説明

タフテッドカーペット用一次基布

【課題】 植物由来の高分子であるポリ乳酸系重合体を用いた繊維からなるカーペット用一次基布であり、バッキング工程での熱収縮が発生することなく、より寸法安定性の良好な一次基布を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とする長繊維不織布によって構成され、前記ポリ乳酸系重合体の融点は150℃以上であり、前記芳香族ポリエステル共重合体はエチレンテレフタレート単位にイソフタル酸が5〜15モル%共重合した共重合体であり、複合長繊維の複合形態は、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合形態であるか、または、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が芯部の周りを取り囲むように複数の突起状の葉部を形成した多葉型複合形態であるタフテッドカーペット用一次基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の高分子であるポリ乳酸系重合体を用いたタフテッドカーペット用一次基布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タフテッドカーペット用一次基布とは、パイル糸を植え込んでタフティングを行う際の支持体となるものであり、主としてポリエチレンテレフタレートからなる長繊維不織布が多く用いられている。一次基布にパイル糸をタフト機により植え込んで得られるカーペット生機は、必要に応じて連続染色機等によりパイル糸の染色を行った後、カーペット生機のバックステッチ面(パイル面と反対の面)側に塩化ビニル樹脂、SBR樹脂あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等の各種樹脂によりバッキングを行って、タフテッドカーペットとなる。
【0003】
近年、石油を原料とする合成繊維は、焼却時の発熱量が多いため、自然環境保護の見地から見直しが行われている。このような状況下、原料が石油ではなく植物由来の高分子であり、かつ生分解性を有するポリ乳酸系重合体は、比較的高い融点を有することから、広い分野に使用されることが期待されている。しかしながら、この有望視されているポリ乳酸系重合体には、高温力学特性が悪いという問題がある。すなわち、ポリ乳酸系重合体のガラス転移温度(Tg)である60℃を超えると、重合体が急激に軟化することから高温下での強力が劣るというものである。このようなポリ乳酸系重合体からなる繊維をタフテッドカーペット用一次基布に適用すると、溶融した樹脂をバッキングする工程での熱に耐えられず、バッキング工程でカーペット生機が大きく収縮するという問題が発生する。したがって、ポリ乳酸系重合体からなる繊維は、上記したように高温下での物性に劣るため、常温下で用いるには問題ないが、高温雰囲気下では変形やへたりが生じるという問題がある。
【0004】
ポリ乳酸系重合体が有する上記の欠点を補うべく、本件出願人は、ポリ乳酸系重合体と特定の共重合ポリエステルとを、特定の複合形態にて複合繊維とすることにより、耐熱性を向上させた複合繊維およびこの複合繊維からなる長繊維不織布を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−206984号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物由来の高分子であるポリ乳酸系重合体を用いた繊維からなるカーペット用一次基布において、バッキング工程での熱収縮が発生することなく、より寸法安定性の良好な一次基布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、ポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とする長繊維不織布によって構成され、前記ポリ乳酸系重合体の融点は150℃以上であり、前記芳香族ポリエステル共重合体はエチレンテレフタレート単位にイソフタル酸が5〜15モル%共重合した共重合体であり、複合長繊維の複合形態は、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合形態であるか、または、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が芯部の周りを取り囲むように複数の突起状の葉部を形成した多葉型複合形態であることを特徴とするタフテッドカーペット用一次基布を要旨とするものである。
【0007】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0008】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布(以下、基布ともいう。)は、ポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とする長繊維不織布によって構成される。
