説明

タンデム型イオントラップ飛行時間質量分析器

タンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器でにおいて、前記イオントラップが、前記飛行時間質量分析器の飛行経路と直交する直線の中心軸を有する。このイオントラップは、少なくとも一方がイオンを前記飛行時間質量分析器へ排出するためのスリットを有する1組の電極(401,403,402,404)と、離散DCレベルを提供するための1組のDC電圧源(+V、−V、V1、V2)、及び、前記DC電圧源を前記電極のうち少なくとも2つと接続及び断絶するための複数の高速電子スイッチ(409)と、前記イオントラップの内部を充填する中性ガスと、イオントラップ、イオンによる操作、冷却、及び前記イオントラップから前記飛行時間質量分析器へ全てのイオンが排出される状態を含むことを実施するための切り替え手順を提供するためのデジタルコントローラと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントラップ及び飛行時間質量分析器に関し、特に、イオンをトラップから飛行時間質量分析器内へ排出させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間(TOF)質量分析器は、異なる質量電荷比を有するイオンを、イオンソースから検出器までの飛行時間の差異によって区別する。そのためTOF方法には、同一の初期位置及びエネルギーを維持しながらイオンをパルス的に送ることができるイオンソースが本質的に必要である。実際には、これは、イオンソース内におけるイオンの固有の熱エネルギー拡散と位置拡散のために実現不可能である。最近のToF質量分析器は、高電圧パルスによる、パルサ領域からのイオンの加速を利用している。イオン雲は、排出される前には、比較的大きな容量を占め、実質的なエネルギー拡散を有する。イオン雲がパルサから排出された後には、同一の質量電荷比が、一部は初期位置の違いのため、また一部は初期速度拡散のために異なるエネルギーを有するようになる。両要素によって、イオンの検出器への到達時間に広がりが導入されることにより、ToF質量分析器の分解能が制限される。位置拡散によって導入されるイオンのエネルギー分布は、リフレクトロンのようなエネルギー収束装置によって修正することができる。速度拡散の結果生じるエネルギー分布は、どの電場の組み合わせによっても修正することはできず、明らかにこれがToFの質量分解能を制限する主な要因である。例えば、イオントラップ内の同一地点に位置決めされた、同一の質量電荷比(m/z)を有するが、速度が異なる2つのイオンを仮定する。両イオンは、同一の絶対速度Vを有するが、第1イオンの速度はToFに向かい、第2イオンの速度はこれと反対方向に向かう。両イオンは、抽出場が印加されると同一の加速a=E/(m/z)を有するようになる。ここで、Eは抽出電場の強度である。第1イオンがTofへ移動を開始すると、第2イオンは、その速度がゼロになり反転されるまで、これと反対方向へ移動しなければならない。時間δt=2V/aの経過後に、第2イオンが、排出開始時における第1イオンと同一の速度で元の位置に到達する。この時点で、第2イオンを第1イオンと区別することはできない。排出開始から第2イオンの反転までに経過した時間δtは「ターンアラウンドタイム」と呼ばれる。第1イオンは時間δtの分だけ早く出発したため、この分だけ早く検出器に到達する。ToFにおける質量測定は、本質的に検出器へのイオン到達時間の測定に基づくため、同一のm/zを有する2つのイオンは時間差δt内で検出器に到達するが、これはどのような電場配置によっても修正することができない。実際の装置において、イオンは常に、理論値R=Ttof/2δtによるToFスペクトルの分解能の熱拡散制限により、熱速度拡散δV及びターンアラウンドタイムδtを有し、この場合、Ttofは合計飛行時間である。300Kにおける1自由度毎の熱エネルギー拡散は0.013eVと等しい。例えば、質量が1000Daで電荷量が1であるイオンの対応速度拡散は100m/秒と等しい。10mmの距離に10kVの加速電圧を印加すると、合計ターンアラウンドタイムはδt=1.1n秒になる。合計飛行経路を4mと仮定すると、飛行時間は91μ秒と等しくなる。従って、この場合、ターンアラウンドタイムによる理論上の分解能制限は41.000となる。
【0003】
イオントラップが、TOF質量分析器に改善されたイオンソースを提供できることが質量分析学の技術上知られている〔1〕。イオンが軽量バッファガスと運動量消散衝突することで、トラップ中心付近でイオン雲を1mm未満のサイズに集合させることができる。このような雲内におけるイオンの運動エネルギー拡散は、熱の拡散に近いと考えられる。最近のイオンの捕獲方法は、イオントラップの1つ又はいくつかの電極に調和した周期電圧(トラッピングRF)の使用に基づく。このようなRFのための電圧電源は、トラップ期間中にRF電場の全てのエネルギーを維持する高いQ共振器を備えている。内部寸法10mmの典型的なイオントラップ装置は、イオンを捕獲するために最大で10kVo−pの電圧を必要とする。排出条件を最適化するために、イオンをTOF内へ排出する際に、RF電圧を切り替えなければならない〔2〕。しかし実際には、RF共振器内に多量のエネルギーが存在するため、これは非常に困難である。RFスイッチをオフにした後数μ秒間以内に抽出パルスを印加しなければならず、この時間を過ぎると電極内でイオンが損失してしまう。その結果、抽出パルスを印加しても、トラッピング容量内には残存「リンギング」RFが依然として存在することになる。このようなリンギングによって、排出中に予測不能な加速領域が導入されることで、TOF質量スペクトルの精密度と分解能が低下する。残存RFリンギングが元の電圧の0.1%だけであると仮定した場合、発振電圧の大きさは数ボルトである。この電圧差異によって導入されるイオンのエネルギー拡散は約数エレクトロンボルトであり、これは300Kにおけるイオンの熱エネルギー拡散よりも2桁大きい。本発明の目的は、イオンをイオントラップから排出する最中に残存RFによって導入されるイオンのエネルギー拡散を除去することによって、分解能及び質量精密度に関してTOF質量分析の性能を向上させることである。
【0004】
