説明

タプシガルジンにより誘導される細胞死の阻害剤

小胞体(ER)ストレスの阻害剤をスクリーニングする方法を提供する。これらの方法は、ERストレスを誘導するタプシガルジン、および試験薬剤を、マルチウェルプレート内の哺乳類細胞に添加することを含む。生物発光試薬を使用して細胞内ATP含有量を測定することによって、細胞生存を容易にモニターすることができる。商業的に入手可能な50,000の化合物ライブラリをスクリーニングすることにより、二次アッセイに供された93のヒット化合物を特定するに至り、これらがタプシガルジンにより誘導される細胞死から細胞を守る能力を確認した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利の声明
本発明は、米国立衛生研究所によって授与されたRO3 DA024887およびU01 AI078048の下、米国政府の支援により成された。米国政府は、本発明に関する一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、折り畳まれていないタンパク質の応答によって引き起こされる細胞死の阻害剤に関する。
【背景技術】
【0003】
小胞体(ER)は、複数の細胞機能を果たす(Schroder and Kaufman,Mutat.Res.,569:29−63,2005、Shen et al.,J.Chem.Neuroanat.28:79−92,2004、Rao et al.,Cell Death Differ.11:372−380,2004、Breckenridge et al.,Oncogene 22:8608−8618,2003にて総説)。ERの内腔は、特異な環境である。ERの内腔は、Ca2+−ATPアーゼによるカルシウムイオンのERへの能動輸送により、細胞内に最高濃度のCa2+を含有する。この内腔は、酸化環境を有しており、ジスルフィド結合の形成、ならびに細胞表面で分泌および表示されるタンパク質の適切な折り畳みに重要である。タンパク質の折り畳みおよび輸送における役割から、ERは、タンパク質折り畳み中間体の安定化に役立つ、Grp78、Grp94、およびカルレティキュリン等のCa2+依存性分子シャペロンが豊富でもある(Schroder and Kaufman,Mutat.Res.569:29−63,2005、Orrenius et al.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.4:552−565,2003、Ma and Hendershot,J.Chem.Neuroanat.28:51−65,2004、Rizzuto et al.,Sci.STKE,2004:re1,2004にて総説)。
【0004】
無数の種類の障害が、折り畳まれていないタンパク質のERでの蓄積を生じ、折り畳まれていないタンパク質応答(UPR)と称される進化的に保存された応答を引き起こす。低酸素または酸化体または還元剤によって生じる細胞酸化還元調整における障害は、ERの内腔でのジスルフィド結合を妨害し、タンパク質のアンフォールディングおよびミスフォールディングにつながる(Frand et al.,Trends Cell Biol.10:203−210,2000)。グルコース欠乏も、恐らくERでのN結合型タンパク質のグリコシル化を妨害することによって、ERストレスにつながる。ERにおけるCa2+調整の異常は、Grp78、Grp94、およびカルレティキュリン等のERタンパク質のCa2+依存性の性質により、タンパク質のアンフォールディングを引き起こす(Ma and Hendershot,J.Chem.Neuroanat.28:51−65,2004)。ウイルス感染も、ウイルスによりコードされるタンパク質によるERの過負荷のため、UPRを引き起こし得る。これは、恐らく、ウイルスの複製と蔓延を回避するために、ERストレスを細胞自殺に関連付ける古代の進化的圧力の1つであろう。また、ある量の基底タンパク質のミスフォールディングがERで生じることから(通常、プロテアソームに依存した分解のため、サイトゾルへのミスフォールドされたタンパク質の逆輸送によって改善される)、プロテアソームの機能を損なう状況は、神経変性に関連する封入体疾患を含む、タンパク質の交通渋滞を形成し得る(Paschen,Cell Calcium 34:365−383,2003)。高脂肪食もERストレスを引き起こすことに関連している(Ozcan et al.,Science 306:457−461,2004)。
【0005】
UPRの最初の目的は、変化する環境に適合し、恒常性および正常なER機能を確立することである。これらの適合機構は主に、ERタンパク質の折り畳み能力を増強する遺伝子の発現を誘導し、ER関連タンパク質の分解を促進して、ミスフォールドしたタンパク質を除去する、転写プログラムの活性化を伴う。mRNAの翻訳も、最初に阻害され、これによって、UPRタンパク質をコードするmRNAが生成されるまで、数時間、新たなタンパク質のERへの流入が低減される。適合に失敗した場合、ERによって開始された経路は、宿主防衛におけるメディエータをコードする遺伝子の活性化を誘導する転写因子であるNFκB、ならびにストレスキナーゼ(p38 MAPKおよびJNK)を活性化することによって、警報を伝える。過剰かつ延長されたERストレスは、通常、動物細胞においてアポトーシスの形態で、機能不全の細胞を排除するための多細胞生命体の最後の手段である細胞自殺を引き起こす。ERストレスは、虚血再かん流障害(特に、脳卒中)、神経変性、および糖尿病を含む広範な疾患に関連している(Oyadomari and Mori,Cell Death Differ.11:381−389,2004、Xu et al.,J.Clinical Invest.115:2656−2664,2005、Rao and Bredesen,Curr.Opin.Cell Biol.16:653−662,2004にて総説)。
【0006】
折り畳まれていないタンパク質がER内に蓄積する際、内在するシャペロンが占領され、UPRの誘導に関与する膜貫通ERタンパク質が放出される。これらのUPR開始タンパク質は、ER膜に位置し、それらのN末端はERの内腔に、それらのC末端はサイトゾルにあり、これらの2つの細胞内コンパートメントを接続するブリッジを形成する。通常、これらの膜貫通ERタンパク質のN末端は、ERシャペロンGrp78(BiP)によって保持され、それらの凝集が阻止される。しかし、ミスフォールドしたタンパク質が蓄積する際、Grp78が放出され、これらの膜貫通信号伝達タンパク質の凝集が可能となり、UPRが開始される。とりわけ、重要な膜貫通ER信号伝達タンパク質は、PERK、Ire1、およびATF6である。(Schroder and Kaufman,Mutat.Res.569:29−63,2005、Shen et al.,J.Chem.Neuroanat.28:79−92,2004、Xu et al.,J.Clinical Invest.115:2656−2664,2005、Rao and Bredesen,Curr.Opin.Cell Biol.16:653−662,2004にて総説)。
【0007】
PERK(PKR様ERキナーゼ)は、Ser/Thr−タンパク質キナーゼであり、この触媒ドメインは、他のelF2αファミリーのキナーゼと相当な相同性を共有する(Shi et al.,Mol.Cell Biol.18:7499−7509,1998、Harding et al.,Nature 397:271−274,1999)。Grp78が除去されると、PERKはER膜でオリゴマー化し、これによって、自己リン酸化を誘導し、キナーゼドメインを活性化させる。PERKは、真核生物の翻訳開始因子2アルファ(eIF2α)をリン酸化および不活性化し、これによって、mRNA翻訳を全体的に遮断し、ERへのタンパク質負荷を低減する。しかしながら、転写因子ATF4をコードするmRNAを含むあるmRNAは、これらの状態下、翻訳に対する選択的利点を得る。39kDa ATF4タンパク質は、転写因子bZIP−ファミリーの一員であり、これは、UPRに関与するいくつかの遺伝子のプロモータを制御する。ERストレスに対する保護のためにPERKによって開始された信号の重要性は、perk−/−細胞、および非リン酸化型eIF2α(Ser51Ala)を発現するノックイン細胞の研究により文書化されており、双方は、ERストレスに対する過敏性を呈する(Harding et al.,Mol.Cell,5:897−904,2000、Scheuner et al.,Mol.Cell 7:1165−1176,2001)。Ire1は、Grp78によって放出される際、同様にER膜でオリゴマー化する。約100kDa Ire1αタンパク質は、I型膜貫通タンパク質であり、これは、Ser/Thr−キナーゼドメインおよびエンドリボヌクレアーゼドメインの両方を含有し、後者は、Xボックス結合タンパク質1(XBP−1)mRNAからイントロンを除去し、翻訳可能なものにして、bZIP−ファミリーの転写因子である、41kDa XBP−1タンパク質を生成する。XBP−1は、主に、ERからサイトゾルへのミスフォールドしたタンパク質の逆輸送、ならびにERによって誘導されたタンパク質の分解に関与する、いくつかの遺伝子のプロモータに結合する(Rao and Bredesen,Curr.Opin.Cell Biol.16:653−662,2004にて総説)。Ire1もまた、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーの多くの成員と、アダプタータンパク質TRAF2に結合する能力を共有する。
【0008】
TRAF2は、Ubc13に結合するE3リガーゼであり、結合部位として標準的なリジン48ではなく、リジン63を伴う基質の非標準ポリユビキチン化をもたらす(Habelhah et al.,EMBO J.23:322−332,2004)。TRAF2は、これまで、Jun−N末端キナーゼ(JNK)を活性化するAsk1を含む、免疫および炎症に関与したタンパク質キナーゼ、およびNFκB活性化に関連するキナーゼを活性化させる。ATF6のN末端からのGrp78の放出は、PERKおよびIre1と比較して、異なるタンパク質活性化の機構を誘発する。オリゴマー化の代わりに、Grp78の放出は、ATF6を解放して、ゴルジ体へ移動させ、ここでは、内在するプロテアーゼが膜近傍部位でATF6を切断し、この転写因子をサイトゾルに放出し、これが核に移動することにより、遺伝子発現を制御する(Ye et al.,Mol.Cell 6:1355−1364,2000)。
【0009】
ERストレスにより誘導されるこれらの種々の信号伝達経路が、どのようにして細胞死を引き起こすのかということは、不明である。これは、多くの可能性が概略された、我々が著した最近の総説の主題である(Xu et al.,J.Clinical Invest.115:2656−2664,2005)。ERストレス(他の細胞死経路ではない)の結果として特異的に誘導された細胞死を遮断する化合物は、内在する機構を問いただすため、ならびにERストレスが細胞死および組織障害に関与する事象を引き起こす動物モデルにおける生体内での解明に有用であろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Schroder and Kaufman,Mutat.Res.,569:29−63,2005
【非特許文献2】Shen et al.,J.Chem.Neuroanat.28:79−92,2004
【非特許文献3】Rao et al.,Cell Death Differ.11:372−380,2004
【非特許文献4】Breckenridge et al.,Oncogene 22:8608−8618,2003
【非特許文献5】Orrenius et al.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.4:552−565,2003
【非特許文献6】Ma and Hendershot,J.Chem.Neuroanat.28:51−65,2004
【非特許文献7】Rizzuto et al.,Sci.STKE,2004:re1,2004
【非特許文献8】Frand et al.,Trends Cell Biol.10:203−210,2000
【非特許文献9】Paschen,Cell Calcium 34:365−383,2003
【非特許文献10】Ozcan et al.,Science 306:457−461,2004
【非特許文献11】Oyadomari and Mori,Cell Death Differ.11:381−389,2004
【非特許文献12】Xu et al.,J.Clinical Invest.115:2656−2664,2005
【非特許文献13】Rao and Bredesen,Curr.Opin.Cell Biol.16:653−662,2004
【非特許文献14】Shi et al.,Mol.Cell Biol.18:7499−7509,1998
【非特許文献15】Harding et al.,Nature 397:271−274,1999
【非特許文献16】Harding et al.,Mol.Cell,5:897−904,2000
【非特許文献17】Scheuner et al.,Mol.Cell 7:1165−1176,2001
【非特許文献18】Habelhah et al.,EMBO J.23:322−332,2004
【非特許文献19】Ye et al.,Mol.Cell 6:1355−1364,2000
【発明の概要】
【0011】
我々は、小胞体(ER)ストレス阻害剤のスクリーニングを行うための新規のハイスループット方法を開発した。これらの方法は、ERストレスを誘導するタプシガルジン(タプシガルギン)、および、マルチウェルプレート内の哺乳類細胞への試験薬剤の添加を含む。生物発光試薬を用いて細胞内ATP含有量を測定することによって、細胞生存は容易にモニタリングすることができる。商業的に入手可能な50,000の化合物のライブラリに対してスクリーニングを行うことにより、二次アッセイに供された93のヒット化合物を特定するに至り、これらがタプシガルジンにより誘導される細胞死から細胞を守る能力を確認した。
【0012】
本発明の一実施形態によると、方法は、小胞体ストレスに起因する細胞死の阻害剤を特定するために提供され、(a)哺乳類細胞をタプシガルジンに接触させ、これによって、前記細胞に小胞体ストレスを引き起こすステップと、(b)前記細胞を試験薬剤に接触させるステップと、(c)前記試験薬剤が小胞体ストレスによって引き起こされる前記細胞の死を阻害するかどうかを判断するステップと、を含む。1つのこのような実施形態によると、前記哺乳類細胞は、CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞である。別のこのような実施形態によると、該方法は、該細胞の細胞内ATP含有量を測定することによって、該試験薬剤が、小胞体ストレスにより引き起こされる該細胞の死を阻害するかどうかを判断するステップをさらに含む。別のこのような実施形態によると、該方法は、該細胞の生物発光を測定することによって、該細胞の細胞内ATP含有量を測定するステップをさらに含む。別のこのような実施形態によると、該方法は、該試験薬剤が、約50%以上、もしくは約60%以上、もしくは約70%以上、もしくは約80%以上、もしくは約90%以上、もしくは約95%以上、該細胞の死を阻害するかどうかを判断するステップを含む。別のこのような実施形態によると、該方法は、該試験薬剤が、約25μM以下、もしくは約20μM以下、もしくは約15μM以下、もしくは約10μM以下のIC50を有するかどうかを判断するステップを含む。別のこのような実施形態によると、該方法は、該細胞をタプシガルジンに接触させた後、該細胞を、該試験薬剤に接触させるステップを含む。別のこのような実施形態によると、該方法は、マルチウェルプレートのウェルに該細胞を提供するステップを含む。別のこのような実施形態によると、該方法は自動化される。
【0013】
別の実施形態によると、タプシガルジンにより誘導される小胞体ストレスに起因する哺乳類細胞の死を阻害する化合物を有効量含む組成物を提供する。1つのこのような実施形態によると、該哺乳類細胞は、CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞である。別のこのような実施形態によると、かかる組成物は、約50パーセント以上、もしくは60パーセント以上、もしくは70パーセント以上、もしくは80パーセント以上、もしくは90パーセント以上、もしくは95パーセント以上、CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞の死を阻害する。別のこのような実施形態によると、該組成物は、約25μM以下、もしくは約20μM以下、もしくは約15μM以下のIC50を有する。別のこのような実施形態によると、該組成物は、約50パーセント以上、CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞の死を阻害し、約25μM以下のIC50を有する。
【0014】
別のこのような実施形態によると、該組成物は、ChemBridge ID番号5230707、5397372、5667681、5706532、5803884、5843873、5850970、5897027、5923481、5926377、5931335、5933690、5947252、5948365、5951613、5954179、5954693、5954754、5955734、5962263、5963958、5974219、5974554、5976228、5979207、5980750、5981269、5984821、5986994、5990041、5990137、5993048、5998734、6000398、6015090、6033352、6034397、6034674、6035098、6035728、6037360、6038391、6043815、6044350、6044525、6044626、6044673、6044860、6045012、6046070、6046818、6048306、6048935、6049010、6049184、6049448、6056592、6060848、6062505、6065757、6066936、6068189、6068602、6069474、6070379、6073875、6074259、6074532、6074891、6081028、6084652、6094957、6095577、6095970、6103983、6104939、6141576、6237735、6237877、6237973、6237992、6238190、6238246、6238475、6238767、6239048、6239252、6239507、6239538、6239939、6241376、6368931、および6370710からなる群より選択される化合物を含む。別のこのような実施形態によると、該組成物は、ChemBridge ID番号6239507、6237735、6238475、6237877、6239538、6238767、6049448、5963958、6237973、および6044673が含まれるが、これらに限定されない、式Iの化合物を含む。別のこのような実施形態によると、該組成物は、ChemBridge ID番号5998734、5955734、5990041、6035098、および5990137が含まれるが、これらに限定されない、式II−1の化合物を含む。別のこのような実施形態によると、該組成物は、ChemBridge ID番号5397372、6033352、6034674、および5951613が挙げられるが、これらに限定されない、式II−2の化合物を含む。別のこのような実施形態によると、該組成物は、ChemBridge ID番号5948365、5976228、5980750、5803884、6049184、5979207、および6141576からなる群より選択される化合物を含む。別のこのような実施形態によると、該組成物は、薬剤として許容される担体を含む。
【0015】
別の実施形態によると、(a)前述の組成物のうちの1つと、(2)好適な包装材料と、を含むキットを提供する。
【0016】
別の実施形態によると、小胞体ストレスに起因する哺乳類細胞の死を阻害するための方法を提供し、前述の組成物のうちのいずれかにより、細胞を治療・処置するステップを含む。
【0017】
別の実施形態によると、小胞体ストレスに関連する、哺乳類(ヒトを含むがこれに限定されない)の疾患、症状、もしくは傷害を治療するための方法を提供し、治療を必要とする哺乳類に、前述の組成物のうちのいずれかを投与するステップを含む。1つのこのような実施形態によると、該疾患、もしくは症状、もしくは傷害は、神経疾患、代謝性疾患、虚血障害、心臓および循環系損傷、ウイルス感染、アテローム性動脈硬化、双極性疾患、およびバッテン病からなる群より選択される。別のこのような実施形態によると、該神経疾患は、家族性アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、球脊髄性筋萎縮症/ケネディ病、脊髄小脳失調症3型/マシャド・ジョセフ病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、およびGM1ガングリオシドーシスからなる群より選択される。別のこのような実施形態によると、該代謝性疾患は、糖尿病、ウォルコツト・ラリソン症候群、ウォフラム症候群、2型糖尿病、ホモシステイン血症、Zα1−抗トリプシン欠乏症封入体筋炎、および遺伝性チロシン血症1型からなる群より選択される。別のこのような実施形態によると、該心臓および循環系損傷は、心肥大、低酸素性障害、および家族性高コレステロール血症からなる群より選択される。
【0018】
別の実施形態によると、本発明は、ERストレス阻害化合物を必要とする個体に投与するための薬剤を調製するための、ERストレス阻害化合物の使用を提供する。
【0019】
本発明の前述および他の態様は、以下の発明を実施するための形態、添付の図面、ならびに請求項からより明らかとなる。
【0020】
別途定義されない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に説明されるものと同様または同等の方法および材料を、本発明の実践または試験に使用することができるが、好適な方法および材料を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1群の化合物に基づき、第1群および式Iからのヒット化合物の構造を示す図。
【図2A】第2群からのヒット化合物の構造を示す図。
【図2B】式2−1(第2−1群の化合物に基づく)および式2−2(第2−2群の化合物に基づく)を示す図。
【図3】第1群または第2群に分類されない5つの独立したヒット化合物の構造を示す図。
【図4】ERストレス誘導細胞死を研究するためのCSM14.1神経細胞を使用するためのパイロット・スタディの結果を示す図。(A)細胞密度の評価。(B)タプシガルジン(Thapsigargin(TG))に対する用量反応。(C)サルブリナル(Salubrinal(Sal))に対する用量反応。
【図5】未分化(図5A)および分化(図5B)CSM14.1細胞を、TGが殺滅し、Salが保護することを示す図。
【図6】ATP含有量アッセイの再現性の評価を示す図。
【図7】アッセイ品質管理解析を示す図。
【図8】スクリーニングからヒット化合物の同定までのフローチャートを示す図。
【図9】50,000の化合物のインハウスライブラリの標準的なスクリーニングからの、(A)未加工データの解析結果、(B)および正規化された相対生存率の算出結果を示す図。G行の8列に、98.9%の生存率に相当する、1つの有効なヒット化合物(太字)を示す。
【図10】データの正規化後のスクリーニング結果の一例のグラフを示す図。相対ATP含有量(y軸)が、ウェル番号(1−96[A1からH12])(x軸)に対してプロットされる。
【図11】ヒット化合物によるERストレス誘導細胞死の用量依存的阻害を示す図。未分化のCSM14.1細胞を、タプシガルジン(15μM)および様々な濃度の4種のヒット化合物(A、B、C、D)で処理した。細胞内ATPレベルを測定し(y軸)、化合物濃度(x軸)に対してプロットした。データは、3つの独立した実験を表す。
【図12】サルブリナルが、我々のヒット化合物よりも有効性の低いタプシガルジンにより誘導される細胞死を阻害することを示す図。
【図13】我々のヒット化合物が、タプシガルジンに匹敵する効率を有するツニカマイシンにより誘導される細胞死を阻害することを示す図。
【図14】未分化CSM14.1対神経細胞に分化したCSM14.1を用いて、化合物の細胞保護活性の比較を示す図。白いバー=対照のDMSO、黒いバー=分化細胞と未分化細胞の両方を保護する化合物、グレーのバー=未分化のニューロンを保護するが分化したニューロンを保護しない化合物。
【図15】ERストレスから保護する際の、化合物の細胞型特異性を示す図。CSM14.1(左)細胞およびJurkat(ジャーカット)(右)細胞をそれぞれ、96ウェルプレート中で、ウェルあたり3,000の細胞またはウェルあたり30,000の細胞で、一晩培養した。ウェルに、DMSOのみ(白いバー)またはDMSOに溶解させた25μMの化合物(A〜C)を加え、次いで、ウェルをTG(15μM)あり(+)またはなし(−)で処理した。24時間培養した後、ATP含有量を判定し、対照であるDMSOでのみ処理された細胞に対する割合(平均+標準偏差、n=3)として、データを示した。
【図16】化合物の細胞保護活性を評価するための二次アッセイの結果を示す図。未分化CSM14.1細胞を、24ウェルプレートのウェルあたり10の数の細胞で培養した。翌日、DMSO(a、b)(1%の最終容積)、100μMのサルブリナル(c、d)、あるいは25μMのヒット化合物(1%の最終DMSO)を加えた。2時間後、15μMのTGを、aおよびcを除くすべてのウェルに加えた。従前のATPアッセイを行い、生存率を測定した。処理:a:1% DMSO、b:1% DMSO、15μMのTG、c:100μMのSal、d:100μMのSal、15μMのTG、化合物(ChemBridge ID番号の化合物):図中のID番号と、ChemBridgeの化合物のID番号との関係を、下記表19に示す。
【表19】