【0009】
本発明において用いられるポリ乳酸系重合体は、ポリ-D-乳酸と、ポリ-L-乳酸と、D-乳酸とL-乳酸との共重合体と、D-乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L-乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D-乳酸とL-乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸を共重合体する際のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられるが、これらの中でも特に、ヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が分解性能や低コストの点から好ましい。
【0010】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体であって融点が150℃以上のもの、あるいは融点が150℃以上の重合体のブレンド体を用いる。融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体は、高い結晶性を有しているため、熱処理工程にて収縮が発生しにくく、加工安定性を有するためである。ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、ホモポリマーではなく、共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるようにモノマー成分の共重合比率を決定する。L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合であると、L−乳酸とD−乳酸との共重合比がモル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものを用いる。共重合比率が、前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、非晶性が高くなり、本発明の目的を達成し得ないこととなる。
【0011】
ポリ乳酸系重合体の溶融流量は特に限定されるものではないが、5g〜80g/10分であることが好ましい。溶融流量が5g/10分未満であると、製糸工程における高速製糸性に劣る。一方、80g/10分を超えると、ポリ乳酸系重合体の粘度が低すぎて、溶融紡糸工程で糸切れが発生しやすく操業性が低下する。また、延伸の際に糸条を構成する芳香族ポリエステル共重合体との粘度差が大きくなると、両重合体にかかる延伸応力に差が生じ、得られる複合繊維の強度が低くなる傾向となり、これによって得られる基布の機械的強度が劣りやすい。ここで、ポリ乳酸系重合体の溶融流量は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて温度210℃、2160gfで測定した値である。
【0012】
本発明において用いられる芳香族ポリエステル共重合体は、エチレンテレフタレート単位にイソフタル酸が5〜15モル%共重合した共重合体である。イソフタル酸の共重合モル比を15モル%以下とすることにより、共重合体は、明確な結晶融点を有する。すなわち、融解吸熱曲線を描いた際に、明確な融点ピークを示す。このような明確な融点ピークを有する上記共重合体は、高い結晶性を有するため、繊維は高温化に晒された場合でも熱収縮しにくく、かつ強度や伸度の低下が小さい。このため、この芳香族ポリエステル共重合体が繊維表面に配された繊維からなる本発明の基布は、熱に晒された際に、繊維が収縮しにいため、寸法安定性が良好であり、機械的強力の低下が小さく安定した品質を保持することができる。また、5モル%以上のイソフタル酸を共重合したことにより、ポリ乳酸系重合体との融点差が大きくなりすぎず、ポリ乳酸系重合体と複合紡糸する際にポリ乳酸系重合体が熱分解を生じることなく、良好に複合紡糸することができる。なお、ポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル共重合体との融点差は、90℃以下とする。なお、エチレンテレフタレート単位にイソフタル酸が5〜15モル%共重合した共重合体の融点は、約210〜240℃である。
【0013】