TOF用のイオンソースとしてのイオントラップの使用が多くの特許において述べられている。米国特許第5,569,917号には、イオンの排出及びTOF飛行経路内への後段加速を設けた3Dイオントラップが開示されている〔3〕。この特許に記載されている方法では比較的低い抽出電圧(500V未満)を使用するため、ターンアラウンドタイムを有効に排除することができない。改善された3Dイオントラップからの抽出方法が、Kawatoによる米国特許第6,380,666号に開示されている〔4〕。この方法は、高電圧パルス(5kV以上)による抽出と、抽出電極上の電圧の特定の組み合わせとを使用して、略平行なイオンのビームを得る。これらの特許は両方とも、排出工程中にRFが生じないと教示しているが、しかし、実際にこれを実行する方法については示唆していない。トラップからパルサ内へのイオンの排出と、TOF内への(抽出飛行経路に関する)直交後段加速がEP 1 302 973 A2に記載されている〔5〕。この場合、イオン抽出の方向におけるターンアラウンドタイムによってTOF分解能が影響を受けることはない。比較的低い電圧を使用してイオンを抽出することができるが、イオンがパルサ内に到達した後にHVパルスを印加する必要がある。パルサからの直交加速のターンアラウンドタイムは直交方向への速度拡散によって決定されるため、この直交方向への速度拡散を最小にするようにこのような排出方法を最適化しなければならない。引用した特許出願の方法では、このタイプの最適化を使用していない〔5〕。排出工程中にトラップ内の正弦波RFが依然として実行中であると、このような最適化を実施することは全く無理である。
【0005】
過去数年にわたって、トラップ内に保存でき、質量分析に使用できるイオン数を増加させる努力が続けられてきた。通常の3Dトラップは最大で10個のイオンを保持できることが知られているが、しかし、補助交流信号を使用したイオンの高度分解能の操作は、3Dトラップ内の電気素量の全容量が数千未満である場合にのみに実現可能である。トラップ内のイオン操作に通常の時間100m秒を考慮すると、イオンは10.000電荷/秒の総スループット、又は分析電流0.0016pAに達する。最近のイオンソースが数nAの総イオン電流を提供できるので、このようなスループットはほとんどの用途において許容できないものである。線形イオントラップ(LIT)では、空間電荷の影響は著しく小さい。LITの電極構造は、4つの、同軸に沿って平行に延びた電極を装備する四重極に基づいている。このようなイオントラップ内では、イオンは、周期的な高周波(通常、0.5〜3MHz)電場によって半径方向に閉じ込められている。軸に沿ったイオンの動作が、LITの入口及び出口に印加されたDC電圧によって規制される。平衡な状況では、このようなトラップ内のイオンはz軸に沿って、シガー型雲形状に集合する傾向がある。イオン雲の半径サイズが3Dトラップの場合と同一であり(通常、0.2〜1.0mm)、その長さが10mmであると仮定すると、空間電荷がかなり大きくなる前に、イオンの総数は少なくとも10倍に増加する〔6〕。
【0006】
TOFと組み合わせた線形イオントラップの使用が多くの特許で説明されている。D.Douglasは、WO 99/30350の中で、イオンがLIT内で操作され、その後トラップの軸に沿って開放されるタンデム型LIT−TOF計器について述べている〔7〕。イオントラップと同列にパルサが位置決めされており、イオンはパルサ内に到達後にTOF内へパルス化される。TOF軸はLIT軸と直交しているので、高分解能を達成するためには、イオンの(LIT軸に対して)直交方向への速度拡散を最小化する必要がある。これは、小型の絞りを使用してLITからイオンビームを収束させることで実行できる。一般に、この方法にはイオンの質量識別という問題が伴う。抽出パルスを印加した瞬間、パルス領域は或る質量範囲のイオンしか含まなくなる(到達したばかりのイオンと、まだ排出されていないイオン)。一度に質量範囲の限られた部分のみをTOF内へ抽出されることが可能である。いくつかのサブレンジの質量スペクトルを得ることで、イオンの幅広い質量範囲を分析することができる。各サブレンジの分析には、イオントラップをイオンで再充填し、全ての操作を繰り返す必要がある。その結果、このような計器のスループットは低下する。
【0007】
J.Franzenは、米国特許第5,763,878号において、イオンを線形トラップからToFのイオン経路内に直接排出する方法について説明している〔8〕。この方法によれば、イオンはイオンソースからLIT内を通過し、バッファガスとの衝突によって冷却され、トラップの軸に沿って集められる。LIT用の電圧源は、一方がイオンの捕獲用、他方がイオン排出用の、少なくとも2つの電圧配置に電圧供給を行うことができる。イオンは抽出電圧を印加されると、トラップの軸と直交する方向へパルス的に送られる。これらのイオンはロッド間を通り、ToFの飛行経路上に現れる。この方法は、抽出時にRFが完全にスイッチオフされ、トラップの電極上のDC電圧の特定の組み合わせによって代用できると示している。この特許は、RF電場をスイッチオフする方法について示唆しておらず、これについては困難な実施上の問題として述べている。電極上の最適な電圧配置と、最適な抽出のタイミングについても記載されていない。
【0008】
近年、いわゆる「デジタル駆動」型の3Dイオントラップが提案された〔9〕。この装置では、リング電極の電圧がサイクル毎に正の離散DCレベルから負の離散DCレベルに切り替わる。コンピュータは、切り替え時間を高精度で制御し、あらゆる所与の切り替えシーケンスを生成することができる。2つだけの離散DCレベル(正及び負)間を、各レベルとも一様の時間で定期的に切り替えることにより、このようなトラップ内に幅広い質量範囲のイオンを捕獲できることがわかった。このような波形は、50%のデューティサイクルを有する方形波と呼ばれる。このような捕獲方法を用いれば、全ての従来モードのイオントラップ作業が可能である〔10〕。TOF分析を用いたデジタルイオントラップと、このようなタンデム型の恩恵を結び付ける方法はこれまでのところ説明されていない。
【特許文献1】US 5,569,917
【特許文献2】US 6,380,666
【特許文献3】US 5,763,878
【特許文献4】EP 1 302 973 A2
【特許文献5】WO 99/30350
【特許文献6】WO 03/41107