【図17】化合物の細胞保護活性を評価するための二次アッセイの結果を示す図。未分化CSM14.1細胞を、図16と同様に培養した。翌日、DMSO(a、b)(1%の最終容積)、100μMのサルブリナル(c、d)、あるいは25μMのヒット化合物(1%の最終DMSO)を加えた。2時間後、15μMのTGをaおよびcを除くすべてのウェルに加えた。プレートを再度24時間培養し、その後、細胞を、トリプシン処理により回収し、1.5mlの微小遠心管に移し、0.5mLのアネクシンV結合溶液に再懸濁した。アネクシンV陰性細胞の割合は、フローサイトメトリー(y軸)により判断した。処理および化合物は、図16と同様である。
【図18】ヒット化合物の経路選択性を示す図。未分化CSM14.1細胞を、96ウェルプレート(ATPアッセイ用)中でウェルあたり3,000の細胞、または24ウェルプレート(フローサイトメトリー用)中でウェルあたり1×10の細胞を播種した。翌日、細胞を、DMSO(0.5%)または0.5%の最終濃度を有するDMSO中の25μMのヒット化合物で2時間処理し、次いで、15μMのタプシガルジン(TG)で24時間、10μg/mLのツニカマイシン(TU)で72時間、2.5μMのスタウロスポリン(STS)で24時間、50μMのVP16で48時間、あるいは30ng/mLのTNF+10μg/mLのシクロヘキサミド(CHX)で24時間、を含む、様々な細胞死を誘導する試薬で処理した。細胞内ATP含有量は、スタウロスポリンの試料およびTNF/CHX試料に対して測定し、DMSOのみ(対照)で処置した細胞に対してデータを正規化し、対照の割合として示した。ツニカマイシンおよびVP16による処理から起因する細胞死を測定するために、フローサイトメトリーを用いた。すべてのアッセイを3回行った(平均±標準偏差)。
【図19】ERストレス阻害化合物が、Ire1経路のTGにより誘導されるマーカーを阻害することを示す図。CSM14.1細胞を、DMSOまたは25μMのヒット化合物を用いて2時間培養し、次いで、タプシガルジン(15μM)で処理した。細胞溶解物を調製し、リン酸化−c−Jun、リン酸化−eIF2α、リン酸化−p38 MAPK、およびチューブリン(量の対照)に対して特異的な抗体を用いて、SDS−PAGE/免疫ブロット法により解析した。対照レーンを、DMSOのみ、またはDMSO+TGで処理した。別の実験において、CSM14.1細胞を、DMSO、または1μM、5μM、および10μMの活性化合物のうちの1つで培養し、次いで、2時間後、15μMのTGで培養した。2時間後、細胞溶解物を調製し、タンパク質含有量に対して正規化し、pan−reactiveな抗−p38−MAPK抗体またはリン酸化型特異的抗体を用いたSDS−PAGE/免疫ブロット法により、ECLベースで検出し、次いで、x線フィルムのデンシトメトリー解析を行い、p38 MAPKの合計に対してリン酸化p38 MAPKを正規化するか、あるいは、すべてのp38 MAPKをプレート上で捕捉する手順を用いてMSDからのメソスケール機器で解析し、リン酸化タンパク質の相対量をリン酸化型特異的抗体(MSDカタログ番号K15112D1)を用いて測定した。
【図20】CID−2878746の再合成およびMLS−0292126の合成経路を示す図。
【図21】変性タンパク質応答(UPR)のシグナル伝達経路を示す図。
【図22】化合物6239507を用いたin vitroキナーゼアッセイの結果を示す図。
【図23】ASK1のセリン967のリン酸化部位が、ERストレスを阻害する化合物6239507により増強されたことを示す図。様々な部位でASK1のリン酸化を検査した。293T細胞を、pcDNA−ASK1−HAでトランスフェクションションした。1日後、細胞を、DMSO(0.4%)または100μMの化合物6239507(#1)で、2時間インキュベートした。細胞抽出物を、溶解緩衝液を用いて調製し、(A)に示されるように、抗リン酸化ASK1抗体または抗HA抗体を用いて免疫ブロット法に供した。それぞれのリン酸化ASKバンドの相対密度は、イメージJソフトウェアにより算出した。(B)では、(A)からの化合物を、タプシガルジンにより誘導される細胞死に対する活性において比較した。陰性の対照には、ヒット化合物#14を使用した(左のグレーのバー)。化合物#14は、細胞死の強力な阻害剤であるが、化合物6239507とは異なる構造を有する。別の陰性の対照として、化合物6048163を使用した(右のグレーのバー)。それは、該ヒット化合物と同一の骨格を共有するが、細胞死の阻害剤としては効果がない。293T細胞を、pcDNA−ASK1−HAおよびpEBG−GST−14−3−3でトランスフェクションションした。1日後、細胞を、DMSO(0.4%)または100μMの示された化合物で2時間インキュベートした。その後、細胞を、示された時間、タプシガルジン(20μM)で処理した。細胞抽出物を、溶解緩衝液を用いて調製し、14−3−3タンパク質を、グルタチオンSトランスフェラーゼ4Bセファロースビーズで免疫沈降した。14−3−3タンパク質に結合するASK1タンパク質は、抗HA抗体を用いた免疫ブロット法により可視化した。抗リン酸化ASK1(ser967)抗体を用いて、それぞれの時点でASK1のリン酸化を検出した。
【図24】ヒットしたベンゾジアゼピン化合物が、ASK1 ser967脱リン酸化の阻害剤であるという仮説を示す図。したがって、当該化合物は、ASK1からの14−3−3タンパク質の解離を阻害し、ASK1を不活性にする。
【図25】化合物6239507が、初代マウス神経細胞において、ERストレス誘導細胞死を阻害することができることを示す図。初代皮質ニューロン細胞は、マウスの中脳から調製した。成熟してから14日後、該細胞を、DMSO(0.2%)または25μMの化合物6239507で2時間プレインキュベートした。該細胞を、その後、タプシガルジン(TG)で24時間処理した。該細胞を、アルデヒド溶液で固定し、神経体および神経軸索ネットワークを染色するためにNeuNおよびMAP2抗体を用いて免疫染色に供した。ヘキスト染色を用いて、核を染色した。タプシガルジンにより軸索ネットワークの喪失を示すために、広視野を、蛍光顕微鏡により確保した。縮合核および萎縮性神経炎を示す細胞は、細胞死を評定するために死亡と見なした。
【図26】様々なヒット化合物で処理されたCSM14.1細胞の相対生存を示す図。CSM14.1細胞を、96ウェルプレート中でウェルあたり1,500の細胞で播種し、39℃(非許容温度)で7日間培養した。ヒット化合物を25μMの最終濃度で加え、2時間後、15μMの最終濃度でタプシガルジン(TG)を加えた。ATP含有量を測定し、データを、わずか1%のDMSOで処理した対照細胞に対する割合として示した(平均±標準偏差、n=3)。
【図27】ERストレス阻害化合物は、タプシガルジンにより誘導される、Ire1経路のマーカーを阻害することを示す図。CSM14.1細胞を、DMSOまたは1μM、5μM、および10μMの示された化合物で培養し、次いで、タプシガルジン(15μM)で処理した。2時間後、細胞溶解物を調製し、タンパク質含有量に対して正規化し、電気化学ルミネセンスを基にした検出を伴うpan−reactiveな抗−p38−MAPK抗体またはリン酸化型特異的抗体を用いたSDS−PAGE/免疫ブロット法により解析し(上)、次いで、x線フィルムのデンシトメトリー解析を行い、p38 MAPKの合計に対してリン酸化p38 MAPKを正規化する(中)か、あるいは、MSDからのメソスケール機器およびすべてのp38 MAPKをプレート上で捕捉する手順を用いて解析し、リン酸化タンパク質の相対量をリン酸化型特異的抗体(MSDカタログ番号K15112D1)を用いて測定した(下)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ERストレスを阻害する化合物にスクリーニングを行うための方法、スクリーニング等を用いて同定される化合物、ならびに関連組成物および方法を提供する。
【0023】
定義
本明細書で使用する「ERストレス阻害化合物」とは、「ERストレス阻害活性」を有する化合物を指す。すなわち、かかる化合物は、好適なアッセイにより測定された場合、好ましくは、約50%以上、もしくは60%以上、もしくは70%以上、もしくは80%以上、もしくは90%以上、ERストレスから起因する細胞死を阻害する。好ましくは、該ERストレス阻害化合物は、ERストレスに関連する、いずれかの疾患、または疾病、または症状、または傷害を処置・治療する際に有効である。好ましくは、該ERストレス阻害化合物は、約25μM以下、もしくは20μM以下、もしくは15μM以下、もしくは10μM以下のIC50を有する。50,000の化合物ライブラリのハイスループットスクリーニングで、我々は、タプシガルジン処理に起因するERストレスによる細胞死を阻害する、93のERストレス阻害化合物(「ヒット」)を同定した。これらの93のヒットのうちの30は、25μM以下のIC50を有すると判断された。本発明のERストレス阻害化合物はまた、薬剤として許容されうる、本明細書で提供されるERストレス阻害化合物の類似体(アナログ)、またはプロドラッグ、または塩、または溶媒和物を含む。また、本明細書で提供されるERストレス阻害化合物のいずれかに構造的に関連する化合物、およびERストレス阻害活性を有する化合物も含まれ、表3および表6〜11に記載される化合物も含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書では、特定のChemBridge化合物ID番号を有する化合物は、単に「化合物<番号>」として、または番号のみでも称され得る。例えば、ChemBridge化合物ID5230707は、「化合物5230707」または「5230707」として称され得る。化学構造、化学名、分子量等を含む、個別の化合物に関するさらなる情報は、ChemBridge社のウェブサイト:www.hit2lead.comで、化合物毎に開示されている。
【0025】
ERストレス阻害化合物には、下記表1に記載される化合物が含まれるが、これらに限定されない。かかる化合物は、タプシガルジンにより誘導される細胞死からCSM14.1細胞を保護する。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【0026】
いくつかのヒット化合物は、関連した構造を有する群に分類される。ERストレス阻害化合物には、式Iの化合物(図1に示す)が含まれるが、これらに限定されない。式中、
R1およびR2はそれぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、およびヘテロアリールオキシからなる群から選択され、
R2は、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、およびヘテロアリールオキシからなる群から選択され、
R3〜R7はそれぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、ハロ、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0027】
式Iには、下記表2に記載される(本明細書において第1群の化合物とも称される)ベンゾジアゼピノン化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
(ChemBridge化合物ID番号により記載される)第I群の化合物およびそれらの効力データを、IC50(μM)として下記表2に提供する。式Iの化合物に対する置換基R1〜R7も、表2に提供する。
【表2】

【0029】
ERストレス阻害化合物にはまた、第1群の化合物に構造的に類似する化合物が含まれるが、これらに限定されない。このような類似する化合物には、下記表3に記載される化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【表3−1】