芳香族ポリエステル共重合体の相対粘度は1.28〜1.40が好ましく、より好ましくは1.30〜1.35である。相対粘度を上の範囲にすることにより、溶融紡糸の際、芳香族ポリエステル共重合体とポリ乳酸系重合体との溶融粘度差を小さくすることができ、実用的な強度を有する複合繊維を良好な操業状態にて溶融紡糸を行うことができる。溶融紡糸の際には、融点の高い重合体の融点よりも少なくとも10℃以上高い温度に紡糸温度を設定する。例えば、融点210℃の芳香族ポリエステル共重合体を用いる場合は、紡糸温度は少なくとも220℃に、融点240℃の芳香族ポリエステル共重合体を用いる場合は、紡糸温度は少なくとも250℃に設定する必要がある。さらには、芳香族ポリエステル共重合体の粘度が高いとさらに高い紡糸温度を設定する必要がある。しかし、紡糸温度とポリ乳酸系重合体の融点との差が大きくなると、ポリ乳酸系重合体が熱劣化や熱分解が生じる傾向となる。したがって、ポリ乳酸系重合体が熱劣化や熱分解が生じず、良好に溶融紡糸を行うためには、芳香族ポリエステル共重合体の相対粘度を上範囲に設定することが好ましいのである。芳香族ポリエステル共重合体の相対粘度を1.40以下とすることにより、より高い紡糸温度を設定することなく、ポリ乳酸系重合体の熱劣化を抑えることができる。また、ポリ乳酸系重合体との溶融粘度の差が大きくならないため、糸切れなどが発生しにくく、延伸時に両重合体にかかる延伸応力に差が生じにくいため、実用強度を有する複合繊維が得ることができる。また、相対粘度を1.28以上とすることにより、良好に溶融押出を行うことができ、実用強度を有する複合繊維を得ることができる。
【0014】
なお、長繊維を形成するための重合体には、本発明の目的を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、末端封鎖剤、可塑剤、滑剤、離形剤、帯電防止剤、充填剤等を添加してもよい。例えば、結晶核剤としてのタルクをポリ乳酸系重合体に配合することが好適である。
【0015】
本発明における複合長繊維の複合形態は、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合携帯であるか、あるいは、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が、芯部の外周を取り囲むように複数の突起状の葉部を形成した多葉型複合形態である。
【0016】
ポリ乳酸系重合体を芯部に配置し、その芯部をポリ乳酸系重合体よりも熱特性(耐熱性)に優れた芳香族ポリエステル共重合体の鞘部により覆う、あるいは芯部を芳香族ポリエステル共重合体の複数の突起状の葉部によって取り囲んで覆うことにより、ポリ乳酸系重合体の耐熱性能を補うことができる。すなわち、高温下での力学特性に劣るポリ乳酸系重合体を繊維横断面の芯部に配置して、熱特性に優れる芳香族ポリエステル共重合体にて覆うことによってポリ乳酸系重合体が繊維表面に露出しにくくして、ポリ乳酸系重合体に外部からの熱が伝わりにくい状態とし、ポリ乳酸系重合体の高温下での強度低下を抑えることができる。また、繊維横断面の芯部にポリ乳酸系重合体を配置することは、溶融紡出時にポリ乳酸系重合体の一部に熱分解が生じて劣化ポリマーが発生した場合に、劣化ポリマーがノズル面に付着することによる紡糸操業性の悪化を防ぐ効果もある。また、本発明で用いる芳香族ポリエステル共重合体は、物理的な力による損傷を受けにくいポリマーであり、例えば、不織布化する際にニードルパンチ等の3次元交絡処理や、基布にタフト糸を打ち込むタフト工程等の物理的な力によって繊維自身がダメージを受けにくいため、複合長繊維の繊維表面となる外周部(鞘部や葉部)に芳香族ポリエステル共重合体を配置することは、タフテッドカーペットとして機械的強力が優れるという効果も奏する。
【0017】
図1〜2は、本発明における長繊維の多葉型複合形態の横断面の一例を示す模式図である。図1〜2のいずれも、ポリ乳酸系重合体が芯部1を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が葉部2を形成している多葉型複合形態の繊維3である。図1では、それぞれの葉部2が芯部1により分断されており、芯部1のポリ乳酸系重合体の一部が繊維表面に露出している。図2では、葉部2が芯部1により分断されずに一連に連なった環状となって芯部1を覆っている。多葉複合型における葉部の数は、4〜10個であることが好ましい。突起状の葉部の数が少ないと、個々の葉部の大きさによっては、芯部であるポリ乳酸系重合体が繊維の表面に露出されやすく、その露出した割合が大きくなって、本発明の目的である耐熱性が達成されにくい傾向となる。なお、葉部の数が多くなると、それぞれの葉部同士が接触して、芯部を完全に覆ったいわゆる芯鞘型の断面形状となりやすく異型度が小さくなる傾向にある。また、突起状の葉部の配列形態は、繊維横断面の外周上に各々等間隔に位置していることが好ましい。葉
部が繊維横断面の外周上に各々片寄って位置すると、紡糸工程において紡出糸条がニーリングを発生するため好ましくない。
【0018】
ポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル共重合体との複合比は、ポリ乳酸系重合体/芳香族ポリエステル共重合体=3/1〜1/3(質量比)であることが好ましい。ポリ乳酸系重合体の比率が3/1を超えると、繊維全体に占めるポリ乳酸系重合体の比率が多くなるため、高温雰囲気下での基布の形態保持性が低くなる傾向にある。そのため、カーペット製造におけるバッキング工程にて熱収縮の大きく発生しやすくなる。一方、芯部の比率が1/3未満では、基布におけるポリ乳酸系重合体の使用比率が低くなるため、植物由来の高分子を使用して環境に配慮した基布を得ようという本発明の目的から外れてしまう。
【0019】
本発明における複合長繊維の単糸繊度は、0.5デシテックス〜11デシテックス程度であることが好ましい。単糸繊度が0.5デシテックス未満であると、基布の機械的強度が劣る傾向となり実用的でない。一方、単糸繊度が11デシテックスを超えると、紡糸糸条の冷却性に劣り、糸条同士が密着しやすくなる。
【0020】
本発明の基布は、前述した複合長繊維を構成繊維とする長繊維不織布によって構成される。長繊維不織布は、構成繊維同士が相互にニードルパンチ処理により三次元的に交絡して、全体として一体化されているもの(いわゆるニードルパンチ不織布)がよい。ニードルパンチ不織布は、繊維同士が不織布の厚み方向にも絡み合って配置しているため、層間剥離を起こしにくいという利点があり、タフト工程で基布が層間剥離を生じにくく形態保持性が良好となる。ニードルパンチの際の針密度は、20〜100回/cmが好ましい。針密度が20回/cm未満であると、長繊維相互間の絡み合いの程度が低く、形態保持性に劣る傾向となる。一方、針密度が100回/cmを超えると、長繊維の損傷が激しくなり、繊維自体の強力が低くなるため、基布の機械的強力が劣る傾向となる。
【0021】
また、本発明の長繊維不織布は、ポリ乳酸系重合体を被覆した共重合ポリエステルが溶融または軟化することにより繊維同士が熱接着して形態保持しているものでもよい。熱接着の形態としては、熱風処理装置や熱ロール装置に通すことにより、溶融または軟化した共重合ポリエステルを介して各繊維同士の接点において熱接着しているものであってもよいし、また、熱エンボス装置に通すことにより、部分的な熱圧着部を有するもの、すなわち、部分的に熱と圧力とが加わることにより、共重合ポリエステルが溶融または軟化した熱圧着部と、非熱圧着部とを有した不織布として形態保持しているものであってもよい。
【0022】
本発明の基布には、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂等のバインダー樹脂を付与してもよい。バインダー樹脂を付与することによって、基布の伸長時の応力や引張強力を向上させることができる。バインダー樹脂を付与する方法は、公知の方法を採用すればよく、水中に乳化分散させたバインダー樹脂液を含浸する、あるいはバインダー樹脂液をスプレー等の手法で付与した後、乾燥熱処理する方法により行う。バインダー樹脂の付着量(固形分付着量)は、繊維の総質量に対し、5〜20質量%であることが好ましい。バインダー樹脂の付着量が5質量%未満であると、バインダー樹脂を付与する効果が発揮できず、一方、付着量が20質量%を超えると、長繊維相互間に存在する樹脂が多くなりすぎて、繊維の自由度が損なわれるため、タフト工程にてタフト針による繊維の損傷が大きくなり、その結果、基布の強力が低下する傾向となる。バインダー樹脂としては、上記した繊維に適用すると同様のポリ乳酸系重合体を好適に用いることができる。また、ポリビニルアルコールや天然物であるデンプン等の多糖類、タンパク質、キトサン等を用いてもよい。その他にも、従来から使用されているアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリロニトリル、スチレンなどのモノマーを二種類以上組み合わせて所望のモル比で共重合した共重合体を採用することもできる。また、これらの共重合体をメラミン樹脂、フェノール樹脂等の架橋剤によって架橋している架橋型のバインダー樹脂を用いてもよい。
【0023】
本発明の基布は、目付が50〜300g/mの範囲にあることが好ましく、より好ましくは80〜200g/mである。目付が50g/m未満であると、機械的強力に劣り実用的でない。一方、目付が300g/mを超えると、コスト面で不利である。
【0024】
次に、本発明のタフテッドカーペット一次基布の好ましい製造方法について説明する。本発明における長繊維不織布は、スパンボンド法によって効率よく製造することができる。
【0025】
