説明

タッチパネルの製造方法、絶縁膜形成インク

【課題】直交する電極どうしの交差部に絶縁膜形成インクを噴射して絶縁膜を形成する際に、表面に凹凸の少ない絶縁膜を形成することが可能なタッチパネルの製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁膜形成工程では、X電極10のブリッジ配線11上の領域に対して、絶縁膜形成インクを選択的に噴射(配置)する。その後、基板1上の絶縁膜形成インクを加熱し、乾燥固化することで、ブリッジ配線11上に絶縁膜30が形成される。絶縁膜形成インクは、例えば、ポリシロキサン、アクリル系樹脂、及びアクリルモノマーなどの絶縁材料を液性媒体に溶解(分散)させ、更にアクリル系界面活性剤を含有させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルの製造方法、およびこれに用いる絶縁膜形成インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電容量型のタッチスクリーンは、電極が形成されたパネルの所定位置に指などを近づけることによってパネルの電極との間に容量が形成され、このようにして形成された容量を充電する電流を検出することで、所定位置を検出するものである。静電容量型のタッチスクリーンには、例えば、以下のものが開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された座標入力装置は、X電極が設けられた基板、及びY電極が設けられた基板によって液晶層が挟持された構成となっている。そして、X電極側の基板に近づけた検出ペンの電極が、X電極及びY電極との間で浮遊容量を形成し、浮遊容量を充電する際に誘起される電圧によって、検出ペンの位置を検出する(特許文献1を参照)。
【0004】
次に、特許文献2に記載された情報入出力装置は、表示部のそれぞれの画素に対応してマトリクス状に配置された電極と、それぞれの電極ごとに設けられたアクティブ素子が同一基板上に形成されている。そして、これらの電極が位置検出の際のセンシング電極として機能する(特許文献2を参照)。
【0005】
次に、特許文献3に記載された座標入力装置は、互いに交差するX電極及びY電極が、センサ基板の表面及び裏面のそれぞれに形成された構成となっている。そして、X電極側から近づけた指によって、X電極からY電極に向かう電気力線の変化に伴う電流変化によって位置を検出する(特許文献3を参照)。
【0006】
次に、特許文献4に記載された座標位置入力装置は、絶縁層を介して対向して配置され互いに交差する電極が複数設けられた構成となっている。そして、電極に近づいた操作者の指によって変化した電流を検出することによって位置検出を行う(特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−337824号公報
【特許文献2】特開平6−318136号公報
【特許文献3】特開平9−305289号公報
【特許文献4】特開平10−63403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらタッチパネルのうち、互いに直交する方向に延びるX電極とY電極とを同一面上に形成したタッチパネルは、これら2方向の電極の交差部分に絶縁膜を形成し、何れか一方向の電極は絶縁膜上に形成したブリッジ配線を経由する構成となっている。
【0009】
従来、こうしたX電極とY電極との交差部分に矩形の絶縁膜を形成する方法として、流体噴射装置から絶縁膜形成インクを噴射し、絶縁膜を形成する方法ある。しかしながら、絶縁膜を形成する材料を含む液滴を基板の面に吐出して基板の面に絶縁膜を形成する方法では、厚みを均一化した平坦な絶縁膜を形成することが困難である。つまり、平坦な基板の面の所定の領域に絶縁膜形成用の液滴を着弾させて膜を形成する場合、着弾した液滴により形成された絶縁膜形成用の液膜の状態では均一な厚みになっていても、この液膜から液性媒体が蒸発し乾燥する際、液性媒体に溶解していた溶質である絶縁膜の材料が、形成されている膜の周縁部に集積し、結果として絶縁膜の周縁部の膜厚が他の部分よりも厚くなり、平坦な絶縁膜が形成されないという問題がある。
【0010】
これは、「コーヒーリング」または「コーヒーステイン」と呼ばれる現象であり、溶質を液性媒体に溶解させた液滴を乾燥させる際に発生する現象である。すなわち、基板に広がった液膜の外縁部つまり周縁部の蒸発量が他の部分よりも多いため、それを補うように液が周縁部に向かって流れ、その結果、乾燥後、周縁部が盛り上がった膜が形成される現象である(例えば、NATURE、389巻、1997年、p.827を参照)
【0011】
こうした表面に大きな凹凸のある絶縁膜の表面に他方の電極を接続するブリッジ配線を形成すると、ブリッジ配線が局所的に薄くなって断線の懸念がある。特に、配線を形成するために配線形成用の液体材料を用いる場合は表面の凹凸による影響を受けやすく、凸部の位置に配置された配線形成用の液体材料は凹部に流動してしまうため、配線の厚みや幅をコントロールすることが困難になってしまう。結果として、大きな凹凸のある絶縁膜の表面に形成したブリッジ配線は、厚みが不均一になりやすく、抵抗値が一定にならないために品質の安定性に難があった。
【0012】
本発明にかかるいくつかの態様は、上記事情に鑑みてなされたものであり、直交する電極どうしの交差部に絶縁膜形成インクを噴射して絶縁膜を形成する際に、表面に凹凸の少ない絶縁膜を形成することが可能なタッチパネルの製造方法を提供する。
また、凹凸の少ない絶縁膜を流体噴射装置を用いて形成することが可能な絶縁膜形成インクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のいくつかの態様は次のようなタッチパネルの製造方法、および絶縁膜形成インクを提供した。
すなわち、本発明のタッチパネルの製造方法は、基板と、前記基板の一面側に形成され、互いに交差する方向に延在する複数の第1電極及び複数の第2電極と、を有するタッチパネルの製造方法であって、
前記基板上に、複数の前記第1電極と、前記第2電極を前記第1電極との交差部で切断した形状の電極膜とを形成する電極成膜工程と、少なくとも前記第2電極との交差部となる位置の前記第1電極上に、下記式(1)に示すアクリル系界面活性剤を含む絶縁膜形成インクを噴射して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、該絶縁膜の一面上を経由して前記電極膜間を接続するブリッジ配線を、印刷法を用いて形成するブリッジ配線形成工程と、 を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0014】
