説明

タルチレリン製剤およびタルチレリン製剤の溶出性維持方法

【課題】本発明は、保存によるタルチレリンの溶出遅延や含量低下が抑制されているタルチレリン製剤と、タルチレリン製剤の溶出性を維持するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るタルチレリン製剤は、タルチレリン水和物およびポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。また、本発明に係るタルチレリン製剤の溶出性維持方法は、結合剤としてポリビニルアルコールを配合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タルチレリン製剤と、タルチレリン製剤の溶出性を維持するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脊髄小脳変性症は神経系の難病の一つであり、脊髄や小脳が障害され、症状として運動失調が認められる。日本における有病率は10万人あたり10人程度であり、遺伝性と非遺伝性のものがあり、その原因となる遺伝子異常が明らかとなりつつあるものの、その治療には難しいところがあり、日本では特定疾患に指定されている。
【0003】
脊髄小脳変性症の治療薬としては、タルチレリンが開発されている(特許文献1)。タルチレリンは、TRH(サイロトロピン・リリーシング・ホルモン)受容体に結合し、アセチルコリン神経系やドーパミン神経系などを活性化させ、運動失調を改善するものと考えられている。
【0004】
タルチレリンは、下記に示すとおりヒスチジンとプロリンを含むペプチド誘導体であるが、市販のタルチレリン製剤(セレジスト(登録商標)錠5)は経口投与が可能であるという特長を有する。
【0005】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−36574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、タルチレリンは脊髄小脳変性症の治療薬として用いられている。
【0008】
しかし本発明者らによる実験に基づく知見により、タルチレリン製剤を特に高温高湿下で保存すると、タルチレリンの溶出に遅延が見られ、また、タルチレリン自体が分解してその含量が低下する場合のあることが明らかにされた。
【0009】
そこで本発明は、保存によるタルチレリンの溶出遅延や含量低下が抑制されているタルチレリン製剤と、タルチレリン製剤の溶出性を維持するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、他の結合剤よりも結合力が比較的弱く、吸湿性を示すポリビニルアルコールが、意外にも高温高湿下で保存されたタルチレリン製剤の溶出性を維持し、且つタルチレリンの分解を抑制できることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
本発明に係るタルチレリン製剤は、タルチレリン水和物およびポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明製剤におけるポリビニルアルコールの配合割合としては、製剤全体に対して30質量%以下が好ましい。本発明者らによる実験的知見によれば、その理由は必ずしも明らかではないが、当該配合割合が30質量%以下であればタルチレリンの安定性や溶出性は十分に維持される。
【0013】
本発明製剤の剤形としては、錠剤が好ましい。タルチレリン錠剤の有効性は既に確認されており、結合剤としてポリビニルアルコールが配合された錠剤も、製造直後には同様の効果を示すと考えられる。その上、高温高湿下で保存した後においても、当該錠剤では薬剤溶出性が維持され、且つタルチレリンの分解も抑制されている。
【0014】
本発明に係るタルチレリン製剤の溶出性維持方法は、結合剤としてポリビニルアルコールを配合することを特徴とする。
【0015】
上記本発明方法においては、湿式で打錠して錠剤とする工程、さらにはタルチレリン水和物粉末にポリビニルアルコール溶液を噴霧することにより顆粒とする工程を含むことが好ましい。タルチレリン粉末にポリビニルアルコールを近接させて、タルチレリンの溶出性をより効果的に維持し、その分解をより一層抑制するためである。
【発明の効果】
【0016】
本発明者らによる実験的知見によれば、従来製剤では保存によりタルチレリンの溶出性と含有量が低下する。その原因は必ずしも明らかではないが、結合剤として使われているポリビニルピロリドン中のピロリドンとタルチレリン中のジオキソピリミジニル基との構造が類似することから、特に高湿度環境下での保存により両者との間で何らかの相互作用が生じることが考えられる。また、ヒドロキシプロピルセルロースなど他の結合剤を用いた場合でも、保存によりタルチレリンの溶出性が低下する。
【0017】
それに対して本発明によれば、タルチレリン製剤をたとえ高温高湿下で保存した後においても、製剤からのタルチレリンの溶出性を維持することができ、且つ製剤中におけるタルチレリンの分解を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】結合剤としてポリビニルアルコールを含むタルチレリン製剤における保存条件と溶出率との関係を示すグラフである。図1(1)が開放系で保存した場合のグラフであり、図1(2)が密閉系で保存した場合のグラフである。どちらの場合も、保存状態による溶出率の変化は少ない。
