説明

タングステン電極およびそれを用いた放電ランプ

【課題】動作温度の上昇を招く酸化トリウムを添加することなく、長寿命で加工性に優れるタングステン電極とそれを用いた放電ランプを提供する。
【解決手段】タングステン電極1は、ホウ化ランタンとタングステンとから構成される焼結体を具備する。焼結体の平均結晶粒径は5〜40μmの範囲とされている。タングステン電極1を構成するタングステン焼結体において、ホウ化ランタンの含有量は0.4〜4質量%の範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタングステン電極およびそれを用いた放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプの電極には放電始動電圧が低いという理由から、酸化トリウムからなるエミッタ材を1〜2質量%添加したタングステン電極が用いられている。しかし、酸化トリウムを添加した電極は動作温度が高いため、タングステンの蒸発を招いて、電極の先端が磨耗して変形するという問題や、蒸発したタングステンが石英バルブに付着し、輝度が低下するという問題が発生する。酸化トリウムは放射性物質であるため、環境の点からも代替材料への置き換えが望まれている。
【0003】
このような点に対して、ランプメーカーでは酸化トリウム低減タングステン、高純度タングステン、ドープタングステンを用いた代替化が進められている。これら電極の代替化のほとんどは、ランプ点灯中にハロゲンサイクルにより電極消耗を防ぎ、電極間距離を維持できるものに限られる。このため、超高圧水銀ランプ等のハロゲンサイクルを適用できない品種は、酸化トリウムに代わるエミッタを用いる方法で代替化が検討されている。
【0004】
例えば、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca等)またはその酸化物とタングステン粉末との焼結体を、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ等の高融点金属基体と組み合わせた電極が挙げられる。この電極は仕事関数が酸化トリウムを添加したタングステン電極よりも小さいので、電極の動作温度が下がり、電極先端の溶融が抑制されてライフ中に発生する輝点の移動が防止できる。
【0005】
特許文献1には、多孔質の高融点金属基体に易電子放出物質を含浸させた陰極を持つ放電管が記載されている。しかし、バリウムをはじめとするアルカリ土類金属エミッタは電子放射性に優れるものの、エミッタ融点が酸化トリウムに比べて半分程度と低いため、動作温度が2500℃以上となる高輝度ランプには使用できない。このため、高輝度ランプでは、酸化ランタンとその他の酸化物の二原系酸化物を代替材として使用することで改善が検討されている。この際の問題としては、融点が2300℃程度の酸化ランタンが電極内で液化濃縮を起こし、エミッタの供給を阻害することが挙げられる。これにより点灯中に放電部へのエミッタの供給が滞り、輝点のちらつきが発生することが知られている。
【0006】
特許文献2には、ホウ化ランタンを1〜2質量%含有したタングステン電極が記載されている。エミッタとしてホウ化ランタンを使用することによって、放電ランプ用電極として酸化トリウムを使ったタングステンと同等以上の特性を得ている。しかしながら、ホウ化ランタンを含有したタングステン電極は寿命という点で信頼性が低かった。この原因を追及したところ、タングステンの平均粒径が小さいことが原因であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−218755号公報
【特許文献2】特開平09−076092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酸化トリウムを添加したタングステン電極は動作温度が高いため、タングステンの蒸発を招き、電極の先端が磨耗して変形が発生したり、また蒸発したタングステンが石英バルブに付着して輝度が低下するというような問題を招いていた。酸化トリウムは放射性物質であるため、環境規制の点から近年管理が厳しくなっている。また、ホウ化ランタンを添加したタングステン電極は寿命が不十分であるという問題を有している。
【0009】
本発明の目的は、酸化トリウムレスで、長寿命のタングステン電極およびそれを用いた放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様に係るタングステン電極は、ホウ化ランタンとタングステンとから構成される焼結体を具備し、前記焼結体の平均結晶粒径が5〜40μmの範囲であることを特徴としている。
【0011】
本発明の態様に係る放電ランプは、本発明の態様に係るタングステン電極を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様に係るタングステン電極は、酸化トリウムを使用していないので環境にやさしく、その上で長寿命化と加工性の向上をなし得ている。そのため、それを使用した放電ランプの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態によるタングステン電極の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態による放電ランプの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例による放電ランプの点灯時間と照度維持率との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例による放電ランプの点灯時間と電圧上昇率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の実施形態によるタングステン電極は、ホウ化ランタンを含有するタングステンからなる焼結体で構成され、かつ焼結体の平均結晶粒径が5〜40μmの範囲とされている。ホウ化ランタンは、タングステンに添加する前はLaB6であることが好ましいが、焼結体中の存在形態はLaB6に限らず、LaB2やLaB3等の様々なホウ化ランタンであってもよい。