【表3−2】

【表3−3】

【表3−4】

【表3−5】

【表3−6】

【表3−7】

【0030】
ERストレス阻害化合物には、図2Bに示されるような式II−1の化合物(第2−1群化合物)および式II−2(第2−2群化合物)が含まれるが、これらに限定されない(第2−1群化合物および第2−2群化合物は、本明細書において集合的に第2群の化合物と称される。)。
【0031】
式II−1に関しては、R1〜R7はそれぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、ハロ、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0032】
式II−2に関しては、Rは、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、ハロ、およびハロアルキルからなる群から選択される。
【0033】
(ChemBridge化合物ID番号により記載される)第2−1群および第2−2群の代表的な化合物およびそれらの効力データ[IC50(μM)]は、下記表4および表5に提供される。これらの選択された式II−1(第2−1群)の化合物に関しては、それぞれの化合物に対する置換基R1〜R7を、表4に提供する。これらの選択された式II−2(第2−2群)の化合物に関しては、それぞれの化合物に対する置換基Rを、表5に提供する。
【表4】

【表5】

【0034】
第2群の化合物と構造的に類似する化合物の例を表6に提供する。
【表6−1】

【表6−2】

【表6−3】

【0035】
図3は、式Iあるいは式IIの化合物に含まれない5つの独立した化合物の構造を示す。これらの化合物を、以下に示す(ChemBridge化合物ID番号により記載する)。
5980750
5803884
6049184
5979207
6141576
【0036】
これらの化合物と構造的に類似する化合物の例を下記表7〜11に提供する。
【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【0037】
本明細書で使用する「細胞」とは、いずれかの動物細胞、組織、または全生物を指し、哺乳類細胞には、例えば、ウシ亜科の動物細胞、齧歯類細胞(例えば、マウス、またはラット、またはミンク、またはハムスター細胞等)、ウマ細胞、またはブタ細胞、またはヤギ細胞、またはヒツジ細胞、またはネコ細胞、またはイヌ細胞、またはサル細胞、またはヒト細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書で使用する「薬剤」とは、所望の生物学的活性を有するいずれの物質を指す。「ERストレス阻害剤」は、宿主における、細胞死を阻害する、またはERストレスと関連する疾患、症状もしくは傷害を治療・処置する際に、検出可能な生物学的活性を有する。
【0039】
本明細書で使用する「有効量」とは、観察できる生物学的効果の検出可能な差異を生じる組成物の量、例えば、このような効果の統計的に有意な差異を生じる組成物の量、特に、ERストレス阻害活性を生じる組成物の量を指す。該検出可能な差異は、該組成物における単一物質、該組成物における物質の組み合わせ、または2つ以上の組成物の投与の併用効果に起因し得る。例えば、ERストレス阻害化合物を含む組成物の「有効量」は、ERストレスに起因する細胞死、または、例えば、宿主における、ERストレスの症状を緩和する、または、ERストレスまたは別の疾患もしくは疾病と関連する、またはそれらに起因する疾患、症状もしくは障害を治療もしくは予防する等の別の所望の効果を検出可能に阻害する、組成物の量を指し得る。所与の組成物または治療におけるERストレス阻害化合物と別の物質の組み合わせは、相乗的な組み合わせであり得る。Chou and Talalay,Adv.Enzyme Regul.22:27−55(1984)による例に記載されるように、相乗効果は、組み合わせで投与される場合の該化合物の効果が、単一薬剤としてのみ投与される場合の該化合物の相加効果よりも大きい場合に、生じる。一般に、相乗効果は、該化合物の準最適濃度で、最も明確に示される。相乗効果は、個別の成分と比較して、細胞毒性の低下、または活性の増加、またはいくつかの他の組み合わせの有益な効果を示す。
【0040】
本明細書で使用する「治療」または「治療する」とは、(i)病態が発生するのを防ぐ(例えば、予防法)、(ii)病態を阻害する、もしくはその発達を抑える、(iii)病態を緩和する、および/または病態と関連する症状を軽減することを含む。
【0041】
本明細書で使用する「患者」という用語は、本発明の組成物および方法により治療される生命体を指す。このような生命体としては、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の文脈において、「被検体」という用語は、一般に、ERストレス、または関連疾患、症状もしくは障害に起因する細胞死のための治療(例えば、本発明の化合物、および任意に1つもしくは複数の他の薬剤の投与)を受ける個体・個人を指す。
【0042】
本明細書で使用される「薬剤として許容される塩」とは、ERストレス阻害化合物、またはその酸塩または塩基塩を作製することによって親化合物が改変された開示された化合物の他の誘導体を指す。薬剤として許容される塩の例としては、アミン等の塩基性残基の鉱酸塩もしくは有機酸塩、カルボン酸等の酸性残基のアルカリ塩もしくは有機塩が挙げられるが、これらに限定されない。薬剤として許容される塩としては、例えば、無毒性の無機酸または有機酸から形成された、親化合物の無毒性塩または第4級アンモニウム塩も挙げられる。例えば、このような無毒性塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸等の無機酸から誘導された塩;および酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホトン酸、シュウ酸、イセチオン酸等の有機酸から調製された塩が挙げられる。
【0043】
ERストレス阻害化合物または本発明に有用な他の化合物の薬剤として許容される塩は、親化合物から合成され得、従来の化学的手法により、塩基性部分または酸性部分を含む。一般に、このような塩は、水中もしくは有機溶媒、または両者の混合液中で、これらの化合物の遊離酸または遊離塩基型と、化学量論量の適切な塩基または酸を反応させることによって、調製することができる。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリル等の非水媒体が好ましい。好適な塩の一覧表は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,Mack Publishing Company,Easton,PA,p.1418(1985)に見い出され、その開示は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0044】
「薬剤として許容される」という語句は、妥当なベネフィット/リスク比に見合った、過剰毒性、または刺激、またはアレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を有しない、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに好適な、適切な医療判断の範囲内の化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すために、本明細書では使用される。
【0045】
本明細書に開示される化合物のあるジアステレオマーは、他と比較して優れた活性を示し得る。必要な場合に、ラセミ材料の分離は、キラルカラムを用いたHPLCによって、またはThomas J.Tucker,et al.,J.Med.Chem.37:2437−2444,1994にあるような、カンファン酸クロリド等の分割剤を用いた分離によって、達成することができる。式Iのキラル化合物はまた、例えば、Mark A.Huffman,et al.,J.Org.Chem.60:1590−1594,1995のキラル触媒またはキラルリガンドを用いて、直接合成され得る。
【0046】
「安定化合物」および「安定構造」は、反応混合物から有用な程度の純度への単離、および治療薬の有効な処方に耐えうる十分に強固な化合物を意味する。安定化合物のみが、本発明により企図される。
【0047】
「置換される(Substituted)」とは、「置換される(Substituted)」を用いる表現において示された原子上の1つもしくは複数の水素が、指示された群からの選択肢と置き換えられることを意図する。但し、指示された原子の通常の価数は超えず、置換は安定化合物をもたらす。好適な指示された群としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキリデニル、アルケニルイデニル(alkenylidenyl)、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよび/またはCOORが挙げられる。ここで、各RおよびRは独立して、H、アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、またはヒドロキシである。置換基が、ケト(すなわち、=O)またはチオキソ(すなわち、=S)基の場合、該原子上の2つの水素が、置き換えられる。
【0048】
「割り込まれる(Interrupted)」とは、2つ以上の隣接炭素原子と、それらが結合する水素原子との間(例えば、メチル(CH)、メチレン(CH)またはメチン(CH))に、「割り込まれる(Interrupted)」という表現で示された群からの選択肢が挿入されることを意図する。但し、示された原子の通常の価数は超過せず、割り込みは安定化合物をもたらす。このような好適な示された群としては、例えば、非過酸化物オキシ(−O−)、またはチオ(−S−)、またはカルボニル(−C(=O)−)、またはカルボキシ(−C(=O)O−)、またはイミン(C=NH)、またはスルホニル(SO)、またはスルホキシド(SO)が挙げられる。
【0049】
ラジカル、置換基、および範囲のために以下に記載した特定かつ好ましい値は、例示するためのみであり、他の定義された値、またはラジカルおよび置換基に対して定義された範囲内の他の値を除外しない。
【0050】
「アルキル」とは、通常、第2級炭素原子、または第3級炭素原子、または環状炭素原子を含む、C−C18炭化水素を指す。例としては、メチル(Me、−CH)、エチル(Et、−CHCH)、1−プロピル(−Pr、−プロピル、−CHCHCH)、2−プロピル(−Pr、−プロピル、−CH(CH)、1−ブチル(−Bu、−ブチル、−CHCHCHCH)、2−メチル−1−プロピル(−Bu、−ブチル、−CHCH(CH)、2−ブチル(−Bu、−ブチル、−CH(CH)CHCH)、2−メチル−2−プロピル(−Bu、−ブチル、−C(CH)、1−ペンチル(−ペンチル、−CHCHCHCHCH)、2−ペンチル(−CH(CH)CHCHCH)、3−ペンチル(−CH(CHCH)、2−メチル−2−ブチル(−C(CHCHCH)、3−メチル−2−ブチル(−CH(CH)CH(CH)、3−メチル−1−ブチル(−CHCHCH(CH)、2−メチル−1−ブチル(−CHCH(CH)CHCH)、1−ヘキシル(−CHCHCHCHCHCH)、2−ヘキシル(−CH(CH)CHCHCHCH)、3−ヘキシル(−CH(CHCH)(CHCHCH))、2−メチル−2−ペンチル(−C(CHCHCHCH)、3−メチル−2−ペンチル(−CH(CH)CH(CH)CHCH)、4−メチル−2−ペンチル(−CH(CH)CHCH(CH)、3−メチル−3−ペンチル(−C(CH)(CHCH)、2−メチル−3−ペンチル(−CH(CHCH)CH(CH)、2,3−ジメチル−2−ブチル(−C(CHCH(CH)、3,3−ジメチル−2−ブチル(−CH(CH)C(CHが挙げられる。
【0051】
アルキルは、任意に、1つもしくは複数のアルケニル、アルキリデニル、アルケニルイデニル(alkenylidenyl)、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよび/またはCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアルケニル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。該アルキルには、任意に、1つもしくは複数の非過酸化物オキシ(−O−)、またはチオ(−S−)、またはカルボニル(−C(=O)−)、またはカルボキシ(−C(=O)O−)、またはスルホニル(SO)、またはスルホキシド(SO)を割り込ませることができる。さらに、該アルキルは、任意に、少なくとも部分的に不飽和であり得、それによって、アルケニルを提供することができる。
【0052】
「アルケニル」とは、通常、少なくとも1つの不飽和部位、すなわち、炭素−炭素sp二重結合を有する、第2級炭素原子、第3級炭素原子、または環状炭素原子を含む、C−C18炭化水素を指す。例としては、エチレンまたはビニル(−CH=CH)、アリル(−CHCH=CH)、シクロペンテニル(−C)、および5−ヘキセニル(−CHCHCHCHCH=CH)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
該アルケニルは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルキリデニル、アルケニルイデニル(alkenylidenyl)、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよび/またはCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアルケニル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。さらに、該アルケニルに、任意に、1つもしくは複数の非過酸化物オキシ(−O−)、またはチオ(−S−)、またはカルボニル(−C(=O)−)、またはカルボキシ(−C(=O)O−)、またはスルホニル(SO)、またはスルホキシド(SO)を割り込ませることができる。
【0054】
「アルキリデニル」とは、通常、第2級炭素原子、第3級炭素原子、または環状炭素原子を含む、C−C18炭化水素を指す。例としては、メチリデニル(=CH)、エチリデニル(=CHCH)、1−プロピリデニル(=CHCHCH)、2−プロピリデニル(=C(CH)、1−ブチリデニル(=CHCHCHCH)、2−メチル−1−プロピリデニル(=CHCH(CH)、2−ブチリデニル(=C(CH)CHCH)、1−ペンチル(=CHCHCHCHCH)、2−ペンチリデニル(=C(CH)CHCHCH)、3−ペンチリデニル(=C(CHCH)、3−メチル−2−ブチリデニル(=C(CH)CH(CH)、3−メチル−1−ブチリデニル(=CHCHCH(CH)、2−メチル−1−ブチリデニル(=CHCH(CH)CHCH)、1−ヘキシリデニル(=CHCHCHCHCHCH)、2−ヘキシリデニル(=C(CH)CHCHCHCH)、3−ヘキシリデニル(=C(CHCH)(CHCHCH))、3−メチル−2−ペンチリデニル(=C(CH)CH(CH)CHCH)、4−メチル−2−ペンチリデニル(=C(CH)CHCH(CH)、2−メチル−3−ペンチリデニル(=C(CHCH)CH(CH)、および3,3−ジメチル−2−ブチリデニル(=C(CH)C(CHが挙げられる。
【0055】
該アルキリデニルは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルケニルイデニル(alkenylidenyl)、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよび/またはCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアルケニル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。さらに、該アルキリデニルに、任意に、1つもしくは複数の非過酸化物オキシ(−O−)、またはチオ(−S−)、またはカルボニル(−C(=O)−)、またはカルボキシ(−C(=O)O−)、またはスルホニル(SO)、またはスルホキシド(SO)を割り込ませることができる。
【0056】
「アルケニルイデニル(alkenylidenyl)」とは、通常、少なくとも1つの不飽和部位、すなわち、炭素−炭素sp二重結合を有する、第2級炭素原子、第3級炭素原子、または環状炭素原子を含む、C−C18炭化水素を指す。例としては、アリルイデニル(allylidenyl)(=CHCH=CH)、および5−ヘキセニルイデニル(hexenylidenyl)(=CHCHCHCHCH=CH)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
該アルケニルイデニル(alkenylidenyl)は、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルキリデニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよび/またはCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアルケニル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。さらに、該アルケニルイデニル(alkenylidenyl)に、任意に、1つもしくは複数の非過酸化物オキシ(−O−)、またはチオ(−S−)、またはカルボニル(−C(=O)−)、またはカルボキシ(−C(=O)O−)、またはスルホニル(SO)、またはスルホキシド(SO)を割り込ませることができる。
【0058】
「アルキレン」とは、飽和鎖、分枝鎖もしくは直鎖、または環状の1〜18個の炭素原子を有し、親アルカンの同一のもしくは異なる炭素原子から2つの水素原子の除去によって得られる2つの一価のラジカル中心を有する、炭化水素基を指す。典型的なアルキレン基は、メチレン(−CH−)1,2−エチル(−CHCH−)、1,3−プロピル(−CHCHCH−)、1,4−ブチル(−CHCHCHCH−)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
該アルキレンは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルキリデニル、アルケニルイデニル(alkenylidenyl)、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよび/またはCOORと置換できでる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアルケニル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。さらに、該アルキレンに、任意に、1つもしくは複数の非過酸化物オキシ(−O−)、またはチオ(−S−)、またはカルボニル(−C(=O)−)、またはカルボキシ(−C(=O)O−)、またはスルホニル(SO)、またはスルホキシド(SO)を割り込ませることができる。また、該アルキレンは、任意に、少なくとも部分的に不飽和であり得、それによって、アルケニレンを提供することができる。
【0060】
「アルケニレン」とは、不飽和鎖、分枝鎖もしくは直鎖、または環状の2〜18個の炭素原子を有し、親アルケンの同一のもしくは異なる炭素原子から2つの水素原子の除去によって得られる2つの一価のラジカル中心を有する、炭化水素基を指す。典型的なアルケニレン基としては、1,2−エチレン(−CH=CH−)が挙げられるが、これに限定されない。
【0061】
