説明

タンク及びその製造方法

【課題】ポリアリーレンスルフィドを成形してなる容器部と金属表面を化学処理した口金からなり、機械特性、成形加工性及び気密性に優れたタンク及びその製造方法を提供する。
【解決手段】高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて測定した溶融粘度が500〜30000ポイズであるポリアリーレンスルフィド97〜99.9重量%、カルナバワックス0.1〜3重量%、場合によっては更に繊維状充填剤及び/又無機充填剤からなる容器部と、金属表面を化学処理した口金とからなるタンク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口金を装着したポリアリーレンスルフィドからなるタンクに関するものであり、更に詳しくは、ポリアリーレンスルフィドを成形してなる容器部と金属表面を化学処理した口金からなり、機械特性、成形加工性及び気密性に優れたタンク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車用燃料タンクには、鋼板等の金属製のものが使用されているが、最近軽量化、空間利用率の向上などの目的で、プラスチック製の燃料タンクとする試みがなされている。加えて、近年の自動車の高性能化により各種の装置が搭載されるようになり、それに応じて燃料タンクに利用可能な空間が制限されるようになってきたため、タンク形状が複雑になってきている。
【0003】
このため、プラスチックの易加工性のメリットが注目され、自動車用燃料タンクに耐ガソリン透過性に優れたエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂などのバリア性樹脂層とオレフィン系樹脂層とが変性オレフィン系樹脂などの接着樹脂層により接合された多層プラスチックタンクが多く使用されている(例えば特許文献1,2参照。)。
【0004】
また、ガソリンの透過性を低減化した樹脂として、ポリアミド樹脂とポリフェニレンスルフィド樹脂からなる樹脂組成物、ポリフェニレンスルフィド樹脂とオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物を用いた燃料部品も提案されている(例えば特許文献3,4参照。)。
【0005】
そして、更に自動車用の天然ガスタンクの樹脂化が提案されている(例えば特許文献5〜7参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平07−102133号公報
【特許文献2】特開平08−283684号公報
【特許文献3】特開2002−284991号公報
【特許文献4】特開2002−226707号公報
【特許文献5】特開2000−266289号公報
【特許文献6】特開2000−291887号公報
【特許文献7】特開2000−291888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1,2に提案されているタンクにおいては、メタノール混合ガソリン等を用いた場合にその透過性に課題があるばかりか、天然ガス、プロパンガス等の気体充填には不十分なものであった。
【0008】
また、特許文献3,4に提案されている樹脂組成物は、ガソリン、メタノール混合ガソリン等に対する耐腐食性を向上させたものではあるが、主にパイプ、ホース等に代表される燃料供給部品用の樹脂組成物として提案されたものであり、金属等とのシール性に課題を残すものであった。
【0009】
そして、特許文献5〜7に提案された天然ガスタンクにおいては、タンクを構成する口金と容器部の接合部からの漏れを防止するためのシール性が重要であり、気密性を確保するために口金及び口金周辺部の形状が複雑化している。
【0010】
そこで、口金の形状にとらわれることなく、気密性が良好なタンクが望まれており、本発明は、口金の形状にとらわれることなく機械特性、成形加工性及び気密性に優れたポリアリーレンスルフィド(以下、PASと記す。)からなるタンクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題に関し鋭意検討した結果、特定のPAS組成物を成形してなる容器部と金属表面を化学処理した口金とからなるタンクが、口金の形状にとらわれることなく機械特性、成形加工性及び気密性に優れたタンクとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて測定した溶融粘度が500〜30000ポイズであるPAS97〜99.9重量%、カルナバワックス0.1〜3重量%からなる容器部と、金属表面を化学処理した口金とからなることを特徴とするタンク及びその製造方法に関するものである。
【0013】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0014】
本発明のタンクを構成する容器部は、高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて測定した溶融粘度が500〜30000ポイズであるPAS97〜99.9重量%、カルナバワックス0.1〜3重量%からなるものであり、特に機械的強度に優れるタンクとなることから該PAS97.5〜99.8重量%、カルナバワックス0.2〜2.5重量%からなることが好ましい。ここで、PASが97重量%未満である場合、タンクが成形加工性、表面外観に劣るものとなる。一方、99.9重量%を越える場合、タンクを成形する際の成形加工時の離型性、口金との接着性に劣るものとなる。