まず、前述したポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル共重合体とを用意する。用意したそれぞれの重合体を個別に計量し、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成しかつ芳香族ポリエステル共重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合紡糸口金を介して溶融紡糸し、紡出糸条を従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却せしめた後、吸引装置を用いて牽引細化して引き取る。あるいは、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成しかつ芳香族ポリエステル共重合体が葉部を構成する多葉型複合紡糸口金を介して溶融紡糸し、同様に処理する。このときの牽引速度は、3000〜5500m/分と設定することが好ましい。牽引速度が3000m/分未満であると、糸条において十分に分子配向が促進されず、得られる長繊維不織布の寸法安定性が劣る。一方、牽引速度が高すぎると紡糸安定性に劣る。牽引細化した長繊維は、公知の開繊器具にて開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させて不織ウエブを形成する。
【0026】
次いで、得られたウェブに不織布化手段を施して、長繊維不織布とする。繊維同士が交絡一体化してなるニードルパンチ不織布を得る場合は、ニードルパンチ処理を施す。ニードルパンチ機に通す前に、エンボス装置等の一対のロール間に通してウェブを加圧して、搬送可能な状態とするとよい。このとき熱も付与してもよいが、ニードルパンチ処理による物理的な力が加わった際に容易に繊維同士の接着が外れるような擬似接着の状態とする。したがって、ロールの表面温度は、芳香族ポリエステル共重合体の融点よりも100〜170℃低い温度に設定するとよい。ニードルパンチ処理の際の針密度の条件は、上述した通りである。
【0027】
構成繊維同士が熱接着により一体化してなる不織布を得る場合は、適宜の熱処理を施す。熱処理方法としては、熱風を吹き付けによる方法、熱エンボス装置に通す方法等が挙げられるが、機械的強力と柔軟性との両方に優れた不織布を得る点において、熱エンボス装置に通すことが好ましい。熱処理時の温度は、芳香族ポリエステル共重合体が溶融、または軟化する温度に設定するとよいが、処理時間等に応じて適宜選択する。例えば、熱エンボス装置に通す場合は、ロールの表面温度を芳香族ポリエステル共重合体の融点よりも10〜50℃低い温度に設定するとよい。この温度範囲にすることにより、熱圧着部では、芳香族ポリエステル共重合体が十分に溶融または軟化するため機械的性能に優れた長繊維不織布を得ることができる。
【0028】
得られた長繊維不織布には、必要に応じて上述の要領でバインダー樹脂を所望量付着させるとよい。
【0029】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布は、150℃の高温雰囲気下にて5分間放置した際の機械方向に直行する方向(CD方向)の熱収縮率が、1%以下であることが好ましい。本発明の基布によれば、上記したように構成繊維が、芯部にポリ乳酸系重合体が配され、このポリ乳酸系重合体の周りを上記した特定の芳香族ポリエステル共重合体によって概ね被覆された複合形態とすることにより、上記特性を達成することが可能となる。CD方向の熱収縮率が1%以下であると、カーペットの製造工程にて高温下に晒された場合でも熱収縮が生じ難く、寸法安定性を保持することができる。カーペット製造工程において、特にバッキング工程で、カーペット用一次基布は高温に晒される。すなわち、基布にパイル糸をタフトしたカーペット生機は、通常、まず樹脂バッキングする前の予熱工程(約80〜130℃)を通して生機が有する歪みを補正し、次いで、溶融した高温の樹脂(バッキング材)を生機のバックステッチ面に積層し、その後、バッキング樹脂の乾燥・硬化・キュアリングのための乾燥工程(約120〜160℃)を通す。このような工程を通過する際、高温雰囲気下に基布が耐えられない場合、幅方向に大きく熱収縮し、必要となる幅方向の寸法が確保できなくなるため、製品歩留まりが悪くカーペット生産性が著しく悪化する。本発明においては、150℃の高温雰囲気下にて5分間放置した際のヨコ方向の熱収縮率が1%以下であるので、カーペット製造時に高温下に晒された場合であっても、幅方向に収縮が発生しにくく、製造時の寸法安定性が良好となる。なお、熱収縮率を150℃の雰囲気下にて評価するのは、上記した予熱工程、乾燥工程での雰囲気下に耐えうる寸法安定性を基布が有しているかを判断する温度として適しているからである。
【0030】
本発明においては、上記したタフテッドカーペット一次基布に、所望のパイル糸を用いてタフトすることによりカーペット生機を得、このカーペット生機の裏面に、パイル糸を固定する目的と、タフテッドカーペットの形状保持のために、バッキング用の各種樹脂を貼り合わせて固定(バッキング処理)することによりタフテッドカーペットを得ることができる。
【0031】