【化1】

【0015】
前記第1電極及び前記第2電極が、複数の島状電極部と、隣接する前記島状電極部間を接続するブリッジ配線とを有するとともに、互いの前記ブリッジ配線を交差させており、前記電極成膜工程では、前記第1電極と、前記第2電極の前記島状電極部とを形成し、前記絶縁膜形成工程では、少なくとも前記第1電極の前記ブリッジ配線上に前記絶縁膜を形成し、前記ブリッジ配線形成工程では、前記第2電極の前記ブリッジ配線を形成することが好ましい。
【0016】
前記電極成膜工程では、平面視矩形状の前記島状電極部をマトリクス状に形成するとともに、前記第1電極の前記島状電極部の角部同士を接続する前記ブリッジ配線を形成し、前記ブリッジ配線形成工程では、前記第2電極の前記島状電極部の角部同士を接続する前記ブリッジ配線を形成することが好ましい。
【0017】
前記絶縁膜形成工程において、前記絶縁膜を、前記第2電極の前記ブリッジ配線が形成される部分でくびれた平面形状に形成することが好ましい。
【0018】
前記絶縁膜形成インクは、前記アクリル系界面活性剤を0.001重量%以上、2.0重量%未満の濃度範囲で含むことが好ましい。
【0019】
本発明の絶縁膜形成インクは、流体噴射装置を用いて対象物に向けて噴射し、該対象物に絶縁膜を形成するための絶縁膜形成インクであって、前記絶縁膜形成インクは、アクリル系界面活性剤を0.001重量%以上、2.0重量%未満の濃度範囲で含むことを特徴とする。
【0020】
前記アクリル系界面活性剤の重量平均分子量は、1000〜10000の範囲であることが好ましい。
【0021】
前記アクリル系界面活性剤は、溶解度パラメーターが8〜9であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】タッチパネルの一例を示す平面図である。
【図2】タッチパネルの一例を示す断面図である。
【図3】本発明のタッチパネルの製造方法に係るフローチャートである。
【図4】流体噴射装置の概略構成を示す斜視図である。
【図5】液体材料の吐出原理を説明する説明の図である。
【図6】タッチパネルの製造工程を示す断面図である。
【図7】タッチパネルの製造工程を示す断面図である。
【図8】交差部に配置された液滴の一例を示す模式図である。
【図9】交差部に配置された液滴の別な一例を示す模式図である。
【図10】本発明の実施例、および比較例による検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のタッチパネルの製造方法、および絶縁膜形成インクの最良の形態について説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0024】
まず最初に本発明のタッチパネルの製造方法によって製造されたタッチパネルの一例について説明する。
図1は、タッチパネルの一例を示す平面図である。また、図2は、図1におけるA−A’での断面図である。
タッチパネル100は、基板1、入力領域2、及び引き回し配線60を有する。基板1は、平面視で矩形状に成形されており、その材質としてガラス、アクリル樹脂などの透明な材質が用いられる。
【0025】
入力領域2は、図1において一点鎖線で囲まれた領域であり、タッチパネルに入力される指の位置情報を検出する領域である。入力領域2には、複数のX電極(第1電極)10及び複数のY電極(第2電極)20がそれぞれ配置されている。X電極10は図示でX軸方向に沿って延在し、複数のX電極10は、Y軸方向に沿って配列されている。
【0026】
Y電極20は図示でY軸方向に沿って延在し、それぞれのY電極20は、X軸方向に沿って配列されている。これら複数のX電極(第1電極)10と、複数のY電極(第2電極)20とは、交差部で切断した形状にされ、電極膜9を構成している。そして、X電極10とY電極20とは、後述する互いのブリッジ配線を立体的に交差させることによって、入力領域2内で電気的に接触することなく配線されている。
【0027】
X電極10は、X軸方向に配列された複数の島状電極部12と、隣り合う島状電極部12同士を接続するブリッジ配線11とを備えている。島状電極部12は平面視で矩形状に形成され、一方の対角線がX軸に沿うように配置されている。
【0028】
Y電極20は、Y軸方向に配列された複数の島状電極部22と、隣り合う島状電極部22同士を接続するブリッジ配線21とを備えている。島状電極部22は平面視で矩形状に形成され、一方の対角線がY軸に沿うように配置されている。島状電極部12と島状電極部22とは、X軸方向及びY軸方向において互い違いに配置(市松状配置)されており、入力領域2では、矩形状の島状電極部12,22が平面視マトリクス状に配置されている。
【0029】
X電極10及びY電極20を構成する材質としては、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)やIZO(インジウム亜鉛酸化物:登録商標)、ZnOなどの透光性を有する抵抗体を採用することができる。引き回し配線60は、X電極10及びY電極20と接続されており、タッチパネル100の内部あるいは外部装置に設けられた駆動部及び電気信号変換/演算部(いずれも図示略)と接続されている。
【0030】
基板1の機能面1aに、島状電極部12(図示は省略),島状電極部22,及びブリッジ配線11が設けられている。ブリッジ配線11上には、絶縁膜30が形成されている。
そして、絶縁膜30上にブリッジ配線21が配置されている。
【0031】
また、基板1の機能面1aに、例えば、引き回し配線60が配置されている。引き回し配線60は、機能面1aに配置された第1層60a及び第1層60aに積層された第2層60bによって構成されていればよい。そして、この引き回し配線60を覆う配線保護膜62が形成されている。そして、これら電極及び配線を覆う平坦化膜40が形成されている。平坦化膜40上には、接着層51を介して保護基板50が配置されていればよい。また、基板1の裏面1bには、シールド層70が設けられている。
【0032】
絶縁膜30は、基板1の厚み方向Tに沿って立体的に交差するブリッジ配線11とブリッジ配線21とを絶縁する。これによって、ブリッジ配線11を介して導通する複数のX電極(第1電極)10と、ブリッジ配線21を介して導通する複数のY電極(第2電極)20とが、交差部で互いに接することなく基板1の機能面1aに配された電極膜9を構成することができる。