【非特許文献1】L. He, Y.H. Liu, Y. Zhu and D.M. Lubman、"Detection of Oligonucletides by External Injection into Ion Trap Storage/Reflectron Time-of-Flight Device"、Rapid Comm. Mass Spectrom.、11号、1440-1448頁、1997年
【非特許文献2】V.M. Doroshenko and R.J. Cotter、"A Quadruple Ion Trap/Time-of-flight Mass Spectrometer with a Parabolic Reflectron"、Journal of Mass Spectrom.、33号、305-318頁、1998年
【非特許文献3】Scwartz J.C. et al.、"A Two-Dimensional Quadruple Ion Trap Mass Spectrometer、JASMS、13号、659頁、2002年
【非特許文献4】Li Ding, M. Sudakov and S. Kumashiro、"A Simulation Study of the digital ion trap mass spectrometer"、Int. Journal of Mass Spectrometry、221号、117−139頁、2002年)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、タンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器であって、前記イオントラップが、前記飛行時間質量分析器の飛行経路と直交する直線の中心軸を有するものにおいて、少なくとも一方がイオンを前記飛行時間質量分析器へ排出するためのスリットを有する1組の電極と、離散DCレベルを提供するための1組のDC電圧源、及び、前記DC電圧源を前記イオントラップの前記電極のうち少なくとも2つと接続及び断絶することができる複数の高速電子スイッチと、捕獲されたイオンの運動エネルギーを平衡に向けて低減するために、前記イオントラップの内部を充填する中性ガスと、イオンの捕獲、イオンによる操作、冷却、及び前記イオントラップから前記飛行時間質量分析器へ全てのイオンが排出される1つの状態を含むことを実施するための切り替え手順を提供するためのデジタルコントローラと、を備えることを特徴とするタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器、が得られる。
【0010】
本発明によれば更に、上記イオントラップが1組のデジタルスイッチによって駆動され、上記方法が、上記イオントラップ内の電極上の1組トラッピング状態間で切り替えることで上記イオンを上記イオントラップ内に捕獲するステップと、上記捕獲されたイオンを、バッファガスと衝突させて冷却し平衡にさせるステップと、予め選択されたトラッピング状態から最終排出状態へ、予め選択された時間内で切り替えるステップとを備える線形イオントラップからイオンを抽出する方法が得られる。
【0011】
本発明は、デジタルイオントラップをTOFと組み合わせることで、改善された性能を有するタンデム型質量分析器を提供する。排出工程中に電場が一定である場合にのみ可能なTOF内へのイオン排出の最適化によって、分解能及び質量精密度のようなTOF質量分析の品質を改善することができる。著者は、このような状況を達成するために、イオントラップをデジタル駆動と共に使用して、排出パルスを印加した場合にトラップ内の電圧を高い精度で一定化させることを提案している。これにより、イオン雲が更なる工程のための最良の位相空間分布を有するイオントラップを離れる形で、抽出電圧及び切り替え時間を最適化することが可能になる。更なる工程は、TOFか、TOF質量分析器の後段加速段階を使用する質量分析を含むことができ、あるいは、これ以外の、イオンのパルス化を要する任意のイオン光学装置であってもよい。いずれの場合にも、イオン位置及び速度の分布を、それぞれ特定の目的で最適化することができる。トラップからイオンを排出すると、トラップ波形が元の状態に戻され、イオン導入、走査、質量分析の次のサイクルの実施が可能となる。
【0012】
好ましい実施形態では、本発明は、イオンガイドを保存及びパルス化する伝送イオン光学系と、mTorr又はより高い圧力の中性ガスで充填された線形イオントラップと、飛行時間分析器とを装備したイオンソースを含む。イオントラップは、少なくとも2つの離散DCレベルから成る周期的なトラップ電位を提供するべく4つ全ての主要電極と接続したデジタルスイッチによって駆動される。一様の正DCレベルと負DCレベルを備えた方形波は、幅広い質量範囲のイオンを捕獲できる最も単純なトラップ波形として好ましい。イオンソースからのイオンが線形イオントラップ内へ送られ、トラップの中心軸付近の低電場領域から捕獲容量内へ注入される。イオンは、トラップ内で所望の方法によって操作される。これらの操作には、数段階の冷却と、別の質量電荷比を有する全てのイオンを除去することによる、選択されたイオン種の隔離と、衝突誘起開裂(CID)、表面誘起開裂(SID)、電子補助開裂、光子誘起開裂、その他のような技術上知られている任意の方法を使用したイオン分裂とを含むことができる。最後に、残りのイオンが軽量バッファバスとの衝突によって冷却され、トラップの中心軸付近でシガー型雲の形状に収集される。適時に、方形波のトラップ期間がより長い値に変更され、その少し後に抽出パルスが印加される。線形イオントラップの電極のうち少なくとも1つには、イオンをトラップから排出するためのスリットが設けられている。デジタル信号生成器(DSG)により、期間の変更が適用される前に(切り替え状態)、トラップの電極上の実際の電圧状態を制御することができる。切り替え状態、1つ前の状態の開始と抽出パルス開始との間の期間(排出前の最後の状態)が、TOF質量分析器での次の工程のために最高のイオン分布を生成する形で調整される。好ましい実施形態では、TOFは、線形イオントラップの軸と直交する飛行経路を有し、イオンミラー(リフレクトロン)を備えている。
【0013】
第1の好ましい実施形態では、イオンがトラップから、イオントラップの軸と平行であり、TOF軸と直交して配置されたパルサ内へ排出される。イオンがパルサ内に到達すると、イオンをTOFのイオン経路内へ加速させるために、パルサの電極に高電圧パルスが印加される。パルサ内の加速電圧はイオンのターンアラウンドタイムを短縮するべく可能な限り大きな電圧である。イオンはTOF内でイオンミラーによって反転され、更に、同一の質量電荷比を有するイオンどうしが互いに調子を合わせて可能な限り接近する形で検出器に収束される。幅の広いマルチチャネル板を検出器として使用できる。検出器に到達すると、イオンは回路内で電気パルスを生じ、これが記録システムによって登録される。高速サンプリング速度(1Gサンプル/秒又はこれ以上)と、高いダイナミックレンジ(12ビット又はこれ以上)を有するデジタイザが好ましい。