該アルケニレンは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルキリデニル、アルケニルイデニル(alkenylidenyl)、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよび/またはCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアルケニル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。さらに、該アルケニレンに、任意に、1つもしくは複数の非過酸化物オキシ(−O−)、またはチオ(−S−)、またはカルボニル(−C(=O)−)、またはカルボキシ(−C(=O)O−)、またはスルホニル(SO)、またはスルホキシド(SO)を割り込ませることができる。
【0062】
「アルコキシ」という用語は、アルキル−O−の基を指し、ここでのアルキルは、前述したように定義される。好ましいアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、sec−ブトキシ、n−ペンとキシ、n−ヘキソキシ、1,2−ジメチルブトキシ等が挙げられる。
【0063】
該アルコキシは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルキリデニル、アルケニルイデニル(alkenylidenyl)、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよびCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。
【0064】
「アリール」という用語は、単環(例えば、フェニル)または多数の縮合(融合)環を有する6個から20個の炭素原子からなる不飽和芳香族炭素環基を指し、少なくとも1つの環は、芳香族(例えば、ナフチル、ジヒドロフェナントレニル、フルオレニル、またはアントリル)である。好ましいアリールとしては、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
【0065】
該アリールは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ヘテロアリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよびCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。
【0066】
「シクロアルキル」という用語は、単一の環状基または多数の縮合環を有する、3個から20個の炭素原子からなる環状アルキル基を指す。このようなシクロアルキル基としては、例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロオクチル等の単一の環状構造、またはアダマンタニル等の多数の環状構造が挙げられる。
【0067】
該シクロアルキルは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、複素環、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよびCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。
【0068】
該シクロアルキルは、任意に、少なくとも部分的に不飽和であり得、それによって、シクロアルケニルを提供することができる。
【0069】
「ハロ」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを指す。同様に、「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を指す。
【0070】
「ハロアルキル」とは、本明細書に定義される1〜4個のハロ基によって置換される本明細書に定義されるアルキルを指し、各ハロ基は、同一または異なり得る。代表的なハロアルキル基としては、例として、トリフルオロメチル、3−フルオロドデシル、12,12,12−トリフルオロドデシル、2−ブロモオクチル、3−ブロモ−6−クロロヘプチル等が挙げられる。
【0071】
「ヘテロアリール」という用語は、本明細書では、1つ、または2つ、または3つの芳香環を含み、芳香環が少なくとも1つの窒素、または酸素、または硫黄原子を含む、単環式系、または二環式系、または三環式環系として定義される。また、芳香環は、例えば、1つもしくは複数の、特に、ハロ、アルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ハロアルキル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、およびアルキルスルホニル等の1個から3個の置換基で、非置換または置換することができる。ヘテロアリール基の例としては、2H−ピロリル、3H−インドリル、4H−キノリジニル、4nH−カルバゾリル、アクリジニル、ベンゾ[b]チエニル、ベンゾチアゾリル、β−カルボリニル、カルバゾリル、クロメニル、シンナオリニル、ジベンゾ[b,d]フラニル、フラザニル、フリル、イミダゾリル、イミジゾリル、インダゾリル、インドリシニル、インドリル、イソベンゾフラニル、イソインドリル、イソキノリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、ナフチリジニル、ナフサ[2,3−b]、オキサゾリル、ペリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナルサジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピリミジニル、ピロリル、キナゾリニル、キノリル、キノキサリニル、チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、トリアゾリル、およびキサンテニルが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、該「ヘテロアリール」という用語は、炭素を含み、また、非過酸化物酸素、硫黄、およびN(Z)の群から独立して選択される1個、または2個、または3個、または4個のヘテロ原子を含み、5個または6個の環原子を含む単環式芳香族環を示す。ここで、Zは、不在またはH、またはO、またはアルキル、またはフェニル、またはベンジルである。別の実施形態において、ヘテロアリールは、その中から得られる約8個から10個の環原子のオルト縮合した二環式複素環、特に、ベンズ誘導体、またはそれにプロピレンもしくはテトラメチレンジラジカルを縮合することによって得られたものを示す。
【0072】
該ヘテロアリールは、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、複素環、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよびCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。
【0073】
「複素環」という用語は、飽和、一部不飽和の環系を指し、酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含み、任意に、アルキルまたはC(=O)ORと置換しうる。ここで、Rは、水素またはアルキルである。一般に、複素環は、酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される1つもしくは複数のヘテロ原子を含む、単環式基、または二環式基、または三環式基である。複素環基はまた、該環に結合されるオキソ基(=O)も含むことができる。複素環基の限定されない例としては、1,3−ジヒドロベンゾフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,4−ジチアン、2H−ピラン、2−ピラゾリン、4H−ピラン、クロマニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、インドリニル、イソクロマニル、イソインドリニル、モルホリン、ピペラジニル、ピペリジン、ピペリジル、ピラゾリジン、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピロリジン、ピロリン、キヌクリジン、およびチオモルホリンが挙げられる。
【0074】
該複素環は、任意に、1つもしくは複数のアルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、アルキルアミノ、アシルアミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ、カルボキシアルキル、ケト、チオキソ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、シアノ、NRおよびCOORと置換できる。ここで、各RおよびRは独立して、H、またはアルキル、またはアリール、またはヘテロアリール、または複素環、またはシクロアルキル、またはヒドロキシルである。
【0075】
窒素複素環およびヘテロアリールの例としては、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチルピリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、イソチアゾール、フェナジン、イソオキサゾール、フェノキサジン、フェノチアジン、イミダゾリジン、イミダゾリン、ピペリジン、ピペラジン、インドリン、モルホリノ、ピペリジニル、テトラヒドロフラニル等、ならびに複素環を含むN−アルコキシ−窒素が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の1つの特定の実施形態において、該窒素複素環は、3−メチル−5,6−ジヒドロ−4H−ピラジノ[3,2,1−jk]カルバゾール−3−イウムヨージドであり得る。
【0076】
別の種類の複素環は、式[−(CH−)A−]の1つもしくは複数の反復単位を有する、特定の種類の複素環式化合物を指し、「クラウン化合物」として知られる。ここで、aは、2もしくはそれ以上であり、Aは、それぞれ別々に、O、またはN、またはS、またはPであり得る。クラウン化合物の例としては、ほんの一例として、[−(CH−NH−]、[−((CH−O)−((CH−NH)]等が挙げられる。一般的に、このようなクラウン化合物は、4個から10個のヘテロ原子および8個から40個の炭素原子を有することができる。
【0077】
「アルカノイル」という用語は、C(=O)Rを指し、ここでのRは、前述したように定義されたアルキル基である。
【0078】
「アシルオキシ」という用語は、−O−C(=O)Rを指し、ここでのRは、前述したように定義されたアルキル基である。アシルオキシ基の例としては、アセトキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、およびペンタノイルオキシが挙げられるが、これらに限定されない。上記に定義された任意のアルキル基を使用して、アシルオキシ基を形成することができる。
【0079】
「アルコキシカルボニル」という用語は、C(=O)ORを指し、ここでのRは、前述したように定義されたアルキル基である。
【0080】
「アミノ」という用語は、−NHを指し、「アルキルアミノ」という用語は、−NRを指す。ここで、少なくとも1つのRは、アルキルであり、第2のRは、アルキルまたは水素である。「アシルアミノ」という用語は、RC(=O)Nを指し、ここでのRは、アルキルまたはアリールである。
【0081】
「イミノ」という用語は、−C=NHを指す。
【0082】
「ニトロ」という用語は、−NOを指す。
【0083】
「トリフルオロメチル」という用語は、−CFを指す。
【0084】
「トリフルオロメトキシ」という用語は、−OCFを指す。
【0085】
「シアノ」という用語は、−CNを指す。
【0086】
「ヒドロキシ」または「ヒドロキシル」という用語は、–OHを指す。
【0087】
「オキシ」という用語は、−O−を指す。
【0088】
「チオ」という用語は、−S−を指す。
【0089】
「チオキソ」という用語は、(=S)を指す。
【0090】
「ケト」という用語は、(=O)を指す。
【0091】
上記の基のいずれかについては、1つもしくは複数の置換基を含み、当然ながら、このような基は、立体的に現実的でない、および/または合成的に実現可能でない、いずれの置換または置換型を含まないことが理解される。また、本発明の化合物は、これらの化合物の置換から生じるすべての立体化学的な異性体を含む。
【0092】
本明細書に記載される化合物内の選択された置換基は、再帰的な程度まで存在する。この文脈では、「再帰的な置換基」とは、ある置換基がそれ自身で再帰的な程度まで存在する別の例を列挙し得ることを意味する。このような置換基の再帰的特性のために、理論上は、多数が任意の所与の特許請求項に存在し得る。医化学分野の当業者は、このような置換基の総数は意図する化合物の所望の性質によって合理的に制限されると理解している。このような性質には、例えば、分子量、または溶解性、またはlogP等の物理的性質、意図する標的に対する活性等の適用性、および合成の容易さ等の実用性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
再帰的な置換基は、本発明の意図する態様である。医薬および有機化学の分野の当業者は、このような置換基の汎用性を理解している。再帰的な置換基が本発明の請求項に存在する程度まで、上記のように総数を決定する。
【0094】
本明細書に記載される化合物は、親化合物、または親化合物のプロドラッグ、または親化合物の活性代謝物として、投与することができる。
【0095】
「プロドラッグ」は、このようなプロドラッグが哺乳類の被検体に投与される場合、生体内で本発明の活性親ドラッグまたは他の製剤または化合物を放出するあらゆる共有結合した物質を含むことを意図する。本発明の化合物のプロドラッグは、例えば、生体内の作用で、親化合物が切断されるような方法で、化合物に存在する官能基を変性することにより調製される。プロドラッグは、本発明の化合物を含み、カルボニル基、またはカルボン酸基、またはヒドロキシ基、またはアミノ基が、プロドラッグが哺乳類の被検体に投与される場合、遊離のカルボニル基、またはカルボン酸基、またはヒドロキシ基、またはアミノ基を形成するために切断されるいずれかの基に結合する。プロドラッグの例としては、本発明の化合物中のアルコールまたはアミン官能基への酢酸誘導体の塩・エステル、ギ酸誘導体の塩・エステル、および安息香酸誘導体の塩・エステル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
「代謝物」とは、本発明のこのような活性親ドラッグまたは他の製剤または化合物が哺乳類の被検体に投与される場合、生体細胞が、生体内で本発明の活性親ドラッグまたは他の製剤または化合物と相互に作用する生化学過程に起因するあらゆる物質を指す。代謝物は、任意の代謝経路からの生成物または媒介物を含む。
【0097】
「代謝経路」とは、1つの化合物を別の化合物に変換し、細胞機能のために媒介物・中間体およびエネルギーを提供する一連の酵素媒介反応を指す。代謝経路は、線状または環状であり得る。
【0098】
明らかに、本発明の多数の変性および変化が、上記の教示を考慮に入れると可能である。したがって、添付の請求項の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載される以外にも実行され得る。
【0099】
医学的適応
ERストレス誘導細胞死を阻害する、本発明の化合物は、次のERストレス関連疾患、症状、および障害の治療に用いられうる:神経疾患、代謝性疾患、虚血障害、心臓および循環系損傷、ウイルス感染、アテローム性動脈硬化、双極性疾患、およびバッテン病。神経疾患には、家族性アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病(polyQ疾患)、球脊髄性筋萎縮症/ケネディ病(polyQ疾患)、脊髄小脳失調症3型/マシャド・ジョセフ病(polyQ疾患)、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、およびGM1ガングリオシドーシスが含まれるが、これらに限定されない。代謝性疾患には、糖尿病、ウォルコツト・ラリソン症候群、ウォフラム症候群、2型糖尿病、ホモシステイン血症、Zα1−抗トリプシン欠乏症封入体筋炎、および遺伝性チロシン血症1型が含まれるが、これらに限定されない。心臓および循環系損傷には、心肥大、低酸素性障害、および家族性高コレステロール血症が含まれるが、これらに限定されない。
【0100】
医薬組成物
本発明の化合物は、医薬組成物として処方され得、選ばれた投与経路、すなわち、経口または非経口で、筋肉内、静脈内、局所、または皮下経路に適応した様々な形態で、ヒト患者等、哺乳類の宿主に投与され得る。
【0101】
本化合物は、例えば、不活性希釈剤または吸収可能な食用の担体等の薬剤として許容される媒体と併用して、経口で全身に投与されてもよい。それらは、硬質または軟質ゼラチンカプセルに充填し、錠剤に圧縮し、または患者の食事の食物と共に直接取り込んでもよい。経口投与に関しては、該活性化合物は、1つもしくは複数の賦形剤と組み合わせて、および摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハース等の形態で使用されてもよい。このような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含まなければならない。該組成物および調製物の割合は、当然ながら、異なり、適宜に、所与の単位剤形の重量の約2%から約60%の間にあり得る。このような有用な組成物における活性化合物の量は、有効な用量レベルが得られるようなものである。
【0102】
錠剤、トローチ、ピル、カプセル等はまた、トラガカント、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチン等の結合剤;リン酸二カルシウム等の賦形剤;コーンスターチ、デンプン、アルギン酸等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;およびスクロース、もしくはフルクトース、もしくはラクトース、もしくはアスパルテーム等の甘味剤を含有してもよく、ペパーミント、もしくは冬緑油、もしくはチェリー風味等の香味剤を加えてもよい。単位剤形がカプセルである場合は、上記のタイプの材料のほかに、植物油またはポリエチレングリコール等の液体担体を含有してもよい。様々な他の材料が、コーティングとして、または固体単位剤形の物理的形態を変化させるために存在する可能性がある。例えば、錠剤、またはピル、またはカプセルは、ゼラチン、またはワックス、またはシェラック、または糖等でコーティングされてもよい。シロップ剤もしくはエリキシル剤は、該活性化合物、甘味剤としてスクロースもしくはフルクトース、保存剤としてメチルおよびプロピルパラベン、染料およびチェリーまたはオレンジフレーバー等の香味料を含有してもよい。当然ながら、任意の単位剤形を調製する際に使用されるあらゆる物質は、用いた量で薬剤として許容され得るかつ実質的に非毒性であるべきである。さらに、該活性化合物は、徐放性剤および装置に導入されてもよい。
【0103】
該活性化合物はまた、点滴または注射によって、静脈もしくは腹膜に投与され得る。該活性化合物またはその塩の溶液は、水で調製され得、任意に、非毒性界面活性剤と混合され得る。分散剤はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、およびそれらの混合物中、および油中で調製され得る。貯蔵および使用に関する通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防御するために保存剤を含有し得る。
