においてYES)、S6の処理に移行する。
【0087】
S6では、位相情報取得部8Aが各RFIDタグ1からの受信信号の位相情報を取得し、S7において、取得された位相情報に基づいて、距離算出部8Bが各RFIDタグ1とリーダライタ2との距離を上記した手法によって算出する。算出された各RFIDタグ1の距離情報は、受信制御部7Cを介して、出力制御部7Dに伝送される。
【0088】
次に、S8において、出力制御部7Dは、各RFIDタグ1に対応する距離情報の中から、最長の距離を抽出する。つまり、出力制御部7Dは、配置された複数のRFIDタグ1の中で最も遠い位置にあるRFIDタグ1との距離を抽出する。
【0089】
そして、S9において、出力制御部7Dは、抽出した最長距離に対応する出力レベルを出力テーブル記憶部7Eから読み出し、電力増幅部5Cにおける増幅後の送信信号の出力レベルが読み出した出力レベルになるように設定する。その後、次の設定変更指示を受けるまでの間、設定した出力レベルを維持する。すなわち、出力レベルの設定後、配置された複数のRFIDタグ1の中で最も遠い位置にあるRFIDタグ1との距離以下の範囲にあるRFIDタグ1のみと通信可能となる。以上により、出力レベルの設定処理を終了する。
【0090】
(受信処理部の具体例)
次に、増幅率の制御の基となるRFIDタグ1との距離測定における受信信号の位相を検出する処理を行う受信処理部6の具体的な構成について、図7を参照しながら以下に説明する。この具体例では、受信処理部6は、受信信号をI信号とQ信号とに分離して位置測定部8に入力することによって、位置測定部8における位相の検出処理を可能とさせるものとなっている。同図に示すように、受信処理部6は、増幅部6Aとしての2つの増幅部6A1・6A2、周波数変換部6Bとしてのミキサ6B1・6B2および90°移相部6B3を備えている。
【0091】
受信アンテナ4で受信された受信信号は、2つの経路に分岐し、一方は増幅部6A1に入力され、他方は増幅部6A2に入力される。増幅部6A1は、入力された受信信号を増幅してミキサ6B1に入力する。増幅部6A2は、入力された受信信号を増幅してミキサ6B2に入力する。
【0092】
ミキサ6B1は、増幅部6A1から入力された受信信号と、PLL部5Aから出力された搬送信号とを足し合わせることによってI信号を出力し、このI信号を位相情報取得部8Aに入力する。ミキサ6B2は、増幅部6A2から入力された受信信号と、PLL部5Aから出力され、90°移相部6B3を介して位相が90°変化させられた搬送信号とを足し合わせることによってQ信号を出力し、このQ信号を位相情報取得部8Aに入力する。
【0093】
以上の構成において行われる受信処理および距離rの算出処理の詳細について以下に説明する。
【0094】
往復2rの距離を伝搬してリーダライタ2において受信される信号は、搬送信号の周波数をfとすると、次の式で表される。
【0095】
【数4】

【0096】
上式において、tは時間、s(t)は周波数fの搬送信号によって伝送される信号の状態、D(t)は変調部5BにおいてASK変調が行われた場合のベースバンド信号、Aは搬送信号自体の振幅、φは往復2rの距離を伝搬することによる位相の変化をそれぞれ示している。この場合、ミキサ6B1によって出力されるI信号の状態を示すI(t)、および、ミキサ6B2によって出力されるQ信号の状態を示すQ(t)は、次の式で表される。
【0097】
【数5】

【0098】
【数6】

【0099】
以上より、I信号およびQ信号に基づいて、周波数fの搬送信号による信号の位相の変化φは、次の式で求められる。
【0100】
【数7】

【0101】
同様に、周波数fの搬送信号による信号の位相の変化φは、次の式で求められる。
【0102】
【数8】

【0103】
以上のようにして、位相情報取得部8Aは、入力されたI信号およびQ信号に基づいて、位相の変化φおよびφを取得する。そして、距離算出部8Bは、距離rを次の式によって算出する。
【0104】
【数9】