【0014】
別の好ましい実施形態では、イオンはトラップから、イオントラップ軸に対して直交して位置決めされ、イオンの排出飛行経路とほぼ同列に並んでいるTOFの飛行経路内へ直接排出される。排出されたイオンの飛行経路とTOF飛行経路との間に小さい角度を導入することにより、イオンを検出器内へ偏向させることができる。TOFと検出器システムの動作は先行の場合と同じである。イオントラップ用の電源は、イオン抽出時に電圧を印加する点において先行の場合と異なる。この場合には、イオンが飛行経路内へ直接排出され、また、抽出電圧は可能な限り高くなくてはならない。抽出電極用の電源により、少なくとも3つのDCレベル、つまりイオンの捕獲のための正電圧及び負電圧、抽出のための高電圧が可能になる。比較的低電圧のトラップ回路を高い抽出圧力から保護するために、また別のスイッチが必要である。
【0015】
更に別の好ましい実施形態では、イオンの捕獲は、線形イオントラップの1組のロッド(Y電極)だけを、正DCレベルと負DCレベル間の切り替えにより駆動することで達成される。抽出を行う高電圧スイッチは、少なくとも一方がイオンをTOFへ排出するためのスリットを設けている別のロッドの対(X電極)と接続している。この種の電源は「2極型」デジタルトラップ波形と呼ばれる。この配列の利点は、高電圧とトラップ電圧源を互いに分離できるため、電子機器が単純化され、計器にかかる総コストが低減することである。このような分離を実施することで、イオン排出中にY電極上のデジタル駆動波形がオフに切り替わることがなくなる。切り替え期間だけがより長い値に変更されることにより、高電圧パルスの補助を得て、全てのイオンをトラップから排出することが可能になる。
【0016】
本発明の上記及び別の利点は、添付の図面を参照しつつ、以下の記述より更に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照すると、イオンソース、イオンをイオントラップ内へ移動する手段、飛行時間質量分析器を装備したタンデム型IT−TOF質量分析器のブロック線図を示している。イオンソースは、イオントラップの外部に位置決めされている。イオンは、イオンソース内で、技術上知られている任意の方法で生成することができる。特に、生物学的性状の分子のイオン化には、エレクトロスプレー・イオンソースとMALDIが最も一般的に使用されている。イオンソースは上昇した圧力にて動作でき、イオンソースから収集され、更に、RFイオンガイドの補助により差動ポンピングの領域を介してイオントラップ内に移動される。イオンはトラップ内で操作され、TOFを使用した質量分析に用いる用に準備される。
【0018】
IT−TOFタンデムは、3−Dトラップに基づいて構造することができる。図2に、トラップから直接TOF飛行経路内へイオンを排出するこのような機器の構成を示す。しかし、このような構成には、3−Dトラップの導入効率の低い質量識別と低い電荷容量の問題が伴う。好ましい実施形態は、線形イオントラップ(LIT)の使用に基づく。図3Aに、四重極型LITの電極幾何学的配置を示す。このようなイオントラップは、トラップの中心軸(z軸)と平行に延びた4つの主要トラップ電極によって作成されている。これらの電極は、2−D四重極磁場の等電位面の形状に関連した双曲線断面を有することが好ましい(図3D)。4つの電極全てが、z軸から等距離で相互に対称的に配列されている。このような電極配置は、四重極磁場に最も近い電場を作り出すことができる。いくつかの用途では、電極の形状及び位置を変更して四重極磁場の歪みを作り出すことができ、これは本発明の範囲に包括される。電極に周期的なトラップ電位が加えられると、このような電極配列に特定の質量範囲のイオンが捕獲される。これと同時に、イオンが、捕獲容量をz軸に沿って残す可能性がある。これを防止するために、LITは、トラップの入口と出口に電位バリアを作り出すための別の電極を設けている。最も単純な場合、イオントラップの入口と出口に設けたダイヤフラム電極がDCバリアを作り出すことで、トラップからz軸に沿ったイオンの逃げを防止できる(図3B)。あるいは、次々に1列に配列された3つの四重極型セグメントを備えるセグメント化された構造を使用して、線形イオントラップを設計することができる(図3C)。この場合は、(中間部分に対する)入口部分と出口部分におけるDC電圧オフセットによってバリアが作られる。いずれの場合も、イオン雲は四重極の中間部分に閉じ込められるが、更なる議論のために言えば、z軸に沿ったイオンの動作は無関係である。
【0019】
図4を参照すると、トラップからパルサ容量内へイオンを排出し、また、イオンをTOF飛行経路内へと加速させるLIT-TOFタンデムの断面図を示す。このイオントラップは、4つの細長い電極401、403(X電極)、402、404(Y電極)によって、双曲線断面を有するように作成される。このうちの1つの電極401は、イオンをパルサ領域内へ排出するためのスリットを備えている。このパルサは、平板405と半透明の平メッシュ406で作成されている。高電圧スイッチ407、408はこれらの電極と接続しており、高速上昇型電圧パルスを適時に生成することができる。イオントラップは、デジタル信号生成器(DSG)の制御下にある1組の電子スイッチ409によって動作される。これらのスイッチは、1組のDC電源+V、−V、V1、V2をイオントラップの電極と10〜50n秒以内で接続及び断絶することができる。デジタル信号生成器は、要求に従ってシーケンスの実現及び任意切り替えを計算することができる。この計器は以下のように動作できる。イオンがイオンソース内で形成され、トラップの中心付近のz軸に沿ってイオントラップ内に注入される。イオンは、所与の時間にてトラップのY電極が同一の極性を有し、X電極が同一の極性を有するY電極に対して反対の符号を有する形で、+Vと−V電圧源をトラップの電極と周期的に断絶及び接続させることよりトラップ内に捕獲される。正電圧と負電圧の期間は等しい。イオンはバッファガスと衝突することでトラップの中心へ冷却される。