説明

タングステン酸塩含有触媒の製造方法

【課題】本発明の課題は、硫化水素対メタノールの低いモル比において、公知の触媒に対して改善された活性および選択性により優れており、ひいては方法のより良好な経済性につながる触媒および該触媒の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、アルカノールと硫化水素とからアルキルメルカプタンを合成するためのタングステン酸アルカリ金属塩を含有する触媒、ならびにアルカリ金属対タングステンのモル比が<2:1である該触媒の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカノールと硫化水素とからアルキルメルカプタンを合成するためのタングステン酸アルカリ金属塩を含有する触媒、ならびに該触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属の概念には、この特許出願においては、元素の周期律表からの、タングステン酸塩中に結合されたアルカリ金属またはタングステン酸塩中に結合された少なくとも2種類のアルカリ金属からなる混合物であると理解する。この場合、セシウムは、アルカリ金属の群の別の元素と一緒になった場合にのみ現れる。
【0003】
特にメチルメルカプタンは、例えばメチオニンを合成するために、ならびにジメチルスルホキシドおよびジメチルスルホンを合成するために、工業的に重要な中間生成物である。メチルメルカプタンは今日では主としてメタノールと硫化水素とから、酸化アルミニウムからなる触媒を用いた反応により製造される。メチルメルカプタンの合成は通常、気相中、300〜500℃の温度および1〜25バールの圧力で行われる。
【0004】
反応混合物は形成されるメチルメルカプタン以外に、未反応の出発原料および副生成物、例えば硫化ジメチルおよびジメチルエーテル、ならびにこの反応の意味で、不活性ガス、例えばメタン、一酸化炭素、水素および窒素を含有している。この反応混合物から、形成されたメチルメルカプタンを分離する。
【0005】
方法の経済性にとっては、形成されたメチルメルカプタンを反応混合物から分離する際のコストをできる限り低く維持するために、メタノールと硫化水素がメチルメルカプタンへと触媒反応により反応する際に、できる限り高い選択率が要求される。ここで、特に反応ガス混合物を冷却してメチルメルカプタンを凝縮するためのエネルギーコストが、1つの大きなコスト要因である。
【0006】
活性および選択性を向上するために、担体としての酸化アルミニウムに通常はタングステン酸カリウムまたはタングステン酸セシウムを添加する。その際、タングステン酸塩は通常、触媒の全質量に対して25質量%までの量で使用される。活性および選択性の改善はまた、硫化水素対メタノールのモル比を高めることによっても得られる。通常、1〜10のモル比が適用される。
【0007】
しかし高いモル比は反応混合物中での硫化水素の高い過剰をも意味し、ひいては、大量のガス量を循環させることが必要であることを意味している。従って、このために必要とされるエネルギーコストを低減するために、メタノールに対する硫化水素の比率は1からわずかに逸脱するのみであるべきである。
【0008】
US特許第2,820,062号明細書は、有機チオールの製造方法に関するものであり、この場合、活性な酸化アルミニウムからなる触媒が使用され、該触媒は触媒の質量に対して1.5〜15質量%の量でタングステン酸カリウムが添加されている。この触媒を用いると、反応温度400℃およびモル比2で、良好な活性および選択性が達成される。このUS特許明細書は、タングステン酸カリウムを酸化アルミニウムへ導入するための種々の可能性を挙げている。例えば含浸法、共沈法および純粋な混合を適用することが可能である。触媒の本来の製造は、メチルメルカプタンの合成法の経済性にとってそれほど重要なものであるとは認められていない。
【0009】
EP0832687B1には、助触媒としてタングステン酸カリウムに代わり、タングステン酸セシウム(Cs2WO4)を使用する利点が記載されている。例えばタングステン酸セシウムを使用することにより、良好な選択率と同時に活性の向上を達成することができる。
【0010】
タングステン酸セシウムの濃度を40質量%まで高めることにより、メチルメルカプタンに対する選択率を92%まで向上することができ、その際に、活性は極端に低下することはない。
【0011】