【0033】
絶縁膜30は、アクリル系界面活性剤を含む絶縁膜形成インクを流体噴射装置で噴射することによって形成する。こうした絶縁膜の形成方法は後ほど詳述する。絶縁膜30を構成する材料としては、例えば、ポリシロキサン、アクリル系樹脂、及びアクリルモノマーなどにアクリル系界面活性剤を含有させたものが挙げられる。ポリシロキサンを用いて形成した場合には、絶縁膜30はシリコン酸化物からなる無機絶縁膜となる。一方、アクリル系樹脂、及びアクリルモノマーを採用した場合には、絶縁膜30は樹脂材料からなる有機絶縁膜となる。また、アクリル系界面活性剤は、例えば、絶縁膜30を構成する主材料、例えば絶縁性樹脂に対して、0.001重量%以上、1.0重量%未満の濃度範囲で含有される。
【0034】
絶縁膜形成インクにアクリル系界面活性剤を含有させることによって、インク中における気泡の発生が少ないものとなる。この結果、液滴の吐出時における液滴の量が均一なものとなり、ノズル近傍に付着した気泡によってインクの液滴が目標とする位置に着弾しない現象(飛行曲り)を防止することができる。このため、絶縁膜形成インクは、液滴の吐出安定性が優れたものとなり、それぞれのブリッジ配線が立体的に交差する場所に均一な量のインクを付与することができる。
【0035】
また、絶縁膜30にアクリル系界面活性剤を含有させることによって、絶縁膜30の上面(表面)30aの平坦性が高められる。即ち、後述する絶縁膜30の形成時に、絶縁膜30を構成する材料にアクリル系界面活性剤を含有させることによって、絶縁膜形成インクが基板(特にガラス基板や電極)上に好適に濡れ広がることができる。これは、アクリル系界面活性剤と、絶縁膜材料との親和性が高く、絶縁膜形成インクの流動性が向上するためと考えられる。さらに、絶縁膜30の表面張力が緩和されるため、絶縁膜30が端部付近で盛り上がり、中心部分で凹むといった凹凸が大きな形状になることを防止し、上面(表面)30aが凹凸の少ない形状にすることができる。薄く均一に絶縁膜が形成されることで、濃度むらや屈折率の急激な変化を抑えることができ、絶縁膜上のブリッジ配線を含めて視認しにくいブリッジ配線の交差構造が形成可能となる。また、製造される多数のタッチパネル間での特性のばらつきが少ないものとなる。
【0036】
絶縁膜30の上面(表面)30aの平坦性を高めることによって、上面(表面)30aに重ねて形成するブリッジ配線21の断線を少なくする。即ち、従来のような表面に大きな凹凸のある絶縁膜の表面にブリッジ配線を形成すると、ブリッジ配線が局所的に薄くなって断線する可能性が高まる。しかし、絶縁膜30の上面(表面)30aの平坦性を高めることによって、上面(表面)30aに重ねて形成するブリッジ配線21を、厚みが均一になるように形成することが可能になり、断線する懸念がない。
【0037】
また、表面に大きな凹凸のある絶縁膜の表面にブリッジ配線を形成すると、ブリッジ配線の厚みが不均一になるために抵抗値が一定にならず、大きくバラつくという問題があったが、絶縁膜30の上面(表面)30aの平坦性を高めることによって、厚みが均一なブリッジ配線21を形成することができ、Y電極(第2電極)20の抵抗値を一定に保つことが可能になる。例えば、抵抗値のバラツキを15%以下に抑えることが可能になる。これによって、不具合がなく、また反応応答性に優れたタッチパネル100を実現できる。
【0038】
なお、絶縁膜30の構成材料には、比誘電率が4.0以下、望ましくは3.5以下である材料を採用することが好ましい。これにより、ブリッジ配線の交差部における寄生容量を低減して、タッチパネルの位置検出性能を高めることができる。
また絶縁膜30の構成材料には、屈折率が2.0以下、望ましくは1.7以下である材料を用いることが好ましい。これにより、基板1やX電極10、Y電極20との屈折率差を小さくすることができ、観察者に絶縁膜30のパターンが明瞭に見えてしまうのを防止できる。
【0039】
平坦化膜40は、基板1の機能面1aの少なくとも入力領域2を覆って形成され、X電極10やY電極20による機能面1aの凹凸を平坦化している。平坦化膜40は、図示のように、機能面1aの略全面(外部接続端子部を除く)を覆って形成されていることが好ましい。平坦化膜40により基板1の機能面1a側が平坦化されていることで、基板1と保護基板50とをほぼ全面にわたって均一に接合することができる。
また平坦化膜40の構成材料には、屈折率が2.0以下、望ましくは1.7以下である材料を用いることが好ましい。これにより、基板1やX電極10、Y電極20との屈折率差を小さくすることができ、X電極10やY電極20の配線パターンを見えにくくすることができる。
【0040】
保護基板50は、ガラスやプラスチックなどの透明基板であればよい。あるいは、本実施形態のタッチパネル100が液晶パネルや有機ELパネルなどの表示装置の前面に配置される場合には、保護基板50として、表示装置の一部として用いられる光学素子基板(偏光板や位相差板など)を用いることもできる。
【0041】
シールド層70は、ITOやIZO(登録商標)などの透明導電材料を基板1の裏面1bに成膜することで形成される。あるいは、シールド層となる透明導電膜が形成されたフィルムを用意し、かかるフィルムを基板1の裏面1bに接着した構成としてもよい。
シールド層70が設けられていることで、基板1の裏面1b側において電界を遮断する。これにより、タッチパネル100の電界が表示装置等に作用したり、表示装置等の外部機器の電界がタッチパネル100に作用したりするのを防止することができる。
【0042】
上述したような構成のタッチパネル100の動作原理について簡単に説明する。
まず、駆動部(図示略)から、引き回し配線60を介してX電極10及びY電極20に所定の電位を供給する。 なお、シールド層70には、例えばグランドの電位(接地電位)を入力する。電位が供給された状態で、保護基板50側から入力領域2に向けて手指を近づけると、保護基板50に近づけた手指と、接近位置付近のX電極10及びY電極20のそれぞれとの間に寄生容量が形成される。すると、寄生容量が形成されたX電極10及びY電極20では、この寄生容量を充電するために一時的な電位低下が引き起こされる。
【0043】
駆動部では、各電極の電位をセンシングしており、上述の電位低下が発生したX電極10及びY電極20を即座に検出する。そして、検出された電極の位置を電気信号変換/演算部によって解析することによって、入力領域2における指の位置情報が検出される。具体的には、X軸方向に延在するX電極10によって、手指が接近した位置の入力領域2におけるY座標が検出され、Y軸方向に延在するY電極20によって、入力領域2におけるX座標が検出される。以上の動作によって、手指で指定された入力領域2におけるX座標、およびY座標のデータを得ることができる。