【図2】結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを含むタルチレリン製剤における保存条件と溶出率との関係を示すグラフである。図2(1)が開放系で保存した場合のグラフであり、図2(2)が密閉系で保存した場合のグラフである。特に高温高湿下で保管した場合、溶出率の低下が著しい。
【図3】結合剤としてポリビニルピロリドンを含むタルチレリン製剤における保存条件と溶出率との関係を示すグラフである。図3(1)が開放系で保存した場合のグラフであり、図3(2)が密閉系で保存した場合のグラフである。特に高温高湿下で保管した場合、溶出率の低下が著しい。
【図4】結合剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルセルロースを含むタルチレリン製剤において、保管前と2週間または4週間保管した場合との間で、試験開始から15分後における溶出率の差の絶対値を示すグラフである。図4(1)が開放系で保存した場合のグラフであり、図4(2)が密閉系で保存した場合のグラフである。特に高温高湿下で保管した場合、結合剤としてポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む製剤で溶出率の低下が激しい一方で、ポリビニルアルコールを含む製剤では溶出率は保管後でも維持されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るタルチレリン製剤は、タルチレリン水和物およびポリビニルアルコールを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明製剤の有効成分であるタルチレリンは、(−)−N−[(S)−ヘキサハイドロ−1−メチル−2,6−ジオキソ−4−ピリミジニルカルボニル]−L−ヒスチジル−L−プロリンアミドという化学構造を有する甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体であり、脊髄小脳変性症の治療薬として用いられている。タルチレリンは、通常、四水和物で安定化している。
【0021】
タルチレリンの投与量は適宜調整すればよいが、通常、成人に対して0.5μg/kg/日以上、5mg/kg/日以下程度、特に経口投与の場合には10μg/kg/日以上、1mg/kg/日以下程度とすることが好ましい。よって、一錠または一袋当たり0.5mg以上、20mg以下程度配合すればよい。一製剤当たりに換算すれば、0.5質量%以上、5質量%以下程度の割合を配合すればよい。
【0022】
本発明製剤に配合する結合剤は、ポリビニルアルコールのみとすることが好ましい。少なくとも、結合剤としてポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルセルロースを含まない。
【0023】
ポリビニルアルコールは、通常、酢酸ビニルを重合させた後、完全にまたは部分的にけん化することにより製造される。けん化度が97モル%以上のものが完全けん化ポリビニルアルコール、78モル%以上、96モル%以下のものが部分けん化ポリビニルアルコールと呼ばれる。本発明においては、当該けん化度が78モル%以上、96モル%以下のものが好適であり、86.5モル%以上、89.0モル%以下のものがより好ましい。
【0024】
本発明で用いるポリビニルアルコールの重合度は適宜調整すればよいが、数平均分子量で3000以上、200000以下のポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0025】
本件発明者らの実験的知見によれば、タルチレリン製剤に結合剤としてポリビニルピロリドンを配合すると、タルチレリンの溶出性の低下や分解が認められる。その理由としては、おそらくタルチレリンとポリビニルピロリドンは互いに類似する構造を有するので、特に高温高湿度下での保存中に両者が相互作用を起こすためと考えられる。また、ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤として用いた場合でも、保存による溶出率の低下が見られた。一方、本発明では、結合剤としてポリビニルアルコールを用いることにより、保存による溶出率の低下が顕著に抑制されている上に、保存中におけるタルチレリンの分解も顕著に抑制することに成功した。
【0026】
本発明製剤におけるポリビニルアルコールの配合割合としては、製剤全体に対して0.5質量%以上、30質量%以下とすることが好ましい。当該割合が0.5質量%以上であれば、タルチレリンの溶出性維持効果や安定性向上効果がより一層確実に発揮される。一方、結合剤が多過ぎると製剤が嵩高くなり過ぎて製造し難くなったり、製剤の崩壊性が悪化して溶出遅延が起こる可能性があり得るので、当該割合としては30質量%以下が好ましい。当該割合としては、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上が特に好ましく、また、4.0質量%以下がより好ましく、3.5質量%以下がさらに好ましく、3.0質量%以下が特に好ましい。結合剤としての役割を考慮すれば、ポリビニルアルコールの配合割合は多い程良い。その一方で、多過ぎると上述したような問題が生じ得るので、ポリビニルアルコールの配合割合は適度に調整する必要がある。また、その理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らによる実験的知見によれば、ポリビニルアルコールの製剤における配合割合がこの範囲内にあると、タルチレリンの溶出性維持効果や安定性向上効果が特に優れたものとなる。