【0015】
本発明のタンクの容器部を構成するPASは、高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて測定した溶融粘度が500〜30000ポイズであるPASであり、該PASとしては、例えば下記の一般式(1)で示されるp−フェニレンスルフィド単位、一般式(2)に示されるm−フェニレンスルフィド単位、一般式(3)に示されるo−フェニレンスルフィド単位、一般式(4)に示されるフェニレンスルフィドスルホン単位、一般式(5)に示されるフェニレンスルフィドケトン単位、一般式(6)に示されるフェニレンスルフィドエーテル単位、一般式(7)に示されるジフェニレンスルフィド単位、一般式(8)に示される置換基含有フェニレンスルフィド単位、一般式(9)に示される分岐構造含有フェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、PASの具体的例示としては、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、アミノ基置換ポリ(p−フェニレンスルフィド)、アミノ基置換ポリフェニレンスルフィドケトン、アミノ基置換ポリフェニレンスルフィドエーテル、ヒドロキシル基置換ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ヒドロキシル基置換ポリフェニレンスルフィドケトン、ヒドロキシル基置換ポリフェニレンスルフィドエーテル、カルボキシル基置換ポリ(p−フェニレンスルフィド)、カルボキシル基置換ポリフェニレンスルフィドケトン、カルボキシル基置換ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、ガスバリア性、気密性に優れたタンクとなることから、ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPSと記す。)、アミノ基置換PPSであることが好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

(ここで、RはOH、NH、COOH、CHを示し、nは1又は2を示す。)
【0024】
【化9】

該PASの製造方法としては、特に限定はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られるが、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調整されても、また系外で調整されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込み比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=1/0.9〜1.1の範囲とすることが好ましい。
【0025】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0026】
また、本発明に用いられるPASは、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。特に、酸素雰囲気下での加熱処理や、過酸化物等を添加しての加熱処理などの酸化架橋処理を施していないPASを用いた場合、着色の少ないPASが得られる点で好ましい。
【0027】
また、該PASは、脱イオン処理を行うことによってイオンを低減させたものであってもよい。脱イオン処理の方法としては、未架橋PASを130〜250℃の高温水によって洗浄する方法、有機溶剤で洗浄する方法、酸またはその水溶液にて洗浄する方法、あるいはこれらの組合せによる洗浄などから、所望により任意に選択できる。さらに、アセトン、メチルアルコール等の有機溶媒により洗浄を行うことによりオリゴマーを低減させたものであってもよい。
【0028】
本発明のタンクを構成する容器部に用いるPASは、高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて測定した溶融粘度が500〜30000ポイズのものであり、好ましくは1000〜20000ポイズのものである。ここで、溶融粘度が500ポイズ未満のPASである場合、タンクの表面外観が劣るものとなる。一方、溶融粘度が30000ポイズを越えるPASである場合、タンクに成形する際の成形加工性に劣るものとなる。
【0029】
本発明のタンクを構成する容器部に用いるカルナバワックスは、カルナバワックスの範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、市販品等を使用することができる。
【0030】
本発明のタンクを構成する容器部は、特に機械特性に優れたものとなることから該PASと該カルナバワックスからなる合計量100重量部に対し、さらに繊維状充填剤及び/又は無機充填剤5〜200重量部を配合してなるものであることが好ましい。
【0031】
該繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、ウイスカー、金属繊維、無機系繊維、有機系繊維、鉱物系繊維等が挙げられる。
【0032】
そして、ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6〜14μmのチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;ニッケル、銅等を金属コートしたガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられる。
【0033】
炭素繊維の具体的例示としては、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0034】
無機系繊維の具体的例示としては、ロックウール、ジルコニア、アルミナシリカ、チタン酸バリウム、炭化珪素、アルミナ、シリカ、高炉スラグ等の各種無機系繊維が挙げられる。
【0035】
鉱物系繊維の具体的例示としては、アスベスト、ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等が挙げられる。
【0036】
有機系繊維の具体的例示としては、全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等が挙げられる。
【0037】
ウイスカーの具体的例示としては、窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等が挙げられる。
【0038】
また、該無機充填剤とは、板状、粉粒状の無機物であり、例えば炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、ガラスパウダー、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、黒鉛、カーボンブラック、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレーク、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらの無機充填剤は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。
【0039】
本発明のタンクを構成する容器部に場合によっては用いることのできる繊維状充填剤及び/又は無機充填剤は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤で処理したものであることが好ましく、特にアミノアルコキシシラン又はエポキシアルコキシシランで表面処理されたものであることが好ましい。また、繊維状充填剤は、場合によって前記表面処理を行った後、ハンドリング性をよくするためにガラス繊維の束をエポキシ樹脂及び/又はウレタン樹脂で収束処理を施したものであってもよい。
【0040】
さらに、本発明のタンクを構成する容器部は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のタルク、カオリン、シリカなどの結晶核剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物;チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;着色剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものからなるものであってもよい。
【0041】
また、本発明のタンクを構成する容器部は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばシアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0042】
本発明のタンクの容器部を該PAS及び該カルナバワックスから構成する際には、該PAS及び該カルナバワックスからなるPAS組成物とした後に容器部を構成することも可能であり、該PAS組成物の製造方法としては、従来から使用されている加熱溶融混練方法を用いることができ、例えば単軸又は二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダーなど溶融混練機による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜370℃の範囲より任意に選択することができる。混合順序に関しても特に制限はなく、全ての原材料を配合した後に上記の方法により溶融混練する方法;原材料の一部を配合した後に上記方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法;あるいは原材料の一部を配合後単軸又は二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加することも可能である。
【0043】