【0104】
注射または点滴のために好適な医薬剤形は、滅菌注射剤もしくは点滴剤または分散剤の即席調製物に適合され、任意に、リポソームで封入された活性成分を含む滅菌水性溶液または分散剤または滅菌粉末を含むことができる。すべてのケースにおいて、最終的な剤形は、製造および貯蔵の条件下で、滅菌、液状および安定であるべきである。液体担体または媒体は、溶媒または液体分散媒、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、植物油、非毒性グリセリルエステルおよびそれらの好適な混合物であり得る。適当な液体性は、例えば、リポソームの形成によって、分散剤の場合において所望の粒子サイズの維持によって、または界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用を防止することは、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロザール等によって得られる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または緩衝液または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射し得る組成物の長期吸収は、吸収を遅延する剤、例えば、ステアリン酸アルミニウム(I)およびゼラチンを組成物に使用することによってもたらされ得る。
【0105】
滅菌注射剤は、上記列挙した様々な他の成分と共に適当な溶媒中に所望の量で、活性化合物を導入することによって調製され、必要に応じ、滅菌濾過され得る。滅菌注射剤の調製のための滅菌粉末の場合では、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥技術であり、これにより、活性成分、ならびに先の滅菌濾過溶液中に存在するあらゆる追加の所望の成分の粉末が得られる。
【0106】
局所投与のために、本化合物が液体である場合、純粋な形態で適用され得る。しかしながら、広く、それらは、組成物または配合物として、皮膚化学的に許容される担体と併用して、皮膚に投与することが望まれ、これは、固体または液体で存在してもよい。
【0107】
有用な固体担体は、細かく分割された固体、例えば、タルク、クレイ、微小結晶性セルロース、シリカ、アルミナ等を含む。有用な液体担体は、水またはアルコールまたはグリコール、または水−アルコール/グリコール混合物を含み、この中で本化合物は、有効レベルで、任意に非毒性界面活性剤の助けによって、溶解され得るか、分散され得る。香料等の佐剤および追加の抗菌剤は、所与の使用に対して性質を最適化するために添加することができる。得られる液体組成物は、包帯および他の包帯剤を浸透するため吸収パッドに適用されるか、または、ポンプタイプまたはエアゾールスプレーを用いて罹患箇所に噴霧され得る。
【0108】
増粘剤、例えば、合成ポリマー、または脂肪酸、または脂肪酸塩およびエステル、または脂肪アルコール、または修飾されたセルロースまたは修飾された天然物質はまた、使用者の皮膚に直接適用するために、散布可能なペースト、ゲル、軟膏、石鹸等を形成するように、液体担体と共に用いることができる。
【0109】
本発明の化合物の有用な用量は、動物モデルにおける生体内活性と体外活性とを比較することによって決定され得る。マウスおよび他の動物における有効用量のヒトへの外挿法が、例えば、米国特許第4,938,949号で、当業者に知られている。
【0110】
一般的に、ローション等の液体組成物中の、本発明の化合物の濃度は、約0.1〜25重量%、好ましくは、約0.5〜10重量%である。半固体または固体組成物中の濃度は、約0.1〜5重量%、好ましくは約0.5〜2.5重量%である。
【0111】
単独または他の化合物と共に使用するのに必要な、該化合物の量、またはその活性塩もしくは誘導体の量は、選択される特定の塩によってだけでなく、投与の経路、治療される病気の特性および患者の年齢および健康状態によっても変化し、最終的には内科医または臨床医の裁量による。
【0112】
しかしながら、一般的には、好適な用量は、1日あたり、体重の約0.5〜約100mg/kg、例えば、1日あたり、患者の体重の約10〜約75mg/kg、1日あたり、3〜約50mg/kg、好ましくは、6〜90mg/kg/日、最も好ましくは15〜60mg/kg/日の範囲である。
【0113】
本化合物は、単位剤形で投与されるのが便利であり得る、例えば、単位剤形あたり、活性成分が5〜1000mg、有利には10〜750mg、最も有利には50〜500mg存在する。
【0114】
該活性成分は、該活性化合物のピーク血漿濃度、約0.5〜約75μM、好ましくは、約1〜50μM、最も好ましくは、約2〜約30μMを達成するために投与され得る。これは、例えば、該活性成分の0.05〜5%の溶液、任意に、生理食塩水中で静脈注射によって達成されるか、または約1〜100mgの活性成分を含むボーラス投与として経口投与され得る。所望の血液レベルは、約0.01〜5.0mg/kg/時間を供する持続注入によって維持されるか、約0.4〜15mg/kgの活性成分を含む間欠性の点滴によって維持され得る。
【0115】
所望の用量は、単回用量、または適切な間隔、例えば、1日あたり、2、または3、または4、またはそれ以上の分割投与量として投与される分割用量として、適切に与えられ得る。分割投与量それ自身は、吸入器からの複数回吸入または眼への複数回滴の用途によっては、さらなる分割、例えば、いくつかの不連続な間隔をおいての投与であってもよい。
【0116】
本発明は、以下の限定されない実施例によってさらに詳細に説明される。
【実施例1】
【0117】
ERストレス(他の細胞死経路ではない)の結果として特異的に誘導された細胞死を遮断する化合物は、内在する機構を問いただすため、ならびにERストレスが細胞死および組織障害に関与する事象を引き起こす動物モデルにおいて生体内で解明するために、有用であろう。この取り組みにより、最近、ツニカマイシン(ERストレスを誘導するN結合型糖鎖合成の阻害剤)により誘導される神経細胞死の化学阻害剤に対するスクリーニングが行われ、セリン51上でeIF2αの脱リン酸化に関与するタンパク質ホスファターゼを抑制する化合物が同定された。さらには、この化合物がリン酸化されたeIF2αの蓄積を増加し、ERストレスのいくつかの誘導剤により誘導されるアポトーシスからの保護を提供することが、刊行物に示された(Boyce et al.,Science,307:935−939,2005)。興味深いことに、明白に特徴付けられたプロトタイプ化合物(サルブリナル)は、ホスファターゼの活性部位阻害剤ではないがむしろ、GADD35およびタンパク質ホスファターゼ−1(PP1)を含む複合体を特異的に阻害し、それによって、基質リン−eIF2αへのPP1のGADD34媒介標的を阻止する。
【0118】
我々は、ERストレスにより誘導される細胞死を遮断する化合物の同定のための代替スクリーニングアッセイを考案し、化合物のライブラリにスクリーニングを行い、それによって、このアプローチを検証した。
【0119】
ERストレスに関連する細胞死が、いくつかの神経系疾患の顕著な特徴であるため、我々は、神経細胞を利用する一次化学ライブラリスクリーニングアッセイを開発することに焦点を当てた。CSM14.1は、SV40大型T抗原の温度感受性変異体を用いて、不死化により構築されたラット線条体神経前駆細胞株である(Zhong et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:4533−4537,1993、Haas and Wree,J.Anat.,201:61−69,2002)。許容温度(最適32℃で)で該細胞が増殖し、ハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイ用の標準培地中で、容易に増殖させることができる。39℃の非許容温度で培養した場合、大型T抗原は不活性であり、該細胞は増殖を停止し、分化して成熟ドーパミン作動性ニューロンの性質を有するニューロンを生成する(Zhong et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:4533−4537,1993、Haas and Wree,J.Anat.,201:61−69, 2002)。
【0120】
大規模なスクリーニング実験と関連し得る温度の一時的な低下は、大型T活性を修復することができるため、我々は、未分化CSM14.1細胞を用いて、まずHTSを開発し、その後、分化細胞を用いてヒットを確認するための計画を選んだ。細胞死をモニタリングするために、複雑な細胞処理過程を必要としない、細胞内ATP含有量を測定する商業的に入手可能な生物発光試薬を用いた(ATPlite,Perkin Elmer)。したがって、ATPは、一次アッセイの細胞生存の指示薬として用いた。ERストレスを誘導することで知られる刺激物を用いて細胞死を引き起こすために、我々は、タプシガルジン(TG)を選択した。これは、ERのCa2−ATPaseを不可逆的に阻害するセスキテルペンラクトンである(Jiang et al.,Exp.Cell Res.,212:84−92,1994、Tsukamoto and Kaneko,Cell Biol.Int.,17:969−970,1993)。
【0121】
パイロット実験において、未分化CSM14.1細胞を、96ウェルプレートのウェル中に、様々な密度で播種し、一晩培養し、その後、細胞のATP含有量を、発光性のATPlite試薬を用いて測定した(図4A)。また、ウェルあたり3,000の細胞で、CSM14.1細胞を培養し、その後、様々な濃度のTGまたはSalで細胞を処理し、18時間培養した後、ATP含有量を測定することによって、タプシガルジンに対する用量反応実験を行った(図4B)、(平均+標準偏差;n=3)。同様に、サルブリナル(Sal)に対する用量反応実験を行った。上記のように細胞を播種、培養し、その後、様々な濃度のサルブリナル、次いで2時間後、15uMのTGで、細胞を処理した。細胞を18時間培養し、その後、ATP含有量を測定した(平均+標準偏差;n=3)(図4C)。ウェル(96ウェル、平底、ポリスチレンプラスチックプレート)あたり3,000の細胞は、十分なシグナルを提供し、15μMのタプシガルジン(TG)は、ウェルあたり約95%のATPの低下をもたらすと判断された。これは、独立した生体染色色素排除アッセイを用いて、約95%の細胞殺滅と相関することが確認された。対照(コントロール)として、我々は、サルブリナルを利用した。これは、ERストレス誘導細胞死を遮断することが報告されていた(Boyce et al.,Science,307:935−939,2005)。細胞の生存量を見るため、未分化CSM14.1細胞を用いてATPを測定したところ、サルブリナル(100μM)は、TGにより誘導される細胞死から細胞を有意に保護した(図4)。
【0122】
我々は、TGにより誘導される細胞死に対するサルブリナルによる保護について、未分化と分化CSM14.1ニューロンを比較した。図5は、TGがCSM14.1細胞を殺滅し、サルブリナルがCSM14.1細胞を保護することを示す。未分化または分化CSM14.1細胞を、ポリスチレン(Greiner Bio One、ポリスチレン、白壁、平底、lumitrac、高結合)製の96ウェル平底マイクロタイタープレート中の40μLのDMEM培地(10%の血清、1mMのL−グルタミン、および抗生物質を含有する)内に、3,000細胞/ウェルの密度で播種した。32℃で一晩インキュベーションした後、DMSO(0.5%v/v)またはDMSO中の100μMのサルブリナル(Sal)を与えた。2時間後、DMEM培地内の150μMのTG中5uLの原液に、0.75%(v:v)DMSOを含有させ、約15μMの最終濃度を達成した。24時間培養した後、細胞内ATP含有量を、ATPlite溶液(Perkin−Elmer)をウェルあたり20μL加え、プレートを室温で3分間インキュベートし、その後、Microplate Luminometer(BD Pharmingen Moonlightモデル3096)で読み込むことにより測定した。DMSOのみで処理した細胞中のATP含有量は、比較の対照として用いられ、この対照に対する相対的な割合として結果を示した。
【0123】
ATP含有量アッセイの再現性を判定するために、96ウェルプレートを調製し、そのうちのウェルの半分に、TG+DMSO(アッセイの最小)を添加し、別の半分に、TG+サルブリナル(アッセイの最大)を添加し、その後、未分化CSM14.1細胞を用いて、ATP含有量試験を行った(図6)。CSM14.1細胞を、96ウェル平底プレート中のウェルあたり3,000の細胞で一晩培養し、その後、DMSO(最終濃度0.5%)あるいはDMSO(最終濃度0.5%)中のサルブリナル(100μM)のいずれかをウェルの半分に加えた(それぞれ48)。2時間後、TGをすべてのウェルに加えた(最終15μM)。細胞を24時間培養し、その後、該ATP含有量をATPlite luminogenicアッセイを用いて測定した。その後、96ウェルプレートのマイクロウェルにアッセイ成分を自動添加するために、Biomex(商標) FXリキッドハンドラーを用いて、ハイスループット環境にこのアッセイを適応させた。第1に、未分化CSM14.1細胞は、約3×10細胞を生成させるために、150mm×25mmのポリスチレン培養ディッシュ中に、10%のウシ胎仔血清(FBS)、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、および1%のL−グルタミンで補完したDMEM培地で、32℃で生育させた。第2に、CSM14.1細胞は、80〜90%コンフルエンスになったとき、トリプシン処理によって培地から取り出し、2%のFBS、1mMのL−グルタミン、ペニシリン100IU、ストレプトマイシン100μg/mlを抗生物質として含有するDMEM培地内に、7.5×10細胞/mLで懸濁した。第3に、該細胞懸濁液は、その後、96ウェルプラスチックマイクロタイタープレート(Greiner Bio One、ポリスチレン、白壁、平底、lumitrac、高結合、cat#655074)にウェルあたり40μLで与え、該プレートを、95%大気:5%CO中で、湿気環境下、32℃で一晩培養した。第4に、自動リキッドハンドラーを用いて、10%DMSO中の5μLの試験化合物を、96ウェルプレートの2〜11列(1および12列はそのまま)のウェルに加え、ほぼ最終濃度の15μg/mLの試験化合物および最終濃度1%のDMSOを達成した。第5に、10% DMSO:90% DMEMの溶液中の5μLの1mMのサルブリナルを、それぞれのプレートの1列/A〜D行のウェルに加える一方で、5μLの10% DMSO:90% DMEM溶液を、1列/E〜H行に対応するウェルおよび12列のすべてのウェル加えた。第6に、該プレートを培養に戻した。第7に、2時間後、自動リキッドハンドラーを用いて、0.75%DMSOを含有させ、DMEM内で150μMのTGの原液をウェルあたり5μLで分注した。したがって、1〜11列で最終濃度の約15μMのTGを達成し、データ比較の対照として、12列を残した(1%DMSO/TGなし)。第8に、該プレートを、該インキュベーターに戻し、24時間培養した。第9に、液体ディスペンサー(Well MateTM [Thermo−Fisher Scientific])を用いて、20μLのATPlite溶液をウェルごとに分注した。第10に、プレートを、Criterio−Analyst(商標) HTマイクロプレートレコーダーを用いて、30分以内に読み込んだ。典型的に、シグナル:ノイズ比は、>7:1であり、Z’因子は、>0.7であり、該アッセイ方法は、HTSに好適であることが示唆された。
【0124】
スクリーニングデータの質を評価するために、Z’因子を、確立された式(Zhang et al.,J.Biomol.Screen.4:67−73,1999)を用いて、それぞれのプレート、および全実験に対して算出し、すべてのプレートに対する最小対照(DMSOのみ)および最大対照(サルブリナル)の結果を総計した。
【0125】
図7は、20のプレートでのアッセイ品質対照解析のデータの一例を示し、DMSO対照のウェル(x軸)およびサルブリナル対照のウェル(x軸)に対して相対発光強度単位(RLU)(y軸)として測定されたATPliteの結果をプロットし、HTSアッセイの最小対照および最大対照を示す。すべてのウェルに、TGを添加した。これらの20のプレートに関して、平均シグナル:ノイズ比は、31であり、Z’因子は、0.74であった。
【0126】
化学ライブラリをスクリーニングするための基本的方法は、以下のとおりであった。1日目に、不死化されたCSM14.1細胞を、2%のFBSおよび抗生物質で補完した40μlのDMEM中で、白96ウェルプレート中にウェルあたり3×10の細胞を播種し、次いで、一晩インキュベーションした。2日目に、自動リキッドハンドラーを用いて、5μlの化合物をプレートに加えた(1%のDMSO中最終15mg/ml)。2時間後、細胞をタプシガルジンで処理した(最終15mM)。24時間後、発光アッセイを用いて、細胞質ATPレベルを測定した。細胞質ATP活性は、未処理の対照細胞と比較した相対生存率として解釈された。スクリーニングの質を評価するために、それぞれのプレートのZプライム(Z’)因子が算出された。
【0127】
本アッセイを用いて、50,000の化合物(ChemBridge)のインハウスライブラリをスクリーニングした。典型的なプレートに対する結果を図9aに提供する。この図は、50,000の化合物(ChemBridge)のインハウスライブラリの典型的なスクリーニングからの未加工データを示し、1つの有効なヒット化合物(太字)を示す。CSM14.1細胞を、DMSO(最終1%)(12列)、またはタプシガルジン(1列E〜H行)と組み合わせたDMSO、またはタプシガルジン(1列A〜D行)と組み合わせた100mMのサルブリナルで処理した。8列G行でウェル中の化合物は、生存率98.9%に相当する。未加工データの正規化は、12列の(相対発光強度単位中の)ATPliteシグナルを平均化することにより達成され、1%のDMSOを与えられたがTGを与えられなかった細胞からの値を100と設定した。他のすべての未加工データ値を、その後、この平均数(12列で得た)で除し、100を乗じた。図9bは、データの正規化後、典型的なアッセイプレートに対するスクリーニング結果の一例を示す。
【0128】
図10は、データの正規化後のスクリーニング結果の一例を表示するグラフである。相対ATP含有量(y軸)は、ウェル番号(1−96[A1からH12])(x軸)に対してプロットされる。ウェルA1からD1は、アッセイ最大対照(サルブリナル+TGを与えられた)であり、ウェルE1〜H1は、アッセイ最小対照(DMSO+TGを与えられた)であり、ウェルA12〜H12(12列)は、正規化対照(TGなしでDMSOを与えられた)である。ウェルA12〜H12の平均ATP含有量を算出し、データの正規化に用いた。算出されたZ’因子は、本プレートに対して0.87であった(Z’因子が0.5より大きく1.0未満である場合、アッセイは、非常に安定していると見なされる)。ヒット化合物は、ウェルG8(矢印)に認められる。zプライム因子を評価するために、DMSO対照試料の未加工値を「対照」として用い、タプシガルジンで処理された試料(1列E〜H行)の未加工値を、zプライム因子の等式において、「試料」として用いた。該Z値が0.5を超え、1.0より下回る場合、アッセイが非常に安定していると見なす。
【0129】
50,000の化合物のスクリーニングから、93の化合物が、>50%の生存率でCSM14.1を守ったことを確認した(前記表1)。その後、これらの93ヒットに対して同一の一次アッセイを用いて、用量反応実験を行い、適切な用量反応挙動を示す、<25μMのIC50(50%のATP含有量を守るための有効量)を有する26の化合物を同定した(表12)。
【表12】