一般的な見解によれば、アルカリ金属/タングステンの比が2:1である触媒を使用すると最も良い選択率が達成される(A.V.Mashkina等、React.Kinet.Catal.Lett.、第36巻、第1号、第159〜164頁(1988))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、硫化水素対メタノールの低いモル比において、公知の触媒に対して改善された活性および選択性により優れており、ひいては方法のより良好な経済性につながる触媒および該触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、結合されたアルカリ金属およびタングステンを、アルカリ金属対タングステンのモル比<2:1で、特に<2:1〜0.9〜1、有利には1.9:1〜1:1で、とりわけ1.6:1〜1:1で含有する触媒活性なタングステン酸アルカリ金属塩を含有する触媒を提供することにより解決される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
酸化物の組成は、式AxWOyにより記載することができ、この場合、Aは、アルカリ金属を表し、かつxは、<2〜0.9であり、yは、3.4〜<4である。
【0015】
タングステン酸塩の結合されたアルカリ金属割合は、アルカリ金属の群の1もしくは複数の元素からなっていてもよい。その際、セシウムは別のアルカリ金属元素と組み合わされた場合にのみ現れる。
【0016】
該触媒はタングステン酸塩を8〜45質量%、特に15〜36質量%、好ましくは>25〜36質量%の量で含有している。シェル型触媒の場合には、これらの割合はシェルの組成に対するものである。
【0017】
アルカリ金属とタングステンとからなる酸化物化合物を直接、担体本体上に含浸することができる(担体触媒)。
【0018】
押出成形体または圧縮成形体の形の触媒を製造する場合には、粉末状の担体を酸化物組成物で含浸するか、または該組成物と混合し、かつ得られた中間体を引き続き成形する(完全型触媒)。シェル型触媒を製造する場合には、粉末状の担体を触媒作用のある組成物により含浸し、かつ生じた混合物を次いで有利に不活性な担体コア上に、シェルの形で施与する。
【0019】
アルカリ金属/タングステンの比率は、有利には<1.9:1〜1:1である。これにより、アルカノールと硫化水素とをアルキルメルカプタンへと反応させるための本発明による触媒は、従来技術によるタングステン酸セシウム(Cs2WO4)またはタングステン酸カリウム(K2WO4)により含浸された触媒と比較して、化学量論的に過剰の割合のタングステンを含有する。
【0020】
有利に使用される酸化アルミニウムに対するタングステン酸塩中でのこの高い割合は、従来技術においてもっぱら使用されていた化学量論比のタングステン酸アルカリ金属塩と比較して、改善された選択性と同時に改善された活性を触媒に付与することが判明した。タングステン酸セシウム(Cs2WO4)の濃度の向上は単に、低い活性と同時に選択率の向上をもたらすに過ぎない一方で、アルカリ金属含有率に対してタングステンの含有率を高めた場合には、意想外にも、向上された活性と同時に、選択率がさらに向上することが判明した。本発明によれば助触媒による極めて高い負荷の場合に、優れた選択性を達成することができ、その際、触媒の活性は、従来技術から公知であるように低下することはない。さらに、アルカリ金属−タングステンの比により、およびアルカリ金属の選択により、触媒の活性および選択性を適切に調節することができることが判明した。アルカリ金属の混合物を使用する場合、さらに、比較的高価な金属、例えばセシウムまたはルビジウムを少なくとも部分的により安価な、たとえばカリウムまたはナトリウムにより置き換えることができ、その際、触媒の活性または選択率は影響を受けない。
【0021】
触媒は、その表面が触媒作用のある物質により含浸される担体触媒の形で、または有利に不活性のコアが、触媒活性物質と担体材料とからなる混合物により被覆されているシェル型触媒の形で使用することができる。さらに、触媒活性物質を粉末状の担体材料と混合し、次いで成形されるか、または触媒活性物質により含浸される押出成形体または圧縮成形体を使用することができる。担体材料として公知の酸化物無機化合物、たとえばSiO2、TiO2、ZrO2および有利にはいわゆる活性な酸化アルミニウムを使用する。該材料は、約10〜400m2/Gの高い比表面積を有し、かつ主として酸化アルミニウムの結晶学的な相転移の系列の酸化物からなる(たとえばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、1985年、第A1巻、第561〜562頁)。