【0105】
(RFIDタグ通信システムの適用例)
次に、本実施形態に係るRFIDタグ通信システムの具体的な適用例について説明する。図8(a)(b)は、物品の流通が行われるシステムにおいて、流通される物品の検査・確認などを行うシステムに本RFIDタグ通信システムを適用した場合の例を示している。
【0106】
まず、リーダライタ2を設置する際には、図8(a)に示されるように、RFIDタグ1が通過すると想定される領域(想定エリア)にのみ、1つ以上のRFIDタグ1を配置する。このとき、想定エリアにおいて、リーダライタ2から最も遠い位置にRFIDタグ1を配置することが好ましい。これにより、出力レベルを所望の値に設定できる。
【0107】
そして、リーダライタ2の位置測定部8は、互いに異なる2つの周波数の受信信号を用いて、各RFIDタグ1との距離を測定する。これにより、従来の受信レベル強度を用いた距離測定に比べて、精度良く距離を測定することができる。なお、図8(a)では、位置測定部8は、想定エリアに予め配置された2つのRFIDタグ1との距離2mおよび3mを測定結果として得ている。
【0108】
そして、出力制御部7Dが、位置測定部8から出力された距離情報の中から最長距離(ここでは、3m)を抽出し、抽出した最長距離が通信可能な最大限度距離となる出力レベルを出力テーブル記憶部7Eから読み出す。さらに、出力制御部7Dは、読み出した出力レベルになるように電力増幅部5Cにおける増幅率を設定する。
【0109】
これにより、図8(b)に示されるように、上記出力レベルの設定処理後において、リーダライタ2は、送信信号の出力レベルの設定変更指示を受けたときの想定エリア内に位置するRFIDタグ1のみと通信し、想定エリア外に配置されたRFIDタグ1と通信することがなくなる。ここで、上述したように、位置測定部8が互いに異なる2つの周波数の受信信号を用いることで従来よりも精度良くRFIDタグ1との距離を測定しているため、リーダライタ2は、通信可能な想定エリアの範囲を精度良く設定することができる。
【0110】
また、リーダライタ2の通信可能な範囲を必要最小限に抑えることができるため、RFIDタグ通信システムと他のシステムとの干渉が低減する。つまり、リーダライタ間の干渉が低減され、携帯電話システムなどへの影響が低減される。
【0111】
このように、本実施形態によれば、流通される物品の検査・確認などを行うシステムにおいて、リーダライタ2における送信信号の出力レベルの設定、つまり、リーダライタ2の通信可能な範囲の設定を簡単に行うことができる。これにより、リーダライタ2を様々なシステムに設置する際の初期設定処理を短時間で行うことができる。
【0112】
さらに、該出力レベルの設定が互いに異なる2つの周波数を用いて測定された距離に基づいて行われる。互いに異なる2つの周波数を用いる場合、従来の受信信号の強度を基に測定した距離と比べて精度が向上する。そのため、出力レベル設定においても精度が向上する。
【0113】
(変形例)
本実施形態では、出力制御部7Dが、複数のRFIDタグ1の中の最長距離を通信可能な最大限度距離とする出力レベルを、出力テーブル記憶部7Eから読み出すものとした。しかしながら、これに限らず、出力制御部7Dが、距離と該距離を通信可能な最大限度距離とする出力レベルとの関係式により、最長距離から出力レベルを算出してもよい。
【0114】
また、本実施形態では、送信信号の増幅率を設定する際、互いに異なる2つの周波数のタグ応答信号を基に距離を測定し、測定された距離を基に送信信号の出力レベルを設定するものとした。この互いに異なる2つの周波数のタグ応答信号を基に距離を測定する方法として、以下の方法も用いてもよい。
【0115】
≪多周波数を用いた距離測定≫
まず、リーダライタ2が、互いに異なる周波数からなる3つ以上のR/W要求信号を送信し、それぞれに対するタグ応答信号を受信する。そして、受信信号のうちで、S/Nがより高く、かつ、I信号・Q信号のレベルがより高い受信信号を2つ選択し、この選択した2つの受信信号に基づいて位相検出および位置算出を行う。
【0116】
以上の処理によって、距離算出に用いられる2つの周波数の受信信号を、マルチパスによる影響を受けることによってS/Nが劣化している受信信号や、I信号およびQ信号のいずれかが著しく小さくなっている受信信号を排除して選択することが可能となる。これにより、距離算出の精度をどのような状況でも高い状態に保つことが可能となる。
【0117】
≪MUSIC法を応用した距離算出方法≫
上記の例では、2つの周波数における受信信号の位相を検出し、これらに基づいて上記数9の式によって距離rを算出している。これに対して、以下に示すように、高分解能スペクトラム解析法の1つであるMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法の考え方を応用することによって距離rを算出することが可能となる。
【0118】
MUSIC法とは、従来、電波の到来方向を推定する手法として広く知られている。このMUSIC法では、複数のアンテナ素子によって受信された受信信号を解析することによって、電波の到来方向を推定するようになっている。これに対して、本発明者は、従来のMUSIC法による到来方向推定における各アンテナ素子からの受信信号を、上記の各周波数の受信信号に置き換え、MUSIC法における適用モデル(モードベクトル)(以下の数10)を以下の数11のように変えることによって、距離rの推定を行うことが可能となることを見いだした。
【0119】
【数10】