適時にて、電源+Vと−VがX電極から断絶される。これと同時に、電源V1とV2が電極401、403にそれぞれ接続される。これらの電圧源は、関心領域の全てのイオンがイオントラップからX方向にパルサ、及び好ましくは(正に電荷したイオンの)正電圧源+VであるY電極の電圧源へ向かうまで、電極から断絶されることはない。X電極上での電圧切り替えの時間はDSGによって制御され、また、最良の性能を達成するよう調整することができる。パルサの電極は、パルサ内に到達するとイオンがX軸に沿ってドリフトを続け、Y方向に広がることができるようにするために、抽出電圧を印加した場合のトラップ中心部の電圧よりも若干低い同一の電圧V4と接続する。高電圧電源V5、V6が適時にてパルサの電極と同時に接続し、イオンはTOFの飛行経路内に加速される。イオンはイオンミラー(反射)内で反転され、また、質量電荷比が同じイオンが調子を合わせて互いに可能な限り接近する形で検出器の平面に収束される。高速デジタイザを使用して検出器からの信号が記録され、これによって質量スペクトルが生成される。
【0020】
図5は、イオンをトラップからTOF飛行経路内へ直接排出するLIT-TOFタンデムの第2の好ましい実施形態の断面図を示す。この配置はパルサを設けていないため、高電圧供給V1、V2をトラップの電極と接続してイオンを排出する必要がある。この電子機器は、トラップ回路を高電圧から保護するための別のスイッチを設けている。計器は、次の変更によって、前出の場合と同様に動作する。イオン雲を十分に冷却した後に、抽出X電極上の電圧源が+V、−V電源から断絶され、高電圧V1、V2に接続される。抽出前にY電極に供給される電源は(正に電荷したイオンのための)負電圧であることが好ましい。正電圧源+Vは、抽出前にY電極と接続され、イオンがトラップから離れるのに十分な時間だけこの接続が続く。TOF分解能、質量精密度、又は感度に関して計器の最良の性能を達成するために、Y電極における前回の電圧切り替えからX電極上における高電圧パルスの開始までの経過時間がDSGによって制御され、調整される。
【0021】
好ましい実施形態を更に説明するためには、イオントラップ内におけるイオン雲の準備が重要である。モデムイオントラップは上昇した圧力状況(1〜0.1mTorr)下で動作する。通常、Heバッファガスを使用して、イオンに運動量消散衝突を提供する。このような衝突は、導入工程における過剰な運動エネルギーの除去を助長し、イオン雲を冷却する手段を提供する。いくつかの配置では、イオン分裂ステップ中により強力な衝突を提供するために、パルス化した高比重ガス(Ar、Xe、...)の導入を用いている。準備ステップには、イオン冷却、他の質量電荷比のイオンをトラップから除去することによる関心領域のイオンの選択、及び選択したイオンの分裂という段階を含むことができる。隔離及び分裂は、技術上知られているいくつかの方法で実現できる。イオン雲の準備の全工程にわたって、イオントラップ動作は非常に困難であり得る。遅速走査、トラップの電極への別の低電圧交流信号の印加を含む方法で、トラップ波形(電圧又は/及び周波数)を多数回にわたって変更することができる。最後に、イオントラップ内でイオンが冷却され、TOF内へ抽出されるよう準備される。
【0022】
最終的な質量分析の分解能及び質量精密度はTOFプロパティ自体により決定されるが、この中で、トラップからのイオン排出のプロセスは最も重要な要素である。本発明の核心は、あらゆる所与のTOF質量分析器を用いて分解能を可能な限りの最大値に達するように、トラップからイオンを排出するのに最適な状況を作り出すことである。これは、排出の全工程にわたりトラップ内に静電領域の状況を作り出すことで達成されるが、これはイオントラップの「デジタル駆動」を使用することで可能である。このような駆動方法は、特許出願に記載されており、その全体の内容は参照により本書に含まれる〔9〕。従来の正弦波RF供給と違い、デジタル駆動によってイオントラップの電極上の電圧は、離散DCレベル間で切り替えられる。最も単純な場合、電圧は、各レベルが同じ期間を有する正レベル及びこれと等しい負レベルの2つのレベル間で切り替えられる(デューティサイクルが50%の方形波)。デジタルコントローラの補助によって期間を精密に制御することができる。この方法を用いて、あらゆる所与の時間にて波形の期間をより長い期間に切り替えることができる。図6は、+1000Vと−1000Vの2つのレベルの間を500n秒毎に切り替え、合計で1μ秒の期間を提供することで駆動されるイオントラップの電極の1つの電圧の時間依存を示している。図6の10μ秒と等しい特定の時間に、方形波の期間が10μ秒に変更される。この電極の電圧レベルは10〜15n秒以内に一定の値に達し、この状態が更に5μ秒間維持される。この時間中に、イオンのTOF内への抽出を実施することができる。イオントラップの電極上の電圧は、10n秒より短くできる抽出パルスの上昇端から、高い精密度で一定に維持される。排出工程は、トラップ内の純粋な静電領域(「冷凍領域」)の状況において起こる。これにより、更なる処理のために最良の状況を受け取る排出工程を最適化する手段が得られる。このような2つの好ましい実施形態のTOP質量分析の最適化については、この説明の以降の部分に記載している。
【0023】
図7は、これらの好ましい実施形態のLITの電極上の、イオンの捕獲と抽出に使用する電圧の表を示す。イオントラップモードの最中、X対の電極上の電圧がサイクル毎に正値+Vから負値−Vに切り替えられる。Y対の電極上の電圧が同時にX電極に対して逆に切り替えられる。イオンを捕獲するためのLITの電極上の電圧源を、図7中に「トラップ+」「トラップ−」として示す。この単純な捕獲方法を用いて、幅広いイオンを捕獲することができる。より複雑なトラップ波形は、LITの各電極を駆動するDCレベルをいくつか有するデジタルスイッチを使用することにより、及び/又は、各電極内の波形どうしの間に遅延を導入することにより実施できる。このようなイオントラップ方法は本発明の範囲内に包括される。抽出電圧V1、V2がX電極に適時印加される(左右の電圧は異なる)。TOF飛行経路内に直接排出するために、これらの電圧は、ターンアラウンドタイムを短縮するべく高い(5kV以上)値であることが好ましい。これらの電圧を、パルサ内に排出するために、トラップ電圧と同じ桁数であってよい(200〜2000V)。排出中におけるLITの電極上の電圧源を、図7に「排出」配置として示す。
【0024】