【0130】
図11は、弱活性(C)または部分阻害(D)のため、処分された2つの化合物と共に、2つのヒット化合物によりERストレス誘導細胞死の用量依存的阻害を示す。未分化CSM14.1細胞は、タプシガルジン(15μM)および様々な濃度の4種のヒット化合物(A、B、C、D)で処理された。データは、3つの独立した実験を代表する。
【0131】
図12は、サルブリナルが、タプシガルジンにより誘導される細胞死を阻害するに際して、我々のヒット化合物よりも有効性が低いことを示す。CSM14.1細胞を、96ウェルプレート中で、ウェルあたり3×10細胞の密度で播種し、一晩インキュベートした。指示された濃度のサルブリナルで該細胞を2時間プレインキュベートし、次いで、7.5mMのタプシガルジンで処理した。18時間後、細胞死率を、MTSアッセイにより測定した。MTSアッセイのために、CellTiter 96(登録商標)Aqueous Non−radioactive Cell Proliferation Assay キット(Promega)を用いた。製造業者のプロトコルにより反応溶液を作製し、96ウェルプレートの処理されたそれぞれのウェルは、20μlの反応溶液でインキュベートされた。プレートは、37℃で、5% COを有する加湿細胞インキュベーターで2時間インキュベートし、それぞれのウェルの吸光度を、490nmの波長で、ELISAプレートリーダーにより読み込んだ。バックグラウンドの吸光度レベルを判定するために、同一体積の培地(細胞を含まないDMEM)を、MTS溶液でインキュベートした。バックグラウンド値は、それぞれのウェルの値から減じた。対照処理(TGなし、Salなし)ウェルからのバックグラウンド値を、100%の生存として設定し、実験のウェル値を、対照値に対する割合として評価した。
【0132】
図13は、我々のヒット化合物がツニカマイシンにより誘導される細胞死を阻害する効率をサルブリナルと比較する。CSM14.1細胞を、96ウェルプレート中で3×10細胞/ウェルの密度で播種し、一晩インキュベートした。細胞を、25μMのそれぞれの化合物または100μMのサルブリナルで2時間プレインキュベートし、次いで、10mg/mlのツニカマイシンで処理した。72時間後、細胞死率を、フローサイトメトリー解析により測定した。アネクシンV陰性集団は、生存者と見なされた。図13において、白いバーは、0.5%のDMSO対照を示し、24%の生存率を示した。グレーのバーは、100μMのサルブリナルを示す。黒いバーは、それぞれの化合物(25μM)からのデータである(化合物番号は、表12中の化合物を指す)。100μMの濃度のサルブリナルは、TGにより誘導される細胞死を75%阻害し、我々のスクリーニングにより同定されたヒット化合物のいくつかは、3倍低い濃度で同等以上の阻害をした。
【0133】
表12に示される26の化合物のうち16は、その後、TGにより誘導される細胞死から分化CSM14.1細胞を保護することが確認された。これらのアッセイのために、CSM14.1細胞を、39℃の非許容温度で、2%のFBS中で7日間培養することにより、分化させた。図14は、未分化CSM14.1神経細胞対分化CSM14.1神経細胞を用いた、化合物の細胞保護活性の比較を示す。CSM14.1細胞を、96ウェルプレート中にウェルあたり1,500の細胞で播種し、32℃(許容温度、図14、左)または39℃(非許容温度、図14、右)で、7日間一晩培養した。様々なヒット化合物を、25μMの最終濃度で加え、次いで、2時間後、15μMの最終濃度でTGを加えた。ATP含有量を測定し、データは、1%のDMSO(平均+標準偏差;n=3)でのみ処理された対照細胞に対する割合として表した。2パーセントのFBSが、分化中用いられたが、すべてのアッセイは、10%のFBS中で行われた。
【0134】
化合物が様々な系統の細胞を広く、または神経細胞のみを保護するかを調査するために、TGにより誘導される細胞死からCSM14.1(神経細胞)およびJurkat(リンパ細胞)細胞株を守る能力を、26のヒットすべてで試験した。CSM14.1細胞およびJurkat細胞で試験された26の化合物のうち、3つの化合物が、両方の細胞株に対する保護を示した。図15は、CSM14.1細胞対Jurkat細胞の細胞保護活性に対する26の化合物のうちの3つを比較するデータの一例を示す。CSM14.1細胞(図15、左)およびJurkat細胞(図15、右)をそれぞれ、96ウェルプレート中で、ウェルあたり3,000の細胞またはウェルあたり30,000の細胞で、一晩培養した。ウェルには、DMSOのみ、またはDMSO中の25μMの化合物を与え、次いで、TG(15μM)の有りまたは無しで処理した。24時間培養した後、ATP含有量を測定し、DMSO(平均+標準偏差、n=3)でのみ処理された細胞に対する対照の割合としてのデータを表した。該データは、化合物のうちの1つは、TGにより誘導される細胞死からCSM14.1を保護するが、Jurkat細胞は保護しないことを明らかにする(ATPliteアッセイにより測定された)。26の化合物のうち3つのみが、3つの細胞系統をすべて保護したので、本明細書で利用されたアッセイは、活性における組織特異性の差異を有する化合物を同定する能力(考慮すべき利益および実用性の性質)を有し得る。あるいは、該化合物は、CSM14.1細胞が、ラット起源だが、HeLa細胞およびJurkat細胞はヒト起源であるため、種特異性の差異を検出し得る。
【0135】
細胞の生存を評価するためのいくつかの代替的方法は、生物発光ATPアッセイの特性のため、ヒットが、本当に細胞保護であり、偽陽性を示さないことを確認するための二次アッセイとして利用され得る。例えば、TG誘導殺戮に対する保護を確認するために、ATP含有量アッセイとは独立した方法により細胞の生存割合を評価すべく、我々が利用している1つの方法は、蛍光色素接合したアネクシンVを用いたフローサイトメトリー解析である。
【0136】
図16および17は、化合物の細胞保護活性を評価するための二次アッセイの結果を示す。図16では、未分化CSM14.1細胞を、24ウェルプレート(Greiner Bio One)でウェルあたり10細胞で培養した。翌日、DMSO(a、b)(1%の最終容積)、100μMのサルブリナル(c、d)、あるいは25μMのヒット化合物(1%の最終DMSO)を加えた。2時間後、15μMのTGを、aおよびcを除く全てのウェルに加えた。従来のATPアッセイを行い、生存率を測定した。図17では、未分化CSM14.1細胞を、24ウェルプレート(Greiner Bio One)でウェルあたり10細胞で培養した。翌日、DMSO(a、b)(1%の最終容積)、100μMのサルブリナル(c、d)、あるいは25μMのヒット化合物(1%の最終DMSO)を加えた。2時間後、15μMのTGをaおよびcを除く全てのウェルに加えた。該プレートを再度24時間培養し、その後、細胞を、トリプシン処理により回収し、1.5mlの微小遠心管に移し、0.25μg/mLのアネクシンV−FITC(Biovision)およびヨウ化プロピジウムを含有する、0.5mLのアネクシンV結合溶液中に再懸濁した。アネクシンV陰性細胞の割合は、FACSort装置(Beckton–Dickinson)を用いて、フローサイトメトリー(y軸)により決定した。該化合物のうちの2つ(#3および#14)は、活性が少なかったが、すべての26の化合物は、アネクシンV染色で測定されたように、TGにより誘導される細胞死を保護した。
【0137】
ERストレスにより誘導される細胞死の抑制に対する化合物の選択性は、ERストレス経路(タプシガルジン、ツニカマイシン)、またはミトコンドリア経路(VP16)、または死受容体経路(TNF+シクロヘキシミド[CHX])を介してアポトーシスを誘導する様々な薬剤で未分化CSM14.1細胞を処理することにより、判定された。試験した26のヒット化合物のうちの19のヒット化合物が、タプシガルジンおよびツニカマイシンにより誘導される細胞死を減少させたが、VP16またはTNF/CHXにより誘導される細胞死は減少させなかった。
【0138】
図18は、表13に記載された様々なヒット化合物の結果の例を示す。
【表13】

