説明

タッチパネル用ポリエステルフィルム

【課題】本発明は、熱処理を経た後においてもフィルムのヤング率の上昇が少ない、タッチパネル用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】全繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルのフィルムであって、フィルムの厚みが100〜250μm、150℃24時間の熱処理によるフィルムのヤング率変化が150mgf/μm以下、フィルムの面配向係数が0.05〜0.10であることを特徴とするタッチパネル用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル用ポリエステルフィルムに関する。詳しくは、タッチパネルの基材として用いられる、タッチパネル用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
入力デバイスとしてタッチパネルを用いた情報機器が広く普及している。タッチパネルには用途やサイズなどにより、いくつかの方式があるが、携帯電話やPDAなど小型の情報機器には抵抗膜式が主に用いられている。これは、2枚の透明導電積層体間にスペーサーを介して微小なギャップを設け、タッチパネル上方からの押圧で上下の透明導電積層体が接触することにより位置検出を行う方式である。
【0003】
基材の素材としては、ガラス基板やプラスチック基板が多用されてきた。近年、携帯電話などモバイル機器への普及により、可撓性や加工性に加えて、耐衝撃性に優れ且つ軽量であるなどの利点から、ポリエステルフィルム基材に透明導電膜を積層させるタイプタッチパネルが多くなってきている。
【0004】
タッチパネルの用途が拡大するにつれて、従来では使用されなかった過酷な環境においても使用されるようになってきている。例えば車載用のカーナビゲーションシステムの表示パネルに使用するためには80℃以上の高温下でも性能の劣化がないようにする必要がある。このため、使用環境による導電抵抗性能の劣化を防止するために、フィルム表面にインジウム−スズ−酸化物膜(ITO膜)をスパッタ法で蒸着させた後、150℃で24時間の熱処理を行いITO膜を結晶化させ、膜物性を安定化させることが一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−286078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この熱処理は、ITO膜を結晶化するために必要であるが、この熱処理によって、タッチパネル用基材としてのフィルムの特性が低下する。特に、厚みが100μmを超えるフィルムでは、熱処理後のフィルムのヤング率が高くなりすぎ、フィルムの柔軟性が低下し、タッチ入力によるフィルムの撓みが小さくなり、その結果、タッチ入力のタッチ位置の検出精度が低下する。
本発明は、熱処理を経た後においてもフィルムのヤング率の上昇が少ない、タッチパネル用ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ITO膜を結晶化させるために熱処理を行った後のフィルムのヤング率の上昇は、フィルムの面配向係数が高いほど大きくなり、面配向係数が低いほど小さくなること、フィルムの面配向係数を適切な範囲に制御することで、熱処理後による、フィルムのヤング率変化の変化の少ないタッチパネル用ポリエステルフィルムを得ることができることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、全繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルのフィルムであって、フィルムの厚みが100〜250μm、150℃24時間の熱処理によるフィルムのヤング率変化が150mgf/μm以下、フィルムの面配向係数が0.05〜0.10であることを特徴とするタッチパネル用ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱処理を経た後においてもフィルムのヤング率の上昇が少ない、タッチパネル用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステル]
本発明において、フィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルであり、全繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエチレンテレフタレートである。
【0011】
全酸成分または全ジオール成分に対して10モル%以下の割合、好ましくは3モル% 以下の割合で、共重合成分を共重合させてもよい。この共重合成分として、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。
ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない限り、添加剤を添加してもよく、例えば、帯電防止剤、UV吸収剤、酸化防止剤、安定剤を添加してもよい。
【0012】
[フィルム厚み]
本発明のタッチパネル用ポリエステルフィルムの厚みは、100〜250μm、好ましくは125〜200μmである。100μm未満であるとタッチパネルとしたときの剛性が不足して使用感に劣り、250μmを超えるとパネルの厚みが増大して装置のサイズ、重量が大きなものとなってしまうため好ましくない。
【0013】
[ヤング率変化]