本発明に用いるバッキング材としては、バッキング材を構成する樹脂の融点が80〜140℃であることが好ましい。バッキング材を構成する樹脂の融点を140℃以下とすることにより、カーペット製造工程におけるバッキング工程で、すなわち、カーペット生機のバックステッチ面に高温で溶融状態のバッキング材を貼り合わせるバッキング工程にて、基布(特に芯部を形成するポリ乳酸系重合体)が熱の影響を受けにくく、寸法安定性に優れたカーペットを得ることができる。また、樹脂の融点を80℃以上とすることにより、カーペットの使用において炎天下の自動車室内のような高温雰囲気下で使用された場合であっても、バッキング材が熱により軟化や溶融が発生しにくい。
【発明の効果】
【0032】
本発明のタフテッドカーペット用一次基布は、植物由来であり高温下での力学特性に劣るポリ乳酸系重合体を、高温下での力学特性に優れた芳香族ポリエステル共重合体にて概ね被覆した形態の複合長繊維によって構成される。したがって、複合長繊維の芯部に配されたポリ乳酸系重合体には、外部からの熱が伝わりにくくなり、カーペットの製造工程で高温下に晒された際にも、複合繊維の物性変化が生じ難く、特に熱収縮が生じ難いため、製造工程中に幅方向への収縮を抑制することができ、寸法安定性が良好である。また、熱収縮が生じ難いことから、得られたカーペットにおいては、カーリングや反りが生じ難く、品質に優れたカーペットを提供することができる。カーリングや反りが生じ難く、寸法安定性に優れることから、タイル状に裁断して用いるタイルカーペットとして使用するのに好適である。また、高温下での形態変化が少ないことから、自動車の内装材として使用するのにも好適である。
【実施例】
【0033】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、以下の方法により測定した。
(1)メルトフローレート(g/10分):ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重2160gfで測定した。以降、メルトフローレートを「MFR」と記す。
【0034】
(2)相対粘度(ηrel):フェノールと四塩化エタンとの等質量比の混合溶媒100ccに試料0.5gを溶解し、オストワルド粘度計を用いて測定した。
【0035】
(3)融点Tm(℃):示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用い、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分で測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0036】
(4)繊度(デシテックス 以下、「dtex」と記す):ウエブより取り出した50本の繊維の繊維径を光学顕微鏡で測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0037】
(5)引張強力(N/5cm幅):幅5cm×長さ20cmの短冊状試験片を10個準備し、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUTM−4−1−100)を用いて、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で引張試験を行い、JIS−L−1906に準じて測定した。そして10点の平均値を引張強力(N/5cm幅)とした。なお、機械方向(MD方向)と機械方向に直行する方向(CD方向)共に求めた。
【0038】
(6)熱収縮率(%):20cm(MD方向)×20cm(CD方向)の試料を温度150℃で5分間放置した後に取り出し、試料のCD方向の収縮率を下式により算出した。試料数は5点とし、その平均値を熱収縮率とした。なお、下式において、Lは温度150℃で5分間放置した後の試料のCD方向の長さ(cm)である。
熱収縮率(%)=[(20−L)/20]×100
【0039】
実施例1
ポリ乳酸系重合体として、融点168℃、MFR20g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体を用意した。
【0040】
一方、芳香族ポリエステル共重合体として、融点230℃、相対粘度ηrel=1.322、酸成分としてテレフタル酸:イソフタル酸=92:8[モル比]、グリコール成分としてエチレングリコールを構成成分とした8モル%イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートを用意した。
【0041】
ポリ乳酸系重合体を芯部、芳香族ポリエステル共重合体を鞘部とし、芯部/鞘部=1/1(質量比)である芯鞘型複合断面となるように、またタルクが溶融ポリ乳酸系重合体中に0.5質量%となるように、個別に計量した後、それぞれの重合体を個別のエクストルーダ型溶融押し出し機を用いて温度245℃で溶融し、単孔吐出量1.49g/分の条件で溶融紡糸した。