【0015】
タングステン電極(焼結体)の平均結晶粒径が5μm未満では、ランプ電極として使用した際に放電の動作温度で再結晶が著しく進み、粗大な単結晶を形成する。エミッタは主に結晶粒界を拡散して放電部へ供給されるため、電極先端部に粗大な単結晶が形成された場合、エミッタの供給が滞り、輝点のちらつきが発生して好ましくない。平均結晶粒径が40μmを超えると加工性が低下し、電極への加工が難しくなるために好ましくない。
【0016】
平均結晶粒径は線インターセプト法により求めるものとする。具体的には、タングステン電極の任意の断面において単位面積200μm×200μmの拡大写真を撮り、それに縦線とそれに直交する横線を引き、その直線上に存在する結晶粒子の幅と個数を求め、(粒子の幅の合計/粒子の個数)により平均粒径を求める。この作業を1つの単位面積当たり縦線3本、横線3本について行う。同様の作業を他の2つの単位面積についても行い、その平均値を平均結晶粒径とする。これはタングステンの結晶形状が細長く、アスペクト比が2以上になっているためである。
【0017】
ホウ化ランタンの含有量は0.4〜4質量%の範囲であることが好ましい。ホウ化ランタンの含有量が0.4質量%未満の場合にはランプ特性が悪く、4質量%を超えると加工性が悪くなる。
【0018】
また、ホウ素とランタンとの存在比率は質量比で1:1.5〜1:2.2の範囲となることが好ましい。焼結前はLaB6が安定であるため原料粉として用いるが、焼結により様々な価数のホウ化ランタンとなる。このとき、ホウ素とランタンとの存在比率が質量比で1:1.5〜1:2.2であるとホウ化ランタンがエミッタ材として有効に機能する。
【0019】
ホウ素とランタンの存在比率が規定値を外れ、ホウ素が多い場合にはタングステンと複合化し、加工性が悪くなるために好ましくない。また、ランタンが多い場合、電極として使用した際にランプ管壁が白濁化し、照度が低下するために好ましくない。ホウ素とランタンの含有量の測定は試料粉砕後にICP−AES法で行うものとする。
【0020】
図1に本発明の実施形態によるタングステン電極の一構成例を示す。図中、1はタングステン電極、2は本体部、3は先端部である。また、図2に本発明の実施形態による放電ランプの一構成例を示す。図中、1(1A、1B)はタングステン電極、4は放電ランプ、5はガラス管である。
【0021】
タングステン電極1は、通常先端部3が30〜70°の角度に加工されている。先端部3を鋭角にした電極同士(1A、1B)を向い合せに配置して放電現象を発生させることによって、放電ランプ4として発光させことができる。このため、タングステン電極1は先端部3を所定の角度に加工しなければならない。この実施形態のタングステン電極1は加工性にも優れているため、このような加工を行い易い。
【0022】
また、放電ランプを長時間点灯していると電極の先端部が丸くなり、効率的な放電ができなくなる。これが放電ランプの寿命を低下させる原因となる。特に、電極間の距離が2mm以下、さらには1.5mm以下と近い放電ランプ1においては、先端部が丸くなり易い。このような点に対して、タングステン電極1は平均結晶粒径等を制御することによって、放電特性と長寿命化とを両立させることができる。
【0023】
次に、この実施形態のタングステン電極の製造方法について説明する。タングステン電極の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0024】
まず、電極の形成材料となる原料粉末を準備する。これは平均粒径1〜5μmのタングステン粉末にエミッタ粉末を所定の比率で配合し、これをボールミルで混合したものである。エミッタ粉末としてはホウ化ランタン(LaB6)を用いることが好ましい。次に、混合した粉末を所定量用いて、金型へ充填して油圧プレスにて成形を行う。タングステン成形体は持ち運びの際に破損しないように、水素炉等を用いて低温で予備焼結を行い、ある程度強度を高めておくことが好ましい。予備焼結工程ではタングステン焼結体の密度は50〜70%の範囲内であることが好ましい。
【0025】
本焼結工程には、焼結中にエミッタが焼結体外へ飛散するのを極力防止するために、短時間で焼結が可能な通電焼結法を用いることが好ましい。また、通電焼結により2500〜2800℃程度に加熱することがよい。これによって、ホウ化ランタンを含有するタングステン焼結体インゴットを得ることができる。また、タングステン焼結体インゴットは、後工程として圧延や転打加工を行う場合には焼結体密度を91〜95%の範囲としておくことが好ましい。
【0026】