【0027】
本発明製剤の剤形は、必要に応じて適宜選択すればよい。例えば、錠剤、カプセル剤、フィルムコート錠剤、顆粒剤、散剤、坐剤、注射剤とすることができる。好適には、錠剤とする。
【0028】
本発明製剤には、剤形に合わせてその他の添加剤を配合してもよい。例えば、トウモロコシデンプン、乳糖、結晶セルロース、D−マンニトール、リン酸水素カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、軽質無水ケイ酸などの賦形剤;カルメロースナトリウム、α化デンプン、プルラン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ヒプロメロースなどの結合剤;低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分α化デンプン、カルメロースなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、硬化油などの滑沢剤;マクロゴール、酸化チタン、カルナウバロウ、ヒプロメロースなどのコーティング剤;メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの流動化剤;ポリソルベート80などの可溶化剤;アスパルテーム、キシリトール、単シロップ、サッカリンナトリウム、ステビア、ソーマチンなどの甘味剤;三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄などの着色剤などを添加することができる。
【0029】
本発明製剤は、結合剤としてポリビニルアルコールを配合することを前提として、剤形に応じた公知方法により製造することができる。例えば錠剤の製造方法としては、主に、溶媒などを用いることなく各構成成分粉末を混合して打錠する乾式打錠法と、構成成分の一部を溶媒や液状成分に溶解または分散して得られる溶液または分散液を使って顆粒を得、当該顆粒と他の成分を混合した上で打錠する湿式打錠法がある。乾式打錠法としては直接打錠法や乾式顆粒圧縮法などがあり、湿式打錠法としては湿式顆粒圧縮法などがある。さらに、半乾式顆粒圧縮法という製造方法もある。
【0030】
直接打錠法は、主な構成成分を混合し、さらに滑沢剤を混合した上で直接打錠する製法である。乾式顆粒圧縮法は、乾式造粒法により調製した顆粒に滑沢剤を混合した上で打錠する製法である。湿式顆粒圧縮法は、湿式造粒法により調製した顆粒に滑沢剤を混合した上で打錠する製法である。また、半乾式顆粒圧縮法は、賦形剤、結合剤、崩壊剤などから予め湿式造粒法により調製した顆粒と薬効成分を混合し、さらに滑沢剤を混合した上で打錠する製法である。これら製法により得られた錠剤は、さらにコーティングを施してもよい。
【0031】
本発明に係るタルチレリン錠剤は、湿式打錠法で製造することが好ましい。タルチレリン粉末にポリビニルアルコールを近接させてタルチレリンの溶出性をより効果的に維持し、その分解をより一層抑制するためである。より具体的には、タルチレリン水和物粉末にポリビニルアルコール溶液を噴霧することにより顆粒とした上で打錠することが好ましい。
【0032】
本発明製剤は、脊髄小脳変性症の治療に有効である。その投与量は、患者の重篤度、年齢、性別などに応じて適宜調節すればよいが、前述したように、通常、成人に対して一回当たり0.5mg以上、20mg以下程度、一日当たり1mg以上、40mg以下程度投与できるよう調節することが好ましい。
【0033】
本発明に係るタルチレリン製剤の溶出性維持方法は、本発明製剤の製造方法とも共通するが、結合剤としてポリビニルアルコールを配合することを特徴とする。
【0034】
より具体的な条件は、剤形に応じて適宜調整する。例えば湿式打錠法で錠剤を製造する場合には、タルチレリン水和物粉末にポリビニルアルコール溶液を噴霧することにより顆粒とした上で、滑沢剤など混合した後に打錠すればよい。かかる態様では、タルチレリン水和物粉末がポリビニルアルコールにより被覆されることになるので、タルチレリン水和物粉末にポリビニルアルコール溶液を噴霧することにより顆粒とする工程を行うことが好ましい。当該顆粒は、滑沢剤と共に打錠することにより、錠剤とすることができる。
【0035】
本発明方法におけるその他の具体的な実施条件は、上記本発明製剤での説明を援用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
試験例1 タルチレリンの分解促進成分の特定
タルチレリンの分解を促進する添加成分を特定するために、実験を行った。具体的には、タルチレリン5mgに対して、賦形剤であるトウモロコシデンプンまたはD−マンニトール、結合剤であるポリビニルピロリドンの他、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースを、メノウ乳鉢中、タルチレリン水和物と表1に示す質量割合で混合した。
【0038】
【表1】

