説明

タングステンブロンズの定量方法

【課題】アルカリ金属が酸化物の形態で一部揮散するのを防止できるタングステンブロンズ中のアルカリ金属を定量する方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属を含有するタングステンブロンズの試料にアルカリ溶液を加え、マイクロ波加熱分解法により試料を加熱分解し、その後、アルカリ金属を定量する。マイクロ波加熱分解法により試料を加熱する温度を200°C以下に制御することが好ましい。また、アルカリ溶液が水酸化アルカリ溶液または炭酸アルカリ溶液であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステンブロンズ中のアルカリ金属を定量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タングステンブロンズは、近年、建物や車の窓等に使用する熱線遮蔽材料としての需要が高まっている。熱線遮蔽材料の重要な特性としては、紫外線の吸収率および可視光の透過率があげられる。タングステンブロンズに含まれるアルカリ金属量は上記の特性を大きく左右するものであり、これらの含有量を正確に把握することは極めて重要である。
【0003】
しかし、タングステンブロンズは高耐腐食性といった特性を有するため、通常の酸分解法では試料を溶液化することは非常に困難である。溶解する方法としては過酸化ナトリウム等を用いたアルカリ融解法等(非特許文献1)が提案されている。
【非特許文献1】分析化学(Bunseki Kagaku)、30、599(1981)「植物試料の乾式灰化に伴う元素の損失」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献に記載の方法では、融解の際、例えば、900°Cの高温に加熱する必要があるため、アルカリ金属が酸化物の形態で一部揮散し、目的成分をロスしてしまう可能性がある。
【0005】
したがって、本発明は、アルカリ金属が酸化物の形態で一部揮散するのを防止できるタングステンブロンズ中のアルカリ金属を定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のタングステンブロンズ中のアルカリ金属の定量方法は、試料であるタングステンブロンズをアルカリ溶液を加えマイクロ波加熱分解法により溶液化した後、試料中のアルカリ金属を定量することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タングステンブロンズ中のアルカリ金属を損失することなく溶液化することが可能となり、タングステンブロンズ中のアルカリ金属を定量することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、これらの問題を解決する方法として、試料であるタングステンブロンズをアルカリ溶液を加えマイクロ波加熱分解法により溶液化することにより、目的成分を損失することなく、定量することを可能とした。
【0009】
本発明によるタングステンブロンズ中のアルカリ金属の定量方法をより詳細に述べると以下のようになる。
【0010】
試料をマイクロ波加熱分解用のポリ四フッ化エチレン樹脂製容器に秤量し、10wt%水酸化ナトリウム溶液を10ml加える。次にポリ四フッ化エチレン樹脂製容器をマイクロ波加熱分解装置にセットして密閉し、加熱分解する。その際、より高温で加熱することで分解時間の短縮が図れるが、ポリ四フッ化エチレン製容器が変形しないよう、200°C程度が好ましい。
【0011】
以上の方法で試料を分解、溶液化した後、過酸化水素水を5%含んだ硫酸(1+1)溶液を加え酸性とし、水を加えて溶液量を一定の容量に合わせ試料溶液とし、これを適宜希釈した後、フレーム原子吸光法で溶液中の農度を測定する。以上の方法によって、タングステンブロンズ中のアルカリ金属を定量することが可能である。
【実施例】
【0012】
本発明により、各種タングステンブロンズ試料中のNa、K、Rb、CsおよびWの定量を行った。以下、実施例に基づき本発明を説明する。
(実施例1)
タングステンブロンズ試料をマイクロ波加熱分解用のポリ四フッ化エチレン樹脂製容器に秤量し、10wt%水酸化ナトリウム溶液を10ml加える。次にポリ四フッ化エチレン樹脂製容器をマイクロ波加熱分解装置にセットして密閉し、加熱分解する。その際、温度が200°Cを超えないように、出力の上限を600W、温度の上限を(IRモニター)200°Cとして、約1時間加熱分解する。放冷後、マイクロ波加熱分解用のポリ四フッ化エチレン樹脂製容器に過酸化水素水を5%含んだ硫酸(1+1)溶液を30ml加える。放冷後、得られた溶液を250mlのフラスコに移し入れ、水を加えて容量を250mlに合わせこれを試料溶液とした。測定条件は下記の表1の通りとし、フレーム原子吸光装置(AAS)およびICP−発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて測定を行った。
【0013】
【表1】

【0014】
ただし、フェ−エル流量の単位はml/minである。
【0015】
定量結果を下記の表2に示す。比較のため、同じ試料を過酸化ナトリウム融解法で溶解し、得られた結果を併記する。結果より、Wについてはどちらの方法においても同等の定量値が得られたのに対し、アルカリ金属の結果は、アルカリ融解法で得られた定量値がマイクロは加熱分解法で得られた定量値より、低値を示す結果となった。このことからもアルカリ融解法では、目的成分であるアルカリ金属を損失していることが考えられる。
【0016】
【表2】

【0017】
(実施例2)
分解の際に、用いるアルカリ溶液を10wt%水酸化カリウム溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で定量を行った。その結果を下記の表3に示す。実施例1と良く一致する結果が得られた。
【0018】
【表3】

【0019】
(実施例3)
分解の際に、用いるアルカリ溶液を10wt%炭酸ナトリウム溶液を用いた以外は、実施例2と同様の方法で定量を行った。その結果を下記の表4に示す。実施例1および実施例2と良く一致する結果が得られた。
【0020】
【表4】

【0021】
(実施例4)
分解の際に、用いるアルカリ溶液を10wt%炭酸カリウム溶液を用いた以外は、実施例2と同様の方法で定量を行った。その結果を下記の表5に示す。上記実施例と良く一致する結果が得られた。
【0022】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を含有するタングステンブロンズの試料にアルカリ溶液を加え、マイクロ波加熱分解法により試料を加熱分解し、その後、アルカリ金属を定量することを特徴するタングステンブロンズ中のアルカリ金属の定量方法。
【請求項2】
前記マイクロ波加熱分解法により試料を加熱する温度を200°C以下に制御することを特徴とする請求項1記載のタングステンブロンズ中のアルカリ金属の定量方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液が水酸化アルカリ溶液または炭酸アルカリ溶液であることを特徴する請求項1記載のタングステンブロンズ中のアルカリ金属の定量方法。

【公開番号】特開2007−108100(P2007−108100A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301242(P2005−301242)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】