この転移酸化物には、γ−、δ−、η−、κ−、χ−、θ−酸化アルミニウムが属する。これら全ての結晶学的な相は、1100℃を超える温度に酸化アルミニウムを加熱した時に、熱的に安定したα−酸化アルミニウムへと転移する。活性な酸化アルミニウムは触媒用途用に種々の品質のものが種々の業者から市販されている。担体触媒を製造するために特に適切なものは、1〜5mmの粒径、180〜400m2/gの比表面積、0.3〜1.2ml/gの全細孔容積ならびに300〜900g/lのかさ密度を有する、顆粒状もしくは押出成形された酸化アルミニウムからなる成形体である。本発明の目的にとって、200m2/gを超える比表面積を有する酸化アルミニウムが有利に使用される。というのも、完成した触媒の触媒活性は、酸化アルミニウムの表面積の増大に伴って容易に向上するからである。該材料は粉末形で有利にはシェル型触媒、押出成形体または圧縮成形体を製造するために使用される。
【0022】
助触媒を施与するための水性含浸溶液は、容易な方法で水中に可溶性のアルカリ金属化合物およびタングステン化合物から、特にタングステン酸(H2WO4)およびアルカリ金属水酸化物から製造することができる。このためにたとえばタングステン酸を水中に懸濁させ、かつ塩基を添加して加熱しながら溶解させる。アルカリ金属水酸化物または別のアルカリ金属塩を、同様に水中に溶解させ、かつタングステン酸の溶液と合する(助触媒溶液)。あるいはまた有利には、そのアニオンを熱処理により残留物がなくなるまで排除することができるアルカリ金属塩、たとえば硝酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩または炭酸塩を使用することができる。該溶液をpH8〜14で安定化するために、無機あるいはまた有機の塩基が適切である。有利には、含浸により得られた触媒の最終的な熱処理により残留物がなくなるまで排除することができるような塩基を使用する。これらの塩基には有利には水酸化アンモニウムおよび有機塩基、特にアミンが属する。従来技術に対して、アルカリ金属とWとのモル比は、水性の含浸溶液を添加する場合に、2:1のアルカリ金属対Wの比を有するタングステン酸セシウム(Cs2WO4)またはタングステン酸カリウム(K2WO4)と異なって、高い割合のタングステン、つまりアルカリ金属対Wの比が、2:1より小さい、特に<1.9:1〜0.9〜1であるように選択する。このことにより、公知の触媒と比較して、本発明による触媒の活性および選択性は、特に反応ガス中での硫化水素およびメタノールの低い比率において、明らかに向上する。
【0023】
タングステン酸塩と、混合されるアルカリ金属成分との混合物を使用する場合に、0.01:1.0および1.0:1.0の比での周期律表の2種類の異なったアルカリ金属が有利である。この場合、安価なアルカリ金属の割合を、触媒の活性および選択性の低下が生じないように有利に増加させ、かつ同時に比較的高価なアルカリ金属をこれに対して低減させる。
【0024】
助触媒溶液を施与するために、種々の含浸技術、たとえば浸漬含浸、噴霧含浸、真空含浸および細孔容積の含浸を使用することができ、その際、含浸は複数回行うこともできる。成形体の場合、選択される含浸法により、助触媒の所望の負荷量を良好な均一性で全ての横断面にわたって施与することが可能でなくてはならない。
【0025】
有利には助触媒溶液を噴霧含浸または真空含浸により、1工程もしくは2工程で成形体上に施与する。噴霧含浸の場合、水性の含浸溶液を担体上に噴霧する。真空含浸の場合、成形体で充填された容器中で、真空ポンプにより減圧を発生させる。水性の含浸溶液のためのチューブ接続部を開放することにより、成形体の全ての堆積物が該溶液により覆われるまで、該溶液は容器の中へ吸引される。0.2〜2時間の含浸時間の後に、該材料により吸収されなかった溶液を放出するか、または流し出す。
【0026】
室温で1〜10時間の時間にわたって前乾燥することにより、当初の濃度勾配は成形体の横断面にわたってほぼ均一となる。従って触媒粒子の横断面にわたる含浸の均一性は改善される。有利にはこうして得られた触媒前駆体を1〜10時間、100〜200℃、有利には100〜140℃で乾燥させて残留水分を除去する。次いで1〜20時間、有利には1〜5時間の時間にわたり、300〜600℃、有利には420〜480℃でか焼する。このことにより助触媒は酸化アルミニウム上に固定され、かつ含浸溶液の塩基は分解されて排除される。場合により触媒前駆体の担体の堆積物に、前乾燥、乾燥およびか焼の際に、残留水分および分解ガスの除去を改善するガス流を通過させることもできる。