本発明のタッチパネル用ポリエステルフィルムは、150℃24時間の熱処理によるヤング率変化が150mgf/μm以下である。本発明におけるヤング率は、ダイヤモンド正四角すい圧子を試料表面に押し込み、できたくぼみの大きさからビッカース硬度を評価する微小押し込み硬さ測定器を用い、試験加重1000mgで測定した値である。この圧子による押し込み法による評価では、実際にタッチパネルとして用いたときの変形を評価することができる。150℃24時間の熱処理によるヤング率変化が150mgf/μmを超えると、フィルムのヤング率が高くなりすぎ、フィルムの柔軟性が低下し、タッチ入力によるフィルムの撓みが小さくなり、タッチ入力のタッチ位置の検出精度が低下する。ヤング率変化は少ないほど好ましく、ヤング率変化の下限は0mgf/μmである。
【0014】
[面配向係数]
フィルムの面配向係数と、150℃24時間の熱処理後のフィルムのヤング率変化とはほぼ比例関係にある。上記の熱処理によるヤング率の変化を抑制するためには、フィルムの面配向係数を0.05〜0.10とする必要があり、好ましくは0.06〜0.08とする。面配向係数は、フィルムの縦方向の屈折率と横方向の屈折率を平均したものと、フィルム厚み方向の屈折率との差で表される。
【0015】
面配向係数が0.10を超えるとフィルムが熱処理によって堅くなり、タッチパネルとしたときのタッチ位置の検出精度が劣る。このため、タッチ位置の検出精度の高いフィルムを得る観点からはフィルムの面配向係数は低いほどよいが、面配向係数が0.05未満であると、フィルムに求められる機械的強度が不足することになる。
【0016】
熱処理によるフィルムのヤング率の上昇は、熱処理による構造変化も原因の一つであると考えられる。構造変化を抑制するためには、フィルムのポリエステルの固有粘度を高くすることが好ましい。固有粘度を高くするためには、フィルムの原料として重合度の高いポリエステルを使用するか、ポリエステルの溶融成型時の熱分解を極力小さくすればよいが、熱分解を抑制することには限界があるため、フィルムの原料ポリエステルとして重合度の高いポリエステルを用いることが重要である。
【0017】
原料ポリエステルの固有粘度が高いほどフィルムのポリエステルの固有粘度を高くすることができる。しかし、固有粘度が高いと溶融粘度が高くなり設備の耐圧性が不足したり、得られるフィルムの均質性が低下する問題が生じやすい。これらの問題を防ぐためには、フィルムのポリエステルの固有粘度を0.6〜0.9とすることが好ましい。このためには、原料ポリエステルの固有粘度を0.65〜1.0とすればよい。
【0018】
[製造方法]
本発明におけるポリエステルは従来公知の方法で、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとの反応で直接低重合度のポリエステルを得る方法や、テレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを、従来公知のエステル交換反応触媒である、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物の一種または二種以上を用いて反応させた後、重合反応触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。重合反応触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムによって代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物を用いることができる。
【0019】
エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重合反応前にエステル交換反応触媒を失活させる目的でトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物が通常は添加される。エステル交換反応触媒の量を基準に、これらのリン化合物は、重量比で0.5〜1.5の範囲が好ましい。リン化合物の比率が0.5以下の場合は十分な触媒失活効果が得られず熱処理による加水分解が速くなるため好ましくない。逆に1.5を超える場合にも劣化速度が上昇する。
【0020】
フィルムの原料ポリエステルの固有粘度を高くする方法としては、従来公知の方法を採用することができる。コストや生産性の高さから固相重合法を適用することが好ましい。固相重合法による固有粘度の調整は、固相重合の温度、反応時間、真空度などを適宜変更して行うこともできる。低い固有粘度のポリエステルに固相重合を施した高い固有粘度のポリエステルをブレンドする方法を採用してもよい。この方法を採用すると、固有粘度の微細な調整が可能となり、品質の制御がしやすくなるばかりでなく、生産性においても有利である。
【0021】
フィルムの延伸方法には、キャスティングして得られた未延伸フィルムを、いったん縦方向に延伸した後、別工程で横延伸する、いわゆる逐次二軸延伸方式と、縦方向と横方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸方式とがある。面配向係数を本発明の範囲にするためには、縦方向および横方向の延伸倍率をいずれも3.0〜4.5倍とし、同時二軸延伸方式で延伸することが好ましい。
【0022】
驚くべきことに、フィルムの面配向係数が同じであっても、同時二軸延伸方式で得られたフィルムは、逐次二軸延伸方式で得られたフィルムよりも熱処理後のヤング率変化が少ない。このため、本発明のタッチパネル用ポリエステルフィルムは、同時二軸延伸法で延伸することが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各物性値は以下の方法に従って測定した。「部」は「重量部」を意味する。
【0024】
(1)ヤング率
縦5mm、横5mmに切り出したサンプルフィルムについて、株式会社エリオニクス製 微小硬度計ENT−1000aを用い、試験加重=1000mgf、分割数=1000、ステップインターバル=10msecの条件で10回測定して、その平均値をヤング率とした。
【0025】
