説明

タングステン含有アルカリ溶液の精製方法

【課題】タングステン含有アルカリ溶液に含まれているクロム、好ましくはクロムと共にバナジウムを簡単に効率よく除去する精製方法に関する。
【解決手段】クロムおよび/またはバナジウムを含むタングステン含有アルカリ溶液に、二価鉄化合物を加えて生成した沈澱を濾別することによってクロムおよび/またはバナジウムを除去することを特徴とし、好ましくは、二価鉄化合物として、硫酸第一鉄、酢酸第一鉄、または蟻酸第一鉄を用い、pHを8〜13に調整して沈澱を生成させるタングステン含有アルカリ溶液の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン含有アルカリ溶液に含まれているクロムを簡単に効率よく除去する精製方法に関し、好ましくは、クロムと共にバナジウムを簡単に効率よく除去する精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金はタングステンを主成分とし切削工具などに多く使用されている。この超硬合金にはタングステンの他にバナジウムやクロムなどの微量成分が含まれており、この超硬工具等のスクラップからタングステンを回収する処理工程において、タングステンをバナジウムやクロムから分離する工程が必要な場合がある。例えば、超硬合金スクラップを酸化焙焼した後に、苛性ソーダでタングステンを浸出する工程でバナジウムやクロムの一部が溶出し、バナジウムやクロムを微量含有するタングステン酸ナトリウム溶液が得られる。
【0003】
タングステン酸ナトリウム溶液(Na2WO4−Na2CO3溶液)からバナジウムを除去する方法として、該溶液に塩化マグネシウム(MgCl2)のアンモニア溶液を添加してバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)あるいはバナジン酸マグネシウム(MgO・V2O5)などとして沈澱させ、これを固液分離する方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L.Luo et al.,Can.Metall. Quart., 2003, vol.42, pp411-419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載されている従来の上記処理方法によれば、バナジウムを沈澱化して分離できるが、6価クロムは除去できない。また、タングステン酸ナトリウム溶液をイオン交換樹脂に通液し、Na+をNH4+と交換してタングステン酸アンモニウム溶液にするときに、通液前のNa2WO4溶液にMgCl2が含まれていると、イオン交換樹脂の交換容量が低下して生産性に影響を及ばすと云う問題がある。
【0006】
本発明は、従来の処理方法の上記問題を解決したものであり、タングステン含有アルカリ溶液に含まれているクロムを簡単に効率よく除去する精製方法、好ましくは、クロムと共にバナジウムを除去する精製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す構成によって上記問題を解決したタングステン含有アルカリ溶液の精製方法が提供される。
〔1〕クロムおよび/またはバナジウムを含むタングステン含有アルカリ溶液に、二価鉄化合物を加えて生成した沈澱を濾別することによってクロムおよび/またはバナジウムを除去することを特徴とするタングステン含有アルカリ溶液の精製方法。
〔2〕二価鉄化合物として、硫酸第一鉄、酢酸第一鉄、または蟻酸第一鉄を用いる上記[1]に記載する精製方法。
〔3〕二価鉄化合物を加えた後に、タングステン含有アルカリ溶液のpHを8〜13に調整する上記[1]または上記[2]に記載する精製方法。
〔4〕タングステン含有アルカリ溶液がタングステン酸ナトリウム溶液であり、タングステン酸ナトリウム溶液をイオン交換樹脂に通液してタングステン酸アンモニウム溶液にするパラタングステン酸アンモニウムの製造工程に適用される上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する精製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の精製方法は、タングステン含有アルカリ溶液に含まれるクロムおよび/またはバナジウムを簡単に効率よく除去することができる。さらに、本発明の精製方法はバナジウムの他にクロムを除去することができ、何れも高い除去率を得ることができる。従って、超硬工具等のスクラップからタングステンを回収する処理工程において、スクラップ中のバナジウム濃度やクロム濃度の許容量を大幅に高めることができる。