【0027】
成形体の含浸は複数の工程で、特に2工程で行うこともできる。
【0028】
有利な1実施態様ではこの場合、第一工程で使用される溶液が、アルカリ金属化合物およびタングステン化合物の予定される全量の三分の一〜三分の二を含有している。
【0029】
複数の工程で、あるいは少なくとも2工程で実施する場合、第一工程で得られる前駆体を場合によってはか焼しない。
【0030】
その他の点では第二工程では一工程法に関して記載した方法と同様の含浸、乾燥およびか焼のプログラムで行う。
【0031】
この複数工程の含浸は、高い負荷量が所望される、および/または助触媒混合物の溶解度が限定されていることにより1工程で負荷が不可能である場合に特に有意義である。
【0032】
担体本体を含浸工程(特許請求の範囲に記載の工程a)の間、複数回、含浸溶液で噴霧するか、またはこれらの処理工程の間で、そのつど残留水分の部分を120℃までの温度で除去し、次いで工程b)へ移る可能性も存在する。
【0033】
シェル型触媒を製造する場合、シェルとして施与される粉末を、被覆前または被覆後にか焼することができる。このタイプの触媒はたとえばEP−B−0068193の記載に基づいて製造することができる。押出成形体または圧縮成形体を製造する場合にも、成形前および/または成形後にか焼を行うことができる。
【実施例】
【0034】
例1(比較例)
酸化アルミニウムI 150gを、真空含浸法によってタングステン酸セシウム(Cs2.0WO4)21.0質量%で含浸した。このために、具体的には以下のとおりに実施した:
含浸溶液を製造するために、タングステン酸55.7gを水44.5g中に懸濁させ、かつ25%のアンモニア溶液111.4gを添加し、かつ50℃に加熱して溶解させた。Cs(OH)・H2O 74.6gを水37.3g中に溶解し、かつ第一の溶液と混合した。該溶液を引き続き、蓋をしたガラスビーカー中で48時間攪拌した。引き続き該溶液を水25gにより234mlの体積になるまで満たした。
【0035】
酸化アルミニウムをガラス容器中に装入し、該容器を150ミリバールに排気した。コックを開放することにより、含浸溶液は、成形体の全ての堆積物が該溶液で覆われるまで、排気されたガラス容器中に吸引された。15分の待機時間およびガラス容器の換気の後で、酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をガラスビーカーに流して戻した。この場合、酸化アルミニウムにより含浸溶液79mlが吸収された。
【0036】
残留水分を除去するために、顆粒を室温で空気流中で1時間および引き続き120℃で3時間、乾燥させた。その後、該顆粒を455℃で3時間か焼した。
【0037】
例2(比較例2)
タングステン酸セシウム(Cs2.0WO4)による酸化アルミニウムの負荷率26.3%で、比較例1を繰り返した。
【0038】
例3(比較例)
Cs(OH)・H2Oの代わりにKOHを使用してタングステン酸カリウム(K2.0WO4)による酸化アルミニウムの負荷率19.6%で、比較例1を繰り返した。
【0039】
例4
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、真空含浸法により2工程の含浸で合計26.7質量%の助触媒(K1.6WOy)で含浸した。具体的には以下のとおりに実施した:
タングステン酸64.5gを水50.7g中に懸濁させ、かつ25%のアンモニア溶液126.9gを添加し、かつ50℃に加熱して溶解させた。KOH 22.8gを水11.5g中に溶解し、かつ第一の溶液と混合した。該溶液を引き続き、蓋をしたガラスビーカー中で48時間攪拌した。引き続き該溶液を水39gにより234mlの体積になるまで満たした。酸化アルミニウムをガラス容器中に装入し、該容器を150ミリバールに排気した。コックを開放することにより、含浸溶液は、成形体の全ての堆積物が該溶液で覆われるまで吸引された。15分の待機時間およびガラス容器の換気の後で、酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をガラスビーカーに流して戻した。この場合、酸化アルミニウムにより含浸溶液76mlが吸収された。引き続き、該顆粒を室温で1時間および120℃で3時間、乾燥させ、ならびに455℃で3時間か焼した。
【0040】
第二の含浸を実施するために、第一の工程と同じ含浸溶液を添加し、かつ同様に真空含浸法により、第一工程からの、すでに負荷された触媒上に施与した。次いで再び室温で1時間乾燥させ、次いで120℃で3時間乾燥させた。最後に触媒粒子を空気中、455℃で4時間か焼した。