【0044】
次に、本発明のタッチパネルの製造方法について説明する。本実施形態においては、図1及び図2に示したタッチパネル100の製造方法について説明する。
図3は、タッチパネルの製造方法の概要を示すフローチャートである。
本実施形態のタッチパネルの製造工程は、基板1の機能面1aに、島状電極部12,22、ブリッジ配線11、及び引き回し配線60の第1層60aを形成する電極成膜工程S10と、引き回し配線60の第1層60aに第2層60bを積層する補助配線形成工程S20と、ブリッジ配線11上に絶縁膜30を形成するとともに、引き回し配線60を覆って配線保護膜62を形成する絶縁膜形成工程S30と、絶縁膜30上を経由して隣り合った島状電極部22同士を接続するブリッジ配線21を形成するブリッジ配線形成工程S40と、基板1の機能面1a側を平坦化する平坦化膜40を形成する平坦化膜形成工程(保護膜形成工程)S50と、接着層51を介して保護基板50を平坦化膜40と接合する保護基板接合工程(接着層形成工程)S60と、基板1の裏面1bにシールド層70を形成するシールド層形成工程(導電膜形成工程)S70とを有している。
【0045】
本実施形態のタッチパネル100の製造工程は、印刷法の一種である液滴吐出法によって成膜する工程を有している。そこで、タッチパネルの製造方法の説明に先立ち、液滴吐出を行う流体噴射装置について説明する。
【0046】
図4は、流体噴射装置(インクジェットプリンター)の概略構成を示す斜視図である。流体噴射装置IJは、液滴吐出ヘッド1001と、X軸方向駆動軸1004と、Y軸方向ガイド軸1005と、制御装置CONTと、ステージ1007と、クリーニング機構1008と、基台1009と、ヒータ1015とを備えている。
【0047】
ステージ1007は、この流体噴射装置IJにより液体材料(インク)を噴射される基板Pを支持するものであって、基板Pを基準位置に固定する固定機構(図示略)を備えている。液滴吐出ヘッド1001は、複数の吐出ノズルを備えたマルチノズルタイプの液滴吐出ヘッドであり、長手方向とX軸方向とを一致させている。複数の吐出ノズルは、液滴吐出ヘッド1001の下面に一定間隔で設けられている。液滴吐出ヘッド1001の吐出ノズルからは、ステージ1007に支持されている基板Pに対して、前記の導電性微粒子を含む配線パターンを形成する配線パターン形成インクや、絶縁膜30を形成するための絶縁膜形成インクの液滴が吐出されるようになっている。
【0048】
X軸方向駆動軸4には、X軸方向駆動モータ1002が接続されている。このX軸方向駆動モータ1002は、ステッピングモータ等からなるもので、制御装置CONTからX軸方向の駆動信号が供給されると、X軸方向駆動軸4を回転させる。X軸方向駆動軸4が回転すると、液滴吐出ヘッド1001はX軸方向に移動する。
【0049】
Y軸方向ガイド軸1005は、基台1009に対して動かないように固定されている。ステージ7は、Y軸方向駆動モータ3を備えている。Y軸方向駆動モータ1003はステッピングモータ等であり、制御装置CONTからY軸方向の駆動信号が供給されると、ステージ7をY軸方向に移動する。
【0050】
制御装置CONTは、液滴吐出ヘッド1001に液滴の吐出制御用の電圧を供給する。また、X軸方向駆動モータ1002に液滴吐出ヘッド1001のX軸方向の移動を制御する駆動パルス信号を、Y軸方向駆動モータ1003にステージ1007のY軸方向の移動を制御する駆動パルス信号を供給する。
【0051】
クリーニング機構1008は、液滴吐出ヘッド1001をクリーニングするものである。クリーニング機構1008には、図示は省略のY軸方向の駆動モータが備えられている。このY軸方向の駆動モータの駆動により、クリーニング機構は、Y軸方向ガイド軸1005に沿って移動する。クリーニング機構1008の移動も制御装置CONTにより制御される。
【0052】
ヒータ1015は、ここではランプアニールにより基板Pを熱処理する手段であり、基板P上に配置された液体材料に含まれる液性媒体の蒸発及び乾燥を行う。このヒータ1015の電源の投入及び遮断も制御装置CONTにより制御される。
【0053】
流体噴射装置IJは、液滴吐出ヘッド1001と基板Pを支持するステージ1007とを相対的に走査しつつ、基板Pに対して、液滴吐出ヘッド1001の下面にX軸方向に配列された複数の吐出ノズルから液滴を吐出するようになっている。
【0054】
図5は、ピエゾ方式による液体材料(インク)の吐出原理を説明する図である。
液体材料(配線パターン形成インク、絶縁膜形成インク)を収容する液体室1021に隣接してピエゾ素子1022が設置されている。液体室1021には、液体材料を収容する材料タンクを含む液体材料供給系1023を介して液体材料が供給される。ピエゾ素子1022は駆動回路1024に接続されており、この駆動回路1024を介してピエゾ素子1022に電圧を印加し、ピエゾ素子1022を変形させることにより、液体室1021が変形し、吐出ノズル1025から液体材料が吐出される。この場合、印加電圧の値を変化させることにより、ピエゾ素子1022の歪み量が制御される。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子1022の歪み速度が制御される。ピエゾ方式による液滴吐出は材料に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えにくいという利点を有する。
【0055】
本発明のタッチパネルの製造方法は、上述したような構成の流体噴射装置IJを用いる。
図6及び図7は、タッチパネル100の製造工程を段階的に示す要部断面図である。
まず、電極成膜工程S10では、例えばガラス基板である基板1上に、図4に示す流体噴射装置IJによって、例えばITO粒子を含む液体材料の液滴を選択的に配置する。具体的には、基板1上に、島状電極部12とブリッジ配線11とからなるX電極10と、Y電極20の一部である島状電極部22と、島状電極部12及び島状電極部22から延出された引き回し配線60の第1層60aとからなる液体材料のパターンを形成する。その後、基板1上に配置された液体材料(液滴)を乾燥させる。これにより、図6(a)に示すように、基板1上に、ITO粒子の集合体からなるX電極10(島状電極部12、ブリッジ配線11)、島状電極部22、及び引き回し配線60の第1層60aが形成される。
