説明

タンクへの繊維巻付け方法およびその装置

【課題】タンクに繊維を巻き付ける際における当該繊維のすべりや弛みを抑制する。
【解決手段】繊維3の巻付け対象たるタンク2のうち少なくとも繊維3が巻き付けられる領域に磁界を形成する磁界発生装置4と、該磁界発生装置4により形成される磁界Bの向きを変化させる磁界方向調整装置5と、繊維3がタンク2に押し付けられる方向に当該繊維3に対して通電する電圧印加装置とを備える。タンク2を磁界B中に配置し、繊維3がタンク2に押し付けられる方向へと当該繊維3に通電しながらこの繊維3をタンク2の外周に巻き付ける。通電量を制御して繊維3がタンク2に押し付けられる力を調節することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクへの繊維巻付け方法およびその装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、タンクの強度を向上させる等のために用いられる繊維を当該タンクに巻き付ける際の方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形等の圧力容器(本明細書ではこれら圧力容器をタンクと呼ぶ)の強度を向上させるため、FW法(フィラメントワインディング法)によりタンク外周にカーボン繊維を巻き付けることが行われている。また、タンク形状にストレート部(例えば円筒部分)とドーム部(例えば口金部付近の半球状部分)とがある場合、フープ巻き、ヘリカル巻き、あるいはフープ巻きからヘリカル巻きに繋ぐコンビを繰り返しながら繊維が巻き付けられる。
【0003】
従来、このような繊維巻付けの際に用いられる手法(FW法)として、マンドレル(芯型)の位置を磁力で維持するもの、マンドレルの位置を可変制御するもの等が開示されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平3−169619号公報
【特許文献2】特開平6−339993号公報
【特許文献3】特開平6−143439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現状のFW法では、上述のようなコンビやヘリカル巻きを行う際に繊維のすべりが生じる場合がある。また、高速FW機などを使ってタンクの回転スピードを上がると遠心力が大きくなって繊維が弛んだり、あるいはドーム部における引っ掛かり力が下がってさらにすべりやすくなったりする。
【0005】
そこで、本発明は、繊維のすべりや弛みを抑制できるようにしたタンクへの繊維巻付け方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、本発明者は種々の検討を行い、かかる課題の解決に結びつく技術を知見するに至った。本発明はかかる知見に基づくものであり、繊維の巻き付け対象たるタンクを磁界中に配置し、繊維がタンクに押し付けられる方向へと当該繊維に通電しながらこの繊維をタンクの外周に巻き付けるというタンクへの繊維巻付け方法である。
【0007】
このように磁界中において繊維に通電した場合、当該繊維に一定方向への力が作用する(フレミングの左手の法則)。本発明ではこの力を利用して繊維をタンクに押し付けた状態を形成し、巻付け時における繊維のすべりや弛みを抑制する。
【0008】
この場合、通電量を制御して繊維がタンクに押し付けられる力を調節することが好ましい。通電量の大小に応じて繊維がタンクへ押付けられる力を調節することが可能である。
【0009】
また、磁界を発生させるための機器を回転自在とし、繊維が受ける力がタンクの中心軸を向くように調節することが好ましい。この場合には、タンクに対する繊維の相対的な巻付け方向に応じて磁界を発生させる機器を回転させることがさらに好ましい。例えば繊維を巻き付ける箇所が変わるにつれてタンク形状や繊維送り位置の相対位置が変化し、磁界中に送り出される繊維の角度が変わる場合がある。本発明によれば、このような場合に磁界を発生させるための機器を適宜回転させ、繊維の巻付け方向に応じて磁界の向きを調整することができる。
【0010】
また、本発明ではタンクの口金部付近から繊維の巻付けを始めるようにしている。
【0011】
さらに、本発明にかかるタンクへの繊維巻付け装置は、繊維の巻付け対象たるタンクのうち少なくとも繊維が巻き付けられる領域に磁界を形成する磁界発生装置と、該磁界発生装置により形成される磁界の向きを変化させる磁界方向調整装置と、繊維がタンクに押し付けられる方向に当該繊維に対して通電する電圧印加装置と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タンクに繊維を巻き付ける際における当該繊維のすべりや弛みを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1、図2に本発明にかかるタンクへの繊維巻付け方法およびその装置の実施形態を示す。本発明にかかるタンク2への繊維巻付け装置1は、磁界を形成する磁界発生装置4と、磁界の向きを変化させる磁界方向調整装置5と、繊維3に対して通電する電圧印加装置6とを備える装置である。