本発明のタンクは、該PASと該カルナバワックスからなる容器部と金属表面を化学処理した口金とからなり、該口金としては、例えばアルミニウム、銅、真鍮等が用いられ、特にアルミニウムからなる口金が取り扱い性、加工性に優れることから好ましい。口金の金属表面の化学処理方法としては、例えばメチルアミン等のアミン系水溶液、ヒドラジン誘導体、トリアジンチオール誘導体、シランカップリング剤等を用い化学処理する方法を挙げることができ、特に具体的には特開2003−103563号公報、特開2004−50488号公報、特開平02−298384号公報等に記載の方法により金属表面の化学処理を行うことができる。該口金は金属表面を化学処理することにより容器部との接着性、密着性の優れたものとなり、本発明のタンクは、気密性に優れるタンクとなるものである。
【0044】
本発明のタンクの製造方法としては、該PASと該カルナバワックスとからなる容器部と、金属表面を化学処理した口金とからなるタンクが得られる限りにおいて如何なる方法を用いてもよく、その中でも特に効率よくタンクを製造することが可能となることから、PASとカルナバワックスからなるPAS組成物を成形してなる容器部と、金属表面を化学処理した口金とをタンクにする際に、口金をインサートするインサート成形によりタンクを成形することが好ましい。インサート成形する際には、金属表面を化学処理した口金を金型に装着した後に、該PAS97〜99.9重量%及び該カルナバワックス0.1〜3重量%からなる溶融PAS組成物を挿入し容器部を成形し、タンクとしてインサート成形を行う方法を挙げることができる。そして、インサート成形を行う際の成形加工機としては、例えば射出成形機、押出成形機、圧縮成形機、ブロー成形機等を挙げることができ、その際の成形加工温度としては、例えば290〜340℃の範囲を挙げることができる。また、インサート成形の際に射出成形機、圧縮成形機を用いた場合は、タンクの容器部を2分割以上の部品にし、1部品に化学処理を施した口金を金型に装着しタンク部品を成形した後、口金をインサートしたタンク部品と口金を装着していないタンク部品を熱板溶着、振動溶着、レーザー溶着あるいは接着剤による接着など公知の接合手段により接合しタンクとして成形してもよい。
【0045】
本発明のタンクは、機械特性、成形加工性及び気密性に優れることから、例えばガソリン用タンク、メタノール用タンク、エタノール用タンク、プロパン用タンク、液化プロパン用タンク、天然ガス用タンク、液化天然ガス用タンク等として用いることができ、特に自動車用燃料タンクに好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0046】
以上の説明から明らかなように、本発明のタンクは、特定のPAS組成物からなる容器部と金属表面を化学処理した口金とからなり、口金の形状にとらわれることなく機械特性、成形加工性及び気密性に優れたタンクが得られるため、その工業的価値は高い。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものでない。なお、実施例に用いたPASの評価及び得られたタンクの評価は、以下の方法により行った。
【0048】
〜PASの溶融粘度測定〜
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター(島津製作所製、商品名CFT−500)にて、315℃、荷重10kgfの条件下にて溶融粘度の測定を行った。
【0049】
〜気密性の評価〜
実施例及び比較例により得られたタンクに窒素ガス0.5MPaを注入し、密閉した。次に、タンクの容器部と口金との接合部に5%の界面活性剤を含む水溶液を注ぎ、泡の発生を観察し気密性の評価を目視にて行った。
【0050】
評価基準を以下に示す。
○;泡の発生なし。
×;泡の発生あり。
【0051】
〜タンクの表面外観の評価〜
実施例及び比較例により得られたタンクの表面を目視により観察した。
【0052】
評価基準を以下に示す。
○;表面が平滑であり良好である。
×;表面にざらつきが発生し成形加工性に劣る。
【0053】
合成例1(PPSの合成))
撹拌機を装着する50リットルオートクレーブに、NaS・2.9HOを6214g及びN−メチル−2−ピロリドンを16.7リットル仕込み、窒素気流下撹拌しながら徐々に205℃まで昇温して、1355gの水を留去した。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼンを7160gとN−メチル−2−ピロリドンを5000g添加し、窒素気流下に系を密閉した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて2時間重合させた後、30分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却しポリマーを遠心分離機により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することによりPPS(以下、PPS(1)と記す。)を得た。得られたPPS(1)の溶融粘度は、280ポイズであった。
【0054】
合成例2(PPSの合成)
合成例1により得られたPPS(1)を、さらに空気雰囲気下250℃で1時間硬化を行いPPS(以下、PPS(2)と記す。)を得た。得られたPPS(2)の溶融粘度は520ポイズであった。
【0055】
合成例3(PPSの合成)
合成例2により得られたPPS(2)を、さらに空気雰囲気下250℃で10時間硬化を行いPPS(以下、PPS(3)と記す。)を得た。得られたPPS(3)の溶融粘度は30000ポイズであった。