【0120】
【数11】

【0121】
以下に、MUSIC法を応用した距離測定処理の詳細について説明する。なお、以下で示す距離測定処理は、位置測定部8において行われる。
【0122】
周波数fの受信信号において、I信号の状態を示すI(t)、および、Q信号の状態を示すQ(t)は、前記した数5および数6のように表される。ここで、周波数fの受信信号を複素表現で表したx(t)は、次の式で表される。
【0123】
【数12】

【0124】
同様に、周波数fの受信信号を複素表現で表したx(t)は、次の式で表される。
【0125】
【数13】

【0126】
ここで、受信信号をN通りの周波数で受信した場合を考えると、周波数f〜fの受信信号に基づいて、以下に示される相関行列Rxxが生成される。
【0127】
【数14】

【0128】
上式において、Hは複素共役転置、E[]は時間平均を示している。次に、上記で求められた相関行列Rxxの固有値分解を次式のように行う。
【0129】
【数15】

【0130】
上式において、eはRxxの固有ベクトル、μは固有値、σは雑音電力を示している。これらより以下の関係が成り立つ。
【0131】
【数16】

【0132】
【数17】

【0133】
上記より、MUSIC法におけるモードベクトルおよびMUSIC評価関数PMUSICは以下のように与えられる。
【0134】
【数18】

【0135】
上式において、rを変化させることによって、図9(b)に示すようなグラフが得られる。このグラフにおいて、横軸をr、縦軸をPMUSICとしている。このグラフに示すように、評価関数PMUSICにはピークが生じており、このピークが生じているrの値が、算出すべき距離rに相当することになる。
【0136】
なお、図9(b)に示すグラフでは、評価関数PMUSICのピークは一箇所にのみ表れているが、他の箇所にもピークが表れることもある。これは、図9(a)に示すように、マルチパスの影響を受けた場合に、そのマルチパスに相当する距離の部分でピークが表れるからである。しかしながら、マルチパスに相当する距離は、算出すべき距離rよりも長くなるので、ピークが生じている距離のうち、最も小さいrを算出すべき距離rとすることによって、マルチパスが生じていても、的確に距離rを算出することが可能となる。
【0137】
なお、他の高分解能スペクトラム解析法、例えば、Beamformer法、Capon法、LP(Linear Prediction)法、Min-Norm法、およびESPRIT法などを距離測定に応用してもよい。
【0138】
〔実施形態2〕
上記実施形態1では、出力制御部7Dが位置測定部8で測定された距離を基に、送信信号の出力レベルを制御するものとした。ただし、RFIDタグ1が貼り付けられている対象物によって、適切な送信信号の出力レベルが異なる場合がある。例えば、実際の物理的距離が1mであったとしても、そのRFIDタグ1が誘電率の大きな対象物に貼り付けられている場合、3mの物理的距離に相当する出力レベルでないと正常通信できないことがある。
【0139】
本実施形態は、距離だけではなく、対象物によっても適切な出力レベルを制御できる形態である。図10は、本実施形態に係るリーダライタ2aの構成を示すブロック図である。
【0140】
図10に示されるように、リーダライタ2aは、上記リーダライタ2と比較して、受信制御部7Cの代わりに受信制御部(対象物情報取得部)7Caを、出力制御部7Dの代わりに出力制御部7Daを、出力テーブル記憶部7Eの代わりに出力テーブル記憶部(出力情報記憶部)7Eaを備え、さらに、受信処理部6がプリアンブル抽出部6Cを備える点で異なる。その他の構成については図1に示す構成と同様であるのでここではその説明を省略する。
【0141】
プリアンブル抽出部(対象物情報取得部)6Cは、ミキサ6Bから出力されるタグ応答信号におけるプリアンブル部を抽出してこれを位置測定部8に伝送するとともに、タグ応答信号におけるデータ部を受信フレームとして通信制御部7における受信制御部7Caに伝送する。位置測定部8は、プリアンブル部を解析することによって上記のように距離を測定し、測定した情報を受信制御部7Caに伝送する。