【0015】
タンク2は、各種気体や液体を貯留可能な例えば円筒形等の圧力容器である(図1等参照)。タンク2の外形や構造は種々あるが、本実施形態のタンク2は当該タンク2のボディを構成する密閉円筒状の本体の一端に口金部が設けられた構造となっている(図1参照)。このようなタンク2には、例えば燃料電池システムにおいて利用される35MPa〜70MPa程度のガスを貯蔵可能な燃料ガス(水素ガス)用の圧力容器などが含まれる。また、タンク強度を向上させるため、当該タンク2の外周には例えばFW法によって繊維3が巻き付けられる。
【0016】
口金部は、例えばアルミニウムを含む金属などで形成され、タンク本体の半球状をした端壁部の中心に設けられている。また、この口金部の内周面に形成されためねじを介して、バルブアッセンブリ2aが当該口金部にねじ込まれて着脱可能な状態で締結されるようになっている。
【0017】
繊維3はタンク2の外周に巻き付けられて当該タンク2の強度を向上させるように機能する。本実施形態では例えばカーボン繊維のような導電性の樹脂含浸繊維をこの繊維3として用いている。繊維3はボビン7に巻かれた状態になっている(図2参照)。
【0018】
磁界発生装置4は、繊維3の巻付け対象たるタンク2およびその周囲に磁界Bを形成するための装置である。例えば本実施形態では、タンク2を挟むように配置したN極とS極からなる一対の磁石をこの磁界発生装置4として用いている。より具体的な例を示せば、タンク2の口金部側の中心軸上にS極42、反対側(底側)の中心軸上にN極41をそれぞれ配置している(図1参照)。これにより、タンク2およびその周囲には底側から口金部側へと向かう磁界Bが形成されている。また、本実施形態ではタンク2の横断面よりも大きな面積の板状のN極41、S極42を用いることとし、当該タンク2のうち少なくとも繊維3が巻回される領域に磁界Bを形成するようにしている(図1参照)。
【0019】
磁界方向調整装置5は、上述の磁界発生装置4により形成される磁界Bの向きを変化させるための装置である。このような磁界方向調整装置5はタンク2に対する磁界Bの相対的な向きを変化させるものであれば足り、一例として、上述した磁石(N極41、S極42)を可動式とした装置で構成することができる。例えば本実施形態では、タンク2の上方に配置した支持部材51の両端にN極41とS極42とを固定するとともに、当該支持部材51の略中心に設けられた鉛直回転軸52を中心としてこの支持部材51を回転可能としている(図1参照)。この鉛直回転軸52を中心に支持部材51を回転させると、支持部材51の両端に固定されたN極41とS極42の位置が変わって磁束Bの向きが変化する。特に詳しく説明しないが、符号53は鉛直回転軸52および支持部材51を回転させるためのアクチュエータである(図1参照)。また、磁界方向調整装置5はタンク2に繊維3を巻き付ける作業を阻害しないように構成されている。
【0020】
電圧印加装置6は繊維3に対して通電するための装置である。例えば本実施形態では、繊維3の先端と、ボビン7に巻回されている繊維3の末端とに導線62を接続して回路を形成し、導線62の途中に設けた電源61によって電圧を印加するようにしている(図2参照)。なお、タンク2に繊維3を巻き付ける際、繊維3の先端を少し余らした状態としてから巻き付け始めれば導線62を巻き付けないで済む。
【0021】
また、電圧印加装置6は、繊維3がタンク2に押し付けられる方向に当該繊維3に対して通電する。磁界B中に位置する繊維3に通電した場合、フレミングの左手の法則にしたがって当該繊維3に力が作用するので、繊維3がタンク2に押付けられるように通電する。例えば本実施形態の場合には、タンク2の底側から口金部側へと向かう磁界Bの中において、繊維3に末端から先端へと向かう方向の電流を流すことにより、およそ鉛直下向きの力Fを当該繊維3に作用させている(図1参照)。
【0022】
ここで、磁界Bの中にある繊維3の長さをL、繊維3を流れる電流の向きと磁界Bの向きとのなす角度をθとすると、フレミングの左手の法則に従い繊維3に作用する力Fは
F=IBLsinθ
となる。なお、IとBはそれぞれ電流と磁界の大きさを表す。
【0023】