【0009】
本発明の精製方法は、タングステン含有アルカリ溶液をイオン交換樹脂に通液する際に、イオン交換樹脂の交換容量の極端な低下を生じない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の精製方法は、クロムおよび/またはバナジウムを含むタングステン含有アルカリ溶液に、二価鉄化合物を加えて生成した沈澱を濾別することによってクロムおよび/またはバナジウムを除去することを特徴とするタングステン含有アルカリ溶液の精製方法である。
【0011】
〔タングステン含有アルカリ溶液〕
本発明の処理対象であるタングステン含有アルカリ溶液は、例えば、超硬合金スクラップを酸化焙焼した後に苛性ソーダによって浸出した溶液、タングステン鉱石の製錬処理工程から回収した溶液などであり、具体的には、タングステン酸ナトリウム溶液(Na2WO4−Na2CO3溶液、Na2WO4-NaOH溶液)などであり、微量のクロムやバナジウムを含む溶液である。
【0012】
タングステン含有アルカリ溶液に二価鉄化合物を加える。クロムやバナジウムを含むタングステン含有アルカリ溶液に二価鉄化合物を加えると、アルカリ性の液性下で、水酸化クロム(Cr(OH)3)、バナジン酸鉄(FeVO4)や水酸化鉄(Fe(OH)2)などの沈澱が生成する。
【0013】
二価鉄化合物として、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)、酢酸第一鉄(Fe (CH3COO)2・H2O)、蟻酸第一鉄(Fe(HCO2)2・H2O)などを用いるとよい。塩化第一鉄(FeCl2)は塩素イオンがイオン交換能を低下させる傾向があり、また硝酸第一鉄は硝酸イオンがイオン交換能を低下させる傾向があるので好ましくない。
【0014】
従来の処理方法で用いられている塩化マグネシウム(MgCl2)は、バナジウム含有沈澱を生じるが6価クロムは沈澱しないので好ましくない。一方、上記第一鉄化合物は6価クロムを還元し、アルカリ性下で水酸化クロム(Cr(OH)3)などの沈澱を生じる。
【0015】
タングステン含有アルカリ溶液は強アルカリ性であるので、硫酸などを加え、pH8〜13、好ましくはpH9〜10.5に調整するとよい。pH11〜12の範囲よりもpH9〜10.5の範囲において、クロムおよびバナジウムが良く沈澱し、これらの除去率が高い。
【0016】
本発明の精製方法は、タングステン酸ナトリウム溶液をイオン交換樹脂に通液してタングステン酸アンモニウム溶液にするパラタングステン酸アンモニウムの製造工程に適用することができる。例えば、超硬合金スクラップを酸化焙焼した後に苛性ソーダによって浸出したタングステン酸ナトリウム溶液に、上記二価鉄化合物を加え、pH8〜13、好ましくはpH9〜10.5に調整し、生成した沈澱を濾別することによって、クロムおよび/またはバナジウムを除去し、これらの濃度を大幅に低減したタングステン酸ナトリウム溶液を得ることができる。
【0017】
このように精製したタングステン酸ナトリウム溶液をイオン交換樹脂に通液してタングステン酸イオン(WO42-)を吸着させた後、アンモニアと塩化アンモニウムの混合液を溶離液として用い、この混合液をイオン交換樹脂に通液してタングステン酸イオンを溶離させ、タングステン酸アンモニウム溶液を得る。このタングステン酸アンモニウム溶液を加熱濃縮することによって、クロムおよび/またはバナジウムの含有量が数ppm以下のパラタングステン酸アンモニウムを得ることができる。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。これらの結果を表1に示した。
〔実施例1〕
硫酸第一鉄七水塩7gを50mlのイオン交換水に溶解して硫酸第一鉄溶液を調製した。タングステン酸ソーダの苛性ソーダ溶液(W濃度158g/L、V濃度520mg/L、Cr濃度240mg/L)500mlに、上記硫酸第一鉄溶液を添加した。添加後、硫酸にてpH9.8に調整し、4時間攪拌した。生成した澱物を濾別して濾液530mlを得た。反応時の液温は15℃である。この濾液を分析したところ、液中のCr濃度2mg/L、V濃度63mg/Lであった。