【0039】
各混合物をガラス容器に移し、インキュベーター(YAMATO社製,製品名「ED910」)中、温度55℃、湿度75%RHで、密栓した上で、或いは栓をせず開放したままで2週間または4週間保存した。次いで、保存後の混合物を下記条件のHPLCで分析し、得られたチャートのピーク強度から当初タルチレリン量に対する分解物の割合を算出した。結果を表2に示す。
【0040】
カラム: 内径4.6mm×長さ25cmのステンレス管に、粒径5μmφのHPLC用オクタデシルシリル化シリカゲル(YMC社製)を充填したもの
移動相: リン酸二水素カリウム(1.36g)と1−オクタンスルホン酸ナトリウム(2.00g)を水(1000mL)に溶解し、リン酸を加えてpHを2.5に調整し、当該溶液(400mL)にアセトニトリル(50mL)を加えたもの
移動相流速: 1.3mL/min
温度: 40℃
検出器: 紫外吸光光度計(島津製作所社製)
測定波長: 210nm
【0041】
【表2】

【0042】
上記結果のとおり、タルチレリン水和物製剤における主薬の分解の原因は、ポリビニルピロリドンであることが分かった。かかる主薬の分解は、特に高湿下において促進された。それに対して、結合剤であるポリビニルピロリドンをヒドロキシプロピルセルロースまたはポリビニルアルコールに変更した場合には、主薬の分解が高湿化でも抑制され、特に通常の条件では主薬の分解を顕著に抑制できることが明らかにされた。
【0043】
製造例1 タルチレリン錠剤の製造
表3に示す配合で、タルチレリン錠剤を製造した。詳しくは、サンプルミルを用い、タルチレリン水和物とトウモロコシデンプンを混合粉砕した。さらにD−マンニトールを加え、混合した。別途、各結合剤を精製水に溶解し、8w/v%結合液を調製した。得られた混合物をフローコート(FREUND社製,製品名「FLOW COATER LABO」)へ投入し、結合液を噴霧しながら造粒した後、終点温度40℃で乾燥した。得られた顆粒を0.8mmヘリボーンのスクリーンで整粒し、粗大粒子を除去した。当該顆粒に滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムを混合し、直径7.0mmφ、普通Rの杵を備えた打錠機(菊水製作所社製,製品名「VIRGO」)へ投入し、1錠質量が120.00mgとなるように打錠した。なお、表3中における分量は、1錠(120mg)当たりの各成分の質量である。
【0044】
【表3】