また、特に詳しく図示していないが、タンク2に繊維3を巻き付けるための装置、例えばタンク2を回転させるための装置や繊維3に張力を与えるための装置は公知のもので足りる。図1では、タンク2を回転させる際の中心軸、および繊維3の送り経路の途中に設けたガイドのみをそれぞれ符号8,9で示している(図1参照)。
【0024】
以上のような本実施形態の繊維巻付け装置1によれば、磁界B中において繊維3に通電することにより、当該繊維3にタンク2側への力Fを作用させながら巻き付けることが可能である。こうした場合、当該力Fを利用して繊維3をタンク2に押し付けて密着力を高めた状態とし、巻付け時における繊維3のすべりや弛みを抑制し、ひいては樹脂ライナの位置を制御することができる。
【0025】
また、タンク2の外周に繊維3を巻き付ける際、例えば繊維3を巻き付ける箇所が変わるにつれてタンク形状や繊維送り位置(例えばガイド9の位置)の相対位置が変化し、磁界B中に送り出される繊維3の角度が変わる場合があるが、本実施形態の繊維巻付け装置1においては、このような場合に磁界方向調整装置5を利用して磁界Bの向きを適宜変化させ、繊維3の巻付け方向に応じて磁界Bの向きを調整することができる。これによれば、繊維3が受ける力Fが常にタンク2の中心軸を向くように調節し、繊維3をタンク2に押し付けた状態を維持することが可能である。
【0026】
さらにこの繊維巻付け装置1においては、電圧印加装置6による繊維3への通電量を制御することによって当該繊維3がタンク2に押し付けられる力Fの大きさを調節することが可能である。さらには、磁石(N極41、S極42)の磁力の大きさを適宜変えることによって力Fの大きさを適宜調節することとしてもよい。このように繊維3をタンク2に押し付ける力(密着力)Fを適宜調節することにより、例えば高速FW機を利用して繊維3を高速で巻き付ける場合においても遠心力に打ち勝つ力Fを与えてすべりを極力抑制することが可能である。
【0027】
ちなみに、本実施形態ではタンク2の口金部付近から繊維の巻付けを始めるようにしている。この場合、巻付けを始めた部分から繊維3の先端を上述したように少し余らした状態とし、導線62および電源61を含む回路を形成しておくようにする。
【0028】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態における磁界方向調整装置5は、上述の磁界発生装置4により形成される磁界の向きを変化させる装置であったが、この他、タンク2の向きを変化させて磁界Bの向きを相対的に変化させるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を示す繊維巻付け装置の斜視図である。
【図2】電圧印加装置の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1…繊維巻付け装置、2…タンク、3…カーボン繊維(繊維)、4…磁界発生装置、5…磁界方向調整装置、6…電圧印加装置、B…磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の巻き付け対象たるタンクを磁界中に配置し、前記繊維が前記タンクに押し付けられる方向へと当該繊維に通電しながらこの繊維を前記タンクの外周に巻き付けることを特徴とするタンクへの繊維巻付け方法。
【請求項2】
前記通電量を制御して前記繊維が前記タンクに押し付けられる力を調節する請求項1に記載のタンクへの繊維巻付け方法。
【請求項3】
前記磁界を発生させるための機器を回転自在とし、前記繊維が受ける力が前記タンクの中心軸を向くように調節する請求項1または2に記載のタンクへの繊維巻付け方法。
【請求項4】
前記タンクに対する前記繊維の相対的な巻付け方向に応じて前記磁界を発生させる機器を回転させる請求項3に記載のタンクへの繊維巻付け方法。
【請求項5】
前記タンクの口金部付近から前記繊維の巻付けを始める請求項1から4のいずれか一項に記載のタンクへの繊維巻付け方法。
【請求項6】
繊維の巻付け対象たるタンクのうち少なくとも前記繊維が巻き付けられる領域に磁界を形成する磁界発生装置と、
該磁界発生装置により形成される磁界の向きを変化させる磁界方向調整装置と、
前記繊維が前記タンクに押し付けられる方向に当該繊維に対して通電する電圧印加装置と、
を備えることを特徴とするタンクへの繊維巻付け装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−29006(P2009−29006A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195118(P2007−195118)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】