【0042】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度4200m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上に複合長繊維を捕集堆積させて目付150g/mのウェブとした。なお、堆積させた複合長繊維の単糸繊度は3.5dtexであった。
【0043】
得られたウエブをエンボスロール(織目柄、圧着面積率37%、圧着点密度64個/cm)と表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置(両ロールの表面温度を95℃、線圧196N/cmに設定)に処理速度8m/分で通して、繊維同士を擬似接着した。次いで、シリコン系油剤を繊維質量に対して1.0質量%付着させ、ニードルパンチ処理を施した。すなわち、繊維同士が擬似圧着したウエブに、#40のレギュラーバーブのパンチ針を用いて、針深12mm、パンチ密度45パンチ/cmの条件でニードルパンチを施し、構成繊維間を三次元的に交絡させ一体化をして、ニードルパンチ不織布を得た。得られたニードルパンチ不織布に、アクリル共重合体樹脂を繊維質量に対して10質量%付着させ、目付165g/mのタフテッドカーペット一次基布を得た。得られた基布の引張強力は、MD方向が235N/5cm幅、CD方向が145N/5cm幅であり、熱収縮率は0.5%であった。
【0044】
実施例2
実施例1において、芳香族ポリエステル共重合体として用いた8モル%イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートの相対粘度ηrelを1.316と変更した以外は、実施例1と同様にしてタフテッドカーペット一次基布を得た。得られた基布の引張強力は、MD方向が223N/5cm幅、CD方向が138N/5cm幅であり、熱収縮率は0.4%であった。
【0045】
実施例3
実施例1において、芳香族ポリエステル共重合体として用いた8モル%イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートの相対粘度ηrelを1.380と変更した以外は、実施例1と同様にしてタフテッドカーペット一次基布を得た。得られた基布の引張強力は、MD方向が212N/5cm幅、CD方向が131N/5cm幅であり、熱収縮率は0.6%であった。
【0046】
実施例4
実施例1において、芳香族ポリエステル共重合体として、融点213℃、相対粘度ηrel=1.390、酸成分としてテレフタル酸:イソフタル酸=85:15[モル比]、グリコール成分としてエチレングリコールを構成成分とした15モル%イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートを用いたこと、紡糸温度を240℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてタフテッドカーペット一次基布を得た。得られた基布の引張強力は、MD方向が247N/5cm幅、CD方向が152N/5cm幅であり、熱収縮率は0.9%であった。
【0047】
比較例1
ポリ乳酸系重合体のみからなる単相型の繊維によって構成される一次基布を作成した。すなわち、融点168℃、MFR65g/10分のL−乳酸/D−乳酸=98.6/1.4モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体に、添加剤としてタルクを0.5質量%を配合したものを、円型の紡糸口金より、紡糸温度210℃、単孔吐出量1.67g/分の条件下で溶融紡糸した。紡出糸状を冷却空気流にて冷却した後、引き続いてエアーサッカーにて5000m/分で引き取り、これを開繊して移動するスクリーンコンベア上の捕集堆積させて目付150g/mのウェブとした。なお、堆積させた繊維の単糸繊度は3.3dtexであった。
【0048】
得られたウエブをエンボスロール(熱圧着部の形状が六角形のドット柄、圧着面積率14.9%、圧着点密度21.9個/cm)と表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置(両ロールの表面温度を100℃、線圧196N/cmに設定)に処理速度8m/分で通して、繊維同士を擬似接着した。次いで、シリコン系油剤を繊維質量に対して1.0質量%付着させ、ニードルパンチ処理を施した。すなわち、繊維同士が擬似圧着したウエブに、#40のレギュラーバーブのパンチ針を用いて、針深12mm、パンチ密度45パンチ/cmの条件でニードルパンチを施し、構成繊維間を三次元的に交絡させ一体化をして、ニードルパンチ不織布を得た。得られたニードルパンチ不織布に、アクリル共重合体樹脂を繊維質量に対して10質量%付着させ、目付165g/mのタフテッドカーペット一次基布とした。得られた基布の引張強力は、MD方向が365N/5cm幅、CD方向が145N/5cm幅であり、熱収縮率は3.0%であった。