(2)ヤング率変化ΔE
サンプルフィルムを150℃24時間の熱処理した。熱処理前のヤング率Eおよび熱処理後のヤング率Eから下記式でヤング率変化ΔEを算出した。
ΔE=E−E
【0026】
(3)屈折率
アッベ屈折率計(D線589nm)を用いて測定した。
【0027】
(4)面配向係数
面配向係数ΔPは、屈折率から下記式で算出した。
ΔP=(Nx+Ny)/2−Nz
【0028】
[実施例1]
固有粘度が0.65のポリエチレンテレフタレートのチップを、タンブルドライヤーを用いて、100Pa以下の高真空下、225℃の温度にて2.5時間固相重合を行った。固相重合後のチップの固有粘度は0.75であった。
このチップを、エクストルーダーを用いて290℃の温度で溶融し、スリット状のダイを通してキャスティングドラム上に押し出して冷却した。得られた未延伸フィルムに滑り性を付与するために下記塗液を常法によりロールコーターで塗布し、クリップでフィルム両端を掴んでフィルムを100℃で2分間予熱して、縦方向3.4倍、横方向3.6倍に縦方向および横方向に同時に延伸し、230℃で2分間熱固定して、二軸延伸フィルムを得た。延伸速度は1m/1分とした。得られた二軸延伸フィルムを、150℃に加熱されたオーブン中で24時間熱処理し、微小硬度計を用いて熱処理前後のヤング率を比較した。その結果を表1に示す。なお、塗膜の厚みは0.04μmであった。
【0029】
<塗液>
共重合ポリエステル1が40重量%、共重合ポリエステル2が40重量%、微粒子が5重量%および界面活性剤が15重量%の固形分成分を固形分濃度8重量%で含有する水性塗液。
【0030】
共重合ポリエステル1:
酸成分がテレフタル酸50モル%/2,6−ナフタレンジカルボン酸49.9モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸0.1モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されている(Tg=80℃)。なお、ポリエステルは、特開平06−116487号公報の実施例1に記載の方法に準じて下記の通り製造した。すなわち、テレフタル酸ジメチル30部、イソフタル酸ジメチル27部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル5部、エチレングリコール36部、ジエチレングリコール3部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。次いで反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、共重合ポリエステルを得た。
【0031】
共重合ポリエステル2:
酸成分がテレフタル酸50モル%/イソフタル酸49.9モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸0.1モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%と変更する以外は共重合ポリエステル1の同様の製法にて共重合ポリエステルを得た(Tg=40℃)。
【0032】
微粒子:
シリカ微粒子(平均粒径:80nm)(日産化学日本触媒株式会社製 商品名スノーテックスZL)。
【0033】
界面活性剤:
ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名ナロアクティーN−70)。
【0034】
[実施例2]
延伸倍率を縦方向4.0倍、横方向4.2倍にした以外は実施例1と同様にして、二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0035】
[実施例3]
延伸倍率を縦方向3.2倍、横方向3.4倍にした以外は実施例1と同様にして、二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0036】
[比較例1]
延伸倍率を縦方向5.0倍、横方向5.2倍にした以外は実施例1と同様にして、二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0037】
[比較例2]
実施例1と同様にして未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを縦方向に3.4倍に延伸し、実施例1と同じ塗液を塗布し、さらに横方向に3.6倍に延伸して、230℃で2分間熱固定して、二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表中、延伸方法の「同時」は同時二軸延伸法を、「逐次」は逐次二軸延伸法を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のタッチパネル用フィルムは、タッチパネルの基材として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルのフィルムであって、フィルムの厚みが100〜250μm、150℃24時間の熱処理によるフィルムのヤング率変化が150mgf/μm以下、フィルムの面配向係数が0.05〜0.10であることを特徴とするタッチパネル用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
同時二軸延伸法で製造された、請求項1記載のタッチパネル用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−11371(P2011−11371A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155285(P2009−155285)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】