好ましい実施形態の更なる説明は、排出工程の最適化に基づくものである。このために、イオン位置の分布と速度が詳細に調べられる。十分な冷却時間の後に、イオンは、軸に沿ったイオントラップの中心部付近でシガー型雲形状に集められる。RFトラッピングに固有の性質のために、イオンの半径方向へのエネルギー拡散は位相に依存する。この現象は、温度323KのHeバッファガスが存在する状態で捕獲されたイオンの大規模な推進のシミュレーションを使用して調べられた。図8は、周波数1MHz、電圧+/−1000Vの方形波により駆動される、ro=5mmの内接半径を有する線形イオントラップ内の質量1000Daで電荷量が1であるイオンについての平均的な運動エネルギーの依存を示す。便宜上、周期上のY電極上の電圧を図8の上方のグラフに示す。従って、エネルギーの半径方向への拡散は位相に依存するということになり、また、電圧波形の正位相と負位相の中間における2つの最小値を有する。323Kにおける熱エネルギー拡散はkT/2=0.0139eVと等しい。このエネルギー拡散の値は、X動作では位相0.75(Y電極上の負電圧の中間)に、Y動作では位相0.25(Y電極上の正電圧の中間)に到達する。性質上、平均的な運動エネルギーの位相依存は、最小及び最大エネルギーの実値では若干異なる多様な質量電荷比のイオンに共通する。
【0025】
TOF内へ排出する以前のイオンの速度拡散を最小化するために、エネルギー拡散の最小時に抽出パルスを印加する必要がある。例えばパルサ(図4)内へ排出するIT−TOFに対して、Y方向への拡散が最小であるため(パルサからTOF内への加速方向)、最良の位相は0.25であるべきである。図9に、位相0.75でのY方向へのイオン雲の位相空間分布を示す。これは、パルサ内へのイオン排出のシミュレーションの初期条件として使用された。イオントラップの電極上の電圧で、図10に提示するとおりに、排出工程のシミュレーションを行った。Y電極の切り替え期間が1μ秒から10μ秒に変更された。この変更の発生時間は図10中のt=0に相当する。Y電極上の正電圧は、正に電荷されたイオンを排出するために使用される。X電極上の電圧は、トラッピングモードと同様に負のDCレベルに切り替えられる。この後いくらかの時間Δtが経過した後に、X電極から負電源が断絶され、別の電圧源V1、V2が左右のX電極とそれぞれ接続する。図10では、これらの電圧は500V、0Vと等しい。継続期間Δtを調節することで、最良の性能を得ることができる。イオンのY方向(TOF内へ更に加速する方向)への最小速度拡散では、抽出直前の切り替え期間の1/4と等しいΔtを取ることが有効である。図10の例では、この時間は250n秒と等しい。V1及びV2をX電極と接続するための時間が、更に排出開始として参照される。
【0026】
図11は、第1の好ましい実施形態のLIT及びパルサ領域の断面図を示す。質量600Daで電荷量が1であるイオンのイオン雲の、排出開始から異なる時間が経過した時点における位置を示す。排出中に、イオン雲はY及びX方向の圧縮と除圧をいくつか経験する。イオン雲は、パルサ内に到達すると(7μ秒後)、(電場がない領域と同様に)両方向への拡散を開始する。質量電荷比の異なるイオンが異なる時間にてパルサ内に到達する。これは、外部パルサ内への抽出に基づく方法に通常伴う問題である。抽出パルスが印加されると、制限された質量範囲のイオンだけがパルサ内に現れる。図12に、パルサ内到達時における質量300Da、600Da、1200Daで電荷量が1であるイオンの現在の幾何学的構造における位置を示す。これが、イオンをTOPの飛行経路内へ加速させるために、別の抽出パルス(高電圧)をパルサの対向する電極に印加するのに適した時間である。図13に、パルサ領域内におけるイオンの10μ秒での位相空間分布を示す。600Daのイオンの速度拡散は300m/秒未満である。10kVの加速電圧では、ターンアラウンドタイムは6.2n秒と推測される。通常の100μ秒の飛行時間では、これによって16.000のTOFスペクトルの最大分解能が得られる。ここでは試みていないものの、トラップの電極に異なる抽出電圧を使用し、イオントラップとパルサの間に従来のイオン光学系を使用することで、速度拡散とTOF分解能を更に最良化することが可能である。
【0027】
TOF飛行経路(X方向)内へ直接排出する配置では、抽出パルスを印加するモーメントは0.75位相に近くなくてはならないが、その理由は、これがイオンのX方向への最小速度拡散を提供するためである。図14に、位相0.75(Y電圧の負電圧どうしの中間)でのX位相空間におけるイオンの初期位置の位相空間分布を示す。この特定の例では、抽出電圧は、Y軸上への負のパルスの印加開始後250n秒(1/4期間)が経過した時点で印加されるべきである。排出直前に、方形波の期間が1μ秒(周波数1MHz)から10μ秒(周波数100kHz)へ切り替わる。Y電極上の負電圧は更に、全てのイオンをトラップから排出するのに十分な更に5μ秒間にわたって維持される。線形イオントラップの各電極上の実波形は、図10に提示したトラップと以下の相違点で類似している。即ち、排出直前にはY電極上の電圧は負であり、X電極上の電圧は正であり、抽出電圧はこれよりも遥かに高い。図15に、抽出開始後の異なる時間における、600Daイオンのイオン雲の位置を示す。イオン雲は、トラップ中心部から22.85mmの距離において(排出開始から550n秒後)、一次収束を有する。図16に、この一次収束におけるイオン位置の分布を示す。一次収束におけるイオン雲の幅は60μmであり、平均速度は54km/秒である。この雲の収束点は、TOF質量分析器の仮想ソースとして考慮することができる。この収束点通過後に、イオン雲は再び拡散を開始するが、TOFのイオンミラーにおいて(反射)、イオンは反転されて検出器内に収束される。反射がこのような形で構成され、イオン雲を少なくとも仮想ソースのサイズほどは劣らないサイズにまで収束すると仮定すると、通常の3mの飛行経路での質量スペクトルの分解能は3m/(2*60μm)=25.000と等しい。TOF質量分析では、この分解能は高いと考慮される。従って、提案された方法により、高分解能のTOF質量スペクトルの受信が可能になる。TOF質量スペクトルの質量精密度は、質量電荷比の異なるイオンが同一の静電「冷凍電場」状況にて排出されるため、熱エネルギー拡散とは無関係の本質的に等しいエネルギーを有すると考えられる。
【0028】