【0056】
本実施形態の電極成膜工程S10においては、ITO粒子を含有する液滴を吐出することによって、ITO膜を形成しているが、この他にも、IZO(登録商標)の粒子を含有する液滴を用いてIZO(登録商標)からなる透明導電膜を形成してもよい。
また、電極成膜工程S10では、液滴吐出法ではなく、フォトリソグラフィー法を用いたパターン形成方法も用いることができる。すなわち、スパッタ法などにより基板1の機能面1aのほぼ全面にITO膜を形成した後、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いてITO膜をパターニングすることで、X電極10(島状電極部12、ブリッジ配線11)、島状電極部22、及び引き回し配線60の第1層60aを形成するようにしてもよい。
【0057】
次に、補助配線形成工程S20では、流体噴射装置IJによって、引き回し配線60の第2層60bの構成材料を含む液体材料の液滴を第1層60a上に吐出配置する。第2層60bを形成するための液体材料としては、例えば、銀粒子を含む液体材料を用いることができる。その後、吐出配置した液滴を乾燥させる。これにより、図6(b)に示すように、第1層60a上に低抵抗の第2層60bが形成され、2層構造の引き回し配線60が入力領域2の外側の基板1上に形成される。
【0058】
引き回し配線60の第2層60bを形成する液体材料としては、銀粒子を含む液体材料のほか、例えば、Au、Al、Cu、Pdなどの金属粒子を含む液体材料や、グラファイトやカーボンナノチューブを含む液体材料を用いることができる。金属粒子やカーボン粒子は、ナノ粒子やナノワイヤーの形態で液体材料中に分散される。また、第2層60bを金属膜とする場合には、有機金属化合物を含む液体材料を用いてもよい。
【0059】
次に、絶縁膜形成工程S30及びブリッジ配線形成工程S40が順次実行される。
図8は、絶縁膜形成工程S30及びブリッジ配線形成工程S40をさらに具体的に示す説明図である。
図8(b)は、図6(c)に対応する平面図であって、ブリッジ配線21の形成領域を示す図である。図8(c)は、図6(d)に対応する平面図である。絶縁膜形成工程S30では、流体噴射装置IJによって、図6(c)及び図8(b)に示すように、X電極10のブリッジ配線11上の領域に対して、絶縁膜形成インクを選択的に噴射(配置)する。その後、基板1上の絶縁膜形成インクを加熱し、乾燥固化することで、ブリッジ配線11上に絶縁膜30が形成される。
【0060】
絶縁膜形成インクは、例えば、ポリシロキサン、アクリル系樹脂、ポリイミド樹脂、及びアクリルモノマーなどの絶縁膜形成材料を液性媒体に溶解(分散)させ、更にアクリル系界面活性剤を含有させたものである。絶縁材料としてポリシロキサンを用いて形成した場合には、絶縁膜30はシリコン酸化物からなる無機絶縁膜となる。一方、アクリル系樹脂、ポリイミド樹脂及びアクリルモノマーを採用した場合には、絶縁膜30は樹脂材料からなる有機絶縁膜となる。これら絶縁材料は、液性媒体に対して例えば、10〜30重量%程度含有させればよい。
【0061】
液性媒体は、上述したような絶縁膜形成材料を、溶解および/または分散する機能を有するものである。すなわち、液性媒体は、溶媒および/または分散媒として機能するものである。そして、通常、液性媒体は、絶縁膜形成材料を製造する過程において、その大部分が除去されるものである。
絶縁膜形成インクを構成する液性媒体としては、例えば、エステル化合物、エーテル化合物、ヒドロキシケトン、炭酸ジエステル、環状アミド化合物等を用いることができ、中でも、〔1〕多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等)の縮合物としてのエーテル(多価アルコールエーテル)や、多価アルコールまたは多価アルコールエーテルのアルキルエーテル(例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル等)、エステル(例えば、ホルメート、アセテート、プロピオネート等)、〔2〕多価カルボン酸(例えば、こはく酸、グルタル酸等)のエステル(例えば、メチルエステル等)、〔3〕分子内に少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのカルボキシル基とを有する化合物(ヒドロキシ酸)のエーテル、エステル等、〔4〕多価アルコールとホスゲンとの反応で得られるような化学構造を有する炭酸ジエステルが好ましい。液性媒体として用いることのできる化合物としては、例えば、2−(2−メトキシ−1−メチルエトキシ)−1−メチルエチルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、ビス(2−ブトキシエチル)エーテル、グルタル酸ジメチル、エチレングリコールジn−ブチレート、1,3−ブチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,6−ジアセトキシヘキサン、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、3−メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、オクタン酸エチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸シクロヘキシル、こはく酸ジエチル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、こはく酸ジメチル、1−ブトキシ−2−プロパノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブチルアセテート、ジアセチン、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブチルグリコレート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ビス(2−プロポキシエチル)エーテル、ジエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、n−ノニルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ブチルセロソルブアセテート等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