【0049】
比較例2
実施例1において、芳香族ポリエステル共重合体として、軟化点(明確な融点を示さない)206℃、相対粘度ηrel=1.390、酸成分としてテレフタル酸:イソフタル酸=80:20[モル比]、グリコール成分としてエチレングリコールを構成成分とした20モル%イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートを用いたこと、紡糸温度を235℃としたこと、擬似接着工程でのロール表面温度を70℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、タフテッドカーペット一次基布を得た。得られた基布の熱収縮率を測定すると、10%であり、熱収縮が大きく、高温雰囲気下では寸法安定性に劣るため、カーペット製造には耐えうるものではなかった。
【0050】
比較例3
実施例1において、芳香族ポリエステル共重合体に変えて、融点254℃のポリエチレンテレフタレート(相対粘度ηrel=1.385)を用い、紡糸温度285℃としたこと以外は、実施例1と同様にして溶融紡糸を行ったところ、糸切れがかなり多く発生し、紡糸操業性が悪かった。また、ノズルパック内でガスが発生し(ポリ乳酸系重合体の熱劣化が激しく進んでいると考えらる。)、安定した紡糸が行えないため運転を停止した。
【0051】
参考例
実施例1において、芳香族ポリエステル共重合体として、融点180℃、相対粘度ηrel=1.405、酸成分がテレフタル酸、ジオール成分として1,4−ブタンジオール:エチレングリコール=50:50[モル比]を構成成分とした結晶性の芳香族ポリエステル共重合体を用いたこと、紡糸温度を230℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、タフテッドカーペット一次基布を得た。得られた基布の引張強力は、MD方向が291N/5cm幅、CD方向が176N/5cm幅であり、熱収縮率は2.7%であった。
【0052】
本発明の実施例1〜4の基布は、実用的な機械的強度を有していた。また、比較例1および参考例と比較して、熱収縮率の値も低いものであり、高温下での寸法安定性により優れたものであった。
【0053】
また、実施例1〜4の基布にパイル糸をタフトし、カーペットを得た。すなわち、1890デシテックス/108フィラメントのナイロン捲縮糸をパイル糸として用い、タフティングマシンにより、ゲージ10本/2.54cm、10ステッチ/2.54cm、パイル高さ5mmとして、パイル糸447g/mの条件にてタフティングを行った。実施例1〜4の基布は、問題なくタフティングを行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に用いる多葉複合型の複合繊維の横断面の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に用いる多葉複合型の複合繊維の横断面の他の例を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル共重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とする長繊維不織布によって構成され、前記ポリ乳酸系重合体の融点は150℃以上であり、前記芳香族ポリエステル共重合体はエチレンテレフタレート単位にイソフタル酸が5〜15モル%共重合した共重合体であり、複合長繊維の複合形態は、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合形態であるか、または、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、芳香族ポリエステル共重合体が芯部の周りを取り囲むように複数の突起状の葉部を形成した多葉型複合形態であることを特徴とするタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項2】
ポリ乳酸系重合体と芳香族ポリエステル系共重合体との複合比がポリ乳酸系重合体/芳香族ポリエステル系共重合体=3/1〜1/3(質量比)であることを特徴とする請求項1記載のタフテッドカーペット用一次基布。
【請求項3】
請求項1または2記載のタフテッドカーペット用一次基布にパイル糸がタフトされてなることを特徴とするタフテッドカーペット。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−24301(P2009−24301A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190771(P2007−190771)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】