【0142】
受信制御部7Caは、プリアンブル抽出部6Cから受信したデータ部を解析することによって、該タグ応答信号を送信したRFIDタグ1のID情報を認識する。なお、ID情報には、貼り付けられている対象物を特定する対象物情報が含まれている。また、受信制御部7Caは、上記受信制御部7Cと同様に、位置測定部8から測定されたRFIDタグ1の距離情報を受ける。受信制御部7Caは、上記距離情報と上記対象物情報とを出力制御部7Daに出力する。
【0143】
出力テーブル記憶部7Eaは、対象物情報と、RFIDタグ1との物理的な距離と、この対象物がこの距離に位置しているときの、RFIDタグ1と正常に通信可能な送信信号の出力レベル(適切出力レベル)とを対応付けて記憶するメモリである。
【0144】
図11は、出力テーブル記憶部7Eaが記憶するテーブルの一例を示す図である。図示されるように、出力テーブル記憶部7Eaは、例えば、対象物「空段ボール」と距離「1.5m」と出力レベル「25dBm」とを対応付けて記憶している。この場合、リーダライタ2aから1.5mだけ離れた位置にあり、空段ボールに貼り付けられたRFIDタグ1と通信可能な出力レベルが、25dBm以上であることを示している。
【0145】
出力制御部7Daは、受信制御部7Caから受けた対象物情報と距離情報とに対応する適切出力レベルを出力テーブル記憶部7Eaから読み出し、送信信号が読み出した適切出力レベルになるように電力増幅部を制御するブロックである。なお、出力制御部7Daは、複数のRFIDタグ1に対応する距離情報を受信制御部7Caから受けた場合、その中で最も長い距離と対象物情報とに対応する適切出力レベルを読み出す。
【0146】
次に、本実施形態における電力制御の処理手順の流れについて図12のフローチャートを参照しながら説明する。
【0147】
まず、上記実施形態1におけるS1からS8と同様の処理S11からS18が行われる。
【0148】
その後、S19において、受信制御部7Caは、RFIDタグ1のID情報に含まれる対象物情報を取得し、取得した対象物情報を出力制御部7Daに出力する。
【0149】
続いて、S20において、出力制御部7Daは、S15で測定された距離の中で最も長い距離と、S19で受けた対象物情報とに対応する適切出力レベルを出力テーブル記憶部7Eaから読み出す。そして、出力制御部7Daは、送信信号が読み出した適切出力レベルになるように電力増幅部5Cを制御する。以上により、出力レベルの設定処理を終了する。
【0150】
なお、上記説明では、出力制御部7Daは、受信信号のデータ部から抽出した対象物情報を基に、適切出力レベルを設定するものとした。しかしながら、出力制御部7Daは、対象物情報を、図示しない入力部から取得していもよい。これにより、RFIDタグ1に対象物情報が含まれていない場合であっても、利用者が入力部に対象物情報を入力することで、出力制御部7Daは、対象物と距離に応じた適切出力レベルになるように電力増幅部5Cを制御することができる。
【0151】
なお、上記実施形態2では、RFIDタグ1から送信されるデータ部の対象物情報とRFIDタグ1との距離とに応じた適切出力レベルになるように電力増幅部5Cを制御したが、距離に応じた制御が不要である場合、出力制御部7Daは、データ部の対象物情報のみに応じた適切出力レベルになるように電力増幅部5Cを制御してもよい。この場合、出力テーブル記憶部7Eaは、対象物情報と該対象物に適切な出力レベルとを対応付けて記憶していればよい。なお、対象物情報は、例えば、RFIDタグ1が貼り付けられた対象物が液体なのか、金属体なのか、乾燥物なのか示す情報である。これにより、対象物に合せて出力レベルを制御することができる。
【0152】