【0045】
試験例2 タルチレリン錠剤の分解抑制性試験
(1) 純度試験
上記製造例1で製造した各タルチレリン錠剤を、上記試験例1と同様の条件で2週間または4週間保管した。次いで、各錠剤を粉砕し、正確に120mgを定量した後、試験例1のHPLCで用いた移動相を加え、正確に10mLとした。当該液を孔径0.45μm以下のメンブランフィルタで濾過し、濾液を試料溶液とした。別途、定量用のタルチレリン水和物(約10mg)を正確に定量した後、上記移動相を加えて溶解し、正確に20mLとした。当該溶液(1mL)を正確に定量し、上記移動相を加えて正確に100mLとし、標準溶液とした。
【0046】
これら試料溶液と標準溶液を上記試験例1に示す条件のHPLCで分析し、当初タルチレリン量に対する分解物の割合を算出した。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
(2) 定量試験
上記製造例1で製造した各タルチレリン錠剤を、上記試験例1と同様の条件で2週間または4週間保管した。次いで、各錠剤を粉砕し、約300mgを正確に定量した後、水を加えて50mLとした。当該液を遠心分離し、上澄液(4mL)を正確に量り取り、水を加えて20mLとした。当該液を孔径0.45μm以下のメンブランフィルタで濾過し、濾液を試料溶液とした。また、保管前の錠剤についても同様の処理を行い、試料溶液を調製した。別途、定量用のタルチレリン水和物(約25mg)を正確に定量した後、水を加えて溶解し、正確に50mLとした。当該溶液(2mL)を正確に定量し、水を加えて正確に20mLとした後、孔径0.45μm以下のメンブランフィルタで濾過し、濾液を標準溶液とした。
【0049】
これら試料溶液と標準溶液を下記HPLCで分析し、タルチレリンの含量割合を算出した。結果を表5に示す。
【0050】
カラム: 内径4.6mm×長さ15cmのステンレス管に、粒径5μmφのHPLC用オクタデシルシリル化シリカゲル(YMC社製)を充填したもの
移動相: リン酸二水素カリウム(1.36g)と1−オクタンスルホン酸ナトリウム(2.00g)を水(1000mL)に溶解し、リン酸を加えてpHを2.5に調整し、当該溶液(850mL)にアセトニトリル(150mL)を加えたもの
移動相流速: 1.3mL/min
温度: 40℃
検出器: 紫外吸光光度計(島津製作所社製)
測定波長: 210nm
【0051】
【表5】

【0052】
上記結果のとおり、単にタルチレリン水和物と添加成分を混合した場合と同様に、錠剤においても、タルチレリンの分解はポリビニルピロリドンにより促進されることが分かった。かかる主薬の分解は、特に高湿下において促進された。それに対して、結合剤であるポリビニルピロリドンをポリビニルアルコールに変更した場合には、主薬の分解が高湿度下でも抑制され、特に結合剤としてポリビニルアルコールを含む錠剤では、タルチレリンの分解が顕著に抑制されていることが実証された。
【0053】
試験例3 タルチレリン錠剤の溶出試験
上記製造例1で製造した各タルチレリン錠剤を、上記試験例1と同様の条件で2週間または4週間保管した後、日本薬局方に記載の溶出試験パドル法に従って溶出試験を行った。具体的には、溶出試験装置(富山産業社製,製品名「NTR−6100A」)の容器へ、37±0.5℃の水(900mL)を加え、攪拌翼を回転数50rpmで回転させた。液温を維持しつつ、各錠剤(1錠)を加え、添加から5,10,15,30分後に試料液(10mL)を採取し、上記試験例2(2)に示す条件と同様の条件のHPLCにより、錠剤から液中へ放出されたタルチレリンの割合を求めた。また、保管前の錠剤についても同様に試験した。結果を表6と図1〜3に示す。なお、製剤番号の下のカッコ内は、使用した結合剤を示す。
【0054】
【表6】

【0055】
表6および図1〜3に示す結果のとおり、密封条件下で保管した場合では、4週間後であっても15〜30分後にはほぼ全てのタルチレリンが各錠剤から放出されている。
【0056】
しかし高湿度下で保管した場合には、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース(表中ではHPC)またはポリビニルピロリドン(表中ではPVP)を含む錠剤からは、明らかな溶出遅延が認められた。具体的には、ヒドロキシプロピルセルロースを含む比較例1の錠剤では、高湿度下で2週間保管した場合には30分間後における溶出率が約90%まで低下し、4週間保管した場合には約70%まで低下した。また、ポリビニルピロリドンを含む比較例2の錠剤では、高湿度下で保管した場合の30分間後における溶出率は約60%まで低下してしまった。特にポリビニルピロリドンを含む錠剤では、保管期間が2週間後と4週間後における溶出率がほぼ同等であることから、錠剤中で何らかの変化が起こっており、さらに時間が経過しても溶出率は高まらないと考えられる。
【0057】
一方、結合剤としてポリビニルアルコールを含む本発明製剤では、高湿度下で保管しても、タルチレリンの溶出率は未保管の場合に比べて維持されていることが証明された。
【0058】
また、タルチレリンの溶出安定性を評価するために、未保管錠剤と2週間保管製剤または4週間保管製剤との間で、試験開始から15分後における溶出率の差の絶対値を算出した。結果を表7と図4に示す。
【0059】
【表7】