中でも、液性媒体としては、炭酸プロピレン(以下、適宜、PC、と称する)、オクタン酸エチル(以下、適宜、EO、と称する)、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(以下、適宜、BCA、と称する)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(以下、適宜、BMGAと称する)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(以下、適宜、PEGMEA、と称する)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(以下、適宜、EDM、と称する)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(以下、適宜、BDM、と称する)、エチレングリコールブチルエーテル(以下、適宜、BC、と称する)、ジアセトンアルコール(以下、適宜、DAA、と称する)よりなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを含むことがより好ましい。
【0063】
これらの化合物は、比重が0.9から1.2程度であり、粘度が低く、温度による粘度変化が少ない化合物であるとともに、上述したような絶縁膜形成材料との親和性が高い。このため、絶絶縁膜形成材料は液性媒体に好適に溶解/分散することができる。また、液性媒体が上記のような低粘度の化合物で構成されたものであると、後述するような縁膜形成材料の製造方法において、より確実に濡れ広がるようにすることができる。
また、上述した中でも、液性媒体が沸点の高いBMGA、BCA、PC、BDM,EOを含むものである場合、絶縁膜形成用インクがノズルの近傍で非常に乾燥しにくくなり、インク付与工程における飛行曲がりの発生がより効果的に抑制される。
【0064】
液性媒体の大気圧(1気圧)下における沸点は、160〜300℃であるのが好ましく、180〜290℃であるのがより好ましく、200〜280℃であるのがさらに好ましい。液性媒体の大気圧下における沸点が前記範囲内の値であると、縁膜形成用インクを吐出する液滴吐出ヘッドにおける目詰まり等をより効果的に防止することができ、生産性を特に優れたものとすることができる。
【0065】
また、液性媒体の25℃における蒸気圧は、0.7mmHg以下であるのが好ましく、0.1mmHg以下であるのがより好ましい。液性媒体の蒸気圧が前記範囲内と値であると、絶縁膜形成用インクを吐出する液滴吐出ヘッドにおける目詰まり等をより効果的に防止することができ、絶縁膜の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0066】
絶縁膜形成用インク中における液性媒体の含有率は、50〜98wt%であるのが好ましく、60〜95wt%であるのがより好ましく、65〜93wt%であるのがさらに好ましい。液性媒体の含有率が前記範囲内の値であると、縁膜形成用インクの液滴吐出ヘッドからの吐出性を特に優れたものとしつつ、製造される絶縁膜の厚みを均等に整えることが可能であり、耐久性を優れたものとすることができる。
【0067】
このような化合物は、アクリル系界面活性剤との親和性に特に優れており、このような化合物とアクリル系界面活性剤とを絶縁膜形成インクがともに含むことで、絶縁膜形成インク中におけるアクリル系界面活性剤の上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0068】
また、アクリル系界面活性剤の重量平均分子量は、1000〜100000であることが好ましく、1000〜60000であることがさらに好ましい。これにより、アクリル系界面活性剤の絶縁膜形成インク中における流動性を高いものとしつつ、液滴の吐出安定性、カラーフィルターの明度およびコントラスト比を特に優れたものとすることができる。
【0069】
また、アクリル系界面活性剤の溶解度パラメーター(SP値)は、特に限定されないが、8.0〜9.0の範囲であることが好ましく、8〜8.5であることがより好ましい。これにより、上述したような液性媒体や、後述するような樹脂材料との親和性をより高いものとすることができ、アクリル系界面活性剤の効果はより顕著に発現される。
なお、ここでいう溶解性パラメータ(SP値)δ[(cal/cm)1/2]は、複数の物質の相溶性および親和性の指標として用いられるものであり、下記式(I)に表される式で定義される。
δ=(ΔEV/V0)1/2÷2.046[(cal/cm3)1/2] ‥‥ (I)
【0070】
ただし、ΔEV[106N・m・mol−1]は蒸発熱、V0[m・mol−1]は1molあたりの体積である。二つの物質の溶解性パラメータの差は、その二つの物質が相溶するために必要なエネルギーと密接な関係が有り、溶解性パラメータの差が小さいほど二つの物質が相溶するために必要なエネルギーは小さなものとなる。すなわち、二つの物質が存在した場合、一般に、溶解性パラメータの差が小さいほど、親和性が高く、相溶性が高いものとなる。
【0071】
溶解性パラメータは、実験によって求めることもできるが、計算によって求めることもできる。計算によって溶解性パラメータを求める方法は、いくつか提案されており、例えば、比較的高分量の材料に関しては、Smallの方法(P.A.Small:J.Appl.Chem,3,71(1953))を用いることができる。また、比較的低分子量の材料に関しては、Hildebrandの方法 (J.H.Hildebrand and R.L.Scott:The Solubility of Non−Electrolytes,ACS Monograph Series,1950)を用いることができる。これらの方法を用いることにより、溶解性パラメータをより妥当な値として得ることができ、溶解パラメータを求めることが容易なものとなる。
【0072】
具体的には、アクリル系界面活性剤としては、1970、230、LF−1980、LF−1982、LF−1983、LF−1984、LHP−95,LHP−96,UVX−35,UVX−36,UVX−270、UVX−271、UVX−272、AQ−7120、AQ−7130(以上、楠本化成社製)、BYK−350、BYK−352,BYK−354,BYK−355、BYK−358、BYK−380、BYK−381,BYK−392(以上、ビックケミー社製)等が挙げられる。
【0073】