抽出電圧を調整し、イオントラップからTOF内までのイオンの飛行経路上に従来のイオン光学系を使用することにより、分解能を更に最適化できる点は述べるに値する。このような方法は技術上知られており、本発明の範囲内に包括される。
【0029】
図18は、3−dの好ましい実施形態で使用される、デジタルスイッチ方法を使用した線形イオントラップ及び電圧源の断面図を示す。この場合、イオンの捕獲は、トラップのY電極上のみで、2つの離散DCレベル間で切り替えることで達成される。抽出用の高電圧電源は、DSGによって制御され、排出時のみに接続される電子スイッチを介して、トラップのX電極と接続する。通常の捕獲及び冷却中、X電極上の電圧は一定(ゼロ)である。図18に、励起波形を生成する別の交流電源を示す。この電源は、TOF内への排出前のイオン雲の準備中に、イオンを隔離及び活性化するために必要である。この配置の利点は、トラッピングスイッチを高電圧スイッチから隔離できることである。これにより、このような配置に、トラッピング回路を高電圧から保護するために追加のスイッチを設ける必要がなくなる。このような配置は、提案された方法の最も単純で実用的な実装である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】好ましい実施形態によるIT−TOFタンデム型計器のブロック線図である。
【図2】従来のRFを備え、3Dイオントラップに基づいてTOFのイオン経路内に直接排出を行う従来技術のIT−TOFタンデムを示す図である。
【図3A】従来のRF電源を使用してイオンを捕獲するための、四重極型線形イオントラップ電極の幾何学的配置及び電圧源を示す図であって、電極配置の3D図である。
【図3B】従来のRF電源を使用してイオンを捕獲するための、四重極型線形イオントラップ電極の幾何学的配置及び電圧源を示す図であって、入口と出口に停止ダイヤフラムを設けたLITのX−Z平面における断面図である。
【図3C】従来のRF電源を使用してイオンを捕獲するための、四重極型線形イオントラップ電極の幾何学的配置及び電圧源を示す図であって、3つの四重極セグメントを備えるセグメント化されたLITのX−Z平面における断面図である。
【図3D】従来のRF電源を使用してイオンを捕獲するための、四重極型線形イオントラップ電極の幾何学的配置及び電圧源を示す図であって、半径方向においてイオンを捕獲するための、双曲線電極と排出スリットを設けたLITと、従来のRF電源とのX−Y平面における断面図である。
【図4】TOFのパルサ内へイオンを排出する線形イオントラップに基づく、第1の好ましい実施形態のIT−TOFタンデムの断面図である。
【図5】イオンをTOFの飛行経路内へ直接排出する線形イオントラップに基づく、第2の好ましい実施形態のIT−TOFタンデムの断面図である。
【図6】より長い期間への切り替え前後におけるデジタル駆動のタイムドメインを示す図である。
【図7】イオントラップ及び抽出のためのデジタル駆動を備えた線形イオントラップの電極上の電圧の表を示す図である。
【図8A】方形波デジタル駆動を備えた線形イオントラップ内の平衡状況にあるイオン雲の運動エネルギーの位相依存を示す図であって、Y電極上の電圧波形を示す図である。
【図8B】方形波デジタル駆動を備えた線形イオントラップ内の平衡状況にあるイオン雲の運動エネルギーの位相依存を示す図であって、平均的なY方向への運動エネルギーを有する組み立てを示す図である。
【図8C】方形波デジタル駆動を備えた線形イオントラップ内の平衡状況にあるイオン雲の運動エネルギーの位相依存を示す図であって、平均的なX方向への運動エネルギーを有する組み立てを示す図である。
【図9】方形波デジタル駆動の位相0.25における、イオンのY方向への位相空間分布を示す図である(Y電極における正電圧の中間値)。
【図10A】正に変更したイオン用のパルサ内へのイオン排出の直前及び最中における、イオントラップの電極上の電圧波形を示す図であって、トラップのY電極上の電圧を示す図である。
【図10B】正に変更したイオン用のパルサ内へのイオン排出の直前及び最中における、イオントラップの電極上の電圧波形を示す図であって、左側のX電極上の電圧を示す図である。
【図10C】正に変更したイオン用のパルサ内へのイオン排出の直前及び最中における、イオントラップの電極上の電圧波形を示す図であって、右側のX電極上の電圧を示す図である(排出スリットを設けた電極)。
【図11】抽出中の異なる時間での600Daのイオンを抽出及び位置決めするための電圧源を示す図である。
【図12】TOFのパルサ領域内に到達したイオン300Da、600Da、1200Daの位置の分布を示す図である(抽出開始の10μ秒後)。
【図13】パルサ領域内に到達したイオンのY方向への位相空間分布を示す図である(抽出開始の10μ秒後)。
【図14】方形波デジタル駆動の位相0.75における、X方向へのイオンの位相空間分布を示す図である(Y電極における負極パルスの中間値)。
【図15】質量600Daで電荷量が1であるイオンを、TOF質量分析器のイオン経路内へ排出するシミュレーションの結果を示す図である。1000個のイオンから成るイオン雲の、排出開始からの異なる時間における位置を示す。
【図16】一次収束のX位相空間における質量600Daのイオンの位相空間分布を示す図である。
【図17】排出開始後750n秒が経過した時点における、異なる質量を有する(電荷量が1の)イオンの位置を示す図である。
【図18】Y電極だけにデジタルトラップ電圧が存在し、X電極に排出パルスを印加した四重極型線形イオントラップを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器であって、前記イオントラップが、前記飛行時間質量分析器の飛行経路と直交する直線の中心軸を有するものにおいて、
少なくとも一方がイオンを前記飛行時間質量分析器へ排出するためのスリットを有する1組の電極と、
離散DCレベルを提供するための1組のDC電圧源、及び、前記DC電圧源を前記イオントラップの前記電極のうち少なくとも2つと接続及び断絶することができる複数の高速電子スイッチと、
捕獲されたイオンの運動エネルギーを平衡に向けて低減するために、前記イオントラップの内部を充填する中性ガスと、
イオンの捕獲、イオンによる操作、冷却、及び前記イオントラップから前記飛行時間質量分析器へ全てのイオンが排出される1つの状態を含むことを実施するための切り替え手順を提供するためのデジタルコントローラと、