【0139】
図18に示された実験のために、未分化CSM14.1細胞を、96ウェルプレート(ATPアッセイ用)中でウェルあたり3,000の細胞、または24ウェルプレート(フローサイトメトリー用)中でウェルあたり1×10細胞で播種した。翌日、細胞を、DMSO(0.5%)または0.5%DMSO(最終濃度)中の25μMのヒット化合物で2時間処理し、次いで、15μMのタプシガルジン(TG)で24時間、10μg/mLのツニカマイシン(TU)で72時間、2.5μMのスタウロスポリン(STS)で24時間、50μMのVP16で48時間、あるいは30ng/mLのTNF+10μg/mLのシクロヘキサミド(CHX)で24時間を含む、細胞死を誘導する様々な試薬で処理した。細胞内ATP含有量は、スタウロスポリンの試料およびTNF/CHX試料に対して測定し、DMSOのみ(対照)で処置した細胞に対してデータを正規化し、対照に対する割合として示した。ツニカマイシンおよびVP16による処理に起因する細胞死を測定するために、フローサイトメトリーを用いた。すべてのアッセイを3回(平均±標準偏差)行った。
【0140】
化合物の経路選択性を確認した後、さらにダウンストリームアッセイを行い、該化合物により阻害される特定のシグナル伝達経路をマッピングすることができる。この件については、ERストレスにより活性化されることで知られる3つの主要経路:(1)PERK、(2)Ire1、および(3)ATF6の状態を評価するために、様々な抗体試薬が商業的に利用可能である(Xu et al.,J.Clinical Invest.,115:2656−2664,2005)。免疫ブロット法の実験を行い、これらの経路におけるマーカータンパク質の発現またはリン酸化(リン酸化型特異的抗体を用いる)を評価することができる。例えば、図19に示されるように、インハウスライブラリの一次スクリーニングからの我々のヒット化合物のいくつかは、Ire1経路のマーカーであるc−JUNおよびp38 MAPKのTG誘導リン酸化を抑制することが認められた。図19において試験された化合物は、上記表9に記載されたものである。CSM14.1細胞を、DMSOまたは25μMのヒット化合物を用いて2時間培養し、次いで、タプシガルジン(15μM)で処理した。細胞溶解物を調製し、リン酸化−c−Jun、リン酸化−eIF2α、リン酸化−p38 MAPK、およびチューブリン(ローディングコントロール)に対する特異的な抗体を用いて、SDS−PAGE/免疫ブロット法により解析した。CSM14.1細胞を、DMSO、または1μM、5μM、および10μMの活性化合物のうちの1つで培養し、次いで、2時間後、15μMのTGを加えて培養した。2時間後、細胞溶解物を調製し、タンパク質含有量を基にロード量を基準化し、抗−p38−MAPK pan−reactive抗体またはリン酸化型特異的抗体を用いたSDS−PAGE/免疫ブロット法を用いてECLベースの検出により解析し、次いで、x線フィルムをデンシトメトリー解析を行い、すべてのp38 MAPKに対してリン酸化p38 MAPKを正規化するか、あるいは、MSDからのメソスケールの計器およびすべてのp38 MAPKをプレート上で捕捉する手順を用いて解析し、リン酸化タンパク質の相対量をリン酸化型特異的抗体(MSDカタログ番号K15112D1)を用いて決定した。図19に示されるデータは、これらのヒット化合物は、Ire1経路に作用することを示唆している。Ire1経路は、Ask1キナーゼの活性化を引き起こし、そのキナーゼAsk1が次に、JNKおよびp38 MAPKを活性化することが知られている。p38 MAPKおよびc−Junのリン酸化の抑制は、用量依存的であり、これらのタンパク質が全レベルにおいて減少することを説明できなかった。さらに、TGで処理された細胞において、化合物によるp38 MAPKリン酸化の阻害が、2つの独立した方法:(1)リン酸化型特異的抗体を用いた免疫ブロット法、および(2)MULTI SPOTマイクロプレートの電極表面で開始した電気化学的刺激で発光するSULFo−TAG(TM)標識を用いるMSDからメソスケールの計器を利用するプレートベースの方法によって、実証された。サルブリナルとは異なり、我々の化合物は、eIF−2αのリン酸化に影響を及ぼさず、PERK経路内で作用しないことが示唆された。ATF6のタンパク質分解過程はまた、我々のヒット化合物により阻害されなかった。したがって、50,000の化合物のインハウスライブラリから得られたヒットのうちのすべてが、Ire1経路上にマッピングされ、JNKおよびp38MAPKの活性化を抑制することが認められた。他のライブラリ(NIH化合物コレクション等)のスクリーニングは、異なる機構を有する細胞保護化合物を産出し得る。
【0141】
一次HTSアッセイプロトコル。我々の一次HTSアッセイプロトコルは、以下のとおりである。
【0142】
1)未分化CSM14.1細胞を、約3×10細胞/ディッシュを生成するために、150mm×25mmのポリスチレン培養ディッシュ(Falcon)中で、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(作用濃度:100I.U.ペニシリン/ml、100μg/mlのストレプトマイシン、250ng/mlのアンフォテリシン(Media Tech))、1%のL−グルタミン、で補完したDMEM中に、32℃で維持する。
【0143】
2)CSM14.1細胞を、80〜90%のコンフルエンスのとき、トリプシン処理によって培地から回収し、400xgで遠心分離し、ステップ1にあるように2%のFBSを含有し、同一濃度の抗生物質を含有するDMEM培地内に、7.5×10º細胞/mLの密度で懸濁する。
【0144】
3)該細胞懸濁液を、その後、96ウェルプラスチックマイクロタイタープレート(Greiner Bio One、ポリスチレン、白壁、平底、lumitrac、高結合)にウェルあたり40μLで与え、Well Mate液体ディスペンサー(Thermo Fisher Scientific)を用いて、該プレートを、95%大気:5%CO中で、湿気環境下、32℃で一晩培養する。
【0145】
4)ライブラリ化合物を、10%のDMSO+90%の滅菌された蒸留水中で、約150μg/mLで調製する。
【0146】
5)自動リキッドハンドラー(Biomek(商標) FXリキッドハンドラー、Beckman Coulter)を用いて、10%のDMSO中の5μLの試験化合物を、96ウェルプレートの2〜11列(1列および12列はそのまま)のウェルに加え、この時点でほぼ最終濃度15μg/mLの試験化合物、および1.1%のDMSOの最終濃度を達成する。
【0147】
6)それぞれのプレートの1列/A〜D行のウェルに、10%DMSO+90%DMEMの溶液中で5μLの1mMサルブリナル(DMSO中の100mMのサルブリナルをDMSOで10倍希釈することにより調製した後、DMSO中の10mMのサルブリナルを同一のDMEMで10倍希釈する)を加える。
【0148】
7)1列/E〜H行および12列/A〜H行のウェルに、5μLの10%DMSO+90%DMEM溶液を加える。
【0149】
8)プレートを再び2時間培養する。
【0150】
9)DMEM内のTG原液(調製:5μlのTG溶液は、20mMのTG 0.0375μl+2%のFBSおよび前記と同一濃度の抗生物質を含むDMEM 4.9625μlからなる)を、ウェルあたり5μLで1〜11列に分注し、最終濃度約15μMのTGを達成する。データ比較の対照として、12列を残す(DMSOのみ/TGなし)。「Well Mate」液体ディスペンサー(Thermo Fisher Scientific)を用いる。
【0151】
10)12列に、0.0375μLのDMSOを含む5μLのDMEM(2%のFBSおよび前記と同一濃度の抗生物質を含む)を加える。
【0152】
11)該プレートをインキュベーターに戻して、24時間培養する。
【0153】
12)使用する約30分前に、ATPアッセイ粉末を、製造業者のプロトコル[Perkin−Elmer]に従って、アッセイ緩衝液(製造業者により供給される)に溶解させる。
【0154】
13)ウェルあたり20μLのATPlite溶液を、例えば、「Well Mate」ディスペンサー(Thermo Fisher Scientific)を用いて、分注する。
【0155】
14)30分以内に、発光を測定する。発光モードにおいて、Criterio解析ソフトウェアと共に、Analyst(商標) HT(Molecular Device Corporation)を用いた。
【0156】
15)プレートリーダーから記録された相対発光強度単位(RLU)を、EXCELファイルに取り込む。それぞれのウェルの未加工値を、12列のすべてのウェルからの未加工値の平均(最大制御DMSOのみ/TGなし)で除し、100を乗じ、対照に対する割合として示す。
【0157】
細胞(ステップ3)、THS(ステップ9)、またはATPlite溶液(ステップ13)の液体分注のために、小型ノズル管(Thermo Fischer Scientific)を用いた。使用前に、管を、70%のエタノールで滅菌し、滅菌された器具洗浄機で集中的に洗浄した。
【0158】
二次アッセイ 分化CSM14.1細胞および他の指標細胞、さらには細胞生存の指標としてATP含有量を用いて、化合物が、広範囲の細胞保護活性対狭い範囲の細胞保護活性を示すことを確認する。また、ERストレス経路、またはミトコンドリア経路、または死受容体経路を活性化することで知られる薬剤により細胞死を誘導し、選択される経路の解析を行う。この解析には、最終的にはATP含有量を用いて行い、これによって、どのヒット化合物がER経路に対して選択的であるかを判定する。また、上記に示すようなアネクシンV染色等の代替アッセイまたはMTTまたはXTT等の比色ミトコンドリア依存性染色還元試薬を用いて、EC50<25μMを有し適切な用量反応の相関を示すヒットのために、細胞生存アッセイを行う。代替として、または、追加として、異なる細胞生存アッセイを用いてもよい。最終的に、抗体ベースの方法を用いて、c−Jun、p38MAPK、およびeIF2αのリン酸化を測定し、また(化合物の作用機構を問いただすための初期マーカーである)ATF6のタンパク質分解を測定して、ERストレスにより活性化されることが知られる特定の経路に化合物をマッピングする。当該二次アッセイプロトコルは、以下のとおりである。
【0159】
(a)アネクシン−V染色 生存アッセイ:
1)未分化CSM14.1細胞を、上記のように、2%のFBSおよび抗生物質を含有する400μLのDMEMを用いて、24ウェルプレート(Greiner Bio one)のウェルあたり10の細胞で、培養した。
【0160】
2)翌日、DMSO(a、b)(1%の最終容積)、あるいは100μMのサルブリナル(c、d)、あるいは25μMのヒット化合物(1%の最終DMSO)を加えた。つまり、5μLのDMSOを含有する50μLのDMEM、およびDMSOに10mMのサルブリナル(または2.5mMの化合物)を5μL含有する50μLのDMEMを、指示されたウェルに加えた。
【0161】
3)2時間後、15μMのTGを、aおよびcを除くすべてのウェルに加え、DMSO内に0.375μLの20mM TGを含有する50μLのDMEMを加えた。
【0162】
4)該プレートを再度24時間培養した。
【0163】
5)24時間後、ウェル中のすべての細胞を、培地移送およびトリプシン処理により回収した。すべての回収した細胞は、DMEM−トリプシン溶液と共に、1.5mLの微小管中で、6,000rpmで、2分間遠心分離した。
【0164】
6)液体の吸引後、細胞を、低温PBSで滑らかに洗浄した。6,000rpmで遠心分離した後、細胞は、0.25mg/mLのアネクシンV FITC(Biovision 1001−1000)およびヨウ化プロピジウム(50μg/mL)を含有する、500μLの1×アネクシンV結合緩衝液(Biovision 1035−100)中に再懸濁した。
【0165】
7)アネクシンV陰性細胞の割合は、BurnhamのFACSort(Beckton & Dickinson)解析施設を用いて、フローサイトメトリー(y軸)により決定した。
【0166】
(b)免疫ブロット法
1)CSM14.1細胞を、2%のFBSおよび抗生物質を含有するDMEM内で、6ウェルプレート(Greiner Bio one)に2×10細胞/ウェルの密度で、播種した。
【0167】
2)一晩インキュベーションした後、細胞を、DMSO(0.5%)または化合物(25μM)で2時間処理し、次いで、TG(15μM)で処理した。
【0168】
3)2時間後、細胞を、250μLの溶解緩衝液中に溶解し、タンパク質濃度決定、およびリン酸化p38 MAPK(Cell Signaling 9211)、p38 MAPK(Santa Cruz−C20)、リン酸化c−Jun(Cell Signaling 9164)、c−Jun(Santa Cruz−SC1694)、リン酸化eIF2α(細胞Cell Signaling 3597)、およびα−チューブリンに特異的な抗体を用いて、SDS PAGE/ウエスタンブロット法に供した。
【0169】
(c)MSD電気化学的アッセイ
細胞を溶解緩衝液(MSD Company)中に溶解することを除いて、免疫ブロット法に利用される同一のスキームを用いた。細胞溶解物のうちの半分をウエスタンブロット法/デンシトメトリー解析のために用い、半分をMSDプレートベースのアッセイのために用いた。MSDアッセイは、製造業者のプロトコルを用いて行った。
【0170】
1)細胞を、提供された溶解緩衝液を用いて溶解した。細胞抽出物を、提供された希釈緩衝液で希釈し、120μLの希釈緩衝液に対して6μgを定量化した。
【0171】
2)p38/p−p38の二重プレート(MSD company−Cat #K15112D−1)は、供給されたブロッキング緩衝液により1時間ブロッキングした。
【0172】
3)120μLの細胞抽出物を、それぞれのウェルに加え、振とうしながら室温で一晩インキュベートした。
【0173】
4)インキュベーション後、ウェルをTris洗浄緩衝液(提供された)で4回洗浄し、検出抗体溶液(提供された)で1時間インキュベートし、洗浄緩衝液で再度4回洗浄した。
【0174】
5)最終的に、それぞれのウェルに、150μLの読み込み緩衝液(提供された)を加え、発光値を、MSD Sector(商標)装置により読み取った。
【0175】
6)該装置は、p38およびリン酸化−p38(p−p38)の発光値を示した。p−p38の値は、それぞれのウェル中で、p−38の値で除した。対照(DMSO処理、タプシガルジン処理なし)ウェルのp−p38/p38値は、対照を1として設定し、他のウェルは、対照の倍数として算出した。最終的に、DMSO対照におけるp−p38のバックグラウンド発現レベルがないため、各値−1を本図において報告した。該グラフは、それぞれの試料の「p−p38/p38」の比に基づいて作製した。
【0176】
SAR解析 どのヒット化合物が、ERストレスにより誘導される死を選択的に遮断することを立証すること、およびERストレスにより引き起こされる3つの既知の経路(または3つの既知の経路のいずれも抑制されない場合、同定されていない経路)のうちの1つを事前にマッピングすることに加えて、該化合物の効力および選択性を「探索」状態に進めることを目標とし、SAR解析を選択されたヒットに対して行う。
【実施例2】
【0177】
Chembridge化合物ID番号5962123の化学名および商業的な入手可能性 化合物5962123の化学名は、6−(4−ジエチルアミノフェニル)−9−フェニル−5,6,8,9,10,11−ヘキサヒドロベンゾ[c][1,5]ベンゾジアゼピン−7−オンである。化合物5962123は、ChemBridgeから入手可能である。推奨される負の対照化合物(ネガティブコントロール)は、ChemBridge 6075841または6048163を含む。これらのベンゾジアゼピンは、一次スクリーニングに用いられた細胞死アッセイに不活性であり、タプシガルジンにより誘導されるJunのリン酸化を抑制することができない。
【0178】
生物学的活性の説明 化合物5962123は、未分化および分化両方のラット神経細胞株CSM14.1に対して、タプシガルジン(ERストレスの誘起剤)による誘導死を阻害する。また、化合物5962123は、2つの異なる細胞生存の指標:(a)ATP含有量アッセイ、および(b)アネクシンV染色によるフローサイトメトリーベースのアッセイでは、約10μMのIC50を有する。化合物5962123はまた、ツニカマイシン(ERストレスの別の阻害剤)により誘導されるCSM14.1の細胞死を阻害するが、死受容体(外因性)細胞死経路のアゴニストであるTNF−α(+シクロヘキシミド)により、または、VP−16あるいはスタウロスポリン(ミトコンドリア細胞死経路のアゴニスト)により誘導されるCSM14.1の細胞死は阻害しない。これは、化合物5962123が、ERストレス誘導細胞死の選択的阻害剤(すなわち経路特異的)であることを示唆する。
【0179】
CSM14.1細胞に加えて、25μMで試験した場合、化合物5962123は、ATP含有量アッセイで判定されたように、いくつかの腫瘍細胞株(HeLaヒト子宮頸癌、SW1メラノーマ細胞、PPC1、ヒト前立腺癌)、マウス神経幹細胞C17.2(分化[神経表現型]および未分化[幹細胞表現型]の両方)で、タプシガルジンにより誘導される死を、>50%で保護した。また、化合物5962123は、正常あるいはアポトーシスの核形態(ヘキスト染色)を伴うNeuN−免疫陽性細胞の割合を測定する顕微鏡アッセイにより判定されたように、一次ラット皮質ニューロンで、タプシガルジンにより誘導される死を、>50%で保護した。しかしながら、化合物5962123は、25μMで、ATP含有量アッセイで判定されたように、タプシガルジンにより誘導される細胞死から、JurkatヒトT−白血病細胞、または未分化あるいは分化(神経表現型)PC12ラットクロム親和性細胞腫を保護しなかった。実際に、化合物5962123で、タプシガルジンで処理された未分化PC12細胞を試験した際、奇異だが、細胞死を促進する活性を示した。
【0180】
概して、いくつかの細胞型選択性を示すが、化合物5962123は、その細胞保護活性において合理的に広範囲であり、試験した8つの細胞株または細胞型(初代神経細胞)のうち6つを保護した。
【0181】
タプシガルジンにより誘起されたCSM14.1細胞の試験では、10μMの化合物5962123が、UPR信号伝達経路を阻害した。その結果、c−Junの基質であるJNK(リン酸化型特異的抗体を用いた免疫ブロット法により測定された)のリン酸化、およびp38MAPKのリン酸化(リン酸化型特異的抗体を用いた免疫ブロット法および定量的ELISAベースのアッセイ(MSDアッセイ)により判定された)がもたらされた。しかしながら、PERK媒介によるeIF2αのリン酸化(リン酸化型特的抗体を用いた免疫ブロット法により測定された)、またはタプシガルジンにより誘導されるATF4の発現(免疫ブロット法により測定された)、またはATF6の切断(切断型を検出するために免疫ブロット法によりアッセイされた)、またはXBP1 mRNAのスプライシング(未スプライスmRNA:スプライスされたmRNAの比率を測定するためにRT−PCRにより検査された)、またはIre1自己リン酸化(in vitroキナーゼアッセイにより測定された)、またはASK1自己リン酸化(in vitroキナーゼアッセイにより測定される)、またはタプシガルジンにより誘導される細胞中のASK1の活性化(MKK6およびp38MAPKを含み、化合物処理された細胞から免疫沈降により回収したASK1が加えられた、in vitro結合キナーゼアッセイを用いて測定された)、またはタプシガルジンにより誘導されるCHOPの発現を含む、UPR経路を、化合物5962123が、阻害しないことを示した。
【0182】
化合物5962123は、50μMで、ASK1の967部位のセリンにおいて、タプシガルジンにより誘起される脱リン酸化を阻害した。これは、リン酸化型特異的抗体を用いた免疫ブロット法によって、ASK1でトランスフェクションされ、タプシガルジンにより刺激されたHEK293T細胞で測定された。また、化合物5962123は、ASK1に結合する14−3−3タンパク質を増加させた。これは、タプシガルジンで誘起され、上記と同様にトランスフェクションされたHEK293T細胞を用いて、免疫共沈降アッセイにより判定された。したがって、これらの事象から、ASK1キナーゼ活性を直接阻害しないが、生体内でASK1のキナーゼ活性を減少させることが予測される。化合物5962123は、967部位のセリンのリン酸化を制御するタンパク質ホスファターゼを阻害することが可能である。
【0183】
二次スクリーニングの説明 化合物5962123の性質を明らかにするために用いられた二次スクリーニング(それらの多くを用いて、すべての11のベンゾジアゼピンの性質を明らかにした)は、上述した。これまで31の二次スクリーニングを用いて、化合物5962123の性質を明らかにした。該化合物は、ATP含有量により測定されたように、タプシガルジンにより誘導される未分化CSM14.1細胞の細胞死の阻害剤として、およびツニカマイシンにより誘導される未分化CSM14.1細胞の細胞死の阻害剤として、約10μMのIC50で活性である。ERストレス誘導細胞死に対する化合物の活性は、タプシガルジンあるいはツニカマイシンで処理されたCSM14.1細胞をアネクシンVで染色して、フローサイトメトリーで測定、分析することにより、確認された。ATP含有量アッセイにより未分化CSM14.1細胞に対して25μMで試験した場合、25μMの化合物5962123は、TNFα+シクロヘキシミド、VP−16、およびスタウロスポリンにより誘導される細胞死に対して活性ではなかった。神経細胞に対する化合物5962123の活性は、10μMのタプシガルジンで処理された分化ラット神経CSM14.1細胞を用いて、さらにはタプシガルジンで処理された分化神経C17.2細胞を用いて、ATP含有量アッセイを用いて、25μMで確認された。しかしながら、ATP含有量アッセイによって、タプシガルジンで処理された分化ラットクロム親和性細胞腫PC12細胞では、化合物5962123の活性は確認されなかった。該化合物は、タプシガルジンで処理された未分化PC12細胞に対して、奇異だが細胞死を促進する活性を示した。最後に、化合物2878746は、ラット初代皮質神経細胞でタプシガルジンにより誘導される細胞死を阻害する(NeuNを用いて染色することにより同定された)。これは、アポトーシスおよび神経突起退縮の証拠を示す、凝縮された核形態で細胞を同定するために、DNA結合蛍光色素であるヘキスト染料を用いて染色されたアポトーシス神経フィラメント(NeuN)陽性細胞を数えることにより判定された。
【0184】
化合物5962123の細胞保護活性はまた、ATP含有量アッセイを用い、タプシガルジンで処理された非神経ヒト腫瘍細胞株のいくつかの細胞種(子宮頚癌HeLa細胞、ヒト前立腺癌PPC−1細胞、およびヒトメラノーマSW1細胞を含む)によって、実証された。しかしながら、該化合物は、ATP含有量アッセイにより判定されたように、タプシガルジン処理されたJurkatT白血病細胞に対して不活性であった。
【0185】
機構に関して、CSM14.1細胞中において、リン酸化型特異的抗体(リン酸化−c−Jun Ser 63、リン酸化p38MAPK Thr180/Tyr182)を用いた免疫ブロット法により判定されたように、該化合物は、タプシガルジンにより誘導されるc−Junおよびp38MAPKのリン酸化を阻害する。タプシガルジンにより誘導されるp38MAPKのリン酸化の抑制はまた、定量的ELISA法により測定され、p38MAPKリン酸化に対してIC50が<5μMであると推定された。その一方、タプシガルジンにより誘導される、CHOPの発現、またはATF4の発現、またはATF6の切断、またはeIF2a(Ser51)のリン酸化、またはIre1aの自己リン酸化、またはASK1の自己リン酸化は、p32−γ−ATP基質を用いたin vitroキナーゼアッセイにより試験したところ、50μMの濃度でも、CID−2878746によって直接阻害されなかった。化合物5962123はまた、ASK1の細胞内活性化を阻害することができなかった。これは、結合アッセイに加える前に、ASK1プラスミドでトランスフェクションし、100μMの化合物+15μg/mLのタプシガルジンでインキュベートしたHEK293T細胞から得られ、免疫沈降されたASK1と共に、精製されたMAPKK6(MKK6/SKK3)および精製されたp38 MAPKを含むin vitroキナーゼアッセイの組み合わせにより判定された。ASK1でトランスフェクションされた293T細胞では、ASK1のセリン967部位で、タプシガルジンにより誘導されるリン酸化の減少は、50〜100μMの濃度で、化合物5962123によって阻害された。これは、抗リン酸化型特異的(ser967)抗体を用いた免疫ブロット法により判定された。しかしながら、タプシガルジンにより誘導される、ASK1の83部位のセリンおよび845部位のトレオニンのリン酸化は、ASK1でトランスフェクションされたHEK293T細胞では、100μMの濃度でも、化合物5962123により調節されなかった。化合物5962123はまた、100μMの濃度で、ASK1の14−3−3タンパク質への結合を増加させる。これは、タプシガルジンにより刺激され、ASK1でトランスフェクションされたHEK293T細胞を用いて、免疫共沈降アッセイに判定された。化合物5962123は、100μMの濃度で、タンパク質ホスファターゼ2B(カルシニューリン)の活性に影響を及ぼさなかった。これは、基質として免疫沈降されたASK1(967部位のセリン)を用いたin vitroホスファターゼアッセイにより試験された。
【0186】
化合物5962123と同一性をもたらすする化学戦略。化合物5962123のSAR解析を行った。これによって、11の活性ベンゾジアゼピンヒットを明らかにした一次スクリーニングデータに内在的なSARに加えて、41の類似体(アナログ)のデータを分析することにより、3つの機能・官能基に傾注した。化合物の活性を比較するために用いられたアッセイは、一次HTSアッセイと同一であり、未分化CSM14.1細胞をタプシガルジンでチャレンジし、細胞の生存を、ATP含有量アッセイを用いて評価した。類似体の効力データを、表14(R群R1〜R7は、式Iの構造に対して置換基である)に示し、これらのデータから化合物5962123を、効力および細胞内活性プロフィールに基づいて選択した。
【表14−1】