【0060】
表7と図4に示す結果、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースまたはポリビニルピロリドンを含む錠剤は、保管によりタルチレリンの溶出率が不安定になることが分かった。特に高温高湿下で保管した場合における溶出率の変動が大きい。
【0061】
一方、結合剤としてポリビニルアルコールを含む本発明錠剤では、高温高湿下で保管した後であっても、タルチレリンの溶出率は安定して維持されている。
【0062】
以上の結果より、本発明に係るタルチレリン製剤は、高湿度下で保存しても、その薬剤溶出率が顕著に維持されることが明らかである。
【0063】
製造例2 タルチレリン錠剤の製造
上記製造例1と同様の条件で、表8に示す配合で、結合剤であるポリビニルアルコールの含有量が異なる錠剤およびポリビニルアルコールの代わりにポリビニルピロリドンを含むタルチレリン錠剤を製造した。なお、各成分のメーカーと商品名は、上記製造例1の表3と同様である。また、参考のため、製造例1の実施例1の製剤も併記する。
【0064】
【表8】

【0065】
試験例4 タルチレリン錠剤の分解抑制性試験
(1) 純度試験
上記試験例2(1)と同様にして、上記製造例1〜2で製造したタルチレリン錠剤を高温高湿下で保管した後のタルチレリンの純度を試験するために、タルチレリン分解物の割合を測定した。結果を表9に示す。
【0066】
【表9】

【0067】
(2) 定量試験
上記試験例2(2)と同様にして、上記製造例1〜2で製造したタルチレリン錠剤を高温高湿下で保管した後のタルチレリンを定量した。保管前および保管後におけるタルチレリンの割合を表10に示す。
【0068】
【表10】

【0069】
上記結果のとおり、結合剤としてポリビニルアルコールを含まず、ポリビニルピロリドンを含む比較例2の錠剤の場合、特に高温高湿下で保管すると、タルチレリンが分解してその含量が低下することが分かった。
【0070】
一方、結合剤としてポリビニルアルコールを含む本発明錠剤では、タルチレリンの分解が高温高湿下でも抑制されていた。また、その理由は必ずしも明らかではないが、製剤全体に対するポリビニルアルコールの添加割合が2.5質量%の場合に、タルチレリンの分解が最も抑制されていることが明らかにされた。
【0071】
試験例5 タルチレリン錠剤の溶出試験
上記試験例3と同様にして、上記製造例1〜2で製造したタルチレリン錠剤を高温高湿下で保管した後のタルチレリンの溶出性を試験した。結果を表11に示す。
【0072】
【表11】

【0073】
また、上記試験例3と同様にして、未保管錠剤と2週間保管製剤または4週間保管製剤との間で、試験開始から15分後における溶出率の差の絶対値を算出した。結果を表12に示す。
【0074】
【表12】

【0075】
上記結果のとおり、結合剤としてポリビニルアルコールを含むタルチレリン錠剤は、高温高湿下で保管した後であっても、タルチレリンの溶出性がおしなべて優れていることが実証された。その中でも、製剤全体に対するポリビニルアルコールの添加割合が2.5質量%の錠剤のタルチレリン溶出性およびその安定性は、特に優れたものであることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タルチレリン水和物およびポリビニルアルコールを含むことを特徴とするタルチレリン製剤。
【請求項2】
製剤全体に占めるポリビニルアルコールの割合が30質量%以下である請求項1に記載のタルチレリン製剤。
【請求項3】
錠剤である請求項1または2に記載のタルチレリン製剤。
【請求項4】
結合剤としてポリビニルアルコールを配合することを特徴とするタルチレリン製剤の溶出性維持方法。
【請求項5】
湿式で打錠して錠剤とする工程を含む請求項4に記載のタルチレリン製剤の溶出性維持方法。
【請求項6】
タルチレリン水和物粉末にポリビニルアルコール溶液を噴霧することにより顆粒とする工程を含む請求項5に記載のタルチレリン製剤の溶出性維持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−153135(P2011−153135A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288226(P2010−288226)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(593077308)共和薬品工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】