また、アクリル系界面活性剤は、例えば、0.001重量%以上、2.0重量%未満であることが好ましく、0.01重量%以上、1.0重量%未満であることがより好ましく、上述したような本発明の効果をより顕著に得ることができる。このような絶縁膜形成インクを、例えば乾燥後に厚みが6000〜12000Å程度になるように噴射させればよい。なお、絶縁膜30を形成するに際しては、図8(b)に示すように、少なくともブリッジ配線11上の領域において液滴を隙間無く配置することが好ましい。
【0074】
このような、アクリル系界面活性剤を含有させた絶縁膜形成インクを流体噴射装置IJによって噴射させ、絶縁膜30を形成することによって、絶縁膜30の上面(表面)30aの平坦性が高められる。即ち、噴射された絶縁膜形成インクの表面張力が緩和されるため、基板1上で絶縁膜形成インクの端部付近で盛り上がり、中心部分で凹むといった凹凸が大きな形状になることを防止し、上面(表面)30aに凹凸の少ない絶縁膜30を形成することができる。
【0075】
また、図6(c)に示すように、ブリッジ配線11上の領域とともに引き回し配線60上の領域に対しても液滴を選択的に配置する。その後、基板1上の液体材料を加熱し、乾燥固化することで、引き回し配線60を覆う配線保護膜62が形成される。
【0076】
次に、ブリッジ配線形成工程S40では、図6(d)及び図8(c)に示すように、隣り合って配置された島状電極部22上と絶縁膜30上とにわたって、ITO粒子を含む液体材料の液滴を配線形状に配置する。その後、基板1上の液体材料を乾燥固化する。これにより、島状電極部22同士を接続するブリッジ配線21が形成される。
【0077】
こうしたブリッジ配線形成工程S40において、前工程の絶縁膜形成工程S30でアクリル系界面活性剤を含む絶縁膜形成インクを用いて絶縁膜30を形成しているので、絶縁膜30の上面(表面)30aの平坦性が高められており、絶縁膜30に重ねて形成するブリッジ配線21を均一な厚みで形成することができる。これにより、ブリッジ配線21が局所的に薄くなるなどして断線する懸念がない。
【0078】
また、絶縁膜30の上面(表面)30aの平坦性を高めることで、厚みが均一なブリッジ配線21を形成することができ、Y電極(第2電極)20の抵抗値を一定に保つことが可能になる。例えば、抵抗値のバラツキを15%以下に抑えることが可能になる。これによって、不具合がなく、また反応応答性に優れたタッチパネル100を実現できる。
【0079】
なお、ブリッジ配線21の形成に用いる液体材料としては、上記したITO粒子を含む液体材料のほか、IZO(登録商標)粒子や、ZnO粒子を含む液体材料を用いて形成することもできる。また、ブリッジ配線21を形成する際には、電極成膜工程S10と同一の液体材料を用いてブリッジ配線21を形成することが好ましい。すなわち、ブリッジ配線21の構成材料には、X電極10や島状電極部22の構成材料と同一の材料を用いることが好ましい。
【0080】
この後、平坦化膜形成工程S50では、図7(a)に示すように、基板1の機能面1aを平坦化させる目的で、絶縁材料からなる平坦化膜40を機能面1aのほぼ全面に形成する。更に、保護基板接合工程S60では、図7(b)に示すように、別途用意した保護基板50と平坦化膜40との間に接着剤を配置し、かかる接着剤からなる接着層51を介して保護基板50と平坦化膜40とを貼り合わせる。保護基板50は、ガラスやプラスチック等からなる透明基板のほか、偏光板や位相差板などの光学素子基板であってもよい。接着層51を構成する接着剤としては、透明な樹脂材料などを用いることができる。
【0081】
最後に、シールド層形成工程S70では、図7(c)に示すように、基板1の裏面1b(機能面1aとは反対側の面)に導電膜で構成されたシールド層70を形成する。シールド層70は、真空成膜法、スクリーン印刷法、オフセット法、液滴吐出法などの公知の成膜法を用いて形成することができる。例えばシールド層70を液滴吐出法などの印刷法を用いて形成する場合には、電極成膜工程S10、及びブリッジ配線形成工程S40で使用されるITO粒子等を含む液体材料を用いることができる。
また、基板1に対する成膜によりシールド層70を形成する方法のほかにも、一面又は両面に導電膜が成膜されたフィルムを別途用意し、かかるフィルムを基板1の裏面1bに貼り合わせることでフィルム上の導電膜をシールド層70としてもよい。
【0082】
以上の工程を経て得られたタッチパネル100は、アクリル系界面活性剤を含む絶縁膜形成インクを用いて、凹凸の少ない絶縁膜30を形成することによって、ブリッジ配線21の平坦性、および厚みの均一性が高められ、断線等の不具合の発生を防止して、反応応答性に優れたタッチパネル100を実現できる。
【0083】
上記実施形態では、絶縁膜形成工程S30において、図8に示したように、平面視略矩形状の絶縁膜30を形成することとしたが、ブリッジ配線21の形成をさらに容易にするために絶縁膜30の形状を変更してもよい。
図9は、タッチパネルの製造方法の別な実施形態を示す工程図である。図9(a)〜(c)は、前述した実施形態における図8(a)〜(c)にそれぞれ対応する。
【0084】
この実施形態では、図9(b)に示すように、絶縁膜形成工程S30において、部分的にくびれた形状の絶縁膜30を形成する。より詳しくは、島状電極部22の配列方向(Y電極20の延在方向)の絶縁膜30の幅を、図示左右方向(X電極10の延在方向)の中央部30aで狭く、両側の端部30b、30bに向かって漸次広くなるように形成する。
【0085】
そして、ブリッジ配線形成工程S40において、図9(c)に示すように、絶縁膜30の中央部30a(くびれた部分)を通過するようにブリッジ配線21を形成する。このような製造方法とすることで、ブリッジ配線21を形成するための液滴を基板1上に配置したときに、絶縁膜30の端部30b側の突出した部位が、液滴が濡れ広がるのを防止する堰部材として機能する。これにより、ブリッジ配線21とX電極10とが短絡するのを効果的に防止することができ、歩留まりよくタッチパネル100を製造することができる。
【0086】
こうした実施形態においても、アクリル系界面活性剤を含む絶縁膜形成インクを用いて、凹凸の少ない絶縁膜30を形成することによって、絶縁膜30に重ねて形成するブリッジ配線21の平坦性、および厚みの均一性が高められ、断線等の不具合の発生を防止して、反応応答性に優れたタッチパネル100を実現できる。
【実施例1】
【0087】
本発明の効果を検証した。まず、本発明の実施例として、アクリル系絶縁インクに対して、アクリル系界面活性剤を0.001%添加した絶縁膜形成インクを用いて、流体噴射装置によって絶縁膜を形成した(実施例1)。また、同様にアクリル系界面活性剤を0.25%添加した絶縁膜形成インクを用いて絶縁膜を形成した(実施例2)。