なお、上記説明では、リーダライタ2aが対象物情報とRFIDタグ1との距離と適切出力レベルとを対応付けたテーブルを記憶する出力テーブル記憶部7Eaを備える構成とした。しかしながら、これに限らず、RFIDタグ1内に、対象物情報の他に、該対象物に応じた距離と適切出力レベルとを対応付けたテーブルが格納されていてもよい。この場合、リーダライタ2aは、受信したデータ部から、対象物に応じた距離と適切出力レベルとを対応付けたテーブルを読み出し、該テーブルに応じて出力レベルの設定を行えばよい。
【0153】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明に係るタグ通信装置およびこれを備えたタグ通信システムは、例えば上記した流通される物品の検査・確認などを行うシステム、店舗などにおいて、商品の盗難監視などを行うシステム、駅や映画館などの改札が必要となる場所に設置される改札システム、キーレスエントリシステムなどの用途に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】実施形態1に係るRFIDタグ通信システムが備えるリーダライタにおいて、送信信号の出力レベルを制御するための構成の概略を示すブロック図である。
【図2】上記RFIDタグ通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態1に係るリーダライタが備える出力テーブル記憶部の一記憶例を示す図である。
【図4】(a)は、リーダライタとRFIDタグとの間でR/W要求信号およびタグ応答信号の送受信が行われる状態を示す図であり、(b)は、R/W要求信号の送信状態を示す図であり、(c)は、タグ応答信号の送信状態を示す図である。
【図5】2つの異なる周波数によるR/W要求信号およびタグ応答信号の送受信が行われた際の位相の変化を示す図である。
【図6】実施形態1における出力レベルの設定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】位相の検出を行うことを可能とする受信処理部の具体的な構成を含むリーダライタの概略構成を示すブロック図である。
【図8】流通される物品の検査・確認などを行うシステムに本RFIDタグ通信システムを適用した場合の例を示す図であり、(a)は、出力レベルの設定時を示し、(b)は、出力レベルの設定後を示している。
【図9】(a)は、リーダライタとRFIDタグとの通信においてマルチパスが生じている状態を示す図であり、(b)は、距離に対するMUSIC評価関数の変化を示すグラフである。
【図10】実施形態2に係るリーダライタにおける、送信信号の出力レベルを制御するための構成の概略を示すブロック図である。
【図11】実施形態2に係るリーダライタが備える出力テーブル記憶部の一記憶例を示す図である。
【図12】実施形態2における出力レベルの設定処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0156】
1 RFIDタグ
2・2a リーダライタ(タグ通信装置)
3 送信アンテナ
4 受信アンテナ(タグ応答信号受信部)
4A 第1アンテナ素子
4B 第2アンテナ素子
5 送信処理部
5A PLL部
5B 変調部
5C 電力増幅部
6 受信処理部(タグ応答信号受信部)
6A・6A1・6A2 増幅部
6B 周波数変換部
6B1・6B2 ミキサ
6B3 90°移相部
6C プリアンブル抽出部
7 通信制御部
7A 周波数制御部
7B 送信制御部
7C 受信制御部
7Ca 受信制御部(対象物情報取得部)
7D・7Da 出力制御部
7E・7Ea 出力テーブル記憶部(出力情報記憶部)
8 位置測定部
8A 位相情報取得部
8B 距離算出部
9 外部通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFIDタグと無線通信を行うタグ通信装置において、