【表14−2】

【0187】
化合物5962123を製造するための合成経路。化合物5962123は、再合成された(図20)。解析データおよび生物学的活性は、購入した化合物と同一であり、従って、その構造および効力を確認した。解析データは、購入した試料および合成した試料の両方において、4つの可能な立体異性体の存在を示す。さらに、別の化合物、MLS−0292126は、同一経路を介して合成され、16.5μMのIC50を示した。
【0188】
明らかにされた性質 化合物5962123の性質の要約を、下記表15に提供する。
【表15】

【0189】
上記表15において、+は、≦25μMの化合物濃度で、タプシガルジンにさらされない未処理細胞と比較した細胞の生存率が、>50%であることを示す。ATPは、細胞のATP含有量を測定するATPliteアッセイ。アネクシンV染色は、フローサイトメトリーで判定されるように、FITC−アネクシンV陽性細胞の割合を測定するステップを含む。
【表16】

【0190】
上記表16において、+は、≦25μMの化合物濃度で、タプシガルジンにさらされない未処理細胞と比較した細胞の生存率が、>50%であることを示す。タプシガルジン濃度は、C17.2細胞に対して10μMであり、他のすべてに対して15μMであった。Eは、タプシガルジン誘導死を増強した化合物を示す。分化:PC12に関しては、細胞を、20ng/mlのNGFで、5日間刺激した。C17.2に関しては、細胞を、血清減少によって刺激し、1% N2インキュベーションを3日間行った。CSM14.1に関しては、細胞を、39℃で5〜7日間培養した。
【0191】
化合物2878746の性質 ジメチルスルホキシド(DMSO)中の化合物5962123の溶解性は、25mMの濃度で優れている。培養培地に化合物を加えるために、少なくとも0.2%(v/v)最終DMSO濃度が、目に見えるような濁った沈殿物を生成することを避けるために、必要であった。25mMを超える濃度で、DMSO中の化合物は、黄色を示す。負の対照化合物6048163および6075841は、DMSO中で6239507と類似の溶解性を示す。25mMの濃度で、化合物6048163は、淡黄色を示したが、化合物6075841は、無色であった。
【実施例3】
【0192】
第2−1群および第2−2群の様々な化合物の効力データを、上記に記載したように得、表17および18に、それぞれ提供する(R群は、式IIおよびIIIの構造に対する置換基である)。
【表17】

【表18】

【0193】
化合物5948365のIC50が、19.54±0.1769であると測定されたことに留意されたい。
【実施例4】
【0194】
CSM14.1細胞を、DMSOまたは25μMのヒット化合物とともに2時間培養し、次いで、タプシガルジン(15μM)で処理した。細胞溶解物を調製し、c−Jun、リン酸化−c−Jun(ser73)、eIF2α、リン酸化−eIF2α(ser51)、p38MAPK、リン酸化−p38MAPK(Thr180/Tyr182)、ATF−6、CHOP、およびチューブリン(ローディングコントロール)に対して特異的な抗体を用いて、SDS−PAGE/免疫ブロット法により解析した。C−Junおよびp38 MAPKのERストレスにより誘導される活性化は、11のヒット化合物により抑制された。
【0195】
C−Junおよびp38MAPKは、Ire1経路の下流(ダウンストリーム、図21参照)で機能するので、我々のヒット化合物のうちの1つ(6239507)が、このIre1−ASK1−JNK/p38 MAPK経路における、すべてのキナーゼの自己リン酸化を阻害するかどうか試験した。図22は、化合物6239507を用いたin vitroキナーゼアッセイの結果を示す。Ire1自己リン酸化アッセイを行った。免疫沈降されたIre1を、DMSO(2%)、または50μMの化合物6239507、または陽性対照(ポジティブコントロール)であるスタウロスポリン(20μM、STS)で、30℃で20分間インキュベートし、次いで、氷上で冷却した。0.5μCiの32P−γ−ATPを、それぞれの管に加え、30℃で指示された時間インキュベートした。キナーゼ反応は、試料緩衝液を加えることにより完了した。32P−γ−ATPの取り込み値を、シンチレーションカウンターにより評価した。また、ASK1−MKK6−p38結合アッセイを行った。免疫沈降されたASK1を、1μgのMKK6(Millipore)および1μgのp38 MAPK(Sigma)と混合した。キナーゼを、管内で、2%のDMSO、または50μMの化合物6239507、または20μMのスタウロスポリン(STS)で、30℃で20分間インキュベートし、次いで、氷上で冷却した。0.5μCiの32P−γ−ATPを、それぞれの管に加え、30℃で指示された時間インキュベートした。キナーゼ反応は、試料緩衝液を加えることにより完了した。32P−γ−ATPの取り込み値を、シンチレーションカウンターにより評価した。精製されたJnk−1およびJnk−2(Millipore)によるC−Junの活性化は、同一の手順で確認した。該結果は、ヒット化合物6239507が、Ire1の自己リン酸化活性、または下流のキナーゼMKK6およびp38 MAPKに関するAsk1の活性、またはc−Junに対するJNKの活性を調節しないことを示す。
【0196】
また、化合物6239507が、ERストレス誘導(すなわちタプシガルジン処理)の前後に、967部位のセリンで、ASK1のリン酸化を増強するかどうかを判定するために、諸実験を実施した。293T細胞を、pcDNA−ASK1−HAでトランスフェクションした。1日後、細胞を、DMSO(0.4%)または100μMの化合物6239507(#1)で、2時間インキュベートした。その後、細胞を、指示された時間、タプシガルジン(20μM)で処理した。細胞抽出物を、溶解緩衝液によって調製し、抗リン酸化ASK1 Ser967抗体または抗HA抗体を用いた免疫ブロット法に供した。リン酸化ser967バンドの相対密度は、イメージJソフトウェアにより算出した(平均±標準偏差)。化合物6239507は、ERストレス誘導の前後に、967部位のセリンでASK1のリン酸化を増強することが認められた。
【0197】
ASK1の967部位のセリンは、14−3−3タンパク質の結合を介して、リン酸化によりASK1活性を下方制御することが知られている(Goldman et al.,J.Biol.Chem.279:10442−10449,2004)。我々のヒット化合物が、セリン967部位のみまたは別のリン酸化部位のリン酸化を増強するかどうか、試験した。293T細胞を、pcDNA−ASK1−HAでトランスフェクションした。1日後、細胞を、DMSO(0.4%)または100μMの化合物6239507(#1)で、2時間インキュベートした。細胞抽出物を、溶解緩衝液を用いて調製し、上述した抗リン酸化ASK1抗体または抗HA抗体を用いて免疫ブロット法に供した。それぞれのリン酸化ASKバンドの相対密度は、イメージJソフトウェアにより算出した。該化合物を、タプシガルジンにより誘導された細胞死に対する活性において比較した。293T細胞を、pcDNA−ASK1−HAおよびpEBG−GST−14−3−3でトランスフェクションした。1日後、細胞を、DMSO(0.4%)または100μMの指示された化合物で2時間インキュベートした。その後、細胞を、指示された時間、タプシガルジン(20μM)で処理した。細胞抽出物を、溶解緩衝液を用いて調製し、14−3−3タンパク質を、グルタチオンSトランスフェラーゼ4Bセファロースビーズで免疫沈降した。14−3−3タンパク質に結合したASK1タンパク質は、抗HA抗体を用いた免疫ブロット法により可視化した。抗リン酸化ASK1(ser967)抗体を用いて、それぞれの時点でASK1のリン酸化を検出した。図23に示されるように、我々のヒット化合物(1、2、9、10、および12として印のある)が、967部位のセリンのみのリン酸化を増強し、83部位のセリンあるいは845部位のトレオニンのリン酸化を増強しなかった。TP14は、1、2、9、10、および12と異なる構造を有する別のヒット化合物である。6048163は、これらのヒット化合物と同一の構造的骨格を共有する化合物であるが、細胞保護において不活性である(図23B)。化合物6239507(図23AおよびBにおいて、#1として示される)は、タプシガルジン処理した後、リン酸化に依存した挙動で、ASK1からの14−3−3タンパク質の解離を阻害する。
【0198】
図24は、本機構について我々の仮説を示す。ヒットしたベンゾジアゼピン化合物は、ASK1 ser967脱リン酸化の阻害剤である。したがって、当該化合物は、14−3−3タンパク質のASK1からの解離を阻害し、ASK1を不活性にする。
【0199】
図25は、化合物6239507が、マウス初代神経細胞において、ERストレスにより誘導される細胞死を阻害できることを示す。初代皮質ニューロン細胞を、マウスの中脳から調製した。成熟してから14日後、該細胞を、DMSO(0.2%)または25μMの化合物6239507で2時間プレインキュベートした。該細胞を、その後、タプシガルジン(TG)で24時間処理した。細胞を、アルデヒド溶液で固定し、神経体および神経軸索ネットワークを染色するために、NeuNおよびMAP2抗体を用いて免疫染色に供した。ヘキスト染料を用いて、核を染色した。蛍光顕微鏡法を用いて、タプシガルジンによる神経軸索ネットワークの喪失が示された。縮合核および萎縮性神経炎を示した細胞は、細胞死を評定する際死亡と見なした。
【0200】
図26は、様々なヒット化合物で処理したCSM14.1細胞に対する相対的な生存を示す。CSM14.1細胞を、96ウェルプレート中にウェルあたり1,500の細胞で播種し、39℃(非許容温度)で7日間培養した。ヒット化合物を25μMの最終濃度で加え、2時間後、15μMの最終濃度でタプシガルジンを加えた。ATP含有量を測定し、データを、わずか1%のDMSOで処理した対照細胞に対する割合として表した。
【0201】
化合物6237877および6237735で処理した_後、用量依存的なc−Junリン酸化の減少を観察した。CSM細胞を、漸増用量で、2つの化合物で処理した。プレインキュベーション時間、タプシガルジン処理、細胞抽出物の調製、および免疫ブロット法のプロトコルは、前述に記載した通りであった。用量依存的なc−Junリン酸化の減少が、抗リン酸化−c−Jun(ser73)抗体により確認された。
【0202】
図27は、ERストレス阻害化合物が、タプシガルジンにより誘導される、Ire1経路のマーカーを阻害することを示す。CSM14.1細胞を、DMSOまたは1μM、5μM、および10μMの指示化合物と共に培養し、次いで、タプシガルジン(15μM)で処理した。2時間後、細胞溶解物を調製し、タンパク質含有量に対して標準化し、抗−p38−MAPK pan−reactive抗体またはECLベースで検出するリン酸化型特異的抗体を用いたSDS−PAGE/免疫ブロット法により解析した。次いで、x線フィルムのデンシトメトリー解析を行い、すべてのp38 MAPKに対してリン酸化p38 MAPKを正規化した(図27、上)。あるいは、リン酸化型特異的抗体(MSDカタログ番号#K15112D1)を用いて、MSDからのメソスケールの計器およびすべてのp38 MAPKをプレート上で捕捉する手順を用いて解析し、リン酸化タンパク質の相対量を判定した(図27、下)。
【0203】
すべての刊行物、特許および特許出願は、参照することにより本明細書に組み込まれる。本明細書では、本発明が、ある好ましい実施形態に関して記載され、多くの詳細が例証目的のために説明されているが、本発明が、追加の実施形態を許容する余地があり、本明細書に記載される特定の説明が、本発明の基本原理から逸脱することなく、大幅に変更され得ることが、当業者には明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小胞体ストレスに起因する細胞死の阻害剤を同定する方法であって、(a)哺乳類細胞をタプシガルジンに接触させ、これによって、前記細胞に小胞体ストレスを引き起こすステップと、(b)前記細胞を試験薬剤に接触させるステップと、(c)前記試験薬剤が小胞体ストレスによって引き起こされる前記細胞の死を阻害するかどうか判断するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記哺乳類細胞が、CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞の細胞内ATP含有量を測定することによって、前記試験薬剤が小胞体ストレスによって引き起こされる前記細胞の死を阻害するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞の生物発光を測定することによって、前記細胞の細胞内ATP含有量を測定する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試験薬剤が前記細胞の死を約50%以上阻害するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試験薬剤が前記細胞の死を約60%以上阻害するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試験薬剤が、前記細胞の死を約70%以上阻害するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試験薬剤が前記細胞の死を約80%以上阻害するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記試験薬剤が前記細胞の死を約90%以上阻害するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記試験薬剤が前記細胞の死を約95%以上阻害するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記試験薬剤が約25μM以下のIC50を有するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記試験薬剤が約20μM以下のIC50を有するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記試験薬剤が約15μM以下のIC50を有するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記試験薬剤が約10μM以下のIC50を有するかどうかを判断する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞をタプシガルジンに接触させた後に、前記細胞を前記試験薬剤に接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞を、マルチウェルプレートのウェルに提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳類細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
自動化された、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
タプシガルジンにより誘導される小胞体ストレスに起因する哺乳類細胞の死を阻害する化合物を有効量含むことを特徴とする組成物。
【請求項20】
前記哺乳類細胞が、CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記細胞の死を約50パーセント以上阻害する、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記細胞の死を約60パーセント以上阻害する、請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞の死を約70パーセント以上阻害する、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞の死を約80パーセント以上阻害する、請求項19に記載の組成物。
【請求項25】
CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞の死を約90パーセント以上阻害する、請求項19に記載の組成物。
【請求項26】
CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞の死を約95パーセント以上阻害する、請求項19に記載の組成物。
【請求項27】
約25μM以下のIC50を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項28】
約20μM以下のIC50を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項29】
約15μM以下のIC50を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項30】
CSM14.1ラット線条体神経前駆細胞の死を約50パーセント以上阻害し、かつ約25μM以下のIC50を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項31】
前記化合物が、ChemBridge ID番号5230707、5397372、5667681、5706532、5803884、5843873、5850970、5897027、5923481、5926377、5931335、5933690、5947252、5948365、5951613、5954179、5954693、5954754、5955734、5962263、5963958、5974219、5974554、5976228、5979207、5980750、5981269、5984821、5986994、5990041、5990137、5993048、5998734、6000398、6015090、6033352、6034397、6034674、6035098、6035728、6037360、6038391、6043815、6044350、6044525、6044626、6044673、6044860、6045012、6046070、6046818、6048306、6048935、6049010、6049184、6049448、6056592、6060848、6062505、6065757、6066936、6068189、6068602、6069474、6070379、6073875、6074259、6074532、6074891、6081028、6084652、6094957、6095577、6095970、6103983、6104939、6141576、6237735、6237877、6237973、6237992、6238190、6238246、6238475、6238767、6239048、6239252、6239507、6239538、6239939、6241376、6368931、および6370710からなる群より選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項32】
前記化合物が式Iの化合物である、請求項19に記載の組成物。
【請求項33】
前記化合物が、ChemBridge ID番号6239507、6237735、6238475、6237877、6239538、6238767、6049448、5963958、6237973、および6044673からなる群より選択される、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記化合物が式II−1の化合物である、請求項19に記載の組成物。
【請求項35】
前記化合物が、ChemBridge ID番号5998734、5955734、5990041、6035098、および5990137からなる群より選択される、請求項34に記載の化合物。
【請求項36】
前記化合物が式II−2の化合物である、請求項19に記載の組成物。
【請求項37】
前記化合物が、ChemBridge ID番号5397372、6033352、6034674、および5951613からなる群より選択される、請求項36に記載の化合物。
【請求項38】
前記化合物が、ChemBridge ID番号5948365、5976228、5980750、5803884、6049184、5979207、および6141576からなる群より選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項39】
薬剤として許容される担体をさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項40】
(a)請求項19に記載の組成物と、(2)好適な包装材料と、を含むキット。
【請求項41】
小胞体ストレスに起因する哺乳類細胞の死を阻害する方法であって、前記細胞を請求項19に記載の組成物に接触させるステップを含む、方法。
【請求項42】
小胞体ストレスに関連した、哺乳動物の疾患もしくは症状もしくは傷害を治療する方法であって、治療を必要とする哺乳動物に請求項19に記載の組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項43】
前記疾患もしくは症状もしくは傷害が、神経疾患、代謝疾患、虚血障害、心臓および循環系損傷、ウイルス感染、アテローム性動脈硬化、双極性疾患、およびバッテン病からなる群より選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記神経疾患が、家族性アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、球脊髄性筋萎縮症/ケネディ病、脊髄小脳失調症3型/マシャド・ジョセフ病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、およびGM1ガングリオシドーシスからなる群より選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記代謝疾患が、糖尿病、ウォルコツト・ラリソン症候群、ウォフラム症候群、2型糖尿病、ホモシステイン血症、Zα1−抗トリプシン欠乏症、封入体筋炎、および遺伝性チロシン血症1型からなる群より選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記心臓および循環系損傷が、心肥大、低酸素性障害、および家族性高コレステロール血症からなる群より選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項47】
前記哺乳動物がヒトである、請求項42に記載の方法。
【請求項48】
ERストレス阻害化合物を必要とする個体に投与するための薬剤を調製する、ERストレス阻害化合物の使用。


【図2A】
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【図2B】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図20】
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【図22】
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【図25】
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【図26】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【公表番号】特表2010−530736(P2010−530736A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509398(P2010−509398)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/006633
【国際公開番号】WO2008/153760
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(508080241)バーンハム インスティトゥート フォー メディカル リサーチ (6)
【Fターム(参考)】