一方、比較例として、界面活性剤を含有しない絶縁膜形成インクを用いて、流体噴射装置によって絶縁膜を形成した(比較例1)。また、絶縁インクに対して、シリコーン系界面活性剤を0.1%添加した絶縁膜形成インクを用いて、流体噴射装置によって絶縁膜を形成した(比較例2)。
【0088】
これら実施例1、2および比較例1、2の絶縁膜において、図2に示す絶縁膜の幅wの範囲内での、それぞれの絶縁膜の厚みの変化を測定した。この測定結果を図10に示す。図10に示す結果によれば、本発明の実施例1では、アクリル系界面活性剤の含有量が極めて僅かであるため、絶縁膜の幅wにおける中心部分が凹み、凹凸が見られる。一方、充分な濃度のアクリル系界面活性剤を添加した実施例2では、全体に平滑で凹凸がなく、滑らかな表面形状に絶縁膜が形成されていることがわかる。
一方、界面活性剤を含有しない比較例1では、絶縁膜の幅wの範囲内で端部に顕著な突起が生じると共に、中心部分が大きく凹んでいる。また、シリコーン系界面活性剤を添加した比較例2では、絶縁膜の表面に微細な凹凸が生じ、表面が滑らかな絶縁膜が得られない
【実施例2】
【0089】
次に、、アクリル系絶縁インクに対して、いくつかの品種のアクリル系界面活性剤を濃度を変えて含有させた絶縁膜形成インクを用いて形成した絶縁膜上にブリッジ配線を形成し、このブリッジ配線の抵抗値のバラツキを検証した。検証にあたって、アクリル系界面活性剤として、楠本化成製のLF-1983,LF-1982,LF-1984,LHP-95,UVX35,BYK-381を用いた。また、アクリル系絶縁樹脂として、ダイセルサイテック社製の多官能アクリル樹脂を濃度20%として用いた。絶縁膜形成インクを噴射後は80℃10分間乾燥させ、絶縁膜を形成した。ブリッジ配線はITOとした。ブリッジ配線の線幅は200±20μmとした。
以上のような実施例2のサンプル構成と、測定した抵抗値のバラツキの評価を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示す結果によれば、アクリル系界面活性剤を0.10〜0.5%の範囲で含有させた絶縁膜形成インクを用いて絶縁膜を形成することによって、抵抗値のバラツキが少ない良好なブリッジ配線を絶縁膜上に形成可能なことが確認された。
【符号の説明】
【0092】
1…基板、2…入力領域、12,22…島状電極部、10,110…X電極(第1電極)、20,120…Y電極(第2電極)、30,80A,130…絶縁膜、11,21,121…ブリッジ配線、40,140…平坦化膜、50…保護基板、60…引き回し配線、62…配線保護膜、70,70A…シールド層(導電膜)、100,100A,200…タッチパネル、125…ダミー電極、500…液晶表示装置、1100…モバイル型パーソナルコンピュータ、S10…電極成膜工程、S20…補助配線形成工程、S30…絶縁膜形成工程、S40…ブリッジ配線形成工程、S50…平坦化膜形成工程(保護膜形成工程)、S60…保護基板接合工程(接着層形成工程)、S70…シールド層形成工程(導電膜形成工程)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の一面側に形成され、互いに交差する方向に延在する複数の第1電極及び複数の第2電極と、を有するタッチパネルの製造方法であって、
前記基板上に、複数の前記第1電極と、前記第2電極を前記第1電極との交差部で切断した形状の電極膜とを形成する電極成膜工程と、
少なくとも前記第2電極との交差部となる位置の前記第1電極上に、下記式(1)に示すアクリル系界面活性剤を含む絶縁膜形成インクを噴射して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
該絶縁膜の一面上を経由して前記電極膜間を接続するブリッジ配線を、印刷法を用いて形成するブリッジ配線形成工程と、
を少なくとも備えたことを特徴とするタッチパネルの製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記第1電極及び前記第2電極が、複数の島状電極部と、隣接する前記島状電極部間を接続するブリッジ配線とを有するとともに、互いの前記ブリッジ配線を交差させており、
前記電極成膜工程では、前記第1電極と、前記第2電極の前記島状電極部とを形成し、
前記絶縁膜形成工程では、少なくとも前記第1電極の前記ブリッジ配線上に前記絶縁膜を形成し、
前記ブリッジ配線形成工程では、前記第2電極の前記ブリッジ配線を形成することを特徴とする請求項1記載のタッチパネルの製造方法。
【請求項3】
前記電極成膜工程では、平面視矩形状の前記島状電極部をマトリクス状に形成するとともに、前記第1電極の前記島状電極部の角部同士を接続する前記ブリッジ配線を形成し、
前記ブリッジ配線形成工程では、前記第2電極の前記島状電極部の角部同士を接続する前記ブリッジ配線を形成することを特徴とする請求項2記載のタッチパネルの製造方法。
【請求項4】
前記絶縁膜形成工程において、
前記絶縁膜を、前記第2電極の前記ブリッジ配線が形成される部分でくびれた平面形状に形成することを特徴する請求項1ないし3いずれか1項記載のタッチパネルの製造方法。
【請求項5】
前記絶縁膜形成インクは、前記アクリル系界面活性剤を0.001重量%以上、2.0重量%未満の濃度範囲で含むことを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のタッチパネルの製造方法。
【請求項6】
流体噴射装置を用いて対象物に向けて噴射し、該対象物に絶縁膜を形成するための絶縁膜形成インクであって、
前記絶縁膜形成インクは、アクリル系界面活性剤を0.001重量%以上、2.0重量%未満の濃度範囲で含むことを特徴とする絶縁膜形成インク。
【請求項7】
前記アクリル系界面活性剤の重量平均分子量は、1000〜10000の範囲であることを特徴とする請求項6記載の絶縁膜形成インク。
【請求項8】
前記アクリル系界面活性剤は、溶解度パラメーターが8〜9であることを特徴とするる請求項6または7に記載の絶縁膜形成インク。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−250733(P2010−250733A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101906(P2009−101906)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】