を備えることを特徴とするタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項2】
前記1組の電極が、互いに対して対称的に配列され、イオントラップ軸と平行するように配列された4個の細長い電極を備える、請求項1に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項3】
イオンを排出するためのスリットを有する前記少なくとも1つの電極が、前記スリットの中心が双曲線の頂点に対して対称的に位置決めされている、略双曲的な表面を有する、請求項2に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項4】
前記中性ガスが、関心のイオンの質量よりも小さい分子量を有し、前記イオントラップが、0.01〜1mTorrの圧力になるまで前記中性ガスで充填されている、請求項1に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項5】
前記デジタルコントローラが、任意の切り替えシーケンスを計算することができるデジタルプロセッサと、前記任意切り替えシーケンスに従って、複数の高速電子スイッチの1組を制御するための制御手段とを含む、請求項1に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項6】
前記切り替え手順が、前記イオントラップの前記電極上の電圧が1組の状態の間で周期的に切り替えられる最終段階を含み、イオン冷却に十分な時間の後に、前記イオントラップの前記電極上の電圧が、前記イオントラップから前記イオンを排出するための前記最終状態に切り替えられる、請求項1に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項7】
更にパルサを含み、前記飛行時間質量分析器が、前記排出されたイオンの平面に対して直交して位置決めされた飛行経路を有する、前出の請求項のうちいずれか1項に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項8】
前記パルサが、一方が半透明なメッシュである2つの平行板電極で構成されており、各前記平行板が前記排出されたイオンの平面と平行して位置決めされている、請求項7に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項9】
前記パルサが、コントローラによって制御される1組の高速電子スイッチによって高電圧源と接続している、請求項7に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項10】
前記飛行時間質量分析器の飛行経路が、イオンの排出経路と一列に並んで位置決めされている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項11】
前記1組の電極の対向した電極対(Y対)が、或る反復率での切り替えが可能な、複数の前記高速電子スイッチの第1サブセットに接続され、また、前記1組の電極の少なくとも1つの別に対向して位置決めされた電極の対(X対)が複数の前記高速電子スイッチの第2サブセットに接続され、前記第2サブセットの高速電子スイッチが、前記イオンを排出するために前記DC電源を前記X電極に接続する、請求項1〜6、又は請求項10のいずれか1項に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項12】
複数の前記高速電子スイッチの第1サブセットが、矩形波形を有する前記電極の組の前記Y対の電極を提供するために正電圧と負電圧を切り替える、2つの直列にリンクされた高反復スイッチ含む、請求項11に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項13】
前記電子機器に供給された前記電圧の値が4kVを上回る又は−4kVを下回る、請求項11に記載のタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項14】
線形イオントラップからイオンを抽出する方法であって、前記イオントラップが1組のデジタルスイッチによって駆動されるものにおいて、
前記イオントラップの電極上の1組の電圧状態によって定義された1組のトラッピング状態間で切り替えることで前記イオンを前記イオントラップ内に捕獲するステップと、
前記捕獲されたイオンを、バッファガスと衝突させて冷却し平衡にするステップと、
予め選択されたトラッピング状態から最終排出状態へ、予め選択された時間内で切り替えるステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記トラッピング状態の組が2つの状態から成り、前記状態の各々が設定された期間の半分を占める、請求項14に記載の線形イオントラップからイオンを抽出する方法。
【請求項16】
前記バッファガスが前記イオントラップを0.01〜1mTorrの範囲の圧力にて充填する、請求項14に記載の線形イオントラップからイオンを抽出する方法。
【請求項17】
前記設定期間が0.3〜1.0マイクロ秒の範囲内である、請求項15に記載の線形イオントラップからイオンを抽出する方法。
【請求項18】
前記排出状態以前の最終トラッピング状態が、設定期間の約1/4の間持続する、請求項14に記載の線形イオントラップからイオンを抽出する方法。
【請求項19】
添付図面の図1及び図4〜18を参照しつつ実質的に本書にて説明したとおりのタンデム型線形イオントラップ及び飛行時間質量分析器。
【請求項20】
添付図面の図1及び図4〜18を参照しつつ実質的に本書にて説明したとおりの線形イオントラップからイオンを抽出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2007−524978(P2007−524978A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500284(P2007−500284)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000671
【国際公開番号】WO2005/083742
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(500344585)シマヅ リサーチ ラボラトリー(ヨーロッパ)リミティド (8)
【Fターム(参考)】