【0056】
合成例4(PPSの合成)
合成例3により得られたPPS(3)を、さらに空気雰囲気下250℃で3時間硬化を行いPPS(以下、PPS(4)と記す。)を得た。得られたPPS(4)の溶融粘度は38000ポイズであった。
【0057】
合成例5(PPSの合成)
撹拌機を装着する50リットルオートクレーブに、N−メチル−2−ピロリドン11リットルと5水塩硫化ナトリウム7930gを仕込み、窒素気流下2時間かけて撹拌しながら徐々に205℃まで昇温して、水3230gを留出させた。140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン6620gとN−メチル−2−ピロリドン4リットルを加えて、250℃に昇温し、250℃で3時間重合させて、スラリーを得た。次に、オートクレーブにn−デカン7000gを注入し、250℃に昇温し、5時間重合させた。重合終了後、室温まで冷却しポリマーを遠心分離機により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し100℃で一昼夜乾燥することによりPPS(以下、PPS(5)と記す。)を得た。得られたPPS(5)の溶融粘度は、1600ポイズであった。
【0058】
実施例1
PPS(2)99.5重量%とカルナバワックス(関東化学(株)製)0.5重量%とを予めヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株)製、商品名HENSCHEL FD20D/K)にて均一混合した。その後、スクリュー径37mmφの二軸押出機(東芝機械(株)製、商品名TEM−35B−102B)を用い、シリンダー温度300℃で溶融混練してペレット化したPPS組成物(以下、PPS(1)組成物と記す。)を得、得られたPPS(1)組成物を175℃で5時間乾燥した。
【0059】
次に、表面を化学的処理した口金を以下のように作成した。アルミ合金A5052を加工し図1に示す口金を得た。その口金をアセトン4リットルに10分浸漬して取り出し、イオン交換水4リットルで洗浄し、更にイオン交換水2リットルにより洗浄を行った。次に、1mol%の水酸化ナトリウム水溶液をポリエチレン製ビーカーに用意し、前記口金を浸漬した。2分後引き上げ、水道水で十分に洗浄した。さらに、1mol%の硝酸と0.2mol%のフッ化水素酸を含む水溶液をポリエチレン製ビーカーに500ml用意し、1分間浸漬した。引き上げて水道水で十分に洗浄した。その後、1mol%のメチルアミン水溶液をポリエチレン製ビーカーに500ml用意し、1分間浸漬し、引き上げて水道水で十分に洗浄した。更に、ビーカーに満たしたアセトンに数秒漬けた後、高圧空気を吹き付けて乾燥し、デシケーターで保管し金属表面を化学処理した口金(以下、化学処理A5052口金と記す。)を得た。
【0060】
シリンダー温度310℃、金型温度140℃に設定した射出成形機(住友重機械工業製、商品名SE100S)を用い、得られたPPS組成物を図2の(a)に示す口金を持たないタンク部品に成形した。また、金型内に化学処理A5052口金を装着し、シリンダー温度310℃、金型温度140℃に設定した射出成形機(住友重機械工業製、商品名SE100S)を用い、得られたPPS組成物を図2の(b)に示す口金を持つタンク部品に成形した。その後、得られた口金を持たないタンク部品と口金を持つタンク部品とを図2に示すように開口部を重ね、振動溶着機(ブランソン製、商品名モデル2400)を用い、周波数240Hz、振幅1.5mm、加圧力10MPaの条件で2秒間発振し、1秒間冷却することにより、溶着を行いタンクを得た。
【0061】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0062】
実施例2
PPS(2)99.5重量%、カルナバワックス0.5重量%の代わりに、PPS(3)97.5重量%、カルナバワックス2.5重量%とした以外は、実施例1と同様の方法にてタンクを得た。
【0063】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0064】
実施例3
PPS(2)99.5重量%、カルナバワックス0.5重量%を溶融混練しPPS組成物(1)とした代わりに、PPS(2)99.5重量%とカルナバワックス0.5重量%とを二軸押出機にて溶融混練する際に、PPS(2)とカルナバワックスの合計量100重量部に対し、繊維径10μm、繊維長3mmのガラス繊維(日本板ガラス(株)製、商品名RES03−TP91(チョップドストランド))24重量部をサイドフィーダーから供給し、PPS組成物(2)とした以外は、実施例1と同様の方法によりタンクを得た。
【0065】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0066】
実施例4
PPS(2)99.5重量%、カルナバワックス0.5重量%を溶融混練しPPS組成物(1)とした代わりに、PPS(5)99.5重量%とカルナバワックス0.5重量%とを二軸押出機にて溶融混練する際に、PPS(5)とカルナバワックスの合計量100重量部に対し、繊維径10μm、繊維長3mmのガラス繊維(日本板ガラス(株)製、商品名RES03−TP91(チョップドストランド))42重量部をサイドフィーダーから供給し、PPS組成物(3)とした以外は、実施例1と同様の方法によりタンクを得た。