【0041】
例5
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、真空含浸法により2工程の含浸で合計30.1質量%の助触媒(Rb0.9WOy)で含浸した。具体的には以下のとおりに実施した:
タングステン酸59.0gを水48.3g中に懸濁させ、かつ25%のアンモニア溶液110.7gを添加し、かつ50℃に加熱して溶解させた。RbOH 41.5gを水17.5g中に溶解し、かつ第一の溶液と混合した。該溶液を引き続き、蓋をしたガラスビーカー中で48時間攪拌した。引き続き該溶液を水25gにより234mlの体積になるまで満たした。酸化アルミニウムをガラス容器中に装入し、該容器を150ミリバールに排気した。コックを開放することにより、含浸溶液は、成形体の全ての堆積物が該溶液で覆われるまで吸引された。15分の待機時間およびガラス容器の換気の後で、酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をガラスビーカーに流して戻した。この場合、酸化アルミニウムにより含浸溶液75mlが吸収された。引き続き、該顆粒を室温で1時間および120℃で3時間、乾燥させ、ならびに455℃で3時間か焼した。
【0042】
第二の含浸を実施するために、第一の工程と同じ含浸溶液を添加し、かつ同様に真空含浸法により、第一工程からの、すでに負荷された触媒上に施与した。次いで再び室温で1時間乾燥させ、次いで120℃で3時間乾燥させた。最後に触媒粒子を空気中、455℃で4時間か焼した。
【0043】
例6
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、真空含浸法により2工程の含浸で合計29.4質量%の助触媒(K0.7Cs0.7WOy)で含浸した。具体的には以下のとおりに実施した:
タングステン酸61.3gを水49.1g中に懸濁させ、かつ25%のアンモニア溶液122.7gを添加し、かつ50℃に加熱して溶解させた。KOH 9.8gおよびCs(OH)・H2O 29.0gを水14.5g中に溶解し、かつ第一の溶液と混合した。該溶液を引き続き、蓋をしたガラスビーカー中で48時間攪拌した。引き続き該溶液を水47gにより234mlの体積になるまで満たした。酸化アルミニウムをガラス容器中に装入し、該容器を150ミリバールに排気した。コックを開放することにより、含浸溶液は、成形体の全ての堆積物が該溶液で覆われるまで吸引された。15分の待機時間およびガラス容器の換気の後で、酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をガラスビーカーに流して戻した。この場合、酸化アルミニウムにより含浸溶液75mlが吸収された。引き続き、該顆粒を室温で1時間および120℃で3時間、乾燥させ、ならびに455℃で3時間か焼した。
【0044】
第二の含浸を実施するために、第一の工程と同じ含浸溶液を添加し、かつ同様に真空含浸法により、第一工程からの、すでに負荷された触媒上に施与した。次いで再び室温で1時間乾燥させ、次いで120℃で3時間乾燥させた。最後に触媒粒子を空気中、455℃で4時間か焼した。
【0045】
例7
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、真空含浸法により2工程の含浸で合計31.0質量%の助触媒(Na0.3Cs1.1WOy)で含浸した。具体的には以下のとおりに実施した:
タングステン酸61.1gを水48.9g中に懸濁させ、かつ25%のアンモニア溶液122.1gを添加し、かつ50℃に加熱して溶解させた。NaOH 3.2gおよびCs(OH)・H2O 44.6gを水22.3g中に溶解し、かつ第一の溶液と混合した。該溶液を引き続き、蓋をしたガラスビーカー中で48時間攪拌した。引き続き該溶液を水40gにより234mlの体積になるまで満たした。酸化アルミニウムをガラス容器中に装入し、該容器を150ミリバールに排気した。コックを開放することにより、含浸溶液は、成形体の全ての堆積物が該溶液で覆われるまで吸引された。15分の待機時間およびガラス容器の換気の後で、酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をガラスビーカーに流して戻した。この場合、酸化アルミニウムにより含浸溶液74mlが吸収された。引き続き、該顆粒を室温で1時間および120℃で3時間、乾燥させ、ならびに455℃で3時間か焼した。