上記RFIDタグから、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されたタグ応答信号を受信するタグ応答信号受信部と、
上記タグ応答信号を解析することによって、該RFIDタグと当該タグ通信装置との距離を算出する位置測定部と、
上記位置測定部によって算出された距離に基づいて、送信信号の出力レベルを制御する出力制御部とを備えることを特徴とするタグ通信装置。
【請求項2】
上記RFIDタグが付けられた対象物を特定する対象物情報を取得する対象物情報取得部を備え、
上記出力制御部は、さらに上記対象物情報取得部が取得した対象物情報に基づいて、上記出力レベルを制御することを特徴とする請求項1に記載のタグ通信装置。
【請求項3】
上記出力制御部は、上記位置測定部によって算出された距離が通信可能な最大限度の距離となるように、上記出力レベルを制御することを特徴とする請求項1に記載のタグ通信装置。
【請求項4】
上記タグ応答信号受信部が複数のRFIDタグからタグ応答信号を受信し、
上記出力制御部は、上記位置測定部によって算出された上記複数のRFIDタグと当該タグ通信装置との距離の中から最長の距離を抽出し、抽出した距離が通信可能な最大限度の距離となるように、上記出力レベルを制御することを特徴とする請求項1に記載のタグ通信装置。
【請求項5】
上記出力制御部は、出力レベルの設定指示を取得したときに上記出力レベルの制御を行い、その後、設定した出力レベルを維持することを特徴とする請求項1に記載のタグ通信装置。
【請求項6】
RFIDタグとの距離と、該距離に応じて予め定められた出力レベルとを対応付けた情報を記憶する出力情報記憶部を備えることを特徴とする請求項1に記載のタグ通信装置。
【請求項7】
タグ応答信号の送信を要求する要求信号をRFIDタグに対して無線により送信する制御を行う送信制御部と、
上記要求信号が互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されるように制御する周波数制御部とを備えることを特徴とする請求項1記載のタグ通信装置。
【請求項8】
上記位置測定部が、
互いに異なる複数の搬送周波数によって受信されたタグ応答信号の各搬送周波数における信号の位相情報を取得する位相情報取得部と、
上記位相情報取得部によって取得された位相情報と搬送周波数とに基づいて上記距離を算出する距離算出部とを備えていることを特徴とする請求項1記載のタグ通信装置。
【請求項9】
上記タグ応答信号受信部が、互いに異なる3つ以上の搬送周波数によって送信されたタグ応答信号を受信し、
上記位相情報取得部が、各搬送周波数の信号のうち、信号の状態が距離を算出する上でより好ましい状態となっている2つの搬送周波数の信号を選択して、位相情報を取得することを特徴とする請求項5記載のタグ通信装置。
【請求項10】
RFIDタグと無線通信を行うタグ通信方法において、
上記RFIDタグから、互いに異なる複数の搬送周波数によって送信されたタグ応答信号を受信するタグ応答信号受信ステップと、
上記タグ応答信号を解析することによって、該RFIDタグと当該タグ通信装置との距離を算出する位置測定ステップと、
上記位置測定部によって算出された距離に基づいて、送信信号の出力レベルを制御する出力制御ステップとを含むことを特徴とするタグ通信方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載のタグ通信装置と、
上記タグ通信装置と無線通信を行う少なくとも1つのRFIDタグとを備えることを特徴とするタグ通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−153715(P2008−153715A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80537(P2005−80537)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】