【0019】
〔実施例2〜5〕
実施例1と同様のタングステン酸ソーダの苛性ソーダ溶液を用い、硫酸第一鉄の添加量と硫酸添加後のpHと処理液温度を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様に処理した。この結果を表1に示す。
【0020】
〔実施例6〕
実施例1と同様のタングステン酸ソーダの苛性ソーダ溶液を用い、硫酸第一鉄に替えて酢酸第一鉄を用いた以外は実施例1と同様に処理し、pH9.8の濾液520mlを得た。この濾液中のCr濃度は4mg/L、V濃度は75mg/Lであった。
【0021】
〔比較例1〜4〕
硫酸第一鉄水溶液を塩化マグネシウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様に処理した。この結果を表1に示した。
【0022】
表1の実施例2に示すように、溶液のpHが12.2でのVとCrの除去率はそれぞれ77%、68%であるが、実施例4に示すように、pH約10でのVとCrの除去率はそれぞれ85%、90%であり、pH10での除去率が高い。一方、比較例1〜4に示すように、MgCl2を用いると、バナジウムは67〜87%除去できるものの、クロムは殆ど沈澱せず、クロムに対しては除去効果がない。
【0023】
【表1】

【0024】
〔実施例7〕
実施例1の処理液500ml(V,Crを除去した精製液)を苛性ソーダにてpH13に調整した後に、水を加えて希釈し、液量5Lとした。この希釈液を強塩基性樹脂(商品名:ダイヤイオンSA10A)400mlを充填したカラムにSV1で12時間通液した。通液後、イオン交換水をSV2で4時間通液した。その後、20g/Lのアンモニアと2M/Lの塩化アンモニウムの混合液をSV2で2時間通液し、タングステン42gを含む溶離液(タングステン酸アンモニウム溶液)1.6Lを得た。この溶離液を加熱濃縮してパラタングステン酸アンモニウム59.3gを得た。このパラタングステン酸アンモニウム中のV濃度およびCr濃度はいずれも5ppm以下であった。
【0025】
〔比較例5〕
比較例3の処理液500mlを苛性ソーダにてpH13に調整した後に、水を加えて希釈し、液量5Lとした。この希釈液を強塩基性樹脂(商品名:ダイヤイオンSA10A)400mlを充填したカラムにSV1で12時間通液した。通液後、イオン交換水をSV2で4時間通液した。その後、20g/Lのアンモニアと2M/Lの塩化アンモニウムの混合液をSV2で2時間通液し、タングステン42gを含む溶離液(タングステン酸アンモニウム溶液)1.6Lを得た。この溶離液を加熱濃縮してパラタングステン酸アンモニウム59.2gを得た。このパラタングステン酸アンモニウム中のV濃度は5ppm以下であったが、Cr濃度は150ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムおよび/またはバナジウムを含むタングステン含有アルカリ溶液に、二価鉄化合物を加えて生成した沈澱を濾別することによってクロムおよび/またはバナジウムを除去することを特徴とするタングステン含有アルカリ溶液の精製方法。
【請求項2】
二価鉄化合物として、硫酸第一鉄、酢酸第一鉄、または蟻酸第一鉄を用いる請求項1に記載する精製方法。
【請求項3】
二価鉄化合物を加えた後に、タングステン含有アルカリ溶液のpHを8〜13に調整する請求項1または請求項2に記載する精製方法。
【請求項4】
タングステン含有アルカリ溶液がタングステン酸ナトリウム溶液であり、タングステン酸ナトリウム溶液をイオン交換樹脂に通液してタングステン酸アンモニウム溶液にするパラタングステン酸アンモニウムの製造工程に適用される請求項1〜請求項3の何れかに記載する精製方法。

【公開番号】特開2012−211055(P2012−211055A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78222(P2011−78222)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】