【0067】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0068】
比較例1
PPS(2)99.5重量%、カルナバワックス0.5重量%の代わりに、PPS(3)100重量%とし、カルナバワックスを用いなかった以外は、実施例1と同様の方法にてタンクを得た。
【0069】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表2に示す。
【0070】
得られたタンクは、容器部にカルナバワックスを用いなかったため、容器部と口金との接着性に劣り、気密性が劣るものであった。
【0071】
比較例2
化学処理A5052口金の代わりに、化学処理を行っていないアルミ合金A5052製口金(以下、未処理A5052口金と記す。)とした以外は、実施例1と同様の方法によりタンクを得た。
【0072】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表2に示す。
【0073】
得られたタンクは、容器部と口金との接着性に劣り、気密性が劣るものであった。
【0074】
比較例3
化学処理A5052口金の代わりに、未処理A5052口金とした以外は、実施例2と同様の方法によりタンクを得た。
【0075】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表2に示す。
【0076】
得られたタンクは、容器部と口金との接着性に劣り、気密性が劣るものであった。
【0077】
比較例4
PPS(2)、化学処理A5052口金の代わりに、PPS(5)、未処理A5052口金とした以外は、実施例1と同様の方法によりタンクを得た。
【0078】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表2に示す。
【0079】
得られたタンクは、容器部と口金との接着性に劣り、気密性が劣るものであった。
【0080】
比較例5
PPS(2)、ガラス繊維24重量部の代わりに、PPS(4)、ガラス繊維180重量部とした以外は、実施例3と同様の方法によりタンクを作成しようと試みたが、PPS(4)の溶融粘度が高いため、成形不良によりタンク(部品)を得ることは出来なかった。
【0081】
比較例6
PPS(2)99.5重量%、カルナバワックス0.5重量%の代わりに、PPS(3)95重量%、カルナバワックス5重量%とした以外は、実施例1と同様の方法によりタンクを得た。
【0082】
得られたタンクの気密性、成形品表面外観の評価を行い、その結果を表2に示す。
【0083】
得られたタンクは、成形品表面外観に劣るものであった。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】;本発明のタンクを構成する化学処理された口金の概略図である(単位はmmを示す。)。
【図2】;本発明のタンクの概略図である(単位はmmを示す。)。
【符号の説明】
【0087】
(a);実施例1により得られた口金を持たないタンク部品。
(b);実施例1により得られた口金を持つタンク部品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて測定した溶融粘度が500〜30000ポイズであるポリアリーレンスルフィド97〜99.9重量%、カルナバワックス0.1〜3重量%からなる容器部と、金属表面を化学処理した口金とからなることを特徴とするタンク。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィド97〜99.9重量%、カルナバワックス0.1〜3重量%からなる合計量100重量部に対し、さらに繊維状充填剤及び/又は無機充填剤5〜200重量部を配合してなる容器部であることを特徴とする請求項1に記載のタンク。
【請求項3】
金型内に金属表面を化学処理した口金を装着した後に、高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて測定した溶融粘度が500〜30000ポイズであるポリアリーレンスルフィド97〜99.9重量%及びカルナバワックス0.1〜3重量%からなる溶融ポリアリーレンスルフィド組成物を挿入し容器部を成形し、インサート成形を行うことを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィド97〜99.9重量%、カルナバワックス0.1〜3重量%からなる合計量100重量部に対し、さらに繊維状充填剤及び/又は無機充填剤5〜200重量部を配合してなる溶融ポリアリーレンスルフィド組成物であることを特徴とする請求項3に記載のタンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−57726(P2008−57726A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237845(P2006−237845)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】