【0046】
第二の含浸を実施するために、第一の工程と同じ含浸溶液を添加し、かつ同様に真空含浸法により、第一工程からの、すでに負荷された触媒上に施与した。次いで再び室温で1時間乾燥させ、次いで120℃で3時間乾燥させた。最後に触媒粒子を空気中、455℃で4時間か焼した。
【0047】
例8(適用例)
硫化水素とメタノールとからメチルメルカプタンを合成する際の触媒の性能データに関して触媒の試験を行った。
【0048】
合成は、内径18mmおよび長さ500mmの特殊鋼管型反応器中で実施した。そのつど76mlの触媒堆積物を、ガラス球体からなる内部堆積物により反応管の両端に固定した。反応管を二重壁を介して熱媒油により約320℃の反応温度に加熱した。
【0049】
試験条件は以下に記載したとおりである:
GHSV:1300h-1(標準条件に対する)
LHSV:0.84h-1(液状のMeOHに対する)
反応温度:320℃
2S対MeOHの質量比:1.9
圧力:9バール。
【0050】
生成物であるメチルメルカプタン、硫化ジメチルおよびジメチルエーテルならびに未反応の出発原料であるメタノールおよび硫化水素を含有している反応混合物を、オンラインガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0051】
触媒中のアルカリ金属割合に対する比率においてタングステン割合を高めると、改善された選択率と同時に、明らかな活性の向上が認識される。このことは、従来技術と比較して、10%までの収率の向上につながる。選択率はアルカリ金属−タングステン酸塩−比を96.5%までで調整することにより向上することができ、その際、メタノール反応率が上昇する。このことは、大工業的なメチルメルカプタン合成の場合に、未反応のメタノールおよび副生成物から反応生成物を分離する際の著しいコストの節約につながる。
【0052】
さらに、例4〜7の結果は、触媒の活性および選択性を適切に調節するため、または触媒を製造する際の原料コストを節約するために、アルカリ金属の少なくとも一部を相互に交換することができることを示している。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の、化学的に結合したアルカリ金属とタングステンとを、アルカリ金属対タングステンのモル比<2:1で含有しており、その際、セシウムは別のアルカリ金属元素と組み合わされた場合にのみ存在する、触媒活性のタングステン酸塩を含有する触媒。
【請求項2】
少なくとも2種類のアルカリ金属と、タングステンとを、アルカリ金属の合計対タングステンのモル比<2:1で含有する、請求項1記載の触媒活性のタングステン酸塩。
【請求項3】
担体コアが、触媒活性なタングステン酸塩により、または該タングステン酸塩により含浸された担体材料により被覆されているシェル型触媒からなる、請求項1または2記載の触媒。
【請求項4】
触媒活性なタングステン酸塩により含浸された担体材料が、完全型触媒へと加工されている、請求項1または2記載の触媒。
【請求項5】
担体本体の表面が、アルカリ金属対タングステンのモル比<2:1を有するアルカリ金属とタングステンとからなる触媒活性な酸化物組成物により含浸されている、請求項1または2記載の触媒。
【請求項6】
タングステン酸塩中のアルカリ金属対タングステンのモル比が、<2:1〜0.9:1であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項7】
前記の比が、1.9:1〜1:1であることを特徴とする、請求項6記載の触媒。
【請求項8】
酸化物組成が、一般式
xWOy
[式中、
Aは、少なくとも1種のアルカリ金属(ただしセシウムは別のアルカリ金属と組み合わされた場合のみ存在する)であり、
xは、0.9〜2未満であり、
yは、3.4〜4未満である]に相応することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項9】
タングステン酸塩を8〜45質量%、有利には20〜36質量%の量で含有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項10】
担体本体または担体材料が、酸化物の無機化合物からなることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項11】
担体本体または担体材料が、酸化アルミニウム(Al23)からなることを特徴とする、請求項10記載の触媒。
【請求項12】