焼結体密度が91%未満と低い場合、焼結体内の空孔を基点として破損する可能性がある。また、焼結体密度が95%を超えて高い場合、焼結中にランタンが狙い値を超えて焼結体外へ飛散している可能性が高い。焼結体密度が高い場合、ホウ素とランタンとが所定の質量比であるかを分析する必要がある。焼結体密度は(アルキメデス法による実測値/理論密度)×100(%)により求めるものとする。
【0027】
この後、焼結体を圧延や転打加工等の熱間加工を行って所定の線径まで加工する。加工の途中または加工後に、タングステンの平均結晶粒径が所定の大きさとなるように、焼き鈍し処理を行うことが好ましい。線径サイズは任意であるが、直径2〜5mmの範囲が好ましい。また、先端部を30〜70°の範囲の角度となるように加工する。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0029】
(試料1〜27)
平均粒径が3μmのタングステン粉末に、エミッタ(ホウ化ランタン)含有量が0.4〜4質量%の範囲となるようにエミッタ剤粉末を添加し、ボールミルで混合した。次いで、これらの原料粉末を用いて、金型と油圧プレスで断面積225mm2×長さ700mmの成形体を作製した。持ち運び作業に必要な強度を得るために、水素炉を用いて焼結体密度が理論密度の58〜65%程度となるように焼結を行った。
【0030】
次に、水素雰囲気にて通電焼結を行い、焼結体密度が理論密度の93〜95%の範囲となるように焼結した。通電焼結は昇温時間および冷却時間を含めて約1時間で行い、焼結温度は2500〜2800℃とした。この後、各焼結体に圧延、転打、焼き鈍し処理を施し、外径3mmの線材まで加工した。さらに、先端部の角度が50〜60°の範囲の電極形状に加工した。
【0031】
このようにして得たタングステン電極の放電特性を評価するために、250Wの超高圧水銀ランプに1対のタングステン電極を組み込んで各ランプ特性試験を行った。点灯試験は点灯時の電力を250Wに調整し、初期特性は照度、電圧の値を評価した。寿命評価では、電圧上昇率と照度維持率の変化を1000時間の連続点灯試験により調査した。
【0032】
また、加工性は先端部を50〜60°の角度に加工するときに、トリア(2質量%)含有タングステン電極と同等以上の加工性を示したものは「○」、加工性が悪かったものは「×」として評価した。具体的には加工時間および歩留りで判断した。その結果を表1に示す。なお、表1中「規定内」との表記は、タングステンの平均結晶粒径5〜40μmの範囲、ホウ化ランタン含有量が0.4〜4質量%の範囲、ホウ素とランタンの存在比率が質量比で1:1.5〜1:2.2の範囲となっているものである。
【0033】
【表1】

【0034】
表1において、試料1〜18が比較例、試料19〜27が実施例である。実施例に係るタングステン電極を用いた放電ランプは、いずれも十分な照度を有していた。
【0035】
また、試料23とその比較のために酸化トリウム(2質量%)含有タングステン電極(トリエーテッドタングステン電極)に関するランプ初期特性を表2に示す。初期値の測定は同様の放電ランプを5個作製し、その平均値により求めた。また、図3および図4に1000時間経過による照度維持率と電圧上昇率のグラフを示す。
【0036】
【表2】

【0037】
初期特性については大きな差は見られないが、寿命評価ではトリエーテッドタングステン電極に比べ、ホウ化ランタンを添加したタングステン電極の電圧上昇率が低くなっていることが分かる。また、ガラス壁の黒化はなく、良好な結果となった。さらに、電極形状にも大きな消耗は見られず、エミッタもトリエーテッドタングステン電極に比べ残留している。以上のように、本発明の実施例に係るタングステン電極を用いた放電ランプによれば、長寿命化が図れることが分かる。
【符号の説明】
【0038】
1…タングステン電極、2…本体部、3…先端部、4…放電ランプ、5…ガラス管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ化ランタンとタングステンとから構成される焼結体を具備し、前記焼結体の平均結晶粒径が5〜40μmの範囲であることを特徴とするタングステン電極。
【請求項2】
前記焼結体における前記ホウ化ランタンの含有量が0.4〜4質量%の範囲であることを特徴とする請求項1記載のタングステン電極。
【請求項3】
前記焼結体におけるホウ素とランタンとの存在比率が質量比で1:1.5〜1:2.2の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のタングステン電極。
【請求項4】
先端部が30〜70°の範囲の角度に加工されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のタングステン電極。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載のタングステン電極を具備することを特徴とする放電ランプ。
【請求項6】
タングステン電極間の距離が2mm以下であることを特徴とする請求項5記載の放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−103240(P2011−103240A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258080(P2009−258080)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】