担体材料が、180〜400m2/gの比表面積(BET)および0.3〜1.2ml/gの全細孔容積を有することを特徴とする、請求項10記載の触媒。
【請求項13】
アルカリ金属が、カリウムであることを特徴とする、請求項1および3から12までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項14】
アルカリ金属が、ルビジウムであることを特徴とする、請求項1および3から12までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項15】
アルカリ金属が、カリウムおよびセシウムであることを特徴とする、請求項2から12までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項16】
アルカリ金属が、ナトリウムおよびセシウムであることを特徴とする、請求項2から12までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項17】
アルカリ金属が、ルビジウムおよびセシウムであることを特徴とする、請求項2から12までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項18】
アルカリ金属が、ナトリウムおよびカリウムであることを特徴とする、請求項2から9までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項19】
アルカリ金属が、ルビジウムおよびカリウムであることを特徴とする、請求項2から12までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項20】
以下の工程:
a)可溶性のアルカリ金属化合物およびタングステン化合物を所望のアルカリ金属/タングステンのモル比で含有する水溶液により、担体本体または担体材料を含浸する工程、
b)得られた、含浸された成形体または微粒子状の担体材料(触媒前駆体)を室温で前乾燥させる工程、
c)残留水分を除去するために場合により100〜200℃で乾燥する工程、
d)300〜600℃の温度で2〜10時間の時間にわたり最終的にか焼する工程および
e)一般組成AxWOy(式中、A、xおよびyは、上記の意味を有する)の助触媒8〜45質量%、有利には15〜36質量%の含有率を有する担体触媒または含浸された微粒子状の担体材料を得る工程、この場合には引き続き
f)微粒子状の含浸された担体材料を、公知の助剤を添加して懸濁させ、かつ不活性の担体コア上に施与するか、または押出および圧縮する工程
で実施される、タングステン酸アルカリ金属塩を含有する触媒の製造方法。
【請求項21】
工程a)〜c)および場合によりd)を少なくとも1回繰り返すことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
含浸を複数回行う場合に、最初に使用される含浸溶液が、アルカリ金属およびタングステンの予定されている全量の三分の一〜三分の二を含有することを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項23】
担体本体または担体材料を含浸溶液で複数回噴霧し、かつこれらの処理工程の間に、120℃までの温度で残留水分の部分を除去し、次いで処理工程b)へ移ることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項24】
コア上に含浸される担体材料を施与した後の触媒を、押出または圧縮の後で熱処理することを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項25】
請求項1から19までのいずれか1項記載の触媒の存在下で、アルカノールと硫化水素との反応によりアルキルメルカプタンを製造する方法。
【請求項26】
メチルアルコールと硫化水素との反応によりメチルメルカプタンを製造する、請求項25記載の方法。

【公開番号】特開2012−614(P2012−614A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203568(P2011−203568)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【分割の表示】特願2007−524203(P2007−524203)の分割
【原出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】